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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H03H
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H03H
管理番号 1159866
審判番号 不服2005-11456  
総通号数 92 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-08-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-06-16 
確定日 2007-06-29 
事件の表示 特願2000- 38152「水晶振動子の電極形成方法」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 8月17日出願公開、特開2001-223557〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第一.手続の経緯
本願は、平成12年2月10日の出願であって、拒絶理由通知に対して平成17年1月24日に手続補正書が提出され、その後なされた拒絶査定に対して、拒絶査定不服の審判が平成17年6月16日に請求されるとともに、同年7月19日に手続補正がなされたものである。



第二.平成17年7月19日付の手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成17年7月19日付の手続補正を却下する。

[理由]
[1].補正後の本願発明
平成17年7月19日付の手続補正(以下「本件補正」という)により、特許請求の範囲の請求項1は以下のように補正された(以下「本願補正発明」という)。
「矩形状とした水晶片の両主面に励振電極を形成するとともに、前記励振電極から前記水晶片におけるX軸方向の一端部両側に引出電極を延出してなる水晶振動子の電極形成方法において、
前記水晶片におけるX軸方向の一側を、エッチングによって生じた側面の凹凸の模様のうち前記一側に尖った先端を有する前記凸部から認識した後、
前記水晶片の両主面に励振電極を形成するとともに、前記励振電極から前記水晶片のX軸方向の一側である前記凸部の尖った先端方向の一端部両側に引出電極を延出したことを特徴とする水晶振動子の電極形成方法」


[2].補正要件(目的)の検討
本件補正は、請求項1における択一的記載である「模様又は外形」のうち「外形」を削除し、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である、「エッチングによって生じた側面の模様」、及び「水晶片のX軸方向の-側となる一端部両側」について、各々「凹凸の」と「のうちの前記-側に尖った先端を有する前記凸部」、及び「凸部の尖った先端方向の」との限定を付加するものであるから、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。


[3].補正要件(独立特許要件:特許法第29条第2項)の検討
(1).引用刊行物、及びその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、特開平5-235678号公報、及び周知技術を例示するための刊行物である、特開平7-111435号公報、 岩波理化学事典( 第5版 第3刷 株式会社岩波書店 1998年12月25日発行)「エッチピット」「食像」、特開平8-242134号公報、特開平7-109200号公報には、図面とともに以下の事項が記載されている。

(A).特開平5-235678号公報(以下、「刊行物A」という。)
(A-1).「【請求項1】 原石より結晶軸に対する所定の切り出し角度で切断され、所定の形状、寸法に成形された複数の水晶片の表裏面略中央部に夫々電極膜を設けるとともに、各水晶片の少なくともX軸の正または負方向の表裏面端部に夫々電極膜と導通する電極リードを配してATカット水晶振動子片を形成し、更に各水晶振動子片の一端部を夫々パッケージ内の保持部材に固着する工程を有する水晶振動子の製造方法において、各水晶振動子片端部の前記保持部材への固着を前記X軸の正または負方向側のいずれかで統一して行うことを特徴とする水晶振動子の製造方法。」
(A-2).「【請求項2】 前記水晶振動子片端部の固着は、水晶振動子片の切り出し角度が所定の基準値に対して正の誤差を伴うときは前記X軸の正方向側で行い、負の誤差を伴うときは前記X軸の負方向側で行うことを特徴とする請求項1記載の水晶振動子の製造方法。」
(A-3).「【0007】これは、振動子片の切り出し角度が水晶振動子の特性バラツキに大きな影響を与える一方で、従来は、パッケージ内で水晶振動子を固着保持する際、その結晶軸方向、例えばX軸方向の極性について何ら考慮がなされずにランダム方向で固着保持していたことに起因する。」
(A-4).「【0012】【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため、本発明では、原石より結晶軸に対する所定の切り出し角度で切断され、所定の形状、寸法に成形された複数の水晶片の表裏面略中央部に夫々電極膜を設けるとともに、各水晶片の少なくともX軸の正または負方向(以下、+X軸、-X軸と称する)の表裏面端部に夫々電極膜と導通する電極リードを配してATカット水晶振動子片を形成し、更に各水晶振動子片の一端部を夫々パッケージ内の保持部材に固着する工程を有する水晶振動子および水晶発振器の製造方法において、各水晶振動子片端部の前記保持部材への固着を+X軸側または-X軸側のいずれかで統一して行うようにした。」
(A-5).「【0018】切り出した各水晶片には、例えば図2に示すように、短冊状に成形するとともに、その表裏面中央部に電極膜12を設け、さらにこれら電極膜12と夫々導通する電極リード13をX軸方向の端部に導出してATカット水晶振動子片11を形成する。」
(A-6).以上の記載から、刊行物Aには次の発明(以下、「引用発明」という)が記載されている。
「 原石より結晶軸に対する所定の切り出し角度で切断され、短冊状に成形された水晶片の表裏面略中央部に夫々電極膜を設け、
水晶振動子片の切り出し角度が所定の基準値に対して負の誤差を伴うときはX軸の負方向の表裏面端部に夫々電極膜と導通する電極リードを配して水晶振動子片を形成し、当該振動子片の負方向側端部をパッケージ内の保持部材に固着する工程を有する水晶振動子の製造方法」

(B).特開平7-111435号公報(以下、「刊行物B」という。)
(B-1).「【0016】もしも、水晶板と基板とを全面で密着させた状態で加熱処理をすると、熱膨張率差に起因した熱応力が発生し、水晶板に相転移が起こる。水晶板に過大な加工歪が加わると、右水晶と左水晶との双晶が生じる。例えば、+35゜ATカット(右水晶)30MHzのブランクと、これとは異なる熱膨張率の基板とを接合すると、表1に示すような相変化が起こる。左水晶に相変化したものは、カット角が見かけ上-35゜BTカットになるので、共振周波数が約1.5倍の40MHzになる。なお、水晶板をフッ化アンモニウムの水溶液でエッチングし、表面に現れるエッチピットの模様から、その面がATカットであるかBTカットであるか双晶であるかを知ることができる。BTカットはATカットに比べて余分なスプリアス成分が多く、温度安定性も悪い。双晶になると、基本的な共振特性すら得られない。」

(C).「岩波理化学事典 第5版 第3刷」 株式会社岩波書店 1998年12月25日発行
(C-1).「エッチピット 固体の表面を化学腐食剤、電解研磨、真空中高温加熱などの種々の方法で腐食するときにできるくぼみをいう。腐食孔または食孔、食凹ともいう.直径は0.1mm?1μm程度.結晶の腐食の初期において低指数面にその結晶学的対称性と同じ対称性をもった形の食像がつく.結晶の方位を簡単に決定するための1方法として用いられる。・・・・腐食によってくぼみと逆に小さな突起が残る場合もあり、食丘と呼ばれる。」(第144頁右欄末行?第145頁左欄上部)
(C-2).「食像 薬品などの腐食(エッチング)により物体に面に現われる形象.多くは角ばったくぼみ(食凹またはエッチピット)や低い3角または4角の角錐(食凸)となる.・・・.結晶面上にできる食像は、その形態が結晶の対称性を示すことから、対掌性結晶の右手型と左手型の区別(石英の右旋性、左旋性など)、双晶の判定、結晶族の相違(方解石とドロマイトの区別など)極性結晶の極性の決定などに利用される.また成長結晶機構の研究にも使われる。」

(D).特開平8-242134号公報(以下、「刊行物D」という。)
(D-1).「【0004】従来、水晶振動子の高周波化、小型化、高精度化、高安定化に伴い水晶振動子の製造を半導体の製造工程であるフォトリソグラフィ・エッチングを用いて行うことが盛んになってきた。これは、従来のブレードソーやワイヤーソーによる結晶の機械的切断に代わって、任意の形状のマスクを用いてフォトリソ加工し、不要の結晶部分をウェットエッチングにて溶解除去する方法である。」
(D-2).「【0012】【発明が解決しようとする課題】現在の水晶振動子の製造工程に於いては、化学的研磨工程を経る場合はもちろん、機械研磨に於いても最終仕上げに弗酸による工程が採用されており、水晶のウェットエッチングは欠かせない物となっている。
【0013】しかし、例えばATカット水晶でウェットエッチングを行った場合、エッチング速度は結晶軸の方向に依存し、Z軸に沿った方向に早くエッチングが進むので仕上がり表面に凹凸がでてしまう。また、同じ理由で振動面の輪郭に当たる部分でも異方性があることから側壁部が斜めになってしまい、輪郭の寸法通りに加工ができないという難点がある。
【0014】一方、振動子として評価した場合、表面粗さが小さいほど等価直列抵抗(Ci)が低く損失の少ない振動子が得られる事が知られている。従って加工時に歪みなどが入らないのであれば水晶基板表面に鏡面仕上げをすることが望ましい。」

(E).特開平7-109200号公報(以下、「刊行物E」という。)
(E-1).「【0004】エッチングは水晶デバイスを製作する上で欠かせない加工技術の一つである。エッチングが使われる目的として、次の二つが挙げられる。
【0005】第1は、水晶表面の研磨や切削などの機械的加工に基づく表面粗さ(凹凸)や歪を除去し、表面の清浄化を目的として行う。
【0006】第2は、エッチングの微細加工への応用で、フォトリソグラフィーを用いて水晶振動子を製造する際に水晶基板を分離分割すること(いわゆる小割加工と称する)を目的として行う。この場合、水晶基板上にレジストや金属マスクを用いて1μm程度の小さいパターンを形成し、その下にある水晶基板を精度良くエッチングして加工しなければならない。」
(E-2).「【0013】α-石英の結晶を振動子の使用目的にあわせて切断(カット)し、研磨して所定の寸法に仕上げた水晶基板の切削面または研磨面は、加工に用いた砥粒の粒度の数倍から10倍程度の深さまで加工による歪をうけており、この層を取り除かなければ基板として使えない。
【0014】この加工歪を受けた層の深さは、研磨面ではマイクロクラックに基づく部分的な歪層まで含めても10μm程度であり、この表面凹凸を速く、均一に除去し、しかも仕上がり面が鏡面になるエッチングが必要となる。
【0015】それは以下のような理由による。水晶振動子の特性を再現性よく、高い歩留まりで、かつなるべく低コストで作り出すために、水晶振動子はフォトリソグラフィーを用いて水晶基板から製造されている。その工程において、均一で密着性の良い電極や金属マスクを水晶基板上に形成させるために、平滑な水晶基板が必要となるためである。」

(2).引用発明と本願補正発明との対比・判断
(ア).発明特定事項の対応関係
引用発明における「短冊状に成形された水晶片」は、本願補正発明における「矩形状とした水晶片」に対応し、以下同様に「水晶片の表裏面略中央部」は「水晶片の両主面」、「振動子片の負方向側端部」は「水晶片におけるX軸方向の-側一端部」に、「電極膜」は「励振電極」に、「電極リード」は「引出電極」に各々対応する。
(イ).一致点
引用発明においては、電極リード形成前にはX軸の負方向が認識されていることは明らかであることを勘案すると、両者は次の点で一致する。
「矩形状とした水晶片の両主面に励振電極を形成するとともに、前記励振電極から前記水晶片におけるX軸方向の一端部両側に引出電極を延出してなる水晶振動子の電極形成方法において、
前記水晶片におけるX軸方向の一側を認識した後、
前記励振電極から前記水晶片のX軸方向の一側である一端部両側に引出電極を延出した水晶振動子の電極形成方法」
(ウ).相違点
(i).X軸方向の-側の認識に関し、本願補正発明は、「エッチングによって生じた側面の凹凸の模様のうち前記一側に尖った先端を有する前記凸部」にて認識するのに対し、引用発明は当該認識の手法が不明である点、。
(ii).引出電極を延出する、X軸方向の-側である一端部両側を、本願補正発明は「前記凸部の尖った先端方向の一端部両側」とするのに対し、引用発明は、その点が不明瞭である点。
(エ).相違点の検討
(i).相違点(i).(ii)について、
刊行物D、Eに示されるように、いわゆる小割り加工を目的に水晶基板上にパターンを形成し、水晶基板をエッチングする加工技術は周知であり、刊行物B、Cに示されるように水晶をエッチングすると、当該エッチング面にできる、多くは角ばったくぼみ(食凹またはエッチピット)、低い3角または4角の角錐(食凸)の食像の形態が結晶の対称性を示すことから、食像にて結晶の方位を簡単に決定する方法は周知である。
してみれば、引用発明において、X軸方向の一側を認識する方法として、前記周知の、小割り加工を目的にエッチングし、そのエッチングによって生じた側面の凹凸の模様にて結晶の方位を簡単に決定する方法を採用することは、当業者が容易に想到できることであり、しかも、その側面に生じた凹凸の模様が結晶の対称性を示すことから、「X軸方向の-側」を凹凸の模様のうち前記-側に尖った先端方向と認識することは単なる設計的事項である。

(オ).むすび
引用発明において、X軸方向の一側の認識を周知の食像による認識手段を採用する点に格別の困難性、効果も認められないから、上記相違点を総合的に判断しても、本願補正発明は、刊行物Aに記載された発明、及び、周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。


[4].まとめ
以上のように、本願補正発明は、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に違反し、特許法第159条第1項で準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。



第三.本願発明について
[1].本願発明
平成17年7月19日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は、平成17年1月24日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「矩形状とした水晶片の両主面に励振電極を形成するとともに、前記励振電極から前記水晶片におけるX軸方向の一端部両側に引出電極を延出してなる水晶振動子の電極形成方法において、前記水晶片におけるX軸方向の-側をエッチングによって生じた側面の凹凸の模様又は外形から認識した後、前記水晶片の両主面に励振電極を形成するとともに、前記励振電極から前記水晶片のX軸方向の-側となる一端部両側に引出電極を延出したことを特徴とする水晶振動子の電極形成方法。」


[2].引用刊行物及びその記載事項 原査定の拒絶の理由に引用された引用刊行物、および、その記載事項は、前記「第二.[3].(1)」に記載したとおりである。


[3].引用発明と本願発明との対比
本願発明は、前記「第二」で検討した本願補正発明から「エッチングによって生じた側面の模様」、及び「水晶片のX軸方向の-側」の各々の限定事項である「凹凸の」と「のうちの前記-側に尖った先端を有する前記凸部」、及び「凸部の尖った先端方向」との構成を省いたものである。
そうすると、本願発明の構成要件を全て含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「第二.[3].」に記載したとおり、刊行物Aに記載された発明、及び、周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、刊行物Aに記載された発明、及び、周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

[4].むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物Aに記載された発明、及び、周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-04-06 
結審通知日 2007-04-17 
審決日 2007-05-10 
出願番号 特願2000-38152(P2000-38152)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H03H)
P 1 8・ 575- Z (H03H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 工藤 一光  
特許庁審判長 中村 和夫
特許庁審判官 小林 正明
大日方 和幸
発明の名称 水晶振動子の電極形成方法  

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