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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41F
管理番号 1158069
審判番号 不服2004-17804  
総通号数 91 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-07-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-08-27 
確定日 2007-05-21 
事件の表示 特願2000-402392「ドクターブレード及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 7月16日出願公開、特開2002-200731〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成12年12月28日の出願であるが、平成16年7月26日付けで拒絶査定がなされ、これに対し同年8月27日に拒絶査定に対する審判請求がなされたものであって、同年9月24日付け手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、本願の請求項3に係る発明は、その特許請求の範囲請求項3に記載された以下のとおりのものであると認める。
「【請求項3】 ドクターブレード基材の複合メッキを施す先端部の所望の幅を除く部分にプラスチックフィルムを貼付し、これにスペーサーを重ね、ドクターブレード基材とスペーサーを一体にしてリールに巻き取ることを特徴とする、被メッキドクターブレード基材巻回リールの作製方法。」
なお、平成16年9月24日付け手続補正書における請求項3は、同年8月27日に拒絶査定されることとなった、同年5月6日付け手続補正書により補正された請求項8と、一字一句相違しないものである。したがって、平成16年9月24日付け手続補正書が補正却下されるか否かに係わらず、上記請求項3に係る発明が特許を受けることができないものであれば、本願は拒絶されるべきものであるから、平成16年9月24日付け手続補正についての補正の適否については検討することなく、以下に、上記請求項3(平成16年5月6日付け手続補正書により補正された請求項8)に係る発明(以下「本願発明」という。)について検討するものである。

2.引用例
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前である平成4年3月5日に頒布された特開平4-70343号公報(以下、「引用例1」という。)には、次の事項が記載されている。
ア.「(1)帯状鋼材をスペーサを介してロール状に巻いた状態に保持し、この状態でメッキ処理槽に挿入してメッキ処理を行ない、その後でこれを平面状に巻きほどき、切断してドクター刃形状とすることを特徴とするドクター刃の製造方法。」(第1頁左下欄第5行?第9行)
イ.「本発明はドクター刃となる鋼素材を刃先部となる部分にはスペーサーが接触しないようスペーサーを介してロール状に巻いた状態に保持し、この状態でメッキ処理槽に挿入してメッキ処理を行ない、その後で巻きほどき、必要長さに切断して平面状ドクター刃を製造するようにしたことにより前記課題を解決しようとするものである。」(第2頁右上欄第1行?第7行)
ウ.「ドクター刃素材をスペーサーを介してロール状に巻き止めてメッキを施すようにしたので長尺ドクター刃素材にメッキ処理を行うことが可能となり、必要に応じて必要寸法に切断してドクター刃を得ることができるので、生産効率の向上が期待できる。」(第2頁右上欄第15行?第20行)
エ.「長尺とされたドクター刃素材3はその刃先部となる側縁3aが薄刃状になるよう段付形成されていて、その薄刃部分に触れないよう両側面に突出部4a、4aを形成してなるスペーサ4を中間に挟んだ状態で捲回されてメッキ処理槽2内に没入されてメッキ処理を行う。メッキ処理槽2内には炭化ケイ素、窒化ホウ素、等のセラミックスの各種微粉5aを適量添加した無電解ニッケルメッキ液(セラメッキ液)5が満されており、ニッケルメッキと同時にこれら微粉をメッキ被膜内に析出、複合させて、鋼製ドクター(ドクター刃素材3)表面に硬質層(セラメッキ層)を形成させる。」(第2頁左下欄第9行?第20行)
オ.「メッキ処理は、第1図(a)に示すように、セラメッキ液を静止状態に保ってセラミックス粉5aを底に沈殿させた状態でメッキ処理を行えば、ドクター刃素材3表面にはニッケルメッキ層7が形成され、次に第1図(b)に示すように、攪拌翼8を回転させてセラミックス粉5aを浮遊状態としてセラメッキを行うようにすれば、簡単な手順でドクター刃素材3上にニッケルメッキ層とセラメッキ層9を形成させることができる。」(第2頁右下欄第11行?第19行)

したがって、摘記ア乃至オを含む引用例1の明細書及び図面全体から、引用例1には、
「ドクター刃素材に、スペーサを中間に挟んだ状態で捲回させて、ロール状とした、セラメッキ層を形成するメッキ処理が行われる長尺ドクター刃素材の作成方法。」に係る発明(以下、「引用発明」という。)が開示されている。

3.対比
本願発明と引用発明とを比較する。
引用発明における、「ドクター刃素材」及び「スペーサ」は、本願発明における、「ドクターブレード基材」及び「スペーサー」にそれぞれ相当する。
引用発明において、「リール」との文言上の特定がないけれども、「リール」は「(1)(釣糸・録音テープ・フィルムなどの)巻き枠。巻き軸。巻取器。」(株式会社岩波書店 広辞苑第五版)との意味で使用されるものであることを考慮すると、引用発明ではドクター刃素材がロール状に捲回されていることから、当該ドクター刃素材も「リール」に対してロール状に捲回されていると解するのが自然である。したがって、引用発明における、「ドクター刃素材に、スペーサを中間に挟んだ状態で捲回させて、ロール状とした」ことと、本願発明における、「これ(ドクターブレード基材の複合メッキを施す先端部の所望の幅を除く部分にプラスチックフィルムを貼付したドクターブレード基材)にスペーサーを重ね、ドクターブレード基材とスペーサーを一体にしてリールに巻き取る」こととは、「ドクターブレード基材にスペーサーを重ね、ドクターブレード基材とスペーサーを一体にしてリールに巻き取る」点で一致する。そして、引用発明のロール状とした「長尺ドクター刃素材」は、本願発明の「ドクターブレード基材巻回リール」に相当する。また、引用発明の「セラメッキ層を形成するメッキ処理が行われる」ことは、本願発明の「複合メッキを施」されることに等しいから、引用発明の「ロール状とした、セラメッキ層を形成するメッキ処理が行われる長尺ドクター刃素材の作成方法」は、本願発明の「被メッキドクターブレード基材巻回リールの作製方法」に相当する。

してみると、本願発明と引用発明とは、
「ドクターブレード基材にスペーサーを重ね、ドクターブレード基材とスペーサーを一体にしてリールに巻き取る、被メッキドクターブレード基材巻回リールの作製方法。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
[相違点]
ドクターブレードにスペーサーを重ね、ドクターブレード基材とスペーサーを一体にしてリールに巻き取ることに関して、本願発明では、「ドクターブレード基材の複合メッキを施す先端部の所望の幅を除く部分にプラスチックフィルムを貼付し」てなるのに対し、引用発明では、そのような特定がない点。

4.判断
*[相違点]について
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前である平成10年10月20日に頒布された特開平10-278222号公報(以下、「引用例2」という。)には、「グラビア(凹版)印刷では、版胴の円周面にドクターブレードを一定の圧力で押圧しておいて、版胴の非画像部に付着しているインキを掻き落とし除去している。ドクターブレードは非画像部のインキを完全に除去すると共に、画像部に所定量のインキを残す機能を有するものであるから、版胴とドクターブレードとの接触圧は常に一定に維持されなければならず、その先端部には耐磨耗性が要求される。ドクターブレード先端部に耐磨耗性を付与する方法としてセラメッキ層を施す方法がある。これは無電解ニッケル浴、あるいは電気ニッケル浴中に、炭化珪素、窒素化ホウ素等の各種セラミックスの微粉を適当量添加し、撹拌下にメッキ処理を行ないメッキと同時にこれら微粉をメッキ被膜内に析出複合させ、必要により焼き付け処理を施してドクターブレードの表面に硬質層を形成するものである。印刷機に設置されるドクターブレードの大きさは、版胴のロール幅(例えば50、90、120、400cm)に整合するものであり、ブレード自体の幅としては、例えば45、50あるいは60mmのものが使用されている。このようなブレードに効率的に複合メッキ処理を行なうため、従来、帯状の鋼製母材を、刃先部分には影響を与えないスペーサ(網材など)を介してロール状に巻いた状態で、そのそのままメッキ処理し、その後平面状に巻き解いて所定の長さに切断してドクターブレードとしている(特開平4-70343号(審決注:引用例1))。この方法には以下のような問題がある。・・・(4)機能上必要な刃先だけでなく、ドクターブレード全体を均一にメッキしているため、高価な薬品の使用量が多くなるなどコスト面の問題もある。」(【0002】?【0006】)と、引用発明について言及する記載があるように、メッキ処理を行う引用発明には、メッキ処理に使用するメッキ処理液やセラミックス微粉を節約する課題が存在していることは自明である。
本願出願当時には、メッキ処理に使用するメッキ処理液やセラミックス微粉を節約するために、ドクターブレードの刃先部分のみにメッキ処理を施すべく、不必要なところにはマスキングテープを貼合するなどしてマスキング材を形成させてマスキングを行うことは周知技術である(例えば、「ブレード母材中メッキが必要のない部分、すなわち片刃タイプでは刃先部(約5mm程度)以外の中央部と後端部分に、また、両刃タイプでは中央部に帯状にマスキングを施し、メッキ処理することによりセラミックス微粉の消費量をさらに節約することができる。・・・マスキング手段は特に限定されるものではないが、例えば・・・マスキングテープなどを貼合することにより行なうことができる。」(引用例2【0020】)、「マスキング材2は、プラスチック材よりなり、その厚さは約1.0?5.0mm程度のものであり、具体的には水密性、耐熱性のあるポリエチレンが好適なものとして使用される。」(特開平2-104696号公報第2頁左下欄第17行?第20行)、「ドクターのブレード面とは反対側の端縁部の片面側にはマスキング材が形成されているので、不必要なところにメッキが施されることがなく、メッキ溶液の使用を節約することができる。」(同公報第4頁左上欄第6行?第9行)等参照のこと)。
ここで、上記周知技術において、ドクターブレードの刃先部分がインクの掻き取り性能を有するものであり、メッキ処理が施される箇所であることから、本願発明において同じようにメッキ処理が施される「先端部の所望の幅」部分が、上記刃先部分に相当するものである。
以上を踏まえると、引用発明において、必要部分のみにメッキ処理を施すことでメッキ処理に使用するメッキ処理液やセラミックス微粉を節約しようとすることは至極当然なことであるから、必要部分のみにメッキ処理を施すことでメッキ処理に使用するメッキ処理液やセラミックス微粉を節約することを意図するならば、相違点に係るドクターブレード基材の複合メッキを施す先端部の所望の幅を除く部分にプラスチックフィルムを貼付することは、当業者が適宜なし得る設計事項である。
したがって、相違点に係る発明特定事項は、当業者が想到容易である。

また、本願発明による作用効果は、引用発明及び周知技術から当業者が容易に予測できる範囲内のものである。

なお、請求人は、審判請求書における平成16年12月3日付け手続補正書において、「スペーサ及びマスキングの両機能を有する部材(引例4:審決注:上記の「特開平2-104696号公報」に相当。)が知られている状況下では、その部材からマスキング機能を削除してなる部材(スペーサー)を用いる引例1(審決注:上記の「引用例1」に相当。)に対して、セラミックス微粉の消費量節約目的のために引例2(審決注:上記の「引用例2」に相当。)に記載のマスキングを組み合わせて使用することは、当業者には全く意味のないことといえる。引例1の出願前に公知となっている引例4の構成にしさえすれば良いからである。 引例4には、セラミック微粉の消費量を節約するための手段が既に備わっており、引例2のようにマスキングテープを貼合するといった別途の構成を改めて加える必要はないのであり、またそのような構成を加えようとする当業者もいない。スペーサー(マスキング機能を削除したスペーサ機能のみを有する部材)が記載されている引例1及びマスキングが記載されている引例2の両者をわざわざ組み合わせて使用しなくても、これら引例1?2より前に公開された引例4の態様にするのみでセラミック微粉の消費量の節約効果は達成されるのである。 したがって、審査官の指摘する引例1と引例2との組み合わせは、セラミック微粉の消費量節約以外の優れた効果が得られることを予期させる記載がある等の特別の事情がない限り行われるものではなく、そしてそのような特別の事情も引例1、2及び4には示唆がない。 以上のような技術的背景を考慮すれば、引例1においてセラミックス微粉の消費量を節約するために引例2の記載を採用することは、当業者は通常行わないのである。」と主張している(第4頁第11行?第28行)。
そこで検討するに、引例1(引用例1)または引例2(引用例2)の公開時に引例4(特開平2-104696号公報)が既に公知になっていることは、引例1(引用例1)記載の発明(上記の「引用発明」に相当。)に引例2(引用例2)等に見られる周知技術を組み合わせることに対して何ら阻害するものではないから、当業者が引例1(引用例1)記載の発明(引用発明)に引例2(引用例2)等に見られる周知技術を単純に組み合わせることは想到容易であり、その作用効果も格別なものではない。
したがって、請求人の主張は採用できない。

5.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
本願発明が特許を受けることができない以上、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、また、平成16年9月24日付け手続補正が補正却下されるか否かにかかわらず、本願は拒絶を免れない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-03-29 
結審通知日 2007-03-30 
審決日 2007-04-10 
出願番号 特願2000-402392(P2000-402392)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B41F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山本 一畑井 順一  
特許庁審判長 番場 得造
特許庁審判官 藤井 勲
國田 正久
発明の名称 ドクターブレード及びその製造方法  
代理人 大家 邦久  

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