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審決分類 審判 査定不服 発明同一 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C10L
管理番号 1158129
審判番号 不服2005-12102  
総通号数 91 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-07-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-06-27 
確定日 2007-05-23 
事件の表示 平成6年特許願第190170号「軽油組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成7年3月7日出願公開、特開平7-62363〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成6年(1994年)7月21日(パリ条約による優先権主張1993年7月21日 イタリア(IT))の出願であって、平成17年3月14日付けで拒絶査定がなされ、これに対して平成17年6月27日に拒絶査定に対する審判が請求され、その後、平成18年5月15日付けで当審による拒絶理由が通知され、その指定期間内である平成18年11月15日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

2.本願発明
本願の請求項1ないし7に係る発明は、平成17年2月21日付けの手続補正書及び平成18年11月15日付けの手続補正書により補正された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載されたとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は以下のとおりである。
「【請求項1】
植物の油質種子に由来する飽和及び不飽和の直鎖状C12-22脂肪酸の混合物のC1-5アルキルエステルの、イオウ含量0.1重量%以下及び芳香族炭化水素含量30重量%より小を有する軽油組成物における、100?10000ppm(重量)の量での、潤滑性改善剤としての使用方法。」

3.当審による拒絶理由
平成18年5月15日付けの当審による拒絶理由の理由1は、本願発明は、その出願の日前の特許出願であって、その出願後に出願公開がされた特願平6-516655号の願書に最初に添付された明細書に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないというものである。

4.先願及びその記載事項
先願である特願平6-516655号(優先権主張日1993年1月21日)の特許法第184条の4第1項(翻訳文)の国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲(以下、「先願当初明細書等」という;特表平8-505893号公報参照。)には、以下の事項が記載されている。
なお、摘記箇所として、特表平8-505893号公報の該当箇所を括弧内に併記した。

摘記A:「1.イオウ濃度が0.2重量%以下である液体炭化水素中級燃料油を大部分で、炭素原子を2?50有するカルボン酸と炭素原子を1以上有するアルコールとのエステルを含有する添加剤を小部分で含有する燃料油組成物。
2.前記イオウ濃度が0.05重量%以下である請求項1記載の組成物。
3.前記イオウ濃度が0.01重量%以下である請求項1記載の組成物。
4.エステルが誘導される酸が以下の一般式を有する請求項1?請求項3のいずれか1項記載の組成物。
R1(COOH)X
(式中、xは1?4の整数であり、R1はヒドロカルビル基を表す。)
5.前記酸が炭素原子を10?30有するモノカルボン酸であり、該酸が飽和であるか、又はアルケニル基中に二重結合を1?3個有する不飽和である請求項4記載の組成物。
6.前記酸が炭素原子を12?22有する請求項5記載の組成物。
・・・
9.前記アルコールが炭素原子を1?6有するアルキルアルコールである請求項1?請求項8のいずれか1項記載の組成物。
10.前記アルコールがメタノールである請求項9記載の組成物。
・・・
15.前記燃料油中の添加剤の濃度が、燃料油の重量当り有効成分の重量で10?10,000ppmの範囲である請求項1?請求項14のいずれか1項の組成物。」(12?13頁請求の範囲の請求項1?6、9、10、15(公報2?3頁特許請求の範囲の請求項1?6、9、10、15))
摘記B:「本発明は、例えばディーゼルエンジンの潤滑性を向上させ、摩耗を減少させるのに有用な燃料組成物に関する。」(1頁3?4行(公報4頁3?4行))
摘記C:「ディーゼル燃料中のイオウ含量は、環境の理由、即ち、二酸化イオウの排気を減少させるために、さまざまな国において、低下しており、かつ低下させるであろう。このように、加熱油及びディーゼル燃料のイオウ含量は、最大値で0.2重量%とCECで調和しつつあり、第2ステージでは、ディーゼル燃料中の最大含量が0.05重量%となるであろう。最大値0.05%への完全な転換は、1996年中に必要となるであろう。
イオウ含量を低下させることに加えて、低イオウ含量燃料を調製する方法により、ポリ芳香族(polyaromatic)成分及び極性成分のような燃料中の他の成分の含量をも減少させる。燃料中のイオウ成分、ポリ芳香族成分、及び極性成分のうち1以上の成分含量を減少させると、その燃料の使用に際し新たな問題が生じる。即ち、エンジンの噴射系を潤滑させる燃料の能力が減少し、例えば、エンジンの燃料噴射ポンプがエンジンの寿命の比較的早い時期に壊れるようになり、その破壊は、例えば高圧ロータリー・ディストリビュータ、インラインポンプ及びユニット・インジェクター、並びにインジェクターのような高圧燃料噴射系において生じる。そのような激しい破壊は、GB-A-1,505,302号に記載された腐蝕摩耗とは全く異なる摩耗によるものである。」(1頁17行?2頁3行(公報4頁18行?5頁5行))
摘記D:「イオウ含量が低い燃料の使用による上記摩耗の問題は、燃料にある添加剤を供給することにより少なくなるか、又は処理できることが現在見出された。・・・本明細書の実施例は、本発明の燃料油を用いると、摩耗を減少させる本発明の添加剤の効力を例示するものである。」(2頁12行?下から5行(公報5頁14行?下から2行))
摘記E:「(i)酸
エステルが誘導される酸は脂肪酸、飽和又は不飽和、直鎖又は分岐鎖のようなモノ又はポリカルボン酸であるのがよいが、モノ又はジカルボン酸が好ましい。・・・好ましくは、酸がモノカルボン酸のとき、ヒドロカルビル基は炭素原子を10(例えば12)?30有するアルキル基又はアルケニル基である。即ち、酸は飽和又は不飽和である。アルケニル基は二重結合を1以上、例えば二重結合を1、2、又は3個有するのがよい。飽和カルボン酸の例として、・・・ラウリン酸、・・・パルミチン酸・・・のような炭素原子を10?22有するものがあり、不飽和カルボン酸の例として、オレイン酸、・・・リノール酸、リノレン酸・・・のような炭素原子を10?22有するものがある。」(3頁下から10行?4頁14行(公報6頁下から6行?7頁下から11行))
摘記F:「(ii)アルコール
エステルが誘導されるアルコールは、トリヒドロキシアルコールのようなモノ又はポリヒドロキシアルコールがよい。・・・1価アルコールの例として、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、及びブチルアルコールのような炭素原子を1?6有する低級アルキルアルコールが挙げられる。」(4頁17行?5頁1行(公報7頁下から8行?8頁6行)
摘記G:「(iii)エステル
エステルはそれのみ、又は1以上のエステルの混合物が用いられ、炭素、水素、及び酸素のみから成るのがよい。・・・用い得るエステルの例として、上記で例示した飽和又は不飽和モノカルボン酸の低級アルキルエステル、例えばメチルエステルのようなものが挙げられる。そのようなエステルは、例えば植物又は動物が供給源の天然油脂の鹸化及びエステル化、又はそれらを低級脂肪族アルコールでエステル交換することによって得ることができる。」(5頁8?16行(公報8頁13?21行))
摘記H:「本発明を適用できる中間留出燃料油は、一般に約100℃?約500℃、例えば約150℃?約400℃の範囲内で沸騰する。・・・最も一般的な石油留出物は、・・・ディーゼル燃料が上記の理由から本発明の実施において好ましい。」(6頁13?18行(公報9頁下から10行?下から5行))
摘記I:「実施例
以下の実施例は本発明を例示する。次の材料及び方法が用いられ、結果は以下の通りであった。
・・・
燃料
用いた燃料(I及びIIで示す)は次の性質を有するディーゼル燃料であった。
I S含量 <0.01%(wt/wt)
芳香族含量 <1%(wt/wt)
セタン数 55.2?56.1
低温フィルタ曇り点温度(CFPPT) -36℃
95%沸点 273℃」(7頁13?25行(公報10頁下から8行?11頁5行))

5.対比・判断
先願当初明細書等には、環境の理由から、ディーゼル燃料中のイオウ含量を低下させることに加えて、ポリ芳香族(polyaromatic)成分及び極性成分のような燃料中の他の成分の含量をも減少させること、及び、燃料中のイオウ成分、ポリ芳香族成分、及び極性成分のうち1以上の成分含量を減少させると、エンジンの噴射系を潤滑させる燃料の能力が減少することが記載されており(摘記C)、さらに、その改善の為に、特定の添加剤を供給することが記載されている(摘記B、D)。そして、該添加剤としては、炭素原子を10?22有する飽和又は不飽和の直鎖状脂肪酸と炭素原子を1?6有する低級アルコールとのエステルが挙げられ(摘記A、E、F、G)、かつ、そのようなエステルは、植物又は動物が供給源の天然油脂(即ち、脂肪酸混合物のトリグリセライドを主成分とするもの)の鹸化及びエステル化、又はそれらを低級脂肪族アルコールでエステル交換することによって得ることができることが記載されており(摘記G)、さらに、該添加剤は、10?10,000ppm(重量)含有されることが記載されている(摘記A、特に請求項15)。また、用いられる燃料油としては、ディーゼル燃料などの、例えば約150℃?約400℃の範囲内で沸騰する中間留出燃料油が挙げられ(摘記H)、具体的には、イオウ濃度が0.01重量%未満で芳香族含量が1重量%未満の中間留出燃料油であるディーゼル燃料が記載されている(摘記I)。
したがって、先願当初明細書等には、「イオウ濃度が0.01重量%未満で芳香族含量が1重量%未満の中間留出燃料油、植物が供給源の天然油脂に由来する炭素原子を10?22有する飽和又は不飽和の直鎖状脂肪酸混合物と炭素原子を1?6有する低級アルコールとのエステルからなる添加剤を10?10,000ppm(重量)の量含有する潤滑性の向上した燃料油組成物」に係る発明(以下、「先願発明」という。)が記載されていると認められる。
さて、本願発明1と先願発明とを比較すると、先願発明の「中間留出燃料油」は、本願発明1の「軽油組成物」に相当するので、両者は、「イオウ含量0.1重量%以下及び芳香族炭化水素含量30重量%より小を有する軽油組成物において、潤滑性改善剤として植物に由来する飽和及び不飽和の直鎖状C12-22脂肪酸の混合物のC1-5アルキルエステルを100?10000ppm(重量)の量添加する」点で一致するが、脂肪酸について、本願発明1では、植物の油質種子由来としているのに対して、先願発明では、植物が供給源の天然油脂由来としている点(以下、「相違点1」という。)、発明のカテゴリ-が、本願発明1では、軽油組成物における潤滑性改善剤としての使用方法としているのに対して、先願発明では、軽油組成物と潤滑性改善剤を含有する燃料油組成物としている点(以下、「相違点2」という。)で一応相違する。
ここで、相違点1について検討するに、脂肪酸が、植物の油質種子由来ということは、油質種子から得られる天然油脂を原料とすること(つまり天然油脂由来)を意味することは技術常識であるから、この点は、実質的な相違点ではない。
次に、相違点2について検討するに、本願発明1と先願発明において、軽油組成物、潤滑性改善剤(添加剤)及び添加量は同じであり、本願発明1においても結果的に先願発明と同じ燃料油組成物が製造されるのであるから、両者は軽油組成物に潤滑性改善剤を添加するという同じ技術思想に基づく発明であって、相違点2は単なる表現の相違にすぎないものであるから、この点も、実質的な相違点ではない。
したがって、本願発明1は、先願発明と同一である。

6.むすび
以上のとおり、本願発明1は、先願発明と同一であり、しかも、本願の発明者が該先願発明をした者と同一ではなく、また本願の出願の時において、本願の出願人が上記先願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余のことを検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-12-12 
結審通知日 2006-12-19 
審決日 2007-01-09 
出願番号 特願平6-190170
審決分類 P 1 8・ 161- WZ (C10L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山田 泰之  
特許庁審判長 脇村 善一
特許庁審判官 木村 敏康
岩瀬 眞紀子
発明の名称 軽油組成物  
復代理人 朝倉 勝三  

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