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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B23K
管理番号 1159350
審判番号 不服2005-13118  
総通号数 92 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-08-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-07-08 
確定日 2007-06-11 
事件の表示 平成11年特許願第131107号「プラズマ切断方法及び装置」拒絶査定不服審判事件〔平成12年11月21日出願公開、特開2000-317639〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯・本願発明
本件出願は、平成11年5月12日の特許出願であって、その請求項1乃至4に係る発明は、平成17年7月8日付けの手続補正書により補正がされた明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1乃至4に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「ダブルスワール方式のプラズマトーチを用いて切断ラインに沿ってワークを切断する方法において、
前記プラズマトーチを前記ワークの切断ラインに沿って切断速度で移動させるステップと、
製品外形の切断ラインのうちコーナ以外の部分に相当する切断ラインでは、前記切断速度を所定の高速値にし、前記製品外形のコーナに相当する切断ライン及び製品内部の穴に相当する切断ラインでは、前記切断速度を所定の低速値にするように前記切断速度を変化させるステップと、
前記切断速度の変化に対応して、前記切断速度が低くなるほど前記2次ガスの流量が小さくなるように、前記2次ガスの流量を変化させるステップと
を備えたプラズマ切断方法。」

第2 引用例の記載事項
1 引用例1
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された本件出願前に頒布された刊行物である特開平9-47877号公報(以下「引用例1」という。)には、次の事項が記載されている。
(1-ア)第1欄第43?48行
「【発明の属する技術分野】本発明は、作動ガス噴出ノズルの周囲から、2次ガスを旋回させながら供給するようにし、主として切断作業に用いられるプラズマトーチ、及びこのプラズマトーチを用いて切断面の角度(開先角度)を変化させながら切断を行うプラズマ切断方法に関するものである。」

(1-イ)第2欄第11?22行
「【0004】一方、プラズマ切断では、高速で切断を行うと大きなベベル角が付くので、重要な切断品質であるベベル角を約ゼロ度にするよう、切断分離限界よりもかなり低速で切断を行わなければならなかった。
【0005】しかし最近、ノズルを覆うようにしてキャップとノズルとの間に構成した空間に2次流体を旋回させながら流して、切断上縁部の肩だれやベベル角を改善しながら切断を行う技術が行われるようになってきた。この技術によれば、切断速度の増加によりベベル角がついても、2次流体(ガス)の旋回流により数度程度のベベル角矯正が可能になり、良質切断速度が飛躍的に向上できるようになった。」

(1-ウ)第2欄第41?49行
「【0009】一方、特開平6-246456号公報にあるように、2次ガスを旋回させてベベル角の改善を狙った従来技術にあっては、トーチが切断材に対して垂直な状態で2次旋回ガスによる切断面の角度調整が行えるといっても、その調整範囲はたかだか数度であって、垂直な切断面が要求される場合におけるベベル角の矯正という用途に留まり、・・・。」

(1-エ)第7欄第42行?第8欄第2行
「【0048】また、図5から明らかなように、この実施例はワーク14に対してトーチを垂直状態にし、2次ガス流量を変化させることによって開先角の調整が可能である。さらに、2次ガス流量制御手段16により2次ガス流量を変化させることで、連続した開先加工が簡単にでき、2次ガス流量制御を切断速度に同期させることで、ワーク14の任意の部分に任意の開先加工を行うことができる。当然のことであるが、2次ガス流量を調整することで、切断面を垂直にする、いわゆる垂直切断も可能であり、・・・。」

上記記載事項を本願発明に照らして技術常識を勘案しながら整理すると、引用例1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「作動ガス噴出ノズルの周囲から2次ガスを旋回させながら供給するプラズマトーチを用いて切断ラインに沿ってワークを切断する方法において、
前記プラズマトーチを前記ワークの切断ラインに沿って切断速度で移動させるステップと、
前記切断速度の増加によりついたベベル角が約ゼロ度となるような2次ガスの流量を供給するステップと
を備えたプラズマ切断方法。」

また、上記摘記事項(1-イ)、(1-ウ)によれば、切断速度の増加によりベベル角がついても、2次流体の旋回流によりベベル角を矯正できるものであり、(1-エ)によれば、2次ガス流量を調整することで、切断面を垂直(すなわちベベル角が約ゼロ度)にすることも可能であるから、引用例1には次の技術的事項も記載されていると認められる。
「プラズマ切断方法において、高速で切断を行うと大きなベベル角がつくので、ベベル角を約ゼロ度にするには、低速で切断を行わなければならないが、切断速度の増加によりベベル角がついても、2次流体の流量を調整することによりベベル角を約ゼロ度にすることができること。」

2 引用例2
同じく、原査定の拒絶の理由に引用された本件出願前に頒布された刊行物である「溶接技術,産報出版株式会社,1988年6月1日,第36巻第6号,p.119?120」(以下「引用例2」という。)には、次の事項が記載されている。
(2-ア)第119頁右下欄下から5行?第120頁左欄第11行
「Q どうして旋回流の場合は,左右対象(当審注、「対称」の誤記と認められる。)とならないのですか。また,なぜ,作動ガスの旋回が切断面のテーパに影響するのですか。
A 切断面のテーパー角は,通常,同一電流で切断すると,切断速度が遅くなるほど小さくなり,早くなるほど大きくなります。旋回流の場合,・・・・・・・(中略)・・・・
したがって,右側は切断速度が遅く,左側は切断速度が早くなったことになり,テーパー角が左右対角となりません。」

(2-イ)第120頁左欄第12?23行
「Q そうすると,旋回流が強いほどこの傾向は大きくなるわけですね。
A その通りです。しかし,ガス流のみではあまり旋回流を強くすると,チップ先端部で図11に示すような壁流効果といって,チップ先端面に沿ってガスが流れ出す現象が出ます。そのため,ガス流では旋回強さをあまり強くすることができません。
この問題を取り上げたのが,ウォータインジェクションプラズマです。水の分子は重いため,同一旋回力でも接線方向の速度ベクトルは大きくなります。このため,図12に示すように,旋回流が右旋回の場合,右側の切断面はほぼ垂直に近くなります。」

上記記載事項からみて、引用例2には次の事項が記載されていると認められる。
「切断面のテーパー角は、切断速度が遅いほど小さく、速いほど大きくなること、及び、旋回流では、右側は切断速度が遅く左側は切断速度が速くなることとなり、テーパー角が左右対称とならず、旋回流が強いほどその傾向が大きくなること。」

第3 対比
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「作動ガス噴出ノズルの周囲から2次ガスを旋回させながら供給するプラズマトーチ」は、本願発明における「ダブルスワール方式のプラズマトーチ」に相当していることが明らかである。
また、引用発明における「切断速度の増加によりついたベベル角が約ゼロ度となるような2次ガスの流量を供給するステップ」は、切断速度に対応した2次ガスの流量を供給するステップという限りで、本願発明における「製品外形の切断ラインのうちコーナ以外の部分に相当する切断ラインでは、切断速度を所定の高速値にし、前記製品外形のコーナに相当する切断ライン及び製品内部の穴に相当する切断ラインでは、前記切断速度を所定の低速値にするように前記切断速度を変化させるステップと、前記切断速度の変化に対応して、前記切断速度が低くなるほど前記2次ガスの流量が小さくなるように、2次ガスの流量を変化させるステップ」と共通している。
したがって、両者の一致点と相違点は次のとおりと認められる。
[一致点]
「ダブルスワール方式のプラズマトーチを用いて切断ラインに沿ってワークを切断する方法において、
前記プラズマトーチを前記ワークの切断ラインに沿って切断速度で移動させるステップと、
前記切断速度に対応した2次ガスの流量を供給するステップと
を備えたプラズマ切断方法。」である点。
[相違点]
本願発明では、「製品外形の切断ラインのうちコーナ以外の部分に相当する切断ラインでは、前記切断速度を所定の高速値にし、前記製品外形のコーナに相当する切断ライン及び製品内部の穴に相当する切断ラインでは、前記切断速度を所定の低速値にするように前記切断速度を変化させるステップと、
前記切断速度の変化に対応して、前記切断速度が低くなるほど前記2次ガスの流量が小さくなるように、前記2次ガスの流量を変化させるステップ」を備えるのに対し、引用発明では、製品外形の切断ラインのうちコーナ以外の部分に相当する切断ラインと、製品外形のコーナ及び製品内部の穴に相当する切断ラインとに分けて切断速度を設定しているものではなく、2次ガスの流量についてもそのように特定されていない点。

第4 相違点についての検討
プラズマ切断方法において、切断ラインの屈曲部分やコーナ部分では直線部分よりも切断速度を低速にすることは、例えば特開平10-85942号公報の段落【0002】?【0003】、特開平10-29068号公報の段落【0002】、特開平10-249563号公報の段落【0002】、特開平2-108466号公報の第2頁右上欄第7?14行、特開平1-210169号公報の第1頁右下欄第14?18行等に記載されているように、従来周知の事項にすぎない。
また、プラズマ切断方法を用いて、製品外形の切断ライン及び製品内部の穴の切断ラインに沿って切断することは普通に行われる事項であり、一般に、製品内部の穴に相当する切断ラインは、製品外形の切断ラインに比較して屈曲部分の割合が高いことは技術常識より明らかである。
してみると、引用発明に上記従来周知の事項を採用して、製品外形の切断ラインのうちコーナ以外の部分に相当する切断ラインでは切断速度を所定の高速値にし、製品外形のコーナに相当する切断ライン及び製品内部の穴に相当する切断ラインでは切断速度を所定の低速値にすることは当業者が容易になし得たことである。
ところで、引用例1には、上記第2の1に示したとおり、プラズマ切断方法において、高速で切断を行うと大きなベベル角がつくので、ベベル角を約ゼロ度にするには、低速で切断を行わなければならないが、切断速度の増加によりベベル角がついても、2次流体の流量を調整することによりベベル角を約ゼロ度にすることができるという技術的事項が記載されている。また、引用例2には、上記第2の2に示したとおり、切断面のテーパー角(ベベル角)は、切断速度が遅いほど小さく、速いほど大きくなること、及び、旋回流では、右側は切断速度が遅く左側は切断速度が速くなることとなり、テーパー角が左右対称とならず、旋回流が強いほどその傾向が大きくなることが記載されている。
上記引用例1乃至2の記載によれば、切断速度が低速の場合には2次ガスの供給なしにベベル角を約ゼロ度にすることができるとともに、切断速度が高速の場合には2次ガスの流量を調整することによりベベル角を約ゼロ度にすることができ、旋回流が強いほど、ベベル角が左右非対称となる傾向、すなわちベベル角が約ゼロ度となる傾向が大きくなることが理解できる。
そうすると、引用発明において、コーナ以外の部分に相当する切断ラインでは切断速度を所定の高速値とし、コーナの部分に相当する切断ライン及び製品内部の穴に相当する切断ラインでは切断速度を所定の低速値にするに当たって、前記切断速度の変化に対応して、切断速度が低くなるほど2次ガスの流量が小さくなるように、前記2次ガスの流量を変化させるステップを備えることに格別の困難性は見当たらない。

また、本願発明の奏する作用効果は、引用発明、引用例1乃至2記載の事項、及び上記従来周知の事項より当業者が十分予測できる範囲内のものであって、格別顕著なものではない。

したがって、本願発明は、引用発明、引用例1乃至2記載の事項、及び上記従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

なお、請求人は平成19年2月15日付け回答書において、概略、「すなわち、上述した本発明の特徴点である、製品内部の「穴」を切断する時には、その切断ラインをコーナとそれ以外の場所とに区別せずに、穴の切断ラインは全て、製品外形のコーナ以外の部分よりも低速な切断速度にする点は、引用文献1?7のいずれにも開示も示唆もされていない。」として、本願発明が従来技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものではない旨を主張している。
しかしながら、上述のとおり、プラズマ切断方法において、切断ラインの屈曲部分やコーナ部分では直線部分よりも切断速度を低速にすることは従来周知の事項にすぎず、また製品内部の穴に相当する切断ラインは、製品外形の切断ラインに比較して屈曲部分の割合が高いことも技術常識より明らかであるから、製品外形の切断ラインよりも屈曲部分の割合が高い製品内部の穴を切断する時に切断速度を低速にすることは当業者が容易になし得た事項というべきである。
よって、請求人の上記主張は採用することができない。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明、引用例1乃至2記載の事項、及び従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許をすることができない。
したがって、本件出願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-04-13 
結審通知日 2007-04-16 
審決日 2007-04-27 
出願番号 特願平11-131107
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B23K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 福島 和幸  
特許庁審判長 前田 幸雄
特許庁審判官 菅澤 洋二
鈴木 孝幸
発明の名称 プラズマ切断方法及び装置  
代理人 特許業務法人ウィルフォート国際特許事務所  

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