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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
無効200580311 審決 特許
無効200680074 審決 特許
無効200480273 審決 特許
無効200580150 審決 特許
無効200680178 審決 特許

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審決分類 審判 全部無効 特29条の2  G07D
管理番号 1160036
審判番号 無効2006-80155  
総通号数 92 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-08-31 
種別 無効の審決 
審判請求日 2006-08-23 
確定日 2007-05-23 
事件の表示 上記当事者間の特許第3792117号「コイン送出装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第3792117号の請求項1乃至請求項3に係る特許についての審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第3792117号に係る発明は、平成12年10月13日に特許出願され、平成18年4月14日に、請求項1乃至請求項3に係る発明について特許権の設定登録がなされたものである。
これに対して、平成18年8月23日に、旭精工株式会社から、請求項1乃至請求項3に係る特許について無効審判が請求され、特許権者アイシン機工株式会社に対し審判請求書副本を送達して答弁書等提出の機会を与えたところ、平成18年11月7日に、答弁書が提出されたものである。
なお、訂正請求書は提出されていない。
その後、平成19年3月21日に、名古屋市中村区名駅3丁目15番1号の「名古屋ダイヤビルディング」において口頭審理を行い、口頭審理の後、審理を終結したものである。

第2 本件特許発明
本件特許第3792117号に係る発明は、特許第3792117号公報の特許請求の範囲の請求項1乃至請求項3に記載された次のとおりのものである(以下、「本件発明1」乃至「本件発明3」という。)。
【請求項1】
複数のコインを収容するためのホッパと、該コインを厚み方向に通過させる複数のコイン穴を有して該ホッパの底穴を塞ぐように設けられ、該コイン穴を通過したコインを外周側へ送り出すために回転駆動されるコイン駆動部材とを備え、該ホッパに収容されたコインを攪拌しつつ前記コイン穴を通過させて連続的に送出するコイン送出装置において、前記ホッパの内周面の前記底穴の周縁部に、該ホッパ内で流動させられるコインを攪拌するための攪拌突起を設けたことを特徴とするコイン送出装置。
【請求項2】
前記ホッパの底穴およびそれを塞ぐコイン回転駆動部材は傾斜させられており、前記攪拌突起は、該傾斜させられた底穴の周縁部のうち低い側の領域に設けられたものである請求項1のコイン送出装置。
【請求項3】
前記攪拌突起は、前記ホッパ内でコイン回転駆動部材の回転方向に流動させられるコインの流動方向に交差する方向の長手状突起である請求項1または2のコイン送出装置。

第3 当事者の主張
1.審判請求人の主張
無効審判請求人(以下、「請求人」という。)は、甲第1号証を提出し、「本件特許の請求項1、2および3に係る発明は、本件特許の出願の日前に出願され、その後に特許公報に掲載された特許出願である甲第1号証に記載された発明と同一であるから、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号の規定に該当し、無効とすべきものである。」(審判請求書5頁7?11行)と主張する。
具体的に、請求人は、本件発明1乃至本件発明3を、A乃至E(記載は省略する。以下、「構成A」乃至「構成E」という。)に分説した上で、甲第1号証の段落、図面を引用しながら、概略、次のように主張する。
甲第1号証の段落【0011】?段落【0017】、および【図1】?【図8】には、本件請求項1乃至3に係る各特許発明の構成要件であるA?Eに相当する構成が記載されている。すなわち、
構成A及び構成Bは、甲第1号証の段落【0011】及び段落【0014】に記載されている。
構成Cについて、段落【0013】?段落【0017】並びに【図3】乃至【図6】に、タンクの内底を30度から330度の範囲で高い底と低い底に領有配分することにより、タンクの下開口部の周縁部に、請求項1の攪拌突起と同等の攪拌突起が構築されることが開示されており、【図6】の30度の範囲を領有する高い壁が、タンク内面において攪拌突起の如き在在することが甲第1号証に開示されているから、タンクの内底を所要の領分比で高い底と低い底とで構成することにより、下開口部の周縁部にも、実質的に請求項1の底穴の周縁部に設けた攪拌突起と同等の攪拌突起が構築されることが記載されている。
構成Dについて、段落【0013】に、請求項2の攪拌突起に実質相当する高い底(高い壁H)及び段差部Sは、コインの攪拌に有利なスロープ部14、15下のコインが溜まり易い下開口部の周縁部にあることが開示されている。厳密には、高い底部H及び段差部Sは、下開口部のうちの低い側に存在しないが、スロープ部14、15に連なる下開口部も、底穴のうちの低い領域も、コインの溜まり易い部分という点で共通し、その部分に設けることで攪拌効率が高まるという作用効果を等しくするので、実質的に同一の構成である。ホッパの底穴及び回転駆動部材を傾斜させることは常套手段である。
構成Eについて、段落【0013】および【図3】乃至【図6】に、請求項3の攪拌突起に相当する高い底(高い壁H)及び段差部Sが、タンクの内底でコインの流動方向に交差する方向に長手状に設けられていることが開示されており、換言すれば、段落【0013】並びに【図6】に、本件請求項3のEに相当する「攪拌突起に実質相当する高い底は、タンク11の内底部を構成するスロープ部15上に設けられ、かつそれは、タンク内でディスクの回転方向に流動させられるコインの流動方向に交差する方向の長手状突起である」という構成が開示されている。
そして、甲第1号証に記載された発明は、上記の構成により、コインの攪拌効率を高めることができるという効果を有するものである。
[本件特許発明と先行技術発明との対比]
(請求項1)
本件請求項1に係る特許発明と甲第1号証に記載された発明とを対比すると、両者は、回転ディスクが収容されるタンクの下開口部の周縁部に、コインを攪拌させるための突出部を有する点で共通しており、請求項1に係る特許発明で、高低差を付けたタンクの内底により、下開口部の周縁部に、攪拌に有効な突起部が出現していることは厳然とした事実である。
よって、甲第1号証がタンク内底の開ロ部の周縁部に突起部を存させるという技術思想を開示している以上、本件請求項1に係るタンク底穴の周縁部に攪拌突起を設けたという構成は、実質甲第1号証に記載された発明と同一である。
(請求項2)
本件請求項2に係る特許発明と甲第1号証に記載された発明とを対比すると、本件請求項2の攪拌突起を底穴の周縁部のうちの低い側の領域に設ける意図は、コイン溜まりし易い部分に攪拌突起を設けて攪拌効率を向上することにあるが、この点は甲第1号証においても、下開口部はスロープ部でコインが溜まり易いスロープ部下にあり、その周縁部に高いスロープ部が攪拌効果を高める攪拌突起として存在しており、実質本件に相当する構成となっている。
(請求項3)
本件請求項2に係る特許発明と甲第1号証記載された発明とを対比すると、甲第1号証においても、実質本件の攪拌突起に相当する高いスロープ部および段差部が、タンク内底面にディスクの回転方向と交差する方向で長手状に設けてあることから、本件構成と同一の構成である。
[証拠方法]
(1)甲第1号証:特開2001-52228号公報

2.審判被請求人の主張
特許権者である無効審判被請求人(以下、「被請求人」という。)は、答弁書において、概略、次のように反論している。
本件発明の効果は、撹拌突起を設けることにより高い撹拌効率が得られる、というものであるのに対し、甲第1号証の目的は、「多数コインの起立状態を防止すると共に少数コインの踊りを防止する」ことにあり、「多数コインの起立状態を防止する」ために、タンク内壁の高さを小にした部分と、「少数コイン踊りを防止する」ために、タンク内壁の高さを大にした部分とを組み合わせ、タンク内壁の高さが段差を有するようにしたものである。
タンクはコインをコイン駆動部材のコイン穴内に差し入れるために下開口部に向かってスロープ状に形成されるものであるから、甲第1号証のようにタンク内壁の高さが段差を有する構造であれば、これに連成するスロープ部の高さも段差を有する構造となるのは当然なことであり、甲第1号証に記載されている段差はタンク内底壁の高さが段差を有する構造をとるために必然的に形成されたものであり、本件発明のようにコインの攪拌を目的として発明されたものではなく、甲第1号証において、段差部Sがコインの撹拌を行うことは全く触れられていない上に、その効果についても全く記載がない。
請求人は、甲第1号証がタンク内底の開口部の周縁部に突起部を存させるという技術思想を開示していると主張しているが、これは失当であって、単に図面上に記載されていることを以って、本件発明の内容が把握されるものではなく、また、出願時における技術常識を参酌して導き出せるものでもない。
本件特許の各請求項と甲第1号証とを比較すると、
(請求項1)
本件請求項1に係る特許発明と甲第1号証に記載された発明とは、目的,効果において全く異なるものであり、高い壁に練成されたスロープと低い壁に練成されたスロープとの間に段差部Sが介在されていることを以って、本件発明と同一であるということはできない。
(請求項2)
請求人は、ホツパの底穴およびそれを塞ぐコイン回転駆動部材を傾斜させることは、常套手段であると主張しているが、不適切である。
(請求項3)
甲第1号証記載の、タンクの底30度にわたって高い壁に達成されるスロープ部は、コインの流動方向に対して長尺状の突起と言えるものではないから、甲第1号証は、本件請求項3の「コインの流動方向に交差する方向の長手状突起」と同一の構成ということはできない。
以上の通り、本件請求項1、2および3に係る各特許発明は、甲第1号証に記載された発明と同一でないから、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものではなく、特許法123条第1項第2号に該当しない。

第4 特許の無効性についての当審の判断
1.甲第1号証に記載された事項
請求人の提出した甲第1号証(特開2001-52228号公報)には、次の事項が、図面と共に記載されている。
A.「【請求項1】 複数コインを収納するためにほぼ鍋形になるタンクを備えると共に当該タンクの内底にディスクを回転自在に備えて前記コインを一個ずつ外部に放出するようにしたホッパ装置において少なくとも、前記ディスクが回転自在に配設される前記タンク内底壁の高さが段差を有するようにしたことを特徴とするコインのホッパ装置。
【請求項2】 請求項1の記載において、前記タンク内底壁の高さが大小二段の段差を有することを特徴としたコインのホッパ装置。
【請求項3】 請求項2の記載において、前記タンク内底壁の高さの大である部分が全体の約12分の1以上であることを特徴としたコインのホッパ装置。」(【特許請求の範囲】)
B.「【発明が属する技術分野】本発明は複数のコインを一個ずつ強制的に放出するためのホッパ装置に関する。とくに本発明は収納されたバラ積み状態の複数コインを一個ずつ外部に放出するためのコインホッパ装置に関する。さらに特定すると本発明はホッパ装置の上部を構成していて複数コインをバラ積み状態で収納するためのタンクに関する。なお本明細書に使用される用語「コイン」には通貨である円板形のコインを含むことは勿論である。また本明細書に使用される用語「コイン」にはゲーム機などに使用される円板形の疑似コイン(メダル)やトークン等を含むことは勿論である。」(【0001】)
C.「【従来の技術】これまでにコインのホッパ装置としては種々のものが開発されて来ている。たとえば本件出願人による特願平6-281113号には硬貨送出装置が開示されている。なお特願平6-281113号は特許公報に特開平8-110960号として公開されている。上述の硬貨送出装置に類似するホッパ装置の概略を図7と図8を参照しつつ此処で説明する。まず此のホッパ装置は複数個のコインをバラ積み状態で収容するための鍋形のタンク31を備えている。」(【0002】)
D.「しかしながら上述の従来例はタンク31の下開口部33に高さ3HがあるためコインCが貫入孔43内に落ち込まない欠点があった。すなわちディスク41を囲むタンク内壁39の高さ3Hが大であるため多数のコインCが起立して安定する欠点があった。この欠点を解消した発明が本件出願人による特願平9-36832号に開示されている。なお特願平9-36832号は特許公報に特開平10-208099号として公開されている。特願平9-36832号の発明はディスク41を囲むタンク内壁39の高さ3Hを小にしてコインCが起立しないようにした。」(【0007】)
E.「【発明が解決しようとする課題】しかしながらコインの押し出しディスクを囲むタンク内底壁の高さを小にした場合、コインの拾いが悪いと言う問題点が生じた。ディスクを囲むタンク内底壁の高さを小にするとコインが踊り易くなって当該ディスクの貫入孔に落ち込まないと言う問題点が生じた。とくにタンク内のコインが少なくなるとタンク内底壁に高さが無いためコインが大きく踊ってしまうと言う問題点があった。本発明はコインの踊りを出来るだけ少なくしてコインの拾いを向上する目的から開発されたものである。言い換えると本発明は多数コインの起立状態を防止すると共に少数コインの踊りを防止する目的から開発されたものである。」(【0008】)
F.「このタンク11は合成樹脂の成形品である。タンク11の上部である開口部12は大きな角筒形である。そしてタンク11の下部である開口部13は小さな円リング形である。これらの上下開口部12と13との間には鍋底のようなスロープ部14と15が連成されている。そして内底の開口部13内には円形のディスク21が回転自在に収納されている(図3を参照)。言い換えると下開口部13は回転自在なディスク21によって閉じられている。なおディスク21は後記するようにコインを一個ずつタンク11の外に押し出すためのものである。」(【0011】)
G.「そして下開口部13の内周壁は出口16近くが高い壁Hに形成されていると共に他の残りが低い壁Lに形成されている(図4を参照)。本実施例においては下開口部13の内周壁の半分が高い壁Hであり他の半分が低い壁Lに形成されている。言い換えると下開口部13の周壁360度のうち高い壁Hが180度を占めている。なお高い壁Hは狭いスロープ部15に連成されており低い壁Lは広いスロープ部14に連成されている。そして二個のスロープ部14と15とが段差部Sを介在して連成されている。なお図1の下方に示される箱形のものは基台装置25である。」(【0013】)
H.「本実施例によるとタンク11内部のコインが大量であってもコインはスムーズに出口16から払い出されることになる。すなわち本実施例では下開口部13の内周壁の約半分が低い壁Lであるため多数コインが起立して安定することが無い。たとえばディスク21を囲む低い壁Lの当該ディスク21からの高さはコイン直径の約5分の1以下が望ましい。この場合、多数コインは起立しないで倒れるため貫入孔23内に落ち込むことになって出口16にスムースに払い出される。また本実施例によるとタンク11内部のコインが小量であってもコインはスムースに出口16から払い出されることになる。」(【0015】)
I.「すなわち本実施例では下開口部13の内周壁の約半分が高い壁Hであるため少数コインが大きく踊り回ることが無い。たとえばディスク21を囲む高い壁Hの当該ディスク21からの高さはコイン直径の約2分の1以上が望ましい。また第二の実施例であるタンク51に示されるように高い壁5Hは下開口部53内周壁の約12分の1であっても良い(図6を参照)。言い換えると下開口部53の周壁360度のうち高い壁5Hが30度を占めていてもコインの踊りが少なくなった。コインの大きさにもよるが高い壁Hは全周壁360度のうち30度から330度の範囲を占め得る。」(【0016】)
J.「これに対応して低い壁Lは全周壁360度のうち330度から30度の範囲を占め得ることになる。なお本実施例っでは高い壁Hと低い壁Lの二種類にしたが中間の第三の壁を形成しても良いことは勿論である。
【発明の効果】以上のように本発明は簡単な構成の付加によってタンク内の多数コインを最後の一個までスムースに放出することができる。言い換えると本発明は少数コインの踊りを出来るだけ少なくしてコインの拾い効率を向上するという大きな効果が得られる。」(【0017】)

2.甲第1号証から把握される事項
甲第1号証(以下、「先願明細書」という。)の記載事項について、詳細に検討する。
上記摘記事項C、D及び図7、8に記載されるように、従来のコインのホッパ装置は、ディスクを囲むタンク内壁の高さが大であるため、多数のコインが起立して安定するという欠点を有するものであった。
即ち、当該記載から、コインが起立して安定してしまうために水平状態になりにくく、その結果、(コインを送り出すための)ディスクの貫入孔に落ち込まないという欠点を有していたことが把握できる。
そして、摘記事項Dによれば、この高いタンク内壁を有するホッパ装置の上記欠点を解消するために、ディスクを囲むタンク内壁の高さを小にしてコインが起立しないようにしたものが発明された。
しかしながら、摘記事項Eに記載されるように、タンク内底壁の高さを小にしたホッパ装置は、コインの拾いが悪い、及び、コインが踊り易くなるという問題点が生じ、ディスクの貫入孔に落ち込まないという(タンク内壁が大であるものと同様の)欠点を有しており、特にタンク内のコインが少なくなると、タンク内底壁に高さが無いためコインが大きく踊ってしまうという欠点を有しているものであった。
即ち、当該記載から、タンク内底壁の高さが大であれば、タンク内のコインが少なくなっても、コインが大きく踊ってしまうことがない、ということが把握できる。
先願明細書に記載された発明(以下、「先願発明」という。)は、これらの欠点、即ち、タンク内壁の高さが大であるための「コインの起立」、タンク内壁の高さが小であるための「コインの踊り」を防止する目的から開発されたものである(摘記事項E参照)。
先願発明は、該目的を達成するために、タンク内底壁の高さが大の部分と小の部分とを併せ有するようにしたものであり、この点は、特許請求の範囲において「タンク内底壁の高さが段差を有するようにした」と記載されている(摘記事項Aの【請求項1】参照)。
そして、先願明細書には、「タンク内底壁の高さの段差」に関する具体例として、2つの実施例が記載されている。
なお、「内底壁」に関して、先願明細書には「内周壁」なる記載もある(摘記事項G?I参照)が、「内底壁」、「内周壁」が、同じ部位(内底からほぼ垂直に立ち上がる部分)を指しているのは明らかであり、又、この点は、先願発明の出願人でもある請求人も口頭審理において認めているので、以下、摘記事項も含め、「内底壁」に統一して記載する。
一つは、「本実施例では下開口部13の内底壁の約半分が低い壁Lであるため多数コインが起立して安定することが無い。」(摘記事項H)、「本実施例では下開口部13の内底壁の約半分が高い壁Hであるため少数コインが大きく踊り回ることが無い。」(摘記事項I)との記載、及び、図3の記載から明らかなように、内底壁の約半分(180度)が低い壁、約半分(180度)が高い壁のものである。
他の一つは、「第二の実施例であるタンク51に示されるように高い壁5Hは下開口部53内底壁の約12分の1であっても良い(図6を参照)。言い換えると下開口部53の周壁360度のうち高い壁5Hが30度を占めていてもコインの踊りが少なくなった。」(摘記事項I)との記載、及び、図6の記載から明らかなように、内底壁の約12分の1(30度)が高い壁、約12分の11(330度)が低い壁のものである。
即ち、先願明細書には、(ディスクが収納されるホッパ内底の)開口部内底壁の180度が高い壁、180度が低い壁に形成される第1の実施例と、開口部内底壁の30度が高い壁、330度が低い壁に形成される第2の実施例とが、記載されている。
又、先願明細書には、「高い壁Hは全周壁360度のうち30度から330度の範囲を占め得る。」、「これに対応して低い壁Lは全周壁360度のうち330度から30度の範囲を占め得ることになる。」、「なお本実施例っでは高い壁Hと低い壁Lの二種類にしたが中間の第三の壁を形成しても良いことは勿論である。」ことも記載されている(摘記事項I、J)。
以上、先願明細書の記載事項からみて、先願発明は、従来のホッパ装置が有していた「コインが起立して安定する」及び「コインの拾いが悪い、及び、コインが踊り易くなる」という欠点を解消することを目的として開発されたものであって、タンク内底壁を、高さの大の部分(高い壁)と小の部分(低い壁)とで構成することにより、上記の欠点を解消したものである。そして、先願発明の開発の経緯を斟酌すれば、先願発明において、高い壁と低い壁との両方を備えることは必須の要件であり、又、高い壁は、内底に対して、少なくとも30度は必要であることが把握できる。

3.判断
本件無効審判の請求の理由は、特許法第29条の2であるので、上記の認定に基づいて、本件発明1乃至本件発明3が先願発明と同一であるか否か、以下、検討する。

(1)本件発明1について
(i)「攪拌突起」の解釈
本件発明1は、上記のとおり、「複数のコインを収容するためのホッパと、該コインを厚み方向に通過させる複数のコイン穴を有して該ホッパの底穴を塞ぐように設けられ、該コイン穴を通過したコインを外周側へ送り出すために回転駆動されるコイン駆動部材とを備え、該ホッパに収容されたコインを攪拌しつつ前記コイン穴を通過させて連続的に送出するコイン送出装置において、前記ホッパの内周面の前記底穴の周縁部に、該ホッパ内で流動させられるコインを攪拌するための攪拌突起を設けたことを特徴とするコイン送出装置。」である。
本件発明1の前提となる事項、即ち「複数のコインを収容するためのホッパと、該コインを厚み方向に通過させる複数のコイン穴を有して該ホッパの底穴を塞ぐように設けられ、該コイン穴を通過したコインを外周側へ送り出すために回転駆動されるコイン駆動部材とを備え、該ホッパに収容されたコインを攪拌しつつ前記コイン穴を通過させて連続的に送出するコイン送出装置において、」(請求人が分説した「構成A」及び「構成B」)は、請求人が主張するとおり、本件発明1の「コイン送出装置」と先願明細書に記載された「ホッパ装置」とに共通する特定事項(一致点)であることは、明らかである。
よって、先願明細書に、構成Cが記載されているか否か、検討する。
構成Cは「前記ホッパの内周面の前記底穴の周縁部に、該ホッパ内で流動させられるコインを攪拌するための攪拌突起を設けた」というものであり、ここに言う(本件発明1の)「攪拌突起」は、「ホッパ内においてコインが溜まり易い部分に設けられ、高い攪拌効率が得られる」という効果を奏するものである(本願明細書の段落【0007】参照)。
ところで、本件発明1の「攪拌突起」は、特許請求の範囲において、その作用は記載されているものの、大きさについては、特に限定はない。
そこで、発明の詳細な説明を参酌するに、本件発明1においては、本願明細書の段落【0002】?段落【0003】に【従来の技術】として記載される、特公平6-44305号公報に記載された「攪拌突起」(同公報第1?3図参照)を「突起」として認識していることは明らかである。
さらに被請求人は、口頭審理において、攪拌突起について、「攪拌突起とは、ホッパー内面からつきだしたものであり、つきでた部分の一方の側面と相対する他方の側面とで囲まれた部分から形成されるものである。側面間の最大幅は(平面からの立ち上がり部分)は、コインの半径分とほぼ等しい。側面の立ち上がり角度は60度から90度であり、90度の場合、上面はアールに形成される。」と定義し(第1回口頭審理調書参照)、これらの点は、本件発明1の「攪拌突起」を図示した本願図面の図5?9とも矛盾しない。
以上の点を勘案すると、本件発明1に言う「攪拌突起」とは、ホッパ内周面から部分的に突き出るものであり、突起の立ち上がり部分の幅(最大幅)がコインのほぼ半径分であること、側面が60度で立ち上がるものは、その頂部が本願図面の図9のように山形形状となっていること、側面が90度で立ち上がるものは、その上面がアールに形成されていること、からみて、突起上にコインを載置することができないものと解される。
なお、この点は、「突起」なる用語から、技術者が普通に想定する形状(構造)とも符合すると認められる。
又、そのような攪拌突起(コインが突起上に載置されず、突起に乗り上げてもすぐに落ちる)であるからこそ、高い攪拌効率が得られるものと理解できる。

(ii)「攪拌突起」に関する請求人の主張について
本件発明1の「攪拌突起」を、上記したように「ホッパ内周面から部分的に突き出るものであり、突起上にコインを載置することができないもの」と定義した上で、請求人の主張を検討する。
請求人の主張は、
ア.請求人は、先願明細書に記載のない用語(「高い底」、「低い底」)を用いているが、それらはどこを指すのか、
イ.請求人は、先願明細書に記載された何を、本件発明1の「攪拌突起」と認識しているのか、
の2点において明確でない。
そのため、口頭審理において、請求人に釈明を求めたところ、請求人は、次のように釈明した。
「ア」について
審判請求書に記載した「高い底」、「低い底」は、先願明細書に記載された「スロープ部15」、「スロープ部14」のことであるので、審判請求書における「高い底」及び「低い底」なる記載は、「狭いスロープ」及び「広いスロープ」と訂正する(第1回口頭審理調書参照)。
「イ」について
先願明細書に記載された、高い壁が30度を占めるように構成された部分(第2の実施例:図6参照)が「攪拌突起」である。
なお、請求人は、口頭審理において、審判請求書における、高い壁の部分が180度を占める第1の実施例に関して、高い壁の部分或いは段差部を「攪拌突起」である、とする主張は取り止める旨、発言している。
又、上記ア、イに関連して、請求人は、先願明細書に記載された第2の実施例に関して、「30度の高い壁に連成される部分」について、「図6に記載される、30度を占める高い壁が連成される狭いスロープの幅は、コインの直径にほぼ等しく、低い壁から高い壁にほぼ直角に立ち上がるものである。」と定義した(第1回口頭審理調書参照)。
結局、請求人は、先願明細書に記載された「30度を占める高い壁が連成される狭いスロープ」の部分が、本件発明1の「攪拌突起」に相当するから、本件発明1は、先願発明と同一である、と主張するものである。

(iii)当審の見解
以上の点を踏まえ、先願発明の「30度を占める高い壁が連成される狭いスロープ」が、本件発明1の「攪拌突起」に相当するか否か、検討する。
上記のとおり、本件発明1の「攪拌突起」は、ホッパ内周面から部分的に突き出るものであって、突起上にコインを載置することができないものである。又、その構成により、高い攪拌効率が得られるものである。
これに対して、先願発明の「30度を占める高い壁が連成される狭いスロープ」は、その幅が、コインの直径にほぼ等しく、低い壁から高い壁にほぼ直角に立ち上がるものである。
先願発明が、このような構成を有するのは、上記「2.甲第1号証から把握される事項」に記載したとおり、先願発明が、従来の欠点である「コインが起立して安定する」ことと、「コインの拾いが悪い、及び、コインが踊り易くなる」こととを同時に解決するために、高い壁と低い壁との両方を備えることを必須の要件とし、又、高い壁の部分を、内底に対して、少なくとも30度の範囲で必要とするからである。
即ち、「30度の高い壁から連成されるスロープ」は、高い壁の部分を、内底に対して少なくとも30度の範囲で形成しなければならないため、ホッパの基本的な構造(内底から傾斜するようにスロープが形成される構造)と相俟って、必然的に形成されるものであり、「突出したスロープ」を形成することを目的として、構成されたものではない。
又、先願発明の「30度の高い壁から連成されるスロープ」は、その幅が、一番狭い箇所である内底の周縁部(周縁部から離れるほど広くなる:図6参照)においても、コインの直径にほぼ等しいものであり、且つ、低い壁から高い壁にほぼ直角に立ち上がるものであるから、その上面に、コインを載置することが可能なものである。
これらの点からみて、「30度の高い壁から連成されるスロープ」を、「突起」と言うことはできない。
以上のとおり、先願発明の「30度の高い壁から連成されるスロープ」は、本件発明1の「攪拌突起」に相当するものではないから、本件発明1は、先願発明と同一である、と言うことはできない。

(2)本件発明2について
本件発明2と先願発明とを比較する。
本件発明2は、本件発明1を引用し、更に、「ホッパの底穴およびそれを塞ぐコイン回転駆動部材は傾斜させられており、攪拌突起は、該傾斜させられた底穴の周縁部のうち低い側の領域に設けられた」(請求人が分説する構成D)ことを特定事項として付加するものであるから、本件発明1が先願発明と同一であると言うことができない以上、本件発明2も、先願発明と同一であると言うことはできない。
念のため、上記特定事項(構成D)について、付記する。
請求人は、構成Dについて、「高い底部H及び段差部Sは、下開口部のうちの低い側に存在しないが、スロープ部14、15に連なる下開口部も、底穴のうちの低い領域も、コインの溜まり易い部分という点で共通し、」と主張する。
しかしながら、本件発明2に言う「周縁部のうち低い側の領域」は、ホッパの底穴およびコイン回転駆動部材を傾斜させた結果、低い側となる領域(本願図面の図1参照)であって、ホッパに投入されたコインが自ずと溜まる領域であるのに対して、先願発明の「スロープ部14、15に連なる下開口部」は、水平状態の回転駆動部材(先願発明のディスク)が回転することにより生じる遠心力により、コインがディスク周縁に移動させられて溜まる部分であるから、「コインの溜まり易い部分」の意味が全く異なるものである。
しかも、先願明細書には、「ホッパの底穴およびコイン回転駆動部材」を傾斜させることは記載されておらず、又、それを示唆する記載も見あたらない。先願発明は、上記のとおり、高い壁と低い壁とが必須の要件であり、底穴を傾斜させると、壁に高低差を形成した意義がなくなるから、底穴を傾斜させることは、むしろ、先願発明の阻害要因であると言うべきである。
又、請求人は、ホッパの底穴及び回転駆動部材を傾斜させることは常套手段である、とも主張するが、本件発明2は、単に、ホッパの底穴及び回転駆動部材を傾斜させるだけではなく、「攪拌突起」を「傾斜させられた底穴の周縁部のうち低い側の領域」に設けているものであって、回転駆動部材を傾斜させることが常套手段であるというだけでは、「攪拌突起」が「傾斜させられた底穴の周縁部のうち低い側の領域」に設けられることまでも特定することにはならず、更に、上記のとおり、先願発明における「壁の高低差」の意義を勘案すれば、回転駆動部材を傾斜させることは、先願発明の阻害要因であると言うべきであるから、この点からみても、請求人の主張は失当である。

(3)本件発明3について
本件発明3と先願発明とを比較する。
本件発明3は、本件発明1を引用し、更に、「ホッパ内でコイン回転駆動部材の回転方向に流動させられるコインの流動方向に交差する方向の長手状突起である」(請求人が分説する構成E)ことを特定事項として付加するものであるから、本件発明1が先願発明と同一であると言うことができない以上、本件発明3も、先願発明と同一であると言うことはできない。
念のため、上記特定事項(構成E)について、付記する。
請求人は、構成Eについて、「請求項3の攪拌突起に相当する高い底(高い壁H)及び段差部Sが、タンクの内底でコインの流動方向に交差する方向に長手状に設けられていることが開示されており、」と主張する。
確かに、先願明細書に記載された「30度の高い壁から連成されるスロープ」は、先願の図6に示されるようにホッパの端部にまで形成されているから、長手状に設けられている、と言えないこともない。
しかしながら、先願発明の「30度を占める高い壁が連成される狭いスロープ」は、上記「本件発明1について」に記載したとおり、「突起」と言えるものではなく、又、図6から明らかなように、先願発明の「30度の高い壁から連成されるスロープ」は、端部に行くほど、その幅を広くするものであるから、本件発明3のような「長手状突起」(突起が同じ幅で長手状に形成されるもの)と同じものとは言えず、請求人の主張は採用できない。

4.まとめ
したがって、本件発明1乃至本件発明3は、先願発明と同一であるとは言えず、又、本件発明1乃至本件発明3が、先願明細書に記載されているに等しい発明と同一であるとも言えないから、本件発明1乃至本件発明3は、特許法第29条の2に該当しない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、請求項1乃至請求項3に係る特許は、特許法第123条第1項第2号に該当せず、無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、これを請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2007-04-11 
出願番号 特願2000-314248(P2000-314248)
審決分類 P 1 113・ 16- Y (G07D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鈴木 誠  
特許庁審判長 岡 千代子
特許庁審判官 佐野 遵
長浜 義憲
登録日 2006-04-14 
登録番号 特許第3792117号(P3792117)
発明の名称 コイン送出装置  
代理人 笹島 富二雄  
代理人 小川 護晃  
代理人 西山 春之  

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