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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01B
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01B
管理番号 1158777
異議申立番号 異議2003-72759  
総通号数 91 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1999-02-02 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-11-12 
確定日 2007-05-14 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3405199号「感光性導電ペースト」の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3405199号の請求項1、2に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
(1) 本件特許
本件特許に係る出願は、平成5年特許願第9270号(この出願を「原出願」という。)の出願の一部を新たな出願としようとしたものである。
特許権者:東レ株式会社
発明の名称:「感光性導電ペースト」
特許出願日:平成10年6月11日(平成10年特許願第163173号、以下「本件出願」という。)
原出願の出願日:平成5年1月22日
優先権主張日:平成4年1月24日(日本)
設定登録日:平成15年3月7日
特許番号:特許第3405199号(この明細書を「本件特許明細書」という。)

(2) 本件手続
特許異議申立日(太陽インキ製造株式会社):平成15年11月12日(この異議申立を「異議申立て1」という。)
特許異議申立日(寺尾健吾):平成15年11月14日(この異議申立を「異議申立て2」という。)
取消理由通知発送日:平成16年8月20日
訂正請求日:平成16年10月19日
審尋発送日:平成16年11月12日
回答書提出日(寺尾健吾):平成17年1月4日
回答書提出日(太陽インキ製造株式会社):平成17年1月11日
特許異議決定日:平成17年4月28日
特許異議決定の結論:「訂正を認める。特許第3405199号の請求項1ないし2に係る特許を取り消す。」
特許異議決定謄本送達日:平成17年5月20日(東レ株式会社に対し)
特許取消決定取消訴訟提起日:平成17年6月17日(平成17年(行ケ)10531号)
判決言渡し日:平成18年11月22日
判決の主文:「特許庁が異議2003-72759号事件について平成17年4月28日にした決定を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」
取消理由通知発送日:平成19年1月26日
訂正請求日:平成19年3月29日(この訂正請求に係る訂正を「本件訂正」という。)
平成16年10月19日の訂正請求の取下日:平成19年3月29日

2.本件訂正の適否
(1) 本件訂正の内容
本件訂正は、以下の事項a?hを訂正して、本件特許明細書を平成19年3月29日付け訂正請求書に添付した訂正明細書のとおりとしようとするものである。
a 本件特許明細書中、特許請求の範囲の請求項1において、「(b)酸価が40?200のアクリル系共重合体」とあるのを、「(b)側鎖にカルボキシル基とエチレン性不飽和基を有し、かつ酸価が40?200のアクリル系共重合体」と訂正する。
b 段落【0007】において、「(b)酸価が40?200のアクリル系共重合体」とあるのを、「(b)側鎖にカルボキシル基とエチレン性不飽和基を有し、かつ酸価が40?200のアクリル系共重合体」と訂正する。
c 段落【0010】において、「0.5m未満」とあるのを、「0.5μm未満」と訂正する。
d 段落【0013】において、「本発明において使用されるアクリル系共重合体は、」とあるのを「本発明において使用される側鎖にカルボキシル基とエチレン性不飽和基を有するアクリル系共重合体は、」と訂正する。
e 段落【0015】において、「以上に示したポリマーバインダーに対して、エチレン性不飽和基を側鎖に付加させることによって、感光性ポリマーとして用いることができる。」とあるのを削除する。
f 段落【0017】において、「このようなアクリル系共重合体の酸価(AV)は40?200が好ましく、」とあるのを「このような側鎖にカルボキシル基とエチレン性不飽和基を有するアクリル系共重合体の酸価(AV)は40?200が好ましく、」と訂正する。
g 段落【0049】において「ポリマーバインダー1;40%のメタアクリル酸、30%のメチルメタアクリレートおよび30%のスチレンの共重合体に対して0.4当量(40%に相当する)のグリシジルアクリレートを付加反応させたポリマー、酸価は150mgKOH/g」とあるのを、「ポリマーバインダー1;40%のメタアクリル酸、30%のメチルメタアクリレートおよび30%のスチレンの共重合体に対して0.4当量(40%に相当する)のグリシジルアクリレートを付加反応させたポリマー」と訂正し、「ポリマーバインダー2;30%のメタアクリル酸、35%のエチルメタクリレートおよび35%のスチレンの共重合体に対して0.3当量のクロライドアクリレートを付加反応させたポリマー、酸価は70mgKOH/g」とあるのを「ポリマーバインダー2;30%のメタアクリル酸、35%のエチルメタクリレートおよび35%のスチレンの共重合体に対して0.3当量のクロライドアクリレートを付加反応させたポリマー」と訂正する。
h 段落【0061】及び段落【0017】を削除する。
(以下、これらの訂正を、それぞれ「訂正a」、「訂正b」・・・という。なお、下線は訂正箇所である。)

(2) 本件訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
(2-1) 訂正aについて
訂正aは、特許請求の範囲の請求項1における「アクリル系共重合体」を、本件特許明細書段落【0018】の「感光性ポリマーバインダー成分中に含まれる側鎖にカルボキシル基とエチレン性不飽和基を有するアクリル系共重合体」等の記載を基に、「側鎖にカルボキシル基とエチレン性不飽和基」を有するアクリル系共重合体に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。そして、訂正aは、本件特許明細書に記載した事項の範囲内でされたものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
(2-2) 訂正b?hについて
訂正bは、特許請求の範囲を減縮する訂正aに伴って本件特許明細書の記載を請求項1の記載と整合させるためのものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当する。
訂正cは、誤記の訂正を目的とする訂正に該当する。
訂正d、fは、「アクリル系共重合体」が、「側鎖にカルボキシル基とエチレン性不飽和基を有するアクリル系共重合体」を有するアクリル系共重合体であることを明確にするものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当する。
訂正eは、訂正b、dをした結果、不整合となった記載を削除するものであって、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当する。
さらに、訂正g、hは、不要な記載を削除するものであって、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当する。
そして、いずれの訂正b?hも本件特許明細書に記載した事項の範囲内でされたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
(2-3) 小括
したがって、本件訂正は、平成15年法律第47号による廃止前の特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書き、第2項及び第3項の規定に適合する。
よって、本件訂正を認める。

3.本件発明
以上のとおり、本件訂正は認容することができるものであるから、本件請求項1、2に係る発明は、本件訂正がされた請求項1、2に記載される次のとおりのものである。
「【請求項1】(a)Au、Ag、PdおよびPtの群から選ばれる少なくとも1種を含む導電性粉末、(b)側鎖にカルボキシル基とエチレン性不飽和基を有し、かつ酸価が40?200のアクリル系共重合体、(c)光反応性化合物、(d)光重合開始剤および(e)ガラス転移点が300?500℃のガラスフリットを含有することを特徴とする感光性導電ペースト。
【請求項2】導電性粉末がAg、PdおよびPtの群から選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項1記載の感光性導電ペースト。」
(以下、それぞれ「本件発明1」、「本件発明2」という。)

4.特許異議申立ての取消理由の概要
(1) 特許異議申立て1の取消理由
特許異議申立人 太陽インキ製造株式会社は、証拠として甲第1号証(平成5年特許願第9270号明細書)、甲第2号証(特開平5-271576号公報)を提示し、本件出願は、特許法第44条で規定する特許出願の一部を新たな特許出願としたものということはできないものであるから、本件出願の出願日は、現実の出願日である平成10年6月11日である。
すると、本件発明1及び2は、その出願前公知の刊行物である甲第2号証に記載された発明であるか、又はその発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、特許法第29条第1項第3号又は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、取り消されるべきものである、と主張している。

(2) 特許異議申立て2の取消理由
特許異議申立人 寺尾健吾は、証拠として、甲第1号証(特開昭55-36997号公報)、甲第2号証(特開平3-171690号公報)、甲第3号証(米国特許5049480号明細書)、甲第4号証(山根正之著「はじめてガラスを作る人のために」(内田老鶴圃(1989)第50頁?第53頁)及び甲第5号証(新保優・吉川和由「耐酸性ホウケイ酸亜鉛鉛系パッシベーションガラスの特性」日本セラミック協会学術論文誌96〔2〕201-05(1988))を提示し、本件発明1及び2は、その出願前に頒布された刊行物である甲第1号証ないし甲第5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、取り消されるべきものである、と主張している。

5.甲各号証の記載事項又は説明
(1) 特許異議申立て1の甲各号証
(1-1) 甲第1号証(平成5年特許願第9270号明細書)
甲第1号証は原出願(平成5年特許願第9270号)の願書に最初に添付した明細書である。
(1-2) 甲第2号証(特開平5-271576号公報)
甲第2号証は原出願の特許公開公報である。

(2) 特許異議申立て2の甲各号証
(2-1) 甲第1号証(特開昭55-36997号公報、以下「刊行物1」という。)には以下の事項が記載されている。
(1-a) 「下記成分すなわち
(A)組成物の重量基準で50?85重量%の、0.05?20μmの粒子サイズ範囲を有する銀粒子、
(B)組成物の重量基準で1?10重量%の、0.05?44μmの粒子サイズ範囲を有しそしてその粒子の少なくとも80重量%が0.1?5μm範囲にある無機非ガラス形成性耐熱性物質またはそれらの前駆体、
(C)組成物の重量基準で5?20重量%の、325?600℃の軟化点範囲を有するガラスフリット、および
(D)組成物の重量基準で10?30重量%のUV重合性ベヒクル
より本質的に構成される、厚膜伝導体組成物」(特許請求の範囲第3項)
(1-b) 「高い解像度で印刷でき・・・電極形成に有用な、スクリーン印刷可能な厚膜組成物に対する必要性が存在している。」(2頁右下欄13?17行)
(1-c) 「好ましい組成物は完全処方された厚膜ペーストの66重量%の銀粒子を含有している。」(3頁右下欄4?5行)
(1-d) 「前記にあげた硼珪酸鉛ガラスは適当な成分を1350℃で溶融させ、次いでフリット化させ、・・・これは580?590℃の軟化点を有している。」(4頁左下欄11?14行)
(1-e) 「本発明の組成物は更に10?30重量%のベヒクル(これに微粒子状物質が分散せしめられる)を含有している。組成物の適用法および細線金属化物を得るための方法に応じて、このベヒクルはUV重合性または非UV重合性でありうる。
UV重合性ベヒクルの一例はポリメチルメタクリレートおよび多官能性単量体の溶液である。・・・
ベヒクルはまた、溶媒およびUV硬化性ベヒクルの場合にはUV感受性開始剤を含有しうる。
好ましいUV重合性ベヒクルは・・・メチルメタクリレート/エチルアクリレート(95/5重量基準)ベースの重合体および全部で約20単位の包含エチレンオキサイドを有するポリオキシエチル化トリメチルプロパントリアクリレートを含有している。」(4頁左下欄15行?5頁左上欄1行)
(2-2) 甲第2号証(特開平3-171690号公報、以下「刊行物2」という。)には以下の事項が記載されている。
(2-a) 「(a)20m2/g未満の表面積対重量比を有しそして粒子の少なくとも80%が0.5?10μmのサイズを有する金固体の微細粒子と
(b)550?825℃の範囲のガラス転移温度および10m2/g未満の表面積対重量比を有する無機バインダーの微細粒子であってその粒子の少くとも90重量%が1?10μmのサイズを有しかつ(b)対(a)の重量比が0.0001?0.25の範囲にあるもの
との混合物が、
(c)有機重合体バインダー、
(d)光開始系、
(e)光硬化性モノマーおよび
(f)有機媒体
からなる有機ビヒクル中に分散されている、酸化性雰囲気または実質上非酸化性雰囲気中で焼成できる水性現像可能な感光性金導電体組成物において、上記有機バインダーが(1)C1?C10アルキルアクリレート又はC1?C10アルキルメタクリレート、スチレン、置換スチレンあるいはそれらの組合せを含む非酸性コモノマーおよび(2)エチレン系不飽和カルボン酸を含む酸性コモノマーからなるコポリマーまたはインターポリマーであるが、すべての酸性コモノマーはポリマーの少くとも15重量%を構成し、そして上記有機重合体バインダーは50000未満の分子量を有しさらに活性線放射に像露光した際の組成物は0.8重量%の炭酸ナトリウムを含有する水溶液中で現像可能なことを特徴とする水性現像可能な感光性金導電体組成物」(特許請求の範囲第1項)
(2-b) 「本発明は解像力が高くかつ水性処理可能な改良された感光性金導電体組成物に関する。さらに、それは焼成された金導電体パターンへのプレカーサとして作用しそして多層厚膜回路の形成に特に有用な導電体材料として役立つ能力を有する。」(2頁右上欄下から2行?左下欄4行)
(2-c) 「B.無機バインダー
本発明に使用したガラスフリットは金粒子を焼結するのを助け金の融点以下の融点を有するよく知られた任意の組成物であってもよい。それにもかかわらず、デバイスの十分な導電性を得るために、無機バインダーのガラス転移温度(Tg)が550?825℃であ・・・るのが良い。
もし融解が550℃以下で起るならば有機物質はカプセル化した方が良く、ふくれは有機物の分解につれて組成物中に形成される傾向にある。一方、825℃以上のガラス転移温度のものは、900℃以下の焼結温度が使用された時接着性が悪い組成物を生成する傾向がある。」(4頁左下欄8行?右下欄3行)
(2-d) 「C.有機重合体バインダー
バインダーポリマーは本発明の組成物に対し重要である。それは水性処理可能性を考慮しそして高い解像力を与えるものでなければならない。これらの要件は下記のバインダーを選択することによっみたされることがわかった。・・・組成物の酸性コモノマー成分の存在は、本技術に対し重要である。酸官能基は水性塩基、例えば0.8%炭酸ナトリウム水溶液中で現像可能性を生じる。酸性コモノマーが15%以下の濃度で存在する時、組成物は水性塩基で洗去されない。酸性コモノマーが30%以上の濃度で存在する時、湿気条件では不安定であり、また像部分において一部現像が起きる。」(5頁左上欄14行?右上欄17行)
(2-e) 「D.光開始系
適当な光開始系は、熱的に不活性であるが185℃またはそれ以下で活性線に露光してフリーラジカルを発生するものである。これらは・・・を包含する。また有用である他の光開始剤は・・・を包含する。」(6頁左下欄4行?6頁右下欄14行)
(2-f) 「E.光硬化性モノマー
本発明の光硬化性モノマー成分は、少くとも1個の重合性エチレン基を有する少くとも1個の付加重合性エチレン系不飽和化合物で構成されている。」(7頁左上欄13?17行)
(2-g) 「分散物を膜にしようとする場合、その中にセラミック固体と無機バインダーが分散される有機媒体は揮発性有機溶媒中に溶解された重合体バインダー、モノマーおよび開始剤場合によりその他の溶解物質例えば可塑剤、離型剤、分散剤、剥離剤、防汚剤および湿潤剤よりなっている。」(9頁右下欄5?11行)
(2-h) 「感光性金導電性組成物は・・・あるいは例えばスクリーン印刷によってペーストの形で基体に適用されるのが普通である。」(11頁8?10行)
(2-i) 「B.ポリマーバインダー・・・バインダーIV:75%のメチルメタクリレートおよび25%のメタクリル酸のコポリマー(分子量10,000.Tg=120℃、酸価164」(12頁左下欄3?16行)
(2-3) 甲第3号証(米国特許5049480号明細書、以下「刊行物3」という。)には以下の記載事項がある。
(3-a) 「(a)20m2/g未満の表面積対重量比を有しそして粒子の少くとも80重量%が0.5?10μmのサイズを有する銀固体の微細粒子と
(b)550?825℃の範囲のガラス転移温度および10m2/g未満の表面積対重量比を有する無機バインダーの微細粒子であってその粒子の少くとも90重量%が1?10μmのサイズを有しかつ(b)対(a)の重量比が0.0001?0.25の範囲にあるものとの混合物が、
(c)有機重合体バインダー、
(d)光開始系、
(e)光硬化性モノマーおよび
(f)有機媒体からなる有機ビヒクル中に分散されている、酸化性雰囲気または実質上非酸化性雰囲気中で焼成できる水性現像可能な感光性銀導電体組成物において、上記有機バインダーが(1)C1?C10アルキルアクリレート又はC1?C10アルキルメタクリレート、スチレン、置換スチレンあるいはそれらの組合せを含む非酸性コモノマーおよび(2)エチレン系不飽和カルボン酸を含む酸性コモノマーからなるコポリマーまたはインターポリマーであるが、すべての酸性コモノマーはポリマーの少くとも15重量%を構成し、そして上記有機重合体バインダーは50000未満の分子量を有しさらに活性線放射に像露光した際の組成物は0.8重量%の炭酸ナトリウムを含有する水溶液中で現像可能なことを特徴とする水性現像可能な感光性銀導電体組成物」(請求項1)
(3-b) 「本発明は解像力が高くかつ水性処理可能な改良された感光性銀導電体組成物に関する。さらに、それは焼成された銀導電体パターンへのプレカーサとして作用しそして多層厚膜回路の形成に特に有用な導電体材料として役立つ能力を有する。」(1欄6?12行)
(3-c) 「B.無機バインダー
本発明に使用したガラスフリットは銀粒子を焼結するのを助け銀の融点以下の融点を有するよく知られた任意の組成物であってもよい。それにもかかわらず、デバイスの十分な導電性を得るために、無機バインダーのガラス転移温度(Tg)が550?825℃であ・・・るのが良い。もし融解が550℃以下で起るならば有機物質はカプセル化されるらしく、ふくれは有機物の分解につれて組成物中に形成される傾向にある。一方、825℃以上のガラス転移温度のものは、900℃以下の焼結温度が使用された時接着性が悪い組成物を生成する傾向がある。」(第3欄第26?42行)
(3-d) 「バインダーポリマーは本発明の組成物に対し重要である。それは水性処理可能性を許容し、同時に高い解像力を与えるものでなければならない。これらの要件は下記のバインダーを選択することによって満たされることがわかった。・・・組成物の酸性コモノマー成分の存在は、本技術に対し重要である。酸官能基は水性塩基、例えば0.8%炭酸ナトリウム水溶液中で現像可能性を生じる。酸性コモノマーが15%以下の濃度で存在する時、組成物は水性塩基で除去されない。酸性コモノマーが30%以上の濃度で存在する時、湿気条件では不安定であり、また像部分において一部現像が起きる。」(4欄1?21行)
(3-e) 「適当な光開始系は、熱的に不活性であるが185℃またはそれ以下で活性線に露光してフリーラジカルを発生するものである。これらは・・・を包含する。また有用である他の光開始剤は・・・を包含する。」(5欄26?48行)
(3-f) 「E.光硬化性モノマー
本発明の光硬化性モノマー成分は、少くとも1個の重合性エチレン基を有する少くとも1個の付加重合性エチレン系不飽和化合物で構成されている。」(5欄63?67行)
(3-g) 「分散物を膜にしようとする場合、その中に銀固体と無機バインダーが分散される有機媒体は揮発性有機溶媒中に溶解された重合体バインダー、モノマーおよび開始剤、選択的に、その他の溶解物質例えば可塑剤、離型剤、分散剤、剥離剤、防汚剤および湿潤剤よりなっている。」(8欄38?54行)
(3-h) 「感光性銀導電性組成物は・・・あるいは例えばスクリーン印刷によってペーストの形で基体に適用されるのが普通である。」(10欄53?56行)
(3-i) 「バインダー:75%のメチルメタクリレートおよび25%のメタクリル酸のコポリマー、Mw=10,000、Tg=120℃、酸価164」(11欄36?38行)
(2-4) 甲第4号証(山根正之著「はじめてガラスを作る人のために」(内田老鶴圃(1989)第50頁?第53頁、以下「刊行物4」という。)には、ガラスの特性温度と粘性の関係、ガラスの粘度の温度依存性、実用ガラスの諸性質が記載されている。
(2-5) 甲第5号証(新保優・吉川和由「耐酸性ホウケイ酸亜鉛鉛系パッシベーションガラスの特性」日本セラミック協会学術論文誌96〔2〕201-05(1988)、以下「刊行物5」という。)の「Table 1.」(202頁)には、硼珪酸鉛系ガラスの軟化点と転移点が記載されている。

6.当審の判断
(1) 特許異議申立て1の取消理由について
(1-1) 本件出願は、原出願[特願平5-9270号(平成5年1月22日、優先日平成4年1月24日 日本)の特許出願]の一部を新たな特許出願とするものとして、平成10年6月11日にされた特許出願である。
そして、特許異議申立人 太陽インキ製造株式会社は、下記(1-2)のとおり、本件出願は特許法第44条第1項に規定する新たな特許出願ということができない、と主張する。
しかし、本件訂正が認容された結果、それらの主張は根拠がなくなった。
そして、その他、本件出願の分割を不適法とする理由はない。
よって、本件出願の分割が不適法であって本件出願の出願日は現実の出願日であることを前提とする特許異議申立て1の取消理由は、根拠がないものであり、採用できない。
(1-2) 分割の適否についての特許異議申立人の主張
(ア) 特許異議申立人 太陽インキ製造株式会社は特許異議申立書において、原出願の願書に最初に添付した明細書には、「導電ペーストに感光性を付与すべく、アクリル系共重合体として、側鎖にカルボキシル基とエチレン性不飽和基を有するアクリル系共重合体(感光性ポリマー)を使用することのみ記載され、側鎖にカルボキシル基とエチレン性不飽和基が付加されておらず感光性を有しないアクリル系共重合体を使用しうることは記載されていない。一方、本件発明は、側鎖にカルボキシル基とエチレン性不飽和基を有しないアクリル系共重合体を含むものである。従って、本件特許に係る特許出願は、分割要件を充足せず、出願日の遡及は認められない。」と主張する(3頁(理由の要点)の欄)。
しかしながら、本件訂正により本件発明1、2は、側鎖にカルボキシル基とエチレン性不飽和基を有するアクリル系共重合体を使用するものとなった。したがって、上記主張は根拠がない。
(イ) また、特許異議申立人 太陽インキ製造株式会社は、審尋に対する回答書において、段落【0049】におけるポリマーバインダーの酸価の数値の存在、段落【0061】?【0062】の比較例の存在によりアクリル系共重合体の「酸価が40?200」なる数値限定の臨界的意義は原明細書におけるものと異なるものとなっているから、本件特許に係る特許出願は、分割要件を充足せず、出願日の遡及は認められない」旨主張する。
しかしながら、本件訂正の結果その根拠とされる段落【0049】におけるポリマーバインダーの酸価の数値、段落【0061】?【0062】の比較例の記載は存在しなくなったから、この点についての主張も根拠がない。
(1-3) 以上のとおりであるから、特許異議申立て1の理由によっては、本件発明1及び2に係る特許を、取り消すことはできない。

(2) 特許異議申立て2の取消理由について
(2-1) 刊行物1を主引用例とした場合について
(ア)刊行物1に記載された発明
刊行物1は「下記成分すなわち
(A)組成物の重量基準で50?85重量%の、0.05?20μmの粒子サイズ範囲を有する銀粒子、
(B)組成物の重量基準で1?10重量%の、0.05?44μmの粒子サイズ範囲を有しそしてその粒子の少なくとも80重量%が0.1?5μm範囲にある無機非ガラス形成性耐熱性物質またはそれらの前駆体、
(C)組成物の重量基準で5?20重量%の、325?600℃の軟化点範囲を有するガラスフリット、および
(D)組成物の重量基準で10?30重量%のUV重合性ベヒクル
より本質的に構成される、厚膜伝導体組成物」(摘示1-a)に関し記載するものである。
そして、この記載中(D)の「UV重合性ベヒクル」について、その好ましい例として「メチルメタクリレート/エチルアクリレート(95/5重量基準)ベースの重合体および全部で約20単位の包含エチレンオキサイドを有するポリオキシエチル化トリメチルプロパントリアクリレート」(摘示1-e)を含有するものが記載されている。また、その「厚膜伝導体組成物」はUV重合性ベヒクルを含むものであって、摘示1-b、cによれば、ペーストと認められるから感光性のペーストといえる。
すると、刊行物1には、
「(a)Ag粒子、(b)メチルメタクリレート/エチルアクリレート(95/5重量基準)ベースの重合体、(c)全部で約20単位の包含エチレンオキサイドを有するポリオキシエチル化トリメチルプロパントリアクリレート、(d)UV感受性開始剤および(e)325?600℃の軟化点範囲を有するガラスフリットを含有する感光性厚膜伝導体ペースト」
の発明(以下「刊行物1発明」という。)が記載されているということができる。
(イ) 本件発明1と刊行物1発明との対比
本件発明1と刊行物1発明とを対比すると、刊行物1発明の「Ag粒子」は刊行物1発明の導電成分であるから、本件発明1の「Agを含む導電性粉末」に相当し、刊行物1発明の「メチルメタクリレート/エチルアクリレート(95/5重量基準)ベースの重合体」は本件発明1の「アクリル系共重合体」の一種である。さらに、刊行物1発明の「全部で約20単位の包含エチレンオキサイドを有するポリオキシエチル化トリメチルプロパントリアクリレート」は本件発明1の「光反応性化合物」に、刊行物1発明の「UV感受性開始剤」は本件発明1の光重合開始剤に、刊行物1発明の「感光性厚膜伝導体ペースト」は本件発明1の「感光性導電ペースト」に、それぞれ相当するといえる。
すると、本件発明1と刊行物1発明とは、
「(a)Agを含む導電性粉末、(b)アクリル系共重合体、(c)光反応性化合物、(d)光重合開始剤および(e)ガラスフリットを含有することを特徴とする感光性導電ペースト」
である点で一致し、以下の点で相違すると認められる。
1-ア アクリル系共重合体が、本件発明1は「側鎖にカルボキシル基とエチレン性不飽和基を有し、かつ酸価が40?200」のものであるのに対し、刊行物1発明は「メチルメタクリレート/エチルアクリレート(95/5重量基準)ベースの重合体」である点(相違点1-ア)
1-イ ガラスフリットが、本件発明1は「ガラス転移点が300?500℃」のものであるのに対し、刊行物1発明は「325?600℃の軟化点範囲を有する」ものである点(相違点1-イ)
(ウ) 相違点の検討
(ウ-1) 相違点1-アについて
側鎖にカルボキシル基とエチレン性不飽和基を有し、かつ酸価が40?200のアクリル系共重合体については、刊行物2?5のいずれにも記載はされておらず、また、刊行物1発明において、「メチルメタクリレート/エチルアクリレート(95/5重量基準)ベースの重合体」に換えて、または加えて側鎖にカルボキシル基とエチレン性不飽和基を有し、かつ酸価が40?200のアクリル系共重合体を適用することの示唆ないし動機付けは、刊行物2?5のいずれにも記載ないし示唆されておらず、さらに技術常識を参酌してもそのような示唆ないし動機付けは認めることはできない。
してみると、刊行物1発明において、相違点1-アに係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到することができた、ということはできない。
(エ) 小括
よって、相違点1-イについて検討するまでもなく、本件発明1は刊行物1?5に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到することができたものということはできない。
そして、本件発明2と刊行物1発明とは少なくとも上記1-アの相違点を有するから、本件発明1と同様に、本件発明2は、刊行物1?5に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到することができたものということはできない。
(2-2) 刊行物2を主引用例とした場合について
(ア) 刊行物2に記載された発明
刊行物2は「(a)20m2/g未満の表面積対重量比を有しそして粒子の少なくとも80%が0.5?10μmのサイズを有する金固体の微細粒子と
(b)550?825℃の範囲のガラス転移温度および10m2/g未満の表面積対重量比を有する無機バインダーの微細粒子であってその粒子の少くとも90重量%が1?10μmのサイズを有しかつ(b)対(a)の重量比が0.0001?0.25の範囲にあるもの
との混合物が、
(c)有機重合体バインダー、
(d)光開始系、
(e)光硬化性モノマーおよび
(f)有機媒体
からなる有機ビヒクル中に分散されている、酸化性雰囲気または実質上非酸化性雰囲気中で焼成できる水性現像可能な感光性金導電体組成物において、上記有機バインダーが(1)C1?C10アルキルアクリレート又はC1?C10アルキルメタクリレート、スチレン、置換スチレンあるいはそれらの組合せを含む非酸性コモノマーおよび(2)エチレン系不飽和カルボン酸を含む酸性コモノマーからなるコポリマーまたはインターポリマーであるが、すべての酸性コモノマーはポリマーの少くとも15重量%を構成し、そして上記有機重合体バインダーは50000未満の分子量を有しさらに活性線放射に像露光した際の組成物は0.8重量%の炭酸ナトリウムを含有する水溶液中で現像可能なことを特徴とする水性現像可能な感光性金導電体組成物」(摘示2-a)に関し記載するものであり、この記載中の「有機重合体バインダー」とは、「?おいて」以降の記載の「(1)C1?C10アルキルアクリレート又はC1?C10アルキルメタクリレート、スチレン、置換スチレンあるいはそれらの組合せを含む非酸性コモノマーおよび(2)エチレン系不飽和カルボン酸を含む酸性コモノマーからなるコポリマーまたはインターポリマーであるが、すべての酸性コモノマーはポリマーの少くとも15重量%を構成し、そして上記有機重合体バインダーは50000未満の分子量を有」するものであって、その具体例として、「バインダー:75%のメチルメタクリレートおよび25%のメタクリル酸のコポリマー、Mw=10,000、Tg=120℃、酸価164」(摘示2-g)すなわち、「酸価164の75%のメチルメタクリレートおよび25%のメタクリル酸のコポリマー」を包含するものである。また、この記載中の「無機バインダーの微細粒子」とは、「ガラスフリット(摘示2-c)であり、「感光性金導電体組成物」とは、普通「ペースト」(摘示2-h)であるから、「感光性金導電体ペースト」であるといえる。
以上によれば、刊行物2には、
「(a)金固体の微細粒子と(b)550?825℃の範囲のガラス転移温度を有するガラスフリットが、(c)酸価164の75%のメチルメタクリレートおよび25%のメタクリル酸のコポリマー、(d)光開始系、(e)光硬化性モノマーおよび(f)有機媒体からなる有機ビヒクル中に分散されている、感光性金導電体ペースト」
という発明(以下「刊行物2発明」という。)が記載されているといえる。
(イ) 本件発明1と刊行物2発明との対比
そこで、本件発明1と刊行物2発明とを対比すると、刊行物2発明の「金固体の微細粒子」は、刊行物2発明の導電成分であるから、本件発明1の「導電性粉末」に相当し、刊行物2発明の「75%のメチルメタクリレートおよび25%のメタクリル酸のコポリマー」は、本件発明1における「アクリル系共重合体」の一種である。さらに、刊行物2発明の「光開始系」は本件発明1の「光重合開始剤」に、刊行物2発明の「光硬化性モノマー」は本件発明1の「光反応性化合物」に、刊行物2発明の「ガラス転移温度」は本件発明1の「ガラス転移点」に、刊行物2発明の「感光性金導電体ペースト」は本件発明1の「感光性導電ペースト」に、それぞれ相当するといえる。
すると、本件発明1と刊行物2発明とは、
「(a)Auを含む導電性粉末、(b)アクリル系共重合体、(c)光反応性化合物、(d)光重合開始剤および(e)ガラスフリットを含有する感光性導電ペースト」
である点で一致し、以下の点で相違すると認められる。
2-ア アクリル系共重合体が、本件発明1は「側鎖にカルボキシル基とエチレン性不飽和基を有し、かつ酸価が40?200」のものであるのに対し、刊行物2発明は「酸価164の75%のメチルメタクリレートおよび25%のメタクリル酸のコポリマー」である点(相違点2-ア)
2-イ ガラスフリットが、本件発明1が「ガラス転移点が300?500℃」のものであるのに対し、刊行物2発明は「550?825℃の範囲のガラス転移温度を有する」ものである点(相違点2-イ)
2-ウ 本件発明1は「有機媒体」を含有するとまでは特定されていないのに対し、刊行物2発明は「有機媒体」を含有している点 (相違点2-ウ)
(ウ)相違点の検討
(ウ-1) 相違点2-アについて
側鎖にカルボキシル基とエチレン性不飽和基を有し、かつ酸価が40?200のアクリル系共重合体については、刊行物1、3?5のいずれにも記載はされておらず、また、刊行物1発明において、「酸価164の75%のメチルメタクリレートおよび25%のメタクリル酸のコポリマー」に換えて、または加えて側鎖にカルボキシル基とエチレン性不飽和基を有し、かつ酸価が40?200のアクリル系共重合体を適用することの示唆ないし動機付けは、刊行物1、3?5のいずれにも記載ないし示唆されておらず、さらに技術常識を参酌してもそのような示唆ないし動機付けは認めることはできない。
してみると、刊行物2発明において、相違点1-アに係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到することができた、ということはできない。
(エ) 小括
よって、相違点2-イ、2-ウについて検討するまでもなく、本件発明1は刊行物1?5に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到することができたものということはできない。
そして、本件発明2と刊行物2発明とは少なくとも上記1-アの相違点を有するから、本件発明1と同様に、本件発明2は、刊行物1?5に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到することができたものということはできない。
(2-3) 刊行物3を主引用例とした場合について
上記摘示を見ても明らかなとおり、刊行物3は刊行物2における「金」が「銀」となった他は実質的に同じ内容を記載するものであるが、念のため刊行物3を主引用例とした場合についても検討する。
(ア)刊行物3に記載された発明
刊行物3は「(a)20m2/g未満の表面積対重量比を有しそして粒子の少なくとも80%が0.5?10μmのサイズを有する銀固体の微細粒子と
(b)550?825℃の範囲のガラス転移温度および10m2/g未満の表面積対重量比を有する無機バインダーの微細粒子であってその粒子の少くとも90重量%が1?10μmのサイズを有しかつ(b)対(a)の重量比が0.0001?0.25の範囲にあるもの
との混合物が、
(c)有機重合体バインダー、
(d)光開始系、
(e)光硬化性モノマーおよび
(f)有機媒体
からなる有機ビヒクル中に分散されている、酸化性雰囲気または実質上非酸化性雰囲気中で焼成できる水性現像可能な感光性銀導電体組成物において、上記有機バインダーが(1)C1?C10アルキルアクリレート又はC1?C10アルキルメタクリレート、スチレン、置換スチレンあるいはそれらの組合せを含む非酸性コモノマーおよび(2)エチレン系不飽和カルボン酸を含む酸性コモノマーからなるコポリマーまたはインターポリマーであるが、すべての酸性コモノマーはポリマーの少くとも15重量%を構成し、そして上記有機重合体バインダーは50000未満の分子量を有しさらに活性線放射に像露光した際の組成物は0.8重量%の炭酸ナトリウムを含有する水溶液中で現像可能なことを特徴とする水性現像可能な感光性銀導電体組成物」(摘示3-a)に関し記載するものであり、この記載中の「有機重合体バインダー」とは、「?おいて」以降の記載の「(1)C1?C10アルキルアクリレート又はC1?C10アルキルメタクリレート、スチレン、置換スチレンあるいはそれらの組合せを含む非酸性コモノマーおよび(2)エチレン系不飽和カルボン酸を含む酸性コモノマーからなるコポリマーまたはインターポリマーであるが、すべての酸性コモノマーはポリマーの少くとも15重量%を構成し、そして上記有機重合体バインダーは50000未満の分子量を有し」というものであって、その具体例として、「バインダー:75%のメチルメタクリレートおよび25%のメタクリル酸のコポリマー、Mw=10,000、Tg=120℃、酸価164」(摘示3-i)すなわち、「酸価164の75%のメチルメタクリレートおよび25%のメタクリル酸のコポリマー」を包含するものである。また、この記載中の「無機バインダーの微細粒子」とは、「ガラスフリット(摘示3-c)であり、「感光性銀導電体組成物」とは、普通「ペースト」(摘示3-h)であるから、「感光性銀導電体ペースト」であるといえる。
以上によれば、刊行物3には、
「(a)銀固体の微細粒子と(b)550?825℃の範囲のガラス転移温度を有するガラスフリットが、(c)酸価164の75%のメチルメタクリレートおよび25%のメタクリル酸のコポリマー、(d)光開始系、(e)光硬化性モノマーおよび(f)有機媒体からなる有機ビヒクル中に分散されている、感光性銀導電体ペースト」
という発明(以下「刊行物3発明」という。)が記載されているといえる。
(イ) 本件発明1と刊行物3発明との対比
そこで、本件発明1と刊行物3発明とを対比すると、刊行物3発明の「銀固体の微細粒子」は、刊行物3発明の導電成分であるから、本件発明1の「導電性粉末」に相当し、刊行物3発明の「75%のメチルメタクリレートおよび25%のメタクリル酸のコポリマー」は、本件発明1における「アクリル系共重合体」の一種である。さらに、刊行物3発明の「光開始系」は本件発明1の「光重合開始剤」に、刊行物3発明の「光硬化性モノマー」は本件発明1の「光反応性化合物」に、刊行物3発明の「ガラス転移温度」は本件発明1の「ガラス転移点」に、刊行物3発明の「感光性銀導電体ペースト」は本件発明1の「感光性導電ペースト」に、それぞれ相当するといえる。
すると、本件発明1と刊行物3発明とは、
「(a)Auを含む導電性粉末、(b)アクリル系共重合体、(c)光反応性化合物、(d)光重合開始剤および(e)ガラスフリットを含有する感光性導電ペースト」
である点で一致し、以下の点で相違すると認められる。
3-ア アクリル系共重合体が、本件発明1は「側鎖にカルボキシル基とエチレン性不飽和基を有し、かつ酸価が40?200」のものであるのに対し、刊行物3発明は「酸価164の75%のメチルメタクリレートおよび25%のメタクリル酸のコポリマー」である点(相違点3-ア)
3-イ ガラスフリットが、本件発明1が「ガラス転移点が300?500℃」のものであるのに対し、刊行物3発明は「550?825℃の範囲のガラス転移温度を有する」ものである点(相違点3-イ)
3-ウ 本件発明1は「有機媒体」を含有するとまでは特定されていないのに対し、刊行物3発明は「有機媒体」を含有している点 (相違点3-ウ)
(ウ)相違点の検討
(ウ-1) 相違点3-アについて
側鎖にカルボキシル基とエチレン性不飽和基を有し、かつ酸価が40?200のアクリル系共重合体については、刊行物1、2、4、5のいずれにも記載はされておらず、また、刊行物1発明において、「酸価164の75%のメチルメタクリレートおよび25%のメタクリル酸のコポリマー」に換えて、または加えて側鎖にカルボキシル基とエチレン性不飽和基を有し、かつ酸価が40?200のアクリル系共重合体を適用することの示唆ないし動機付けは刊行物1、2、4、5のいずれにも記載ないし示唆されておらず、さらに技術常識を参酌してもそのような示唆ないし動機付けは認めることはできない。
してみると、刊行物3発明において、相違点3-アに係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到することができた、ということはできない。
(エ) 小括
よって、相違点3-イ、3-ウについて検討するまでもなく、本件発明1は刊行物1?5に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到することができたものということはできない。
そして、本件発明2と刊行物3発明とは少なくとも上記1-アの相違点を有するから、本件発明1と同様に、本件発明2は、刊行物1?5に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到することができたものということはできない。
(2-4) 刊行物4、5について
5.(2-4)、(2-5)にも記載したとおり、刊行物4はガラスの特性温度と粘性の関係、ガラスの粘度の温度依存性、実用ガラスの諸性質を記載するものであり、刊行物5は硼珪酸鉛系ガラスの軟化点と転移点を記載するものであって、本件発明1又は2と刊行物1(又は刊行物2又は3)発明とのガラスフリットについての相違点1-イ(又は2-イ又は3-イ)の容易想到性に関する証拠であると認められる。そして、これらには、感光性導電ペーストはもとより、そのペーストにおいて相違点1-ア、2-ア、3-アに係る「側鎖にカルボキシル基とエチレン性不飽和基を有し、かつ酸価が40?200」のアクリル系共重合体について記載されるものではない。
よって、これらいずれに記載された発明と対比しても、本件発明1又は2がこれらの発明に基づいて容易想到のものであるということはできない。
(2-5) 小括
以上のとおり、本件発明1及び2は、その出願前頒布された刊行物である甲第1号証ないし甲第5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできないものであるから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるとはいえず、特許異議申立て2の理由によっては、本件発明1及び2に係る特許を、取り消すことはできない。

7.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立て1及び2はいずれも理由がなく、他に本件発明1ないし2についての特許を取り消すべき理由はない。
よって、上記結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
感光性導電ペースト
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】(a)Au、Ag、PdおよびPtの群から選ばれる少なくとも1種を含む導電性粉末、(b)側鎖にカルボキシル基とエチレン性不飽和基を有し、かつ酸価が40?200のアクリル系共重合体、(c)光反応性化合物、(d)光重合開始剤および(e)ガラス転移点が300?500℃のガラスフリットを含有することを特徴とする感光性導電ペースト。
【請求項2】導電性粉末がAg、PdおよびPtの群から選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項1記載の感光性導電ペースト。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明はセラミックス回路基板上に導体パターンを形成するための感光性導電ペーストに関するものである。
【0002】
【従来の技術】近年、高集積化したLSIや各種の電子部品を多数搭載するための多層基板においては、小型化や高密度化、高精細化、高信頼性の要求が高まっている。とくに導体回路パターン(信号層、電源層を含む。)の微細化は小型化、高密度化には不可欠な要求として各種の方法が提案されている。
【0003】代表的な方法としては、薄膜法、メッキ法および厚膜法がある。薄膜法はスパッター、蒸着などで成膜し、ホトリソグラフィ技術を適用することによって解像度20μmまでの高精細化が可能であるが、この方法による導体皮膜は膜厚を厚くするには長時間を必要とするなどの限界があるため薄い膜しか得られず、その結果回路としてのインピーダンスが高くなるという欠点がある。また、メッキ法では焼成工程において抵抗体などの厚膜受動素子の形成が困難であるという問題がある。
【0004】一方、厚膜法ではスクリーン印刷法で成膜される。しかしながら印刷法ではスクリーン性能、スクイーズ硬さ、印刷速度、分散性などの最適化を図っても導体パターンの幅を100μm程度までしか細くすることができず、ファインパターン化には限界があった。
【0005】こうした中で印刷法の欠点を改良するため、特開昭63-292504号、特開平2-268870号、特開平3-171690号および特開平3-180092号公報に記載されているように、導体ペーストの組成を検討したもの、感光性樹脂を添加し、フォトリソグラフィー法によりファインパターン化を図ったものおよび金属粉末の粒子径の最適化を検討したものが提案されているが、微細パターンの形成と低抵抗化とを同時に満足するには充分でなかった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、微細パターンの形成が可能で、かつ低抵抗な回路パターンを与える感光性導電ペーストを提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明の目的は、(a)Au、Ag、PdおよびPtの群から選ばれる少なくとも1種を含む導電性粉末、(b)側鎖にカルボキシル基とエチレン性不飽和基を有し、かつ酸価が40?200のアクリル系共重合体、(c)光反応性化合物、(d)光重合開始剤および(e)ガラス転移点が300?500℃のガラスフリットを含有することを特徴とする感光性導電ペーストによって達成される。
【0008】
【発明の実施の形態】すなわち、本発明は導電ペーストに感光性を付与したものであり、これを使用すると、ホトリソグラフィ技術を用いて厚膜導体回路パターンが微細に、しかも低抵抗な導体膜を効率よく形成できるものである。
【0009】本発明において使用される導電性粉末はAu、Ag、PdおよびPtの群から選ばれる少なくとも1種を含むもので、高周波での伝達損失を低減するため低抵抗の導体粉末が使用される。Au、Ag、PdおよびPtはそれぞれ単独または混合粉末として用いることができる。例えばAg(30-80)-Pd(70-20)、Ag(40-70)-Pd(60-10)-Pt(5-20)、Ag(30-80)-Pd(60-10)-Cr(5-15)、Pt(20-40)-Au(60-40)-Pd(20)、Au(75-80)-Pt(25-20)、Au(60-80)-Pd(40-20)、Ag(40-95)-Pt(60-5)、Pt(60-90)-Rh(40-10)(以上( )内は重量%を表す)などの2元系あるいは3元系の混合貴金属粉末が用いられる。上記の中でCrやRhを添加したものは高温特性を向上できる点で好ましい。
【0010】これらの貴金属導電性粉末の平均粒子径は0.5?5μmが好ましい。粒子径が0.5μm未満と小さくなると紫外線の露光時に光が印刷後の膜中をスムーズに透過せず、導体の線幅60μm以下の微細パターンの形成が困難となる。また粒子径が5μmを越えて大きくなると印刷後の回路パターンの表面が粗くなり、パターン精度が低下し、ノイズ発生の原因になる。また、比表面積が0.1?3m2/gの導電性粉末が好ましく用いられる。比表面積が0.1m2/g未満の場合は、回路パターンの精度が低下する。また、3m2/gを越えると粉末の表面積が大きくなり過ぎて紫外線が散乱され、露光が充分行われずパターン精度が低下する。
【0011】貴金属導電性粉末の形状としては、フレーク(板、円錐、棒)状や球状のものが使用できるが、凝集がない点から球状であることが好ましい。球状であると露光時に紫外線の散乱が少ないので高精度のパターンが得られ、照射エネルギーが少なくて済む。
【0012】微細パターンの形成や低抵抗化を満足するのにより好ましい導電性粉末の範囲がある。すなわち導体パターンを印刷後、紫外線露光時に光が散乱せずに充分に透過し、有効に作用して現像後10?40μmの微細回路パターンを得るためには、導電性粉末の粒子径が1?4μmであり、かつ比表面積が0.1?1.5m2/gであることが好ましい。より好ましくは粒子径が0.8?4μm、比表面積が0.15?0.8m2/gである。この範囲にあると現像時において未露光部分における導体膜の残膜の発生が全くなくなり、高精度な回路パターンが得られる。
【0013】本発明において使用される側鎖にカルボキシル基とエチレン性不飽和基を有するアクリル系共重合体は、ポリマーバインダー成分であり、不飽和カルボン酸とエチレン性不飽和化合物を共重合させることによって製造することができる。
【0014】不飽和カルボン酸の具体的な例としては、アクリル酸、メタアクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、ビニル酢酸、またはこれらの酸無水物などがあげられる。一方、エチレン性不飽和化合物の具体的な例としては、メチルアクリレート、メチルメタアクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、n-プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n-ブチルアクリレート、n-ブチルメタクリレート、sec-ブチルアクリレート、sec-ブチルメタクリレート、イソ-ブチルアクリレート、イソブチルメタクリレート、tert-ブチルアクリレート、tert-ブチルメタクリレート、n-ペンチルアクリレート、n-ペンチルメタクリレート、スチレン、p-メチルスチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレンなどが挙げられるが、これらに限定されない。これらのアクリル系主鎖ポリマの主重合成分として前記のエチレン性不飽和化合物の中から少なくともメタクリル酸メチルを含むことによって熱分解性の良好な共重合体を得ることができる。
【0015】側鎖のエチレン不飽和基としてはビニル基、アリル基、アクリル基、メタクリル基などがあげられる。このような側鎖を該アクリル系共重合体に付加させる方法としては、アクリル系共重合体中のカルボキシル基にグリシジル基を有するエチレン性不飽和化合物やクロライドアクリレート化合物を付加反応させて作る方法がある。
【0016】グリシジル基を有するエチレン性不飽和化合物としては、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、アリルグリシジルエーテル、α-グリシジルエチルアクリレート、クロトニルグリシジルエーテル、クロトン酸グリシジルエーテル、イソクロトン酸グリシジルエーテルが挙げられる。また、クロライドアクリレート化合物としては、クロライドアクリレート、クロライドメタアクリレート、アリルクロライドなどが挙げられる。また、これらのエチレン性不飽和化合物あるいはクロライドアクリレート化合物の付加量としては、アクリル系共重合体中のカルボキシル基に対して0.05?0.8モル当量が望ましく、さらに好ましくは0.1?0.6モル当量である。付加量が0.05モル当量未満では現像許容幅が狭いうえ、パターンエッジの切れが悪くなりやすく、また付加量が0.8モル当量より大きい場合は、未露光部の現像液溶解性が低下したり、塗布膜の硬度が低くなる。
【0017】このような側鎖にカルボキシル基とエチレン性不飽和基を有するアクリル系共重合体の酸価(AV)は40?200が好ましく、より好ましくは60?160である。さらに好ましくは80?140の範囲である。酸価が40未満であると未露光部の現像液に対する溶解性が低下したり、塗布膜の硬度が低下する。また、酸価が200をこえると現像許容幅が狭い上、パターンエッジの切れが悪くなる。
【0018】本発明における感光性導電ペースト中には、ポリマーバインダー成分として上記のアクリル系共重合体以外の感光性ポリマーや非感光性のポリマーを含有することができる。感光性ポリマーとしては、光不溶化型のものと光可溶化型のものがあり、光不溶化型のものとして、1分子に不飽和基などを1つ以上有する官能性のモノマーやオリゴマーを適当なポリマーバインダーと混合したもの、芳香族ジアゾ化合物、芳香族アジド化合物、有機ハロゲン化合物などの感光性化合物を適当なポリマーバインダーと混合したもの、既存の高分子に感光性の基をペンダントさせることにより得られる感光性高分子あるいはそれを改質したもの、ジアゾ系アミンとホルムアルデヒドとの縮合物などいわゆるジアゾ樹脂といわれるものなど、光可溶化型のものとして、ジアゾ化合物の無機塩や有機酸とのコンプレックス、キノンジアジド類などを適当なポリマーバインダーと混合したもの、キノンジアゾ類を適当なポリマーバインダーと結合させた、例えばフェノール、ノボラック樹脂のナフトキノン-1,2-ジアジド-5-スルフォン酸エステルなどがあげられる。感光性ポリマーバインダー成分中に含まれる側鎖にカルボキシル基とエチレン性不飽和基を有するアクリル系共重合体の割合は少なくとも5重量%以上が好ましく、さらに好ましくは20重量%以上である。該アクリル系共重合体の含有量が5重量%未満では現像許容幅の拡大効果が小さいうえ、現像性が低下しやすくエッジ部の尖鋭なパターンを作り難いため好ましくない。
【0019】非感光性ポリマーとしては、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、メタクリル酸エステル重合体、アクリル酸エステル重合体、アクリル酸エステル-メタクリル酸エステル共重合体、α-メチルスチレン重合体、ブチルメタクリレート樹脂などがあげられる。
【0020】本発明で使用される光反応性化合物としては、光反応性を有する炭素-炭素不飽和結合を含有する化合物を用いることができ、その具体的な例としてアリルアクリレート、ベンジルアクリレート、ブトキシエチルアクリレート、ブトキシトリエチレングリコールアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、ジシクロペンタニルアクリレート、ジシクロペンテニルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、グリセロールアクリレート、グリシジルアクリレート、ヘプタデカフロロデシルアクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート、イソボニルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、イソデシルアクリレート、イソオクチルアクリレート、ラウリルアクリレート、2-メトキシエチルアクリレート、メトキシエチレングリコールアクリレート、メトキシジエチレングリコールアクリレート、オクタフロロペンチルアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、ステアリルアクリレート、トリフロロエチルアクリレート、アリル化シクロヘキシルジアクリレート、ビスフェノールAジアクリレート、1,4-ブタンジオールジアクリレート、1,3-ブチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、グリセロールジアクリレート、メトキシシクロヘキシルジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、プロピレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、トリグリセロールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレートおよび上記のアクリレートをメタクリレートに変えたもの、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、1-ビニル-2-ピロリドンなどが挙げられる。本発明ではこれらを1種または2種以上の混合物、またはその他の化合物との混合物などを使用することができる。
【0021】本発明で使用する光重合開始剤の具体的な例として、ベンゾフェノン、o-ベンゾイル安息香酸メチル、4,4-ビス(ジメチルアミン)ベンゾフェノン、4,4-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、α-アミノ・アセトフェノン、4,4-ジクロロベンゾフェノン、4-ベンゾイル-4-メチルジフェニルケトン、ジベンジルケトン、フルオレノン、2,2-ジエトキシアセトフェノン、2,2-ジメトキシ-2-フェニル-2-フェニルアセトフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン、p-t-ブチルジクロロアセトフェノン、チオキサントン、2-メチルチオキサントン、2-クロロチオキサントン、2-イソプロピルチオキサントン、ジエチルチオキサントン、ベンジル、ベンジルジメチルケタノール、ベンジル-メトキシエチルアセタール、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインブチルエーテル、アントラキノン、2-t-ブチルアントラキノン、2-アミルアントラキノン、β-クロルアントラキノン、アントロン、ベンズアントロン、ジベンゾスベロン、メチレンアントロン、4-アジドベンザルアセトフェノン、2,6-ビス(p-アジドベンジリデン)シクロヘキサノン、2,6-ビス(p-アジドベンジリデン)-4-メチルシクロヘキサノン、2-フェニル-1,2-ブタジオン-2-(o-メトキシカルボニル)オキシム、1-フェニル-プロパンジオン-2-(o-エトキシカルボニル)オキシム、1,3-ジフェニル-プロパントリオン-2-(o-エトキシカルボニル)オキシム、1-フェニル-3-エトキシ-プロパントリオン-2-(o-ベンゾイル)オキシム、ミヒラーケトン、2-メチル-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノ-1-プロパノン、ナフタレンスルホニルクロライド、キノリンスルホニルクロライド、N-フェニルチオアクリドン、4、4-アゾビスイソブチロニトリル、ジフェニルジスルフィド、ベンズチアゾールジスルフィド、トリフェニルホスフィン、カンファーキノン、四臭素化炭素、トリブロモフェニルスルホン、過酸化ベンゾイン、エオシン、メチレンブルーなどの光還元性の色素とアスコルビン酸、トリエタノールアミンなどの還元剤の組合せなどが挙げられる。本発明ではこれらの光重合開始剤を1種または2種以上使用することができる。
【0022】側鎖にカルボキシル基とエチレン性不飽和基を有するアクリル系共重合体は、光反応性化合物に対して、重量比で0.1?5倍量の範囲で用いることが好ましい。より好ましくは、0.3?3倍量である。該アクリル系共重合体の量が少なすぎると、ペーストの粘度が小さくなり、ペースト中での分散の均一性が低下するおそれがある。一方、アクリル系共重合体の量が多すぎれば、未露光部の現像液への溶解性が不良となる。
【0023】さらに、光重合開始剤は、側鎖にカルボキシル基とエチレン性不飽和基を有するアクリル系共重合体と光反応性化合物の和に対して、通常0.1?30重量%、より好ましくは、2?25重量%用いられる。光重合開始剤の量が少なすぎると、光感度が不良となり、光重合開始剤の量が多すぎれば、露光部の残存率が小さくなりすぎるおそれがある。
【0024】本発明においては、感光性導電ペースト中に、さらにガラスフリットを含有することが必要である。ガラスフリットは導電性粉末を焼結するための焼結助剤としての働きや導体抵抗を下げる効果を有する。ガラスフリットのガラス転移温度(Tg)およびガラス軟化点(Ts)は低いほうが好ましく、それぞれ300?500℃、350?450℃であるのがよい。より好ましくはTgが350?450℃にあるのがよい。Tgが低すぎるとポリマーバインダーやモノマーなどの有機成分が蒸発する前に焼結が始まるので好ましくない。Tgが500℃を超えるガラスフリットでは800℃以下の温度で焼結を行なったときにセラミックス基板との接着性が劣る結果となるので好ましくない。
【0025】ガラスフリットとしては、ガラス系のものや結晶化ガラスが使用できるが、フリットの組成がSiO2、ZrO2、B2O3およびLiO2をそれぞれ1?50重量%含有し、これら以外にAl2O3、CaO、K2O、MgO、Na2O、BaO、TiO2あるいはZnOなどを0.5?3重量%の範囲で加減したものが、熱膨張係数や融点の調整をより容易にすることができるので好ましい。さらに好ましいのはSiO2を10?40重量%、ZrO2を2?25重量%、B2O3を20?40重量%、BaOを1?40重量%およびLi2Oを1?10重量%含有するものであり、この組成をとることにより、熱膨張係数や融点の調整をより容易に行なうことができる。また、ガラス相には、0.2重量%以上のPbOやCdOを含まないことが好ましい。ガラスフリットの粒子径としては、微粒子であればあるほど低温で融解するので好ましい。特に、50%径が0.6?3μmの範囲、90%径が1?4μmの範囲にあるものは、低温で融解しセラミックス基板上に強固に接着するので好ましい。
【0026】感光性導電ペースト中のガラスフリットの含有量としては、導電性粉末、ポリマバインダーおよびモノマの和に対して5重量%以下であることが好ましい。より好ましくは3.5重量%以下である。とくに高周波の伝達損失を低減するために導体膜の低抵抗化を図るにはガラスフリットの量を下げる必要がある。すなわち、ガラスフリットは電気絶縁性であるので含有量が5重量%を越えると導体膜の抵抗が増大するので好ましくない。
【0027】またセラミックス多層基板に用いるセラミックス・グリーンシートに印刷して内層導体回路や電源層に用いる場合は、特に低抵抗を得る目的でガラスフリットの量が2重量%以下であることが好ましい。またセラミックス基板の表層部の導体膜として強固な接着力が必要な場合は、ガラスフリットを1?5重量%添加すると好ましい。1重量%未満ではガラスフリット添加の効果が少なく強固な接着強度が得られにくい。
【0028】本発明において上記のガラスフリットに加えて、金属酸化物を添加することも好ましく行われる。金属酸化物は導電性粉末が焼結時に異常粒子成長するのを回避したり、焼結を遅らせるなど、いわゆる焼結助剤として有効に作用し、その結果、導体膜とセラミックス基板との接着力をあげるという効果を有する。具体的には、Cu、Cr、Mo、AlまたはNiなどの金属の金属酸化物などが使用できる。金属酸化物は電気的に絶縁物として作用するので添加量は少ない方がよく、導電性粉末、ポリマバインダー、モノマ、ガラスフリットおよび金属酸化物(両者を含めて無機バインダーという)の総和に対して3重量%以下であることが好ましい。3重量%を越えると導体膜の電気抵抗が増加するのでよくない。また、金属酸化物と金属を併用することも好ましく行われる。
【0029】本発明において使用可能な増感剤としては、例えば、2,3-ビス(4-ジエチルアミノベンザル)シクロペンタノン、2,6-ビス(4-ジメチルアミノベンザル)シクロヘキサノン、2,6-ビス(4-ジメチルアミノベンザル)-4-メチルシクロヘキサノン、ミヒラーケトン、4,4-ビス(ジエチルアミノ)-ベンゾフェノン、4,4-ビス(ジメチルアミノ)カルコン、4,4-ビス(ジエチルアミノ)カルコン、p-ジメチルアミノシンナミリデンインダノン、p-ジメチルアミノベンジリデンインダノン、2-(p-ジメチルアミノフェニルビニレン)-イソナフトチアゾール、1,3-ビス(4-ジメチルアミノベンザル)アセトン、1,3-カルボニル-ビス(4-ジエチルアミノベンザル)アセトン、3,3-カルボニル-ビス(7-ジエチルアミノクマリン)、N-フェニル-N-エチルエタノールアミン、N-フェニルエタノールアミン、N-トリルジエタノールアミン、N-フェニルエタノールアミン、ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、ジエチルアミノ安息香酸イソアミル、3-フェニル-5-ベンゾイルチオーテトラゾール、1-フェニル-5-エトキシカルボニルチオ-テトラゾールなどが挙げられる。本発明ではこれらを1種または2種以上使用することができる。なお、増感剤の中には光重合開始剤としても使用できるものがある。
【0030】増感剤を本発明の導電性ペーストに添加する場合、その添加量は側鎖にカルボキシル基とエチレン性不飽和基を有するアクリル系共重合体と光反応性化合物の総和に対して通常0.1?20重量%、より好ましくは0.5?10重量%である。増感剤の量が少なすぎれば光感度を向上させる効果が発揮されず、増感剤の量が多すぎれば露光部の残存率が小さくなりすぎるおそれがある。
【0031】本発明の導電性ペーストにおいて保存時の熱安定性を向上させるため、熱重合禁止剤を添加すると良い。熱重合禁止剤の具体的な例としては、ヒドロキノン、N-ニトロソジフェニルアミン、フェノチアジン、p-t-ブチルカテコール、N-フェニルナフチルアミン、2,6-ジ-t-ブチル-p-メチルフェノール、クロラニール、ピロガロールなどが挙げられる。熱重合禁止剤を添加する場合、その添加量は、側鎖にカルボキシル基とエチレン性不飽和基を有するアクリル系共重合体と光反応性重合性化合物の和に対し、通常、0.1?20重量%、より好ましくは、0.5?10重量%である。熱重合禁止剤の量が少なすぎる場合は、保存時の熱的な安定性を向上させる効果が発揮されず、熱重合禁止剤の量が多すぎれば、露光部の残存率が小さくなりすぎるおそれがある。
【0032】可塑剤としては、例えばジブチルフタレート、ジオクチルフタレート、ポリエチレングリコールおよびグリセリンなどが用いられる。
【0033】また本発明の導電性ペーストには保存時におけるアクリル系共重合体の酸化を防ぐために酸化防止剤を添加できる。酸化防止剤の具体的な例として2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール、ブチル化ヒドロキシアニソール、2,6-ジ-t-4-エチルフェノール、2,2-メチレン-ビス-(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、2,2-メチレン-ビス-(4-エチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4-ビス-(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、1,1,3-トリス-(2-メチル-6-t-ブチルフェノール)、1,1,3-トリス-(2-メチル-4-ヒドロキシ-t-ブチルフェニル)ブタン、ビス[3,3-ビス-(4-ヒドロキシ-3-t-ブチルフェニル)ブチリックアシッド]グリコールエステル、ジラウリルチオジプロピオナート、トリフェニルホスファイトなどが挙げられる。酸化防止剤を添加する場合、その添加量は通常、導電性粉末、側鎖にカルボキシル基とエチレン性不飽和基を有するアクリル系共重合体、光反応重合性化合物、ガラスフリットおよび光重合開始剤の総和に対して0.01?5重量%、より好ましくは0.1?1重量%である。酸化防止剤の量が少なければ保存時のアクリル系共重合体の酸化を防ぐ効果が得られず、酸化防止剤の量が多すぎれば露光部の残存率が小さくなりすぎるおそれがある。
【0034】感光性導電ペーストの組成としては、次の範囲で選択するのが好ましい。
【0035】
(A)導電性粉末;75?92重量%
(B)側鎖にカルボキシル基とエチレン性不飽和基を有するアクリル系共重合体と光反応性化合物;25?8重量%
(C)光重合開始剤;上記(B)成分の総和に対して2?25重量%
(D)ガラスフリットと金属酸化物;(A)?(D)の総和に対して0?5重量%
上記においてより好ましくは導電性粉末と上記(B)成分の組成はそれぞれ80?89重量%および20?11重量%である。この範囲にあると露光時において紫外線が良く透過し、光硬化の機能が十分発揮され、現像時における露光部の膜強度が高くなる。この結果、回路パターンの信頼性が一段と向上する。またポリマ、モノマーの量がこの範囲にあると焼成後の導体膜の比抵抗が低くなり、高周波の伝達損失が低下するという問題もなくなる。また膜が緻密になり、高強度の膜が得られる。
【0036】本発明の導電ペーストは、側鎖にカルボキシル基とエチレン性不飽和基を有するアクリル系共重合体と光重合開始剤を光反応性化合物に溶解し、この溶液に導電性粉末を分散させることによって製造することができる。アクリル系共重合体と光重合開始剤が光反応性化合物に溶解しない場合、あるいは溶液の粘度を調整したい場合には、該アクリル系共重合体、光重合開始剤及び光反応性化合物の混合溶液を溶解可能な有機溶媒を加えてもよい。このとき使用される有機溶媒としては、たとえばメチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、メチルエチルケトン、ジオキサン、アセトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、イソブチルアルコール、イソプロピルアルコール、テトラヒドロフラン、ジメチルスルフォキシド、γ-ブチロラクトンなどがあげられる。これらの有機溶媒は、単独であるいは二種以上併用して用いられる。
【0037】さらに必要に応じて増感剤、熱重合禁止剤、可塑剤、酸化防止剤、分散剤、安定化剤、有機あるいは無機の沈殿防止剤を添加し、混合物のスラリーとする。所定の組成となるように調合されたスラリーを3本ローラや混練機で均質に分散し、ペーストを作製する。
【0038】ペーストの粘度は導電性粉末、有機溶媒およびガラスフリットの組成、可塑剤、沈殿防止剤などの添加割合によって適宜調整されるが、その範囲は、通常、2000?20万cps(センチ・ポイズ)である。例えば基板への塗布をスピンコート法で行なう場合は、2000?5000cpsが好ましい。焼結したセラミックス基板にスクリーン印刷法で1回塗布して膜厚10?40μmを得るには、2万?20万cpsが好ましい。またグリーンシートに塗布する場合は、粘度は5万?20万cpsが好ましい。これは低粘度であるとペーストをグリーンシートに印刷・露光後、現像時にグリーンシートの内部に、導電性粉末が浸透するため本発明の微細なパターンを得るのが難しくなるからである。
【0039】次に、感光性導電ペーストを用いて回路パターンを形成する方法について説明する。
【0040】まず、感光性導電ペーストをセラミックス・グリーンシート、600℃以上の耐熱性ガラスあるいは焼結後のセラミック基板にスクリーン印刷法で塗布する。印刷厚みはスクリーンのメッシュ、ペーストの粘度を調製することによって任意に制御できるが、通常、5?150μmである。5μm未満の膜厚を均質に作製することは困難であり、また150μmを越えると紫外線露光において透過が難しくなるのでパターン精度が低下する。本発明の感光性導電ペーストの場合、露光・現像が微細にできる好ましい厚みの範囲は8?40μmである。8μm未満になると印刷法では均質な厚みを得ることが難しくなる。また40μmを越えると回路パターン精度が低下し、線幅/線間隔が60μm/60μm以下のパターンが得られにくくなる。
【0041】なお、導電性ペーストをガラスやセラミックスの基板上に塗布する場合、基板と塗布膜との密着性を高めるために基板の表面処理を行うとよい。表面処理は、表面処理液をスピナーなどで基板上に均一に塗布した後に80?140℃で10?60分間乾燥することによって容易に行なうことができる。表面処理液としてはシランカップリング剤、例えばビニルトリクロロシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、トリス-(2-メトキシエトキシ)ビニルシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-(メタクリロキシプロピル)トリメトキシシラン、γ(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-クロロプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシランなど、あるいは有機金属、例えば有機チタン、有機アルミニウム、有機ジルコニウムなどを有機溶媒、例えばエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコールなどで0.1?5重量%の濃度に希釈したものを用いることができる。
【0042】次に、基板上に塗布したペーストの膜を乾燥する。通常、70?120℃で、数分から1時間加熱して溶媒類を蒸発させることにより行なう。
【0043】乾燥後、フォトリソグラフィー法により、回路パターンを有するフィルムあるいはクロムマスクなどのマスクを用いて紫外線を照射して露光し、感光性ペーストを硬化する。露光条件は導体膜の厚みなどによって異なるが、通常、5?100mW/cm2の出力の超高圧水銀灯を用いて1?30分間露光を行なう。この際使用される活性光源はたとえば紫外線、電子線、X線などが挙げられるが、これらの中で紫外線が好ましく、その光源としてはたとえば低圧水銀灯、高圧水銀灯、ハロゲンランプ、殺菌灯などが使用できる。なかでも超高圧水銀灯が好適である。
【0044】次に現像液を用いて露光によって硬化していない部分を除去し、いわゆるネガ型の回路パターンを形成する。現像は浸漬法やスプレー法で行なう。現像液としては前記の側鎖にエチレン性不飽和基を有するアクリル系共重合体、光反応性化合物及び光重合開始剤の混合物を溶解可能な有機溶媒を使用できる。また該有機溶媒にその溶解力が失われない範囲で水を添加してもよい。またアクリル系共重合体の側鎖にカルボキシル基が存在する場合、アルカリ水溶液で現像できる。アルカリ水溶液として水酸化ナトリウムや水酸化カルシウム水溶液などのような金属アルカリ水溶液を使用できるが、有機アルカリ水溶液を用いた方が焼成時にアルカリ成分を除去しやすいので好ましい。有機アルカリ水溶液の具体例としては、テトラメチルアンモニウムヒドロキサイド、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキサイド、モノエタノールアミン、ジエタノールアミンなどが挙げられる。アルカリ水溶液の濃度は通常0.5?10重量%、より好ましくは0.1?5重量%である。アルカリ濃度が低すぎれば未露光部が除去されずに、アルカリ濃度が高すぎれば、露光部を腐食させるおそれがあり良くない。
【0045】本発明の感光性導電ペーストの調合、印刷、露光、現像工程では紫外線を遮断できるところで行う必要がある。紫外線を遮断しない場合、ペーストや塗布膜が紫外線によって光硬化してしまい、本発明の効果を発揮できる導体膜が得られない。
【0046】現像後、塗布膜を空気中で焼成する。焼成条件としては特に限定されないが、側鎖にカルボキシル基とエチレン性不飽和基を有するアクリル系共重合体、光反応性化合物あるいは溶媒などの有機物が完全に酸化、蒸発する好ましい条件として400?550℃で1?3時間保持後、600?1000℃で焼成し、セラミックス基板上に焼き付けることが好ましい。
【0047】本発明の感光性導電ペーストを用いて回路パターンを形成した場合、例えば導体膜の厚みが5?60μmにおいて導体の線幅が10?60μm、導体間の線間隔10?60μmのものが得られる。
【0048】
【実施例】以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。なお、下記の実施例において濃度はとくに断らない限りすべて重量部で表わす。
【0049】実施例1?20
A.導電性粉末1(Ag粉末)
球状、平均粒子径1.5μm、比表面積0.15m2/g
導電性粉末2(Ag粉末)
球状、平均粒子径3.0μm、比表面積0.32m2/g
導電性粉末3(Ag粉末)
球状、平均粒子径4.0μm、比表面積0.20m2/g
導電性粉末4(Ag粉末)
球状、平均粒子径1.5μm、比表面積0.28m2/g
導電性粉末5(Ag(80)-Pd(20)粉末)
球状、平均粒子径2.0μm、比表面積1.40m2/g
導電性粉末6(Pd粉末)
球状、平均粒子径1.0μm、比表面積1.60m2/g
導電性粉末7(Au(75)-Pd(25)粉末)
球状、平均粒子径0.8μm、比表面積3.50m2/g
導電性粉末8(Au(80)-Pt(20)粉末)
球状、平均粒子径1.0μm、比表面積3.00m2/g
導電性粉末9(Pt(40)-Pd(20)-Au(40)粉末)
球状、平均粒子径0.9μm、比表面積2.5m2/g
B.側鎖にカルボキシル基とエチレン性不飽和基を有するアクリル系共重合体(以下、ポリマーバインダーと略す)
ポリマーバインダー1;40%のメタアクリル酸、30%のメチルメタアクリレートおよび30%のスチレンの共重合体に対して0.4当量(40%に相当する)のグリシジルアクリレートを付加反応させたポリマー
ポリマーバインダー2;30%のメタアクリル酸、35%のエチルメタクリレートおよび35%のスチレンの共重合体に対して0.3当量のクロライドアクリレートを付加反応させたポリマー
C.光反応性化合物(以下、モノマーと略す)
モノマー1;トリメチロール・プロパン・トリアクリレート
モノマー2;2-ヒドロキシエチルアクリレート:プロピレングリコールジアクリレートを1:2の割合で混ぜたもの。
【0050】D.ガラスフリット
ガラスフリット1(成分モル%);酸化カルシウム(5.0)、酸化亜鉛(28.1)、酸化ホウ素(25.0)、二酸化ケイ素(22.8)、酸化ナトリウム(8.8)、酸化ジルコニウム(4.5)、アルミナ(5.8)
ガラスフリット2(成分重量%);酸化ジルコニウム(42)、酸化ホウ素(24)、二酸化ケイ素(21)、酸化リチウム(7)、アルミナ(4)およびその他の酸化物(2)
E.金属酸化物
金属酸化物1;CuO
金属酸化物2;NiO
F.溶媒
γ-ブチロラクトンとエチルセロソルブとの混合溶液
G.光重合開始剤
α-アミノ・アセトフェノン
H.感光性導電性ペーストの製造
a.有機ビヒクルの作製
溶媒およびポリマーバインダーを混合し、攪拌しながら80℃まで加熱しすべてのポリマーバインダーを均質に溶解させた。ついで溶液を室温まで冷却し、光重合開始剤を加えて溶解させた。その後溶液を400メッシュのフィルターを通過し、濾過した。このときの溶媒の量としては、得られるペーストの粘度が2万?5万cpsの範囲になるようした。
【0051】b.ペースト作製
上記の有機ビヒクルに導電性粉末、モノマー、金属酸化物粉末およびガラスフリットを所定の組成となるように添加し、3本ローラで混合・分散してしペーストを作製した。ペーストの組成を表1?表3に示す。
【0052】c.アルミナ基板の表面処理
表面処理液として(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシランのイソプロピルアルコールの1重量%溶液を用いる。次にこの溶液1.5mlをアルミナ基板上に落とし、スピナーで回転数3000rpmで10秒で塗布した後、100℃で30分間保持し、乾燥して表面処理を行った。
【0053】d.印刷
上記のペーストを250メッシュスクリーンを用いて、表面処理を施したアルミナ基板(100mm角、厚み0.5mm)上に70mm角の大きさにベタに印刷し、80℃で40分間乾燥した。乾燥後の塗布膜の厚みは導電性粉末、ポリマーバインダー、モノマーの種類によって異なるが、12?20μmであった。
【0054】e.露光、現像
上記で作製した塗布膜を10?60μmの範囲で5μm間隔のファインパターンを形成したクロムマスクを用いて、上面から50mW/cm2の出力の超高圧水銀灯で紫外線露光した。次に25℃に保持したモノエタノールアミンの1重量%の水溶液に浸漬して現像し、その後スプレーを用いて光硬化していないヴィアホールを水洗浄した。
【0055】f.焼成
アルミナ基板上に印刷した塗布膜を空気中、500℃で1時間の脱バインダー焼成を行い、ポリマーバインダー、モノマー、光重合開始剤および溶媒を蒸発させた後、850?1000℃にて0.5時間焼結させ、導体膜を作製した。焼成温度を表1?3に示す。
【0056】g.評価
焼成後の導体膜について膜厚、解像度、比抵抗を測定し、評価した。膜厚はマイクロメータで測定した。解像度は導体膜を顕微鏡観察し、10?60μmのラインが直線で重なりなくかつ再現性が得られるライン間隔を最も微細なライン間隔として決定した。比抵抗は4端子法で30mAの電流下で起電力を測定して抵抗を求めた。これらの測定値を表1?3に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
【表2】

【0059】
【表3】

【0060】このように光硬化性の樹脂を含む導電性ペーストを用いてフォトリソグラフィー法により線幅/線間隔が60μm/60μm以下の微細パターンでかつ低抵抗を有する回路パターンが得られるのでとくにセラミックス多層基板やハイブリッドICの小型化、高密度化に有利である。
【0061】
【0062】
【0063】
【発明の効果】本発明は上述のごとく構成したので微細パターンが確実に形成できるうえ、配線パターンのかすれや線幅の上下差、および線幅のだれなども確実に防止することができる。また配線抵抗を低くできるため通信機などの高周波での伝達損失を低減することができる。この結果、高い信頼性を得ることができ、高密度なセラミックス多層配線基板やハイブリッドICの小型化、高密度化を可能にするものである。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2007-04-17 
出願番号 特願平10-163173
審決分類 P 1 651・ 121- YA (H01B)
P 1 651・ 113- YA (H01B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 木村 敏康寺本 光生吉水 純子  
特許庁審判長 柳 和子
特許庁審判官 平塚 義三
近野 光知
井上 猛
長者 義久
登録日 2003-03-07 
登録番号 特許第3405199号(P3405199)
権利者 東レ株式会社
発明の名称 感光性導電ペースト  
代理人 堀内 美保子  
代理人 鈴江 武彦  
代理人 中村 誠  
代理人 河野 哲  

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