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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C21D
管理番号 1156941
審判番号 不服2004-23947  
総通号数 90 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-06-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-11-24 
確定日 2007-05-07 
事件の表示 平成8年特許願第67540号「軟窒化用鋼材の製造方法及びその鋼材を用いた軟窒化部品」拒絶査定不服審判事件〔平成9年9月30日出願公開、特開平9-256046〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成8年3月25日の出願であって、平成16年10月20日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年11月24日に拒絶査定に対する審判請求がされたものである。

2.本願発明
本願発明は、平成16年8月11日付け手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1?3に記載されたとおりのものである。そして、そのうちの請求項1に係る発明は、次のとおりのものである。

「重量%で、C:0.15?0.45%、Si:0.10%を超え0.50%まで、Mn:0.2?2.5%、Cr:0.5?2.0%、V:0.05?0.5%、Al:0.01?0.3%、S:0.13%以下(但し、0%を除く)、Pb:0?0.35%、Ca:0?0.01%、残部はFe及び不可避不純物の化学組成からなる鋼を、熱間加工後に球状化焼鈍して硬度をHv180以下となし、次いで冷間加工して硬度をHv250以上となすことを特徴とする軟窒化用鋼材の製造方法。」(以下、「本願発明1」という。)

3.原査定の理由の概要
原査定の理由のうちの一つの概要は、次のとおりのものである。
本願の請求項1?3に係る発明は、その出願前頒布された下記刊行物1?4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

刊行物1:特開平3-104854号公報
刊行物2:特開平5-65594号公報
刊行物3:特開昭59-50158号公報
刊行物4:特開昭63-216950号公報

4.引用刊行物とその記載事項
原査定の理由で引用された刊行物4(特開昭63-216950号公報)には、次の事項が記載されている。

(a)「(1)C:0.15?0.30%、Si:0.15?0.5%、Mn:1.0?2.0%、Cr:0.7%以下、V:0.05?0.30%、Sol.Al:0.02?0.10%を含み、残部Feと不可避的不純物よりなる非調質状態で軟窒化処理されるに適した軟窒化用低合金鋼。
(2)C:0.15?0.30%、Si:0.15?0.5%、Mn:1.0?2.0%、Cr:0.7%以下、V:0.05?0.30%、Sol.Al:0.02?0.10%、さらにS:0.1%以下あるいはPb:0.1%以下のうち1種又は2種を含み、残部Feと不可避的不純物よりなる非調質状態で軟窒化処理されるに適した軟窒化用低合金鋼。
(3)C:0.15?0.30%、Si:0.15?0.5%、Mn:1.0?2.0%、Cr:0.7%以下、V:0.05?0.30%、Sol.Al:0.02?0.10%B:0.0005?0.0040%、さらにTi 0.020?0.050%又はNb:0.020?0.050%のうち1種又は2種を含み残部Feと不可避的不純物よりなる非調質状態で軟窒化処理されるに適した軟窒化用低合金鋼。
(4)C:0.15?0.30%、Si:0.15?0.5%、Mn:1.0?2.0%、Cr:0.7%以下、V:0.05?0.30%、Sol.Al:0.02?0.10%、B:0.0005?0.0040%、さらにTi 0.020?0.050%又はNb:0.020?0.050%のうち1種あるいは2種を含み、さらにS:0.1%以下又はPb:0.1%以下のうちの1種あるいは2種を含み、残部Feと不可避的不純物よりなる非調質状態で軟窒化処理されるに適した軟窒化用低合金鋼。」(特許請求の範囲)
(b)「[産業上の利用分野] 本発明は靭性に優れ、硬化深さの大きな機械部品として有用な軟窒化用低合金鋼に関する。」(第1頁右下欄第17?19行)
(c)「[発明が解決しようとする問題点] 上記従来軟窒化処理を施されたS54C、SCM435等の強靭鋼については表面硬さおよび硬化深さ等に問題が必り、SACM645の窒化用鋼については、硬化深さやコストの点で満足すべきものでない。又、調質処理をせずに軟窒化を行いフェライトとパーライト組織を主体とする材料としたものは、軟窒化後の靭性が著しく低下し、衝撃的な荷重がかかる機械部品には適用できない。そこで、さきに軟窒化処理で高い硬さと大きな硬化深さが得られ、優れた疲労強度を有する軟窒化専用の鋼について開発(特公昭60-43431号公報参照)したが、製造コストの点に問題があり、より低コストで耐疲労性の良い鋼の開発が望まれている。」(第2頁左上欄第12行?同頁右上欄第7行)
(d)「Al:A1は窒化時に窒化物を生成した表面硬さ向上に効果があるが、Vと複合して添加する場合0.1%までの添加で十分にHv600?650を確保することが可能であり、また、結晶粒の調整効果も十分であり、1.0%を越えると窒化深さを浅くし、また被削性に悪い影響を与える。A1の添加は主として結晶粒の調整用として用いるので、本発明においては上限を0.10%とした。」(第3頁右上欄第1?9行)
(e)「上述の組成を有する本発明鋼は、Ac3点以上の温度に加熱して鍛造等の熱間加工、あるいはAc3点以上の温度に加熱して焼きならしあるいは焼きなましを行い、必要に応じて冷間加工(鍛造、引き抜き切削)を行って、軟窒化処理を行い、前述のような優れた軟窒化特性を示す鋼となる。」(第3頁左下欄第5?11行)
(f)「[発明の効果] 本発明の低合金鋼は、圧延あるいは鍛造のままないし焼ならしあるいは焼なまし状態のいわゆる非調質状態で軟窒化処理することにより、軟窒化特性を有し、靭性に優れ硬化深さの大きな製品が得られるものであり、衝撃的な荷重がかかる機械部品の製造に適した材料である。」(第4頁右上欄下から第4行?同頁左下欄第3行)

5.当審の判断
(1)引用発明
刊行物4の上記(a)には、
「(2)C:0.15?0.30%、Si:0.15?0.5%、Mn:1.0?2.0%、Cr:0.7%以下、V:0.05?0.30%、Sol.Al:0.02?0.10%、さらにS:0.1%以下あるいはPb:0.1%以下のうち1種又は2種を含み、残部Feと不可避的不純物よりなる非調質状態で軟窒化処理されるに適した軟窒化用低合金鋼。」と記載されている。ここで、「%」は、低合金鋼の技術常識からすると「重量%」といえる。また、「Sol.Al」は、(a)の「Sol.Al:0.02?0.10%」という記載と(d)の「A1の添加は主として結晶粒の調整用として用いるので、本発明においては上限を0.10%とした。」というAl含有量の限定理由の記載、及び表1の「Al」欄の表示からみて「Al」ということができる。さらに、「鋼」は、(f)の「本発明の低合金鋼は、・・・機械部品の製造に適した材料である。」という記載からみて「鋼材」といえる。また、この「鋼材」は、(e)の「上述の組成を有する本発明鋼は、Ac3点以上の温度に加熱して鍛造等の熱間加工、あるいはAc3点以上の温度に加熱して焼きならしあるいは焼きなましを行い、必要に応じて冷間加工(鍛造、引き抜き切削)を行って、軟窒化処理を行い、前述のような優れた軟窒化特性を示す鋼となる。」という記載、及び(f)の「本発明の低合金鋼は、圧延あるいは鍛造のままないし焼ならしあるいは焼なまし状態のいわゆる非調質状態で軟窒化処理することにより、軟窒化特性を有し、靭性に優れ硬化深さの大きな製品が得られるものであり、衝撃的な荷重がかかる機械部品の製造に適した材料である。」という記載によれば、「熱間加工」後に「焼きならし」あるいは「焼なまし」を行い、「冷間加工」する(軟窒化用低合金鋼の)「製造方法」によって得られたものといえる。
以上の記載を本願発明1の記載ぶりに則って整理すると、刊行物4には、次のとおりの発明(以下、「引用発明」という)が記載されているといえる。

「重量%で、C:0.15?0.30%、Si:0.15?0.5%、Mn:1.0?2.0%、Cr:0.7%以下、V:0.05?0.30%、Al:0.02?0.10%、S:0.1%以下、Pb:0?0.1%、残部はFe及び不可避不純物の化学組成からなる鋼を、熱間加工後に焼きならしあるいは焼なましを行い、次いで冷間加工する軟窒化用鋼材の製造方法。」

(2)本願発明1と引用発明との対比
そこで、本願発明1と引用発明とを対比すると、本願発明1の「球状化焼鈍」及び引用発明の「焼きならし」あるいは「焼なまし」は、ともに「熱処理」といえるから、両者は、
「重量%で、C:0.15?0.30%、Si:0.15?0.50%、Mn:1.0?2.0%、Cr:0.5?0.7%、V:0.05?0.30%、Al:0.02?0.10%、S:0.1%以下(但し、0%を除く)、Pb:0?0.1%、Ca:0%、残部はFe及び不可避不純物の化学組成からなる鋼を、熱間加工後に熱処理して、次いで冷間加工する軟窒化用鋼材の製造方法。」という点で一致し、次の点で一応相違しているといえる。

相違点:
相違点(イ)
本願発明1は、熱処理が「球状化焼鈍して硬度をHv180以下」とするのに対して、引用発明は、熱処理が「焼きならし」あるいは「焼なまし」である点

相違点(ロ)
本願発明1は、冷間加工して硬度を「Hv250以上」とするのに対して、引用発明は、冷間加工した後の硬度が不明である点

(3)相違点についての判断
次に、これらの相違点について検討する。
(3-1)相違点(イ)について
冷間加工前の鋼材の熱処理として冷間加工性を向上させるために、鋼材に「球状化焼鈍」を施し、この球状化焼鈍後の鋼材硬度を「Hv180以下」程度の範囲とすることは、特開平6-341432号公報、特開平1-104718号公報、特開昭63-89617号公報、特開昭56-133445号公報等に示されているように、本出願前当業者に周知の事項といえるから、引用発明の冷間加工前の鋼材の「焼きならし」あるいは「焼なまし」に換えて冷間加工性を向上させるのに好適な「球状化焼鈍」して鋼材硬度を「Hv180以下」とすることは、当業者が容易に想到することといえる。
そして、鋼材を「球状化焼鈍」してその硬度を「Hv180以下」とすることによる作用効果も、当業者が予測できる程度であって、格別顕著なものとはいえない。
してみると、相違点(イ)は、本出願前当業者に周知の事項に基づいて当業者が容易に想到することといえる。

(3-2)相違点(ロ)について
引用例4の第2頁左下欄第6?8行には、耐疲労強度のために心部強度を一定以上に保つことが記載されており、また、強度と硬度とは正の相関関係があるといえるから、心部の硬度を一定以上とすることが示唆されているといえる。そして、同引用例の表2には、軟窒化後の心部硬さがHv265以上と示されており、軟窒化により心部硬度が低下したとしても、軟窒化前の心部硬度は、軟窒化後の心部硬度以上であるといえるから、軟窒化前の心部硬度は、Hv265以上と高くすることが示唆されているといえる。
また、軟窒化用鋼材を冷間加工してその硬度を「Hv250以上」とすることは、特開平3-31468号公報、特開平2-80539号公報等に示されているように、本出願前当業者に周知の事項といえるから、引用発明の冷間加工後(軟窒化前)の鋼材硬度を「Hv250以上」とすることは、当業者が容易に想到することといえる。
そして、冷間加工して鋼材硬度を「Hv250以上」と限定したことによる作用効果も、当業者が予測できる程度であって、格別顕著なものとはいえない。
してみると、相違点(ロ)は、本出願前当業者に周知の事項に基づいて当業者が容易に想到することといえる。

(4)小括
したがって、上記相違点(イ)及び(ロ)は、当業者が容易に想到することといえるから、本願発明1は、引用発明及び本出願前当業者に周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものといえる。

6.結び
以上のとおり、本願発明1は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、その余の発明について検討するまでもなく、本願は、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-02-22 
結審通知日 2007-02-27 
審決日 2007-03-12 
出願番号 特願平8-67540
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C21D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小川 武  
特許庁審判長 長者 義久
特許庁審判官 井上 猛
平塚 義三
発明の名称 軟窒化用鋼材の製造方法及びその鋼材を用いた軟窒化部品  
代理人 穂上 照忠  
代理人 杉岡 幹二  

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