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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C09D
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C09D
管理番号 1158330
審判番号 不服2004-12805  
総通号数 91 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-07-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-06-22 
確定日 2007-05-28 
事件の表示 特願2001-110418「インキジェット-媒体用の塗料」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 1月15日出願公開、特開2002- 12831〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成13年4月9日(パリ条約による優先権主張 2000年4月11日 欧州特許庁(EP))の出願であって、平成16年3月17日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年6月22日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに同日付けで手続補正がなされ、その後、当審において平成17年11月30日付けで第1回目の審尋を発し、これに対し、平成18年6月2日に回答書の提出がなされ、さらに、当審において平成18年8月2日付けで第2回目の審尋を発し、これに対し、平成18年11月9日に回答書の提出がなされたものである。

2.平成16年6月22日付け手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成16年6月22日付け手続補正を却下する。

[理由]
(1)補正の内容
本件補正は、補正前の特許請求の範囲、
「【請求項1】 少なくとも1種の部分疎水性及び/又は疎水性の珪酸を含有するインキジェット-媒体用の塗料において、この部分疎水性及び/又は疎水性の珪酸が沈降珪酸、熱分解珪酸、天然の顔料およびシリケートからなる群から選択されていて、かつ部分疎水性及び/又は疎水性の珪酸が炭素含量0.1?5%でありかつ15μmより小さい粒径を有することを特徴とする、インキジェット-媒体用の塗料。
【請求項2】 請求項1に記載の塗料でコーテイングされていることを特徴とする、インキジェット-媒体。」
を、

「【請求項1】 インキジェット-媒体用の塗料において、この塗料は少なくとも1種の部分疎水性及び/又は疎水性の沈降珪酸を含有し、かつこの部分疎水性及び/又は疎水性の沈降珪酸が炭素含量0.1?5%であり、かつ15μmより小さい粒径を有することを特徴とする、インキジェット-媒体用の塗料。
【請求項2】 請求項1に記載の塗料でコーテイングされていることを特徴とする、インキジェット-媒体。」
と補正するものである。

(2)補正の適否
上記補正は、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「沈降珪酸、熱分解珪酸、天然の顔料およびシリケートからなる群から選択」される珪酸について、これを「沈降珪酸」に限定するものであるから、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

そこで、補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際、独立して特許を受けることができるものであるか否か(特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか否か)について以下に検討する。

(3)引用文献及び記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本願優先権主張日前に頒布された特開昭60-224580号公報(以下、「引用例2」という。)には、次の事項が記載されている。

記載事項a:特許請求の範囲の欄
「支持体上に、合成無定形シリカ及び水性接着剤からなるインク受理層を設けてなるインクジェット記録用紙に於いて、該合成無定形シリカがシランカップリング剤で表面処理されていることを特徴とするインクジェット用記録媒体。」

記載事項b:第2頁左下欄第4?10行
「シランカップリング剤で、表面処理した合成無定形シリカを含有させることによって、インク吸収速度、インク吸収容量を充分に保ちながら、解像度に影響の大きいドットのにじみ具合を好適に調整出来る」

記載事項c:第3頁左上欄第5?16行
「本発明で言う合成無定形シリカとは、…ケイ酸ナトリウムの酸、二酸化炭素、アンモニウム塩などによる複分解沈殿生成物等のいわゆるホワイトカーボン…数ミリミクロンから数十ミリミクロン位の一次粒子がシロキサン結合をした三次元的な二次粒子となったシリカゲル」

記載事項d:第3頁右上欄第20行?左下欄第6行
「シランカップリング剤の添加量は、…好ましくは0.5?10重量%で、あまり多いと合成無定形シリカが疎水性になり過ぎ水に分散しなくなる為、好ましくない。」

記載事項e:第5頁左上欄第9行?右下欄下から3行目
「実施例1 合成無定形シリカ(カープレックス#67、シオノギ製薬製)100部を400部の水に分散させ、高速撹拌しながら、シランカップリング剤(γ-Glycicloxypropyltrimethoxysilane、日本ユニカー製)10部を5%水溶液として滴下し、…シランカップリング剤処理顔料とした。シランカップリング剤処理顔料100部…を添加して、…塗工液を作成し、…塗布乾燥して、…実施例1…の記録用紙とした。…実施例1?6は、インク吸収性を良好に保ちながら、ドット径を小さくコントロール出来ることが認められる。」

また、周知例として提示する、本願優先権主張日前に頒布された特開平10-86504号公報(以下、「周知例A」という。)、及び特表2000-502377号公報(以下、「周知例B」という。)には、次の事項が記載されている。

記載事項f:周知例Aの段落0015?0022
「【0015】 …本発明においては、…非晶質シリカがとりわけ好ましく用いられる。非晶質シリカは…沈降法のような湿式法によって合成され、…
【0022】 …非晶質シリカ顔料(商品名:カープレックス#67…平均粒径という)約5μ…塩野義製薬(株)製)…インク受容層用塗液とした。…インクジェット記録媒体を得た。」

記載事項g:周知例Bの第4頁下から3行目?第5頁第6行
「沈降シリカおよびシリケート両者の製造において、…沈降の間に形成される最大の凝集体寸法は1ミクロン未満である。…最終的に、この凝集体は結合し、寸法範囲0.4?5ミクロンの凝集塊(…)を形成する。」

記載事項h:周知例Bの第9頁下から5行目?第10頁第2行
「インクジェット・テクノロジーにおける…シリカ・コーチングした紙は、…沈降シリカとヒュームドシリカとの80:20の配合物が用いられる。選択された沈降シリカおよびヒュームドシリカは、…FK310およびMOX170である。」

(4)対比・判断
引用例2には、「支持体上に、合成無定形シリカ及び水性接着剤からなるインク受理層を設けてなるインクジェット記録用紙に於いて、該合成無定形シリカがシランカップリング剤で表面処理されていることを特徴とするインクジェット用記録媒体」と記載され(記載事項a)、その具体的な例として、実施例1に、『合成無定形シリカ「カープレックス#67」100部を、シランカップリング剤(γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)10部で表面処理したシランカップリング剤処理顔料を添加してなる塗工液』(以下、「引用発明」という。)が記載されている(記載事項e)。(なお、引用例2の上記記載事項eの「γ-Glycicloxypropyltrimethoxysilane」との記載は「γ-Glycidoxypropyltrimethoxysilane」の誤記であると解される。)

本願補正発明と引用発明とを比較すると、引用発明の「塗工液」は、上記記載事項aの記載からみて「インクジェット記録用紙」の「インク受理層」を形成するものと解されるので、本願補正発明の「インキジェット-媒体用の塗料」に相当し、引用発明の「合成無定形シリカ」は本願補正発明の「珪酸」に相当し、引用発明の『「合成無定形シリカ」を「シランカップリング剤」で「表面処理」した「シランカップリング剤処理顔料」』は、上記記載事項dの「シランカップリング剤の添加量はあまり多いと合成無定形シリカが疎水性になり過ぎる」との記載からみて、程度は不明であるものの「疎水性」になっているものと解されるので、本願補正発明の「部分疎水性又は疎水性の珪酸」に相当するものと解される。

よって、両者は、「インキジェット-媒体用の塗料において、この塗料は少なくとも1種の部分疎水性又は疎水性の珪酸を含有するインキジェット-媒体用の塗料。」である点で一致し、(イ)珪酸が、前者は「沈降珪酸」であるのに対して、後者は「カープレックス#67」である点、(ロ)珪酸の炭素含量が、前者は「0.1?5%」であるのに対して、後者は炭素含量について記載がない点、(ハ)珪酸の粒径が、前者は「15μmより小さい」のに対して、後者は粒径について記載がない点、の3つの点で相違している。

そこで、上記相違点について検討する。

相違点(イ)について、引用例2には、「インクジェット用記録媒体」に用いる「合成無定形シリカ」として「複分解沈殿生成物等のいわゆるホワイトカーボン」を用いることが記載され(記載事項c)、周知例Aにも、「沈降法」によって合成された「非晶質シリカ」を「インクジェット記録媒体」を作成するための「インク受容層用塗液」に含有させることが記載され(記載事項f)、さらに、周知例Bにも、「インクジェット」の技術分野における「シリカ・コーチングした紙」において「沈降シリカ」の配合物を用いることが記載されているから(記載事項h)、インクジェット媒体用の塗料に「沈降珪酸」を用いることは周知なので、引用発明の「合成無定形シリカ」として「沈降珪酸」を採用することは、当業者が容易に想到し得ることである。

相違点(ロ)について、引用発明のシランカップリング剤である「γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン」は、
CH2CHCH2OC3H6Si(OCH3)3
\ /
O
という分子構造を有し、その分子量は236であって、うち炭素が108で、シランカップリング剤中のC含量は、45.8%となるから、このこととシランカップリング剤はシリカと反応する際に縮合反応が起こるであろうこととを勘案しても、シリカ100部に対してシランカップリング剤10部を用いた引用発明のものの炭素含量は、約4.4%と計算されるので、相違点(ロ)については実質的な差異ではない。

相違点(ハ)について、周知例Aには、インクジェット記録媒体に用いられる非晶質シリカ顔料である「カープレックス#67」の平均粒径が「約5μ」であることが記載されており(記載事項f)、周知例Bには、インクジェット・コーチング組成物に用いられる「沈降シリカ」が「0.4?5ミクロン」の凝集塊を形成することが記載されているところ(記載事項g)、本願補正発明の「15μmより小さい粒径」との数値範囲については、インクジェット媒体用の塗料に用いられるシリカ粒子の粒径として通常の数値範囲であり、しかも、上記記載事項fからみて、引用発明のものの「カープレックス#67」の粒径が本願補正発明の数値範囲を満たすことは明らかであるから、相違点(ハ)については実質的な差異ではない。

そして、本願補正発明の効果について検討するに、引用発明は、「インク吸収速度、インク吸収容量を充分に保ちながら、解像度に影響の大きいドットのにじみ具合を好適に調整」できるものであって(記載事項b)、「インク吸収性を良好に保ちながら、ドット径を小さくコントロール出来る」というものであるところ(記載事項e)、平成18年8月2日付けの審尋に対する同年11月9日付けの回答書における審判請求人の釈明ないし主張を斟酌するに、(あ)沈降珪酸を選択することの技術的意義についての審尋に対する回答書の「熱分解法珪酸、シリカゲル等と比較して低価である」との効果については、単に沈降珪酸が価格面で有利であることを示すだけで技術的意義があることを示すものではないから、当業者にとって格別顕著な効果であるとすることはできず、(き)珪酸の粒径を15μmより小さいものに特定することの技術的意義についての審尋に対する回答書の「点シャープネスおよび解像度を改善します」との効果について、引用発明は粒径が約5μの「カープレックス#67」を用いてドット径を小さくコントロールできるという効果を発揮するものであるから、当該効果は当業者にとって格別顕著な効果であるとすることはできない。また、審判請求人は、(け)炭素含量を0.1?5%の数値範囲にすることの技術的意義についての審尋に対する回答書の「炭素含量は、付着性等の塗料の性質に何ら直接的に影響を及ぼすものではありません。…例1による珪酸が良好でないにじみ性を示すことについてはあまり重要ではありません。…高い炭素含量は、にじみ性およびブリージングにおいて良好な結果をもたらすことが証明されるものの、本発明による効果に関しては、炭素含量のみにより決定されるものではなく、すべてのパラメータを充たしてのみ得られるものであります。」との主張、(さ)本願補正発明の実施例に相当する例1のものは粘度が高く流動性や加工性に劣るものであるとの審尋に対する回答書の「例1の粘度のデータは、一般的には特別に劣悪なものではありません。…本発明の効果として粘度は付加的な効果であるにすぎません。本発明による本質的な効果は、…インキジェット媒体用塗料としての優れた印刷特性、特にブリージングの回避にあります。」との主張、(し)本願補正発明の実施例に相当する例1のものは塗料の付着性及び平滑性で劣るものであるとの審尋及び(こ)例7の「付着性」の項目が「なし」というのは意味不明であるとの審尋に対する回答書の「例7については、劣悪な付着性であるといえます。…塗料の付着性については、すでに(こ)について説明したので省略します。」との主張、並びに(せ)?(て)の本願補正発明に該当するものは本願補正発明に該当しない例4、例8及び標準配合のものに比較して作用効果の点で劣っている場合が多々ある等の審尋に対する回答書の「例4および例8はもはや本発明によらない例でありますが、本出願前には公開されていなかったものであって技術水準に相当するものではありません。」との主張をしているが、本願補正発明の実施例(例1等)とそれ以外の例(例4、例8及び標準配合)とを比較し、特定の効果の観点(例えば、「カラー/輪郭特性」)からみて、本願補正発明のものがそれ以外のものに比べて優れているとすることはできず、本願補正発明に格別予想外の顕著な作用効果があるとは認められない。

したがって、本願補正発明は、引用例2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

(5)むすび
以上のとおり、本件補正は特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、その余のことを検討するまでもなく、特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
(1)本願発明
平成16年6月22日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願請求項1?2に係る発明は、平成16年2月18日付けの手続補正により補正された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?2に記載された事項により特定されるとおりのものである。

(2)引用文献及びその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用例2及びその記載事項は、前記「2.(3)」に示したとおりである。

(3)対比・判断
本願請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、「沈降珪酸、熱分解珪酸、天然の顔料およびシリケートからなる群から選択」される珪酸をその発明特定事項とするものであって、「沈降珪酸」を発明特定事項とする本願補正発明を包含するものであるから、本願発明は本願補正発明と同様の理由により、引用例2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)むすび
以上のとおり、本願発明は、本願優先権主張日前に頒布された引用例2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-12-27 
結審通知日 2007-01-05 
審決日 2007-01-16 
出願番号 特願2001-110418(P2001-110418)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C09D)
P 1 8・ 575- Z (C09D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山田 泰之  
特許庁審判長 原 健司
特許庁審判官 木村 敏康
鈴木 紀子
発明の名称 インキジェット-媒体用の塗料  
代理人 久野 琢也  
代理人 矢野 敏雄  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
代理人 ラインハルト・アインゼル  
代理人 山崎 利臣  

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