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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 B41J
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41J
管理番号 1159484
審判番号 不服2004-16859  
総通号数 92 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-08-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-08-12 
確定日 2007-06-21 
事件の表示 平成 9年特許願第153378号「サ-マルプリンタのインクリボンマガジン」拒絶査定不服審判事件〔平成11年 1月 6日出願公開、特開平11- 1054〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成9年6月11日に出願したものであって、平成16年7月8日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成16年8月12日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年9月13日付けで明細書についての手続補正がなされたものである。
当審においてこれを審理した結果、平成19年2月1日付けで平成16年9月13日付けの手続補正を補正却下するとともに、同日付けで拒絶の理由を通知したところ、請求人は平成19年4月4日付けで意見書及び手続補正書を提出した。

第2.本願発明
平成19年4月4日付けの手続補正によって補正された請求項1の記載は、以下の通りである。(以下、「本願発明」という。)
「内部にサーマルヘッドを収納するスペ-スを有するリボンフレ-ムと、
このリボンフレ-ムに設けられインクリボン供給用ロ-ラを保持する第1の保持部と、
このインクリボン供給用ロ-ラから供給されるインクリボンを巻き取る巻き取りロ-ラを保持する第2の保持部と、
上記インクリボン供給用ロ-ラから上記サーマルヘッドに供給されるインクリボンをガイドする上記リボンフレ-ムに設けられたガイド部と、
上記リボンフレームに取付けられ、上記サーマルヘッドから上記巻き取りローラに巻き取られるインクリボンに対して、印字処理後でサーマルヘッドがプラテンより離間する方向に移動されて印字が行われないときにその可撓性部材の付勢力により上記インクリボンにテンションを加えるように構成された可撓性部材よりなるリボンテンション部材と、
上記リボンテンション部材から上記巻き取りローラに供給されるインクリボンをガイドする上記リボンフレ-ムに設けられたガイド部とを具備し、
上記リボンテンション部材により印字後のインクリボンに対して張力が加えられてインクリボンのシワの発生を防ぐことを特徴とするサ-マルプリンタのインクリボンマガジン。」

第3.当審の拒絶理由
当審において通知した記載不備についての拒絶理由は、以下の内容を含んでいる。

「A.この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、平成14年改正前特許法第36条第4項及び第6項第2号に規定する要件を満たしていない。



1.請求項1において、「サーマルヘッドがプラテンより離間する方向に移動されたときに付勢力により上記インクリボンにテンションを加えるように構成された」とあるが、何を意味するのか明確でない。
(上記記載では、サーマルヘッドがプラテンより離間する方向に移動していない状態ではインクリボンにテンションが加えられておらず(あるいは、弱いテンションが加えられ)、プラテンより離間する方向に移動されたときに付勢力により上記インクリボンにテンションを加えられる(あるいは、より強いテンションが加えられる)ようにも受け取れるし、サーマルヘッドがプラテンより離間する方向に移動されたときにも(つまり、サーマルヘッドがプラテンより離間する、しないにかかわらず)付勢力により上記インクリボンにテンションを加えるようにも受け取れ、いずれの意味か不明である。あるいは、他の意味なのか。)」

第4.特許法第36条に関する当審の判断
「AのときにBする」と、条件を付して機能を記載した場合、「AでないときBしない」という意味をその裏返しとして内包していることが通常である。(「AのときもAでないときもBする」のであれば「Bする」と表現するだけで充分である。)上記拒絶理由の趣旨は、「・・・とき・・・」と条件を付した記載に対し、そのような条件を付さないときにはどのような機能を奏するものであるかを問い質しているものであり、上記「・・・ときに・・・ように構成された」は、そもそも「可撓性部材」の構成を機能で表現しようとするものであるから、機能が充分に記載されなければ、「可撓性部材」の構成が理解できないものである。
上記拒絶理由通知に対して、第2で記載したように「・・・印字処理後でサーマルヘッドがプラテンより離間する方向に移動されて印字が行われないときにその可撓性部材の付勢力により上記インクリボンにテンションを加えるように構成された・・・」と補正するのみで、「・・・とき・・・」と条件を付した場合のみが記載され、条件を付さない場合にどのような機能を奏するものであるかを依然として記載していない。そうすると、「印字処理後でサーマルヘッドがプラテンより離間する方向に移動されて印字が行われないときにその可撓性部材の付勢力により上記インクリボンにテンションを加え、サーマルヘッドがプラテン方向に移動されて印字が行われるときに上記インクリボンにテンションを加えないように構成された」と裏読みができ、そのようなあいまいな機能で表現される「可撓性部材」は、その構成が明確とは到底いえない。
また、請求人は平成19年4月4日付け意見書で以下のように主張している。
『上記のとおり、ヘッドは、「約1mm程度」とはいえ上下動することから、プラテンとヘッドとの間には隙間が生じることとなり、所定のテンション付与がされているインクリボンは、そのヘッドによる上下動に伴い、そのテンションに影響を与えることになります。すなわち、印字処理を行わない場合で、ヘッドが上昇してプラテンから離間する方向に移動すると、インクリボンは所定のテンション付与がされているとはいえ、結果的にはインクリボンにタルミが生じることとなります。逆に、印字処理行う場合には、ヘッドは下降してプラテン側に移動されていることから、所定のテンション付与がされているインクリボンにさらなるテンションが加わることとなります。』(平成19年4月4日付け意見書3頁第末行?第4頁第7行、下線は当審で付与した。)
『そして、補正後の請求項1に記載されている、特に、「リボンフレームに取付けられ、上記サーマルヘッドから上記巻き取りローラに巻き取られるインクリボンに対して、印字処理後でサーマルヘッドがプラテンより離間する方向に移動されて印字が行なわれないときにその可撓性部材の付勢力により上記インクリボンにテンションを加えるように構成された可撓性部材よりなるリボンテンション部材」の構成を備えたことを特徴とするものであります。
このリボンテンション部材の構成により、「サ-マルヘッド161 はプラテン171 方向に移動して、印字処理が行われ、印字処理が行われないときには、プラテン171 から離間する方向に移動される。つまり、リボンテンション部材31は、ポリエステルシ-トのような可撓性のある部材で構成され、取付板32が取付けられる平坦部32aと、この平坦部32aからリボンフレ-ム21の外側にくの字状に折り曲げられた折曲部32bとから構成されている。このリボンテンション部材31は印字処理を行わないときに、リボンテンション部材31の折曲部32bは、図1のa位置にあり、印字処理を行うときには、サ-マルヘッド161 はプラテン171 側に移動されているので、リボンテンション部材31の折曲部32bは、図1のb位置までくる。そして、印字処理を行わない場合には、サ-マルヘッド161 はプラテン171 より離間する方向に移動されている。このため、折曲部32bはa位置にある。印字が終了した部分のインクリボンR、つまりサ-マルヘッド161 の下流側にあるインクリボンRは、リボンテンション部材31の折曲部32bの付勢力により張力が加えられるため、インクリボンRのシワがとられる。このため、インクリボンRのシワにより次の印字に影響を及ぼすことを防止することができる。」([0027]?[0030])との顕著な作用、そして「請求項1及び請求項2記載の発明によれば、インクリボンにテンションを加えるためのリボンテンション部材を設けるようにしたので、サ-マルヘッドに高エネルギ-をかけて高印字率のパタ-ンを印字した時に、インクリボンを巻き取る巻き取り部においてインクリボンが不均一に巻き取られ、インクリボンのテンションが一定とならない場合でも、シワを発生させることなく、印字品質を高いものに保つことができる。』(平成19年4月4日付け意見書第4頁第23行?同頁下から第3行)
特に、上記下線を付した箇所、本願明細書の段落【0027】?【0030】、【図1】を合わせて読むと、「印字処理後でサーマルヘッドがプラテンより離間する方向に移動されて印字が行われないとき」(以下、「非印字時」という。)には、インクリボンには所定のテンションが付与され、「サーマルヘッドがプラテン方向に移動されて印字が行われるとき」(以下、「印字時」という。)には、インクリボンは、サーマルヘッドで押され、インクリボンには所定のテンションより強いテンションが付与され、「非印字時」に少し変形してインクリボンに当接していたリボンテンション部材は、強制的に図1のb位置まで移動させられ、より大きく変形し、したがって、a位置にあるときより強い付勢力を生じ、インクリボンにより強い付勢力を加えることにならざるを得ない。つまり、「非印字時」、「印字時」にかかわらず、可撓性部材の付勢力は、インクリボンにテンションを加えており、付勢力の強さは、「非印字時」より「印字時」の方が強いものといえる。
よって、本願発明の詳細な説明の項に記載された唯一の実施例は、「非印字時」、「印字時」にかかわらず、可撓性部材の付勢力は、インクリボンにテンションを加えるものであって、そのような可撓性部材よりなるリボンテンション部材に対して、あえて、「印字時」にインクリボンにテンションを加えないように読める機能的表現を用いて規定することは、著しく可撓性部材よりなるリボンテンション部材の構成を不明確としているものといわざるを得ない。
したがって、本願発明は、明確であるとは到底いえず、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

第5.特許法第29条第2項に関する当審の判断
(1)引用刊行物
原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願前に頒布された刊行物である実願昭59-154634号(実開昭61-70059号)のマイクロフィルム(以下、「刊行物」という。)には、以下の記載がある。
ア.「56は熱転写式プリンタ用のカセットで、下端が開口したプラスチック製のケース本体57と、ケース本体57の下端開口を塞ぐプラスチック製の底板58とを備え、ケース本体57及び底板58の前部側の中央には後方に没入した凹欠部59.60が設けられている。このカセット56には、ケース本体57の支持筒61に回動自在に内嵌した回動筒62にインクリボン63を操出自在に巻回して成るインクリボンパンケーキ64が設けられると共に、該インクリボンパンケーキ64からインクリボン63を巻取る巻取コア74が縦方向の軸心廻りに回動自在に保持されている。またカセット56にはガイドローラ65.66がケース本体57に突設の縦軸67.68廻りに回動自在に設けられると共に、ガイドピン69がケース本体57に突設され、ケース本体57には凹欠部59の両側に位置して左右一対の突壁70.71が設けられると共に、左右一対の開口窓72.73が形成されている。インクリボン63はパンケーキ64からガイドピン69、ガイドローラ65を経て開口窓72から凹欠部59前方に引出された後、開口窓73からケース本体57内に挿入され、ガイドローラ66を経て巻取コア74に巻回されており、インクリボン63は巻取コア74の矢印e方向への回動によりパンケーキ64から巻取コア74へ巻取られるようになっている。そしてカセット56は、係合爪75.76の係止片46.47への係合により、キャリティ25の上蓋43上に着脱自在に載置固定され、このとき凹欠部59の前方にサーマルヘッド33が位置すると共に、キャリティ25の回動軸39が巻取コア74に相対回動不能に内嵌するようになっている。」(第7頁第17行?第9頁第6行)
イ.「78は左右一対のガイド部材で、該各ガイド部材78は弾性を有するプラスチック等により、突壁70.71間に嵌合されたコ字状の取付部材79と共に一体に形成され、取付部材79の前部両端からハの字状に前方突出している。而して開口窓72から引出されたインクリボン63を、サーマルヘッド33の前側を通るようにガイド部材78間に架け渡すと、サーマルヘッド33の後方揺動時には、インクリボン63のテンションにより第1図に実線で示す如くガイド部材78がサーマルヘッド33の後方揺動に対応して左右方向外方に弾性変形し、インクリボン63をプリテンローラ21から後方へ離間せしめる。またサーマルヘッド33が前方揺動した場合、サーマルヘッド33がインクリボン63をプリテンローラ63側に押圧すると共に、サーマルヘッド33の前方揺動によるインクリボン63のテンション変化により、第1図に鎖線で示す如くガイド部材78が左右方向内方に折曲して、インクリボン63が長い範囲に亘ってプリテンローラ21の軸方向と略平行になるようにインクリボン63をプリテンローラ21側に付勢するようになっている。」(第9頁第7行?第10頁7行)
ウ.「上記実施例の構成によれば、転写の際には、タイミングベルト29がモータ30の駆動により矢印c方向に回転駆動され、キャリティ25が矢印b方向に移動し、印字毎にソレノイド37が作動してその作動片37aがサーマルヘッド33を押圧し、サーマルヘッド33を前方揺動するサーマルヘッド33の前方揺動により、キャリティ25の移動に対応して回動軸39が矢印e方向に回動し、その結果キャリティ25の矢印b方向への移動にも拘らず普通紙53への相対移動が無くなるようにインクリボン63がインクリボンパンケーキ64から巻取コア74へと巻取られる。このときインクリボン63のテンション変化により、サーマルヘッド33の前方揺動に対応してガイド部材78が第1図に鎖線で示す如く左右方向内方に変形して、インクリボン63が長い範囲に亘ってプリテンローラ21の軸方向と略平行になる。」(第10頁第8行?第11頁第4行)
エ.「また、サーマルヘッド33の後方揺動時には、第1図に実線で示す如くガイド部材78が左右方向外方に弾性変形し、インクリボン63をプリテンローラ21から後方へ離間せしめるので、キャリティ25の移動によりインクリボン63が普通紙53と擦れて、該普通紙53を汚すこともない。」(第11頁第11?16行)
オ.第1、5図から、ガイドローラ65は、回動筒62からサーマルヘッド33に供給されるインクリボンをガイドし、ガイドローラ66は、ガイド部材78から巻取コア74に供給されるインクリボン63をガイドしていることが看取でき、サーマルヘッド33から巻取コア74に巻き取られるインクリボン63に対して、サーマルヘッド33のプリテンローラ63に対する後方揺動時であるか前方揺動時であるかにかかわらず、ガイド部材78(第1図においては左側の、第5図においては右側の)が、インクリボン63にテンションを加えていることが看取できる。
カ.第1、3、4、5図から、ケース本体57及び底板58の前部側の中央に設けられた凹欠部59.60に対応する部分であって、ケース本体57と底板58の間には、サーマルヘッド33が入り得る大きさのスペースが看取できる。

上記ア.の「インクリボン63を巻取る巻取コア74が縦方向の軸心廻りに回動自在に保持されている。」という記載から、ケース本体57には、巻取コア74を回動自在に保持する保持部が存在することは明らかであり、ア.の「ケース本体57には凹欠部59の両側に位置して左右一対の突壁70.71が設けられる」という記載及びイ.の「ガイド部材78は弾性を有するプラスチック等により、突壁70.71間に嵌合されたコ字状の取付部材79と共に一体に形成され」という記載から、ガイド部材78は、ケース本体57に取付けられているものといえる。また、上記オ.に記載のガイド部材78がテンションを与えているインクリボン63は、印字後のものであることは明らかである。
よって、上記記載を含む刊行物全体の記載から、刊行物には、以下の発明が開示されていると認められる。
「凹欠部59.60に対応する部分であって、ケース本体57と底板58の間には、サーマルヘッド33が入り得る大きさのスペースを有するケース本体57及び底板58と、
このケース本体57に設けられ回動筒62に内嵌した支持筒61と、
この回動筒62から供給されるインクリボン63を巻き取る巻取コア74を回動自在に保持する保持部と、
上記回動筒62から上記サーマルヘッド33に供給されるインクリボン63をガイドする上記ケース本体57に突設の縦軸67廻りに回動自在に設けられたガイドローラ65と、
上記ケース本体57に取付けられ、上記サーマルヘッド33から上記巻取コア74に巻き取られるインクリボン63に対して、サーマルヘッド33のプリテンローラ63に対する後方揺動時であるか前方揺動時であるかにかかわらず、弾性変形により上記インクリボン63にテンションを加えるように構成された弾性を有するプラスチック等によりなるガイド部材78と、
上記ガイド部材78から上記巻取コア74に供給されるインクリボン63をガイドする上記ケース本体57に突設の縦軸68廻りに回動自在に設けられたガイドローラ66とを具備し、
上記ガイド部材78により印字後のインクリボン63に対して張力が加えられる熱転写式プリンタ用のカセット。」

(2)対比
そこで、本願発明と刊行物記載の発明とを比較すると、刊行物記載の発明の「回動筒62」、「支持筒61」、「巻取コア74」、「保持部」、「プリテンローラ63」及び「熱転写式プリンタ」は、それぞれ本願発明の「インクリボン供給用ロ-ラ」、「第1の保持部」、「巻き取りロ-ラ」、「第2の保持部」、「プラテン」及び「サ-マルプリンタ」に相当し、刊行物記載の発明の「ケース本体57及び底板58」と、本願発明の「リボンフレ-ム」は、「主構造部材」の点で共通し、刊行物記載の発明の「支持筒61」は、回動筒62に内嵌しているので、回動筒62を保持するといえ、刊行物記載の発明の「回動筒62からサーマルヘッド33に供給されるインクリボン63をガイドするケース本体57に突設の縦軸67廻りに回動自在に設けられたガイドローラ65」と、本願発明の「インクリボン供給用ロ-ラからサーマルヘッドに供給されるインクリボンをガイドするリボンフレ-ムに設けられたガイド部」は、「インクリボン供給用ロ-ラからサーマルヘッドに供給されるインクリボンをガイドする主構造部材に設けられたガイド部」で共通し、刊行物記載の発明の「ガイド部材78」は、弾性を有するプラスチック等によりなっているから、可撓性部材よりなるといえ、本願発明の「リボンテンション部材」に相当し、刊行物記載の発明の「ガイド部材78から巻取コア74に供給されるインクリボン63をガイドするケース本体57に突設の縦軸68廻りに回動自在に設けられたガイドローラ66」と、本願発明の「リボンテンション部材から巻き取りローラに供給されるインクリボンをガイドするリボンフレ-ムに設けられたガイド部」は、「リボンテンション部材から巻き取りローラに供給されるインクリボンをガイドする主構造部材に設けられたガイド部」で共通する。また、刊行物記載の発明の「カセット」と本願発明の「インクリボンマガジン」とは、「着脱式インクリボン支持体」の点で共通する。
よって両者は、
「スペ-スを有する主構造部材と、
この主構造部材に設けられインクリボン供給用ロ-ラを保持する第1の保持部と、
このインクリボン供給用ロ-ラから供給されるインクリボンを巻き取る巻き取りロ-ラを保持する第2の保持部と、
上記インクリボン供給用ロ-ラから上記サーマルヘッドに供給されるインクリボンをガイドする上記主構造部材に設けられたガイド部と、
上記主構造部材に取付けられ、上記サーマルヘッドから上記巻き取りローラに巻き取られるインクリボンに対して、テンションを加えるように構成された可撓性部材よりなるリボンテンション部材と、
上記リボンテンション部材から上記巻き取りローラに供給されるインクリボンをガイドする上記主構造部材に設けられたガイド部とを具備し、
上記リボンテンション部材により印字後のインクリボンに対して張力が加えられるサ-マルプリンタの着脱式インクリボン支持体。」
の点で一致し、以下の点で相違している。
[相違点1]主構造部材に関して、本願発明は、リボンフレームであるのに対し、刊行物記載の発明は、ケース本体57及び底板58である点。
[相違点2]着脱式インクリボン支持体に関して、本願発明は、インクリボンマガジンであるのに対し、刊行物記載の発明は、カセットである点。
[相違点3]スペ-スに関して、本願発明は、内部にサーマルヘッドを収納するスペ-スであるのに対し、刊行物記載の発明は、凹欠部59.60に対応する部分であって、ケース本体57と底板58の間のサーマルヘッド33が入り得る大きさのスペースである点。
[相違点4]リボンテンション部材に関して、本願発明は、印字処理後でサーマルヘッドがプラテンより離間する方向に移動されて印字が行われないときにその可撓性部材の付勢力により上記インクリボンにテンションを加えるように構成されたのに対し、刊行物記載の発明は、サーマルヘッド33のプリテンローラ63に対する後方揺動時であるか前方揺動時であるかにかかわらず、弾性変形により上記インクリボン63にテンションを加えるように構成されたものである点。
[相違点5]本願発明がリボンテンション部材により印字後のインクリボンに対して張力が加えられてインクリボンのシワの発生を防ぐのに対し、刊行物記載の発明は、ガイド部材78により印字後のインクリボン63に対して張力が加えられるものの、インクリボンのシワの発生を防ぐか否か明らかでない点。

(3)判断
上記相違点1、2について検討する。
着脱式インクリボン支持体の主構造部材の形状や構造をどのようなものにするかは、着脱式インクリボン支持体を装着するプリンタにより適宜決定されるものであり、主構造材をフレームとし、主構造をフレームとしたものをインクリボンマガジンと称することは、周知技術(例えば、特開平7-329384号公報)であるから、該技術を刊行物記載の発明の適用し、上記相違点1、2のような構成とすることは、当業者が容易になし得る程度のことである。

上記相違点3について検討する。
本願発明は、インクリボンマガジンを請求しているのに対し、本願発明の「内部にサーマルヘッドを収納する」という記載は、インクリボンマガジンを装着するプリンターのサーマルヘッドでスペ-スを規定しようとするものである。サーマルヘッドは、プラテンに対して動くものであり、特に、インクリボンマガジンをプリンターに装着する際には、サーマルヘッドがインクリボンを傷つけないように、サーマルヘッドをプラテンに対し相当量退避させることは技術常識である。そうすると、「内部にサーマルヘッドを収納する」とは、印字時の状態のことであるか、インクリボンマガジンをプリンターに着脱時のことであるか不明である。そこで、本願の【図1】を見ると、リボンフレーム21からサーマルヘッド20が半分程度突出しており、サーマルヘッド20の上方には充分なスペースが看取できる。よって、「内部にサーマルヘッドを収納する」とは、インクリボンマガジンをプリンターに装着するときのことを意味しているものと認められ、本願発明の「スペース」は、サーマルヘッドを収納することができる大きさを有していれば足りるものと認められる。
一方、刊行物記載の発明は、ケース本体57と底板58の間にサーマルヘッド33が入り得る大きさのスペースを有しているものであり、サーマルヘッドがプリテンローラ63より充分退避すれば、収納することができる大きさを有しているから、相違点3は、実質的な相違点とはいえない。

上記相違点4について検討する。
刊行物の記載エ.によると、サーマルヘッド33の後方揺動時とは、キャリティ25の移動中のことであるから、本願発明の印字処理後でサーマルヘッドがプラテンより離間する方向に移動されて印字が行われないときであることに変わりはない。また、刊行物のイ.に「第1図に実線で示す如くガイド部材78がサーマルヘッド33の後方揺動に対応して左右方向外方に弾性変形し、インクリボン63をプリテンローラ21から後方へ離間せしめる」と記載されているから、ガイド部材78には付勢力が存在していてインクリボンにテンションを加えているものである。そうすると、相違点4も、実質的な相違点とはいえない。

相違点5について検討する。
インクリボンの幅方向の印字不均一を原因とする幅方向の収縮やインクリボンの厚さの違いから生じるシワの発生、そのシワの発生の防止のためにインクリボンの幅方向に異なる付勢力を与えるのであれば、一応理解はできるが、インクリボンの幅方向の付勢力の違いを規定しない本願発明について、なぜシワの発生が防止できるのか必ずしも明らかではないが、本願明細書【030】に「このため、折曲部32bはa位置にある。印字が終了した部分のインクリボンR、つまりサ-マルヘッド161 の下流側にあるインクリボンRは、リボンテンション部材31の折曲部32bの付勢力により張力が加えられるため、インクリボンRのシワがとられる。」と記載され、この記載が正しければ、刊行物記載の発明のガイド部材78は、サーマルヘッド33から上記巻取コア74に巻き取られるインクリボン63に対して、つまり、サーマルヘッドの下流側のインクリボンに対して付勢力が与えられているから、本願発明と同様にインクリボンのシワの発生を防ぐものと認められる。

そして、本願発明の作用効果も、刊行物記載の発明及び周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。

したがって、本願発明は、本願出願前に頒布された刊行物記載の発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

第6.むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、本願出願前に頒布された刊行物記載の発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-04-23 
結審通知日 2007-04-24 
審決日 2007-05-08 
出願番号 特願平9-153378
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B41J)
P 1 8・ 537- Z (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 畑井 順一立澤 正樹  
特許庁審判長 津田 俊明
特許庁審判官 長島 和子
尾崎 俊彦
発明の名称 サ-マルプリンタのインクリボンマガジン  
代理人 中村 誠  
代理人 河野 哲  
代理人 村松 貞男  
代理人 鈴江 武彦  
代理人 橋本 良郎  

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