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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16C
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16C
管理番号 1159517
審判番号 不服2005-4090  
総通号数 92 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-08-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-03-09 
確定日 2007-06-21 
事件の表示 特願2001- 35413「セラミック動圧軸受、軸受付きモータ、ハードディスク装置及びポリゴンスキャナ」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 8月23日出願公開、特開2002-235743〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯の概要
本願は、平成13年2月13日を出願日とする出願であって、平成17年2月4日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年3月9日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年4月8日付けで手続補正がなされたものである。

2.平成17年4月8日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成17年4月8日付けの手続補正を却下する。

[理由]
(1)補正後の請求項1に係る発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「所定の回転軸線周りに非接触で相対回転する第一部材と第二部材との間に動圧隙間が形成され、それら第一部材と第二部材との相対回転に伴い、前記動圧隙間に流体動圧を発生させるよう構成されるとともに、前記第一部材及び前記第二部材の少なくともいずれかにおいて、前記動圧隙間に面する研磨表面(以下、動圧隙間形成面という)を含む部分が少なくともアルミナ質セラミックにて構成される、気体を動圧発生用流体とするセラミック動圧軸受であって、
前記セラミックからなる動圧隙間形成面に存在する表面空孔の平均寸法が2?20μmであり、
前記動圧隙間形成面おける、寸法2?20μmの表面空孔の形成面積率が15?60%であり、
更に、前記動圧隙間形成面における、寸法20μmを超える表面空孔の形成面積率が10%以下であることを特徴とするセラミック動圧軸受。」
と補正された。

上記補正は、特許請求の範囲の請求項1に係る発明の技術事項である、所定の回転軸線周りに相対回転する第一部材と第二部材について、「非接触」であるとの限定を、セラミック動圧軸受について、「気体を動圧発生用流体とする」との限定を、動圧隙間形成面において、「寸法20μmを超える表面空孔の形成面積率が10%以下である」との限定を、それぞれ付加したものである。
そうすると、上記補正は平成15年改正前特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成15年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(2)引用刊行物の記載事項
<刊行物1>
原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開平10-213125号公報(以下、「刊行物1」という。)には、「セラミックス製動圧軸受」に関して、下記の事項が図面とともに記載されている。
(a)「【発明の属する技術分野】本発明は、回転時には主軸と軸受とが非接触となり、主軸又は軸受が回転する動圧軸受に関するものである。
【従来の技術】従来より、高速回転する高精度モータには、高速回転時の優れた軸受性能を得るためや、低回転ムラの発生の防止等のために、空気等の気体を媒体とした動圧軸受が用いられている。この動圧軸受とは、例えば主軸が回転する場合には、回転時に主軸が軸受面と非接触で支持されて回転するものであり、この主軸及び軸受の材料には、ステンレス等の金属もしくはこれらに樹脂等のコーティングを施したものが一般的に用いられている。
ところが、金属製の動圧軸受では、起動時および停止時に主軸と軸受が焼き付きを起こすことがある。また、金属に樹脂をコーティングを施したものでは、耐摩耗性に劣り動圧軸受としての寿命が短いという問題があった。
【発明が解決しようとする課題】そこで、上記のような動圧軸受の起動時および停止時の焼き付きを防止するために、主軸及び軸受の両方またはどちらか一方を、焼き付きが生じにくくしかも耐摩耗性に優れているアルミナを始めとするセラミックスにより構成することが行われている。」(第2頁第1欄第18行?同頁同欄第42行、段落【0001】?【0004】参照)
(b)「本発明は、前記課題を解決するためになされたものであり、動圧軸受の回転中に振動や焼き付きが発生することがないセラミックス製動圧軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】前記目的を達成するための請求項1の発明は、 主軸もしくは軸受が回転する際に、該主軸と軸受とが互いの回転面にて非接触となる動圧軸受において、前記主軸もしくは軸受又は双方のうち、少なくとも前記回転面がセラミックスから構成されるとともに、該セラミックスからなる回転面の表面粗さが、凹凸の平均間隔(Sm)で5?50μmであることを特徴とするセラミックス製動圧軸受を要旨とする。
前記セラミックスとしては、アルミナ、ジルコニア、アルミナ-ジルコニア、窒化珪素、炭化珪素等を採用できる。」(第2頁第2欄第1行?同頁同欄第16行、段落【0006】?【0008】参照)
(c)「請求項2の発明は、前記セラミックスからなる回転面に、多数の空孔を有していることを特徴とする前記請求項1に記載のセラミックス製動圧軸受を要旨とする。この多数の空孔は、回転面の表面に均一に分散していることが好ましい。また、その径に関しては、あまり小さかったり大きかったりすることは望ましくなく、同じ程度の径の空孔が分散していることが望ましい。
従って、セラミックスの回転面の接触面積率としては、例えば50?80%の範囲が好適である。また、空孔の回転面における直径の平均値は、5?20μmの範囲が好適である。更に、空孔の回転面のおける直径は、5?15μmの範囲内であると好適である。」(第2頁第2欄第32行?同頁同欄第44行、段落【0010】及び【0011】参照)
(d)「【発明の実施の形態】セラミックス材を動圧軸受の材料として採用する場合には、主軸と軸受のセラミックス材の回転面における表面粗さが問題になる。つまり、一般に研磨加工後のセラミックス表面では、研磨時の粒子脱落により、微少な孔が存在しているが、このような孔の数、大きさ、分布状態等が、動圧軸受の回転時の振動や、(主軸と軸受の一方が金属である場合の)焼き付きに大きな影響を及ぼしていると考えられる。
具体的には、セラミック材の回転面に径の大きな孔(例えば直径100μmを超える孔)が存在している場合には、例えば主軸が回転する際に、主軸と軸受との間にある流体層に乱れが発生し、例えば主軸に振動が発生すると考えられる。一方、セラミックス材の回転面に存在する孔の個数が少なすぎたり、孔の径が小さいものが多数の場合には、主軸と軸受の回転面に凝着が生じ易くなり、主軸等が金属で形成されている場合には、焼き付きが生じことがある。」(第2頁第2欄第50行?第3頁第3欄第16行、段落【0013】及び【0014】参照)
(e)「【実施例】次に、本発明のセラミックス製動圧軸受の実施例について説明する。
(実施例1)
a)本実施例のセラミックス製動圧軸受は、図2(a)に示す様に、例えばポリゴンミラーを回転駆動するためのモータユニット1に使用されるものであり、空気を媒体とした動圧軸受3である。」(第3頁第3欄第23行?同頁同欄第29行、段落【0016】参照)
(f)「また、図2(b)に示す様に、主軸9は貫通孔7内にて偏心して配置されており、主軸9の中心軸は貫通孔7の中心軸と例えば5μmだけわずかにずれている。よって、動圧軸受の原理により、軸受5は主軸9と非接触にて高速回転する。尚、軸受5及び主軸9のうち少なくとも一方の回転面(例えば軸受5側のみ)には、軸受5の回転を主軸9と非接触に滑らかに行うために、周知の動圧溝(図示せず)が形成されている。尚、周知の動圧溝の部分は、上述した表面粗さSmの対象外である。
前記軸受5及び主軸9は、アルミナセラミックからなり、各々の回転面5a,9aの表面粗さSmは、5?50μmの範囲に設定されている。つまり、軸受5及び主軸9の回転面5a,9aには、多数の微小な孔(図示せず)が形成されており、この孔の大きさ及び数により、前記表面粗さSmが決まる。尚、孔の径の大きさは様々であるが、主として直径(5?20μm)の範囲のものからなり、平均すると、10μmである。」(第3頁第3欄第39行?同頁第4欄第6行、段落【0018】及び【0019】参照)
(g)「b)上述した動圧軸受3は、下記の方法により製造することができる。
アルミナからなるセラミック粉末をプレス成形して圧粉体を焼結し、この焼結品に研磨加工を施して所定の寸法に仕上げる。その後、回転面5aに動圧溝を形成する。この動圧溝は、例えばサンドブラストやエッチング等により形成する。そして、得られた動圧軸受3をモータユニット1に組み込む。
特に、軸受5及び主軸9の回転面5a,9aの表面粗さSmを、5?50μmの範囲に設定するためには、使用するアルミナの粒径、成形圧力、焼結温度、相対密度、研磨方法等を適宜選択することにより行うことができる。例えば表面を粗くする研磨を行う場合には、表面粗さSmが大きくなり、逆に表面を滑らかにする研磨を行う場合には、表面粗さSmが小さくなるので、それらを組み合わせて、表面粗さSmを、5?50μmの範囲に設定することができる。
上述した構成を有する本実施例の動圧軸受3は、回転面における表面粗さSmが5?50μmの適度な範囲であるので、動圧軸受3の回転時の振動が極めて少なく、また、軸受5及び主軸9がセラミックスから構成されているので、始動時や停止時等に焼き付きが発生することもない。」(第3頁第4欄第12行?同頁同欄第34行、段落【0020】?【0023】参照)

したがって、刊行物1には下記の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。
【引用発明1】
「所定の回転軸線周りに非接触で相対回転する軸受と主軸との間に動圧隙間が形成され、それら軸受と主軸との相対回転に伴い、前記動圧隙間に流体動圧を発生させるよう構成されるとともに、前記軸受及び前記主軸の少なくともいずれかにおいて、前記動圧隙間に面する研磨表面(以下、回転面の表面という)を含む部分が少なくともアルミナセラミックスにて構成される、空気を動圧発生用流体とするセラミックス製動圧軸受であって、
前記セラミックスからなる回転面の表面に存在する空孔の直径の平均値が5?20μmであり、
前記回転面の表面に存在する空孔の直径は5?15μmが好適であり、
更に、前記回転面の表面おける、接触面積率が50?80%であるセラミックス製動圧軸受。」

(3)対比・判断
刊行物1に記載された上記記載事項(a)?(g)からみて、引用発明1の「軸受」は、本願補正発明の「第一部材」又は「第二部材」に、引用発明1の「主軸」は、本願補正発明の「第二部材」又は「第一部材」に相当し、以下同様に、「動圧隙間に面する研磨表面(以下、回転面の表面という)」は「動圧隙間に面する研磨表面(以下、動圧隙間形成面という)」に、「アルミナセラミックス」は「アルミナ質セラミック」に、「空気」は「気体」に、「セラミックス製動圧軸受」は「セラミック動圧軸受」に、「セラミックス」は「セラミック」に、それぞれ相当するものと認める。
そこで、本願補正発明の用語を使用して本願補正発明と引用発明1とを対比すると、両者は、
「所定の回転軸線周りに非接触で相対回転する第一部材と第二部材との間に動圧隙間が形成され、それら第一部材と第二部材との相対回転に伴い、前記動圧隙間に流体動圧を発生させるよう構成されるとともに、前記第一部材及び前記第二部材の少なくともいずれかにおいて、前記動圧隙間に面する研磨表面(以下、動圧隙間形成面という)を含む部分が少なくともアルミナ質セラミックにて構成される、気体を動圧発生用流体とするセラミック動圧軸受」
で一致しており、下記の点で一応相違している。
《相違点1》
本願補正発明は、前記セラミックからなる動圧隙間形成面に存在する表面空孔の平均寸法が2?20μmであり、
前記動圧隙間形成面における(註:本願の請求項1には「前記動圧隙間形成面おける」とあるが、これは「前記動圧隙間形成面における」と同じ意義を有するものと認められる。)、寸法2?20μmの表面空孔の形成面積率が15?60%であり、
更に、前記動圧隙間形成面における、寸法20μmを超える表面空孔の形成面積率が10%以下であるのに対し、
引用発明1は、前記セラミックスからなる回転面の表面に存在する空孔の直径の平均値が5?20μmであり、
前記回転面の表面に存在する空孔の直径は5?15μmが好適であり、
更に、前記回転面の表面における、接触面積率が50?80%である点。

そこで、上記相違点1について検討する。
《相違点1について》
刊行物1に記載された上記記載事項(a)?(g)からみて、引用発明1の「表面に存在する空孔の直径の平均値」は、本願補正発明の「表面空孔の平均寸法」に相当するものと認める。
そうすると、引用発明1の表面に存在する空孔の直径の平均値が5?20μmであることは、本願補正発明の表面空孔の平均寸法が2?20μmであることと重複する範囲を有する。なお、その下限値については、あまり小さかったりすることは望ましくないと、刊行物1(上記摘記事項(c),(d)を参照)及び本願明細書(段落【0012】?【0016】を参照)の双方においてともに認めているので、その下限値に格別な臨界的意義を見いだすことはできず、当業者が適宜設定し得る設計事項である。
次に、引用発明1の回転面の表面おける、接触面積率が50?80%であることは、表面空孔の形成面積率が20?50%であることに等しく(註:接触面積率=100%-表面空孔の形成面積率)、その時の表面空孔の平均寸法で5?20μm、寸法では5?15μmの範囲内が好適であること(上記摘記事項(c)参照)、刊行物1に記載された事項である【実施例】は「孔の径の大きさは様々であるが、主として直径(5?20μm)の範囲のものからなり、平均すると、10μmである」こと(上記摘記事項(f)参照)、及び「セラミック材の回転面に径の大きな孔(例えば直径100μmを超える孔)が存在している場合には、例えば主軸が回転する際に、主軸と軸受との間にある流体層に乱れが発生し、例えば主軸に振動が発生すると考えられる」こと(上記摘記事項(d)参照)から、表面空孔を主として寸法5?20μmのもののみとし、この寸法を超える表面空孔はほとんど存在しない(約0%)ものとすることは当業者にとって容易に想到し得るものであり、それを適用した引用発明1は、寸法20μmを超える表面空孔の形成面積率が10%以下であることを満たし、主たる寸法が5?20μmの表面空孔の形成面積率が20?50%であるものであり、本願補正発明の寸法2?20μmの表面空孔の形成面積率が15?60%であり、更に、前記動圧隙間形成面における、寸法20μmを超える表面空孔の形成面積率が10%以下であることと重複する範囲を有する。なお、寸法の下限値については、平均寸法と同様で、あまり小さかったりすることは望ましくないと、刊行物1(上記摘記事項(c),(d)を参照)及び本願明細書(段落【0012】?【0016】を参照)の双方においてともに認めているので、その下限値に格別な臨界的意義を見いだすことはできず、加えて寸法2(5)?20μmの表面空孔の形成面積率の境界値については、表面空孔の数があまり少なすぎたり多すぎたりすることは望ましくないと、刊行物1(上記摘記事項(c),(d)を参照)及び本願明細書(段落【0012】?【0016】を参照)の双方においてともに認めているので、その境界値についても格別な臨界的意義を見いだすことはできず、それらは当業者が適宜設定し得る設計事項である。
してみれば、引用発明1及び刊行物1に記載された事項に基づいて、上記相違点1に係る本願補正発明の構成とすることは、技術的に格別の困難性を有することなく、当業者が容易に想到し得たものである。

また、本願補正発明の効果について検討しても、引用発明1及び刊行物1に記載された事項から当業者であれば予測することができる程度のことであって、格別のものとは言えない。

したがって、本願補正発明は、刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

なお、請求人は、平成17年5月18日付けの手続補正書(方式)で補正された審判請求書中において、『a)拒絶査定の備考欄には、「引用文献の段落[0011]には、セラミックスの回転面の接触面積率が、50?80%、即ち表面空孔の形成面積率が請求項1に係る発明と重複する範囲の20?50%であることも記載されている。また、上記範囲の表面空孔の形成面積率は、通常軸受に用いられるセラミックスが備えている範囲を含むものであり、特別なものとは認められない。」と記載されています。
b)また、平成16年11月24日付けの拒絶理由通知書には、「なお、(補正前の)請求項3における、寸法20μmを超える表面空孔の形成面積率が10%以下である点は、引用文献1に、表面空孔の寸法が100μm以下である点が寸法が記載されているから、当業者が適宜実験的に決定できる設計的事項である」と記載されています。
以下、その点について、説明致します。
a)まず、「形成面積率が15?60%」に関しましては、上述しました様に、引用文献1には、接触面における空孔と非空孔との面積の割合が記載してあるだけに過ぎず、これは、本願発明の、「寸法2?20μmの表面空孔の形成面積率が15?60%」とは異なります。
つまり、引用文献1に、「セラミックスの回転面の接触面積率が50?80%」と記載されているとしましても、この「50?80%」という接触面積率が、どの程度の空孔によって実現されているか分かりませんので、引用文献1の記載から本願発明の構成が得られるとは到底思われません。
尚、引用文献1には、「空孔の直径の平均値は5?20μm」との記載がありますが、このことが、本願発明の「寸法2?20μmの表面空孔の形成面積率が15?60%」の構成を示すもので無いことは明かです。
b)次に、「寸法20μmを超える表面空孔の形成面積率が10%以下」に関しましては、この範囲に設定することにより、振動が少なく安定した回転を実現できるのですから、その効果は大きなものです。
従いまして、単なる設計的事項では無いと思料致します。』(上記審判請求書の【本願発明が特許されるべき理由】(3)審査官殿のご指摘に関しましての項参照)旨主張している。

しかしながら、引用発明1における「セラミックスの回転面の接触面積率が50?80%」であるということは、刊行物1に記載された事項を参酌すると「平均寸法が5?20μm、寸法が5?15μmの表面空孔の形成面積率が20?50%」のものであると言え、さらに「表面空孔を主として寸法5?20μmのもののみとし、この寸法を超える表面空孔はほとんど存在しないもの(約0%、すなわち寸法20μmを超える表面空孔の形成面積率が10%以下)」とすることは当業者が容易に想到し得る事項であり、それにより引用発明1が本願補正発明と重複する範囲の上記構成を有することは上記の通りである。
よって、請求人の上記審判請求書中での主張は採用することができない。

(4)むすび
以上のとおり、本願補正発明(本件補正後の請求項1に係る発明)が特許出願の際独立して特許を受けることができないものと認められるのであるから、補正後の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件補正は、平成15年改正前特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第4項の規定に適合しないものであり、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明について
(1)本願発明1
平成17年4月8日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?16に係る発明は、出願当初の明細書及び図面、並びに平成17年1月24日付けの手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?16に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、次のとおりのものである。
「【請求項1】所定の回転軸線周りに相対回転する第一部材と第二部材との間に動圧隙間が形成され、それら第一部材と第二部材との相対回転に伴い、前記動圧隙間に流体動圧を発生させるよう構成されるとともに、前記第一部材及び前記第二部材の少なくともいずれかにおいて、前記動圧隙間に面する表面(以下、動圧隙間形成面という)を含む部分が少なくともセラミックにて構成されるとともに、そのセラミックからなる動圧隙間形成面に存在する表面空孔の平均寸法が2?20μmであり、前記動圧隙間形成面における、寸法2?20μmの表面空孔の形成面積率が15?60%であることを特徴とするセラミック動圧軸受。」

(2)引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開平10-213125号公報(「刊行物1」)の記載事項は、前記「2.(2)」に記載したとおりである。

(3)対比・判断
本願発明1は、前記「2.」で検討した本願補正発明の技術事項である、所定の回転軸線周りに相対回転する第一部材と第二部材について、「非接触」であるとの限定を、セラミック動圧軸受について、「気体を動圧発生用流体とする」との限定を、動圧隙間形成面において、「寸法20μmを超える表面空孔の形成面積率が10%以下である」との限定を省いたものに実質的に相当する。
そうすると、本願発明1の構成を全て含み、さらに限定したものに相当する本願補正発明が、前記「2.(3)対比・判断」に記載したとおり、刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、本願発明1も、実質的に同様の理由により、刊行物1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。

(4)むすび
以上のとおり、本件出願の請求項1に係る発明(本願発明1)は、その出願前日本国内または外国において頒布された刊行物1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そして、本件出願の請求項1に係る発明が特許を受けることができないものである以上、本件出願の請求項2?16に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-04-20 
結審通知日 2007-04-24 
審決日 2007-05-08 
出願番号 特願2001-35413(P2001-35413)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (F16C)
P 1 8・ 121- Z (F16C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鳥居 稔  
特許庁審判長 村本 佳史
特許庁審判官 藤村 泰智
大町 真義
発明の名称 セラミック動圧軸受、軸受付きモータ、ハードディスク装置及びポリゴンスキャナ  
代理人 足立 勉  

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