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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F16C
管理番号 1156936
審判番号 不服2004-22214  
総通号数 90 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-06-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-10-28 
確定日 2007-05-07 
事件の表示 平成 8年特許願第 5438号「セラミックス製軌道輪を備える転がり軸受」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年 7月29日出願公開、特開平 9-196069〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.本願発明
本願は、平成8年1月17日の出願であって、その請求項1ないし請求項4に係る発明は、平成16年3月29日(受付日)付け及び平成19年2月13日(受付日)付けの手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし請求項4に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「【請求項1】周方向で分割された複数のブロックからなり、少なくとも軸受の荷重負荷圏に配置されるブロックがセラミックスにより形成されていて、各ブロックの周方向両端面が段付きあるいはテーパ状にされているとともに、それぞれの周方向両端が突き合されて接合され、円筒形に組み立てられて互いに結合されている軸受用セラミックス製軌道輪が、外輪として用いられており、この外輪を構成する前記各ブロックは、圧縮応力を持つ状態で円筒形スリーブの内周に組み込まれていることにより結合されていることを特徴とするセラミックス製軌道輪を備える転がり軸受。」
なお、平成16年11月29日(受付日)付けの手続補正は、当審において平成18年11月17日(起案日)付けで決定をもって却下されている。

2.引用刊行物の記載事項
当審において平成18年12月7日(起案日)付けで通知した拒絶の理由に引用した、本願出願前に頒布された刊行物である実願平5-69059号(実開平7-37705号)のCD-ROM(以下、「刊行物1」という。)には、車輪に関して下記の事項ア、イが図面とともに記載されている。
ア;「【課題を解決するための手段】
本考案の車輪は、車軸に装着される転がり軸受と、この転がり軸受の外周に装着される鋼製のスリーブとからなり、前記転がり軸受が、車軸に固定されるセラミックス製の内輪と、内輪と同軸に外挿され前記スリーブが外嵌圧入されるセラミックス製の外輪と、内・外輪間に配設される複数のセラミックス製の転動体とを有している構成とした。
【作用】
セラミックス製の外輪の外周に鋼製のスリーブを圧入嵌合する構造であるから、外輪外径部に圧縮応力が発生することになり、特に図3に示すような状況においてもセラミックス製の外輪に対して曲げ応力が作用しなくなる。また、衝撃荷重も直接セラミックス製外輪にかからないので破損から免れる。」(第4頁9行?20行;段落【0008】、【0009】参照)

イ;「すなわち、転がり軸受2は、車軸1に固定されるセラミックス製の内輪21と、内輪21と同軸に外挿されスリーブ3が外嵌圧入されるセラミックス製の外輪22と、内・外輪21、22間に配設される複数のセラミックス製の転動体23と、内輪案内形式の冠型の保持器24とを有する深溝玉軸受とされる。これらのセラミックスとしては、窒化けい素系のセラミックス材やアルミナ炭化けい素系のセラミックス材などが用いられる。・・・中略・・・
スリーブ3は、軸方向一端に径方向内向きのフランジ31を有するとともに、軸方向他端の開口部内周にスナップリングなどの止め輪4が装着される周溝32を有している。このスリーブ3の円筒部分が転がり軸受2の外輪22の外周に外嵌圧入され、周溝32にスナップリングなどの止め輪4が取り付けられるようになっている。前述のフランジ31の内径寸法は、スリーブ3に装着される外輪22の内径寸法とほぼ同じ程度に設定される。このスリーブ3の外径は、軸受の外径寸法をDとした場合、1.3Dに設定するのがよい。また、スリーブ3の外周面にクラウニングを施してもよい。」(第5頁7行?26行;段落【0013】、【0014】参照)

同じく引用した、本願出願前に頒布された刊行物である実願平4-27005号(実開平5-77251号)のCD-ROM(以下、「刊行物2」という。)には、溶融金属めつき浴用シンクロールの軸受構造に関して、下記の事項ウが図面とともに記載されている。
ウ;「【考案が解決しようとする課題】
しかしながら、セラミックスは脆性材料であり、熱的・機械的衝撃による割れや欠けを生じ易く、またその熱膨張係数とロールやベースメタル等の金属の熱膨張係数とが大きく異なる(・・・略・・・)ために、熱歪みによる損傷も受け易く、安定な使用を確保することは困難である。
しかも、セラミックスは溶接が不可能なため割れや欠けを生じると、簡単に摺動面から脱落して摺動面部材としての機能を失うばかりか、その脱落と共にロールの回転レベルが変化することにより、回転不良という重大なトラブルが発生する。
そこで本考案は、シンクロールの摺動部に対するセラミックスの取付けが容易で、熱的・機械的な衝撃や熱歪み等による割れや欠けを生じにくく、また万一割れや欠けが生じても、摺動面から容易に脱落せず、摺動面部材として安定に機能させることができる軸受構造を提供しようとするものである。

【課題を解決するための手段】
本考案のシンクロールの軸受構造は、径方向に2分割され、両者合してシンクロールの支軸部周面を包囲する半円弧摺動面を有する上側メタルブロック10と下側メタルブロック40とからなり、
上側メタルブロック10の円弧面には、少なくとも被めつき鋼帯の張力による荷重作用線方向を含む領域に亘り、溝底に向って溝幅が拡大する傾斜側壁を有する円周溝11が形成され、
上記円周溝11内に、摺動面部材として、溝の側壁の傾斜面とほぼ一致する傾斜側面を有する、円周方向の複数個に分割された弧形状のセラミックスピース20,20,…が、難溶性無機繊維材層30を介して周方向に連接嵌装されていることを特徴としている。
【作用】
本考案の軸受構造において、上側メタルブロック10に摺動面部材として取付けられるセラミックスは、円弧方向の複数個の弧形状ピース20,20,…に分割され、かつ難溶性無機繊維層30を介して円周溝11内に嵌装されているので、その分割効果と無機繊維層の緩衝効果とにより、セラミックスに作用する応力が分散され、熱的・機械的衝撃に対する耐割れ・欠け性が高く、またロール支軸部やベースメタル等の熱膨張係数の相違による応力ひずみも効果的に吸収される。
更に、上側メタルブロック10の円周溝11を、溝底に向って溝幅が拡大するテーパ形状とし、セラミックスには、これと対応するテーパ形状をもたせているので、仮にセラミックスに割れが発生しても、容易に脱落することがなく、溝内に停止されて摺動面部材としての機能を保持する。」(第4頁26行?第6頁7行;段落【0004】?【0007】参照)

3.対比・判断
刊行物1に記載された上記記載事項ア、イからみて、刊行物1に記載された発明の転がり軸受2は、セラミックス製の内輪21と、内輪21と同軸に外挿されスリーブ3が外嵌圧入されるセラミックス製の外輪22と、内・外輪21、22間に配設される複数のセラミックス製の転動体23と、内輪案内形式の冠型の保持器24とを有する深溝玉軸受とされており、スリーブ3の円筒部分が転がり軸受2の外輪22の外周に外嵌圧入され、周溝32にスナップリングなどの止め輪4が取り付けられるように構成されているものである。

そこで、本願発明の用語を使用して本願発明1と刊行物1に記載された発明とを対比すると、両者は、「セラミックスにより形成されている軸受用セラミック製軌道輪が、外輪として用いられており、この外輪を構成するセラミックスより形成されている外輪は圧縮応力を持つ状態で円筒形スリーブの内周に組み込まれているセラミックス製軌道輪を備える転がり軸受。」で一致しており、下記の点で相違している。

相違点;本願発明では、軸受用セラミックス製軌道輪が周方向で分割された複数のブロックからなり、少なくとも軸受の荷重負荷圏に配置されるブロックがセラミックスにより形成されていて、各ブロックの周方向両端面が段付きあるいはテーパ状にされているとともに、それぞれの周方向両端が突き合されて接合され、円筒形に組み立てられて互いに結合されているものであって、この外輪を構成する前記各ブロックは、圧縮応力を持つ状態で円筒形スリーブの内周に組み込まれているものであるのに対して、刊行物1に記載された発明では、セラミックス製の外輪22は軸受の荷重負荷圏を含む全体をセラミックスにより円筒形に一体成形されたものであって、スリーブ3が外嵌圧入される(セラミックス製の外輪22が圧縮応力を持つ状態でスリーブ3の内周に組み込まれる)ものである点。

上記相違点について検討するに、滑り軸受ではあるが、軸受の荷重作用線方向(荷重負荷圏)を含む領域に亘り円周方向の複数個に分割された弧形状のセラミックピース20を周方向に連接嵌装することは、上記刊行物2にも記載されているように本願出願前当業者に知られた事項にすぎないものである。
そして、刊行物2に記載された上記事項(セラミックス製軸受を複数のピースで構成すること)は、滑り軸受に限らず荷重負荷圏が存在する刊行物1に記載された発明の転がり軸受のセラミックス製の外輪22に対しても採用できることは当業者であれば容易に理解できる事項と認められる。
さらに、転がり軸受の外輪等を複数片に分割し、この分割片の両端面を段付きあるいはテーパ状に形成して夫々の端面同士を突き合わせるようにして円筒状に接合することは、本願出願前当業者に周知の設計的事項(もし必要なら、原査定時の備考欄で例示された特開昭50-78733号公報、実願昭51-138306号(実開昭53-55046号)のマイクロフィルム等参照)にすぎないものである。
してみると、刊行物1及び刊行物2に記載された上記事項及び上記従来周知の事項を知り得た当業者であれば、刊行物1に記載された発明の転がり軸受2のセラミックス製外輪22を刊行物2に記載されたように少なくとも軸受の荷重負荷圏を含む部分を円周方向の複数個に分割された弧状のセラミックピース(ブロック)で構成し、その各セラミックピースの両端面を段付きあるいはテーパ状として突き合わせて接合した状態でスリーブ3を外嵌圧入する(セラミックス製外輪22を構成する複数のピースを圧縮応力を持つ状態でスリーブ3の内周に組み込む)ことにより、上記相違点に係る本願発明の構成とすることは、必要に応じて容易に想到することができる程度のことであって、格別創意を要することではない。
なお、刊行物2の軸受構造では、セラミックスで形成された複数個の弧形状ピース20間に難溶性無機繊維材層30を介装しているが、この難溶性無機繊維材層30を介装させるかどうかは当業者であれば適宜選択することができる程度の設計的事項にすぎないものである。

また、本願発明の効果について検討しても、刊行物1及び刊行物2に記載された事項並びに本願出願前周知の事項から当業者であれば予測することができる程度のものであって、格別のものとはいえない。

ところで、請求人は、平成19年2月13日(受付日)付けの意見書において、「引用文献1(上記刊行物1)に記載の発明では、周方向に連続体をなすセラミックス製の外輪の外周に鋼製のスリーブ部が装着されるものが開示されています(請求項1、図1?図3など参照)。しかしながら、引用文献1に記載の発明では、外輪が一つの部材のみで構成されるものであり、本願発明のように周方向で複数個に分割されたブロックを結合して円筒状の外輪とする構成でなく、よって、複数個のブロックを組み立てて軌道輪としたものにおける上述した課題について何ら開示や示唆するものではありません。引用文献2(上記刊行物2)に記載の発明では、滑り軸受であって、軸受のうち荷重負荷圏側に当たる上側にはセラミックス製の周方向複数に分割された弧形形状のセラミックスピースが繊維材層を介して上側メタルブロック10に嵌装され、下側メタルブロック40にはセラミックスピースを配設しないでその下側メタルブロック40自体が摺動面をなすものが開示されています(図3、図5など参照)。引用文献2に記載の滑り軸受は、軸と軌道面との接触面積が大きいため、その接触箇所における接触による圧力がそれ程大きくなく、不連続でもないので、上記接触圧力の問題がそもそも生じにくいものです。また、セラミックスピースの端部には引張り応力は作用しません。さらに、滑り軸受の場合、軌道面が多少ずれても軸受回転性能の低下は少ないものです。それゆえに、引用文献2に記載の発明の場合、セラミックスピースをメタルブロックに収容するときでもセラミックスピースにおいて圧縮応力を有する状態とすることは不要です。」(【意見の内容】の(4)本願発明と引用発明との対比の項参照)旨主張している。

しかしながら、上記刊行物2を引用した趣旨は、セラミックス軸受を複数のピース(ブロック)で構成することが本願出願前当業者に知られた事項であることを明らかにするために引用したにすぎないものである。
そして、刊行物2に記載された上記事項は、刊行物1に記載された発明のような一体とされたセラミックス製のころがり軸受の外輪に採用できることは当業者であれば容易に理解できる事項であることは上記のとおりである。
さらに、刊行物1に記載された発明の転がり軸受のセラミックス製外輪22にスリーブ3は外嵌圧入される(セラミックス製外輪22を構成する複数のピースを圧縮応力を持つ状態でスリーブ3の内周に組み込む)ものであってみれば、セラミックス製外輪22を複数のピース(ブロック)で構成した場合にもスリーブ3はセラミックス製外輪22に外嵌圧入される(セラミックス製外輪22を構成する複数のピースを圧縮応力を持つ状態でスリーブ3の内周に組み込む)ように構成されることは当業者であれば自明の事項にすぎないものである。
また、刊行物2では、セラミックス製の複数のピース20間に難溶性無機繊維層30を介装しているが、上記したように刊行物2で引用する技術事項は、「セラミックス製軸受を複数のピース(ブロック)で構成する」点であって、難溶性無機繊維層30をセラミックス製の複数のピース20間に介装させるかどうかは当業者であれば適宜選択することができる設計的事項であることは、上記のとおりである。
よって、請求人の上記意見書での主張は採用することができない。

4.むすび
したがって、本願の請求項1に係る発明(本願発明)は、刊行物1及び刊行物2に記載された発明並びに本願出願前周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そして、本願の請求項1に係る発明が特許を受けることができないものである以上、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-02-28 
結審通知日 2007-03-06 
審決日 2007-03-19 
出願番号 特願平8-5438
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (F16C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鳥居 稔藤村 泰智  
特許庁審判長 村本 佳史
特許庁審判官 山岸 利治
大町 真義
発明の名称 セラミックス製軌道輪を備える転がり軸受  
代理人 岡田 和秀  

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