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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G01B
管理番号 1158635
審判番号 不服2004-23961  
総通号数 91 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-07-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-11-24 
確定日 2007-06-07 
事件の表示 平成10年特許願第131553号「距離計測装置およびこれを用いた物体検出装置ならびに受光信号処理装置」拒絶査定不服審判事件〔平成11年11月26日出願公開、特開平11-325823〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成10年5月14日の出願であって、平成16年10月20日付けで拒絶査定(発送日平成16年10月26日)がなされ、これに対し、同年11月24日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年12月17日付けで手続補正がなされたものである。

第2 平成16年12月17日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成16年12月17日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1の記載を、補正前の、
「【請求項1】距離計測対象に向けての投光とその反射光の受光とに関連する時間に基づいて該距離計測対象までの距離を計測する距離計測装置において、所定の計測距離にある距離計測対象からの反射光の受光時間を時間幅のゲートとして想定し、そのゲートされた想定時間の到来と前記反射光の受光量とに関連する受光信号を前記距離計測のための受光信号として用いる、ことを特徴とする距離計測装置。」
から、補正後の
「【請求項1】距離計測対象に向けての投光とその反射光の受光とに関連する時間に基づいて該距離計測対象までの距離を計測する距離計測装置において、所定の計測距離にある距離計測対象からの反射光の受光時間を時間幅のゲートとして想定し、そのゲートされた想定時間の到来と前記反射光の受光量とに関連する受光信号を前記距離計測のための受光信号として用い、前記時間幅を、前記投光の動作をしてから一定時間経過後の所定の時間範囲としたことを特徴とする距離計測装置。」(当審注:アンダーラインは補正箇所を示すために付したものである。)
に補正する補正事項を含むものである。
上記補正事項は、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である『時間幅』に関して、さらに、「前記時間幅を、前記投光の動作をしてから一定時間経過後の所定の時間範囲とした」との限定を附加するものであって、特許法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とする事項に該当する。
そこで、上記補正後の請求項1に記載された事項により特定される発明(以下、「補正後第1発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて、以下に検討する。

2 独立特許要件について
(1)補正後第1発明
「【請求項1】距離計測対象に向けての投光とその反射光の受光とに関連する時間に基づいて該距離計測対象までの距離を計測する距離計測装置において、所定の計測距離にある距離計測対象からの反射光の受光時間を時間幅のゲートとして想定し、そのゲートされた想定時間の到来と前記反射光の受光量とに関連する受光信号を前記距離計測のための受光信号として用い、前記時間幅を、前記投光の動作をしてから一定時間経過後の所定の時間範囲としたことを特徴とする距離計測装置。」

(2)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された本願出願前に頒布された刊行物である特開平9-229622号公報(以下、「引用例」という。)には、以下の事項が図面と共に記載されている。
ア 「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、船舶や潜水艦などで水中や海底などの探査を行う際に用いられる水中用レーザ測距装置に関する。
【0002】【従来の技術】船舶や潜水艦などで水中や海底などの探査を行う際に用いられる従来の水中用レーザ測距装置の概略構成を図4に示す。図4中、21はトリガ信号発生器、22はパルスレーザ発振器、23は集光レンズ、24は光センサ、25はタイムゲート回路、26は演算処理装置である。
【0003】図4に示すように、トリガ信号発生器21からパルスレーザ発振器22へトリガ信号を送り、パルスレーザ発振器22から数ns程度でパルスレーザ光1を発振すると、当該パルスレーザ光1は、物体101で反射し、反射したパルスレーザ光1aが集光レンズ23で集光され、光センサ24で電気信号に変換される。この際、パルスレーザ発振器22から発振されたパルスレーザ光1の一部は、水中の浮遊粒子102などで散乱してしまい、散乱したパルスレーザ光1bが集光レンズ23で集光されて外乱となってしまう場合がある。そこで、後述するタイムゲート回路25により、パルスレーザ光1aの電気信号のみを演算処理装置26に送り、パルスレーザ光1の発振時とパルスレーザ光1aの受光時との時間差から、下記に示す式(1)に基づいて、物体101との距離を算出するようになっている。
【0004】
【数1】l=vt/2n ・・・(1)
但し、l:パルスレーザ光の伝搬距離
v:パルスレーザ光の速度
t:パルスレーザ光の発振時と受光時との時間差
n:水の屈折率
【0005】ここで、上述したタイムゲート回路25の機能を図5を用いて説明する。図5(a)に示すように、パルスレーザ発振器22から発振されたパルスレーザ光1は、前述したように、その一部が浮遊粒子102などで散乱すると、散乱せずに物体101で反射されたパルスレーザ光1aが集光レンズ23で受光される前に、散乱した上記パルスレーザ光1bが集光レンズ23で受光されてしまう。このため、光センサ24での受光レベルは、図5(b)に示すように、常に高くなってしまい、上記パルスレーザ光1aのピーク2aを識別することが困難となってしまう。
【0006】なぜなら、光は、水中での減衰量が空気中での減衰量よりも非常に大きく、透過特性のよい青色波長の場合でも30mの伝搬で約10-9にまで減衰してしまうことから、フォトダイオードなどのようなダイナミックレンジの広い高感度の光センサを用いているため、近距離に存在する浮遊粒子102で反射されたパルスレーザ光1bは、受光レベルが非常に高くなってしまうからである。」
イ 「【0007】そこで、上記光センサ24で受光したパルスレーザ光1a,1bの信号のうち、パルスレーザ光1の発振時t1から所定時間t2までの信号をタイムゲート回路25でカットすることにより、図5(c)に示すように、所定時間t2以前に受光されるパルスレーザ光1bに基づく信号を取り除き、上記所定時間t2以後の信号から、所定のしきい値Lよりも大きい信号、即ち、パルスレーザ光1aのピーク2aを抽出することにより、図5(d)に示すように、当該ピーク2aをデジタル信号3aとし、物体101との距離を算出しているのである。」

したがって、上記記載事項ア及びイからみて、引用例には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認める。
「物体101に向けてのパルスレーザ光1の発振時と反射したパルスレーザ光1aの受信時との時間差に基づいて物体101までの距離を計測するレーザー測距装置において、パルスレーザ光1の発振時t1から所定時間t2までの信号をタイムゲート回路25でカットし、上記所定時間t2以後の信号を用いて、所定のしきい値Lよりも大きい信号、即ち、パルスレーザ光1aのピーク2aを抽出するレーザ測距装置。」

(3)対比
補正後第1発明と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「物体101」、「パルスレーザ光1の発振」、「パルスレーザ光1aの受信」、「時間差に基づいて」、「レーザ測距装置」は、それぞれ、補正後第1発明の「距離計測対象」、「投光」、「受光」、「関連する時間に基づいて」、「距離計測装置」に相当する。
イ 引用発明における「発振時t1から所定時間t2までの信号をタイムゲート回路25でカットし、上記所定時間t2以後の信号を用いて」とは、所定の計測距離にある物体101からの反射光(パルスレーザ光1a)の受光時間を時間幅のゲートとして想定していることに他ならないから、引用発明の「パルスレーザ光1の発振時t1から所定時間t2までの信号をタイムゲート回路25でカットし、上記所定時間t2以後の信号を用いて、所定のしきい値Lよりも大きい信号、即ち、パルスレーザ光1aのピーク2aを抽出する」ことは、補正後第1発明の「所定の計測距離にある距離計測対象からの反射光の受光時間を時間幅のゲートとして想定し、そのゲートされた想定時間の到来と前記反射光の受光量とに関連する受光信号を前記距離計測のための受光信号として用い」ることに相当する。
ウ 引用発明における「所定時間t2」は補正後第1発明における「投光の動作をしてから一定時間経過」した時に他ならないから、引用発明の「パルスレーザ光1の発振時t1から所定時間t2までの信号をタイムゲート回路25でカットし、上記所定時間t2以後の信号を用い」ることと、補正後第1発明の「時間幅を、前記投光の動作をしてから一定時間経過後の所定の時間範囲とした」こととは、共に「時間幅を、投光の動作をしてから一定時間経過後の所定の時間とした」点で共通する。
以上ア?ウの考察より、両者は、次の一致点及び相違点を有する。
【一致点】
「距離計測対象に向けての投光とその反射光の受光とに関連する時間に基づいて該距離計測対象までの距離を計測する距離計測装置において、所定の計測距離にある距離計測対象からの反射光の受光時間を時間幅のゲートとして想定し、そのゲートされた想定時間の到来と前記反射光の受光量とに関連する受光信号を前記距離計測のための受光信号として用い、前記時間幅を、前記投光の動作をしてから一定時間経過後の所定の時間とした距離計測装置。」
【相違点】
一定時間経過後の所定の時間とした点に関して、補正後第1発明では、一定時間経過後の所定の「時間範囲」としたのに対し、引用発明では、t2以後の時間全てである点。

(4)判断
上記相違点について検討する。
距離計測対象物体からの反射波を受波するまでの時間に基づいて距離を計測する技術における時間幅ゲートに関して、例えば、次の文献1及び2には、以下のような事項が記載されている。
・文献1:特開昭59-18472号公報
「第2図は、後方散乱光および目標反射光によるパルス信号(6)と固定域値電圧(9)との関係を示す図で、・・・固定閾値電圧(9)は通常の天候状態において、測距範囲内の後方散乱光によるパルス信号が固定閾値電圧より小となる、なるべく低い値に設定されており、この固定閾値電圧を超える目標反射光が検出されるようになっている。ところが、大気の視界が劣化し、後方散乱光が異常に増大すると、図中、破線で示すように、近距離において後方散乱光によるパルス信号が固定閾値電圧(9)を越えるようになり、後方散乱による誤測距が生じるようになる。あるいは、このような場合においても誤測距がおこりにくいように、固定閾値電圧(9)をすこし高めに設定しておくと、遠距離にある目標からのパルス信号が検出できなくなり、従って、最大測距離が低下する結果となる。」(2頁左上欄11行?右上欄7行)
「この発明は、この欠点を除去するための手段を提供するものであって、・・・第3図は、この発明による1実施例を示す図で、パルスレーザ光を送信し、反射光を受光、光電変換、および増巾してパルス信号(6)を得る過程は従来の装置と同様なので、・・・(14)、(15)は電圧比較器、(16)、(17)はゲート回路、・・・(27)、(28)はレンジゲート発生器、(29)、(30)はレンジゲート、・・・である。初期において、・・・レンジゲート発生器(27)が出力するレンジゲート(29)は、第4図(a)および(b)に示すように、目標反射光を含む位置に設定される。・・・レンジゲート(29)、(30)の時間幅は等しくtwである。」(2頁右上欄12行?左下欄14行)
「一方、・・・することにより、常にレンジゲート(29)内においては、目標反射光によるパルス信号のみが検出され、同レンジゲート内の後方散乱光、等による誤警報確率を許容できる一定の値に保つことができる。なお、レンジゲート(29)が目標を補足し、距離データ(13)が連続して得られるようになれば・・・レンジゲート(29)、(30)が自動的に設定される」(3頁左上欄5?17行)
・文献2:実公昭58-26391号公報
「超音波等の信号を雪面へ送波し、雪面からの反射波を受波し、送波から受波までの時間間隔により積雪値を得る積雪計において、送波より所定時間経過後所定時間のみゲートを開き雪面からの反射波を通過させ雑音を排除するマスク回路と、・・・を設けたことを特徴とする積雪計。」(1欄18?23行)
「第2図は積雪計の1サイクルの動作状況を説明する図であり、イは同期用パルス発生回路1よりの出力パルス波形、ロは回路5より出る受波波形であり、この波形中、aは・・・廻り込み波形、bは・・・車輌が存在した場合の波形、cは道路上の積雪を測定している場合の受波波形を示す。ハはマスク回路6より発生するマスク出力波形、ニはアンド回路7より出力される受波パルス波形である。」(2欄25?33行)
「同期用パルス発生回路1よりの同期パルスをトリガとして、回路2よりトーンバースト出力波形を作り、3の送波器により超音波トーンバースト波が道路面に送波される。この送波器の道路面、道路上の積雪面、或いは送波器真下に存在した車輌からの反射波、または・・・等の雑音を受波器4により受波する。このようにして得る受波信号は回路5により増幅される。積雪深は送波から積雪面よりの反射波を受波するまでの時間間隔の測定を行なうことにより得るが(第2図の間隔t1)、このためのカウンタとして回路8を、またカウンタ用のクロックとして回路9が用意されている。カウンタ8のスタート信号は回路1より出力される同期パルスを用いているが、ストップ信号は回路6のマスク信号と回路5の受波出力信号のANDを回路7により作っている。・・・すなわち、カウンタ8のストップ信号は道路近辺からの反射波のみに対して有効なマスクオフ波形とのANDにより作られており、他のタイミングでは全てマスクされている。・・・このため、適正な位置(道路面より高さ数10cmと設定される例が多い)からの反射波以外からの反射波(例えば車両により)による誤動作からのがれることができる。」(2欄36行?3欄38行)
これらの記載によれば、文献1記載のレンジゲート(29)及び文献2記載のマスク回路6のマスク信号(第2図(ハ)参照)は、いずれも、時間幅を、一定時間経過後の所定の時間範囲とした時間幅ゲートであるというべきであるから、この点は周知の技術にすぎない。
したがって、引用発明の所定時間t2以後の信号全てを用いることに代えて、上記文献1、2記載の周知技術を採用して補正後第1発明のごとく構成することは当業者が容易になし得たものである。
そして、補正後第1発明の奏する効果についても、引用例に記載された事項及び周知技術から当業者が予測可能な範囲内のものにすぎない。

(5)むすび
以上のとおりであるから、補正後第1発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
よって、本件補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明
平成16年12月17日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし5に係る発明は、平成16年4月23日付け手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願第1発明」という。)は次のとおりである。
「【請求項1】距離計測対象に向けての投光とその反射光の受光とに関連する時間に基づいて該距離計測対象までの距離を計測する距離計測装置において、所定の計測距離にある距離計測対象からの反射光の受光時間を時間幅のゲートとして想定し、そのゲートされた想定時間の到来と前記反射光の受光量とに関連する受光信号を前記距離計測のための受光信号として用いる、ことを特徴とする距離計測装置。」

第4 引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例(特開平9-229622号公報)、及びその記載事項は、上記「第2」の「2(2)引用例」に記載したとおりである。

第5 対比・判断
本願第1発明は、上記「第2」の「2 独立特許要件について」で検討した補正後第1発明の発明特定事項において、『時間幅』に関して、「前記時間幅を、前記投光の動作をしてから一定時間経過後の所定の時間範囲とした」の特定事項を省いたものである。
そうすると、本願第1発明の発明特定事項を全て含みさらに他の特定事項を付加したものに相当する補正後第1発明が、上記「第2」の「2 独立特許要件について」に記載したとおり引用発明及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願第1発明も、同様の理由により、引用発明及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6 むすび
以上のとおり、本願第1発明は、引用発明及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そして、本願第1発明が特許を受けることができないものであるから、その余の請求項2?5に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-03-27 
結審通知日 2007-04-03 
審決日 2007-04-16 
出願番号 特願平10-131553
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01B)
P 1 8・ 575- Z (G01B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大和田 有軌福田 裕司  
特許庁審判長 杉野 裕幸
特許庁審判官 中村 直行
山川 雅也
発明の名称 距離計測装置およびこれを用いた物体検出装置ならびに受光信号処理装置  
代理人 岡田 和秀  

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