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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G03G
管理番号 1157914
審判番号 不服2005-2791  
総通号数 91 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-07-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-02-17 
確定日 2007-05-16 
事件の表示 平成 7年特許願第339108号「静電荷潜像現像用トナー、現像剤及び画像形成方法」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年 7月11日出願公開、特開平 9-179331〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成7年12月26日の出願であって、その請求項1ないし9に係る発明は、特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は次のとおりである。
「【請求項1】 形状係数が1.01?1.50の範囲であり、かつその標準偏差が0.1以下であることを特徴とする静電荷潜像現像用トナー。」

2.刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された特開平6-148926号公報(以下「刊行物」という。)には以下の事項が記載されている。
(a)「【請求項1】 ブレードを備えたクリーニング装置によって像形成体上の転写残留トナーを除去する工程を含む画像形成方法において、
この画像形成方法に用いる現像剤を構成するトナーが下記の条件を満たすことを特徴とする画像形成方法。
<条件> 形状係数Sを、S=(周長)2 /(面積×4π)×100と定義するときに、
(1) S<116となるトナー粒子のトナー粒子全体に対する個数比率Aが30%以下であること
(2) S>145となるトナー粒子のトナー粒子全体に対する個数比率Bが30%以下であること
(3) 個数比率Aと個数比率Bとの合計が40%以下であること」(特許請求の範囲)
(b)「【0003】
【発明が解決しようとする課題】(1)クリーニング不良
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
一方、このようなクリーニング不良の問題を解決するため、トナー粒子の歪係数〔(最大長)2 ×π/(面積×4)×100〕の平均値およびトナー粒子の凹凸係数〔(周長)2 /(面積×4π)×100〕の平均値が、それぞれ特定の範囲にあるトナーを用いる技術が紹介されている(特開昭61-279864号公報参照)。しかしながら、本発明者らが検討したところ、凹凸係数の小さいトナー粒子が一定の割合で存在している場合には、トナー粒子の凹凸係数や歪係数の平均値がある程度大きくてもクリーニング不良の発生を十分に防止できないことが確認された。
【0004】(2)選択現象
上述のように、凹凸度の大きいトナーを用いることはクリーニング性の向上を図る観点からは好ましい。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
本発明者らが検討したところ、凹凸係数の大きいトナー粒子が一定の割合で存在している場合には、トナー粒子の凹凸係数や歪係数の平均値がある程度小さくても、選択現像による画像濃度の低下を十分に防止することができないことが確認された。
【0005】(3)画像不良
特開昭61-279864号公報に記載されている技術、すなわち、使用するトナー粒子の歪係数および凹凸係数について、各々の平均値を考慮する技術において、これらの係数が過大である粒子または過小である粒子が含有されている場合には、上記クリーニング不良の問題および選択現像の問題を解決できないばかりか、トナー粒子の帯電分布が広くなり過ぎて、形成される画像にカブリ等の画像不良を発生させる。」
(c)「【0008】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、クリーニング不良を招きやすい粒子形状および選択現像を招きやすい粒子形状について、それぞれ個別に検討し、かつ、トナー粒子全体の平均的な形状ではなくて粒子形状の分布状態に着目した結果、特定の形状係数(凹凸係数)を有する粒子のトナー粒子全体に対する個数比率を制御することにより、クリーニング不良、選択現像を発生させず、カブリ等の画像不良のない高画質の画像が得られることを見出し、斯かる検知に基いて本発明を完成するに至った。」
(d)「【0014】(3)本発明においては、S<116となる粒子の個数比率Aと、S>145となる粒子の個数比率Bとの合計(A+B)が40個数%以下であるので、クリーニング不良の発生防止および選択現像の防止という両目的をバランスよく満足するとともに、トナー粒子の帯電分布がシャープとなり、形成される画像にカブリ等の画像不良を発生させない。」
(e)「【0040】
【実施例】以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下において「部」は重量部を表す。
【0041】〔トナーの製造〕
(1)トナー1
水100部と、ポリオキシエチレンアルキルエーテル1部と、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム1.5部と、過硫酸カリウム0.5部との水溶液混合物に、スチレン60部と、アクリル酸ブチル40部と、アクリル酸8部とからなるモノマー混合物(重合性組成物)を添加し、撹拌下70℃で8時間重合させて固形分濃度50%の1次粒子のエマルジョンを得た。 前記1次粒子のエマルジョン120部と、ニグロシン5部と、顔料(カーボンブラック)4部と、水380部との混合物をスラッシャーで分散撹拌しながら約30℃で2時間保持した。その後、さらに撹拌しながら70℃に加温して3時間保持した。この間顕微鏡で観察して、1次粒子が会合して2次粒子が得られるのが確認された。その後、冷却して、得られた液状分散物をブフナー濾過、水洗し、50℃で10時間にわたり真空乾燥を行い、トナー1を得た。
【0042】(2)比較トナー1
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
【0043】〔形状係数Sの測定〕上記のようにして得られたトナー1・・・周長、面積を測定して形状係数Sを求めた。これらのトナーの平均粒径および形状係数Sの個数比率を表1に示す。
【0044】
【表1】
《 表1は省略 》
(表1には、トナー1の形状係数Sの個数比率について、「S<116」が6個数%、「S>145」が12個数%、「S<116」と「S>145」の合計が18数%と記載されている。)」

3.対比・判断
刊行物には、「<条件> 形状係数Sを、S=(周長)2 /(面積×4π)×100と定義するときに、
(1) S<116となるトナー粒子のトナー粒子全体に対する個数比率Aが30%以下であること
(2) S>145となるトナー粒子のトナー粒子全体に対する個数比率Bが30%以下であること
(3) 個数比率Aと個数比率Bとの合計が40%以下であること
の条件を満たすトナー」の発明〔(a),(b)〕が記載されている。
本願発明と刊行物に記載の発明とを対比すると、両者は、形状係数が特定された静電荷潜像現像用トナーである点で一致し、下記の点で相違する。
相違点
形状係数が、本願発明では、1.01?1.50の範囲でであり、かつその標準偏差が0.1以下あるのに対して、刊行物に記載された発明では、「形状係数S=(周長)2 /(面積×4π)×100」と定義して、下記の(1)?(3)の条件を満たすものである点。
(1) S<116となるトナー粒子のトナー粒子全体に対する個数比率Aが30%以下であること
(2) S>145となるトナー粒子のトナー粒子全体に対する個数比率Bが30%以下であること
(3) 個数比率Aと個数比率Bとの合計が40%以下であること

上記相違点について検討する。
まず、本願発明の「形状係数」と刊行物に記載の発明の「形状係数S」の関係について検討する。
本願発明の形状係数は、
形状係数=(周囲長)/(円相当周長)=L/(2π√A/π)
(ここにおいて、Lは周囲長、Aは粒子の投影面積を表す。なお、「√A/π」は「A1/2/π」ではなく、「(A/π)1/2」の意味であることは、(2π√A/π)が円相当周長であることから明らかである。本願明細書【0018】、【0019】)と定義される。
ここで、トナーを真球と仮定すると、周囲長=円相当周長となるので、
形状係数=(周囲長)/(円相当周長)=1 である。
このように、トナーが真球であると形状係数は1となり、本願発明の形状係数が1.01?1.50の範囲であることは、トナーの表面に凹凸があることを意味している。
一方、刊行物に記載の発明の形状係数Sは、
S=(周長)2 /(面積×4π)×100 で定義されるトナー粒子の凹凸を表す凹凸係数〔(a),(b)〕である。
ここで、刊行物に記載の発明における「周長」、「面積」は、本願発明における「周囲長」、「粒子の投影面積」に相当するから、以後「周囲長」、「粒子の投影面積」と表現する。
トナーを半径rの真球と仮定すると、分母の(粒子の投影面積×4π)は、
(粒子の投影面積×4π)=(πr2×4π)=4π2r2= (2πr)2 と変形でき、2πrは円相当周長であるので、
S=(周囲長)2 /(粒子の投影面積×4π)×100=(周囲長)2/(円相当周長)2×100=〔(周囲長)/(円相当周長)〕2×100 となる。
したがって、本願発明の形状係数(周囲長)/(円相当周長)は、刊行物に記載の形状係数Sの(S/100)1/2の値であることになる。
さらに、本願発明の形状係数はトナー粒子の個々の形状係数の算術平均を示したもの(本願明細書【0020】)であり、刊行物に記載の発明の形状係数はSはトナー粒子個々の形状係数であること〔(c)〕は明らかである。
次に、刊行物に記載の発明のトナーが、本願発明で規定する形状係数の範囲内のものであるか検討する。
刊行物に記載の発明の唯一の実施例として、〔トナーの製造〕、〔形状係数Sの測定〕には、形状係数Sの個数比率について、「S<116」が6個数%、「S>145」が12個数%、「S<116」と「S>145」の合計が18数%であるトナー1〔(e)〕が記載されている。
該トナー1の形状係数Sが「S<116」の116、「S>145」の145は、本願発明の形状係数に換算すると、それぞれ約1.08、約1.20に相当するので、「S<116」が6個数%、「S>145」が12個数%ということは、本願発明の形状係数では約1.08以下が6個数%、約1.20以上が12個数%ということになり、残り82個数%が約1.08?約1.20の範囲にあることになるから、トナー1全体の形状係数の算術平均は約1.08?約1.20の範囲であるといえる。
そうすると、刊行物に記載の発明のトナーが、本願発明で規定する「形状係数が1.01?1.50の範囲」内のものを含むことは明らかである。
また、本願発明において、標準偏差を0.1以下とするのは、弱帯電性トナーの発生を防止するため(本願明細書【0022】;なお、「弱帯電性トナーの抑制」と記載されているが、これは【0003】、【0004】の記載からみて、「抑制」は「発生」を誤記したものと認められる。)であるが、標準偏差は粒子形状の分布が狭いか広いかの尺度であり、それを0.1以下とすることは、粒子形状の分布を所定値よりも狭くすることである。
一方、刊行物には、トナー粒子全体の平均的な形状ではなくて粒子形状の分布状態に着目して、特定の形状係数(凹凸係数)を有する粒子のトナー粒子全体に対する個数比率を、S<116となる粒子の個数比率Aと、S>145となる粒子の個数比率Bとの合計(A+B)が40個数%以下というように制御すると、トナー粒子の帯電分布がシャープとなり、形成される画像にカブリ等の画像不良を発生させないこと〔(c),(d)〕が記載されている。
この「S<116となる粒子の個数比率Aと、S>145となる粒子の個数比率Bとの合計(A+B)が40個数%以下」ということは、形状係数Sが116?145の範囲外の粒子の比率が「40個数以下」であるから、形状係数の分布を狭くすることであり、そうすることによって帯電分布がシャープとなることは、弱帯電性トナーの発生を防止することである。
してみると、本願発明の標準偏差と、刊行物に記載の発明の条件(1)?(3)の事項との技術上の意義は軌を一にするものといえる。
請求人の主張によれば、刊行物に記載された唯一の実施例のトナーの形状係数の標準偏差は0.15であり、本願明細書に記載された比較用トナー2の標準偏差と同じである。しかし、刊行物には、形状係数の分布を狭くすると帯電分布がシャープとなるということも示されているのであるから、刊行物に記載された発明よりさらに帯電分布をシャープにしてより良好な画像を得るため、形状係数の標準偏差の上限をより小さな値に設定することは、当業者が容易に想到できたことである。
また、本願明細書の実施例において標準偏差をみると、本願発明のトナー1?6は0.03?0.07であり、比較用トナー1?4も0.17?0.19であるから、境界である0.1前後のトナーはなく、カブリ濃度(本願明細書【0081】の表3、【0086】の表4)を比較しても、「0.1以下」であることに臨界的な意味があるとはいえない。
したがって、本願発明が、標準偏差が0.1以下であることによって特に著しい効果を奏したとすることはできない。
そうすると、本願発明は、刊行物に記載された、特定の形状係数のトナー及び形状係数の分布を狭くすると帯電分布がシャープとなるという技術事項に基づいて、該特定の形状係数のトナーにおけるトナーの形状係数の分布をより狭くするなるよう調整し、その弱帯電性トナーの発生を許容値以下に抑えるために必要な形状係数の分布を標準偏差によって決めたものにすぎない。

4.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、本願出願前に頒布された刊行物に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項についての判断を示すまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-03-05 
結審通知日 2007-03-13 
審決日 2007-03-26 
出願番号 特願平7-339108
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G03G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 福田 由紀  
特許庁審判長 岡田 和加子
特許庁審判官 中澤 俊彦
阿久津 弘
発明の名称 静電荷潜像現像用トナー、現像剤及び画像形成方法  

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