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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C07K
管理番号 1158408
審判番号 不服2004-79  
総通号数 91 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-07-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-01-05 
確定日 2007-06-01 
事件の表示 平成 4年特許願第271870号「可溶性ヒトインターロイキン-1レセプターのDNAおよび蛋白質」拒絶査定不服審判事件〔平成 5年12月21日出願公開、特開平 5-339294〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成4年10月9日(パリ条約による優先権主張日1992年1月14日、米国)に出願されたものであって、その請求項1?8に係る発明は、平成15年9月4日付けの手続補正書により補正された本願明細書の特許請求の範囲の請求項1?8に記載されたとおりのものと認められるところ、その請求項1の記載は以下のとおりである(以下、これを「本願発明」という。)。
「1.本質的に配列番号(SEQ ID NO):1のアミノ酸1-312又は3-312の配列からなる、可溶性ヒトIL-1レセプター(shuIL-1R)蛋白質。」

2.引用例
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先権主張の日前である1989年に頒布された、「インターロイキン-1受容体」という名称の発明に関する、国際公開第89/4838号パンフレット(以下、「引用文献1」という。)には、次の事項が記載されている。

(1)「本発明の範囲内の組換え体IL-1Rタンパク質はまた、N-末端がメチオニンであるようなネズミ及びヒトIL-1Rを含んでいる。さらに別の態様には、特定の領域、例えば、膜貫通領域及び細胞内ドメインが欠失し、IL-1R結合ドメインのみを持つ分子を与えるような可溶性の短縮したものが含まれている。」(第21頁第26?31行)
(2)「実施例9 短縮された組換え体ネズミIL-1受容体の構築、発現、精製 HELA-EBNA1細胞系列に適合する発現系を用いてIL-1受容体タンパク質の短縮された型のものを作製した・・・発現された可溶性のネズミIL-1受容体を含む上清は10日間までの間24時間ごとに集められた。細胞(2.5×106細胞)を加える前に、標識したIL-1α(2×10-11,50μl)を最初に試験する資料(50μl)と8℃で2時間インキュベーションすること以外はモスレイ(Mosley)らが開示した(J.Biol.Chem.262:2941,1987)ように、培地中のIL-1α結合活性は125I-1αのE4 6.1 C10細胞に対する阻害で測定した。各々の試験する試料は6通りの希釈(×3)でアッセイし、阻害曲線を相対阻害価を求めるのに用いた。・・・可溶性受容体は完全なIL-1結合活性を保持している。」(第40頁第29行?第42頁第18行)
(3)第4A-第4C図、「第4A図-第4C図はヒトIL-1受容体をコードするcDNA配列と、それに由来するcDNAのコード領域のアミノ酸配列を表している。第4A図-第4B図において、ヌクレオチド及びアミノ酸には、成熟タンパク質のN-末端を示すロイシン残基(下線)から番号がつけられている。20残基のアミノ酸からなる膜貫通領域もまた下線で示されている。」(第48?50頁、第9頁第21?25行)
(4)「4.8KbヒトIL-1Rクローンの制限酵素地図作製と塩基配列決定により、このクローンが細胞外すなわち膜貫通領域より外側のN末端領域で対応するネズミの配列と80%のアミノ酸配列の同一性を示し、膜貫通領域では63%の同一性、細胞質側すなわちC末端領域では87%の同一性を示す518アミノ酸をコードしている配列を含んでいることが明らかになった。」(第34頁第20?26行)

原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先権主張の日前である1989年に頒布された、「The Journal of Immunology , Vol.142, No.12, 1989, p.4314-4320」(以下、「引用文献2」という。)には、「Retention of Ligand BInding activity by the Extracellular Domain of the IL-1 Receptor」と題する論文が記載されており、該論文には、次の事項が記載されている。

(5)「マウスT細胞上のIL-1Rは80kDaの細胞表面糖タンパクであって、IL-1α及びIL-1βに結合する。我々は、最近、この分子をコードするcDNAクローンを単離した。プライマリーシークエンスから、成熟レセプターは557残基であって、319残基の炭化水素の豊富な細胞外領域を有すると推定される。我々は、この領域をコードするcDNAクローンを構築した(1-316残基)。このcDNAを、HeLa細胞に発現させることにより、可溶性のIL-1α結合タンパクを培地中に分泌させた。量的な結合実験は、短縮型レセプターが、全長のIL-1Rと区別出来ない程度の結合活性を有するという結果を示した。」(第4314頁、アブストラクト)
(6)第6図、表1、「第6図は平衡結合実験の結果であり、抗体及び短縮型レセプターによってコートされたプレートに対する、IL-1αの結合の、用量-反応曲線が示されている。このデータの解析(表1)は、このレセプターが1つのクラスの結合部位を有するようにふるまい、EL4 6.1 C10細胞やニトロセルロース上に結合したEL4 6.1 C10細胞抽出物、あるいは、COS細胞による発現システムにおいて組換え体として発現されている、全長のものと同じ親和性を有することを示している。」(第4317頁の第6図、右欄第8?17行、及び、第4318頁の表1)
(7)第7図、「可溶性レセプターが、全長のものと比較し得る結合特性を有するかについて、我々は、可溶性レセプターが、IL-1の細胞への結合を阻害し得るか実験した。第7図に示されるように、短縮型のレセプターは、細胞とIL-1の結合に競合することができる。」(第4318頁の第7図、第4317頁の右欄第38?43行)

原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先権主張の日前である1991年12月21日に頒布された、国際公開91/18982号パンフレット(以下、「引用文献3」という。)には、次の事項が記載されている。
(8)「タイプII IL-1Rのサブユニットは、末端あるは内部の残基又は配列を欠失させて作製できる。本発明は、例えば、タイプII IL-1Rの細胞外領域の全部又は一部に相当する可溶性タイプII IL-1Rを生じるC端欠失を意図している。生じるタンパク質はIL-1に結合能があることが望ましい。特に望ましい配列は、タイプII IL-1Rの膜貫通領域と細胞内領域が欠失しているか、親水性残基に置換しており、受容体の細胞培養液への分泌を促進する配列である。」(第10頁第25?31行)
(9)「可溶性タイプII IL-1R構造は、タイプII IL-1RをコードするDNAの3’領域を欠失させ、適当な発現ベクターにDNAを挿入し、発現させた。」(第11頁第5?7行)
(10)「組換え体可溶性タイプII IL-1Rの治療投与 本発明は、有効量の可溶性タイプII IL-1Rタンパク質と適当の希釈液及びキャリアー(担体)からなる治療用組成物を使用する方法、並びに有効量の可溶性タイプII IL-1Rタンパク質の投与によって、ヒトのIL-1依存免疫依存反応を抑制する方法を提供する。」(第19頁第21?25頁)
(11)「タイプII IL-1Rの結合研究 上の実施例1で述べたように発現、及び精製された組換えヒトタイプII IL-1Rの結合阻害係数は、様々な濃度の競合物質(IL-1β又はIL-1α)を一定量のラジオラベルしたIL-1β又はIL-1αとタイプII IL-1Rを発現している細胞とインキュベートする阻害結合アッセイによって決定された。競合物質は受容体に結合し、ラジオラベルしたリガンドが受容体に結合するのを阻害する。・・・このアッセイ(タイプII IL-1Rへの125I-IL-1βの結合をラベルしないヒトIL-1βを競合物として使用して阻害する)は、全長ヒトタイプII IL-1RはKI1は約19±8×109、KI2は約0.2±0.002×109という2層的なIL-1βへの結合を示すことを示唆した。・・・上の実施例2で述べたように発現及び精製された溶解性ヒトタイプII IL-1Rの結合阻害定数は、様々な濃度のIL-1β競合物を一定量のラジオラベルしたI-IL-1βとタイプII IL-1Rを発現しているCB23細胞(エプシュタイン バーウィルス トランスフォームド・コード・血球Bリンパ細胞系統)とインキュベートする阻害結合アッセイによって決定された。・・・このアッセイ(125I-IL-1βの結合を溶解性ヒトタイプII IL-1Rを使って阻害する)は、溶解性ヒトタイプII IL-1Rタンパク質の投与は約3.5×109M-1のKIをもつこと示した。同様の方法を用いて溶解性ヒトタイプII IL-1RによるIL-1αの結合の阻害により、溶解性ヒトタイプII IL-1Rは1.4×108M-1のKIをもつことが示された。」(第30頁第28行?第31頁第21行)

3.対比
本願発明の、配列番号(SEQ ID NO):1のアミノ酸1-312又は3-312の配列は、明細書の実施例1に記載されるとおり、ヒトIL-1レセプター蛋白質の、膜貫通領域及び細胞質領域の全部と細胞外領域の一部を欠失させ、当該欠失した細胞外領域の一部を部分的に再生させて得たものであり、全長の細胞外領域のC末の4アミノ酸が欠失され、あるいは更にN末の2アミノ酸が欠失されたものである。
一方、引用文献1には、上記摘記事項の(2)に示されるとおり、「可溶性のネズミIL-1受容体」が記載されており、この「可溶性のネズミIL-1受容体」は、上記摘記事項の(1)に示されるように、「膜貫通領域及び細胞内ドメイン」を欠失させ、「IL-1R結合ドメインのみを持つ分子を与える」ように可溶性に短縮することにより得られたものである。
してみれば、引用文献1には、「膜貫通領域及び細胞内ドメインを欠失させた可溶性のネズミIL-1受容体」(以下、引用発明という。)が記載されているといえる。
そこで、本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「受容体」、及び「細胞内ドメイン」は、それぞれ、本願発明の「レセプター蛋白質」、及び「細胞内領域」に相当するから、両者は、「膜貫通領域及び細胞内領域を欠失させた可溶性IL-1レセプター蛋白質 」である点で一致し、本願発明においてはヒト由来の「本質的に配列番号(SEQ ID NO):1のアミノ酸1-312又は3-312の配列からなる」ものであるのに対し、引用発明のものは、ネズミ由来のものであり、上記配列からなるものではない点で相違する。

4.当審の判断
上記相違点について検討する。
引用文献1の摘記事項(3)に示されているヒトIL-1受容体のアミノ酸配列は、本願発明における配列番号(SEQ ID NO):1のアミノ酸配列と同一の配列であり、引用文献1には、更に、当該配列中の膜貫通領域が、本願発明における配列番号:1のアミノ酸317位に該当するHisより開始することも記載されている(なお、本願発明における配列番号(SEQ ID NO):1のアミノ酸配列と、引用文献1の上記摘記事項(3)に示されるアミノ酸配列のナンバリングには、アミノ酸3残基のずれがあるが、これは、前者においてはAspを成熟タンパクの第一位の残基としているのに対し、後者においては、これより3残基だけ5’末端側にずれたLeuを推定された成熟タンパクの第一位の残基としていることによるものであって、アミノ酸配列自体は同一である。)。
そして、引用文献1の摘記事項(4)に示されるように、ヒトのIL-1レセプター蛋白質と、ネズミのIL-1レセプター蛋白質は、膜貫通領域より外側のN末端領域に存在する細胞外領域、膜貫通領域、及び、細胞質側すなわちC末端領域のそれぞれにおいて、高い相同性を有するものである。
してみれば、このようなヒトとネズミのIL-1レセプターの全長配列における高い相同性から、ヒト由来のIL-1レセプター蛋白質についても、ネズミのそれと同様に、可溶性のレセプターが得られることを期待して、全長配列、及び膜貫通領域の存在する位置の知られたヒトIL-1レセプター蛋白質の、膜貫通領域及び細胞質側に相当する部分を欠失させることは、当業者が容易に想到し得たことであり、IL-1の結合性が保持される範囲内で、細胞外領域の、5’側の一部や、膜貫通領域に接する数個のアミノ酸を欠失させ、配列番号:1のアミノ酸1-312又は3-312程度に相当するものとすることも、当業者が適宜なし得たことである。
そして、その効果も格別なものとは認められない。
これにつき、審判請求人は、審判請求書において、本願発明の奏する効果について、本願発明前には、細胞結合型のヒトIL-1レセプター蛋白質がIL-1に結合するということが確認されていたにとどまり、遊離の可溶性の型が同様の機能を維持するかは確認されておらず、短縮型の細胞外ドメインの溶液機能としては、IL-1との結合が全く生じないものである、という可能性もあった旨主張する。
しかしながら、引用文献1の上記摘記事項(4)には、引用発明に係る可溶性ネズミIL-1レセプター蛋白質が、データは示されていないものの完全なIL-1結合活性を保持していることが記載され、また、引用文献2の摘記事項(5)及び(6)には、引用文献1に記載されたものと同じ可溶性マウスIL-1レセプター蛋白質が、本願と同様の結合実験において、全長のものと同様のIL-1結合活性を有することがデータをもって示されており、かつ、上述のように、ヒトのIL-1レセプター蛋白質と、マウスのIL-1レセプター蛋白質は、膜貫通領域より外側のN末端領域に存在する細胞外領域、膜貫通領域、及び、細胞質側すなわちC末端領域のそれぞれにおいて、高い相同性を有するものであるから、ヒトのIL-1レセプター蛋白質についても、マウスのIL-1レセプター蛋白質と同様に、短縮型の細胞外ドメインとしても、IL-1に対する結合活性を保持し得ることは、当業者が予測し得ることである。
さらに、審判請求人は、本願発明は、IL-1レセプター蛋白質の可溶化型が、IL-1に結合することに加えて、IL-1を不活性化することを初めて実証した画期的な発明であり、本願発明により、前(pre-)炎症性サイトカインIL-1の治療用阻害剤としてIL-1Rの短縮型を使用する、治療手段が提供される旨主張する。
これについても、引用文献2の摘記事項(7)には、図7に示されるように、IL-1のEL4 6.1 C10細胞に対する結合を、可溶型マウスIL-1レセプター蛋白質が阻害することが記載されている。さらに、引用文献3にも、上記摘記事項(8)(9)に示されるように、本願と同様の手法で、膜貫通領域及び細胞内領域を欠失させることにより作製したタイプII IL-1レセプター蛋白質について、上記摘記事項(11)に示されるように、これが、タイプII IL-1レセプター蛋白質を発現している細胞とラジオラベルされたIL-1との結合を競合的に阻害する活性を保持することがデータをもって示されており、これは可溶型のものが、全長のものと同様に、IL-1に結合することに加えて、IL-1を不活性化することに他ならない。
してみれば、ヒトのIL-1レセプター蛋白質に対して相同性の高いマウスのIL-1レセプター蛋白質についても、また、タイプは異なるものの、ヒトのIL-1Rタンパク質についても、可溶化されたものが、IL-1の全長のIL-1レセプターへの結合を阻害する、すなわち、IL-1を不活性化することが、本願優先日には当業者に知られていたのであるから、本願発明の可溶性ヒトIL-1レセプタ-蛋白質が、IL-1を不活性化することが、当業者の予測を超えるものであるとすることはできない。
さらに、「本願発明により、前(pre-)炎症性サイトカインIL-1の治療用阻害剤としてIL-1Rの短縮型を使用する、治療手段が提供される」という審判請求人の主張する効果についても、引用文献3の上記摘記事項(10)に示されるように、有効量の可溶性タイプII IL-1レセプタ-蛋白質の投与によって、ヒトのIL-1依存免疫依存反応を抑制することができることは知られているから、当業者の予測を超える顕著なものとは認められない。

審判請求人は、審判請求書において、本願明細書の記載に基づいて、特許請求の範囲を、可溶性ヒトIL-1レセプタ蛋白質を含む、IL-1を結合するための組成物とする補正案を提示しているが、本願の可溶性ヒトIL-1レセプター蛋白質がIL-1と結合することは、上述のとおり、当業者が容易に予測し得ることであるから、本願請求項を組成物の形式に補正したとしても、上記拒絶の理由は覆らない。

5.むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、原査定で引用した上記引用文献1?3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるので、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-12-20 
結審通知日 2006-12-21 
審決日 2007-01-22 
出願番号 特願平4-271870
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C07K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 ▲高▼ 美葉子  
特許庁審判長 種村 慈樹
特許庁審判官 八原 由美子
高堀 栄二
発明の名称 可溶性ヒトインターロイキン-1レセプターのDNAおよび蛋白質  
代理人 富田 博行  
代理人 泉谷 玲子  
代理人 社本 一夫  
代理人 増井 忠弐  
代理人 千葉 昭男  
代理人 小林 泰  

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