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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H05K
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H05K
管理番号 1156541
審判番号 不服2004-8827  
総通号数 90 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-06-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-04-28 
確定日 2007-04-25 
事件の表示 特願2000-39875「電磁シールド構造」拒絶査定不服審判事件〔平成12年7月14日出願公開、特開2000-196288〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 【1】手続の経緯
本願は、平成9年8月29日に出願(国内優先権主張 平成8年8月30日 特願平8-229557号)された特願平9-233411号の一部を平成12年2月17日に新たな特許出願としたものであり、原審において、平成15年8月5日付で拒絶理由が通知されたのに対して、請求人(出願人)は平成15年10月10日に意見書及び手続補正書を提出したが、平成16年3月29日付で拒絶査定を受け、この査定を不服として、平成16年4月28日に本件審判請求をすると共に、当該請求の日から30日以内の平成16年5月27日付で手続補正(前置補正)がなされたものである。

【2】平成16年5月27日付の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成16年5月27日付の手続補正を却下する。
[理由]
1.補正後の本願発明
平成16年5月27日付の手続補正(以下、「本件補正」という)により、特許請求の範囲の請求項1は、
「【請求項1】 シート材に、遮蔽しようとする電波に共振させる長さの線状アンテナ素子を電磁遮蔽素子として、その素子の電磁界反射等価面積(散乱開口面積)または電磁界反射等価体積(散乱開口体積)を考慮して配列させ、窓ガラスにシート材を貼り付け、この線状アンテナ素子で電波を散乱させこれにより減衰させることを特徴とする電磁シールド構造。」
と補正された。
上記補正は、新規事項を追加するものではなく、特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について、以下に検討する。

2.引用例及びその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用され、本件特許出願前に頒布された刊行物である、R.Orta et al. ”A UNIFIED FORMURATION FOR THE ANALYSIS OF GENERAL FREQUENCY SELECTIVE SURFACES”, Electromagnetics 5:307-329,1985(以下、「引用例」という。)には、次の技術事項が記載されている。
「An example of dichroic composed of trioples, arranged in an equilateral triangular lattice, is shown in Fig.4.2a. When describing a tripole patch as a collection of strips, it is important to specify correctly the strip length. the three strips must overlap at the center,as shown in Fig.4.2b, in order to describe correctly the current distribution. ln fact, all the expansion functions vanish at the strip ends.
In Fig.4.3 the frequency response of the structure of Fig.4.2a, backed by a dielectric sheet ( εr = 3. , thickness = 0.037 mm. ) is shown. In particular, the reflection and transmission coefficients for both principal polarizations and three incidence directions are plotted versus frequency.
Tripoles have a single type of resonating element, constituted by two of the three arms: resonance occurs when this element is approximately half wavelength long. Of course, the resonance frequency is influenced by the strip width, by the mutual coupling among the various patches and by the dielectric loading.」(321頁下から25行ないし下から12行)

上記の翻訳文は以下のとおりである。
「等方向三角形格子状に配置された、トライポールから構成された、ダイクロイックの例が、図4.2aに示されている。トライポール片を帯状体の集合体として記述する際には、当該帯状体の長さを正確に特定することが重要である。電流の分布を正確に記述するために、3つの帯状体は、図4.2bに示すように中央で重なるように配置しなければならない。実際には、全ての展開式は、帯状体の終端において消滅する。
図4.3には、誘電シート(εr(注;比誘電率)=3.、厚さ=37mm.(注;322頁のFig.4.2-aの説明事項並びに技術常識からみると、厚さ=0.037mmは、厚さ=37mmの誤記とみられる))によって裏打ちされた図4.2aの構造体の周波数応答が示されている。この図では特に、2個の偏波面及び3つの入射方向について、反射係数及び透過係数を、周波数との関係においてプロットしてある。
トライポールは1種類の共振要素を有しており、当該共振要素は3本の腕のうちの2本の腕から構成される。共振は当該共振要素の長さが波長の約半分である場合に生じる。もちろん、共振周波数は、帯状体の幅や、種々の片相互の組み合わせ方や、誘電負荷( dielectric loading )からの影響も受ける。」

そして、上記記載のものが、FSS(Frequency Selective Surface;周波数選択性電磁遮蔽材)に係るものであるから、上記記載事項に加え、Fig.4.2-a、Fig.4.2-b、Fig.4.3をも参酌すれば、同引用例には、実質的に、次の発明(以下、「引用発明」という)が記載されているものと認められる。
「誘電シートに、等方向三角形格子状に配置されたトライポールから構成され、遮蔽しようとする電波に共振させる長さの当該トライポールを電磁遮蔽素子として配列させ、このトライポールで電波を散乱させこれにより減衰させる電磁シールド構造。」

3.発明の対比
本願補正発明と引用発明とを対比するに、引用発明の「誘電シート」、「トライポール」は、それぞれ、本願補正発明の「シート材」、「線状アンテナ素子」に相当するから、両者は、
「シート材に、遮蔽しようとする電波に共振させる長さの線状アンテナ素子を電磁遮蔽素子として配列させ 、この線状アンテナ素子で電波を散乱させこれにより減衰させる電磁シールド構造。」
の点で一致し、次の点で相違するものと認められる。
<相違点>
(1)シート材に線状アンテナ素子を配列させるに当たって、本願補正発明は、その素子の電磁界反射等価面積(散乱開口面積)または電磁界反射等価体積(散乱開口体積)を考慮して配列させる構成としているのに対し、引用発明では、当該事項を考慮することについては言及していない点
(2)本願補正発明は、線状アンテナ素子を配列させたシート材を窓ガラスに貼り付けることによって、電磁シールド構造を構成しているのに対し、引用発明では、トライポール(線状アンテナ素子)を配列させたシート材そのものを電磁シールド構造としている点

4.当審の判断
(1)の相違点について
電磁波吸収体を設計する際に、実際は、アンテナの線状体そのものの寸法ではなく、電気的な等価面積、等価体積等を考慮せざるを得ないことは技術常識であり、
引用発明の等方向三角形格子状に配置されたトライポール(線状アンテナ素子)も電気的な等価面積、等価体積等を考慮して配列させて電磁波の遮蔽を行っているといえるものであるから、引用発明と比べて本願補正発明の電磁界反射等価面積(散乱開口面積)、電磁界反射等価体積(散乱開口体積)等を考慮した点に実質的な相違点は認められず、この相違点(1)でいう本願補正発明の構成に格別の創意を見出すことができない。
(2)の相違点について
窓ガラスに電磁波遮蔽用シート材を貼り付けて電磁シールド構造を構成すること自体は、従来周知の技術的事項である(例えば、実願平3-107766号(実開平5-54790号)のCD-ROM、特開平1-170098号公報、特開平2-127035号公報参照)から、この従来周知の技術的事項を参照することによって窓ガラスに引用発明のトライポール(線状アンテナ素子)が配列される誘電シート(シート材)を貼付して、この相違点(2)でいう本願補正発明の構成とすることは当業者が容易に想到することができたものである。

そして、本願補正発明の効果も、引用発明及び前記の従来周知の技術的事項から当業者であれば予測できる程度のものであり、格別なものとはいえない。

したがって、本願補正発明は、前記の従来周知の技術的事項を参照することにより引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

5.むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるから、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

【3】本願発明について
1.本願発明
平成16年5月27日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の各請求項に係る発明は、平成15年10月10日付の手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1?11に記載された事項によって特定されるものと認められるが、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という)は、次のとおりのものである。
「【請求項1】 ポリイミドフィルムやポリエステルフィルム、ポリエチレンフィルム等の合成樹脂フィルムのシート材に、遮蔽しようとする電波に共振させる長さの線状アンテナ素子を電磁遮蔽素子として、その素子の電磁界反射等価面積(散乱開口面積)または電磁界反射等価体積(散乱開口体積)を考慮して配列させ、この線状アンテナ素子で電波を散乱させこれにより減衰させることを特徴とする電磁シールド構造。」

2.引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例とその記載事項は、前記の【2】2.に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明と前記【2】2.の引用発明とを対比すると、引用発明の「誘電シート」、「トライポール」は、それぞれ、本願発明の「シート材」、「線状アンテナ素子」に相当するから、両者は、
「シート材に、遮蔽しようとする電波に共振させる長さの線状アンテナ素子を電磁遮蔽素子として配列させ 、この線状アンテナ素子で電波を散乱させこれにより減衰させる電磁シールド構造。」
の点で一致し、次の点で相違するものと認められる。

<相違点1>
シート材に関して、本願発明がポリイミドフィルムやポリエステルフィルム、ポリエチレンフィルム等の合成樹脂フィルムのシート材であるのに対して、引用発明では、材料の特定がなされていない点
<相違点2>
シート材に線状アンテナ素子を配列させるに当たって、本願発明は、その素子の電磁界反射等価面積(散乱開口面積)または電磁界反射等価体積(散乱開口体積)を考慮して配列させる構成としているのに対し、引用発明では、当該事項を考慮することについては言及していない点

これらの相違点について検討する。
<相違点1>について
合成樹脂フィルムのシート材によって電磁シールド構造を形成すること自体は、従来からごく普通に知られた技術事項(例えば、実願平3-107766号(実開平5-54790号)のCD-ROM、特開平1-170098号公報、特開平2-127035号公報、特開平2-296398号公報、特開平6-244583号公報、特開平6-252582号公報、特開平8-116197号公報を参照)であるから、これらの事項を参照すれば、シート材に関して、ポリイミドフィルムやポリエステルフィルム、ポリエチレンフィルム等の合成樹脂フィルムを採用して相違点1でいう本願発明の構成とすることは当業者が容易に想到し得ることである。
<相違点2>について
電磁波吸収体を設計する際に、実際は、アンテナの線状体そのものの寸法ではなく、電気的な等価面積、等価体積等を考慮せざるを得ないものであり、引用発明の等方向三角形格子状に配置されたトライポール(線状アンテナ素子)も電気的な等価面積、等価体積等を考慮して配列させて電磁波の遮蔽を行っているといえるものであるから、引用発明と比べて、本願発明の電磁界反射等価面積(散乱開口面積)、電磁界反射等価体積(散乱開口体積)等を考慮した点に実質的な相違点は認められず、相違点2でいう本願発明の構成に格別の創意を見出すことができない。

したがって、本願発明も引用発明及び前記従来からごく普通に知られた技術事項に基づいて当業者が容易に想到し得たことというべきである。

【4】むすび
以上のとおり、本願発明(請求項1に係る発明)は、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そして、このような特許を受けることができない発明を包含する本願は、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-02-13 
結審通知日 2007-02-20 
審決日 2007-03-05 
出願番号 特願2000-39875(P2000-39875)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H05K)
P 1 8・ 121- Z (H05K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 川内野 真介  
特許庁審判長 藤井 俊明
特許庁審判官 ぬで島 慎二
永安 真
発明の名称 電磁シールド構造  
代理人 久保 司  

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