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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G11B
管理番号 1156950
審判番号 不服2004-26556  
総通号数 90 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-06-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-12-28 
確定日 2007-05-07 
事件の表示 特願2000-609996「磁気ヘッドスライダーの面形状補正方法及び磁気ヘッドスライダー」拒絶査定不服審判事件〔平成12年10月12日国際公開、WO00/60582〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯、本願発明
本願は、1999年4月2日を国際出願日とする出願であって、平成16年7月29日付けで拒絶理由通知が通知され、その後平成16年11月18日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成16年12月28日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。
本願の請求項1乃至8に係る発明は、明細書及び図面の記載からみて、それぞれ本願特許請求の範囲の請求項1乃至8に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に記載された発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。
「【請求項1】セラミックを基材とするスライダーの外面を所望の面形状に補正する磁気ヘッドスライダーの面形状補正方法において、
ワークの外面にレーザ光を照射して基材を部分的に溶融させるとともに溶融部を再凝固させ、再凝固時に生じる基材の収縮応力を利用してスライダーの面形状を所望の形状に補正することを特徴とする磁気ヘッドスライダーの面形状補正方法。」

2 引用例
(1) 原査定の拒絶の理由で引用された特開平4-134770号公報(以下「引用例1」という。)には、「磁気ヘッドのコアスライダおよびその製造方法」に関して次の事項が記載されている。(なお、下線は当審で付与したものである。)
(ア) 「3.浮上式磁気ヘッドのコアスライダの浮上面を凸曲面に加工する方法であって、
浮上面(9c)が平坦に加工された後のコアスライダ(9)の背面(9a)に対し、浮上レール(9b)を横切る方向にレーザ光(LB)を走査することを特徴とする磁気ヘッドのコアスライダの製造方法。」(公報1頁右下欄2行?7行、特許請求の範囲の請求項3)
(イ) 「(3)第2図(a)に示すように、薄い金属板10に片側からレーザ光LBを走査すると、レーザ光走査側に曲がり、(b)のようにR曲げできることが、特開昭63-303237号公報などによって知られている。すなわち、薄い金属板10に、高エネルギーのレーザ光LBが短時間照射されたことで、金属板10が急激に温度上昇して熱膨張する。金属板10があるていど高温になると、材料の降伏応力が低下するので、加熱部分は塑性変形し、(a)のように凸になる。ところが、レーザ光照射を止めると、材料は急激に冷却されて、(b)のように収縮する。このとき、熱影響部に外部から熱応力がかかり、凹に塑性変形する。レーザ光として、エネルギー量が0.05ジュール/パルスのパルスレーザを用い、幅10mm、長さ50mm、厚さ78μmのステンレス板に、幅3mmにわたったレーザ光を走査したところ、幅3mmのレーザ光走査部がR曲げされ、全体の曲げ角度が30度となった。
このように薄板の場合は、レーザ光を複数回走査することで、走査領域がR曲げされることが確認されているが、ブロック状をしたコアスライダの背面に浮上レール9bを横切る方向にレーザ光走査すると、1回の走査でも、コアスライダの粘着防止用として最適な高低差hが60?100nmの凸曲面を得ることができる。また、レーザ光走査するだけで足りるので、凸曲面の形成が簡単であり、しかも予め浮上面9cを平坦に加工した後にレーザ光走査するので、均一な凸曲面となり、しかも高低差hが設計どおりの凸曲面を得ることができ、再現性が極めてすぐれている。」(公報3頁左下欄16行?4頁左上欄5行、[作用]の項)
(ウ) 「次に本発明による磁気ヘッドのコアスライダおよびその製造方法が実際上どのように具体化されるかを実施例で説明する。第3図、第4図はレーザの印加電圧と高低差(P-V値:Peak to Valley)hとの関係を示す図で、第3図はレーザ光の走査回数が1回の場合、第4図は2回の場合である。その他のレーザ光走査条件は、パルス幅:0.2ms、レーザビーム径:6.0mm、レンズ焦点距離:50mm、レーザ繰り返し数:40pps、走査速度10mm/s、焦点ずらし量:2mm、であった。なお、コアスライダとしては、寸法が4.1×3.2×1.6mmのフェライト製のものを使用し、YAGレーザで走査した。このように浮上レールの長手方向の長さが4.1mmのコアスライダにおいて、浮上レールの高低差が60?100nmの場合、浮上レールの曲率半径は16.8mm程度となる。
第3図から明らかなように、レーザ光走査回数が1回の場合は、高低差hが60?100nmの凸曲面を形成するのに、500?570V程度の印加電圧が必要であった。これに対し2回走査の場合は、470?520V程度で高低差hが60?100nmの凸曲面を形成できた。なお、この実施例は、同じ個所を2回走査した例であるが、間隔をおいて2か所、あるいは3か所走査してもよい。」(公報4頁左上欄7行?右上欄11行、[実施例]の項)
(エ) 「以上のように、高低差hが60nm付近から摩擦係数低下の効果が顕著になっており、また第3図から明らかなように、高低差hが60?100nm程度の凸曲面であれば、1回のレーザ光走査でも充分である。」(公報4頁左下欄12行?16行、[実施例]の項)
(オ) 「以上は、フェライト製のモノリシックのコアスライダの例であるが、本発明は、薄膜型磁気ヘッドのAlTiC製コアスライダにも適用できることは言うまでもない。」(公報4頁左下欄17行?20行、[実施例]の項)
(カ) 「以上のように本発明によれば、浮上面を平坦に仕上げた後に、背面にレーザ光を走査するのみでコアスライダの浮上面を凸曲面に形成でき、加工が容易でかつ均一に形成でき、再現性にも富んでいる。また、凸曲面の高低差hが60?100nmと、曲率が小さいため、気流による圧力発生は浮上面が平坦なコアスライダと大差なく、スプリングアームのバネ圧作用点を移動したりする必要はなく、また記録/再生ギャップが磁気ディスク面から遠ざかることもなく、記録/再生効率が低下するようなことはない。」(公報4頁右下欄2行?12行、[発明の効果]の項)

3 対比・判断
(1)対比
本願発明と引用例1に記載された発明とを対比する。
引用例1には、上記2、特に(ア)(オ)(カ)(下線部参照)に摘示した記載事項によれば、
「浮上式磁気ヘッドのコアスライダの浮上面を凸曲面に加工する方法であって、
浮上面が平坦に加工された後のコアスライダの背面に対し、浮上レールを横切る方向にレーザ光を走査することにより、浮上面を凸曲面に形成するものであり、
コアスライダが、フェライト製やAlTiC製である、方法。」
の発明が記載されている。

引用例1に記載された発明の「コアスライダ」は、本願発明の「スライダー」に相当する。
本願発明の「スライダーの外面を所望の面形状に補正する磁気ヘッドスライダーの面形状補正方法」は、その具体例が浮上面を凸面に補正するもの(請求項2等参照)であるので、引用例1に記載された発明の「浮上式磁気ヘッドのコアスライダの浮上面を凸曲面に加工する方法」は、本願発明の「スライダーの外面を所望の面形状に補正する磁気ヘッドスライダーの面形状補正方法」に相当している。
引用例1に記載された発明の「コアスライダ」は、「フェライト製やAlTiC製」であるところ、フェライトはセラミックであり、また、「AlTiC」とは、本願の明細書に磁気ヘッドスライダーに使用されるセラミックウエハとして例示されている、「アルチック材(Al2O3TiC)」のことであるので、引用例1に記載された発明の「コアスライダ」は、本願発明の「セラミックを基材とするスライダー」に相当している。
引用例1に記載された発明は、「浮上面が平坦に加工された後のコアスライダの背面に対し、浮上レールを横切る方向にレーザ光を走査することにより、浮上面を凸曲面に形成する」ので、「ワークの外面にレーザ光を照射して、スライダーの面形状を所望の形状に補正する」構成を実質的に備えている。

してみると、本願発明と引用例1に記載された発明は、
「セラミックを基材とするスライダーの外面を所望の面形状に補正する磁気ヘッドスライダーの面形状補正方法において、
ワークの外面にレーザ光を照射してスライダーの面形状を所望の形状に補正する磁気ヘッドスライダーの面形状補正方法。」
である点で一致しており、以下の点で相違している。

(相違点)ワークの外面にレーザ光を照射して、スライダーの面形状を所望の形状に補正することについて、本願発明は、「基材を部分的に溶融させるとともに溶融部を再凝固させ、再凝固時に生じる基材の収縮応力を利用して」行うと特定しているのに対し、引用例1に記載された発明は、そのように特定していない点。

(2)相違点についての判断
引用例1には、コアスライダの浮上面の反対側である裏面にレーザ光を照射することにより、浮上面に凸曲面を形成することができることの説明として、金属板の従来例を引用して、次のように説明されている。
高エネルギーのレーザ光が照射されると、「金属板10が急激に温度上昇して熱膨張する。金属板10があるていど高温になると、材料の降伏応力が低下するので、加熱部分は塑性変形し、(a)のように凸になる。」(上記(イ)参照)こと。その後、レーザ光照射を止めると、「材料は急激に冷却されて、(b)のように収縮する。このとき、熱影響部に外部から熱応力がかかり、凹に塑性変形する。」(上記(イ)参照)こと。
この記載によれば、引用例1に記載された発明では、レーザ光照射により高温に加熱されて加熱部分が熱膨張し塑性変形し、その後冷却されて収縮して凹(浮上面が凸曲面のこと)に塑性変形することが明示されているものの、レーザ光照射により溶融しているか、冷却により溶融部が再凝固しているかが明確でなく、また、冷却時の収縮応力により曲面が補正されていることが明示されているものの、再凝固時に生じる収縮応力については定かでない。
しかしながら、ワークの外面にレーザ光を照射して、高温に加熱し冷却をすることにより、形状を変形する方法において、照射部が溶融する程度にレーザ光を照射し、その溶融部の再凝固時の収縮応力を利用して、変形させる方法は、レーザ光による加工方法として周知の技術であって、例えば、拒絶査定において引用された特開平5-131281号公報(以下「周知公報1」という。)、並びに特開平1-192423号公報及び特開平9-63024号公報(段落10、39等参照)に記載されている。
引用例1に記載された発明には、セラミックの基材に対して、高温で熱膨張し塑性変形する程度までレーザ光を照射し、その後の冷却時の収縮応力による変形を利用することが、示されているのであるから、その高温の程度が局部的に溶融する程度とすることは、上記周知の技術の知識を得れば、当業者が容易になし得ることである。
なお、請求人は、上記周知公報1は、金属に関するものであるから、引用例1の発明と組み合わせることはできないと主張している。
しかしながら、引用例1には、金属の従来例を用いて、セラミックのコアスライダのレーザ光照射の作用が説明されていることからも、レーザ光照射による加工技術は、対象の材料が金属のみでなくセラミック等の材料にも適宜採用されるものであるといえる。
そして、本願発明と、引用例1に記載された発明とは、レーザ光を照射する部分と、それにより補正される面形状との関係において、何ら相違するところがないことを勘案すれば、加工時の塵埃発生防止や小片の剥離防止、及びレーザ光の照射位置や照射量を調節することによって所望の面形状に的確に補正できるという、請求人の主張する本願発明の効果は、引用例1に記載された発明においても奏している効果であるといえる。
以上のとおり、上記相違点の構成及び上記相違点に基づく作用効果は、引用例1に記載された発明及び周知の技術から、当業者であれば予測することができる程度のものにすぎず、格別顕著なものではない。

4 むすび
したがって、本願発明は、本願出願前に頒布された引用例1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。他の請求項を検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-02-21 
結審通知日 2007-02-27 
審決日 2007-03-13 
出願番号 特願2000-609996(P2000-609996)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G11B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 井上 和俊  
特許庁審判長 小林 秀美
特許庁審判官 川上 美秀
中野 浩昌
発明の名称 磁気ヘッドスライダーの面形状補正方法及び磁気ヘッドスライダー  
代理人 綿貫 隆夫  
代理人 堀米 和春  

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