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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B01D
管理番号 1160106
審判番号 不服2006-2917  
総通号数 92 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-08-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-02-16 
確定日 2007-07-02 
事件の表示 平成11年特許願第357864号「杉葉エキスの抽出方法」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 5月22日出願公開、特開2001-137611〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成11年11月10日の出願であって、平成18年1月20日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成18年2月16日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同日付けで手続補正がなされ、その後、当審において、平成18年12月26日付けで、平成18年2月16日付けの手続補正を却下するとともに拒絶理由を通知し、これに対し、平成19年2月16日付けで手続補正がなされたものである。

2.本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という)は、平成19年2月16日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「煮沸殺菌処理を施した杉葉に対し、0.1?3重量%の米麹を添加すると共に、リン酸二水素ナトリウムを添加してphが6?7.5になるように調節し、40℃の温度下において10?12時間保って醗酵させて淡黄色の溶解液を得、これを濾過して、ロイシン、イソロイシン、リジン、メチオニン、シスチン、フェニルアラニン、チロシン、スレオニン、トリプトファン、バリン、ヒスチジン、アルギニン、アスパラギン、アラニン、グルタミン酸、アミノ酸、ペプチド類を含み、かつ、前記バリンの含有量が、分解物100g中、710mgである抽出液を得ることを特徴とする杉葉エキスの抽出方法。」

3.引用例の記載
当審において新たに発見された、本願出願前に公知の刊行物である特開平7-196472号公報(以下、「引用例1」という。)及び特開平9-276355号公報(以下、「引用例2」という。)には、以下の点が記載されている。
(1)引用例1(特開平7-196472号公報)
(ア)「煮沸殺菌処理を施した菖蒲に対し、0.5?5重量%の米こうじを添加すると共に、PHが6?7となるように調節し、所定時間経過後、ろ過処理を施してその抽出液を得ることを特徴とする菖蒲エキスの抽出方法。」(【請求項1】)、
(イ)「【従来の技術】菖蒲エキスを入浴材として用いた場合、身体の保温作用、血液循環の促進に基づく疲労回復作用、保温成分の補給に基づく皮膚の改善作用(皮膚病等の治癒)、殺菌作用等が奏せられることは良く知られている。
従来、菖蒲エキスの抽出は、エタノール溶液を用いて行うことを通例とした。当該抽出方法の具体例を一つ挙げれば次の通りである。菖蒲10Kgを細切りし、これに3%エタノールを50リットルを加え、20?25℃にて2週間程度浸漬し、これを取り出してろ過することに依って抽出液を得る。
【発明が解決しようとする課題】上記エタノール溶液を用いて抽出する従来の方法にあっては、蛋白質、脂肪、糖質、繊維等の成分は抽出されるが、人体に対する有効成分である金属元素、ビタミン類、アミノ酸、オリゴ類、ペプチド類等の微量成分は殆ど抽出されないと言う難点を有した。本発明は主としてこのような微量成分の抽出を主眼点とした、新規の菖蒲エキスの抽出方法を提供することを目的とする。」(段落【0002】?【0004】)、
(ウ)「実施例1
菖蒲250gをよく洗浄し、水1.5リットルを添加して煮沸殺菌処理を施す。冷却後、菖蒲に対して5重量%の米こうじを添加すると共に、リン酸水素二ナトリウムを添加してPHが6?7となるように調節する。然る後、40℃の温度で10?12時間保つ。溶解物は淡黄色の液体であったが、ろ過して浮遊物を除去することに依り、透明な菖蒲エキスが得られた。得られた菖蒲エキスの分析データは表1に示す通りであった。」(段落【0007】)、
(エ)「上記実施例で使用したリン酸水素二ナトリウム(食品添加用)はPHを調節するためであり、1モル溶液(35.8gを水100ミリリットルに溶解)を用いた。」(段落【0010】)、
(オ)「実施例1で使用した米こうじであるが、その使用量の範囲は、0.5?5重量%程度である。すなわち、0.5重量%未満であると効力が低くなり、また、5重量%を超えると米自体の分解が主となり、菖蒲に対する分解力が弱まってしまうからである。」(段落【0011】)、
(カ)「【表1】
(分解物100g中の成分 単位mg)
成 分 実施例1(米こうじ) 実施例2(酵素)
ロイシン 320mg 300mg
イソロイシン 620 650
リジン 350 350
メチオニン 150 140
シスチン 135 130
フエニルアラニン 320 330
チロシン 230 235
スレオニン 230 250
トリプトファン 50 55
バリン 520 530
ヒスチジン 190 200
アルギニン 630 635
アスパラギン酸 400 410
アラニン 410 400
グルタミン酸 630 600
・ ・ ・
・ ・ ・
・ ・ ・
ペプチド類 550 300
セレン 0.01 0.01
核酸類 55 50
アデニン 3 5
キサンチン 2 2 」(段落【0013】)、
(キ)「実施例1で得られた菖蒲エキス(米こうじに依る分解)の成分と、従来の30%エタノールに依り抽出した菖蒲エキスとの成分とを比較した。その結果は下記表2に示すとおりである。」(段落【0015】)、
(ク)「【表2】
(100g中の成分)
成 分 従来例(エタノール) 比較 実施例1(米こうじ)
蛋白質 0.9g > 0.1g
脂質 0.5g > 0.01g
糖質 5.6g > 0.1g
繊維 0.1g > 0.01g
灰分 1.5g > 1.0g
・ ・ ・ ・
・ ・ ・ ・
・ ・ ・ ・
アミノ酸類 ー < 4.1g
飽和脂肪酸類 ー < 0.05g
不飽和脂肪酸類 ー < 0.15g
オリゴ類 ー < 0.15g
ペプチド類 ー < 0.55g 」(段落【0016】)、
(ケ)「本発明に依れば、人体に対する顕著な有効成分たる金属元素、ビタミン類、アミノ酸、脂肪酸類、オリゴ類、ペプチド類等の微量成分を多く抽出することが出来る。従って、本発明方法に基づき得られた菖蒲エキスは浴用剤としては勿論、その他化粧品、石鹸に含有させるための菖蒲エキスとして、その利用価値はとみに高い。」(段落【0018】)
(2)引用例2(特開平9-276355号公報)
(ア)「【従来の技術】従来のハーブ浴は、菖蒲湯、ゆず湯、杉の湯、笹湯など日本でも古来から親しまれてきたように、ハーブの素材をそのまま浴槽に投入して作られていた。また、ハーブ油またはエキスを浴湯に添加してハーブ浴を作ったり、近年では、ハーブ浴用剤が市販されるようになり、これらを投入することでもハーブ浴を作ることができる。」(段落【0002】?【0003】)、
(イ)「本発明のハーブ浴の製造においては、蒸気発生器、抽出槽、蒸気冷却器からなるハーブ水蒸気蒸留装置の抽出槽にハーブを投入し、100℃の水蒸気で蒸し、冷水で冷却して得られた抽出液を、または油水分離器によって精油と分離したハーブ水をタンクに貯め、必要用浴槽に添加できるよう注入器を設ける。」(段落【0007】)

4.対比
引用例1には、記載事項(ア)及び(イ)によれば、入浴材として用いる菖蒲エキスの抽出方法として、人体に対する有効成分である金属元素、ビタミン類、アミノ酸、オリゴ類、ペプチド類等の微量成分は殆ど抽出されないと言う難点を有するエタノール溶液による抽出方法に代えて、煮沸殺菌処理を施した菖蒲に対し、0.5?5重量%の米こうじを添加すると共に、PHが6?7となるように調節し、所定時間経過後、ろ過処理を施してその抽出液を得ることが記載されている。
そして、この菖蒲エキスの抽出方法について、記載事項(ウ)に、実施例1として、「菖蒲に対して5重量%の米こうじを添加すると共に、リン酸水素二ナトリウムを添加してPHが6?7となるように調節する。然る後、40℃の温度で10?12時間保つ。溶解物は淡黄色の液体であったが、ろ過して浮遊物を除去することに依り、透明な菖蒲エキスが得られ」ることが記載されている。
さらに、上記実施例1で得られる菖蒲エキスの成分をみてみると、記載事項(カ)?(ク)に、分解物100g中の成分として、ロイシンが320mg、イソロイシンが620mg、リジンが350mg、メチオニンが150mg、シスチンが135mg、フエニルアラニンが320g、チロシンが230mg、スレオニンが230mg、トリプトファンが50mg、バリンが520mg、ヒスチジンが190mg、アルギニンが630mg、アスパラギン酸が400mg、アラニンが410mg、グルタミン酸が630mg、アミノ酸類が4.1g、ペプチド類が550mg含まれることが記載されている。
以上のことから、引用例1に記載された事項を本願発明の記載ぶりに則して整理し直すと、引用例1には、
「煮沸殺菌処理を施した菖蒲に対し、0.5?5重量%の米こうじを添加すると共に、リン酸水素二ナトリウムを添加してPHが6?7となるように調節し、然る後、40℃の温度で10?12時間保ち、溶解物としての淡黄色の液体を得、これにろ過処理を施して、ロイシン、イソロイシン、リジン、メチオニン、シスチン、フエニルアラニン、チロシン、スレオニン、トリプトファン、バリン、ヒスチジン、アルギニン、アスパラギン酸、アラニン、グルタミン酸、アミノ酸類、ペプチド類を含み、かつ、前記バリンの含有量が分解物100g中、520mgである抽出液を得ることを特徴とする菖蒲エキスの抽出方法。」の発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されているものと認められる。
そこで、本願発明と引用例1発明とを比較すると、引用例1発明の「溶解物としての淡黄色の液体」は、本願発明の「淡黄色の溶解液」に相当し、本願発明の「アスパラギン」は、「アスパラギン酸」の誤記であることが明らかであるから、引用例1発明の「ロイシン、イソロイシン、リジン、メチオニン、シスチン、フエニルアラニン、チロシン、スレオニン、トリプトファン、バリン、ヒスチジン、アルギニン、アスパラギン酸、アラニン、グルタミン酸、アミノ酸類、ペプチド類」は、本願発明の「ロイシン、イソロイシン、リジン、メチオニン、シスチン、フェニルアラニン、チロシン、スレオニン、トリプトファン、バリン、ヒスチジン、アルギニン、アスパラギン、アラニン、グルタミン酸、アミノ酸、ペプチド類」に相当するから、両者は、
「煮沸殺菌処理を施した植物原料に対し、米麹を添加すると共に、リン酸水素ナトリウムを添加してphが6?7になるように調節し、40℃の温度下において10?12時間保って淡黄色の溶解液を得、これを濾過して、ロイシン、イソロイシン、リジン、メチオニン、シスチン、フェニルアラニン、チロシン、スレオニン、トリプトファン、バリン、ヒスチジン、アルギニン、アスパラギン酸、アラニン、グルタミン酸、アミノ酸、ペプチド類を含み、かつ、前記バリンの含有量が分解物100g中、特定量である抽出液を得ることを特徴とする植物エキスの抽出方法。」
の点で一致し、以下の点で相違している。
[相違点1]本願発明は、植物原料が「杉葉」であるのに対し、引用例1発明は、植物原料が「菖蒲」である点。
[相違点2]本願発明は、米麹の添加量が「0.1?3重量%」であるのに対し、引用例1発明は、米麹の添加量が「0.5?5重量%」である点。
[相違点3]本願発明は、「リン酸二水素ナトリウムを添加してph6?7.5になるように調節」するのに対し、引用例1発明は、「リン酸水素二ナトリウムを添加してPHが6?7となるように調節」する点。
[相違点4]本願発明は、「醗酵させて」淡黄色の溶解液を得ているのに対し、引用例1発明は、係る限定が付されていない点。
[相違点5]本願発明は、「バリンの含有量が分解物100g中、710mgである」のに対して、引用例1発明は、バリンの含有量が分解物100g中、520mgである点。

5.判断
[相違点1]について
引用例2の記載事項(ア)に、ハーブ浴として、古来から「菖蒲湯、ゆず湯、杉の湯、笹湯など」が親しまれ、さらに、「ハーブ油またはエキスを浴湯に添加してハーブ浴」とすることが記載され、記載事項(イ)に、ハーブ浴の製造において、ハーブを抽出槽に投入し100℃の水蒸気で蒸し、冷水で冷却して抽出液を得ることが記載されていることから、ハーブ浴に用いるハーブのエキスを抽出する植物原料として、「菖蒲」と「杉葉」は、ともに従来から慣用されていたものといえる。
また、「菖蒲」や「杉葉」などのエキスを抽出する方法として、引用例2に記載の水蒸気による抽出以外に、エタノール等の溶媒による抽出も従来から行われていたことであり、このことは、例えば、原審で引用文献2として引用された特開昭64-61415号公報に、杉葉などの原料粉末をエタノール等の溶媒により抽出して生薬抽出物が得られることが記載されていることからも周知の事項といえる。
そこで、引用例1発明の菖蒲エキスの抽出方法を杉葉エキスの抽出に用いることの困難性について、以下で検討する。
まず、引用例1の【従来の技術】及び【発明が解決しようとする課題】をみてみると、記載事項(イ)に、「従来、菖蒲エキスの抽出は、エタノール溶液を用いて行うことを通例とした。」と記載されるとともに、「上記エタノール溶液を用いて抽出する従来の方法にあっては、蛋白質、脂肪、糖質、繊維等の成分は抽出されるが、人体に対する有効成分である金属元素、ビタミン類、アミノ酸、オリゴ類、ペプチド類等の微量成分は殆ど抽出されないと言う難点を有した。本発明は主としてこのような微量成分の抽出を主眼点とした、新規の菖蒲エキスの抽出方法を提供することを目的とする。」と記載され、エタノール溶液を用いる従来の菖蒲エキスの抽出方法では、人体に対する有効成分である金属元素、ビタミン類、アミノ酸、オリゴ類、ペプチド類等の微量成分は殆ど抽出されないという問題点を解決するために、引用例1発明は、上記微量成分の抽出を主眼点とした、菖蒲エキスの抽出方法を提供するものといえる。
これに対して、本願発明は、明細書の【従来の技術】に、「従来、杉葉エキスの抽出は、エタノール溶液を用いることが通例であった」(段落【0003】)と記載されるとともに、【発明が解決しようとする課題】に、「上記エタノール溶液を用いて抽出する従来の方法によっては、蛋白質、脂肪、糖質、ビタミンなどの成分は抽出されるが、人体に対して有効成分である、アミノ酸、オリゴ糖、ペプチド類、金属元素などの微量成分はほとんど検出されないと言う難点を有した。本発明は主としてこの様な微量成分の抽出を主眼点とした新規の杉葉エキスの抽出方法を提供することを目的とする。」(段落【0004】)と記載され、エタノール溶液を用いる従来の杉葉エキスの抽出方法では、人体に対して有効成分である、アミノ酸、オリゴ糖、ペプチド類、金属元素などの微量成分はほとんど検出されないという問題点を解決するために、本願発明は、上記微量成分の抽出を主眼点とした、杉葉エキスの抽出方法を提供するものといえる。
以上のことから、両発明は、植物原料からエタノール溶液を用いてエキスを抽出する従来の方法が有する問題点を解決するために、植物原料からのアミノ酸、オリゴ糖、ペプチド類、金属元素などの微量成分の抽出を主眼点とした新たな抽出方法を提供する点で課題が共通するものであり、さらに、その課題を解決するための抽出方法をみても、煮沸殺菌処理を施した植物原料に対し、米麹を添加すると共に、phが6?7になるように調節し、所定時間経過後に濾過して、その抽出液を得るという、同様の処理を行うことから、引用例1発明の菖蒲エキスの抽出方法を、植物原料として菖蒲の代わりに杉葉に用いることは、当業者が容易に転用し得ることといえる。
また、本願明細書の記載をみても、杉葉を植物原料として用いるためになされた特別な工夫も見当たらない。
さらに、引用例1発明の抽出方法を、杉葉エキスの抽出方法として用いたことによる効果も以下に述べるように格別のものとはいえない。
両者の【発明の効果】をみてみると、引用例1の記載事項(ケ)に、「本発明に依れば、人体に対する顕著な有効成分たる金属元素、ビタミン類、アミノ酸、脂肪酸類、オリゴ類、ペプチド類等の微量成分を多く抽出することが出来る。従って、本発明方法に基づき得られた菖蒲エキスは浴用剤としては勿論、その他化粧品、石鹸に含有させるための菖蒲エキスとして、その利用価値はとみに高い。」と記載されているのに対して、本願明細書に、「本発明に依れば、人体に対する顕著な有効成分であるビタミン類、アミノ酸、オリゴ糖、ペプチド類などの微量成分を多く抽出する事ができる。従って本発明によって得られた杉葉エキスは浴用剤としては勿論、その他の化粧品、石鹸に含有させる為の杉葉エキスとして、その利用価値はとみに高い。」(段落【0018】)と記載され、両発明で、その効果については実質的な差がないものといえる。
したがって、相違点1に係る本願発明の構成は、引用例1発明及び引用例2に記載された事項並びに周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得たものである。

[相違点2]について
植物原料に添加する米麹の添加量をみてみると、引用例1の記載事項(オ)に、「実施例1で使用した米こうじであるが、その使用量の範囲は、0.5?5重量%程度である。すなわち、0.5重量%未満であると効力が低くなり、また、5重量%を超えると米自体の分解が主となり、菖蒲に対する分解力が弱まってしまうからである。」と記載され、引用例1発明は、米麹の添加量を設定するに当たって、菖蒲の分解と米自体の分解とを考慮しているのに対し、本願発明でも、明細書の段落【0011】に、「実施例1で使用した米麹であるが、その使用範囲は、0.1?3重量%程度である。即ち、0.1重量%未満であると効力が低くなり、また、3重量%を超えると米自体の分解が主となり、杉葉に対する分解力が弱まってしまうからである。」と記載され、杉葉の分解と米自体の分解とを考慮して米麹の添加量を設定していることから、引用例1発明で植物原料に添加する米麹の添加量は、植物原料の分解と米自体の分解とを考慮して、当業者が実験を行うことにより適宜設定し得る事項といえる。
そして、本願明細書の記載をみても、杉葉に対し、0.1?3重量%の米麹を添加することによって格別の効果を奏するものともいえない。
したがって、相違点2に係る本願発明の構成は、引用例1発明及び引用例2に記載された事項に基づいて当業者が容易に想到し得たものである。

[相違点3]について
まず、「リン酸二水素ナトリウム」と「リン酸水素二ナトリウム」についてみてみると、たとえば、「化学大辞典編集委員会編、化学大辞典9、共立出版株式会社、1997年9月20日発行、804?805ページ」によると、リン酸水素ナトリウムには、リン酸二水素ナトリウムとリン酸水素二ナトリウムとがあり、前者を第一リン酸ナトリウム、後者を第二リン酸ナトリウムとも呼び、両者ともに緩衝液の成分として用られることから、引用例1発明で、pHを6?7になるように調節する際に添加するリン酸水素ナトリウムとして、リン酸二水素ナトリウムとリン酸水素二ナトリウムのいずれを用いるかは、当業者が必要に応じて容易に選択し得る事項といえる。
つぎに、リン酸水素ナトリウムの添加によるpHの調節範囲についてみてみると、引用例1発明のpH6?7は、本願発明のpH6?7.5に完全に包含される数値範囲であることから、このpHの調節範囲については、両者に相違するところはないといえる。
そして、本願明細書の記載をみても、pHを調節するためにリン酸二水素ナトリウムを選択することによって格別の効果を奏するものとはいえない。
したがって、相違点3に係る本願発明の構成は、引用例1発明及び引用例2に記載された事項に基づいて当業者が容易に想到し得たものである。
なお、本願発明は、後記の7.に記載するように、平成17年12月5日付けの手続補正により付加された「リン酸二水素ナトリウム」が新規事項の追加に該当すると認められるところ、本願の出願当初明細書には、「リン酸水素=ナトリウム」を添加してphを調節することが記載され、「リン酸水素=ナトリウム」の記載は、「リン酸水素二ナトリウム」の誤記といえるから、本願発明の補正が適正になされた場合には、上記「リン酸二水素ナトリウム」の記載は、「リン酸水素二ナトリウム」と記載されることになる。
このことは、引用例1の記載事項(エ)に、「上記実施例で使用したリン酸水素二ナトリウム(食品添加用)はPHを調節するためであり、1モル溶液(35.8gを水100ミリリットルに溶解)を用いた。」と記載されているのに対して、本願明細書の段落【0010】にも、「上記実施例で使用したリン酸水素=ナトリウムは、phを調節する為であり、35.8gを水100mlに溶解した1モル溶液を用いた。」と、リン酸水素=ナトリウムの1モル溶液とするに当たって同様の数値が用いられていることからも裏付けられ、本願発明の上記補正が適正になされれば、相違点3は、実質的な相違点といえないことになる。

[相違点4]について
本願発明は、杉葉に対し、米麹を添加すると共に、phを調節して40℃の温度下において10?12時間保って醗酵させて淡黄色の溶解液を得るものであるのに対して、引用例1発明も、菖蒲に対し、米こうじを添加すると共に、pHを調節して40℃の温度で10?12時間保ち、溶解物としての淡黄色の液体を得るのであり、両者の処理方法は、実質的に相違するところがないことから、引用例1発明も、菖蒲を米麹により醗酵させていることは明らかである。
したがって、相違点4は、実質的な相違点とはいえない。

[相違点5]について
「バリン」の含有量について、平成19年2月16日付けの意見書で、「そして、段落〔0013〕の〔表1〕に記載されているとおり、〔0007〕の実施例の如き本願発明の抽出方法により得られた杉葉エキス100g中には、「バリン」成分が710mg含まれております。
ここで、「バリン」については、「化学大辞典」東京化学同人、第1803頁(参考資料)に示すとおり、アミノ酸の一種であり、かかるアミノ酸が人体にとって有効成分であることは周知事実であります。
しかして、菖蒲を植物原料とする引用例1の記載の発明には、100g中のバリンが520mgしか含まれていない一方、本願発明の抽出方法を用いた杉葉エキスには、バリンが710mgも含まれているため、前記菖蒲エキスの約1.37倍もの量を得ることができます。
したがって、微量成分を多く抽出する方法を提供せんとする本願発明において、従来の植物原料であった菖蒲と比較して、このように約1.37倍もの有効成分たるバリン抽出量を得ることができることは特筆すべき効果であり、植物原料として「杉葉」を採用したことに技術的進歩性が認められるべきであります。」と主張しているので、この点について、以下で検討する。
本願明細書には、上記[相違点1]で検討したように、人体に対して有効成分である、アミノ酸、オリゴ糖、ペプチド類、金属元素などの微量成分の抽出を主眼点とした杉葉エキスの抽出方法を提供することを発明の課題とし、その効果として、人体に対する顕著な有効成分であるビタミン類、アミノ酸、オリゴ糖、ペプチド類などの微量成分を多く抽出する事ができることが記載されており、本願発明は「微量成分を多く抽出する方法を提供せんとする」ものといえるが、特定のアミノ酸である[バリン」の抽出量については、他のアミノ酸とともに、成分データとして記載されているのみで、特に[バリン」の抽出量に着目して、「植物原料として「杉葉」を採用したこと」は、本願明細書のいずれにも記載されておらず、本願発明と引用例1発明との対比から新たに導き出した課題及び効果といわざるを得ないことから、上記意見書の主張は採用できない。
そして、本願発明の抽出方法で得られる杉葉エキスの成分(本願明細書の【表1】)と引用例1の記載事項(カ)に記載された菖蒲エキスの成分とを対比すると、両者に含まれる成分の種類は同一であるものの、各成分の含有量には、相違がみられるが、両者ともに、上記微量成分を多く抽出できるものといえ、その含有量の差も植物原料が異なるために生じた当然の帰結といえる。
したがって、相違点5に係る本願発明の構成は、引用例1発明及び引用例2に記載された事項並びに周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得たものである。

6.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例1及び2並びに周知技術に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

7.新規事項の追加について
7-1.平成18年12月26日付け拒絶理由通知の内容
当審において、平成18年12月26日付けで、平成17年12月5日付けの手続補正について、以下の内容で特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない旨の拒絶理由を通知した。
(1)本件補正の内容
平成17年12月5日付け手続補正書による本願明細書の補正は、特許請求の範囲の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である、ph調節について、「リン酸二水素ナトリウムを添加して」との限定を新たに付加したものである。
(2)本件補正に対する判断
そこで、本件補正の適否について検討すると、本願の出願当初明細書の段落【0007】及び【0008】には、「リン酸水素=ナトリウムを加えてphが6?7.5になるように調節する。」ことが記載され、段落【0010】には、「上記実施例で使用したリン酸水素=ナトリウムは、phを調節する為であり、35.8gを水100mlに溶解した1モル溶液を用いた。」と記載されている。
そして、本件補正において、新たに付加された「リン酸二水素ナトリウムを添加して」は、上記段落【0007】、【0008】及び【0010】に記載されたphを調節するためにリン酸水素=ナトリウムを加えることを補正の根拠としているものと認める。
しかし、出願当初明細書に記載されていたのは「リン酸水素=ナトリウム」であって、「リン酸二水素ナトリウム」については記載されていない。
このことについて、請求人は、平成17年12月5日付けの意見書で、「なお、当初明細書の段落[0008][0010]に「リン酸水素=ナトリウム」とある記載は、リン酸二水素ナトリウムの明らかな誤記であります。」と主張しているが、上記の3.(3)[相違点3]で述べたとおり、リン酸水素ナトリウムには、リン酸二水素ナトリウムとリン酸水素二ナトリウムとがあり、両者が共に緩衝液の成分として用られることから、「リン酸水素=ナトリウム」とある記載は、「リン酸水素二ナトリウム」の明らかな誤記といえるとしても、「リン酸水素=ナトリウム」とある記載は、「リン酸二水素ナトリウム」の明らかな誤記であるとはいえない。
してみると、本件補正において、特許請求の範囲の請求項1に、「リン酸二水素ナトリウムを添加して」を付加することは、本願の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載された事項の範囲内のものではないばかりか、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載された事項から自明のこととも認められない。
(3)むすび
したがって、上記補正に係る本件補正は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

7-2.平成19年2月16日付け手続補正の内容
上記拒絶理由通知に対して、平成19年2月16日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1には、依然として「リン酸二水素ナトリウムを添加して」と記載されたままであり、かつ、当該拒絶理由通知に対する合理的な釈明もなされていないことから、請求項1に、「リン酸二水素ナトリウムを添加して」を付加することは、本願の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載された事項の範囲内のものではないばかりか、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載された事項から自明のこととも認められない。

7-3.むすび
したがって、上記補正に係る本件補正は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。
 
審理終結日 2007-05-08 
結審通知日 2007-05-09 
審決日 2007-05-22 
出願番号 特願平11-357864
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B01D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 神田 和輝中村 敬子  
特許庁審判長 板橋 一隆
特許庁審判官 斉藤 信人
廣野 知子
発明の名称 杉葉エキスの抽出方法  
代理人 戸川 公二  

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