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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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無効200680133 | 審決 | 特許 |
無効200580180 | 審決 | 特許 |
無効200680186 | 審決 | 特許 |
無効200680041 | 審決 | 特許 |
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審決分類 |
審判 全部無効 2項進歩性 H01R |
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管理番号 | 1156711 |
審判番号 | 無効2006-80109 |
総通号数 | 90 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2007-06-29 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2006-06-08 |
確定日 | 2007-05-01 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第2692055号発明「フレキシブル基板用電気コネクタ」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 手続きの経緯 本件特許2692055号の請求項1ないし3に係る発明(以下、「本件発明1ないし3」という。)についての出願は、平成5年11月18日に特許出願され、平成9年9月5日にその特許権の設定登録がなされた。 これに対し、平成18年6月8日に、請求人当麻真二より無効審判の請求がなされ、平成18年8月25日に、被請求人ヒロセ電機株式会社より答弁書が提出され、その後平成18年10月30日に請求人及び被請求人より口頭審理陳述要領書がそれぞれ提出され、同日口頭審理が行われたものである。そして、口頭審理の後,請求人から平成18年11月13日付けで,被請求人から同月27日付けでそれぞれ上申書が提出されたものである。 第2 本件発明 本件発明1ないし3は、特許明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された次のとおりのものと認められる。 【本件発明1】 「側方及びこれに隣接せる上方の部分で連通して開口せるハウジングの該開口部に弾性接触部が配列された複数の接触子を有し、ハウジングもしくは該ハウジングに保持された部材が上記開口部に臨む位置に回動支持部を備え、上記接触子に近接した所定位置と該所定位置から離反した開放位置との間を蓋状の加圧部材が上記回動支持部により回動自在に支持され、該加圧部材は上記所定位置に向け回動した際に、側方から上記開口部に挿入されて上記接触子上に配されたフレキシブル基板を接触子に対して圧する加圧部を有し、加圧部は回動軸線からの距離が異なる二つの隣接面が連絡する移行部により形成されるものにおいて、ハウジングは、上記フレキシブル基板の挿入方向にて上記弾性接触部の位置よりも奥部に、該フレキシブル基板の先端部を加圧部材側に近接せしめる状態で支持するための支持部を有し、加圧部材を所定位置まで回動せしめたときに、該支持部と接触子の弾性接触部がフレキシブル基板の下面側で二支点を形成して上記加圧部材の移行部が該二支点間でフレキシブル基板を上面側から加圧するようになっていることを特徴とするフレキシブル基板用電気コネクタ。」 【本件発明2】 「回動支持部は、各接触子と対応せる軸方向位置にて複数に分割され、それぞれが上記対応せる接触子と一体に板状に形成され、ハウジングの対応保持溝に保持されていることとする請求項1に記載のフレキシブル基板用電気コネクタ。」 【本件発明3】 「回動支持部は、該加圧部材の所定位置までの回動時に、回動軸線よりもハウジングの奥部方向の部分に加圧部材を支持する回動面を有していることとする請求項1又は請求項2に記載のフレキシブル基板用電気コネクタ。」 第3 請求人及び被請求人の主張の概要 1.請求人の主張 審判請求人は、本件請求項1ないし3に係る特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする趣旨の無効審判を請求し、以下の証拠及び理由により本件請求項1ないし3に係る特許を無効とすべきであると主張している。 (1)証拠 甲第1号証 実願平2-104454号(実開平4-61883号)のマイクロフィルム 甲第2号証 実願昭61-98180号(実開昭63-4088号)のマイクロフィルム 甲第3号証 実願昭61-104962号(実開昭63-12179号)のマイクロフィルム 甲第4号証 特開平1-315976号公報 (2)理由 本件発明1は、甲第1号証と甲第2号証及び甲第3号証に記載された周知技術に基づいて、また、本件発明2及び本件発明3は、甲第1号証と甲第2号証及び甲第3号証に記載された周知技術と甲第4号証に基づいて容易に発明できたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、これらの特許は特許法第123条第1項第1号に該当し無効とすべきものである。 また、請求人は平成18年10月30日の口頭審理陳述要領書に以下の参考資料を添付している。 参考資料1 実願平4-21173号(実開平5-82072号)のCD-ROM 参考資料2 実願平2-188号(実開平3-92378号)のマイクロフィルム 参考資料3 実願平4-18201号(実開平5-72083号)のCD-ROM 参考資料4 実願平2-708号(実開平3-92379号)のマイクロフィルム 参考資料5 特開平2-23494号公報 参考資料6 実願昭62-36123号(実開昭63-143876号)のマイクロフィルム 2.被請求人の主張 被請求人は、本件発明1は、甲第1号証と甲第2号証及び甲第3号証に記載された周知技術に基づいて、また、本件発明2及び本件発明3は、甲第1号証と甲第2号証及び甲第3号証に記載された周知技術と甲第4号証に基づいて容易に想到しうるようなものではないから、特許法第29条第2項の規定に違反せずに特許されたものであり、無効とされるべきものではない。 第4 甲各号証に記載された発明等 1.甲第1号証には次の記載が認められる。 (1)「絶縁体製のハウジング本体と、可動側壁部とを具備し、前記ハウジング本体を直立する内壁を有する固定側壁部と、前記固定側壁部の両端に一体に構成したフランジ部と複数個のコンタクトの端子を配列するとともに、フラット・ケーブルの端部を挿入する中空部と、前記中空部を隔てて前記両フランジ部間に伸長する基底部から成るものとし、前記可動側壁部を前記フランジ部に回動可能に軸受け支持し、前記可動側壁部の内面にケーブル・ロック用突起を形成し、前記突起より上方の内面を前記可動側壁部を前記固定側壁部に対して閉塞位置にしたときに、前記固定側壁部の直立する内壁に対して末広状に伸長する傾斜壁として成るフラット・ケーブル用コネクタ。」(明細書第1頁第5?19行) (2)「この考案はフラット・ケーブル用コネクタ、より詳細にはプリント基板にFPCケーブルを接続するのに使用するフラット・ケーブル用コネクタに関する。(明細書第2頁第8?11行) (3)「フラット・ケーブル用コネクタ10は絶縁体製のハウジング本体12と可動側壁部14とを具備する。ハウジング本体12は長手方向に伸長する固定側壁部16と、その長手方向の両端において一体に構成したフランジ部18と、固定側壁部16と中空部20を介して両フランジ部18間に伸長する基底部22とから成っている。固定側壁部16の中空部20側の側面、すなわち内面は直立壁に形成してあって、この中空部20に、一定の間隔をとって複数個のコンタクトの端子24が配列してある。 可動側壁部14は、これを第2図に示すように、固定側壁部16に対して開放した位置にし、可動側壁部14と固定側壁部16との間の中空部20の一部にフラット・ケーブルFを挿入して、可動側壁部14を、第3図に示すように、回動して閉塞位置にすることによって、ケーブルF中の導体をコンタクトの端子24に圧着する。 そのために、可動側壁部14の両端は外方に突出する軸部26にしてあり、ハウジング本体12の両端のフランジ部18に形成した軸受部28に嵌装するようにしてある。 また、可動側壁部14を的確に回動支持するために、可動側壁部14の一方の側面を軸部26に連続する円弧状側面30に形成し、基底部22の中空部20に対向する面を円弧状の凹面32に形成してある。 前に述べた回動側壁部16の回動によってケーブルFをコンタクトの端子Fに圧着するために、第3図に示すように、可動側壁部14の内面にはケーブル・ロック用突起34が形成してある。」(明細書第4頁第8行?第5頁第18行) (4)「ハウジング本体12の固定側壁部16について、可動側壁部14を開放した位置にし、フラット・ケーブルFの接続側の端部を固定側壁部16のコンタクトの端子24に沿って、中空部20内に挿入する。」(明細書第7頁第2?6行) (5)「次に、可動側壁部14を回動して固定側壁部16に押しつける。その操作によって、可動側壁部14のケーブル・ロック用突起34が挿入されているフラット・ケーブルFの表面に接し、これをコンタクトの端子24に押しつける。…これによって可動側部14に特別な外力を加えることなく、ケーブルFの導体をコンタクトの端子24に圧着して、いわゆるケーブルのゼロ・フォース・インサーションがなされる。」(明細書第7頁第12行?第8頁第4行) (6)第1図ないし第3図には、フラット・ケーブル用コネクタは、「コンタクトの端子24」の配列方向両側において、「固定側壁部16の中空部20側」の「直立壁」とされた内面から中空部20側に突出する突出部が設けられ、可動側壁部14が閉塞位置、つまりコンタクトの端子24に近接した所定位置にあるとき、この突出部の可動側壁部14に対向する面にケーブルFの可動側壁部14とは反対側の面が接して図示される、平坦面が形成されていることが記載されていると認められる。また、第2図ないし第3図には、ケーブル・ロック用突起34は、回動軸線からの距離が異なる二つの隣接面が連絡する移行部により形成されていることが記載されていると認められる。 これら(1)ないし(6)の記載を総合すると、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲第1号証発明」という。)が記載されているものと認められる。 「側方及びこれに隣接せる上方の部分で連通して開口せるハウジング本体12の中空部20に弾性接触部が配列された複数のコンタクトの端子24を有し、ハウジング本体12が上記中空部20に臨む位置に円弧状の凹面32を備え、上記コンタクトの端子24に近接した所定位置と該所定位置から離反した開放位置との間を可動側壁部14が上記円弧状の凹面32により回動自在に支持され、該可動側壁部14は上記所定位置に向け回動した際に、上方から上記中空部20に挿入されて上記コンタクトの端子24上に配されたフラット・ケーブルFをコンタクトの端子24に対して圧するケーブル・ロック用突起34を有し、ケーブル・ロック用突起34は回動軸線からの距離が異なる二つの隣接面が連絡する移行部により形成されるものにおいて、ハウジング本体12は、コンタクトの端子24の配列方向の側方において、固定側壁部16の中空部20側の直立壁とされた内面から中空部20側に突出する突出部の可動側壁部14に対向する上下方向の面に形成した平坦部を有し、可動側壁部14を所定位置まで回動せしめたときに、コンタクトの端子24の弾性接触部が、フラット・ケーブルFの可動側壁部14とは反対側の面にて支点を形成し、加圧部材を所定位置まで回動せしめたときに、上記加圧部材の移行部がフラット・ケーブルFを側方から加圧するようになっているフラット・ケーブル用コネクタ。」 2.甲第2号証には次の記載が認められる。 (1)「本考案は、コンピュータを装備した機器本体にコンピュータプログラムを記憶したROMカードやICカードを電気的に導通させることのために使用されるコネクタに関する。」(明細書第1頁第20行?第2頁第3行) (2)「コネクタのボディ10はプラスチック成形品よりなるボディ本体11とカバー12との組み合わせによって構成されている。ボディ本体11は、底壁13と、後壁14と、左右の側壁15,15と、後壁14の上端部から前方へ突出された突出部16と、この突出部16に間隔を開けて対向し、かつ左右の側壁15,15の相互間に亘って設けられた支持部17と、これら各部によって囲まれたカード保持孔18とを備えている。」(明細書第8頁第4?12行) (3)「また、カード保持孔18の底面20の奥端部、すなわち後壁14の近傍箇所には、後壁14に近付くほど上位となるように傾斜したガイド面21が設けられている。」(明細書第8頁第18行?第9頁第1行) (4)「38は導電片である。この導電片38は細長いばね板よりなり、上記係合部23に対する係合箇所よりも先端側に接片部分39を備え、この接片部分39の中間部が逆へ字形に折り曲げられてコンタクト40とされている。」(明細書第10頁第4?8行) (5)「43はカード支持具である。このカード支持具43は逆U字形をなす二つの脚部44,44を有し、…。また、一方の脚部44には端子46が延設されている。」(明細書第10頁第14?18行) (6)「また、導電片38の接片部分39にはプリロードが付与されている。したがって、上記接片部分39は自然状態では第2図に仮想線で示した状態となるが、組み付け状態では係合部23の傾斜面23aに沿い、かつ、そのコンタクト40が仕切29,29の間からカード保持孔18の内部へ突き出されている。さらに、接片部分39の先端部39aは支持部17の段付部25によって支持されている。カード支持具43は、その脚部44,44を孔22,22に差し込むことによってボディ本体11の底壁13に固定される。この固定状態において、カード支持具43の円弧状の上端部43aは、カード保持孔18の内部へ突出している。」(明細書第11頁第7?20行) (7)「次に上記コネクタの作用を説明する。 ROMカード50をカード保持孔18へ挿入し、その先端部をガイド面21の下端に突き合わせた状態を第2図に仮想線で示している。この状態では、ROMカード50の先端部50aがカード保持孔18の底面20に当たっていると共に、ROMカード50の中間部分がカード支持具43の上端部43aによって支持されている。また、ROMカード50のコンタクトは接片部分39のコンタクト40に接触していないか、接触しているとしてもその接触圧は零に近い。この状態からさらにROMカード50を押し込むと、ROMカード50の先端部50aがガイド面21に乗り上がり始める。これにより、ROMカード50のコンタクトが接片部分39のコンタクト40に当接し、この当接時点以降においては、ROMカード50のコンタクトが接片部分39のコンタクト40に当接したまま接片部分39をそのばね力に抗して押し上げる。したがって、ROMカード50の先端部50aがガイド面21に完全に乗り上がった時点、すなわち第3図のようにROMカード50の先端部50aが後壁14に当たるセット位置に達した時点では、接片部分39のばね力によってこの接片部分39のコンタクト40がROMカード50のコンタクトに弾接する。この状態では、カード支持具43によってROMカード50の中間部が支持されており、かつROMカード50の先端部50aがガイド面21に完全に乗り上がっており、しかも、上述の式1*で示したt≒a=lzの関係によりROMカード50ががたつきなく確実にカード保持孔18に保持されるから、ROMカード50のコンタクトと接片部分39のコンタクト40とが確実に導通される。(上記の*付数字は丸付き数字である。)」(明細書第12頁第19行?第14頁第11行) 以上の(1)ないし(7)の記載及び図面から、甲第2号証には次の構成が開示されていると認められる。 「ROMカード50をボディ本体11のカード保持孔18に挿入してROMカード50と端子46とを接続するコネクタにおいて、ボディ本体11のカード保持孔18に円弧状の上端部43aが配列された複数のカード支持具43を有するとともに、ボディ本体11はROMカード50の挿入方向にて該上端部43aの位置よりも奥部に、ROMカード50の先端部50aを導電片38の接片部分39側に近接せしめる状態で支持するためのガイド面21を有し、ROMカード50をカード保持孔18を通じて奥まで挿入したとき、ガイド面21とカード支持具43の円弧状の上端部43aがROMカード50の下面側で二支点を形成して接片部分39の湾曲したコンタクト40が該二支点間でROMカード50を上面側から加圧するようになっている」こと。 3.甲第3号証には次の記載が認められる。 (1)「この考案は電子機器に外部記憶媒体のパッケージを着脱自在に装着する外部記憶媒体の装着構造に関する。」(明細書第2頁第3?5行) (2)「第1図に示すように、本体機器1には外部記憶媒体のパッケージ本体2を収納するパッケージ収納部3が設けてある。このパッケージ収納部3には横方向に細長い開口部3aがあって、開口部3aの形状に沿って中空部3bが形成されている。」(明細書第4頁第13?18行) (3)「このインターコネクタ4を取り付けた貫通孔3dを中心とした第1図の左右側近傍には、互に対応する位置でパッケージ収納部3の底面部3c上には突起部3f,3fが設けてある。この突起部3f,3fの高さは前記貫通孔3dより突出させたインターコネクタ4の突出部4aの上面より高く突出されており、各突起部3f,3fの先端部分は球状面で形成されている。」(明細書第5頁第13行?第6頁第1行) (4)「このようなパッケージ収納部3の最奥部には壁面があって、この壁面上の所定位置にはこのパッケージ収納部3に挿入されたパッケージ本体2の上面に広範囲で弾接するバネ部材6が設けてある。このばね部材6は前記壁面上に水平方向に突出した腕部6aがあって、この腕部6aより湾曲された押え部6bが延設され、押え部6bの先端は上方に湾曲されて後述するパッケージ本体2の挿入を容易にしてある。また、押え部6bは中空部3bに挿入されたパッケージ本体2の上面に幅広く弾接する部分で、この押え部6bによってパッケージ本体2は一定の力で水平に押圧されるようになっている。」(明細書第6頁第1?13行) (5)「以上述べた構造において、外部記憶媒体を収納したパッケージ本体2を本体機器1のパッケージ収納部3の開口部3aに挿入し、パッケージ本体2の上面を開口部3a内のガイド部3gに沿って押し込むと、パッケージ本体2はばね部材6にその上面が接触し下方に下げられ、パッケージ本体2の下側面が突起部3f,3fの先端部に支えられる(第1図(A)参照)。この時、ばね部材6の腕部6aは上方に弾性変形しパッケージ本体2の上面の広範囲に作用するが、パッケージ本体2の下面はインターコネクタ4の突出部4aには接触することなく支えられ、インターコネクタ4を損ねる等の不都合が発生しないように保持される。この状態により更にパッケージ本体2を押し込むと、第1図(B)に示すようにパッケージ本体2に設けられた凹部2a,2aはクリック感をもってパッケージ収納部3の突起部3f,3fに被さり係止される。この係止状態になったとき、パッケージ本体2の接続用電極7はパッケージ収納部3内のインターコネクタ4に初めて接続される。而も、この接続状態には外部からの人為的力が加わることなく、前記ばね部材6の一定なばね力が加わるだけで極めて良好に接続される。」(明細書第7頁第16行?第8頁第18行) 以上の(1)ないし(5)の記載及び図面から、甲第3号証には次の構成が開示されていると認められる。 「パッケージ本体2を本体機器1のパッケージ収納部3に挿入してパッケージ本体2とインターコネクタ4とを接続するコネクタにおいて、本体機器1のパッケージ収納部3の底面部3cにパッケージの挿入方向に間隔をおいて2個の突出部3f,3fを有し、パッケージ本体2をパッケージ収納部3の開口部3aを通じて奥まで挿入したとき、各突出部3f,3fがパッケージ本体の下面側で二支点を形成してばね部材6の押え部6bが該二支点間でパッケージ本体2を上面側から加圧するようになっている」こと。 4.甲第4号証には次の記載が認められる。 (1)「この発明は、電気導体を印刷回路板の回路に接続する無挿入力式電気コネクタに関する。」(第3頁右上欄2行?3行) (2)「まず第1図を参照して、本発明の電気コネクタ2は、平可撓ケーブル200の電気トレース202を印刷回路板210に接続する。」(第5頁右上欄8行?10行) (3)「今度は第14,15図を参照して、本発明のコネクタによって平リボンケーブル700の導体702を印刷回路板の印刷回路板トレースに接続することもできる。」(第8頁左上欄4行?7行) (4)「電気コネクタ602の主要構成要素として絶縁ハウジング604、複数の端子630ならびにカム670がある。 同じく第14,第15図を参照して、ハウジング604に線受入面606と、印刷回路板に当接させる取付け面608がある。線受入面606に設けられている複数の線受入穴610が端子受入空洞部612に連通している(第16図参照)。ハウジング604の出張り部614がハウジングの前面から突出しており、出張り部614に複数の並置溝620が設けられている。第15図に示すごとく、ハウジング604の上面に輪郭研削した陥没部616がある。」(第8頁左上欄7行?18行) (5)「再び第14図を参照して、カム670のアーム部分672がコネクタの前面を遮断している水平軸674に接続されている。水平軸676の幅に沿って複数の溝676があり、各溝にカム部分がある。第16,17,18,19図に示すごとく、カムは全体的に円形でありながら、円筒部の長手方向に沿って円筒部から取去った2つの平坦平行部分があり、第17図に示すごとく偏心器680が形成されている。」(第8頁右上欄13行?20行) (6)「第16図に示すごとく、端子の第2U字形部分が水平軸部分に重なっており、カム670を保持している。また、第3アームの自由側端部が相手溝620の中にはまり、端子とカム670の横方向移動を阻止している。この集合体は、端子自体がカムを保持するためにカムとハウジングとの間の保持(ラッチ)手段が不要であり、高度の成形装置が不要であり、構造が簡素でありながら極めて機能的に優れている電気コネクタであるということを関係者は理解されよう。」(第8頁左下欄第7?16行) 以上の(1)ないし(6)の記載及び図面から、甲第4号証には次の構成が開示されていると認められる。 「無挿入力電気コネクタにおいて用いられる端子において、第2U字型部分648は、各端子と対応せる軸方向位置にて複数に分割され、それぞれが上記対応せる端子と一体に板状に形成され、絶縁ハウジング604の対応端子受入空洞部612に保持されている」こと。 第5 対比、判断 1.本件発明1について 本件発明1と甲第1号証発明とを対比すると、 後者の「ハウジング本体12」は、その機能及び構成からみて、前者の「ハウジング」に相当し、以下同様に、「中空部20」は「開口部」に、「コンタクトの端子24」は「接触子」および「ハウジングに保持された部材」に、「円弧状の凹面32」は「回動支持部」に、「可動側壁部14」は「蓋状の加圧部材」に、「フラット・ケーブルF」は「フレキシブル基板」に、「ケーブル・ロック用突起34」は「加圧部」に、また、「フラット・ケーブル用コネクタ」は「フレキシブル基板用電気コネクタ」に、それぞれ相当するから、両者は、 「側方及びこれに隣接せる上方の部分で連通して開口せるハウジングの該開口部に弾性接触部が配列された複数の接触子を有し、該ハウジングに保持された部材が上記開口部に臨む位置に回動支持部を備え、上記接触子に近接した所定位置と該所定位置から離反した開放位置との間を蓋状の加圧部材が上記回動支持部により回動自在に支持され、該加圧部材は上記所定位置に向け回動した際に、上記開口部に挿入されて上記接触子上に配されたフレキシブル基板を接触子に対して圧する加圧部を有し、加圧部は回動軸線からの距離が異なる二つの隣接面が連絡する移行部により形成されるものにおいて、加圧部材を所定位置まで回動せしめたときに、上記加圧部材の移行部がフレキシブル基板を加圧するようになっていることを特徴とするフレキシブル基板用電気コネクタ。」である点で一致し、以下の点で相違する。 (1)フレキシブル基板用電気コネクタのハウジングに対する挿入方向が、前者においては、側方からであるのに対し、後者においては、上方からである点。 (2)フレキシブル基板用電気コネクタの支持構造に関して、前者においては、「ハウジングは、フレキシブル基板の挿入方向にて弾性接触部の位置よりも奥部に、該フレキシブル基板の先端部を加圧部材側に近接せしめる状態で支持するための支持部を有し、加圧部材を所定位置まで回動せしめたときに、該支持部と接触子の弾性接触部がフレキシブル基板の下面側で二支点を形成して上記加圧部材の移行部が該二支点間でフレキシブル基板を上面側から加圧するようになっている」のに対し、後者においては、「ハウジング本体12は、コンタクトの端子24の配列方向の側方において、固定側壁部16の中空部20側の直立壁とされた内面から中空部20側に突出する突出部の可動側壁部14に対向する上下方向の面に形成した平坦部を有し、可動側壁部14を所定位置まで回動せしめたときに、コンタクトの端子24の弾性接触部が、フラット・ケーブルFの可動側壁部14とは反対側の面にて支点を形成し、上記加圧部材の移行部がフラット・ケーブルFを側方から加圧するようになっている」点。 上記相違点について検討する。 請求人は、相違点(2)のフレキシブル基板の支持構造が、「一点支点」(甲第1号証発明)か、或いは、「二点支点で二点支持間を加圧する」(本件発明1)かについて、本件発明1のこの「二点支点で二点支持間を加圧する」構成はコネクタの技術分野において甲第2号証及び甲第3号証に開示されているように既に周知の技術である旨主張しているので、当該主張について検討する。 甲第2号証及び甲第3号証には、上記「第4 2.及び3.」の構成が開示されているところ、これらの構成はいずれもROMカードやパッケージ本体のような剛性のある基板を加圧部材に抗してスライドさせて接続するタイプのコネクタ構造に関するものであって、本件発明1や甲第1号証発明のような柔軟で屈曲可能なフレキシブル基板を予め無加圧状態で挿入してから回動可能な加圧部材を回動させて加圧する接続するタイプのコネクタ構造とはコネクタに接続する基板及びその接続機構を異にするものであって、甲第2号証及び甲第3号証をみる限り、その接続機構を前提とした「二点支点で二点支持間を加圧する」構成がなされているものと認められるから、フレキシブル基板のコネクタ構造を含む広く一般的な基板のコネクタ構造として周知であるということはできない。 なお、請求人は、甲第2号証及び甲第3号証に記載された技術は甲第1号証発明と国際特許分類が同一であるから、同一の技術分野に関するものであるとするが、上記したようにコネクタ構造の前提となる基板が相違するものであり、かつ、コネクタの接続機構も相違するものであるから、国際特許分類が同一であるからといって、同一の技術分野に関するものということはできず、請求人の主張は理由がない。 そこで、甲第2号証及び甲第3号証に開示された構成を甲第1号証発明にそれぞれ適用して相違点(2)に係る構成に容易に想到し得るものか否か検討する。 まず、甲第3号証には、上記「第4 3.」のとおり「パッケージ本体2を本体機器1のパッケージ収納部3に挿入してパッケージ本体2とインターコネクタ4とを接続するコネクタにおいて、本体機器1のパッケージ収納部3の底面部3cにパッケージの挿入方向に間隔をおいて2個の突出部3f,3fを有し、パッケージ本体2をパッケージ収納部3の開口部3aを通じて奥まで挿入したとき、各突出部3f,3fがパッケージ本体の下面側で二支点を形成してばね部材6の押え部6bが該二支点間でパッケージ本体2を上面側から加圧するようになっている」ことが開示されているが、上記したようにこのパッケージ本体2はフレキシブル基板のように柔軟で屈曲可能なものではなく、2個の突出部3f,3fで剛性のあるパッケージ本体2を支持するようにしたものであり、また、パッケージ収納部の2個の突出部3f,3fがパッケージ本体2に設けた凹部2a,2aに収納された状態で、突出部3f,3fの間に設けたインターコネクタ4が接続用電極7と接続されるものであるから、この構造は甲第1号証発明のフレキシブル基板に相当するパッケージ本体が、甲第1号証発明のハウジング本体に相当するパッケージ収納部に設けた二つの突起部(3f,3f)で支持されることを示すものにすぎず、この二点支持の構造は接触子とハウジングの支持部で基板を支持する本件発明1の基板の支持構造と全く異なるものといえる。 したがって、甲第3号証に開示された構成を適用しても相違点(2)に係る本件発明1の構成とすることは容易とはいえない。 次に、甲第2号証には、上記「第4 2.」のとおり「ROMカード50をボディ本体11のカード保持孔18に挿入してROMカード50と端子46とを接続するコネクタにおいて、ボディ本体11のカード保持孔18に円弧状の上端部43aが配列された複数のカード支持具43を有するとともに、ボディ本体11はROMカード50の挿入方向にて該上端部43aの位置よりも奥部に、ROMカード50の先端部50aを導電片38の接片部分39側に近接せしめる状態で支持するためのガイド面21を有し、ROMカード50をカード保持孔18を通じて奥まで挿入したとき、ガイド面21とカード支持具43の円弧状の上端部43aがROMカード50の下面側で二支点を形成して接片部分39の湾曲したコンタクト40が該二支点間でROMカード50を上面側から加圧するようになっている」ことが開示されているが、この構成も上記したようにこのROMカード50はフレキシブル基板のように柔軟で屈曲可能なものではなく、また、ROMカード50の先端面を支持するガイド面21は、ROMカード50のコンタクトとコンタクト40の接片部分39擦れを少なくするためにボディ本体11に設けたものであって、二支点による基板の支持の目的、機能が相違するものである。 さらに、甲第2号証ではROMカード50が奥まで挿入された状態では本件発明1の接触子に相当するカード支持具43と本件発明1のハウジングの支持部に相当するガイド面21でフレキシブル基板に相当する基板ROMカード50が支持されるものであるが、これらのカード支持具43とガイド面21の二支点間で加圧する部材が本件発明1ではフレキシブル基板を無加圧の状態で挿入してから加圧位置に回動させて加圧する加圧部材であるのに対して、甲第2号証では常に加圧位置にあるコンタクト40であって、ROMカード50の挿入時において奥まで挿入される前にROMカード50に接触、すなわち、加圧するものであるから、基板の支持構造が全く相違するものということができる。 請求人は、甲第1号証発明に係る「コンタクトの端子」及び「平坦部」と甲第2号証に開示された構成に係る「カード支持具」及び「ガイド面の上面」との機能、配置位置及び適用部材の共通性がある旨主張するが、二支点で支持しその間で加圧するという構造の共通性を部材に対応させて述べているにすぎず、甲第1号証発明に甲第2号証に開示された構成を適用する動機付けになるものではない。すなわち、甲第2号証に開示された構成に係る「ガイド面」はカードを挿入するにしたがって除々にカードをコンタクト40に押し付けるためのものであり、このようなガイド面を基板を挿入後に可動壁部を回動させてコンタクト24に押圧させるような甲第1号証発明に適用すべき理由がない。また、甲第2号証に開示された構成に係る「カード支持具」及び「ガイド面」の機能、配置位置及び適用部材をみると、コンタクト40は接触位置に突き出されており、基板が挿入されるガイド面21に乗り上げる際、コンタクト40を押し上げるものであって、フレキシブル基板の挿入が妨げられるような状態になっており、このような空間にフレキシブル基板を差し込むようなことは当業者が通常行うことではなく、甲第2号証に開示された構成をフレキシブル基板の支持構造に適用することを当業者が想到するとはいえない。なお、請求人はフレキシブル基板をバネ部材に抗して挿入して装着することは周知であるとして、参考資料1?4を提出しているが、それらはいずれもフレキシブル基板がハウジングと接触した状態でスライド可能に支持されるものにおいて、フレキシブル基板をバネ部材とハウジングの間に挿入するものであり、甲第2号証に開示された構成のような空間に挿入することを示すものではない。 したがって、甲第2号証に開示された構成を適用して相違点(2)に係る本件発明1の構成とすることが容易であるとはいえない。 上記の検討に加え、さらに他の証拠を含めて検討しても、相違点(2)に係る本件発明1の構成は、甲第1号証発明に甲第2号証及び甲第3号証に開示された構成を適用することによって、当業者が容易に想到することができたものとすることはできない。 そして、本件発明1は、相違点(2)に係る構成を備えることにより、本件特許明細書に【発明の効果】としてその段落【0026】に記載されている「加圧部材を一旦所定位置まで回動すれば、フレキシブル基板の結線が不用意に外れることがなくな」る点、「かかる外れを防止するためのロック機構をコネクタの側部等に設ける必要がなくな」る点、「加圧部材の加圧部が上記二支点の間で押圧するようになっているので、フレキシブル基板は撓み変形を生じるようになり、各部の位置及び寸法の精度のバラツキがあっても、接触信頼性に大きな差をもたらさな」い点等の技術的意義を有するものであり、特に上記「加圧部材の加圧部が上記二支点の間で押圧するようになっているので、フレキシブル基板は撓み変形を生じるようになり、各部の位置及び寸法の精度のバラツキがあっても、接触信頼性に大きな差をもたらさないという効果をもたらす。」という甲第1号証発明、甲第2号証及び甲第3号証に開示された構成からは予測し得ない効果を奏することができたものである。 よって、上記相違点(1)について判断するまでもなく、本件発明1は、甲第1号証発明、甲第2号証及び甲第3号証に開示された構成に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。 2.本件発明2ないし3について 請求人は、甲第4号証には本件発明2で付加した技術が開示されており、本件発明2は甲第1号証発明に甲第2号証及び甲第3号証に開示された周知の技術と甲第4号証に記載された技術を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものである旨主張している。 しかしながら、本件発明2ないし3は、本件発明1の構成要件を全て含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当するから、甲第1号証発明、甲第2号証ないし甲第4号証を含めて検討しても、上記「1.」と同様の理由により、甲第1号証発明及び甲第2号証ないし甲第4号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものとはいえない。 第6 むすび 以上のとおりであるから、請求人の主張する理由及び証拠方法によっては本件請求項1ないし3に係る特許を無効とすることはできない。 審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2007-03-08 |
結審通知日 | 2007-03-14 |
審決日 | 2007-03-20 |
出願番号 | 特願平5-311078 |
審決分類 |
P
1
113・
121-
Y
(H01R)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 深沢 正志 |
特許庁審判長 |
山崎 豊 |
特許庁審判官 |
平上 悦司 森川 元嗣 |
登録日 | 1997-09-05 |
登録番号 | 特許第2692055号(P2692055) |
発明の名称 | フレキシブル基板用電気コネクタ |
代理人 | 須田 洋之 |
代理人 | 熊倉 禎男 |
代理人 | 西島 孝喜 |
代理人 | 高石 秀樹 |
代理人 | 今城 俊夫 |
代理人 | 佐竹 勝一 |
代理人 | 吉田 和彦 |
代理人 | 大塚 文昭 |
代理人 | 竹内 麻子 |
復代理人 | 市川 英彦 |
代理人 | 田中 伸一郎 |