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審決分類 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C08L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C08L
管理番号 1157071
審判番号 不服2004-3092  
総通号数 90 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-06-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-02-17 
確定日 2007-05-11 
事件の表示 平成 8年特許願第110980号「難燃性電線・ケーブル」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年11月18日出願公開、特開平 9-296083〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は平成8年5月1日の出願であって、平成15年12月17日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成16年2月17日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年3月12日付けで手続補正がなされ、その後、平成16年3月12日付けの手続補正が平成18年10月16日付けで却下されるとともに、同日付けで当審による拒絶の理由が通知され、その指定期間内である同年12月22日に意見書とともに手続補正書が提出されたものである。

2.平成18年12月22日付け手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成18年12月22日付け手続補正を却下する。

[理由]
(1)補正の内容
本件補正は、補正前の特許請求の範囲、
「【請求項1】 エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸エチル共重合体および直鎖状・超低密度エチレン-α-オレフィン共重合体から選択される少なくとも一種のエチレン系樹脂(A)40?93重量%と、メルトフローレート0.5?50g/10分、密度0.86?0.91g/cm3および重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)3.0以下である、シングルサイト触媒を使用して製造された実質的に直鎖状であるエチレン-α-オレフィン共重合体(B)50?5重量%と、官能基含有化合物変性エチレン系樹脂(C)40?2重量%とからなる樹脂成分100重量部に、無機難燃剤(D)50?250重量部およびシリコーンオイル(E)0.05?10重量部を配合し、かつ架橋剤を配合しなくても優れた機械的特性を有する組成物を被覆してなる難燃性電線・ケーブル。」
を、

「【請求項1】 エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸エチル共重合体および直鎖状・超低密度エチレン-α-オレフィン共重合体から選択される少なくとも一種のエチレン系樹脂(A)40?93重量%と、メルトフローレート0.5?50g/10分、密度0.86?0.91g/cm3および重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)3.0以下である、シングルサイト触媒を使用して製造された実質的に直鎖状であるエチレン-α-オレフィン共重合体(B)50?5重量%と、官能基含有化合物変性エチレン系樹脂(C)40?2重量%とからなる樹脂成分100重量部に無機難燃剤(D)50?250重量部およびシリコーンオイル(E)0.05?10重量部を配合することを特徴とする、架橋剤の非存在下で優れた機械的特性を有する組成物を被覆してなる難燃性電線・ケーブル。」
と補正することを含むものである。

(2)補正の適否
上記補正は、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「樹脂成分100重量部に、無機難燃剤」及び「配合し、かつ架橋剤を配合しなくても優れた機械的特性を有する」を、補正により「樹脂成分100重量部に無機難燃剤」及び「配合することを特徴とする、架橋剤の非存在下で優れた機械的特性を有する」にするものであるところ、読点を削除する補正によって特許請求の範囲が減縮されるものではなく、補正前の「を配合しなくても」の語を補正後の「の非存在下で」の語にすることによって特許請求の範囲が減縮されるものでもないので、上記補正は、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮(第三十6条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)」を目的とするものではなく、補正前の請求項1の記載に誤記ないしは明りょうでない記載は見当たらないので、同3号に掲げる「誤記の訂正」ないしは同4号に掲げる「明りようでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)」を目的とするものでもなく、同1号に掲げる「請求項の削除」を目的とするものでもない。

(3)まとめ
したがって、上記補正は、特許法第17条の2第4項の規定に違反してなされたものであるから、その余のことを検討するまでもなく、特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
(1)本願発明
平成18年12月22日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成15年12月1日付けの手続補正書により補正された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである。

(2)引用文献及びその記載事項
当審による拒絶の理由に引用された本願出願前の刊行物である特開平4-270743号公報(以下、「刊行物A」という。)、及び国際公開第94/06858号パンフレット(以下、「刊行物B」という。)には、次の事項が記載されている。

記載事項a:刊行物Aの段落0018?0025
「【0018】【実施例】実施例1?5
オレフィン重合体としてエチレン-アクリル酸エチル共重合体(EEA)、エチレン-1-ブテン共重合体(EBR)、グラフト変性EBRおよびLLDPEの4成分を、難燃剤として水酸化マグネシウム、酸化亜鉛およびシリコンオイルを表1上欄に示す配合割合で6インチロールに投入してロール混練して難燃性オレフィン重合体組成物を製造した。…
【0020】 なお、表中で示した配合成分の内容は次のとおりである。
(1)重合体
EEA:
まる1MFR0.5g/10分、アクリル酸エチル含量15重量%のエチレン-アクリル酸エチル共重合体
まる2MFR0.5g/10分、アクリル酸エチル含量25重量%のエチレン-アクリル酸エチル共重合体
グラフト変性EBR:
MFR3.6g/10分、密度0.88g/cm3 エチレン-1-ブテン共重合体100重量部に無水マレイン酸0.55重量部と有機過酸化物(2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、銘柄名「ルパゾール101」)0.2重量部とを押出機内250℃にて溶融反応させて得たMFR2.5g/10分、密度0.88g/cm3、無水マレイン酸含量0.5重量%の無水マレイン酸グラフト・エチレン-1-ブテン共重合体…
LLDPE:
MFR2.0g/10分、密度0.910g/cm3のエチレン-4-メチル1-ペンテン共重合体…
【0022】【表1】
実施例
… 2 …
成分(重量部)
EEAまる1 … 30 …
EEAまる2 … 35 …
グラフト変性EBR … 20

LLDPE … 15 …
水酸化マグネシウム … 140 …
酸化亜鉛まる1 … 10

高級脂肪酸変性シリコンオイル … 3 …
【0025】【発明の効果】 本発明の難燃性重合体組成物は、高度な難燃性を達成することができ、しかも機械的特性、加工性が優れている。すなわち、本発明によれば、UL規格においてV-0のレベルに到達する難燃性オレフィン重合体組成物が容易に得られる。本発明の組成物は燃焼時に有毒性ガス、腐食性ガスや多量の煙を発生しないので、電線、ケーブルなどの被覆材料として特に好適に使用できる。」
(審決註:「まる1」及び「まる2」は、それぞれ、まるで囲まれた数字の1及び2を表す。)

記載事項b:刊行物Bの第3頁第3?11行(和訳で示す。)
「1991年9月22?27日に提示された論文では、…エクソン社のExact(商標)というポリオレフィンのポリマーが、シングルサイト触媒技術を用いて製造され、ワイヤー及びケーブルのコーティングへの応用に有用であることが報告されている。この新しいポリマーは直鎖状であり、分子量分布が狭いとされている」

記載事項c:刊行物Bの第8頁第6?7行(和訳で示す。)
「ASTM D-1238に従って測定されるメルトインデックス…(…I2)。」

記載事項d:刊行物Bの第16頁第2?5行(和訳で示す。)
「本発明に係る新規な配合物においては、過酸化物を少なめにしか用いなかったとしても、未硬化(「未処理」)の配合物及び硬化後の配合物の双方において、組成物の適正な物理的特性を維持することができる。」

記載事項e:刊行物Bの第17頁9行?第18頁7行(和訳で示す。)
「実施例6及び比較例7
実施例6は、前述の適当に拘束された幾何形状を有する触媒技術を用いて連続重合法により製造された実質的に直鎖状のエチレン-オクテン-1共重合体であって、I2が約0.63g/10分、Mw/Mnが約2、…そして、密度が約0.8697g/cm3であるものを組み込んだものである。
比較例7は、三井石油化学から販売されている直鎖状エチレン-プロペンのエラストマーのタフマー(商標)P-0680であり、密度が約0.867g/cm3、I2が約0.4g/10分、Mw/Mnが約2…であるものを組み込んだものである。
得られた未硬化及び硬化後の組成物の物理的特性を表4に示す。
表 4
┌─────────┬────┬────┬────┬────┐
│ │実施例6│比較例7│実施例6│比較例7│
│ │ 未硬化 │ 未硬化 │ 硬化物 │ 硬化物 │
├─────────┼────┼────┼────┼────┤
│引張強度(psi)│1629│ 356 │2053│1734│
│ … │ … │ … │ … │ … │
└─────────┴────┴────┴────┴────┘
このデータに示されるように、本発明の組成物は、同様なメルトインデックス、密度及びMw/Mnを有する…直鎖状のエチレン-プロペンのコポリマーを使用した組成物に比べて、優れた未硬化及び硬化後性能、特に引張強度及び弾性率を有する。」

記載事項f:刊行物Bの第19頁第22行?第20頁第4行(和訳で示す。)
「実施例10?12は、選ばれたポリマー100部、ATH(アルミナの三水和物、配合物のコスト削減及び難燃剤として用いる鉱物充填剤)130部、バルクアップ40KE(硬化剤として用いるバージェスKE粘土40%の過酸化物)7.5部、及びTAC(硬化速度及び硬化状態を強化するために用いられる有機助剤であるシアヌル酸トリアリル)1.2部からなる組成物である。」

(3)対比・判断
刊行物Aには、その実施例2として、エチレン-アクリル酸エチル共重合体(EEA)を65重量部と、無水マレイン酸グラフト・エチレン-1-ブテン共重合体(グラフト変性EBR)を20重量部と、MFR2.0g/10分、密度0.910g/cm3のエチレン-4-メチル1-ペンテン共重合体(LLDPE)を15重量部と、難燃剤(水酸化マグネシウム及び酸化亜鉛)を150重量部と、高級脂肪酸変性シリコンオイルを3重量部という配合割合で混練した、難燃性オレフィン重合体組成物が記載されており、さらに、刊行物Aには、この難燃性オレフィン重合体組成物が、高度な難燃性を達成することができ、しかも機械的特性、加工性が優れていること、並びに、この難燃性オレフィン重合体組成物が、電線、ケーブルなどの被覆材料として使用されることが記載されている(記載事項a)。

本願発明と刊行物Aに記載された発明とを比較すると、刊行物Aの「LLDPE」とは、「直鎖状の低密度ポリエチレン系樹脂」を意味する略語であり、刊行物Aの「グラフト変性EBR」は、本願発明の「官能基含有化合物変性エチレン系樹脂」に相当し、刊行物Aの「水酸化マグネシウム」と「酸化亜鉛」は、本願発明の「無機難燃剤」に相当し、刊行物Aの実施例2のものは「架橋剤」を配合せず、刊行物Aに記載される発明の「難燃性オレフィン重合体組成物」は、「機械的特性」に優れ、「電線、ケーブルなどの被覆材料として特に好適に使用」される組成物であるから、両者は、「エチレン-アクリル酸エチル共重合体であるエチレン系樹脂(A)65重量%と、メルトフローレート2.0g/10分、密度0.91g/cm3の実質的に直鎖状のエチレン-α-オレフィン共重合体(B)15重量%と、官能基含有化合物変性エチレン系樹脂(C)20重量%とからなる樹脂成分100重量部に、無機難燃剤(D)150重量部およびシリコーンオイル(E)3重量部を配合し、かつ架橋剤を配合しなくても優れた機械的特性を有する組成物を被覆してなる難燃性電線・ケーブル。」である点で一致し、直鎖状のエチレン-α-オレフィン共重合体(B)が、本願発明においては、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)3.0以下である、シングルサイト触媒を使用して製造されたものであるのに対して、刊行物A記載の発明においては、Mw/Mnのパラメータ、及び使用する触媒の詳細について特定されていない点でのみ相違する。

上記相違点について検討するに、刊行物Bには、メルトインデックスが約0.63g/10分、密度が約0.8697g/cm3、及び重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が約2である、拘束された幾何形状を有する触媒を使用して製造された実質的に直鎖状であるエチレン-オクテン-1共重合体を組み込んだ実施例6の樹脂組成物が、引張強度1629psiであり、比較例7の従来型の樹脂組成物の引張強度356psiに比べて4.58倍となること(記載事項e)、並びに、実施例10?12として、同様な触媒を使用して製造されたポリマー100部に難燃剤130部を配合して、難燃性の樹脂組成物とすることが記載されているところ(記載事項f)、刊行物Bの「メルトインデックス」は、本願発明の「メルトフローレート」と同義であり、刊行物Bの「拘束された幾何形状を有する触媒」は、本願明細書の段落0016の「シングルサイト触媒は、…適当に拘束された幾何形状を有する触媒…が好ましい。」との記載からみて、本願発明の「シングルサイト触媒」に相当し、刊行物Bの「エチレン-オクテン-1共重合体」は、本願明細書の段落0011の「α-オレフィンの具体例としては、…オクテン-1」との記載からみて、本願発明の「エチレン-α-オレフィン共重合体」に相当するものであるから、刊行物Bの「エチレン-オクテン-1共重合体」は、本願発明の「メルトフローレート0.5?50g/10分、密度0.86?0.91g/cm3および重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)3.0以下である、シングルサイト触媒を使用して製造された実質的に直鎖状である」との発明特定事項を満たす「エチレン-α-オレフィン共重合体」であり、同様な共重合体は、特表平6-509905号公報や特表平7-500622号公報などにも記載されているようにケーブル用の被覆材料として周知であるから、刊行物A記載の発明のエチレン-α-オレフィン共重合体として、刊行物Bなどに記載されている周知慣用のポリマーを採用することは、当業者にとって格別の創意工夫を要することではない。そして、その作用効果についても、格別予想外に顕著な点は見当たらない。

したがって、本願発明は、本願出願前に頒布された刊行物である刊行物A及びBに記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

なお、審判請求人は、平成18年12月22日付けの意見書において、「本願発明では、このような特殊な酸化亜鉛を用いる必要がなく」と主張しているが、本願明細書の段落0031の「本発明において使用される無機難燃剤(D)は、…酸化亜鉛…などが例示される。」との記載、並びに、本願請求項1の記載からみて、本願発明の発明特定事項である無機難燃剤は当該特殊な酸化亜鉛を除外するものとは解されず、また、同意見書において、「なお、本発明は、架橋技術に関するものでなく、非架橋の技術分野に関するものであり」とも主張しているが、本願明細書の段落0038の「本発明の難燃性電線・ケーブルに使用する樹脂組成物には…架橋のための架橋剤、…や架橋助剤を添加することにより…架橋させたりすることもできる。」との記載、並びに、本願請求項1の記載からみて、本願発明は、架橋剤を含む場合を除外するものとは解されないので、これら審判請求人の主張を採用することはできない。

(4)むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-01-24 
結審通知日 2007-02-20 
審決日 2007-03-06 
出願番号 特願平8-110980
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C08L)
P 1 8・ 572- WZ (C08L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 三谷 祥子  
特許庁審判長 脇村 善一
特許庁審判官 天野 宏樹
木村 敏康
発明の名称 難燃性電線・ケーブル  
代理人 河備 健二  

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