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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C08J
管理番号 1158643
審判番号 不服2005-1313  
総通号数 91 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-07-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-01-20 
確定日 2007-06-07 
事件の表示 平成10年特許願第187576号「ポリイミドフィルムおよびこれを用いた銅張積層板」拒絶査定不服審判事件〔平成11年 3月16日出願公開、特開平11- 71474〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 [1]手続の経緯
本願は、平成10年7月2日(優先権主張 平成9年7月4日 日本)の特許出願であって、平成15年1月29日に審査請求され、平成16年9月22日付けで拒絶理由が通知され、その指定期間内である平成16年12月6日に意見書と手続補正書が提出されたが、平成16年12月17日付けで拒絶査定がなされ、これに対し平成17年1月20日に拒絶査定に対する審判請求がなされたものである。

[2]原査定の拒絶の理由

原査定の理由となった平成16年9月22日付けの拒絶理由通知の理由
IIの概要は以下のとおりである。

本願の請求項1?6に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記1?3の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

( 引 用 文 献 等 一 覧)
1.特開昭62-129352号公報
2.特開昭62-267330号公報
3.特開平08-034870号公報

[3]特許法第29条第2項違反についての判断

[3-1]本願発明
本願請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成16年12月6日付け手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲請求項1に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】接着性改善のためにフィルム表面にチタン原子が存在しており、かつ、上記表面におけるチタン原子の原子数濃度は、片方の面および/または両方の面の表面をエックス線光電子分光法で測定した場合に0.1%以上10%以下であることを特徴とするポリイミドフィルム。」

[3-2]引用例(刊行物)に記載の事項
引用例1: 特開昭62-129352号公報
(摘示記載1-1)「1.フィルム重量当たり30?800ppmのチタン元素を含むことを特徴とする新規ポリイミドフィルム。」(請求項1)
(摘示記載1-2)「本発明者らはかかる実情に鑑み、これらの技術課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、特殊なチタン系有機化合物を導入することにより、フィルムの表面形成過程の中で接着能力を付与できる事を見い出し、本発明を完成させた。」(3頁右上欄1?5行)
(摘示記載1-3)「本発明の新規ポリイミドフィルムは、フィルムを構成するポリイミド樹脂に対して0.1?2.0重量%の前記チタン元素を含む物質を流延工程に先立って導入することにより得られる。・・・・・・・
流延工程に先立って導入する具体的実施態様の例としては・・・流延直後にスプレー等により表面に若干のコーティング工程を設ける等の変形工程も本発明の中には含まれるものである」(4頁左下欄11行?右下欄9行)

引用例2:特開昭62-267330号公報
(摘示記載2-1)「この発明は、ビフェニルテトラカルボン酸またはその酸二無水物を60モル%以上含有する芳香族テトラカルボン酸成分と、フェニレンジアミン類全50モル%以上含有する芳香族ジアミン成分とを略等モル重合して得られた芳香族ポリアミック酸100重量部と、有機極性溶媒5?150重量部とを含有する芳香族ポリマー組成物からなる固化フィルムの表面に、アミノシラン系、エポキシシラン系またはチタネート系の耐熱性表面処理剤の少なくとも一種を0.5重量%以上で100重量%まで(好ましくは1.0重量%以上、また塗布特性および処理液の安定性を考慮すると60重量%までが好ましい)含有し、かつ水分含有率が20重量%以下(好ましくは5.0重量%以下)である表面処理液を均一に塗布し、その後、前記表面処理液の塗布された固化フィルムを100?600℃の温度に加熱して、固化フィルムを形成しているポリアミック酸をイミド化すると共にフィルムを乾燥し熱処理することを特徴とするポリイミドフィルムの製造法を提供する。」(2頁右下欄下から6行?3頁左上欄16行)
(摘示記載2-2)「この発明は、高い接着性が付与されたポリイミドフィルムの製造法に関する。」(1頁左下欄下から1行?2行)
(摘示記載2-3)「[実施例9]イソプロピル-トリクミルフェニル-チタネート表面処理液(溶媒:100%N-ジメチルアセトアミド、チタネート化合物濃度:5重量%)を調製し、実施例1と同様な安定性試験を行なったところ、その時点においても均一な溶解状態に維持されていることが確認された。
ポリイミドフィルムの表面処理液として上記の表面処理液を用いた以外は実施例1と同様にして表面処理された芳香族ポリイミドフィルムを製造し、この芳香族ポリイミドフィルムと接着剤層付き銅箔とから得られた積層体について同様なT剥離試験と180°剥離試験とを行なった。
各試験の結果を第2表に示す。」(8頁右上欄1行?14行)
(摘示記載2-4)「[参考例1]・・・厚さ40μmの芳香族ポリイミドフィルムを製造した。エポキシ系接着剤(ハイソールジャパン社製、ハイソール: Lot.No.OX-035)を厚さ35μmの電解銅箔上に塗布し、120℃で30分間加熱乾燥して接着剤層(厚さ200μm)を形成した。次に、この電界銅箔上の接着剤層に上記芳香族ポリイミドフィルムを重ね合わせた後、・・・そして、この積層体を180℃で60分間乾燥した後13時間放置して、銅箔層とポリイミドフィルム層との間のT剥離試験(ASTM-D-1876)と18ア0°(註:「180°」の誤記と認める。)剥離試験(ASTM-D-903)とを行なった。」(5頁右下欄5行?6頁左上欄13行)
(摘示記載2-5)第2表中の実施例9の欄には次のような試験結果が記載されている。
「T剥離 B面(0.8) F面(0.5) 180°剥離 B面(2.8) F面(2.6)」(第8頁右下欄第2表)
(摘示記載2-6)第1表には参考例(比較例)として、表面処理液による処理をしていないポリイミドフィルムのT剥離試験、180°剥離試験結果が次のように記載されている。
「T剥離 B面(0.03) F面(0.02) 180°剥離 B面(0.3) F面(0.4)」(7頁右上欄第1表)
(摘示記載2-7)「その固化フィルムは、例えば、前述の芳香族テトラカルボン酸成分と芳香族ジアミン成分との略等モルを、有機極性溶媒中、約100℃以下の低い温度で、特に好ましくは0?80℃の温度で約0.1?10時間、重合して得られた高分子量の芳香族ポリアミック酸(芳香族ポリイミド前駆体)が、有機極性溶媒に約2?50重量%の濃度で均一に溶解している芳香族ポリアミック酸溶液を、製膜用ドープ液として使用して約150℃以下の流延温度、特に20?130℃程度の流延温度で支持体面上に液状の薄膜を形成し、その薄膜を支持体上て約120℃以下の乾燥温度、特に20?100℃程度の乾燥温度で約0.1?l時間乾燥する溶液流延法などの製膜法で形成される自己支持性の固化フィルムであればよい。」(4頁右上欄最下行?左下欄14行)
(摘示記載2-8)「この発明では耐熱性表面処理剤として、・・・イソプロピル-トリクミルフェニル-チタネート、ジクミルフェニル-オキシアセテート-チタネートなどのチタネート系の耐熱性表面処理剤(カップリング剤)などを用いることが好ましい。」(4頁右下欄16行?5頁左上欄18行)

[3-3]引用例に記載された発明
引用例1には、「1.フィルム重量当たり30?800ppmのチタン元素を含むことを特徴とする新規ポリイミドフィルム。」が記載されており(摘示記載1-1)、当該チタン元素はチタン系有機化合物に由来し、当該チタン系有機化合物がフィルムの表面形成過程の中で接着能力を付与できることや(摘示記載1-2)、前記チタン元素を含む物質を、流延工程の直後にスプレー等により表面に若干のコーティング工程を設けることも記載されている(摘示記載1-3)。ということは、ポリイミドフィルムの製造法において、流延工程は製膜工程であるから、チタン元素を含む物質を完全に硬化されていないフィルムの表面にコーティングしたことは自明であるし、このような工程を経て製造されたポリイミドフィルムの表面にチタン系有機化合物が多く存在することは当然であるから、引用例1には、「フィルムの表面形成過程の中で接着能力を付与できるチタン系有機化合物を、流延直後の表面が完全に硬化されていないフィルムにスプレー等によりコーティングし、その後イミド化処理して製造したフィルムであって、チタン系有機化合物がフィルム表面に存在し、フィルム重量当たり30?800ppmのチタン元素を含むポリイミドフィルム」の発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されている。

引用例2には、芳香族ポリアミック酸100重量部と、有機極性溶媒5?150重量部とを含有する芳香族ポリマー組成物からなる固化フィルムの表面に、チタネート系の耐熱性表面処理剤を0.5重量%以上含有し、かつ水分含有率が20重量%以下である表面処理液を均一に塗布し、その後、前記表面処理液の塗布された固化フィルムを100?600℃の温度に加熱して、固化フィルムを形成しているポリアミック酸をイミド化すると共にフィルムを乾燥し熱処理して製造したポリイミドフィルムが記載され(摘示記載2-1)、当該表面処理をすることにより高温(180℃で60分間)下の環境に置いた後でも接着性が良好となることが記載されている(摘示記載2-3?2-6)。また、引用例2に記載されている表面処理する固化フィルムは、溶液流延法などの製膜方法で形成される自己支持性の固化フィルムであることから、完全に硬化されていないフィルムであると認められるし、引用例2に記載されているチタネート系の耐熱性表面処理剤は、摘示記載2-8からするとイソプロピル-トリクミルフェニル-チタネート、ジクミルフェニル-オキシアセテート-チタネートなどのチタネート系の耐熱性表面処理剤である。
そうであるから、引用例2には、「高温下の環境に置いた後でも接着性が良好なポリイミドフィルムであって、表面にチタン原子が存在しており、芳香族ポリアミック酸100重量部と、有機極性溶媒5?150重量部とを含有する芳香族ポリマー組成物からなる完全に硬化されていない固化フィルムの表面に、イソプロピル-トリクミルフェニル-チタネート、ジクミルフェニル-オキシアセテート-チタネートなどの、チタネート系の耐熱性表面処理剤を0.5?100重量%含有し、かつ水分含有率が20重量%以下である表面処理液を均一に塗布し、その後、前記表面処理液の塗布された固化フィルムを100?600℃の温度に加熱して、固化フィルムを形成しているポリアミック酸をイミド化すると共にフィルムを乾燥し熱処理して製造したポリイミドフィルム」の発明(以下「引用例2発明」という。)が記載されている。

[3-4]対比・判断

本願発明と引用例1発明との対比
引用例1発明の「フィルムの表面形成過程の中で接着能力を付与できる」は本願発明の「接着性改善のために」に相当し、引用例1発明の「チタン系有機化合物がフィルム表面に存在しており」は本願発明の「フィルム表面にチタン原子が存在しており」に相当するから、両者は「接着性改善のためにフィルム表面にチタン原子が存在しているポリイミドフィルム」である点で一致し、本願発明は「上記(フィルム)表面におけるチタン原子の原子数濃度は、片方の面および/または両方の面の表面をエックス線光電子分光法で測定した場合に0.1%以上10%以下である」と規定されているのに対し、引用例1発明では「フィルム重量当たり30?800ppmのチタン元素を含むポリイミドフィルム」と規定されているのみで、エックス線光電子分光法で測定した場合のチタン元素数濃度について規定されていない点で相違する。

本願発明と引用例2発明との対比
引用例2発明の「高温下の環境に置いた後でも接着性が良好なポリイミドフィルムであって、表面にチタン原子が存在しており、」は本願発明の「接着性改善のためにフィルム表面にチタン原子が存在しており、」に相当するから、両者は「接着性改善のためにフィルム表面にチタン原子が存在しているポリイミドフィルム」である点で一致し、本願発明は「上記(ポリイミドフィルム)表面におけるチタン原子の原子数濃度は、片方の面および/または両方の面の表面をエックス線光電子分光法で測定した場合に0.1%以上10%以下である」と規定されているのに対し、引用例2発明ではそのような規定はなく、表面処理液中のチタネート系表面耐熱性表面処理剤の濃度が0.5?100重量%であることが規定されている点で相違する。

したがって、引用例1発明および引用例2発明と本願発明とを対比すると、両者は「接着性改善のためにフィルム表面にチタン原子が存在しているポリイミドフィルム」である点で一致し、後者では 「上記(ポリイミドフィルム)表面におけるチタン原子の原子数濃度は、片方の面および/または両方の面の表面をエックス線光電子分光法で測定した場合に0.1%以上10%以下である」と規定されているのに対し、前者ではそのような規定はなく、「フィルム重量当たり30?800ppmのチタン元素を含むポリイミドフィルム」(引用例1発明)や「表面処理液中のチタネート系表面耐熱性表面処理剤の濃度が0.5?100重量%である」(引用例2発明)と規定されている点で相違すると認める。

相違点について検討すると、ポリイミドフィルムにおいて使用環境等に応じて接着性の改善のために、表面に存在するチタン系処理剤の濃度、つまりチタン原子の濃度を最適化することは当業者が実験により行うことであり、その濃度規定において「チタン原子の原子数濃度がエックス線光電子分光法で測定した場合に0.1%以上10%以下である」との手法を用いることが格別のこととはいえない。
審判請求人は意見書および審判請求書において、常温での接着性の改良よりも高温・高湿下での使用環境における接着性改良の方が困難な課題であり、引用例1?2にはこのような課題について記載がない旨を主張しているが、引用例2発明では180℃で60分乾燥後13時間放置して高温暴露下での接着性を検討しているし(摘示記載2-3?2-6)、技術の進歩等により使用環境は過酷化するものであって、上記課題も接着性の改良における一指標にすぎないから、上記課題の有無が格別のことではない。

また審判請求人は意見書及び審判請求書において、本願発明は、フィルム表面でのチタン原子数濃度を所定の範囲に規定することにより、所望の効果を得ることができるが、引用例1?2にはこのような構成・効果について記載がない旨も主張しているが、引用例2発明におけるフィルムの製造法と本願発明のフィルムの製造法(本願の請求項2)とは実質的に同じ手法であり、有機チタン化合物の溶液濃度についても重複するので(本願の段落【0026】参照)、その結果得られるポリイミドフィルム表面のチタン原子の原子数濃度は同程度になるものと認められるし、チタン原子数濃度の上限値、下限値の設定については以下のとおり当業者が容易に行う事項であり、効果も格別のものではない。

(下限値0.1の設定について)
本願明細書をみても実施例では0.3?0.5と比較例0とが比較されているに止まり、その臨界的意義は明かでない。仮に下限値を0.1とすることに臨界的意義があったとしても、使用環境等における最適化を図る際に接着性を有する下限値を設定したにすぎない。

(上限値10の設定について)
当該技術分野において、樹脂性フィルムに含有される添加剤の濃度をフィルムの外観を損ねない程度の量に抑えることは周知の課題であるから、引用例1発明、引用例2発明においてもフィルムの処理に用いるチタン系有機化合物、チタネート系表面処理剤をフィルムの外観を損ねない程度とすることは当業者が当然行う事項である。

[4]まとめ
以上のとおり、本願発明は、引用例1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
 
審理終結日 2007-03-28 
結審通知日 2007-04-03 
審決日 2007-04-17 
出願番号 特願平10-187576
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C08J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 天野 宏樹  
特許庁審判長 井出 隆一
特許庁審判官 渡辺 陽子
福井 美穂
発明の名称 ポリイミドフィルムおよびこれを用いた銅張積層板  
代理人 特許業務法人原謙三国際特許事務所  

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