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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C08K 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C08K |
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管理番号 | 1157021 |
審判番号 | 不服2004-19922 |
総通号数 | 90 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2007-06-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2004-09-27 |
確定日 | 2007-05-10 |
事件の表示 | 平成 7年特許願第307281号「高分子組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年 6月 3日出願公開、特開平 9-143303〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
I.手続の経緯 本願は、平成7年11月27日の出願であって、平成8年11月22日に手続補正書が提出され、平成16年5月25日付けで拒絶理由が通知され、その指定期間内である平成16年7月28日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成16年8月25日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成16年9月27日に審判請求がなされ、平成16年10月26日に手続補正書が提出され、平成16年10月27日に手続補正書(方式)が提出され、平成16年11月19日付けで前置報告書が提出されたものである。 II.補正却下の決定 1.平成16年10月26日付けの手続補正を却下する。 2.補正却下の決定の理由 〔1〕手続補正の内容 平成16年10月26日付けでした手続補正(以下、「本件手続補正」という。)は、特許請求の範囲請求項1の記載について、 「【請求項1】 次の(A)、(B)、(C)及び(D)の各成分を配合して得た固体の組成物を、溶融混練することを特徴とするペレット状高分子組成物。 (A)高分子化合物、 (B)下式(I)で示されるフェノール系酸化防止剤、 (C)分子量400以上のヒンダードアミン系光安定剤、 (D)下式(II)で示されるジヒドロオキサフォスファフェナンスレン系リン化合物 [式中、R1は水素原子又は低級アルキル基を、nは2又は3を表す。R2はnが2の場合は残基内に酸素原子を含むこともある2価のアルコール残基を、nが3の場合はイソシアヌル酸残基を表す。Xはnが2の場合は低級アルキレンカルボニルオキシ基を、nが3の場合は低級アルキレン基を表す。] [式中、R3及びR4は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子又は低級アルキル基を表す。]」 を 「【請求項1】 次の(A)、(B)、(C)、(D)及び(E)を含むことを特徴とする高分子組成物。 (A)高分子化合物、 (B)下式(I)で示されるフェノール系酸化防止剤、 (C)分子量400以上のヒンダードアミン系光安定剤、 (D)下式(II)で示されるジヒドロオキサフォスファフェナンスレン系リン化合物、 (E)トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト、ビス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ペンタエリスリトール ジホスファイト、ジステアリル ペンタエリスリトール ジホスファイト、テトラキス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル 4,4’-ビフェニレンホスフォナイト及び2,2’-メチレンビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル) オクチルホスファイトから選ばれる1種以上のリン系酸化防止剤: [式中、R1は水素原子又は低級アルキル基を、nは2又は3を表す。R2はnが2の場合は残基内に酸素原子を含むこともある2価のアルコール残基を、nが3の場合はイソシアヌル酸残基を表す。Xはnが2の場合は低級アルキレンカルボニルオキシ基を、nが3の場合は低級アルキレン基を表す。] [式中、R3及びR4は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子又は低級アルキル基を表す。]」と補正する事項(以下、「補正事項a」という。)を含むものである。 〔2〕本件手続補正の適否について検討する。 本件手続補正においてする特許請求の範囲の補正(補正事項a)が、特許法第17条の2第4項に規定する要件に適合する補正であるか否について (イ)特許請求の範囲の補正が特許法第17条の2第4項第2号に該当するためには、次の(1)?(3)要件を満たす必要がある。 (1)特許請求の範囲の減縮であること。 (2)補正前の請求項に記載された発明の発明特定事項の限定であること。 (3)補正前と補正後の発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であること。 また、発明を特定するための事項を限定する補正とは、補正前の請求項における発明を特定するための事項の一つ以上を、概念的により下位の発明を特定するための事項とする補正、をいうものである(特許庁審査基準 第III部 「明細書、特許請求の範囲又は図面の補正」第II節 4.請求項の限定的減縮 参照)。 (ロ)そこで、本件手続補正についてみると、補正事項aは、(A)?(D)の成分を含む組成物にさらに(E)成分である「トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト、ビス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ペンタエリスリトール ジホスファイト、ジステアリル ペンタエリスリトール ジホスファイト、テトラキス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル 4,4’-ビフェニレンホスフォナイト及び2,2’-メチレンビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル) オクチルホスファイトから選ばれる1種以上のリン系酸化防止剤:」を必須成分として新たに加えるものであるが、補正前の請求項には、該(E)成分(リン系酸化防止剤)については何ら記載されていない。 そうすると、補正事項aが、補正前の請求項における発明を特定するための事項の一つ以上を、概念的により下位の発明を特定するための事項とする補正であるとすることはできない。 したがって、補正事項aは、補正前の請求項における発明特定事項を限定的に減縮するものではない。 (ハ)そして、補正事項aが、請求項の削除を目的とするものでもなく、誤記の訂正を目的とするものでもなく、明りょうでない記載の釈明を目的とするものでもない。 したがって、本件手続補正は、特許法第17条の2第4項の各号の規定のいずれにも適合しない。 〔3〕むすび 以上のとおりであるから、本件手続補正は、特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 よって、結論のとおり決定する。 III.本願発明 本願についてされた平成16年10月26日付けでした手続補正は、上記IIのとおり決定をもって却下された。したがって、本願の請求項1に係る発明は、平成8年11月22日付け及び平成16年7月28日付け手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲請求項1に記載された事項により特定されたとおりものであり、請求項1には次のとおり記載されている。 「【請求項1】 次の(A)、(B)、(C)及び(D)の各成分を配合して得た固体の組成物を、溶融混練することを特徴とするペレット状高分子組成物。 (A)高分子化合物、 (B)下式(I)で示されるフェノール系酸化防止剤、 (C)分子量400以上のヒンダードアミン系光安定剤、 (D)下式(II)で示されるジヒドロオキサフォスファフェナンスレン系リン化合物 [式中、R1は水素原子又は低級アルキル基を、nは2又は3を表す。R2はnが2の場合は残基内に酸素原子を含むこともある2価のアルコール残基を、nが3の場合はイソシアヌル酸残基を表す。Xはnが2の場合は低級アルキレンカルボニルオキシ基を、nが3の場合は低級アルキレン基を表す。] [式中、R3及びR4は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子又は低級アルキル基を表す。] 」 IV.原査定の拒絶理由の概要 原査定の拒絶の理由とされた平成16年5月25日付けで通知された拒絶理由の概要は、次のようなものである。 (1)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内において頒布された刊行物に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない。 (2)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内において頒布された刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 (理由1、2について) ・請求項1?9 ・引用文献1 <引用文献等一覧> 1.特開平02-077454号公報 V.引用文献の記載事項 1.引用文献1(以下「刊行物1」という。) (1-1) 「1)(A)超高分子量ポリオレフィンと、 (B)フェノール系安定剤:(A)超高分子量ポリオレフィン100重量部に対し、0.005?5重量部と、 (C)有機ホスファイト系安定剤:(A)超高分子量ポリオレフィン100重量部に対し、0.005?5重量部と、 (D)ヒンダードアミン系安定剤:(A)超高分子量ポリオレフィン100重量部に対し、0.005?5重量部 とを含むことを特徴とする超高分子量ポリオレフィン系分子配向成形体。 2)(A)超高分子量ポリオレフィンと、 (B)フェノール系安定剤:(A)超高分子量ポリオレフィン100重量部に対し、0.005?5重量部と、 (C)有機ホスファイト系安定剤:(A)超高分子量ポリオレフィン100重量部に対し、0.005?5重量部と、 (D)ヒンダードアミン系安定剤:(A)超高分子量ポリオレフィン100重量部に対し、0.005?5重量部と、 (E)高級脂肪酸の金属塩:(A)超高分子量ポリオレフィン100重量部に対し、0.005?5重量部 とを含むことを特徴とする超高分子量ポリオレフィン系分子配向成形体。」(特許請求の範囲) (1-2) 「しかしながら、超高分子量ポリオレフィンからなる分子配向成形体は、本質的にポリオレフィンからなっているため、高温により容易に劣化し、引張り強度、引張り弾性率が低下するなど長期耐熱安定性に問題があった。」(第2頁左上欄19行?右上欄4行) (1-3) 「発明の目的 本発明は、上記のような問題点を解決しようとするものであって、超高分子量ポリオレフィンが本来具備する引張り強度、引張り弾性率等を損うことのないような長期耐熱安定性および耐候性に優れた超高分子量ポリオレフィン系分子配向成形体を提供することを目的としている。」(第2頁右上欄18行?左下欄4行) (1-4) 「本発明に係る超高分子量ポリオレフィン系分子配向成形体は、超高分子量ポリオレフィン(A)と、特定量の前記安定剤(B)、(C)および(D)、または特定量の前記安定剤(B)、(C)、(D)および(E)とを含んで構成される。 本発明に係る超高分子量ポリオレフィン系分子配向成形体は、前記(A)、(B)、(C)、(D)および(E)を含む超高分子量ポリオレフィン組成物に希釈剤を配合して製造することができる。」(第3頁左上欄5行?15行) (1-5) 「 フェノール系安定剤(B) 超高分子量ポリオレフィン組成物は、上記のような超高分子量ポリオレフィン(A)に加えて、超高分子量ポリオレフィンの延伸の際に熱媒として用いられる溶媒に溶出されにくいフェノール系安定剤(B)を含んでいる。 フェノール系化合物としては、従来公知のものが特に限定されることなく用いられるが、具体的には、超高分子量ポリオレフィンとの相溶性、および上記溶媒に対する耐溶出性の面から以下のような化合物が好ましく用いられる。 2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、 ……… トリエチレングリコール-ビス[3-(3-t-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、 ……… トリス(4-t-ブチル-2,6-ジメチルー3-ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、 ……… 3.9-ビス[1,l-ジメチル-2-(β-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ)エチル]-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、 ……… β-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸ルキルエステルなど。 ………。 上記β-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸アルキルエステルとしては、特に炭素数18以下のアルキルエステルが好ましい。 これらのうちで特に好ましいフェノール系安定剤は、次の化合物である。 トリエチレングリコール-ビス[3-(3-t-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート] 、 ……… トリス(4-t-ブチル-2,6-ジメチルー3-ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、 ……… 3.9-ビス[1,l-ジメチル-2-(β-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ)エチル]-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、 ……… 」(第3頁右上欄18行?第5頁左上欄1行) (1-6) 「 有機ホスファイト系安定剤(C) 超高分子量ポリオレフィン組成物は、上記のような超高分子量ポリオレフィン(A)およびフェノール系安定剤(B)に加えて、超高分子量ポリオレフィンを延伸する際に熱媒として用いられる溶媒に溶出されにくい有機ホスファイト系安定剤(C)を含んでいる。 有機ホスファイト系安定剤としては、従来公知のものが特に制限されることなく用いられるが、具体的には、超高分子量ポリオレフィンとの相溶性、および上記溶媒に対する耐溶出性の面から以下のような化合物が好ましく用いられる。 トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト、 ……… 9、10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナンスレン-10-オキサイド、 ………。 また、ここで用いられる有機ホスファイト系安定剤には、炭素原子と燐原子とが直接結合したホスフォナイト化合物も含まれる。 ………。 これらの有機ホスファイト系安定剤は、単独であるいは組合せて用いられる。」(第5頁右上欄1行?第6頁左下欄2行) (1-7) 「 ヒンダードアミン系安定剤(D) 超高分子量ポリオレフィン組成物は、上記のような超高分子量ポリオレフィン(A)、フェノール系安定剤(B)および有機ホスファイト系安定剤(C)に加えて、超高分子量ポリオレフィンを延伸する際に熱媒として用いられる溶媒に溶出されにくいヒンダードアミン系安定剤(D)を含んでいる。 ヒンダードアミン系安定剤としては、従来公知のピペリジンの2位および6位の炭素に結合しているすべての水素がメチル基で置換された構造を有する化合物が特に限定されることなく用いられるが、具体的には、超高分子量ポリオレフィンとの相溶性、および上記溶媒に対する耐溶出性の面から以下のような化合物が好ましく用いられる。 (1)ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート、 (2)コハク酸ジメチル-1-(2-ヒドロキシエチル)-4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン重縮合物、 (3)ポリ[[6-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)イミノ-1,3,5-トリアジン-2-4-ジイル][(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ]へキサメチレン[(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ]]、 ……… (6)ビス-(1,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)-2-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-2-nブチルマロネート ……… (13)N,N’-ビス(3-アミノプロピル)エチレンジアミン-2-4-ビス[N-ブチル-N-(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)アミノ]-6-クロロ-1,3,5-トリアジン縮合物、 (14)ポリ[[6-N-モルホリン-1,3,5-トリアジン-2-4-ジイル][(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ]ヘキサメチレン[(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ]] ………。 これらのうちで特に好ましいヒンダードアミン系安定剤は、上記(2)、(3)、(4)、(6)、(8)、(9)、(10)、(11)、(12)、(13)、(14)、(15)および(16)の化合物である。」(第6頁左下欄16行?第7頁左下欄5行) (1-8) 「 発明の効果 本発明に係る超高分子量ポリオレフィン系分子配向成形体は、超高分子量ポリオレフィン(A)と、特定量の前記安定剤(B)、(C)および(D)、または特定量の前記安定剤(B)、(C)、(D)および(E)とを含んで構成されているので、長期的な耐熱安定性および耐候性に優れ、高引張り強度、高引張り弾性率を保持する。 以下、本発明を実施例により説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。」(第10頁左下欄6?15行) (1-9) 「実施例1 超高分子量ポリエチレン(極限粘度[η]=8.94dl/g、135℃デカリン溶媒中で測定)粉末20重量部と、希釈剤として、パラフィンワックス(日本清蝋製、商品名:ルパックス、融点:69℃)粉末80重量部との混合物に、フェノール系安定剤として、ビス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジルホスホン酸エチル)カルシウムとポリエチレンワックスとの50:50混合物(日本チバガイギー(株)製、商品名:IRGANOX 1425WL)を0.2重量部、有機ホスファイト系安定剤として、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト(日本チバガイギー(株)製、商品名:PHOSPHITE 168 )を0.1重量部、ヒンダードアミン系安定剤として、コハク酸ジメチル-1-(2-ヒドロキシエチル)-4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルビペリジン重縮合物(日本チバガイギー(株)製、商品名:キマソーブ 622LD)を0.1重量部配合し、次の条件で溶融紡糸した。 該混合物をスクリュー押出機(スクリュー径25mm、L/D=25、サーモプラスチックス社製)を用いて、設定温度190℃で溶融混練を行なった後、該溶融物を押出機に付属するオリフィス径2mmの紡糸ダイより溶融紡糸した。次いで、押出し溶融物を180cmのエアーギャップ、35倍のドラフト比の条件で引き取り、空気中にて冷却、固化し、未延伸繊維を得た。 さらに、該未延伸繊維を次の条件で延伸して分子配向繊維を得た。 ………。」(第10頁左下欄16行?第11頁左下欄15行) VI.対比・判断 請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)と刊行物1に記載された発明とを対比する。 刊行物1に記載された発明は、その特許請求の範囲の請求項1に 「(A)超高分子量ポリオレフィンと、 (B)フェノール系安定剤:(A)超高分子量ポリオレフィン100重量部に対し、0.005?5重量部と、 (C)有機ホスファイト系安定剤:(A)超高分子量ポリオレフィン100重量部に対し、0.005?5重量部と、 (D)ヒンダードアミン系安定剤:(A)超高分子量ポリオレフィン100重量部に対し、0.005?5重量部 とを含むことを特徴とする超高分子量ポリオレフィン系分子配向成形体。」と記載〔摘示記載(1-1)〕され、該超高分子量ポリオレフィン系分子配向成形体が(A)?(D)成分からなる高分子組成物(以下、「引用組成物」という。)から製造されることも記載〔摘示記載(1-4)〕されている。 そこで、高分子組成物の各成分について検討する。 1.高分子化合物成分 引用組成物の(A)成分、即ち「超高分子量ポリオレフィン」はいうまでもなく高分子化合物であるから本願発明の「(A)高分子化合物」に相当するものである。 2.フェノール系安定剤成分 引用組成物の(B)成分の「フェノール系安定剤」については、発明の詳細な説明にはその具体的な化合物として、トリエチレングリコール-ビス[3-(3-t-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、トリス(4-t-ブチル-2,6-ジメチルー3-ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、3,9-ビス[1,l-ジメチル-2-(β-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ)エチル]-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、等の化合物が好ましい化合物として記載〔摘示記載(1-5)〕されており、これ等の化合物はそれぞれ本願明細書の実施例において本願発明の(B)成分のフェノール系酸化防止剤として具体的に使用されているB-2、B-3及びB-1と同じ化合物である。してみれば使用する化合物の点で両者の発明に差異はない〔例えば、トリエチレングリコール-ビス[3-(3-t-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]は本願発明の式(I)において、nが2であり、R1 が水素であり、R2 が残基内に酸素原子を含む2価アルコール残基(トリエチレングリコール-ビス…ネート)であり、Xが低級アルキレンカルボニルオキシ基(プロピオネート)である化合物に該当する。〕。 ただ本願発明においては、(B)成分は「酸化防止剤」と記載されているのに対し刊行物1に記載された発明では単に「安定剤」と記載されており異なった表現になっているが、「酸化防止剤」も「安定剤」の一態様であるし、使用する化合物が同じである以上当然に引用組成物における化合物も酸化防止剤としての作用、機能を有するものであるから、この点で両者の発明に差異はない。 3.アミン系安定剤成分 引用組成物の(D)成分の「ヒンダードアミン系安定剤」については、発明の詳細な説明にはその具体的な化合物として、(1)ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート、 (2)コハク酸ジメチル-1-(2-ヒドロキシエチル)-4-ヒドロキシ-2,2,6、6-テトラメチルピペリジン重縮合物、 (3)ポリ[[6-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)イミノ-1,3,5-トリアジン-2-4-ジイル][(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ]へキサメチレン[(2,2,8,8-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ]]等の化合物が好ましい化合物として記載〔摘示記載(1-7)〕されており、これ等の化合物はそれぞれ本願明細書の実施例において本願発明の(C)成分のヒンダードアミン系光安定剤として具体的に使用されているC-1、C-3及びC-2と同じ化合物である。してみれば使用する化合物の点で両者の発明に差異はない。 ただ本願発明においては、(C)成分は「光安定剤」と記載されているのに対し刊行物1では単に「安定剤」と記載されており異なった表現になっているが、「光安定剤」も「安定剤」の一態様であるし、使用する化合物が同じである以上当然に引用組成物における化合物も光安定剤としての作用、機能を有するものであるから、この点で両者の発明に差異はない。 また、本願発明の(C)成分の「ヒンダードアミン系安定剤」は分子量が400以上であると限定されているが、引用組成物の上記(1)?(3)の化合物がいずれも400以上の分子量を有するものであることは本願明細書段落【0011】の記載からも明らかなことであり、この点でも両者に差異はない。 4.リン化合物成分 引用組成物の(C)成分の「有機ホスファイト系安定剤」については、発明の詳細な説明にはその具体的な化合物として、9、10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナンスレン-10-オキサイドが好ましい化合物として記載〔摘示記載(1-6)〕されており、この化合物は本願明細書の実施例において本願発明の(D)成分の「ジヒドロオキサフォスファフェナンスレン系リン化合物」として具体的に使用されているD-1と同じ化合物である。 してみれば使用する化合物の点で両者の発明に差異はない〔因みに、9、10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナンスレン-10-オキサイドは、本願発明の式(II)において、R3及びR4が共に水素原子の化合物に該当する。〕。 そうすると、本願発明も刊行物1に記載されている発明も「(A)高分子化合物、(B)式(I)で示されるフェノール系酸化防止剤、(C)分子量400以上のヒンダードアミン系光安定剤、(D)式(II)で示されるジヒドロオキサフォスファフェナンスレンン系リン化合物、を配合した高分子組成物」の点で一致し、次の点で一応相違する。 相違点 本願発明は「(次の………各成分)を配合して得た固体の組成物を、溶融混練することを特徴とするペレット状高分子組成物」と規定しているのに対し、刊行物1に記載されている発明ではこの点について特に明記されていない点。 この相違点について、以下に検討する。 本願発明では高分子組成物を「ペレット状」と表現しているが、そもそも本願発明は「ペレット」に係る発明ではなく、「………高分子組成物」に係る発明であり、「高分子組成物」は本来形態の定まらないものであるから、「ペレット状高分子組成物」としても、その形態を特定したことにはならず、結局、刊行物1に記載された発明と区別することができない。 してみれば、本願発明は刊行物1に記載された発明である。 また、仮に、本願発明が「ペレット状」と表現している点で、「ペレット状」にすることが明記されていない刊行物1に記載された発明と相違するとしても、一般に高分子組成物を製造するにあたり各成分を混合(ドライブレンド)した(固体の)組成物を溶融混練して予めペレット形状としこれを用いて成形加工することは、高分子組成物成形加工処理の技術分野では周知の事項〔必要ならば、「実用プラスチック用語辞典」(株)プラスチックエージ 1989年9月10日 改訂第3版発行 第480頁 「ペレット pellet」の項、「プラスチック加工技術ハンドブック」 日刊工業新聞社 1995年6月12日 発行 第338頁?第346頁 参照〕であるから、刊行物1に記載されている発明において、その後の成形加工処理に備えて高分子組成物をペレット形状としておくことは、当業者であれば必要に応じて適宜なし得ることであり、格別創意工夫を要するものではない。 また、それによる効果も予測し得る範囲内のものであって格別顕著なものではない。 してみれば、本願発明は刊行物1に記載された発明および周知事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。 VII.むすび 以上のとおりであるから、本願発明は、本出願前に頒布された刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない、または刊行物1に記載された発明および周知事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2007-02-28 |
結審通知日 | 2007-03-06 |
審決日 | 2007-03-23 |
出願番号 | 特願平7-307281 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(C08K)
P 1 8・ 113- Z (C08K) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 中川 淳子 |
特許庁審判長 |
宮坂 初男 |
特許庁審判官 |
渡辺 陽子 船岡 嘉彦 |
発明の名称 | 高分子組成物 |
代理人 | 中山 亨 |
代理人 | 久保山 隆 |
代理人 | 榎本 雅之 |