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審決分類 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 H04L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04L
管理番号 1156995
審判番号 不服2004-1416  
総通号数 90 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-06-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-01-20 
確定日 2007-05-10 
事件の表示 特願2000- 12643「ネットワーク化普及環境における情報交換のための方法、装置及び通信システム」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 8月11日出願公開、特開2000-224156〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成12年1月21日(パリ条約による優先権主張1999年1月27日、欧州特許庁)の出願であって、平成15年3月20日付けで拒絶理由通知がなされ、平成15年10月14日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成16年1月20日に審判請求がなされるとともに、同年2月19日付けで手続補正がなされたものである。

2.平成16年2月19日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成16年2月19日の手続補正を却下する。

[理由]
(1)補正の内容
本件補正は、発明の詳細な説明の段落【0051】を、
「【0051】
・・・(前略)・・・ 単方向無線通信チャネル3(以下、(短距離)単方向チャネル)を介する通信は、デフォルト指定により無効にされる。 ・・・(中略)・・・ 単方向チャネル3として無線通信チャネルではないがPAN技術にもとづく通信チャネルを適用することも可能である。・・・(後略)・・・」
と補正することを含むものである。

(2)特許法第17条の2第3項に規定する要件についての検討
上記補正は、パーソナル・エリア・ネットワーク(PAN)・チャネルが、単方向無線チャンネルに含まれないことを補正するものである。
しかしながら、願書に最初に添付した明細書の段落【0025】には、
「通信セッションを開始し、機密情報を含み得る初期シーケンスを伝送するために、単方向無線通信チャネルがターゲット装置だけが初期シーケンスを受信することを保証する。 ・・・(中略)・・・ こうしたチャネルは、赤外線またはレーザ・チャネルなどの光チャネル、パーソナル・エリア・ネットワーク(PAN)・チャネル、有向無線周波(RF)チャネル、誘導チャネル、容量チャネル、または短距離有向通信リンクに好適な他のチャネルである。」とあり、また段落【0028】には、
「個人装置が例えばPANによりユーザに接続される場合、通信をセットアップすることは非常に単純である。なぜなら、ユーザは直覚的にサーバ装置に触れ、自身の人体を介して有向無線通信チャネルを開始するからである。認証されたセッションをセットアップするために、追加のカードや他の物は必要とされない。」とあり、また、段落【0051】には、
「単方向無線通信チャネル3(以下、(短距離)単方向チャネル)を介する通信は、デフォルト指定により無効にされる。単方向チャネル3がレーザ・ポインタの光リンクの場合、次の2段階プロシージャが問題を解決する。 ・・・(中略)・・・ 単方向チャネル3がPAN技術にもとづく場合、次の2段階プロシージャが問題を解決する。・・・(後略)・・・」とあり、また段落【0056】には、
「(3)前記単方向無線通信チャネルが光チャネル、パーソナル・エリア・ネットワーク(PAN)・チャネル、有向無線周波チャネル、誘導性チャネル、または容量性チャネルである、前記(1)記載の方法。 ・・・(後略)・・・」とあり、さらに、出願当初の特許請求の範囲の請求項3には、
「【請求項3】
前記単方向無線通信チャネルが光チャネル、パーソナル・エリア・ネットワーク(PAN)・チャネル、有向無線周波チャネル、誘導性チャネル、または容量性チャネルである、請求項1記載の方法。」と記載されているように、
パーソナル・エリア・ネットワーク(PAN)・チャネルが、単方向無線通信チャネルに含まれることが記載されている。
したがって、パーソナル・エリア・ネットワーク(PAN)・チャネルが、単方向無線チャンネルに含まれないことは、出願当初の明細書および図面に記載されていないとともに、該当初明細書等に記載された内容と矛盾する正反対の内容であり、該当初明細書等の記載から自明なことであるとも認められない。
したがって、当該補正事項は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものとはいえない。

(3)むすび
以上のとおり、上記補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明について
(1)本願発明
平成16年2月19日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項18に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は、出願当初の特許請求の範囲の請求項18に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「情報を符号化及び復号する暗号化システムを有する第1の装置及び第2の装置を含む、情報の交換のための通信システムであって、
前記第1の装置が、
単方向無線通信チャネルを介して、前記第2の装置にシーケンスを送信し、前記第2の装置に暗号化情報を提供する初期送信機と、
無線同報媒体を介する前記第1及び第2の装置間の暗号化通信のための第1のトランシーバと
を含み、
前記第2の装置が、
前記単方向無線通信チャネルを介して、前記第1の装置から前記シーケンスを受信し、前記暗号化情報を獲得する初期受信機と、
前記無線同報媒体を介する前記第1及び第2の装置間の暗号化通信のための第2のトランシーバと
を含む、通信システム。」

(2)引用文献
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された欧州特許出願公開第0843425号明細書(以下「引用文献1」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。

A.「It is therefore an object of the invention to provide an apparatus and method for utilizing the human body as a communication medium for transmitting information related to the user, which allows the user to protect privacy.
It is a further object of the invention to provide an apparatus and method for utilizing the human body as a communication medium for transmitting information related to the user, which protects the confidentiality of the information against parties not authorized or desired by the user to have access to the information.
It is a further object of the invention to provide an apparatus and method for utilizing the human body as a communication medium for transmitting information related to the user, which does not allow unauthorized parties to produce messages which are apparently originated by the user. 」(3頁左欄1行目?17行目)
(和訳:従って、本発明の目的は、人体をユーザに関する情報を伝送するための通信媒体として利用し、ユーザがプライバシを保護することを可能にする装置及び方法を提供することである。
本発明の別の目的は、人体をユーザに関する情報を伝送するための通信媒体として利用し、ユーザにより情報のアクセスを許可されないまたは所望されない当事者に対して、情報の機密性を保護する装置及び方法を提供することである。
本発明の更に別の目的は、人体をユーザに関する情報を伝送するための通信媒体として利用し、無許可の当事者が、明らかにユーザにより発信されるメッセージを生成することを許可しない装置及び方法を提供することである。)

B.「Referring now to FIG. 1, a person, or user, 2 is activating an automated teller machine (ATM) 4. The person 2 is carrying a personal area network (PAN) instrumentality 5, such as an EF card (described in detail below). The ATM 4 includes a control panel 6, which includes suitable keys for allowing the user 2 to key in suitable information such as a PIN and the desired transaction. The control panel 6 includes a contact for establishing an electrical coupling with the person 2.
The ATM 4 is coupled to a receiver module 7 and a processor 8 by means of a communication link 10. Typically, the processor 8 is located at a remote site, and the link 10 includes a suitable medium such as the telephone network. The processor 8 has all required facilities for processing the user's 2 transaction request, such as access to a database of the user's 2 account, etc.
The PAN card 5 and the processor 8 communicate, through the conductive medium of the user's 2 body and the link 10, to verify the user's 2 identity.
In accordance with the invention, the communication is encrypted to establish authentication and security. The preferred technique of encryption is described in detail below.
Also, if the user carries multiple PAN-type transmitters, such as instrumentalities embedded in cards, a watch, or shoes, these may be separately detected for authentication.
In accordance with the invention as illustrated in FIG. 1, a transmitter and a receiver work in combination to provide the communication. For bidirectional communication, two transceivers are used. They are located, for instance, in the card 5 and the processor 8 of FIG. 1
FIGs. 2 and 3 are functional block diagrams of two preferred embodiments of these transmitter and receiver modules.
In FIG. 2, unidirectional communication takes place between a transmitter and a receiver. This system supports a scenario in which the card 5 continuously, or at regular intervals such as every second, transmits a signal such as an ID (see below). The assumption is that, whenever the user 2 touches a control panel 6, within a suitably short time, the regularly transmitted ID signal passes into the control panel for receipt by the processor 8. Thus, no prompting or handshaking is required.
In such an embodiment, the card 5 includes a transmitter module shown in detail. As will be discussed below, the transmitted signal is encrypted in accordance with the invention. Accordingly, the card 5 includes a signal generator 12 which produces an encrypted signal based preferably on a random number, a time representation, and a user ID. The resultant signal is modulated using a low frequency modulator 14, and transmitted to the user's 2 body tissues due to the proximity of the card 5 to the user's 2 body. The user's body 2 is represented schematically in FIG. 2 as a unidirectional communication line.
The receiver 4 is coupled to receive the signal because of the user's 2 physical contact with a receive electrode 18 on the control panel 6. The signal is demodulated by a demodulator 20, and passed through the network link 10 to the processor 8. Within the processor 8, an authenticator 22 authenticates the signal in accordance with the encryption protocol described in detail below, and provides the information to an application 24, such as a program for processing ATM transactions.
In FIG. 3, bidirectional communication takes place between a transceiver in the card 5 and one in the ATM 4. 」(5ページ右欄40行目?6頁左欄52行目。)
(和訳:図1を参照すると、人またはユーザ2が自動窓口機(ATM)4を活動化している。人2はEFカード(後述)などの、パーソナル・エリア・ネットワーク(PAN)手段5を持ち歩いている。ATM4は制御パネル6を含み、これはユーザ2がPIN及び所望のトランザクションなどの、好適な情報をキー入力することを可能にする好適なキーを含む。制御パネル6は、人2との電気接続を形成するコンタクトを含む。
ATM4は通信リンク10により、受信機モジュール7及びプロセッサ8に接続される。通常、プロセッサ8は遠隔地に配置され、通信リンク10は電話網などの好適な媒体を含む。プロセッサ8は、ユーザ2のトランザクション要求を処理するための全ての要求機構を含み、こうした要求には、ユーザ2の口座のデータベースへのアクセスなどが含まれる。
PANカード5及びプロセッサ8は、ユーザ2の身体の伝導性媒体及び通信リンク10を通じて通信し、ユーザ2の識別を確認する。
本発明によれば、通信が確認及びセキュリティを確立するために、暗号化される。暗号化の好適な手法は、以下で詳述する。
また、ユーザが、カード、時計、または靴に埋め込まれる手段などの、複数のPANタイプの送信機を持ち運ぶ場合、これらが確認のために別々に検出され得る。
図1に示される本発明によれば、送信機と受信機が協動して通信する。双方向通信のために、2つのトランシーバが使用される。これらは例えば、図1のカード5及びプロセッサ8内に配置される。
図2及び図3は、これらの送信機及び受信機モジュールの2つの好適な実施例の機能ブロック図である。
図2では、送信機と受信機との間で、片方向通信が発生する。このシステムは、カード5が連続的に、または定期的間隔(例えば毎秒ごと)で、IDなどの信号を送信する状況をサポートする(下記参照)。ユーザ2が適切に短い時間内に、制御パネル6に触れる都度、定期的に送信されるID信号が制御パネル内を通過し、プロセッサ8により受信されるものと仮定する。従って、プロンプトまたはハンドシェークが要求されない。
こうした実施例では、カード5が詳細に示される送信機モジュールを含む。後述されるように、送信信号は本発明に従い暗号化される。従って、カード5は、好適には乱数、時間表現、及びユーザIDにもとづき暗号化信号を生成する信号発生器12を含む。結果の信号は、低周波変調器14を用いて変調され、カード5がユーザ2の身体と近接していることにより、ユーザ2の人体組織に伝送される。ユーザ2の身体は、図2では、片方向通信回線として表される。
受信機4は、ユーザ2と制御パネル6上の受信機電極18との物理的接触により、信号を受信するように接続される。信号は復調器20により復調され、ネットワーク回線10を通じて、プロセッサ8に渡される。プロセッサ8内において、オーセンチケータ22が、後述の暗号化プロトコルに従い信号を確認し、情報をATMトランザクションを処理するプログラムなどの、アプリケーション24に提供する。
図3では、カード5内のトランシーバとATM4内のトランシーバとの間で、双方向通信が発生する。)

(C)「In a preferred embodiment, the EF Card produces an ever-changing encrypted output to prevent an eavesdropper from capturing an output and playing it back later. The microcontroller in the card contains the user's unique public ID number (64 bit), a unique private key (64 bit), a unique private time offset (64 bits) and a program to generate a DES encrypted output. Every second the EF Card transmits three pieces of information the EF Card's time-of-day, the user's public ID number, and an encrypted version of a random number generated by an offset version of the EF Card's time-of-day and the private key (64 bit result). The reader detects these three values, and sends them to a secure authentication machine, which confirms the validity of the code. 」(7頁左欄57行目?右欄14行目。)
(和訳:好適な実施例では、EFカードが永久に変化する暗号化出力を生成し、盗聴者が出力を捕獲して後にそれを再生することを防止する。カード内のマイクロコントローラは、ユーザの固有の公開ID番号(64ビット)、固有の私用キー(64ビット)、固有の専用時間オフセット(64ビット)、及びDES暗号化出力(DESはデータ暗号化規格(Data Encryption Standard)を意味する)を生成するプログラムを含む。毎秒、EFカードは3つの情報片、すなわちEFカードの時刻、ユーザの公開ID番号、及びEFカードの時刻のオフセット・バージョンと私用キー(64ビット)により生成される乱数の暗号化バージョンを送信する。読出し人はこれらの3つの値を検出し、それらを安全な確認機に送信し、これがコードの妥当性を確認する。)

上記(B)の記載から、PANカードは、パーソナル・エリア・ネットワーク(PAN)・チャネルを介して、ATMに暗号化されたID等の信号を送信する送信機モジュールを有すると解される。そして、前記送信機モジュールは、前記ID等の情報を前記ATMに提供するものと認められる。
同じく、上記(B)の記載「好適には乱数、時間表現、及びユーザIDにもとづき暗号化信号を生成する信号発生器12を含む。」からすると、前記PANカードは、暗号化信号を生成する信号発生器を含むと解される。そして、前記信号発生器は、情報を符号化するものと認められる。
また、上記(B)の記載から、ATMは、パーソナル・エリア・ネットワーク(PAN)・チャネルを介して、前記PANカードから前記暗号化されたID等の信号を受信する受信機モジュールを有すると解される。そして、前記受信機モジュールは、前記ID等の情報を獲得するものと認められる。
同じく、上記(B)の記載「信号は復調器20により復調され、」からすると、前記ATMは、前記暗号化されたID等の信号を復号化する復調機を有すると認められる。
そして、上記(B)の記載「図3では、カード5内のトランシーバとATM4内のトランシーバとの間で、双方向通信が発生する。」からすると、PANカード内のトランシーバとATM内のトランシーバとの間で、双方向通信が発生すると解される。そして、双方向通信チャネルを介して、情報を交換する双方向通信が発生すると認められる。
そして、引用発明のPANカード及び前記ATM間で、双方向通信を行うことから、情報の交換のための通信システムであると認められる。

したがって、上記A?Cの記載、及び関連する図面を参酌すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という)が記載されていると認められる。

情報を符号化する信号発生器を有するPANカード及び情報を復号化する復調機を有するATMを含む、情報の交換のための通信システムであって、
前記PANカードが、パーソナル・エリア・ネットワーク(PAN)・チャネルを介して、ATMに暗号化されたIDなどの信号を送信し、前記ATMにID等の情報を提供する送信機モジュールと、
双方向通信チャネルを介する前記PANカード及び前記ATM間の双方向通信のためのPANカード内のトランシーバと
を含み、
前記ATMが、
前記パーソナル・エリア・ネットワーク(PAN)・チャネルを介して、前記PANカードから前記暗号化されたIDなどの信号を受信し、前記ID等の情報を獲得する受信機モジュールと、
前記双方向通信チャネルを介する前記PANカード及び前記ATM間の双方向通信のためのATM内のトランシーバと
を含む、通信システム。

(3)対比
そこで、本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「PANカード」、及び「ATM」は、それぞれ本願発明の「第1の装置」、及び「第2の装置」に対応する。
また、引用発明の「パーソナル・エリア・ネットワーク(PAN)・チャネル」は、本願発明の「単方向無線通信チャネル」に含まれることから、本願発明の「単方向無線通信チャネル」に対応する。
また、引用発明の「PANカード内のトランシーバ」、及び「ATM内のトランシーバ」は、それぞれ本願発明の「第1のトランシーバ」、及び「第2のトランシーバ」に対応する。
そして、引用発明の「信号発生器」が暗号化信号を生成するものであり、「復調機」が暗号化信号を復号化するものであることからすると、これらは、本願発明の「暗号化システム」と、暗号化手段である点で共通する。
また、引用発明の「暗号化されたID等の信号」と、本願発明の「シーケンス」とは、ともにシーケンスデータである点で共通する。
また、引用発明の「ID等の情報」が、通信の妥当性を確認するためのものであり、他方、本願発明の「暗号化情報」が暗号化通信を行うためのものであることからすると、両者はともに、通信のセキュリティを確立するための情報である点で共通する。
また、引用発明の「送信機モジュール」は、暗号化されたID等の信号を送信するものであり、また「ID等の情報」を提供するものであることから、本願発明の「初期送信機」と、送信手段である点で共通する。
また、引用発明の「受信機モジュール」は、暗号化されたID等の信号を受信するものであり、また「ID等の情報」を獲得するものであることから、本願発明の「初期受信機」と受信手段である点で共通する。
また、引用発明の「双方向通信チャネル」と本願発明の「無線同報媒体」とは、ともに、通信媒体である点で共通する。
また、引用発明の、双方向通信チャネルを介する前記PANカード及び前記ATM間の「双方向通信」と本願発明の、無線同報媒体を介する第1の装置及び第2の装置間の「暗号化通信」とは、ともに、通信媒体を介する第1の装置及び第2の装置間の所定の通信である点で共通する。

したがって、本願発明と引用発明とは、

暗号化手段を有する第1の装置及び第2の装置を含む、情報の交換のための通信システムであって、
前記第1の装置が、単方向無線通信チャネルを介して、第2の装置にシーケンスデータを送信し、前記第2の装置に通信のセキュリティを確立するための情報を提供する送信手段と、
通信媒体を介する前記第1の装置及び前記第2の装置間の所定の通信のための第1のトランシーバと
を含み、
前記第2の装置が、
前記単方向無線通信チャネルを介して、前記第1の装置から前記シーケンスデータを受信し、前記通信のセキュリティを確立するための情報を獲得する受信手段と、
前記通信媒体を介する前記第1の装置及び前記第2の装置間の所定の通信のための第2のトランシーバと
を含む、通信システム。

である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点1]
「通信のセキュリティを確立するための情報」に関して、本願発明が「暗号化情報」であるのに対して、引用発明は「ID等の情報」である点。

[相違点2]
「暗号化手段」に関して、本願発明の第1の装置及び第2の装置がともに、「情報を符号化及び復号する暗号化システム」を有するのに対して、引用発明のPANカードが情報を符号化する信号発生器を有し、またATMが情報を復号化する復調機を有する点。

[相違点3]
「通信媒体」、及び「所定の通信」について、本願発明は、「無線同報媒体」、及び「暗号化通信」であるのに対して、引用発明は、「無線同報媒体」、及び「暗号化通信」であるかどうか明らかでない点。

[相違点4]
「シーケンスデータ」に関して、本願発明が「シーケンス」であるのに対して、引用発明は「暗号化されたID等の信号」である点。

[相違点5]
「送信手段」、及び「受信手段」に関して、それぞれ、本願発明は第1の装置から第2の装置に暗号化情報を提供する「初期送信機」であり、及び前記第2の装置が前記暗号化情報を獲得する「初期受信機」であるのに対して、引用発明は、PANカードからATMにID等の情報を提供する「送信機モジュール」であり、及び前記ATMが前記ID等の情報を獲得する「受信機モジュール」である点。

(4)判断
[相違点1]?[相違点3]について
本願の優先権主張の日前である平成5年12月17日に頒布された刊行物である、実願平4-39891号(実開平5-93145号)のCD-ROMに
「【0006】
【作用】
本考案では、親機等の第1の装置から子機等の第2の装置に赤外線信号で指示したスクランブル制御コードを送出し、第2の装置は受信したスクランブル制御コードに基づくスクランブル処理を施した通話信号を無線回線を介して第1の装置に向けて送出することにより、第1の装置からの赤外線信号の外部への漏れをなくして、スクランブル解読による盗聴を不可能としている。」と記載されているように、
同じく、本願の優先権主張の日前である平成5年4月2日に頒布された刊行物である、特開平5-83243公報に、
「【0034】暗号鍵設定手段157は、赤外線受信手段155が受信した赤外線61 から暗号鍵生定手段251が生成した暗号鍵を抽出し、親機1内で使用開始する。従って、本発明(請求項1)によれば、子機が使用開始する暗号鍵を赤外線により親機に伝達し、親機も伝達された暗号鍵を使用開始する為、伝達される暗号鍵を他者に傍受されることは無く、従って親機および子機間の秘話通信を解読される危険性も無く、当該コードレス電話機の秘匿性が向上する。」と記載されているように、
同じく、本願の優先権主張の日前である平成9年6月24日に頒布された刊行物である、特開平9-167098公報に、
「【要約】
【課題】 本発明の課題は、ホスト装置と携帯装置が、安全性の低い通信ネットワークを介して通信する場合に、その安全性を向上させ、広範な使用に適し、かつ鍵の配布や交換に入念な制度や信頼される仲介者を必要としないセキュリティ・システムを提供することである。
【解決手段】 携帯装置12がホスト装置10と、盗聴される可能性が高い通信ネットワーク22を介してリモートで通信することができ、前記装置が互いに近接しており、かつ盗聴される危険性が最小である場合に、直接(例えば赤外線リンク24、40を介して)通信できる。ホスト装置10と携帯装置12は、それらが直接通信して、セキュリティー鍵が携帯装置12を認証するのに使用される場合、共用されるセキュリティー鍵、またはそれと同様なものを更新し、かつ/又は携帯装置12がリモートで通信しようとする場合に、その通信を暗号化する。」と記載されているように、
第1の装置が、赤外線信号等の単方向無線通信チャネルを介して、第2の装置に、通信のセキュリティを確立するための情報、具体的には、スクランブル制御コード、セキュリティ鍵等の暗号化情報を送信し、前記第2の装置に暗号化情報を提供し、前記第2の装置が、前記暗号化情報を暗号化のために使用し、安全性の低い通信媒体、例えば無線通信等の無線同報媒体を介して、前記第1及び第2の装置間で暗号化通信をする、ことで、通信のセキュリティを確保する技術は、当業者にとって周知の技術である。
そして、引用発明は、情報の機密性を保護し、不正を防止するためのセキュリティを確保するための通信システムであることから、引用発明のPANカードとATM間の通信システムにおいて、前記周知技術を適用することで、「通信のセキュリティを確立するための情報」として、本願発明のように「暗号化情報」を適用し、PANカード及びATMともに、本願発明のように「情報を符号化及び復号する暗号化システム」を有することで本願発明のように無線同報媒体を介して暗号化通信を行うものとして構成することは、当業者であれば、適宜なし得たものである。
よって、相違点1?相違点3は格別のものではない。

[相違点4]?[相違点5]について
前記のように「通信のセキュリティを確立するための情報」として、本願発明のように「暗号化情報」を適用し、PANカード及びATMともに、本願発明のように「情報を符号化及び復号する暗号化システム」を有することで本願発明のように無線同報媒体を介して暗号化通信を行うものとして構成する際に、「シーケンスデータ」に関して、引用発明の「暗号化されたID等の信号」が、本願発明の「シーケンス」に対応し、「送信手段」、及び「受信手段」に関して引用発明の「送信機モジュール」、及び「受信機モジュール」が、それぞれ、本願発明の「初期送信機」、及び「初期受信機」に対応することは、論理的必然である。
よって、相違点4?相違点5は格別のものではない。

そして、本願発明の作用効果も、引用発明及び周知技術から当業者が予測することができる程度のものであって、格別のものとはいえない。
したがって、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(5)むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-11-13 
結審通知日 2006-11-17 
審決日 2006-11-28 
出願番号 特願2000-12643(P2000-12643)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H04L)
P 1 8・ 561- Z (H04L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 青木 重徳  
特許庁審判長 赤川 誠一
特許庁審判官 小田 浩
成瀬 博之
発明の名称 ネットワーク化普及環境における情報交換のための方法、装置及び通信システム  
代理人 市位 嘉宏  
復代理人 林 茂則  
代理人 坂口 博  

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