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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41M
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B41M
管理番号 1158127
審判番号 不服2005-8659  
総通号数 91 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-07-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-05-10 
確定日 2007-05-23 
事件の表示 平成10年特許願第218630号「インクジェット記録媒体」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 2月 2日出願公開、特開2000- 33769〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成10年7月15日に出願され、平成17年3月31日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年5月10日付けで拒絶査定に対する審判請求及び同年6月7日付けで手続補正がなされたものである。

2.平成17年6月7日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成17年6月7日付けの手続補正を却下する。

[理由]
(1)補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、「基材の少なくとも片面にインク受容層、表面処理層が順次積層して設けられ、かつ、該表面処理層に、1次粒子径が5nm?30nmであり、かつ凝集粒子径が35nm?110nmであるコロイダルシリカを用いることを特徴とするインクジェット記録媒体。」と補正された。
上記補正は、補正前の請求項1の記載における、「1次粒子径が5nm?30nmであり、かつ凝集粒子径が18nm?250nmであるコロイダルシリカ」を、「1次粒子径が5nm?30nmであり、かつ凝集粒子径が35nm?110nmであるコロイダルシリカ」としようとするものであって、凝集粒子径「18nm?250nm」を、「35nm?110nm」に限定するものであって、特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下「補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて検討する。

(2)刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平10-71764号公報(以下「刊行物」という。)には以下の事項が記載されている。
(1)「【請求項1】 支持体にインク受容層を設けたインクジェット記録体において、該インク受容層は1層以上の層構成を有し、少なくとも1層が粒径3nm?40nmの1次粒子が凝集してなる平均粒径10?150nmの2次粒子であるシリカ及び/またはアルミナシリケート微粒子、並びに水性樹脂を含有する層であり、且つ該層の細孔半径分布曲線のピークが実質的に40nm以下にあることを特徴とするインクジェット記録体。」
(2)「【0011】本発明のシリカ、アルミナシリケート微粒子は、実質的に1次粒子が凝集してできた2次粒子からなるコロイド粒子である必要があり、このような構成によって比較的大きな細孔を有する2次粒子間に吸収されたインクが比較的小さい細孔を有する1次粒子間に再吸収され、インク吸収速度、インク吸収容量とも優れるインクジェット記録体を得ることが可能である。1次粒子が単分散したようなコロイド粒子(例えば:一般市販のコロイダルシリカ)の場合、基材に塗布して得られる多孔質層が比較的緻密なものになり、インクは1次粒子間にしか吸収されず、インク吸収速度、インク吸収容量をもたすためには大きな1次粒子を使用する必要がある。粒径が大きくなると、透明性を失いやすく、インク吸収性をもたすためには高塗布量が避けられない。高塗布量になると、塗膜にひび割れが入りやすく、また塗布工程も煩雑になりやすい。勿論、本発明の微粒子中に部分的に1次粒子が含まれても構わない。」
(3)「【0021】本発明に用いるシリカ微粒子は一般市販の合成無定型シリカ(数ミクロン)を機械的手段で強い力を与えることにより得られる。つまり、breaking down法(塊状原料を細分化する方法)によって得られる。勿論、本発明のシリカ微粒子はコロイド粒子であっても、スラリーの状態であってもよい。シリカはアルミナなどのカチオン性化合物により変性したカチオン変性シリカであってもよい。
【0022】・・・本発明でいう平均粒径は電子顕微鏡(SEMとTEM)で観察した粒径である(1万?40万倍の電子顕微鏡写真を撮り、5cm四方中の粒子のマーチン径を測定し平均したもの。「微粒子ハンドブック」、朝倉書店、p52、1991年参照)。本発明で用いるシリカ、アルミナシリケート(実質的に2次粒子)の平均粒径は10?150nmに調整され、好ましくは20?100nmである。150nmを越えると得られる細孔半径分布曲線のピークが40nmより大きな部分にも現れ、インク受容層の透明感が著しく失われ、印字濃度が著しく低下し、また、ドットの真円度も低下するなどの問題が生じ、所望の印字後の高光沢を有するインクジェット記録体が得られない。
【0023】インク受容層に使用するシリカ、アルミナシリケート微粒子を構成する1次粒子は3nm?40nmの範囲に、好ましくは5?30nmに調整される。3nm未満になると1次粒子間の空隙が極端に小さくなり、インク中の溶剤やインクを吸収する能力が著しく低下する。一方、1次粒子が40nmを越えると、凝集した2次粒子が大きくなり、インク受容層の透明性が低下する。」
(4)「【0029】本発明のシリカ、アルミナシリケート微粒子を含有する層について説明したが、インク受容層は1層であっても多層であってもよい。インク受容層をシリカ、アルミナシリケート微粒子を含有する層のみにより構成すると、発色性、印字濃度、光沢感、透明性とも最高品質が得られる。優れた光沢を得る目的には前記特定のインク受容層は記録表面側(上層)として設けることが好ましい。・・・塗布量が多いと塗膜がひび割れる恐れがあるが、その対策としては例えばシリカ、アルミナシリケート塗被層を上層に設け、つまり、塗工層表面の細孔半径分布曲線のピークを実質的に40nm以下にコントロールし、下層に他のインク受容層を設けて2層に分けることにより本発明の目的とする高インク吸収速度、発色性、高印字濃度、高光沢、耐候性、耐水性とも良好なインクジェット記録体が得られる。2層構造とする場合下層としては前記特定のシリカまたはアルミナシリケート微粒子含有層を設けても良い。また下層として多孔性顔料と接着剤を含有する層を設けても良い。このような態様においても下層は顔料と接着剤を含有することになる。印字後の光沢、照り感を保つためには、インク受容層全体に対して、シリカ及び/またはアルミナシリケート微粒子を主成分とする層の塗被量が50?100重量%の範囲に調節されるのが好ましい。50%以上では、写真並の極めて優れた光沢、照り感が得られる。」
(5)「【0030】 次に、他のインク受容層について具体的に説明する。他のインク受容層に使用される顔料(インク吸収量を得るために、平均粒径は0.5μ以上が好ましい)としては合成無定型シリカ(合成非晶質シリカともいう)、クレー、アルミナ、スメクタイトなどの一般塗被紙分野で公知公用の各種顔料が適宜使用される。発色性、印字濃度などの観点から、合成無定型シリカが好ましく使用される。接着剤(バインダー)としては、前記したPVA、カゼイン、でんぷん等の水溶性樹脂あるいはラテックス、合成樹脂エマルションなどの水分散性樹脂等従来公知のものがあげられる。・・・」

(3)対比・判断
刊行物には、「支持体にインク受容層を設けたインクジェット記録体において、該インク受容層は1層以上の層構成を有し、少なくとも1層が粒径3nm?40nmの1次粒子が凝集してなる平均粒径10?150nmの2次粒子であるシリカ微粒子、並びに水性樹脂を含有する層であるインクジェット記録体」〔(1)〕の発明が記載されている。
補正発明と刊行物に記載の発明とを対比すると、
後者の「粒径3nm?40nmの1次粒子が凝集してなる平均粒径10?150nmの2次粒子であるシリカ微粒子」ということは、シリカ微粒子がコロイド粒子〔(2)〕であるから、コロイダルシリカのことであって、その1次粒子径が3nm?40nmで、さらに1次粒子が凝集した2次粒子とは凝集粒子のことで、その平均粒径は前者の凝集粒子径に当たり、それが10?150nmということであり、
後者の「支持体」、「インクジェット記録体」は、それぞれ本願発明の「基材」、「インクジェット記録媒体」に相当するから、
両者は「基材の少なくとも片面にインク受容層が積層して設けられ、かつ、コロイダルシリカを用いたインクジェット記録媒体」である点で一致し、下記の点で相違する。
・相違点1
基材面上の記録層が、補正発明では、インク受容層、表面処理層が順次積層しているのに対して、刊行物に記載の発明では、1層以上の層構成であるインク受容層である点。
・相違点2
コロイダルシリカが、補正発明では、1次粒子径が5nm?30nm、凝集粒子径が35nm?110nmであって、表面処理層に含まれるのに対して、刊行物に記載の発明では、1次粒子径が3nm?40nm、凝集粒子径が10?150nmであって、インク受容層に含まれる点。

上記相違点について検討する。
・相違点1について
刊行物には、光沢を得るためシリカ微粒子を含有するインク受容層を記録表面側(上層)に設け、下層に多孔性顔料を含有するインク受容層を設けた2層構成にすること〔(4),(5)〕が記載されている。
本願明細書にも、上層の表面処理層にコロイダルシリカを用いることによって、光沢を調整すること(【0004】、【0006】)が記載されており、補正発明の、上層に表面処理層を、下層にインクを吸収するインク受容層を積層するという2層構成では、記録時に付着したインクが先に表面処理層に受容されてから、下層のインク受容層に浸透して吸収されることであるので、表面処理層もインク受容層と同様にインクに対して受容性であるといえるから、刊行物に記載の2層構成と軌を一にすることである。
そうすると、インク受容層、表面処理層を順次積層して、上層を光沢を調整し得る層にすることは、刊行物の記載に基づいて当業者が容易に想到し得たことである。
・相違点2について
刊行物には、シリカ微粒子は、実質的に1次粒子が凝集してできた2次粒子からなるコロイド粒子であることによって、比較的大きな細孔を有する2次粒子間に吸収されたインクが比較的小さい細孔を有する1次粒子間に再吸収され、インク吸収速度、インク吸収容量とも優れること〔(2)〕が記載されている。
その「1次粒子が凝集してできた2次粒子からなるコロイド粒子」は、上記したように本願発明のコロイダルシリカの1次粒子と凝集粒子と同じ状態のことであり、その1次粒子径と凝集粒子径の値は光沢性とインク吸収性において技術的意義を有するものである。
それが、刊行物に記載の発明では、1万?40万倍の電子顕微鏡写真を撮り、5cm四方中の粒子のマーチン径を測定し平均したもの〔(3)〕で、1次粒子径が3nm?40nmであり、凝集粒子径が10?150nmである。
これに対して、補正発明では、窒素吸着法によるBET粒子径である1次粒子径が5nm?30nmであり、レーザー法により測定されるN4粒子径である凝集粒子径が35?110nm(本願明細書【0017】)。
ところで、補正発明と刊行物に記載の発明では、粒径の測定方法が異なるものであるが、それによって測定値に大きな差が生じるとも、また、補正発明と刊行物に記載の発明とにおいて、粒径範囲の大小両端の値には特に顕著な臨界的意義のあるとも認められないので、粒径の測定方法異なることが実質的な意味を有するとはいえない。
そして、粒径が、刊行物に記載の発明では、1次粒子径が3nm?40nmであり、凝集粒子径が10?150nmであるので、補正発明の、1次粒子径が5nm?30nmであり、凝集粒子径が35nm?110nmの値を包含する値である。
そうすると、補正発明は、コロイダルシリカのより適切な1次粒子径及び凝集粒子径を、刊行物に記載の発明の粒径の範囲内において決定したものといえるので、刊行物に記載の発明に基づいて当業者が容易になし得たことである。
そして、補正発明が特に予想し得ないような効果を奏したとも認められない。

(4)まとめ
したがって、補正発明は、刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
以上のとおり、本件手続補正は、特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
(1)本願の請求項に係る発明
平成17年6月7日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし5に係る発明は、平成16年8月20日付け手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載されたものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は次のとおりのものと認める。
「【請求項1】 基材の少なくとも片面にインク受容層、表面処理層が順次積層して設けられ、かつ、該表面処理層に、1次粒子径が5nm?30nmであり、かつ凝集粒子径が18nm?250nmであるコロイダルシリカを用いることを特徴とするインクジェット記録媒体。」

(2)刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物及びその記載事項は、上記「2.(2)」に記載したとおりである。

(3)対比・判断
本願発明は、上記「2.」検討した補正発明において、コロイダルシリカの凝集粒子径「35nm?110nm」が「18nm?250nm」であるものである。
そうすると、本願発明の構成要件をすべて包含する補正発明が、上記「2.(3)」に記載したとおり、刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、本願の他の請求項に係る発明を検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-03-13 
結審通知日 2007-03-20 
審決日 2007-04-03 
出願番号 特願平10-218630
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B41M)
P 1 8・ 575- Z (B41M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 川村 大輔藤井 勲  
特許庁審判長 岡田 和加子
特許庁審判官 阿久津 弘
秋月 美紀子
発明の名称 インクジェット記録媒体  

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