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審決分類 審判 査定不服 特29条の2 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1159979
審判番号 不服2005-18080  
総通号数 92 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-08-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-09-21 
確定日 2007-06-25 
事件の表示 特願2000-365180「半導体装置及びMIS型半導体装置並びにその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 6月14日出願公開、特開2002-170825〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明

本願は、平成12年11月30日の出願であって、その請求項1に係る発明は、平成16年7月16日付けの手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。

「窒化シリコン及び酸化シリコンを主成分とするシリコン酸窒化膜を含む半導体装置であって、
前記シリコン酸窒化膜の比誘電率が、前記酸化シリコンの比誘電率及び窒化シリコンの比誘電率を組成比で単純平均した比誘電率よりも大きく、
前記シリコン酸窒化膜における最大窒素濃度位置が膜中心部分より表面側でかつ表面より膜中心部分側に位置することを特徴とする半導体装置。」(以下、「本願発明」という。)


2.引用例

これに対し、原査定の拒絶の理由に引用された本願の出願の日前の他の特許出願であって、その出願後に出願公開された特願2000-297657号(以下、「先願」という。特開2002-110674号公報参照)の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下、「先願明細書」という。)には、次の記載が存在する。

(摘示A)「【特許請求の範囲】【請求項1】 シリコン基板層と、その上に形成された絶縁膜層、およびその上に形成された導電性の電極を備えた半導体装置において、前記絶縁膜層がシリコン・酸素・窒素を含有し、その絶縁膜層の窒素濃度がシリコン基板層側界面は低く、電極側界面は多くなっており、前記シリコン基板層と電極の間に窒素濃度の中間領域を持つようにし、さらに前記絶縁膜層の電極側界面付近の膜密度が絶縁膜層の他の領域と比べて高いことを特徴とする半導体装置。
【請求項2】 請求項1に記載された半導体装置において、絶縁膜層の組成を(SiO2)x(Si3N4)1-xと表した場合のx値について、シリコン基板層側界面から0.628nm以内の距離の平均組成x1が0.95≦x1≦1.00で表され、また、電極側界面から0.628nm以内の距離の平均組成をx3と表し、前記絶縁膜層の上記2つの距離範囲を除いた領域の平均組成をx2 と表したときに0.5≦x3 < x2 ≦0.95であり、さらに、ε(x)=3.9*x/(3-2x)+7.8*(1-x/(3-2x))と定義したときに、前記絶縁膜層の誘電率について、電極側界面から0.628nm以内の平均誘電率ε3はε3/ε(x3) > 1を満たし、かつ、シリコン基板層側界面から0.628nm以内の平均誘電率をε1、前記絶縁膜層の上記2つの距離範囲を除いた領域の平均誘電率をε2と表したとき、ε3/ε(x3) >ε2/ε(x2 ) およびε3/ε(x3) >ε1/ε(x1)を満たすことを特徴とする半導体装置。
【請求項3】 第1導電型のシリコン基板層と、この基板層の表面に形成された一対の第2導電型半導体領域と、この第2導電型半導体領域間の第1導電型シリコン基板層上に形成された絶縁膜と、この絶縁膜上に設けられた電極を備える半導体装置において、前記絶縁膜は請求項1または2に記載された絶縁膜層であることを特徴とする半導体装置。
【請求項4】 請求項1,2,3のいずれかに記載された半導体装置の製造方法であって、前記絶縁膜層の製造する際に、ゲート絶縁膜中に窒素を導入する工程と、それに引き続いて活性窒素を用いた窒化を行う工程を含むことを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項5】 請求項4に記載された半導体装置の製造方法において、活性窒素を用いた窒化の工程に電磁波励起によるラジカル窒素またはプラズマ窒素を使用することを特徴とする半導体装置の製造方法。」

(摘示B)「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、半導体装置およびその製造方法に関わり、とくにMOS(metal oxidesemiconductor)構造のゲート絶縁膜を改良した半導体装置及びその製造方法に関するものである。」

(摘示C)「【0002】【従来の技術】シリコン半導体集積回路の微細化にともなって、MOS(metal oxide semiconductor)型半導体装置の寸法が微細化している。最小寸法0.1ミクロン以下のMOS型半導体装置では、実効膜厚が2nm以下のゲート絶縁膜が必要となる。ゲート絶縁膜にSiO2を使う場合、膜厚を2nm以下に薄くすると、ダイレクト・トンネル電流が急激に増加し、リーク電流の最大仕様値1A/cm2を上回ってしまう。ゲート絶縁膜を流れるリーク電流は、MOSトランジスタの消費電力を増加させ、信頼性を低下させるので、好ましくない。そこで、MOS型半導体素子の性能を維持しながらリーク電流を減少させるために、シリコン酸化膜よりも誘電率の高い材料をゲート絶縁膜として使うことが検討されている。そのなかでも、シリコン酸窒化膜は、従来のMOS型半導体素子の製造工程との整合性がよいため、近い将来の絶縁膜として有望視されている。
【0003】シリコン酸窒化膜の形成方法としては、従来、SiO2のNH3窒化/再酸化、N2O酸窒化、NO酸窒化が用いられてきた。とくに、薄膜ゲート絶縁膜では、水素フリーで均一に高濃度の窒素を導入できるという理由で、NO酸窒化が主に使われている。しかし、NO酸窒化ではSi基板側の界面近傍に窒素が入るので、MOSトランジスタの移動度が低下し、駆動力が低下するという問題がある。すなわち、NO酸窒化では、リーク電流低減の目的で導入する窒素の量を増やせば増やすほど、MOSトランジスタの性能が悪くなる。
【0004】そこで、近年、SiO2膜を形成した後にラジカル窒化(またはプラズマ窒化)を行ってSiO2膜の表面側に窒素を導入する方法が提案されている(M. Togo, K. Watanabe, T. Yamamoto, N. Ikarashi, K. Shiba, T. Tatsumi, H. Ono, and T. Mogami, 2000 Symp. on VLSI Tech. p.116; S. V. Hattangady, R. Kraft, D. T.Grider, M. A. Douglas, G. A. Brown, P. A. Tiner, J. W. Kuehne, P. E. Nicollian, and M. F. Pas, IEDM Tech. Dig. 96-495 )。この方法では、シリコン基板界面付近の窒素濃度を低く抑えることができるので、MOSトランジスタの移動度の劣化を防ぎ、高い駆動力を得ることができる。また、最近の我々の検討によると、SiO2膜のラジカル窒化(またはプラズマ窒化)では、窒素・酸素の組成比から予測される酸窒化膜の一般的な誘電率よりも大きな誘電率が得られることがわかった。これは、SiO2膜のラジカル窒化(またはプラズマ窒化)では、熱平衡でない状態で膜中に窒素を導入するため、膜密度が増加することに起因すると考えられる。」

(摘示D)「【0008】【課題を解決するための手段】上記の目的を達成するために、本発明に係る半導体装置は、膜表面(電極界面側)付近の窒素濃度および膜密度が高く、Si基板界面付近の窒素濃度が低く、また、両者の間に、膜表面とSi基板界面との中間の窒素濃度を持つ領域が存在するシリコン酸窒化膜をゲート絶縁膜として使用することを特徴とする。具体的には、図1のように、絶縁膜層(2)の組成を(SiO2)x(Si3N4)1-xと表した場合のx値について、シリコン基板層(1)側界面から0.628nm以内の距離の平均組成x1が0.95≦x1≦1.00で表され、また、電極側界面から0.628nm以内の距離の平均組成をx3と表し、前記絶縁膜層の上記2つの距離範囲を除いた領域の平均組成をx2 と表したときに0.5≦x3 < x2 ≦0.95であり、さらに、ε(x)=3.9*x/(3-2x)+7.8*(1-x/(3-2x))と定義したときに、前記絶縁膜層の誘電率について、電極側界面から0.628nm以内の平均誘電率ε3はε3/ε(x3) > 1を満たし、かつ、シリコン基板層側界面から0.628nm以内の平均誘電率をε1、前記絶縁膜層の上記2つの距離範囲を除いた領域の平均誘電率をε2と表したとき、ε3/ε(x3) >ε2/ε(x2 ) およびε3/ε(x3) >ε1/ε(x1)を満たす。
【0009】また、本発明に係る半導体装置の製造方法は、あらかじめ膜中に窒素を導入したシリコン酸窒化膜に対して活性窒素による窒化を行うことを特徴とする。活性窒素による窒化は、制御性よく多くの窒素を膜表面近くに導入できるという点で、電磁波で励起されたラジカル窒素(プラズマ窒素も可)を用いることが望ましい。さらに、活性窒素による窒化を行う前のシリコン酸窒化膜は、MOSトランジスタの駆動力劣化を生じない程度に界面近くの窒素濃度が低く、かつ、活性窒素導入時の窒素拡散を抑制できる程度に平均窒素濃度が高いという条件を満たす必要から、シリコン基板の酸窒化を行った後に、さらに窒化もしくは再酸化を行うことで膜中央付近に比較的多くの窒素を導入することが望ましい。
【0010】本発明によれば、シリコン酸窒化膜に対して活性窒素による窒化を行うと、すでに膜中に存在する窒素が活性窒素の拡散を抑制するので、SiO2膜に対して活性窒素による窒化を行うのに比べて、Si基板界面側への窒素のパイルアップを少なくすることができる(図2、図3参照)。また、界面側への窒素の拡散の流束を少なくすることによって、膜表面近くの飽和窒素量を大きくすることができる(図4参照)。したがって、界面付近への窒素の導入量がMOSトランジスタの駆動力維持の観点から制限される条件の下で、膜表面に従来よりも多くの窒素を導入できる。そのことによって、従来よりも膜の誘電率を上げることができるので、等しい実効膜厚のゲート絶縁膜で、ゲート・リーク電流を従来よりも低減することが可能になる。さらに、活性窒素による窒化で導入した窒素はゲート絶縁膜の密度を高くする効果もあるので、膜表面側に従来より多くの窒素を導入することで、膜密度増大の効果もそれだけ多く得られることになる。このことによっても、さらに誘電率を高くすることができる。以上のことから、本発明のゲート絶縁膜を用いることで、誘電率が高くリーク電流を抑制でき、かつ界面特性に優れた半導体装置(MOSトランジスタ)を実現できる。」

(摘示E)「【0013】次に、図4のラジカル窒化装置を用いた本発明の半導体装置の製造方法を詳細に説明する。
(第1の実施例)・・・
【0015】次に、図11を用いて、ゲート絶縁膜24の形成工程の詳細を説明する。ウェハ13をRCA洗浄した後、図4に示すラジカル窒化装置の筐体11中へ搬送する。ウェハ13は石英トレイ15上に搭載されている。ラジカル窒化装置のガス導入口15から100hPaのNOガスを導入し、ランプ12を点灯してウェハ13の温度を800℃とし、60sの加熱を行うことで、膜厚1.5nmのシリコン酸窒化膜を形成した。次に、ランプ12を消灯し、NOガスの供給を止めた後、ラジカル窒化装置中へNH3とN2を1:50の流量比で導入した。このときの圧力(全圧)は5hPaであった。再びランプ12を点灯し、ウェハ13の温度を800℃に調整し、30sの加熱を行うことでウェハ13表面の酸窒化膜中へさらに窒素を導入した。このとき、NO酸窒化で先に膜中に導入されていた窒素の影響で、NH3窒化で膜中に取り込まれる窒素はSi基板の界面近傍以外の領域に多く取り込まれる。続けて、ラジカル窒化装置中へガス導入口15から窒素ガスを導入しマイクロ波放電を行うことでウェハ13の表面にラジカル窒素を導入し、ランプ12を点灯して850℃、60sの加熱を行った。このときのマイクロ波放電は、周波数2.45 GHz, 出力100 Wで行った。
【0016】なお、上記のゲート絶縁膜の形成工程において、ウェハ13表面にNOガスで酸窒化膜を形成する代わりに、SiO2膜を形成した後にNOまたはN2Oガスを流して酸窒化膜を形成してもよい。さらに、ラジカル窒化の際の電磁波励起源としては、マイクロ波の代わりに紫外線を用いてもよい。
【0017】本実施例で形成された絶縁膜中の窒素濃度と誘電率を、希HFによるウェットエッチング、断面TEM (Transmission Electron Microscopy)、MEIS (Medium Energy Ion Scattering)、C-V評価法を組み合わせて評価したところ、全体の物理膜厚(Tphys)が1.88nm、Si基板界面から0.628nm以内の組成x1=0.96、絶縁膜の表面側から0.628nm以内の組成x3=0.60、それ以外の部分の組成x2 =0.70が得られた。さらに、膜表面側から0.628nm以内では、ラジカル窒化に起因する膜密度増加に伴う50%の誘電率の増加が認められた(ε3=1.5*ε(x3))。また、膜の中央部では30%(ε2=1.3*ε(x2 ))、Si基板界面近くの0.628nm内でも15%の誘電率の増加(ε1=1.15*ε(x1))が認められた。これらの誘電率の増加率は、測定で得られた誘電率(ε1,ε2,ε3)と組成(x1, x2 , x3)、および公知の文献(X. Guo and T. P. Ma, IEEE Electron Device Lett. 19, 207 (1998))に記載された実験データに基づいて、我々が見出した一般的な酸窒化膜の誘電率εと組成比xとの関係
ε(x)=3.9*x/(3-2x)+7.8*(1-x/(3-2x))を用いて評価した。ラジカル窒化における膜密度の増加を考慮し、この酸窒化膜の実効膜厚を算出すると
Teff=0.628/(ε3/3.9) + 0.624/(ε2/3.9) + 0.628/(ε1/3.9)=1.07nm
となる。ここで算出された実効膜厚は、希HFによるエッチバック前の膜のC-V特性から得られるTeff(ゲート電極およびSi基板の容量の寄与は補正済み)と一致している。物理膜厚Tphys=1.88nm、および実効膜厚Teff=1.07nmを用いると、この酸窒化膜全体としての平均誘電率はε=3.9*Tphys/Teff=6.85となる。一方、この膜の平均組成はx=0.75である。図13には、この酸窒化膜の平均誘電率と平均組成の関係を黒丸でプロットした。また、図13の実線はε(x)=3.9*x/(3-2x)+7.8*(1-x/(3-2x))で表される従来の酸窒化膜の誘電率と組成の関係である。図12に示すように、本実施例の酸窒化膜は、組成比xの等しい従来の酸窒化膜と比較して誘電率が大きくなっている。本実施例の酸窒化膜は組成比x=0.75であるが、従来の酸窒化膜のx=0.48に相当する誘電率を得ている。一般に、酸窒化膜はx値が小さいほど誘電率が高くなるが、同時に窒素に関わる欠陥に起因したリーク電流が流れやすくなることが知られている。本実施例では、組成比x値を大きく保って欠陥起因のリーク電流を抑制し、しかも誘電率の大きい膜を実現することができた。本実施例のゲート絶縁膜でMOSトランジスタを形成し、酸化膜換算電界5MV/cmにおけるゲート・リーク電流を評価したところ、実効膜厚の等しいSiO2膜に比べて約3桁のリーク電流の低減を実現できることがわかった。
【0018】本実施例では、ラジカル窒化を施す前のゲート絶縁膜中に窒素を含んでいるため、ラジカル窒化時に導入される窒素のSi基板界面への拡散を抑制でき、その結果として膜の表面側に従来よりも多量の窒素を導入することができた。それに伴って、ラジカル窒化に起因する膜密度の増大効果も従来例よりも多く享受することができる。本発明で良好な電気特性を持つゲート酸窒化膜を実現できたのは、これらの理由(窒素濃度の増加、および膜密度の増大)によると考えられる。」

(摘示F)「【0019】最後に、本実施例おける酸窒化膜の膜厚方向の各領域における窒素濃度の評価結果とその物理的意味について述べる。酸窒化膜中では、窒素の面密度と組成比xの関係は、[N] = 6E16 * (2.9-0.7x)/(140-80x)*(4-4x)*Tphysで与えられる。ここで、Tphysはnmの単位で与えるものとする。
【0020】まず、膜表面付近に導入された窒素について述べる。本実施例の酸窒化膜では、膜表面(あるいはゲート電極側界面)から0.628nm以内で組成比x3=0.60となっているが、上記の式を用いて窒素の面密度に換算すると1.6E15cm-2(2.4ML、1ML(mono-layer)=6.8E14cm-2)になる。ラジカル窒化では、膜表面の0.6-0.7nmの範囲に窒素が導入されることが知られているので、膜表面の0.628nmの窒素濃度を評価することにより、ラジカル窒化で導入された窒素濃度を推定できる。(註: 断面TEMではSi(111)面間距離0.314nmの2倍という距離が評価しやすい便宜上、0.628nmという距離範囲を採用した)。我々の実験データでは、SiO2膜に対するラジカル窒化ではSiO2膜表面に導入できる窒素の量は1ML以下であることが見出された。また、SiO2膜に対してイオン化した窒素が加速・衝突するプラズマ窒化(そのため、ラジカル窒化ほど好んで用いられない)においてさえ、SiO2膜表面に導入できる窒素の量は高々1E15cm-2(1.5ML)であることが知られている(S. V. Hattangady, R. Kraft, D. T. Grieder, M. A. Douglas, G. A. Brown, P. A. Tiner,J. W. Kuehne, P. E. Nicollian, and M. F. Pas, IEDM Tech. Dig. 96-495 (1996))。本実施例では、酸窒化膜に対してダメージを与えないラジカル窒化法を用いて、膜表面で従来よりも高い2.4MLの窒素の導入を実現することができた。これが実現できた理由は、先にも述べたように、ラジカル窒化を施す前の絶縁膜がシリコン酸窒化膜であるため、ラジカル窒化時に導入される窒素のSi基板界面への拡散を抑制できるからである。」

(摘示G)「【0026】【発明の効果】以上説明したように、本発明では、シリコン酸窒化膜の形成後に、活性窒素による窒化を行うことによって、膜の表面側に従来よりも多量の窒素を導入することができ、さらに、活性窒素による膜密度増加に伴う誘電率の増加の効果を従来よりも多く享受できるので、従来公知例よりもリーク電流が少なく、かつ界面特性の良好なMOSトランジスタ、MISトランジスタなどの半導体装置が実現できる。」


3.対比・判断

先願明細書には、先願発明1及び先願発明2が記載されていると認められるので、(1)?(2)でそれぞれについて検討する。

(1)摘示Cによれば、MOS型半導体装置のゲート絶縁膜としてシリコン酸窒化膜が用いられること、シリコン酸窒化膜の形成方法として、SiO2膜を形成した後にプラズマ窒化を行ってSiO2膜の表面側に窒素を導入する方法があること、この方法では、シリコン基板界面付近の窒素濃度を低く抑えることができるので、MOSトランジスタの移動度の劣化を防ぎ、高い駆動力を得ることができ、また、SiO2膜のプラズマ窒化では、窒素・酸素の組成比から予測される酸窒化膜の一般的な誘電率よりも大きな誘電率が得られることが記載され、摘示Dによれば、絶縁膜層の組成を(SiO2)x(Si3N4)1-xと表した場合、ε(x)=3.9*x/(3-2x)+7.8*(1-x/(3-2x))と定義することが記載され、摘示Eによれば、一般的な酸窒化膜の誘電率εと組成比xとの関係がε(x)=3.9*x/(3-2x)+7.8*(1-x/(3-2x))であること、摘示Fによれば、プラズマ窒化では、膜に対してイオン化した窒素が加速・衝突することが記載されている。
ここで、プラズマ窒化を行ってSiO2膜の表面側に窒素を導入してシリコン酸窒化膜を形成していることから、シリコン酸窒化膜における最大窒素濃度位置は膜中心部分より表面側に位置しているといえる。
また、絶縁膜層の組成を(SiO2)x(Si3N4)1-xと表した場合、窒素・酸素の組成比から予測される酸窒化膜の一般的な誘電率は、ε(x)=3.9*x/(3-2x)+7.8*(1-x/(3-2x))であることから、プラズマ窒化を行うことによりSiO2膜の表面側に窒素を導入して形成したシリコン酸窒化膜の誘電率は、酸化シリコンの誘電率及び窒化シリコンの誘電率を組成比で単純平均した誘電率よりも大きいといえる。

以上の事項を考慮すると、先願明細書には、
「膜に対してイオン化した窒素が加速・衝突するプラズマ窒化を行うことによりSiO2膜の表面側に窒素を導入して形成したシリコン酸窒化膜をゲート絶縁膜とする半導体装置であって、
シリコン酸窒化膜の誘電率が、酸化シリコンの誘電率及び窒化シリコンの誘電率を組成比で単純平均した誘電率よりも大きく、
シリコン酸窒化膜における最大窒素濃度位置が膜中心部分より表面側に位置する半導体装置」の発明(以下、「先願発明1」という。)が記載されていると認められる。

本願発明と先願発明1を対比すると、先願発明1における「シリコン酸窒化膜」、「シリコン酸窒化膜をゲート絶縁膜とする半導体装置」は、それぞれ、本願発明における「窒化シリコン及び酸化シリコンを主成分とするシリコン酸窒化膜」、「シリコン酸窒化膜を含む半導体装置」に相当する。また、絶縁膜層の組成を(SiO2)x(Si3N4)1-xと表した場合、一般的な酸窒化膜の誘電率εと組成比xとの関係はε(x)=3.9*x/(3-2x)+7.8*(1-x/(3-2x))であるとの記載(摘示D、E)からみて、先願発明1における「誘電率」は、本願発明における「比誘電率」に相当するから、両者は、
「窒化シリコン及び酸化シリコンを主成分とするシリコン酸窒化膜を含む半導体装置であって、
前記シリコン酸窒化膜の比誘電率が、前記酸化シリコンの比誘電率及び窒化シリコンの比誘電率を組成比で単純平均した比誘電率よりも大きく、
前記シリコン酸窒化膜における最大窒素濃度位置が膜中心部分より表面側に位置する半導体装置。」
である点で一致するが、次の点で一応の相違がみられる。

(相違点1)シリコン酸窒化膜における最大窒素濃度位置が、本願発明においては、「表面より膜中心部分側に位置する」のに対し、先願発明1においては、この点について明記されていない点。

そこで、この相違点1について検討するに、先願発明1における最大窒素濃度位置は膜中心部分より表面側に位置しており、また、一般に、膜に対してイオン化した窒素が加速・衝突するプラズマ窒化においては、最大窒素濃度位置は表面より膜内部側に位置していることから(J.Vac.Sci.Technol.B 15(4),pp.967-970(1997),FIG.7等、S.V.Hattangady et al.,IEDM Tech.Dig.,pp.495-498(1996),Fig.2等、特開平10-173187号公報、第5図等参照。)、先願発明1におけるシリコン酸窒化膜における最大窒素濃度位置は、表面より膜中心部分側に位置しているといえ、前記相違点1は、実質的な相違点とはいえない。


(2)摘示Dによれば、半導体装置は、膜表面(電極界面側)付近の窒素濃度および膜密度が高く、Si基板界面付近の窒素濃度が低く、また、両者の間に、膜表面とSi基板界面との中間の窒素濃度を持つ領域が存在するシリコン酸窒化膜をゲート絶縁膜として使用すること、半導体装置の製造方法は、あらかじめ膜中に窒素を導入したシリコン酸窒化膜に対して活性窒素による窒化を行うこと、活性窒素による窒化は、制御性よく多くの窒素を膜表面近くに導入できるという点で、電磁波で励起されたプラズマ窒素を用いることが記載され、摘示Fによれば、プラズマ窒化では、膜に対してイオン化した窒素が加速・衝突することが記載されている。
ここで、あらかじめ膜中に窒素を導入したシリコン酸窒化膜に対してプラズマ窒素による窒化を行い、多くの窒素を膜表面近くに導入して、膜表面(電極界面側)付近の窒素濃度が、Si基板界面付近及び膜表面とSi基板界面との中間の窒素濃度を持つ領域よりも高いシリコン酸窒化膜を形成していることから、シリコン酸窒化膜における最大窒素濃度位置は膜中心部分より表面側に位置しているといえる。
また、摘示Dによれば、シリコン酸窒化膜に対して活性窒素による窒化を行うと、すでに膜中に存在する窒素が活性窒素の拡散を抑制するので、SiO2膜に対して活性窒素による窒化を行うのに比べて、膜表面に従来よりも多くの窒素を導入できること、そのことによって、従来よりも膜の誘電率を上げることができることが記載され、摘示Cによれば、SiO2膜のプラズマ窒化では、窒素・酸素の組成比から予測される酸窒化膜の一般的な誘電率よりも大きな誘電率が得られることが記載され、摘示Dによれば、絶縁膜層の組成を(SiO2)x(Si3N4)1-xと表した場合、ε(x)=3.9*x/(3-2x)+7.8*(1-x/(3-2x))と定義することが記載され、摘示Eによれば、一般的な酸窒化膜の誘電率εと組成比xとの関係がε(x)=3.9*x/(3-2x)+7.8*(1-x/(3-2x))であることが記載されている。
ここで、プラズマ窒化を行うことによりシリコン酸窒化膜表面近くに窒素を導入して形成したシリコン酸窒化膜の誘電率は、SiO2膜に対して活性窒素による窒化を行って形成した酸窒化膜の誘電率よりも大きく、SiO2膜に対して活性窒素による窒化を行って形成した酸窒化膜の誘電率は、窒素・酸素の組成比から予測される酸窒化膜の一般的な誘電率よりも大きいことから、プラズマ窒化を行うことによりシリコン酸窒化膜表面近くに窒素を導入して形成したシリコン酸窒化膜の誘電率は、窒素・酸素の組成比から予測される酸窒化膜の一般的な誘電率よりも大きいといえる。さらに、絶縁膜層の組成を(SiO2)x(Si3N4)1-xと表した場合、窒素・酸素の組成比から予測される酸窒化膜の一般的な誘電率は、ε(x)=3.9*x/(3-2x)+7.8*(1-x/(3-2x))であることから、プラズマ窒化を行うことによりシリコン酸窒化膜表面近くに窒素を導入して形成したシリコン酸窒化膜の誘電率は、酸化シリコンの誘電率及び窒化シリコンの誘電率を組成比で単純平均した誘電率よりも大きいといえる。

以上の事項を考慮すると、先願明細書には、
「膜に対してイオン化した窒素が加速・衝突するプラズマ窒化を行うことによりシリコン酸窒化膜表面近くに窒素を導入して形成したシリコン酸窒化膜をゲート絶縁膜とする半導体装置であって、
シリコン酸窒化膜の誘電率が、酸化シリコンの誘電率及び窒化シリコンの誘電率を組成比で単純平均した誘電率よりも大きく、
シリコン酸窒化膜における最大窒素濃度位置が膜中心部分より表面側に位置する半導体装置」の発明(以下、「先願発明2」という。)が記載されていると認められる。

本願発明と先願発明2を対比すると、先願発明2における「シリコン酸窒化膜」、「シリコン酸窒化膜をゲート絶縁膜とする半導体装置」は、それぞれ、本願発明における「窒化シリコン及び酸化シリコンを主成分とするシリコン酸窒化膜」、「シリコン酸窒化膜を含む半導体装置」に相当する。また、絶縁膜層の組成を(SiO2)x(Si3N4)1-xと表した場合、一般的な酸窒化膜の誘電率εと組成比xとの関係はε(x)=3.9*x/(3-2x)+7.8*(1-x/(3-2x))であるとの記載(摘示D、E)からみて、先願発明2における「誘電率」は、本願発明における「比誘電率」に相当するから、両者は、
「窒化シリコン及び酸化シリコンを主成分とするシリコン酸窒化膜を含む半導体装置であって、
前記シリコン酸窒化膜の比誘電率が、前記酸化シリコンの比誘電率及び窒化シリコンの比誘電率を組成比で単純平均した比誘電率よりも大きく、
前記シリコン酸窒化膜における最大窒素濃度位置が膜中心部分より表面側に位置する半導体装置。」
である点で一致するが、次の点で一応の相違がみられる。

(相違点2)シリコン酸窒化膜における最大窒素濃度位置が、本願発明においては、「表面より膜中心部分側に位置する」のに対し、先願発明2においては、この点について明記されていない点。

そこで、この相違点2について検討するに、先願発明2における最大窒素濃度位置は膜中心部分より表面側に位置しており、また、一般に、膜に対してイオン化した窒素が加速・衝突するプラズマ窒化においては、最大窒素濃度位置は表面より膜内部側に位置していることから(J.Vac.Sci.Technol.B 15(4),pp.967-970(1997),FIG.7等、S.V.Hattangady et al.,IEDM Tech.Dig.,pp.495-498(1996),Fig.3等、特開平10-173187号公報、第5図等参照。)、先願発明2におけるシリコン酸窒化膜における最大窒素濃度位置は、表面より膜中心部分側に位置しているといえ、前記相違点2は、実質的な相違点とはいえない。


(3)上記(1)?(2)のとおり、本願発明は、先願明細書に記載された発明(先願発明1乃至先願発明2)と同一ということができる。
しかも、本願発明の発明者が上記先願明細書に記載された発明の発明者と同一であるとも、また、本願の出願の時に、その出願人が上記他の特許出願の出願人と同一であるとも認められない。


4.むすび

以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条の2第1項の規定により特許を受けることができないものであり、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-04-18 
結審通知日 2007-04-19 
審決日 2007-05-14 
出願番号 特願2000-365180(P2000-365180)
審決分類 P 1 8・ 16- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 和瀬田 芳正池渕 立  
特許庁審判長 綿谷 晶廣
特許庁審判官 宮崎 園子
岡 和久
発明の名称 半導体装置及びMIS型半導体装置並びにその製造方法  
代理人 稲垣 清  

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