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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41J
管理番号 1157738
審判番号 不服2003-17969  
総通号数 91 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-07-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-09-17 
確定日 2007-05-17 
事件の表示 平成 9年特許願第 64085号「インクジェットプリンタの回復装置」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 9月22日出願公開、特開平10-250113〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成9年3月18日の出願であって、平成15年8月7日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年9月17日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年10月16日付けで明細書についての手続補正(以下、「本件補正」という。)がなされたものである。

第2 補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成15年10月16日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正後の本願発明について

本件補正により、特許請求の範囲の請求項2は
「記録媒体にインクを噴射して記録を行う記録ヘッドと、該記録ヘッドのノズル面に接離可能に接触する吸引キャップを有し該吸引キャップを通じて記録ヘッドのインクを吸引する吸引ポンプ手段と、該吸引ポンプ手段を駆動制御する制御手段とを備えるインクジェットプリンタの回復装置において、
前記吸引ポンプ手段は、ポンプハウジング内において相対移動可能な2個のピストン部材を有し、
前記制御手段は、
前記吸引キャップをノズル面に密着させて前記吸引ポンプ手段により前記記録ヘッドからインクを吸引する一つの吸引動作において、前記2つのピストン部材の間隔を、一つの最大吸引負圧に向け間欠的かつ徐々に吸引負圧が増大する周期とストローク量とで順次変化させて最終的に目標の間隔とすることを特徴とするインクジェットプリンタの回復装置。」
から、
「記録媒体にインクを噴射して記録を行う記録ヘッドと、該記録ヘッドのノズル面に接離可能に接触する吸引キャップを有し該吸引キャップを通じて記録ヘッドのインクを吸引する吸引ポンプ手段と、該吸引ポンプ手段を駆動制御する制御手段とを備えるインクジェットプリンタの回復装置において、
前記吸引ポンプ手段は、ポンプハウジング内において相対移動可能な2個のピストン部材を有し、
前記制御手段は、
前記吸引キャップをノズル面に密着させた状態で前記記録ヘッドからインクを吸引するために、前記2つのピストン部材の間のポンプ室を最小状態から所定の大きさに拡大する吸引動作、及びその拡大状態から最小状態に戻す動作を一連の動作として行い、
前記一つの吸引動作において、前記2つのピストン部材の間隔を、一つの最大吸引負圧に向け間欠的かつ徐々に吸引負圧が増大する周期とストローク量とで順次変化させて最終的に目標の間隔とすることを特徴とするインクジェットプリンタの回復装置。」
と補正された。

上記請求項2の補正は、補正前の請求項2に記載した発明特定事項である「制御手段」について「前記吸引キャップをノズル面に密着させて前記吸引ポンプ手段により前記記録ヘッドからインクを吸引する一つの吸引動作において」を「前記吸引キャップをノズル面に密着させた状態で前記記録ヘッドからインクを吸引するために、前記2つのピストン部材の間のポンプ室を最小状態から所定の大きさに拡大する吸引動作、及びその拡大状態から最小状態に戻す動作を一連の動作として行い、 前記一つの吸引動作において、」と限定するものと認められるから、特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項2に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成6年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2.引用発明の認定
(1)原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前である平成8年3月19日に頒布された「特開平8-72266号公報」(以下、「引用例1」という。)には、次の事項が図面と共に記載されている。

ア.段落【0031】
「インク噴射ヘッド14は、図示しない多数個のインク流路と、それらインク流路に対応して設けられた多数個のノズルを含むものである。インク流路には、フレーム12に固定され、あるいはキャリッジ16に載置された図示しないインク供給装置からインクが供給される。・・・。インクは、プラテン10とインク噴射ヘッド14との間に供給される記録用紙32に、キャリッジ16の移動に伴って噴射され、それにより1行分の画像が形成される。」

イ.段落【0032】-【0033】
「非記録位置にあるインク噴射ヘッド14に対向する位置にはキャップ装置34が設けられている。キャップ装置34はプラテン10の一端の側方に設けられており、インク噴射ヘッド14に対向する位置にキャップゴム36を備えている。キャップゴム36の中央部には、幅1.5mm×長さ20mm×深さ1mmの大きさの窪み37が形成されている。この窪み37を囲むキャップゴム36の先端面が、インク噴射ヘッド14の先端面のノズル列を囲む部分に密着することによって、ノズル列が気密に覆われる。以下、単に、ノズルが覆われると称することにする。また、窪み37の底面には孔が形成されており、キャップ装置34の本体に形成された図示しないインク通路に接続されている。インク通路は、吸引ポンプ38に吸引チューブ40によって接続されている。
キャップ装置34は、矢印E方向に移動可能とされている。常には、後方の退避位置にあるが、記録終了後にインク噴射ヘッド14が記録終了位置から非記録位置に移動させられると、それに連動して前進させられるようになっている。」

ウ.段落【0036】
「吸引ポンプ38は、図2に示すように、駆動装置54と共に駆動装置付吸引ポンプ56を構成しており、この駆動装置付吸引ポンプ56が前記キャップ装置34,キャップ装置34を進退させるキャップ装置移動装置および吸引チューブ40等と共に吸引装置58を構成している。吸引ポンプ38は、軸方向に真っ直ぐに延びた円筒状の本体60と、その本体60の内部に本体60に対して軸方向に相対移動可能に嵌合された一対の可動部材としてのピストン62,64とを備えている。本実施例においては、本体60が固定され、ピストン62,64が移動させられることによって、ピストン62,64と本体60とが相対移動させられるようになっている。」

エ.段落【0040】
「ピストン62がフランジ92,93間に嵌合された状態においては、ピストン62の溝98より内周側の部分が、軸方向に圧縮され、フランジ92,93に弾性的に当接させられることになる。なお、ピストン62は、駆動軸70の2個のフランジ92,93に挟まれた状態となるため、駆動軸70に対して軸方向に移動不能となる。

オ.段落【0045】-【0046】
「駆動装置54は、上述の駆動軸70,72、カムフォロワ86,102、カム溝90,104が形成されたカム88および駆動源としての電動モータであるポンプ駆動モータ130等を備えている。カム88がカム軸回りにポンプ駆動モータ130の駆動により回転させられると、カムフォロワ86,102と駆動軸70,72とがカム溝90,104の作用により駆動軸70,72の軸方向に移動させられ、これら駆動軸70,72と共にピストン62,64が移動させられるのである。カム溝90,104は、ピストン62,64が後述するように移動させられるように形成されている。カム溝90,104が形成されたカム88は、電動モータ130の回転を軸方向の直線運動に変換する運動変換機能と、ピストン62,60の移動速度を決定する速度決定機能との両方を備えることになる。 上記ポンプ駆動モータ130と、前記キャリッジ駆動モータ28およびワイパ駆動モータ46とは、当該インクジェット記録装置の制御装置30により駆動回路を介して制御される。制御装置30は、CPU132,RAM133,ROM134,入力部135,出力部136等を備えたものであり、インクジェット記録装置全体の作動を制御するものであるが、図3には、吸引ポンプ38の作動に関連する部分のみが記載されている。」

カ.段落【0050】-【0051】
「インク噴射ヘッド14が非記録位置にあり、ノズルがキャップゴム36によって覆われた状態にある間に、吸引スイッチ140が操作されれば、吸引作動プログラムが実行され、ポンプ駆動モータ130が制御される。本実施例においては、ポンプ駆動モータ130は、吸引、吐出が1回行われる間駆動されるようになっている。一方、吸引スイッチ141が操作されれば、吸引,吐出が複数回行われるようになっている。
吸引スイッチ140,141は、インク噴射不良が生じた場合,メンテナンスを行う場合等インクを吸引する必要がある場合に操作されるスイッチである。吸引スイッチ141は、吸引スイッチ140の操作による吸引では、インク噴射不良が直らなかった場合,インク供給装置のインクカートリッジが交換された場合等インクを多量に吸引する必要がある場合に操作される。ノズルに気泡,塵等が溜まることが原因で噴射不良が生じた場合には、通常、吸引スイッチ140が操作される。」

キ.段落【0051】-【0057】
「以下、駆動装置付吸引ポンプ56の作動について説明する。
駆動装置付吸引ポンプ56の吸引ポンプ38において、通常は、ピストン62,64は、図4の(A)に示す位置にある。ピストン62が吸入口66より図における左側にあり、ピストン64がフランジ93に当接する位置にある。また、吐出口68はピストン64の外周面(厳密には大径部110,112)によって塞がれている。
ポンプ駆動モータ130の作動によりカム88が回転させられる。(B)に示すように、ピストン64のみが右方へ移動させられ、ピストン62は静止したままに保たれてポンプ室69の容積が増大させられる。ポンプ室69が負圧になり、ノズル内のインクが吸引され、吸入口66からポンプ室69に吸入される。厳密にいえば、インクは、キャップゴム36の窪み37内の空気が吸入された後に吸入される。ピストン64の右方への移動に伴って、ポンプ室69の容積が増大させられる間、インクの吸入が継続される。
ポンプ室69の容積が(C)に示す大きさになると、ピストン62がピストン64と共に同じ速度で右方へ移動させられる。ポンプ室69の容積が一定に保たれたままでピストン62,64が移動させられるのである。この間においても、ポンプ室69が大気圧になるまでインクは吸引され、吸入口66からポンプ室69に流入する。ピストン62,64の移動速度が非常に遅い場合には、ポンプ室69の容積の増大に伴う吸入口66からのインクおよび空気の流入によって、ポンプ室69の圧力を常に大気圧に保つことも可能であるが、本実施例においては、ピストン62,64がポンプ室69の圧力がインク等の流入により大気圧に戻るより早く移動させられる。そのため、ポンプ室69が、容積の増加に伴って負圧にされ、ポンプ室69の容積が一定に保たれている間においても、インクが吸引され、吸入口66からポンプ室69に流入するのである。
(D)に示すように、吐出口68が開放され、吸入口66が塞がれると、ピストン64の移動が停止させられ、ピストン62のみが右方へ移動させられる。ポンプ室69の容積が減少させられ、それに伴ってポンプ室69に吸入されたインクが吐出口68から吐出される。インクは、吐出チューブ48を経て廃インクタンク52に排出される。
本実施例においては、吸入口66が開放されている間は、ポンプ室69の容積が一定に保たれ、吸入口66が塞がれて吐出口68が開放された後、容積が減少させられる。そのため、吸入口66からインクが逆流することが回避される。本実施例の駆動装置付吸引ポンプ56においては、一対のピストン62,64が設けられ、かつ、ピストン62,64が各々別個に移動させられるため、ピストン62,64間に形成されるポンプ室69の容積をインクが逆流しないように変化させることができるのである。
また、ピストン62は、(E)に示すように、フランジ93が吐出口68の右縁にあるピストン64に当接するまで移動させられる。この場合には、ポンプ室69の容積はフランジ93の外周に形成される環状の空間に対応する大きさとなり、非常に小さい。このように、ポンプ室69の容積を非常に小さくできるのは、吸引ポンプ38が2個のピストン62,64を備えており、吐出口68近傍でこれらを当接させることができるからである。なお、フランジ93の外径をハウジング60の内径とほぼ同じにすれば、吐出終了時のポンプ室69の容積を殆ど0にすることができ、理論的には0にすることが可能である。以上の作動の後、(F)に示すように、ピストン62,64は共に左方へ移動させられ、(A)に示す状態に戻される。」

上記記載キの駆動装置付吸引ポンプにおけるピストン62、64の動作が、記載オにおける制御装置30によるものであることは明らかである。また、インクジェット記録装置におけるインクの吸引がインクジェット記録装置の回復といえることは常識であるから、駆動装置付き吸引ポンプをはじめとするインク吸引機構を有する引用例1記載のインクジェット記録装置はインクジェット記録装置の回復装置ということができる。
してみれば、以上の記載ア?カを含む引用例1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「記録用紙32にインクを噴射して記録を行うインク噴射ヘッド14と、該インク噴射ヘッド14の先端面のノズル列を囲む部分に進退移動可能に密着するキャップゴム36を有し該キャップゴム36を通じてインク噴射ヘッドのインクを吸引する吸引装置58と、該吸引装置58を駆動制御する制御装置30とを備えるインクジェット記録装置の回復装置において、
前記吸引装置58は、本体60内において相対移動可能な一対のピストン62,64を有し、
前記制御装置30は、
前記キャップゴム36をインク噴射ヘッド14の先端面のノズル列を囲む部分に密着させた状態で前記インク噴射ヘッド14からインクを吸引するために、前記一対のピストン62,64の間のポンプ室69がピストン64がピストン62のフランジ93に当接する状態から一定の容積に拡大する吸引動作、及びその拡大状態からピストン64がピストン62のフランジ93に当接する状態に戻す動作を一連の動作として行うインクジェット記録装置の回復装置。」

(2)原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前である平成6年12月6日に頒布された「特開平6-336034号公報」(以下、「引用例2」という。)には、次の事項が図面と共に記載されている。

ク.段落【0019】-【0021】
「この実施例において、インクタンク3を、キャリッジ30にセットしてレバー33を下げると、中空針9がインクタンク3の連通管43に陥入する。この状態でヘッドユニット1にキャップ部材4を装着して、ポンプ5を作動させると、ポンプ5の吸引力がキャップ部材4を介してノズル開口27、27、27‥‥に作用する。この負圧は第1のインク供給路45、フィルタ部材51、第2のインク供給路47、中空針9を介してインクタンク3に作用してフォームに吸収されているインクがこれら流路に流れ込む。所定時間、例えば0.1乃至1秒が経過した段階でポンプを一時停止させて、吸引動作を停止する。所定時間、例えば0.1乃至1秒が経過した段階で再びポンプ5を作動させてフォーム11からインクを吸い出す。
このようにポンプ5を間欠駆動することにより、インク供給路を流れるインクの速度がV1、例えば1mm/秒以下で、しかも流量が0.01cc/秒以下と極めて低い値に抑えられるため、整流となってフィルタ部材51を通過することになり、フィルタ部材51のメッシュによる泡立ちが防止される。なお、この際に気泡が発生したとしても、気泡F(図9(イ))は、フィルタ部材51のメッシュで砕かれながらこれを通過し(同図(ロ))、細かい気泡f、f、f‥‥となってインク供給路47(同図(ハ))からヘッドユニット1に流れ込む。
このような吸引動作を間欠的に複数回実行することにより、泡立ちを可及的に防止しながらインクタンク3からヘッドユニット1に至る流路にインクを充填する。このようにしてインクタンク3からヘッドユニット1の全ての流路にインクが流れ込んだ段階で、ポンプ5を連続的に2乃至10秒間、つまりインクの流速がV2、具体的には約0.2cc/秒の高流速での吸引を継続させると、インクは速度V2の高速流となってタンク3からヘッドユニット1に流れ、ヘッドユニット1に流れ込んでいた小さな気泡やまた流路の壁面に付着している気泡を、その高速流により記録ヘッド1側に流し、ノズル開口27からキャップ部材4に排出させる。この高速流によりインクを充填しても、インクタンク3からノズル開口に至る流路には既にインクが充填されているため、泡立ちを生じることはない。」

3.本願補正発明と引用発明との対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。

引用発明の「記録用紙32」、「インク噴射ヘッド14」、「インク噴射ヘッドの先端面のノズル列を囲む部分」、「キャップゴム36」、「吸引装置58」、「制御装置30」、「インクジェット記録装置」、「本体60」、「ピストン62,64」、「ピストン64がピストン62のフランジ93に当接する状態」は、それぞれ、本願補正発明の「記録媒体」、「記録ヘッド」、「ノズル面」、「吸引キャップ」、「吸引ポンプ手段」、「制御手段」、「インクジェットプリンタ」、「ポンプハウジング」、「ピストン部材」、「最小状態」に相当する。
そうすると、両者の一致点及び相違点は、以下のとおりものと認められる。

<一致点>
「記録媒体にインクを噴射して記録を行う記録ヘッドと、該記録ヘッドのノズル面に接離可能に接触する吸引キャップを有し該吸引キャップを通じて記録ヘッドのインクを吸引する吸引ポンプ手段と、該吸引ポンプ手段を駆動制御する制御手段とを備えるインクジェットプリンタの回復装置において、
前記吸引ポンプ手段は、ポンプハウジング内において相対移動可能な2個のピストン部材を有し、
前記制御手段は、
前記吸引キャップをノズル面に密着させた状態で前記記録ヘッドからインクを吸引するために、前記2つのピストン部材の間のポンプ室を最小状態から所定の大きさに拡大する吸引動作、及びその拡大状態から最小状態に戻す動作を一連の動作として行うインクジェットプリンタの回復装置。」

<相違点A>
本願補正発明では、制御手段が「前記一つの吸引動作において、前記2つのピストン部材の間隔を、一つの最大吸引負圧に向け間欠的かつ徐々に吸引負圧が増大する周期とストローク量とで順次変化させて最終的に目標の間隔とする」との特定を有するのに対し、引用発明にはそのような特定がない点。

4.相違点の判断
上記相違点Aについて検討する。

上記相違点Aには「前記一つの吸引動作」との記載があるが、本願補正発明においては「一つの吸引動作」との文言がそれより前には記載されていないことから、「前記一つの吸引動作において、前記2つのピストン部材の間隔を、一つの最大吸引負圧に向け間欠的かつ徐々に吸引負圧が増大する周期とストローク量とで順次変化させて最終的に目標の間隔とする」の意味が必ずしも明確とはいえないが、これは「2つのピストン部材の間のポンプ室を最小状態から所定の大きさに拡大する吸引動作」において、少なくとも「前記2つのピストン部材の間隔を、一つの最大吸引負圧に向け間欠的かつ徐々に吸引負圧が増大する周期とストローク量とで順次変化させて最終的に目標の間隔とする」という構成を有すればよいものと理解される(なお、この点については、請求人が平成18年7月6日付けで提出した当審からの審尋に対する回答書において「(1)請求項2について、「一つの」と記載がある以上・・・・複数の態様が存在することを前提とし・・・(請求項に記載の構成)でない吸引動作を排除するものではないものと認められる」とのご指摘であります。 ご指摘のとおり、請求項2に記載の構成は、その構成ではない吸引動作を排除することを意図するものではありません。 一般に、請求項の記載は、その構成のみからなることを意図したことが明確な場合を除いて、「少なくとも」その構成を含むことを意図して書いております。 請求項2に記載の発明は、「2つのピストン部材の間のポンプ室を最小状態から所定の大きさに拡大する」という吸引動作において、その一つの吸引動作を請求項2の後段に記載のようにしたものであり、請求項2の後段の記載は、その構成ではない吸引動作を排除するものではありません。」(1頁16?26行。改行は省略した。)と回答しており、上記理解は回答書の趣旨に沿うものである。)。

これを踏まえて検討を進めると、引用例2には、インクタンク3をキャリッジ30にセットし、ヘッドユニット1にキャップ部材4を装着してポンプ5を作動させると、ポンプ5の吸引力がキャップ部材4を介してノズル開口27に作用するが、このときの吸引動作は、インクの泡立ちが生じないように、所定時間(例えば0.1乃至1秒)が経過した段階で、所定時間(例えば0.1乃至1秒)ポンプを停止させるといったことを複数回繰り返す、間欠的な吸引動作を有するものであることが記載されている。(引用例2の記載ク参照)。
ところで、引用例1には「インク流路には、・・・キャリッジ16に載置された図示しないインク供給装置からインクが供給される。」(引用例1の記載ア参照)、「インク供給装置のインクカートリッジが交換された場合」(引用例1の上記記載カ参照)との記載があることから、インクカートリッジ(インクタンク)をキャリッジに交換可能にセットすることが把握でき、そうすると、2つのピストン部材を利用する引用発明においても、引用例2記載のように、インクタンクセット時に泡立ちが生じないよう、間欠的な吸引動作を行うことは当業者が容易に考え付くことである。
ここで、引用発明は2つのピストン部材を相対的に移動させるものであるから、この2つのピストン部材を間欠的に移動させる以上、2つのピストン部材の間隔が所定の周期とストローク量とで順次変化することは自明であって、さらに、2つのピストン部材の間隔を変化させるにあたり、それの最終的な目標の間隔が存在するのは当然であるから、引用発明及び引用例1並びに引用例2の記載から、「2つのピストン部材の間のポンプ室を最小状態から所定の大きさに拡大する吸引動作において、2つのピストン部材の間隔を、間欠的に所定の周期とストローク量とで順次変化させて最終的に目標の間隔とする」との構成が導ける。

そうすると、上記相違点において更に検討すべきは、2つのピストン部材の間隔を変化させる際の吸引負圧についてである。
2つのピストン部材の間隔を間欠的に所定の周期とストローク量とで順次変化させていくときに、吸引時間を短くかつ吸引停止時間を長くしたりピストン部材の移動速度を遅くしたりして、吸引負圧をそれ程上げないようにすれば、確かにインクの泡立ちを極力抑えることが可能となることが理解できるものの、引用例1の記載カにあるように、インクカートリッジ交換時等は、吸引,吐出を複数回繰り返してインクを多量に吸引する必要があるのだから、吸引動作の全時間を短くすることも当然に要求されるのであって、当業者であれば、インクの吸引にかかる時間とインクの泡立ちとのバランスを考慮して、適宜好適なインク吸引態様を選択し得るものと解される。
そして、2つのピストン部材による間欠的なインク吸引動作において、2つのピストン部材の間のポンプ室が大気圧に戻る前に次の吸引を始めること、言い換えれば、2つのピストン部材の間隔を、一つの最大吸引負圧に向け徐々に吸引負圧が増大する周期とストローク量とで順次変化させることは、インク吸引にかかる時間を短くしようとすればごく普通に採り得るインク吸引態様であるから、これを採用することに何ら困難性は認められない。
すなわち、上記相違点Aに係る本願補正発明の構成を想到することは、引用発明及び引用例2記載の発明に基づき当業者が容易になし得ることである。

そして、上記相違点Aに係る構成を採用したことにより、格別の作用効果が奏されるとも認めることはできない。
したがって、本願補正発明は、引用発明及び引用例2記載の発明に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.まとめ
以上のとおり、本願補正発明は、引用発明及び引用例2記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

[補正の却下の決定のむすび]
本件補正は、平成6年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、補正の却下の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について

1.本願発明の認定
本件補正が却下されたから、本願の請求項2に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成14年7月22日付け手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項2に記載された事項によって特定される次のとおりのものと認める。

「記録媒体にインクを噴射して記録を行う記録ヘッドと、該記録ヘッドのノズル面に接離可能に接触する吸引キャップを有し該吸引キャップを通じて記録ヘッドのインクを吸引する吸引ポンプ手段と、該吸引ポンプ手段を駆動制御する制御手段とを備えるインクジェットプリンタの回復装置において、
前記吸引ポンプ手段は、ポンプハウジング内において相対移動可能な2個のピストン部材を有し、
前記制御手段は、
前記吸引キャップをノズル面に密着させて前記吸引ポンプ手段により前記記録ヘッドからインクを吸引する一つの吸引動作において、前記2つのピストン部材の間隔を、一つの最大吸引負圧に向け間欠的かつ徐々に吸引負圧が増大する周期とストローク量とで順次変化させて最終的に目標の間隔とすることを特徴とするインクジェットプリンタの回復装置。」

2.引用発明の認定
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物、その記載事項及び引用発明は、前記第2の2.に記載したとおりである。

3.本願発明と引用発明との対比
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「記録用紙32」、「インク噴射ヘッド14」、「インク噴射ヘッドの先端面のノズル列を囲む部分」、「キャップゴム36」、「吸引装置58」、「制御装置30」、「インクジェット記録装置」、「本体60」、「ピストン62,64」は、それぞれ、本願発明の「記録媒体」、「記録ヘッド」、「ノズル面」、「吸引キャップ」、「吸引ポンプ手段」、「制御手段」、「インクジェットプリンタ」、「ポンプハウジング」、「ピストン部材」に相当する。
また、引用発明の
「前記制御装置30は、
前記キャップゴム36をインク噴射ヘッド14の先端面のノズル列を囲む部分に密着させた状態で前記インク噴射ヘッド14からインクを吸引するために、前記一対のピストン62,64の間のポンプ室69がピストン64がピストン62のフランジ93に当接する状態から一定の容積に拡大する吸引動作、及びその拡大状態からピストン64がピストン62のフランジ93に当接する状態に戻す動作を一連の動作として行う」
と、本願発明の
「前記制御手段は、
前記吸引キャップをノズル面に密着させて前記吸引ポンプ手段により前記記録ヘッドからインクを吸引する一つの吸引動作において、前記2つのピストン部材の間隔を、一つの最大吸引負圧に向け間欠的かつ徐々に吸引負圧が増大する周期とストローク量とで順次変化させて最終的に目標の間隔とする」
とは、
「前記制御手段は、
前記吸引キャップをノズル面に密着させて前記吸引ポンプ手段により前記記録ヘッドからインクを吸引する一つの吸引動作において、前記2つのピストン部材の間隔を変化させるものである」点で共通する。

よって、両者の一致点及び相違点は、以下のとおりものと認められる。

<一致点>
「記録媒体にインクを噴射して記録を行う記録ヘッドと、該記録ヘッドのノズル面に接離可能に接触する吸引キャップを有し該吸引キャップを通じて記録ヘッドのインクを吸引する吸引ポンプ手段と、該吸引ポンプ手段を駆動制御する制御手段とを備えるインクジェットプリンタの回復装置において、
前記吸引ポンプ手段は、ポンプハウジング内において相対移動可能な2個のピストン部材を有し、
前記制御手段は、
前記吸引キャップをノズル面に密着させて前記吸引ポンプ手段により前記記録ヘッドからインクを吸引する一つの吸引動作において、前記2つのピストン部材の間隔を変化させるものであるインクジェットプリンタの回復装置。」

<相違点B>
本願発明では、制御手段がなす一つの吸引動作における2つのピストン部材の間隔の変化が、「前記2つのピストン部材の間隔を、一つの最大吸引負圧に向け間欠的かつ徐々に吸引負圧が増大する周期とストローク量とで順次変化させて最終的に目標の間隔とする」ものであるのに対して、引用発明では、そのような特定がない点。

4.相違点の検討

引用例2には、インクタンク3をキャリッジ30にセットし、ヘッドユニット1にキャップ部材4を装着してポンプ5を作動させると、ポンプ5の吸引力がキャップ部材4を介してノズル開口27に作用するが、このときの吸引動作は、インクの泡立ちが生じないように、所定時間(例えば0.1乃至1秒)が経過した段階で、所定時間(例えば0.1乃至1秒)ポンプを停止させるといったことを複数回繰り返す、間欠的な吸引動作を有するものであることが記載されている。(引用例2の記載ク参照)。
ところで、引用例1には「インク流路には、・・・キャリッジ16に載置された図示しないインク供給装置からインクが供給される。」(引用例1の記載ア参照)、「インク供給装置のインクカートリッジが交換された場合」(引用例1の上記記載カ参照)との記載があることから、インクカートリッジ(インクタンク)をキャリッジに交換可能にセットすることが把握でき、そうすると、2つのピストン部材を利用する引用発明においても、引用例2記載のように、インクタンクセット時に泡立ちが生じないよう、間欠的な吸引動作を行うことは当業者が容易に考え付くことである。
ここで、引用発明は2つのピストン部材を相対的に移動させるものであるから、この2つのピストン部材を間欠的に移動させる以上、2つのピストン部材の間隔が所定の周期とストローク量とで順次変化することは自明であって、さらに、2つのピストン部材の間隔を変化させるにあたり、それの最終的な目標の間隔が存在するのは当然であるから、引用発明及び引用例1並びに引用例2の記載から、「2つのピストン部材の間隔を、間欠的に所定の周期とストローク量とで順次変化させて最終的に目標の間隔とする」との構成が導ける。

そうすると、上記相違点Bにおいて更に検討すべきは、2つのピストン部材の間隔を変化させる際の吸引負圧についてである。
2つのピストン部材の間隔を間欠的に所定の周期とストローク量とで順次変化させていくときに、吸引時間を短くかつ吸引停止時間を長くしたりピストン部材の移動速度を遅くしたりして、吸引負圧をそれ程上げないようにすれば、確かにインクの泡立ちを極力抑えることが可能となることが理解できるものの、引用例1の記載カにあるように、インクカートリッジ交換時等は、吸引,吐出を複数回繰り返してインクを多量に吸引する必要があるのだから、吸引動作の全時間を短くすることも当然に要求されるのであって、当業者であれば、インクの吸引にかかる時間とインクの泡立ちとのバランスを考慮して、適宜好適なインク吸引態様を選択し得るものと解される。
そして、2つのピストン部材による間欠的なインク吸引動作において、2つのピストン部材の間のポンプ室が大気圧に戻る前に次の吸引を始めること、言い換えれば、2つのピストン部材の間隔を、一つの最大吸引負圧に向け徐々に吸引負圧が増大する周期とストローク量とで順次変化させることは、インク吸引にかかる時間を短くしようとすればごく普通に採り得るインク吸引態様であるから、これを採用することに何ら困難性は認められない。
すなわち、上記相違点Bに係る本願発明の構成を想到することは、引用発明及び引用例2記載の発明に基づき当業者が容易になし得ることである。

そして、上記相違点Bに係る構成を採用したことにより、格別の作用効果が奏されるとも認めることはできない。
したがって、本願発明は、引用発明及び引用例2記載の発明に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.まとめ
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び引用例2記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび
本件補正は却下されなければならず、本願発明が特許を受けることができない以上、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶を免れない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-03-15 
結審通知日 2007-03-20 
審決日 2007-04-03 
出願番号 特願平9-64085
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 後藤 時男大元 修二  
特許庁審判長 津田 俊明
特許庁審判官 國田 正久
長島 和子
発明の名称 インクジェットプリンタの回復装置  

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