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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A23B |
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管理番号 | 1156859 |
審判番号 | 不服2006-9985 |
総通号数 | 90 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2007-06-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2006-05-17 |
確定日 | 2007-05-07 |
事件の表示 | 特願2004-355572「冷凍魚介類の解凍調味方法」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 4月 6日出願公開、特開2006- 87421〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯・本願発明 本願は、特許法第41条に基づく優先権主張を伴う平成16年12月8日(優先日:平成16年8月24日、特願2004-244012号)の出願であって、その請求項1?3に係る発明は、平成19年2月8日付けの手続補正書によって補正された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?3に記載された次のとおりのものと認める(以下、「本願発明1」?「本願発明3」という。)。 「【請求項1】冷凍魚介類を5℃?28℃に温度制御した塩濃度3%?5%のシャワーし、又はエアーレーションにより空気を含ませた高濃度塩水の流動下で解凍すると共に、異物を除去した後、24時間?72時間冷蔵処理し、ついで塩濃度4%?8%の解凍時の塩濃度より高い高濃度塩水で調味することを特徴とした冷凍魚介類の解凍調味方法。 【請求項2】調味は、高濃度塩水又は調味料入り高濃度塩水に解凍済魚介類を浸漬させ、又は相対流動下で浸漬させることを特徴とした請求項1記載の冷凍魚介類の解凍調味方法。 【請求項3】高濃度塩水の流動速度は、毎分1cm?20cmとすることを特徴とした請求項1又は2記載の冷凍魚介類の解凍調味方法。」 2.当審における拒絶理由 一方、当審において平成18年12月13日付けで通知した拒絶の理由の概要は、本願発明1?3は、本願の優先日前に頒布された、下記の引用文献1?7に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。 引用文献1:特開昭62-134040号公報 引用文献2:特開昭52-57346号公報 引用文献3:特開昭63-276441号公報 引用文献4:特開平9-206047号公報 引用文献5:特開平5-161477号公報 引用文献6:特開昭62-239968号公報 引用文献7:特開昭61-257162号公報 3.引用文献の記載事項 引用文献1には、以下の事項が記載されている。 (ア)「冷凍魚介類に適する濃度の塩水を入れた解凍容器と、該塩水を該解凍容器内で撹拌する撹拌部とで構成したことを特徴とする解凍装置。」(特許請求の範囲) (イ)「尚、塩水2の濃度は解凍すべき魚介類に適したものとするが、解凍時間、鮮度等を考慮した実験値によって定めればよく、通常1%?8%の範囲となるであろう。」(第2頁右上欄第7行?第10行) (ウ)「本発明は上述の如く、冷凍魚介類は塩水によって解凍され、塩水の高浸透圧によって解凍が促進され、かつ塩水の濃度はその冷凍魚介類に適したものとなっているのでより解凍が促進され、さらには撹拌部による塩水の流れによっても解凍が促進でき、解凍時間の短縮化が図れるとともに鮮度の低下を極力抑制することができる。」(第2頁右下欄第6行?第12行) 引用文献2には、以下の事項が記載されている。 (エ)「塩水の実質的な流水中に冷凍食品を置いて解凍することを特徴とする冷凍食品の解凍方法。」(特許請求の範囲第1項) (オ)「図中1は上面を開口し、かつ底面にキャスタ2および排水コック3を取付けた解凍容器で、この内部には冷凍マグロ等の冷凍食品Aおよび塩水、特に好ましくは解凍物の含有塩分に近似する塩分濃度(例えば魚類の場合には塩分3.5%)の塩水が収容されるようになっている。」(第1頁右下欄第13行?第18行) (カ)「また二重底7内にはヒータ10が設けてあって塩水を加熱しているから、冷凍マグロ等のように-30℃以下の冷凍食品でも塩水温度の低下による解凍時間の長期化を防止できるものである。」(第2頁右上欄第15行?第19行) 引用文献3には、以下の事項が記載されている。 (キ)「凍結された魚肉を弱塩基性?pH12に塩基性化された塩化ナトリウム水溶液中に浸漬して解凍することを特徴とする魚肉の解凍方法。」(特許請求の範囲第1項) (ク)「本発明の解凍液中の塩化ナトリウムの濃度が低過ぎる場合にはドリップ抑制効果が十分でないから塩化ナトリウムの濃度は2重量%以上であることが好ましい。塩化ナトリウム濃度を約10重量%まで上げることもできるが、本発明の効果を得るにはその様な高濃度にする必要はない。従って、好ましい塩化ナトリウム濃度は約2?6重量%であり、約3?5重量%とするのが実際的見地から最も好ましい。」(第2頁左下欄第8行?第16行) (ケ)「解凍温度としては、解凍液が凍結しない程度の低温から例えば周囲温度(室温)までの任意の温度を用いることができるが3?7℃、好ましくは4?6℃の冷蔵温度を用いるのが、解凍硬直の防止等の観点から好ましい。」(第2頁右下欄第6行?第10行) 引用文献4には、以下の事項が記載されている。 (コ)「この発明は、冷凍食品の解凍、特に、温水および冷水を用いた解凍処理を比較的小規模で短時間に行うのに適した温冷水解凍機に関する。」(【0001】) (サ)「ここに、上記操作において、温水の温度は20℃から45℃の範囲、塩の濃度は0.5%から3.0%の範囲、冷水温度は0℃から15℃の範囲が好ましく、それぞれ冷凍食品の種類,肉質,数量等に応じて最適値に調整する。」(【0022】) 引用文献5には、以下の事項が記載されている。 (シ)「冷凍数の子は一般的には、まず約5?約10%程度の食塩水中で解凍し、次いでそれよりやや濃いめの食塩水で数回血抜き及び必要により漂白処理を行い、その後飽和食塩水に漬けて塩締め処理した後、約1%程度の希薄食塩水を用いて数回の塩抜き処理を行い最後に水切りして生数の子として出荷されている。」(【0003】) 引用文献6には、以下の事項が記載されている。 (ス)「従来、調味タラコとしては、いわゆる辛子明太子が知られ、広く賞用されている。このような調味タラコは、凍結タラコを解凍し水洗した後、1次調味液に浸漬した後、2次調味液に浸漬することによって製造されている。」(第1頁左下欄第13行?第17行) (セ)「先ず、凍結タラコを解凍した後、解凍タラコに水洗処理を施す。解凍タラコはその表面に粘調物、いわゆる「ヌル」を有するもので、水洗処理工程ではこの「ヌル」が洗浄除去される。この場合、洗浄水としては、通常、有機酸でpH酸性に調整した約2%程度の食塩水が用いられる。前記洗浄工程からの水洗タラコを第1次調味液に浸漬する。この場合、第1次調味液としては。従来慣用されているものが用いられるが、この場合、食塩濃度は4重量%程度であり、その他、ミリンや、酒精、天然着色料等を適景含む水溶液が一般に使用される。」(第1頁右下欄第20行?第2頁左上欄第11行) 引用文献7には、以下の事項が記載されている。 (ソ)「第1工程?処理を所望する冷凍数の子を解凍、選別、洗浄(塩洗い)する。第2工程?第1工程を経た数の子を調味液漬する。この調味液漬け5?10℃で2日間位行い、1日1回軽く攪拌して調味の浸透の均一化を図る。1.調味液は次の割合である。数の子 10kg 辛子明太子調味液 2.5l 日本酒 400ml 赤色102号 0.5g 水 2.5l 2.上記数の子は塩分を6?7%程度に調整する。この場合の製品の塩分は4?4.5%となる。」(第2頁左上欄第7行?第2頁右上欄第6行) 4.対比 引用文献1には「撹拌部による塩水の流れによっても解凍」されることが記載されている(記載(ウ))から、引用文献1には、塩水の流動下で解凍することが記載され、また、塩水の流動下で解凍するので、解凍と共に異物も除去されるものと認められる。よって、上記記載(ア)?(ウ)によると、引用文献1には、冷凍魚介類を塩濃度1%?8%の高濃度塩水の流動下で解凍すると共に、異物を除去する冷凍魚介類の解凍方法の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。 次に、本願発明1と引用発明とを対比すると、両者は、冷凍魚介類を特定の塩濃度の高濃度塩水の流動下で解凍すると共に、異物を除去する冷凍魚介類の解凍方法である点で一致し、 (i)本願発明1は、5℃?28℃に温度制御した塩濃度3%?5%の塩水を使用するのに対し、引用文献1には、塩濃度1%?8%の塩水を使用すると記載されているが、温度については明確に記載されていない点、 (ii)本願発明1は、シャワーし、又はエアーレーションにより空気を含ませた塩水を使用するのに対し、引用文献1には、そのようなことが記載されていない点、 (iii)本願発明1は、24時間?72時間冷蔵処理するのに対し、引用文献1には、そのようなことが記載されていない点、 (iv)本願発明1は、塩濃度4%?8%の解凍時の塩濃度より高い高濃度塩水で調味するのに対し、引用文献1には、そのようなことが記載されていない点、 で相違する。 5.当審の判断 (1)相違点について そこで、以下、上記相違点について検討する。 相違点(i)について 引用文献1には、塩水の濃度は解凍すべき魚介類に適したものとすることが記載されている(記載(イ))。ところで、引用文献2には、魚類の場合には塩分3.5%の塩水を使用することが、引用文献3には、魚肉の解凍について塩水の濃度を約3?5重量%とするのが好ましいことがそれぞれ記載されているから、冷凍魚介類を解凍する場合には、3?5%程度の濃度の塩水を使用することは、本願優先日前周知技術であったといえる。 また、引用文献2?4にも記載されている(記載(エ)?(サ))ように、冷凍魚介類などの冷凍食品を解凍する際に、解凍温度について温度制御を行うこと、及び、対象とする食品の種類に応じて解凍温度を決定することは、本願優先日前周知技術であったといえる。 そうすると、引用発明において、対象とする冷凍魚介類の種類に応じて解凍温度と塩水の濃度を適宜決定して、5℃?28℃に温度制御した塩濃度3%?5%の塩水を使用することは、周知技術の適用にすぎず当業者が容易になし得ることである。 相違点(ii)について 冷凍魚介類などの冷凍食品を解凍する際に、エアーレーションにより空気を含ませた水で解凍すること(例えば、特公昭56-27232号公報、特開平6-189675号公報、実願平2-38222号(実開平3-129082号)のマイクロフィルム参照。以下、「周知例1」?「周知例4」という。)、シャワーを使用して解凍すること(例えば、特開昭59-179054号公報、特公昭61-47510号公報、特公平5-14547号公報、特開平9-215468号公報参照。以下、「周知例5」?「周知例7」という。)は、本願優先日前周知技術であったといえる。 よって、引用発明において、塩水の流動下で解凍する際に、シャワーし、又はエアーレーションにより空気を含ませた塩水を使用することは、周知技術の適用にすぎず当業者が容易になし得ることである。 相違点(iii)について 食品の製造過程において、ある目的のために食品を適当な時間そのままの状態にしておくこと(いわゆる「寝かせ」)は本願優先日前周知技術であり(「改訂 調理用語事典」(社団法人全国調理師養成施設協会編集発行、平成10年12月25日発行)p.901参照。)、また、魚介類の製造工程においても塩分を均一にするためや熟成させるために一定期間冷蔵することも本願優先日前によく行われていること(例えば、特開2003-284532号公報(以下、「参考文献」という。)【0002】、特開平3-228638号公報第3頁右上欄第4行?第9行参照。)と認められ、冷蔵処理の時期及び時間も目的に応じて当業者が適宜決めるものであることから、引用発明において、塩水による解凍の後に24時間?72時間冷蔵処理することは、当業者が容易になし得ることである。 相違点(iv)について 引用文献5の記載(シ)によると、冷凍数の子の解凍を約5?10%程度の食塩水中で解凍することも一般的に行われていたことと認められる。また、上記記載(ス)?(ソ)によると、引用文献6、7には、冷凍たらこ、冷凍数の子を解凍・洗浄し、塩濃度4%、6?7%程度の調味液を用いて調味することが記載されている。そして、解凍に使用する塩水の塩濃度や調味液の塩濃度は、対象とする冷凍魚介類の種類に応じて当業者が適宜決定する事項といえるので、冷凍たらこ、冷凍数の子などの冷凍魚介類を解凍する際に、塩濃度3%?5%の塩水で解凍し、その後、塩濃度4%?8%の解凍時の塩濃度より高い塩水で調味することは、当業者が容易になし得ることである。 そして、本願発明1においてこれら工程を組み合わせたことにより奏せられる効果も、上記周知技術から予測できない程のものではない。 (2)審判請求人の主張 ところで、審判請求人は、平成19年2月8日付けの意見書において、本願発明の効果は、「高濃度塩水を流動させながら解凍するので、結果として、高浸透性による氷点降下及び顕著な流動拡散効果が生じ、スムースな解凍をもたらすことができる。また流水処理であるから、異物の洗浄が行われ、かつ、解凍の均質化を図ることができるなどの諸効果がある。塩水の散水(シャワー)によって、塩水中に多量の空気が入り、気泡形成を促進させることによって魚介類の表面に付着した異物(蛋白質、卵の皮、血管)及び増殖細菌を効果的に除去でき、清浄化された魚介類となる。」ことである旨主張し(以下「主張(a)」という。)、また、冷蔵工程について「前記2つの引用文献に示された冷蔵は何れも調味後であって、主として塩分の均一性を図るものである。 前記に対し、本願発明は、解凍後異物を除去し、直ちに冷蔵するものであって、その主たる目的は、「肉質の調整を図ること」であり、塩分調整は「塩水解凍による塩の不均一を調整する目的」である。」、「前記のように、前記引用文献の如く、調味後の熟成冷蔵が知られていたとしても、調味前の形を整える冷蔵とは目的、効果が異なる。」旨主張している(以下「主張(b)」という。)ので、以下この点について検討する。 主張(a)について 審判請求人が主張する本願発明の上記効果は、高濃度塩水の流動下で解凍することと、シャワーやエアーレーションにより空気を含ませた塩水を使用することにより当然に生じる効果であって、引用文献1?4の記載(例えば、引用文献1の上記記載(ウ))、周知技術として示した周知例1?7の記載(例えば、周知例1の第3欄第8行?第14行)から予測可能な効果であり、格別顕著なものとはいえない。 主張(b)について 審判請求人が主張する本願発明の冷蔵工程による「塩水解凍による塩分の不均一が調整される」効果は、調味前と調味後の違いはあるものの、「塩分を均一にする」という上記参考文献に記載された効果と同質の効果であり、異なる効果であるとはいえない。 6.むすび したがって、本願発明1は、引用文献1?7に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その他の請求項に係る発明について判断するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2007-03-01 |
結審通知日 | 2007-03-06 |
審決日 | 2007-03-19 |
出願番号 | 特願2004-355572(P2004-355572) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(A23B)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 坂崎 恵美子、小石 真弓、伊藤 良子 |
特許庁審判長 |
河野 直樹 |
特許庁審判官 |
高堀 栄二 鈴木 恵理子 |
発明の名称 | 冷凍魚介類の解凍調味方法 |
代理人 | 涌井 謙一 |
代理人 | 鈴木 正次 |
代理人 | 鈴木 一永 |
代理人 | 山本 典弘 |