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審決分類 審判 査定不服 特29条特許要件(新規) 特許、登録しない。 G06Q
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 G06Q
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06Q
管理番号 1160128
審判番号 不服2004-8039  
総通号数 92 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-08-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-04-20 
確定日 2007-07-06 
事件の表示 特願2000- 60385「統一形式に変換して一時的にデータ貯溜するオンラインデータプリントの代行実現方式」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 9月 7日出願公開、特開2001-243383〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成12年3月1日の出願であって、平成16年3月18日付で拒絶査定がなされ、これに対し、同年4月20日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同日付で手続補正がなされたものである。

2.平成16年4月20日付の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成16年4月20日付の手続補正を却下する。

[理由]
(1)補正の内容
平成16年4月20日付の手続補正(以下「本件補正」という。)により、特許請求の範囲は、
「 【請求項1】 インターネットによる通信機能を有するサーバ装置と、複数の店舗に設置され各々サーバ装置と接続されており少なくとも記憶装置、タッチパネル、プリンタ、料金収受手段を備えた印刷可能情報端末とを用いて印刷の代行を行う方法であって、
(a)サーバ装置は携帯電話またはインターネットに接続した通信装置から印刷物データを受信し、各印刷可能情報端末で印刷できる統一形式に変換して一時的にサーバ装置又は印刷可能情報端末の記憶装置に記憶し、
(b)印刷可能情報端末はタッチパネルから印刷物データを特定する情報と利用者ID若しくはパスワードの入力を受けてサーバ装置に送信し、
(c)サーバ装置は印刷可能情報端末から受信したデータに基いて印刷物データの選択とアクセス権限の認証を行い、必要な場合は選択された印刷物データを印刷可能情報端末に送信し、
(d)印刷可能情報端末は印刷可能情報端末内の料金収受手段における必要料金の投入が確認されると、タッチパネルからの指示に基いて、受信又は記憶した印刷物データを印刷し、
(e)印刷可能情報端末は正常に印刷されなかった印刷物に対する料金を前記料金収受手段から払戻し、正常印刷分のみに対する入金データをサーバ装置に送信することを特徴とするプリント代行実現方法。
【請求項2】 インターネットによる通信機能を有するサーバ装置と、複数の店舗に設置され各々サーバ装置と接続されており、少なくとも記憶装置、タッチパネル、プリンタ、料金収受手段を備えた印刷可能情報端末とを用いて印刷の代行を行う方法であって、
(a)サーバ装置はインターネットに接続した通信装置から印刷物データを受信してウイルスチェックを行ない、各印刷可能情報端末で印刷できる統一形式に変換して一時的にサーバ装置又は印刷可能情報端末の記憶装置に記憶し、
(b)サーバ装置は前記チェック及び変換が正常終了すると前記通信装置宛の電子メールを発信し、
(c)印刷可能情報端末はタッチパネルから印刷物データを特定する情報と利用者ID若しくはパスワードの入力を受けてサーバ装置に送信し、
(d)サーバ装置は印刷可能情報端末から受信したデータに基いてアクセス権限の認証を行い、必要な場合は選択された印刷物データを印刷可能情報端末に送信し、
(e)印刷可能情報端末は印刷可能情報端末内の料金収受手段における必要料金の投入が確認されると、タッチパネルからの指示に基いて、受信又は記憶した印刷物データを印刷することを特徴とするプリント代行実現方法。
【請求項3】 インターネットによる通信機能を有するサーバ装置と、複数の店舗に設置され各々サーバ装置と接続されており、少なくとも記憶装置、タッチパネル、プリンタ、料金収受手段を備えた印刷可能情報端末とを用いて、インターネットに接続した通信装置を有する作成主体から利用主体への印刷物の配布を行う方法であって、
(a)サーバ装置は作成主体の通信装置から印刷物データを受信し、各印刷可能情報端末で印刷できる統一形式に変換して一時的にサーバ装置又は印刷可能情報端末の記憶装置に記憶し、
(b)サーバ装置は利用主体の通信装置宛の電子メールを発信し、
(c)印刷可能情報端末はタッチパネルから印刷物データを特定する情報と利用者ID若しくはパスワードの入力を受けてサーバ装置に送信し、
(d)サーバ装置は印刷可能情報端末から受信したデータに基いてアクセス権限の認証を行い、必要な場合は選択された印刷物データを印刷可能情報端末に送信し、
(e)印刷可能情報端末はタッチパネルからの指示に基いて、受信又は記憶した印刷物データを印刷することを特徴とする印刷物配布方法。
【請求項4】 インターネットによる通信機能を有するサーバ装置と、複数の店舗に設置され各々サーバ装置と接続されており、少なくとも記憶装置、タッチパネル、プリンタ、料金収受手段を備えた印刷可能情報端末とを用いて、インターネットに接続した通信装置を有する作成主体から利用主体への印刷物の配布を行う方法であって、
(a)サーバ装置は作成主体の通信装置から印刷物データを受信し、各印刷可能情報端末で印刷できる統一形式に変換して一時的にサーバ装置又は印刷可能情報端末の記憶装置に記憶し、
(b)印刷可能情報端末はタッチパネルから印刷物データを特定する情報と利用者ID若しくはパスワードの入力を受けてサーバ装置に送信し、
(c)サーバ装置は印刷可能情報端末から受信したデータに基いてアクセス権限の認証を行い、必要な場合は選択された印刷物データを印刷可能情報端末に送信し、
(d)印刷可能情報端末はタッチパネルからの指示に基いて、受信又は記憶した印刷物データを印刷し、
(e)前記印刷可能情報端末は印刷後さらに印刷枚数のデータをサーバ装置に送信し、サーバ装置は利用の都度又は定期的に利用主体ごとの印刷枚数を集計し、集計データを電子メールにより作成主体の通信装置宛に通知することを特徴とする印刷物配布方法。」
と補正された。

(2)補正の目的
「方式」の発明は、「物」の発明であるから、補正後の請求項1-5に係る本件補正は、「方式」の発明及び「プログラム」の発明を「方法」の発明に変更する補正事項を含み、当該補正事項は、実質的に発明を変更するものであるので、特許法第17条の2第4項第2号に掲げられた特許請求の範囲を減縮することを目的とするものに該当するとは認められない。
また、当該補正事項が、特許法第17条の2第4項第1号に掲げられた請求項の削除、同第3号に掲げられた誤記の訂正、同第4号に掲げられた明りょうでない記載の釈明のいずれかを目的とするものに該当するとは認められない。

なお、補正前の請求項1,3,5の「方法」を「方式」に変更する補正事項は、誤記の訂正又は明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当しないことは明らかであるが、仮に、「方法」を「方式」に変更する補正事項が、誤記の訂正又は明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当するとして、補正後の請求項1に係る本件補正の目的についてさらに検討する。
補正後の請求項1に係る本件補正は、「(b)印刷可能情報端末はタッチパネルから印刷物データを特定する情報と利用者ID若しくはパスワードの入力を受けてサーバ装置に送信し」及び「印刷可能情報端末は正常に印刷されなかった印刷物に対する料金を前記料金収受手段から払戻し、正常印刷分のみに対する入金データをサーバ装置に送信する」の記載を追加する補正事項を含み、当該記載に記載された機能は、補正前の請求項1,3,5に記載された機能の下位概念であるとは認められず、補正前の請求項1,3,5に記載された機能と同位の概念であるので、当該補正事項は、新たな機能を追加するものであり、補正前の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するとは認められない。
また、当該補正事項が特許法第17条の2第4項第1号に掲げられた請求項の削除、同第3号に掲げられた誤記の訂正、同第4号に掲げられた明りょうでない記載の釈明のいずれかを目的とするものに該当するとは認められない。

したがって、上記補正事項を含む本件補正は、特許法第17条の2第4項の規定を満たしていない。

(3)まとめ
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第4項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項で準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.請求項1に係る発明について
平成16年4月20日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、平成13年11月27日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「オンライン管理システムと印刷可能情報端末を備えた店舗網を有する印刷サービス主体により印刷の代行を行う方式であって、作成主体から送信された印刷物データを印刷サービス主体のコンピュータセンターで受信し、センターのサーバ装置は印刷物データを統一形式に変換して一時的にセンター内若しくは前記印刷可能情報端末の記憶装置に貯溜し、店舗において利用主体が印刷可能情報端末を操作して前記印刷物データを選択し必要なアクセス権限が認証されたときに前記印刷物データを印刷するプリント代行実現方式。」

4.原査定の拒絶の理由の概要
拒絶理由通知及び拒絶査定の記載からみて、原査定の拒絶の理由の概要は以下のとおりである。なお、特許法第36条第4項については省略する。
(A)特許法第29条第1項柱書の規定について(以下「理由A」という。)
『この出願の下記の請求項に係る発明は、下記の点で特許法第29条第1項柱書に規定する要件を満たしていないので、特許を受けることができない。



本願請求項1-5に係る発明は、「・・作成主体から送信・・コンピュータセンターで受信・・」「・・利用主体が・・操作して・・選択し」「・・印刷サービス主体が料金を代行収納する・・」等と、業務等の処理内容を特定する記載がなされているのみであり、技術的事項として特定する記載はない。また、この一連のステップは、コンピュータの動作方法であると把握することができないから、人為的な取決め及び経済法則のみに基づくものであり、自然法則を利用したものではない。したがって、請求項1-5に係る「発明」は、「自然法則を利用した技術的思想の創作」にはあたらない。
仮にコンピュータシステムの処理であったとしても、該記載は果たすべき機能を単に表現したものであって、コンピュータシステムの処理又は動作方法として特定されているものとは認められないから、請求項1-5に係る「発明」は、自然法則を利用した技術的思想の創作とは認められない。』

(B)特許法第36条第6項第2号の規定について(以下「理由B」という。)
『この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。



(1) 請求項1、3,5に記載された発明は語尾が「方式」、即ち、「物」のカテゴリーの発明であり、「・・作成主体から送信・・コンピュータセンターで受信・・」「・・利用主体が・・操作して・・選択し」「・・印刷サービス主体が料金を代行収納する・・」「・・・サーバ装置は印刷物データを統一形式に変換して・・の記憶装置に貯溜し・・・」、「・・印刷可能情報端末において・・アクセス権限を認証する・・」、「・・サーバ装置が・・通知する・・」等と記載されるように、機能等により物を特定しようとする記載であるが、該記載では、各々の機能を有する具体的な物を容易に想定できないので、請求項1、3,5の発明は明確ではない。

(2)請求項2,4に記載された発明は語尾が「プログラム」であり、カテゴリーが不明確であるから、明確ではない。
すなわち、「物」のカテゴリーの発明であるか、「方法」のカテゴリーの発明であるか不明確である。
(「プログラム」を物の発明として取り扱うのは、その出願日が平成13年1月10日以降である出願のみであることに留意されたい。)

(3)請求項1-5に記載された発明は、発明の詳細な説明を参酌しても、如何なる構成による如何なる物等であるのか不明確である。
よって、請求項1-5に係る発明は明確でない。』

(C)特許法第29条第2項の規定について(以下「理由C」という。)
『この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

・請求項1-5
・引用例1-2
・備考
例えば、引用例1,2に記載されるような、データを保存し、データを印刷するサービスを行うために用いられるコンピュータシステムは周知であり、また、その際に課金を伴うことも、引用例1に記載されている。

引 用 文 献 等 一 覧

1.特開平11-146118号公報
2.特開平11-355348号公報』

5.上記理由Aについて
請求項1の上記記載では、「センターのサーバ装置は印刷物データを統一形式に変換して一時的にセンター内若しくは前記印刷可能情報端末の記憶装置に貯溜し」の記載は、サーバ装置の動作を特定しているものの、「作成主体から送信された印刷物データを印刷サービス主体のコンピュータセンターで受信し」の記載では動作の主体が特定されておらず、装置の動作を特定するものとは認められず、「店舗において利用主体が印刷可能情報端末を操作して前記印刷物データを選択し必要なアクセス権限が認証されたときに前記印刷物データを印刷する」では、動作の主体である利用主体は印刷サービスを利用する印刷物受取者などの人間であると認められ、装置の動作を特定するものとは認められない。
したがって、請求項1の記載では、一部に装置の動作が記載されているものの、全体として、請求項1に係る発明が、装置の動作方法であると解することができるとは認められず、人為的に取り決められた印刷サービスの業務内容を特定したものであるので、請求項1に係る発明は、実質的には人為的取り決めそのものであり、「自然法則を利用した技術的思想の創作」に該当するものとは認められない。

また、仮に、請求項1に記載された各動作の主体がサーバ装置や印刷可能情報端末等の装置であると解して請求項1の記載を検討すると、発明の詳細な説明の記載からみて、本願発明のプリント代行実現方式は、サーバ装置や印刷可能情報端末等のコンピュータが実行する方法であり、その発明の実施にソフトウエアを必要とする、いわゆるコンピュータ・ソフトウエア関連発明である。
こうしたソフトウエアを利用するコンピュータ・ソフトウエア関連発明が、「自然法則を利用した技術的思想の創作」であるためには、発明はそもそもが一定の技術的課題の解決手段になっていなければならないことから、ハードウエア資源を利用したソフトウエアによる情報処理によって、所定の技術的課題を解決できるような特有の構成が具体的に提示されている必要があるというべきである。
そこで、請求項1の記載を便宜上以下の(ア)-(ウ)に分けて、ソフトウエアにより実現される処理がハードウエア資源を用いてどのように実現されるか具体的に提示されているか検討する。
(ア)「オンライン管理システムと印刷可能情報端末を備えた店舗網を有する印刷サービス主体により印刷の代行を行う方式であって、」
(イ)「作成主体から送信された印刷物データを印刷サービス主体のコンピュータセンターで受信し、センターのサーバ装置は印刷物データを統一形式に変換して一時的にセンター内若しくは前記印刷可能情報端末の記憶装置に貯溜し、」
(ウ)店舗において利用主体が印刷可能情報端末を操作して前記印刷物データを選択し必要なアクセス権限が認証されたときに前記印刷物データを印刷するプリント代行実現方式。」

上記(ア)の記載について検討すると、本願発明の「方式」の機能の概要を特定するに留まる。

印刷物データを受信する主体をコンピュータセンターのサーバ装置と解して、上記(イ)の記載について検討すると、サーバ装置が用いるハードウエア資源として「センター又は印刷可能情報端末の記憶装置」が記載されているものの、「センター又は印刷可能情報端末の記憶装置」に関する記載は「印刷物データ」の記憶先を特定しているにすぎないので、上記(イ)の記載は、サーバ装置の機能を「作成主体から送信された印刷物データを受信し、印刷物データを統一形式に変換して一時的にセンター内若しくは前記印刷可能情報端末の記憶装置に貯溜する」ことに特定するに留まり、上記(イ)の記載では、この印刷物データを受信し、センター又は印刷可能情報端末の記憶装置に貯溜するという当該機能がハードウエア資源を用いてどのように実現されるのか具体的に提示されているとは認められない。

印刷データを印刷する主体を利用主体ではなく、印刷可能情報端末であると解して、上記(ウ)の記載について検討すると、印刷可能情報端末が用いるハードウエア資源が何も記載されていないので、上記(ウ)の記載は、単に印刷可能情報端末の機能を「店舗において利用主体が印刷可能情報端末を操作して前記印刷物データを選択し必要なアクセス権限が認証されたときに前記印刷物データを印刷する」ことに特定するに留まり、上記(ウ)の記載では、印刷物データを印刷するという当該機能がハードウエア資源を用いてどのように実現されるのか具体的に提示されているとは認められない。

さらに、全体としても、請求項1の記載は、ハードウエア資源として「記憶装置」が記載されているものの、「記憶装置」に関する記載は単に印刷物データの記憶先を特定したものにすぎず、請求項1の記載では、プリント代行実現方式を構成するサーバ装置や印刷可能情報端末の機能を単に「印刷データを受信し、記憶装置に貯溜し、印刷する」ことに特定するに留まり、請求項1の記載では、これらの機能がハードウエア資源を用いてどのように実現するか具体的に提示しているとは認められない。

以上の検討によれば、請求項1には、本願の請求項1に係る発明のプリント代行実現方式の機能が、ハードウエア資源を利用したソフトウエアによる情報処理によって、どのように実現されるのか、という点に関しては、何ら具体的に記載されておらず、かつ、情報処理が、各手段の記載から当業者にとって自明であると認められるものではない。
そうすると、請求項1に係る発明は、その技術的課題を解決できるような特有の構成を具体的に提示するものであるとはいえず、一定の技術的課題の解決手段であるとは到底いえないから、特許法第2条でいう「発明」、すなわち「自然法則を利用した技術的思想の創作」に該当しない。
したがって、請求項1に係る発明は、特許法第29条第1項柱書に規定する要件を満たしておらず、特許を受けることができない。

6.上記理由Bについて
上記のとおり、請求項1に係る発明が、特許法第2条でいう「発明」、すなわち「自然法則を利用した技術的思想の創作」に該当しないことは明らかであるが、仮に、請求項1に係る発明が、特許法第2条でいう「発明」、すなわち「自然法則を利用した技術的思想の創作」に該当するとして、上記理由Bについて検討する。
(1)請求項1、3、5について
請求項1の「作成主体から送信された印刷物データを印刷サービス主体のコンピュータセンターで受信し、」の記載では、印刷物データを受信する動作の主体が記載されておらず、不明であるので、当該動作が「プリント代行実現方式」の動作とは認められない。
また、請求項1の「店舗において利用主体が印刷可能情報端末を操作して前記印刷物データを選択し必要なアクセス権限が認証されたときに前記印刷物データを印刷する」の記載では、印刷物を印刷するという動作の主体は印刷物受取者などの人間であると認められ、当該動作が「プリント代行実現方式」の動作とは認められない。
さらに、請求項3の「印刷可能情報端末内の料金収受手段によって印刷サービス主体が料金を代行収納する」の記載では、料金を代行収納するという動作の主体が、契約者などの組織や人間であり、当該動作が「プリント代行実現方式」の動作とは認められない。
したがって、請求項1に記載された発明,請求項3に記載された発明,及び請求項3を引用した請求項5に記載された発明は、「プリント代行実現方式」という物の発明として明確であるとは認められない。

(2)請求項2及び4について
請求項2、4の記載の末尾が「プログラム」であるため、請求項2,4に記載された発明のカテゴリーが不明であり、物の発明か方法の発明かが不明である。
したがって、請求項2及び4に記載された発明が、明確であるとは認められない。

(3)まとめ
以上のとおり、請求項1-5に記載された発明が明確でないので、本願は特許法第36条第6項第2号の要件を満たしていない。

7.上記理由Cについて
上記のとおり、請求項1-5に記載された発明が明確でないことは明らかであるが、仮に、請求項1-5に記載された発明が明確であるとして、上記理由Cについて検討する。
(1)本願発明
平成16年4月20日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成13年11月27日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「オンライン管理システムと印刷可能情報端末を備えた店舗網を有する印刷サービス主体により印刷の代行を行う方式であって、作成主体から送信された印刷物データを印刷サービス主体のコンピュータセンターで受信し、センターのサーバ装置は印刷物データを統一形式に変換して一時的にセンター内若しくは前記印刷可能情報端末の記憶装置に貯溜し、店舗において利用主体が印刷可能情報端末を操作して前記印刷物データを選択し必要なアクセス権限が認証されたときに前記印刷物データを印刷するプリント代行実現方式。」

(2)引用例
(2-1)引用例1
原査定で拒絶の理由として引用した特開平11-146118号公報(以下「引用例1」という。)には、図面とともに、以下の事項が記載されている。
(a)「【0022】
【発明の実施の形態】〔第1実施形態〕図1は、本発明の第1実施形態を示す情報処理システムの構成を説明する図である。
【0023】図1において、1は利用者の持っている携帯端末であり、2はPHSなどの携帯電話である。携帯端末1と携帯電話2は通信ケーブル3にて接続されている。
【0024】4はサーバで、CPU,RAM,ROM等を備える制御ユニットを備え、図示しないキーボード等からの指示によりデータ処理を行うとともに、情報処理システム全体の制御を行っていて、ハードディスク等の2次記憶装置として機能する記憶手段5が接続されている。記憶装置5にはあらかじめ登録されたユーザの認証情報が記憶されている。
【0025】6は画像形成装置であり、ユーザの認証処理を行う認証手段7を備え、電話回線8によって、サーバ4と所定のプロコトルにより通信可能に構成されている。なお、認証手段7には、磁気カード,プリペードカード,ICカードの種々のメモリ媒体に記憶された認証情報を読み取るリーダ部を備え、図示しないインタフェースを介して画像形成装置6に読み取ったデータを出力するように構成されている。」(第5頁右欄第22行-同頁同欄第44行)

(b)「【0028】また、前記画像形成装置6による画像出力後、算出される画像出力使用料金をユーザに請求して決済処理する課金処理手段(サーバ4のCPUがROM,他のメモリ資源に記憶された制御プログラムを実行して課金処理(詳細は後述する複数の例による)する課金処理手段を有するので、画像形成装置6を備えて、プリント出力処理を代行するサービス業を営む拠点を容易に拡充することができ、ユーザの出力要求に対して柔軟に対応でき印刷データをいつでも近場のプリントショップにて印刷して所望の印刷結果を得ることができ、携帯端末1を利用するユーザの利便性を格段に向上できる。」(第6頁左欄第26行-同頁同欄第36行)

(c)「【0034】図2は、本発明に係るデータ処理システムの第1のデータ処理手順の一例を示すフローチャートである。なお、(1)?(12)は各ステップを示す。
【0035】ステップ(1)において、サーバ4は、公衆回線の着信の有無を監視していて、着信があると、ステップ(2)では、利用者に利用できるサービスを提示して、利用者にメニューを選択させる。メニューには、印刷データの入力(データ保管)、印刷データの出力(データ印刷)、その他問い合わせなどとなっている。
【0036】なお、図1において、データを印刷したい利用者は、携帯端末1と携帯電話2をケーブル3とともに所持している場合は、携帯電話2より、サーバ4の電話番号にダイアルすることにより、公衆回線を通じてサーバ4に接続して、メニューのデータ入力を選択する。
【0037】ステップ(2)で、ユーザにより印刷データの入力が選択された場合は、ステップ(3)にて利用者の認証を行う。認証手段としては、クレジットカードの番号をキー入力させる方法、あらかじめユーザとして登録しておき、その番号をキー入力させる方法などがある。また、上記の方法ができない利用者には、名前をキー入力させて、印刷時のパスワードをサーバ4より発行して、印刷時に利用者にそのパスワードをキー入力させる方法がある。上記の各種番号,名前,パスワードなどは、利用者情報として、サーバ4の記憶手段5に記憶する。
【0038】ステップ(3)で、利用者の認証処理が成立し終わったら、次に利用者に印刷すべきデータをサーバ4に記憶しておく保持時間を指定させる。これは、利用者が何時までに印刷出力するか、あらかじめ設定させることにより、速やかにデータを印刷させるためであると同時に、指定した時刻を過ぎてもデータ印刷を行わなかった場合に、ある程度の余裕時間を見越した後に、データを消去して、記憶手段5にデータを溜めすぎないためのものである。
【0039】次に、ステップ(4)で、データ保持時間すなわち、データ消去するまでの時間を入力確認させた後、ステップ(5)において、利用者に印刷するデータを送信させ、サーバ4の記憶手段5に、上記の利用者情報,データ保持時間とともに印刷データを記憶する。次に、図示しない判定処理により、上記ステップ(3)?(5)の処理が正しく終了したら、利用者に正常終了を通知して、通信状態を切断し、ステップ(1)に戻って次の着信を待つ。
【0040】次に、利用者が一旦サーバ4の記憶手段5に、印刷データを送信した後、そのデータを印刷するためには、本システムの機能を組み込み、サーバ4に接続できる画像形成装置6の1つに出向き、その装置の操作によってサーバ4に接続して、印刷データの出力(データ印刷)を選択する。
【0041】ステップ(2)で、ユーザにより印刷データの出力(データ印刷)が選択されると、まず、ステップ(6)で、利用者の認証処理を行う。この利用者の認証処理は、ステップ(3)と同様に、利用者がクレジットカードの番号を入力した場合は、認証手段7よりクレジットカードを入れさせ、番号を読み取る。
【0042】また、会員の場合も同様に、認証手段7にカードを入れさせて番号を読み取る。名前を入力して、パスワードを発行してもらった利用者は、名前と、先ほどのパスワードをキー入力する等がある。
【0043】そして、サーバ4は、ステップ(7)で、入力された利用者の情報を記憶手段5に登録されている各ユーザ毎の認証情報とそれぞれ照合し、一致したかどうかを判定し、一致したものがあると判断した場合は、ステップ(8)にて対応した印刷データを読み出し、ステップ(9)にてデータを印刷する。」(第6頁右欄第20行-第7頁左欄第34行)

(d)「【0051】〔第2実施形態〕上記実施形態では、サーバ4に接続される記憶手段5に携帯端末1から受信した印刷データを保存し、該サーバ4に通信可能な任意の画像形成装置6から記憶手段5に保存された印刷データをサーバ4から取得して印刷処理する場合について説明したが、携帯端末1からユーザが特定の画像形成装置6を指定して、該画像形成装置6に接続される記憶手段にサーバ経由で保存して、サーバ4の記憶手段に印刷データで占有されてしまう事態を回避して、画像形成装置6に接続される記憶手段により印刷データを個々に管理できるように構成してもよい。以下、その実施形態について説明する。」(第7頁右欄第41行-第8頁左欄第2行)

(e)「【0101】第2の発明によれば、前記画像形成装置による画像出力後、算出される画像出力使用料金をユーザに請求して決済処理する課金処理手段を有するので、画像形成装置を備えて、プリント出力処理を代行するサービス業を営む拠点を容易に拡充することができ、ユーザの出力要求に対して柔軟に対応でき印刷データをいつでも近場のプリントショップにて印刷して所望の印刷結果を得ることができる、携帯端末を利用するユーザの利便性を格段に向上できる。」(第11頁右欄第11行-同頁同欄第19行)

上記摘記事項(b)及び(e)の記載からみて、引用例1に記載された事項において、画像形成装置はプリントショップに備えられ、このプリントショップは、プリント出力処理を代行するサービス業を営む主体の拠点としてショップ網を形成していることは明らかである。
上記摘記事項(c)の記載からみて、引用例1に記載された事項において、印刷データを読み出す権限、すなわち印刷データへアクセスすることができるアクセス権限が認証されたときに、印刷データを印刷していることは明らかである。

以上の事項からみて、引用例1には、
『「サーバ(4)又は(9)を備えたシステム」及び「画像形成装置(6)又は(10)」を備えたプリントショップ網を有する印刷サービス行を営む主体により印刷サービスを行うデータ処理システムであって、
「ユーザ」から送信された印刷データを印刷サービス業を営む主体の「サーバ(4)又は(9)」が受信し、一時的に「サーバ装置(4)」の「記憶装置(5)」若しくは「画像形成装置(10)」の「記憶装置(11)」に記憶し、プリントショップにおいて「ユーザ」が「画像形成装置(6)又は(10)」を操作して前記印刷データを読み出して必要なアクセス権限がされた時に印刷するデータ処理システム。』
との発明(以下「引用例発明」という。)が記載されている。

(2-2)引用例2
原査定の拒絶の理由として引用された特開平11-355348号公報(以下「引用例2」という。)には、図面とともに、以下の事項が記載されている。
(f)「【0053】本実施形態では、端末装置13には、入力装置として、キーボード及びマウス、更にタッチパネルが設けられている。このタッチパネルは、漢字を含む文字に加え、写真などの画像を表示することができる出力装置となっており、キーボードやマウスの操作やタッチパネルのタッチ操作により、表示されるものを参照しながら利用者が必要な入力操作を行う。又、出力装置として、該端末装置13には、同様な文字や画像を印刷出力できるプリンタが、印刷装置として設けられている。
【0054】本実施形態では、検索キー文字列の入力は、キーボード及びマウス、更にタッチパネルへのタッチ操作を用いる。これらは、タッチパネルの表示を参照して行う。これ以外の入力は、全てマウスのクリックか、タッチパネルの画面へのタッチ操作にて処理される。」(第6頁左欄第44行-同頁右欄第8行)

(g)「【0058】第1表示画面で観光情報や道路情報などのメニュー項目を選択した場合には、第2表示画面において、キーボードやマウスや、タッチパネルのタッチ操作を用い、キーワードを入力したり、タッチパネルに表示される検索可能なキーワードの候補の中から選択入力したりして、必要な提供情報を検索する機能がある。ここで、欲しい記事又は情報内容を一覧から選択するか、検索結果から選択すると、次の第3表示画面に進む。すると、タッチパネルには、第2表示画面に代わり、第3表示画面が表示される。」(第6頁右欄第29行-同頁同欄第38行)

(h)「【0065】レイアウトが確定したら、該レイアウトで印刷するように、利用者が印刷指示を行う。指示する際に、本実施形態では印刷解像度を2 段階程度で指定できる。低解像度出力の場合は、品質は劣るが、印刷時間は早い。なお、利用者の指定したレイアウトは、端末装置13のプログラム内で座標情報として処理され、端末装置13に設けられている印刷装置に渡される。」(第7頁左欄第26行-同頁同欄第32行)

してみると、引用例2には、
『利用者が、印刷装置が設けられた「端末装置(13)」を操作して必要な情報を選択して印刷する。』
との事項が記載されている。

(3)対比
本願発明と引用例発明を比較すると、引用例発明の「サーバ(4)又は(9)を備えたシステム」、「画像形成装置(6)又は(10)」、「プリントショップ」、「印刷データ」、「データ処理システム」、「ユーザ」、「サーバ(4)又は(9)」、「記憶装置(5)又は(11)」、「記憶する」は、本願発明の「オンライン管理システム」、「印刷可能情報端末」、「店舗」、「印刷物データ」、「印刷の代行を行う方式」、「作成主体及び利用主体」、「サーバ装置」、「記憶装置」、「貯溜する」に相当する。
また、引用例発明の「印刷データを読み出す」と本願発明の「印刷物データを選択する」は、印刷物データを取得するという点で一致する。
以上の事項からみて、本願発明と引用例発明は、
「オンライン管理システムと印刷可能情報端末を備えた店舗網を有する印刷サービス主体により印刷の代行を行う方式であって、作成主体から送信された印刷物データを印刷サービス主体が受信し、サービス主体のサーバ装置は印刷物データを統一形式に変換して一時的にサービス主体内若しくは前記印刷可能情報端末の記憶装置に貯溜し、店舗において利用主体が印刷可能情報端末を操作して前記印刷物データを取得し必要なアクセス権限が認証されたときに前記印刷物データを印刷するプリント代行実現方式。」の点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点1)
本願発明では、サーバ装置が印刷物データを統一形式に変換して記憶装置に貯溜するに対し、引用例発明では、印刷物データを統一形式に変換していない点。

(相違点2)
本願発明では、コンピュータセンターがサーバ装置を有し、コンピュータセンターが印刷物データを受信しているのに対し、引用例発明では、コンピュータセンターがサーバ装置を有しているかどうか明記されていない点。

(相違点3)
本願発明では、印刷物データを選択して印刷しているのに対し、引用例発明では、印刷物データを選択しているかどうか明記されていない点。

(4)当審の判断
(相違点1について)
印刷データをポストスクリプト言語のような統一形式のデータに変換して記憶することは例えば特開平8-314909号公報(段落【0024】参照。)、特開平8-292946号公報(段落【0007】参照。)、特開平8-171561号公報(段落【0029】参照。)等に記載されているように周知技術であるので、引用例発明において、サーバ装置が印刷物データを統一形式に変換して記憶装置に貯溜することは当業者が容易に考えられる事項である。
したがって、相違点1に係る本願発明の構成は、引用例発明及び周知事項に基づいて当業者が容易に想到しえたものである。

(相違点2について)
コンピュータセンターにコンピュータを設けることは周知技術であるので、引用例発明において、コンピュータセンターにコンピュータを設け、コンピュータセンターが印刷物データを受信することは当業者が容易に考えられる事項である。
したがって、相違点2に係る本願発明の構成は、引用例発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に想到しえたものである。

(相違点3について)
引用例2には、『利用者が、印刷装置が設けられた「端末装置(13)」を操作して必要な情報を選択して印刷する』との事項が記載されているので、引用例発明において記憶装置に記憶されている印刷物データから選択して印刷することは当業者が容易に考えられる事項である。
したがって、相違点1に係る本願発明の構成は、引用例発明及び引用例2に記載された事項に基づいて当業者が容易に想到しえたものである。

そして、本願発明の作用効果も、引用例1、引用例2及び周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。
したがって、本願発明は、引用例1に記載された発明、引用例2に記載された事項、及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

8.まとめ
上記5.で述べたとおり、請求項1に係る発明は、特許法上の第2条でいう「発明」、すなわち「自然法則を利用した技術的思想の創作」に該当しないから、特許法第29条第1項の柱書の規定により特許を受けることができない。
仮に、請求項1に記載された発明が、特許法上の「発明」である「自然法則を利用した技術的思想の創作」に該当するとしても、上記6.で述べたとおり、請求項1-5に記載された発明が明確でないので、本願は特許法第36条第6項第2号の要件を満たしていない。
さらに、仮に、請求項1-5に記載された発明が明確であるとしても、上記7.で述べたとおり、本願発明は、引用例1に記載された発明、引用例2に記載された発明、及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-05-10 
結審通知日 2007-05-14 
審決日 2007-05-25 
出願番号 特願2000-60385(P2000-60385)
審決分類 P 1 8・ 1- Z (G06Q)
P 1 8・ 121- Z (G06Q)
P 1 8・ 572- Z (G06Q)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 青柳 光代  
特許庁審判長 赤穂 隆雄
特許庁審判官 森次 顕
田川 泰宏
発明の名称 統一形式に変換して一時的にデータ貯溜するオンラインデータプリントの代行実現方式  
代理人 稲木 次之  

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