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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A23B
管理番号 1160151
審判番号 不服2004-4592  
総通号数 92 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-08-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-03-05 
確定日 2007-07-05 
事件の表示 特願2003-187136「生鮮野菜用除菌剤及びその除菌方法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年10月14日出願公開、特開2004-283160〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、特許法第41条に基づく優先権主張を伴う平成15年6月30日(優先日、平成15年1月31日)の出願であって、その請求項1ないし8に係る発明は、平成18年7月18日付手続補正書により補正された明細書の記載からみて、本願の特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載されたとおりのものと認められるところ、その請求項1に記載された発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「【請求項1】水を溶媒とし、かつカルシウム化合物の濃度が0.001?0.02質量%である40?59℃のカルシウム水溶液で、生鮮野菜を10秒?30分間接触処理することを特徴とする生鮮野菜の除菌方法。」

2.引用例
これに対して、当審における、平成18年5月10日付けで通知した拒絶の理由に引用した国際公開第93/11670号パンフレット(以下、「引用例1」という。)には、下記(a)ないし(h)の事項が記載されている。
(a)「(1)かき貝殻を焼成して得られる酸化カルシウム型焼成物及び/又はその水和物である水酸化カルシウム型焼成物からなる殺菌剤。
(2)酸化カルシウム型焼成物及び/又は水酸化カルシウム型焼成物の平均粒子径が74μm以下である請求の範囲1の殺菌剤。
(3)請求の範囲1又は2の殺菌剤を食品中に含有させることからなる食品の鮮度保持方法。
(4)請求の範囲1又は2の殺菌剤を含む水溶液又は水分散液に食品を接触させることからなる食品の鮮度保持方法。」(請求の範囲)
(b)「本発明によれば、かき貝殻を焼成して得られる酸化カルシウム型焼成物及び/又はその水和物である水酸化型焼成物からなる殺菌剤が提供される。・・・さらに、本発明によれば、前記焼成物を含む水溶液又は水分散液に食品を接触させることを特徴とする食品の鮮度保持方法が提供される。」(3頁右上欄7行?13行)
(c)「本発明焼成物は、すぐれた殺菌作用を有する。・・・現在のところ、本発明焼成物がすぐれた殺菌作用を有する理由については未だ明確には解明されていないが、その貝殻中に含まれる微量金属成分に原因するものと考えられる。本発明の焼成物は、粉末、水溶液又は水分散液の形態で用いられる。」(4頁左上欄5行?10行)
(d)「本発明焼成物を水に添加して水溶液又は水分散液として用いる場合、本発明焼成物の水中濃度は、0.01重量%以上、好ましくは0.1重量%以上であり、その上限は特に制約されないが、一般には、30重量%以下である。本発明においては、焼成物濃度が0.05?10重量%、好ましくは0.1?5重量%の水溶液又は水分散液の形態で用いるのが好ましい。」(4頁左上欄18行?右上欄1行)
(e)「本発明焼成物は、そのすぐれた殺菌作用に基づいて、食品用、工業用及び医療用の殺菌剤として用いられる。本発明焼成物を鮮度保持剤として食品に適用することにより、その食品に付着する有害微生物の増繁殖を制止し、あるいは殺菌して、食品をその腐敗からまもり、高鮮度に保持する。」(4頁右上欄末行?左下欄4行)
(f)「実施例1天然のマガキ(Crassostereagigas)の殻を、ジュール熱により約1100℃で焼成し、得られた焼成物を微粒子(350メッシュパス:90wt%以上)に粉砕した。このようにして得られた粉体・・・」(4頁左下欄5行?9行)
(g)「実施例4・・・実施例1で得た粉末状の焼成物(以下、焼成物Aという)を・・・」(5頁左欄)
(h)「実施例9切断したキャベツを水洗後、焼成物A0.5wt%を含む水溶液中に室温で2時間浸漬した後、その一般細菌数を測定したところ、その細菌数は9.8×102個/gであった。一方、比較のために、切断したキャベツを水洗後焼成物Aを含まない水中に室温で2時間浸漬した後、その一般細菌数を測定したところ、その細菌数は9.8×105個/gであった。」(5頁右下欄6行?12行)
同じく特開2000-189048号公報(以下、「引用例2」という。)には、「野菜を食酢の水溶液で57℃以下で処理することを特徴とする野菜の殺菌方法。」(請求項1)、「本発明者は上記問題を解決するために、野菜の加熱処理条件について鋭意検討した結果、食酢水溶液を使用してある特定の温度で処理することにより、驚くべきことに、大腸菌群を初め、他の生菌数も驚くほど減少することを見出し本発明に到達した。」(2頁2欄8行?13行)、「本発明においては食酢の水溶液または食酢と食塩の混合水溶液で処理する温度は57℃以下である。57℃を越えると、後述の参考例1から分かるように、野菜の煮えの現象である透き通りと褐変が起こりやすくなる。処理温度の下限は殺菌効果を勘案して定めればよいが、好ましくは50℃、更に好ましくは55℃である。」(2頁2欄17行?23行)、及び「処理時間は短ければ短いほど生産性が向上するが、短かすぎると殺菌効果が減少する。好ましくは0.5?3分である。」(2頁2欄44行?46行)と記載されている。
同じく特開平10-136955号公報(以下、「引用例3」という。)には、「0.1?5%(w/v)の食塩を含有する、酢酸濃度0.5?10%(w/v)の食酢からなる腸管出血性大腸菌の殺菌用組成物。」(請求項1)、「調理用食品素材及び/又は調理用器具を請求項1記載の殺菌用組成物と30?45℃の温度で接触させることを特徴とする腸管出血性大腸菌の殺菌方法。」(請求項3)、「本発明の殺菌方法が適用される調理用食品素材とは魚介類や野菜、・・・・・例えばダイコン、ニンジン、キャベツ、レタス、トマト、ミニトマト、キュウリなどの野菜類、・・・・・などがある。」(2頁2欄21行?29行)、及び「これら殺菌処理の対象物と殺菌用組成物との接触は・・・、その際の温度は室温でも目的を達成することができるが、30?45℃で実施すると一層効果的である。」(2頁2欄13行?16行)と記載されている。
同じく特開昭51-139645号公報(以下、「引用例4」という。)には、「脂肪酸の炭素数が8?12のグリセリンモノ脂肪酸エステルの1種もしくは2種以上の混合物、あるいはこれらと金属イオン封鎖剤を併用した組成物を以って、食品或いは食品原料を処理する工程と45℃?70℃の低温加熱を施こす工程とを同時または各別に行うことを特徴とする食品の保存方法。」(特許請求の範囲)、「本発明者らは、グリセリン脂肪酸エステル類の有効利用につき鋭意研究の結果、これらで食品を処理するに際して食品の外観・風味あるいは食味を害なわない程度の加熱を行うことにより、殺菌を促進し、細菌の増殖を著しく抑制することを見出した。」(2頁左上欄2行?7行)、「本発明によれば・・・・・キユーリ、キャベツの如き熱に弱い野菜・果実類に対してもそれらの外観・食味・風味を害うことなく殺菌を効果的に行なわせしめる。」(2頁右上欄15行?19行)、及び「かかる如く加熱温度には特にこだわらないが、食品原料等の衛生処理に対しては45℃?60℃で充分である。」(2頁右上欄末行?左下欄2行)と記載されている。
同じく特開昭55-54855号公報(以下、「引用例5」という。)には、「40℃以上に加温した水に酸素ガス、もしくは酸素含有ガスを吹込むとともに食品を浸漬することを特徴とする食品の殺菌方法。」(特許請求の範囲第1項)、「本発明は食品、特に白菜、キャベツ、ほうれん草等の葉菜類の殺菌に適した殺菌方法である。」、「本発明に用いる水は加熱せられるが、酸素ガス、もしくは酸素含有ガスを吹込む場合は40℃以上の低温で充分な殺菌効果が得られる。処理温度は熱変性しやすい食品の場合には70℃以下とする。」(2頁左上欄10行?13行)、及び「処理時間は2?3分から20分程度の短時間でよい。」(2頁右上欄6行?7行)と記載されている。

3.対比・判断
本願発明と引用例1の実施例9に記載された発明を対比すると、後者の「焼成物A」及び「切断したキャベツ」は、前者の「カルシウム化合物」及び「生鮮野菜」に相当することから、両者は、「水を溶媒とし、かつカルシウム化合物を特定濃度で含むカルシウム水溶液で、生鮮野菜を所定時間接触処理することを特徴とする生鮮野菜の除菌方法」の点で一致し、ただ、(i)前者では、カルシウム化合物の濃度が「0.001?0.02質量%」である40?59℃のカルシウム水溶液を使用するのに対して、後者では、カルシウム化合物の濃度が「0.5wt%」である室温のカルシウム水溶液を使用する点、及び(ii)前者は、生鮮野菜を10秒?30分間接触処理するのに対して、後者では、生鮮野菜を2時間接触処理する点で、両者は相違する。
上記相違点について検討する。

相違点(i)について
食酢、低・中級脂肪酸のグリセリン脂肪酸エステル、酸素ガス等の殺菌成分をそれぞれ含む水溶液に生鮮野菜を浸漬して生鮮野菜を殺菌する際に、上記殺菌成分を含む水溶液を生鮮野菜の風味や色合い等の品質を損なわない範囲で加温すれば一層効果的に殺菌を行えることが引用例2ないし5に記載され、その際の加温温度として、引用例2には「57℃以下」、引用例3には「30?45℃」、引用例4には「45?70℃」、引用例5には「40?70℃」の温度が記載されており、特に引用例2には、57℃を越えると、野菜の煮えの現象である透き通りと褐変が起こりやすくなることが記載されている。
引用例1に記載の発明と引用例2ないし5に記載の発明とは、水溶液中に含ませる殺菌成分こそ相違するものの、生鮮野菜を殺菌成分を含む水溶液に浸漬することにより生鮮野菜を殺菌する技術である点で共通することからみて、引用例1に記載の殺菌成分としてカルシウム化合物を含む水溶液を用いて生鮮野菜を殺菌する方法においても、該水溶液を引用例2ないし5に記載のとおり加温すれば殺菌効率がより一層向上することは、当業者ならば容易に予想できることであり、かつ、57℃を越えると、野菜の煮えの現象である透き通りと褐変が起こりやすくなることが引用例2に記載されていることから、カルシウム水溶液の温度を「40?59℃」に限定することは当業者において格別困難なことではない。
この点について、請求人は、平成19年4月2日付け回答書において、「本願明細書の表1には、カルシウム濃度0.02質量%の水溶液を用いて20℃、35℃、50℃、53℃、55℃、58℃、60℃で野菜を処理した後の除菌効果を示すデータが掲載されているが、60℃の結果は50?58℃の結果よりも著しく劣っている」ものであり、「本願発明は従来技術からは予想もつかない驚くべき効果を発見したことにより提供されたものである」ことを主張している。
例えば、引用例5の第1表にも示されるように、殺菌成分を用いなくとも、常温より50℃、60℃、70℃と除菌率が高くなることが技術常識であって、本願明細書に示される60℃で50?58℃の結果よりも著しく劣るという結果は、にわかには信じがたいもので、これは当業者にとって全く予測できない結果であるといえる。しかし、このことは60℃の結果が予想もつかないということだけであり、20℃、35℃、50℃、53℃、55℃、58℃の結果も予想もつかないことを意味するものではなく、引用例2ないし5の記載と技術常識から予測ができるものなのである。そうであるから、「40?59℃」の範囲での殺菌効率の向上は、当業者が予測できる範囲のものとするほかなく、驚くべき効果とはいえないことから、請求人の上記主張は採用できない。

また、カルシウム化合物の濃度限定についても、引用例1の表2には、5種類の微生物を用いて培養実験を行ったときの焼成物A(カルシウム化合物)の最小発育阻止濃度(MIC)が10℃では0.25(wt%)或いは0.15(wt%)であるのに対し、37℃では0.1(wt%)であることが示されており、
この実験結果は、カルシウム水溶液の温度を上げればカルシウム化合物の濃度を低くしても微生物を殺菌できることを示唆するものであるから、生鮮野菜を「40?59℃」の条件下でカルシウム水溶液と接触させる際に、カルシウム化合物の濃度を引用例1に記載の濃度よりも低い「0.02質量%以下」にすることは、当業者が容易になし得ることであり、また、本願の明細書の記載をみても、0.02質量%より濃度を高くしたものと比較して、0.02質量%以下としたことで、かえって殺菌効率が向上するなどの当業者が予測できない効果が奏されているものでもない。
この点について、請求人は、平成18年7月18日付け意見書において、「特に、引用例1の実施例3では最小発育阻止濃度(MIC)を測定しているが、表2に記載されるデータによると、37℃で48時間もの間処理しているにもかかわらず、0.1重量%未満では発育阻止ができないことが明記されている。このようなデータを見た当業者は、温度を40℃以上に上げたとしても顕著な殺菌効果は得られないであろうと予測するのが普通である。」(2頁)と主張している。
しかし、上記したとおり、引用例1の表2には、微生物と焼成物A(カルシウム化合物)とが接触するときの温度を高くすれば、最小発育阻止濃度(MIC)の数値が小さくなることが示されていることから、37℃よりも高温領域である「40?59℃」という条件で生鮮野菜をカルシウム水溶液で処理する場合には、カルシウム水溶液のカルシウム化合物濃度を「0.1(wt%)」よりも低くしても十分な殺菌効果が得られることは当業者において容易に予想できることである。
したがって、この点についての請求人の上記主張も採用しない。

相違点(ii)について
一般に、食品を殺菌処理するときに殺菌効率が向上すればその向上の割合に応じて処理時間を短縮できることは当業者の技術常識であるところ、上記したとおり、殺菌成分を含む水溶液と接触させて生鮮野菜を殺菌する際に、該水溶液を加温すれば殺菌効率がより一層向上することが引用例2ないし5に記載されていることから、生鮮野菜を加温したカルシウム水溶液と接触させて殺菌するとき、その接触時間を引用例1に記載の「2時間」よりも短くすることは当業者ならば当然に考えることであり、しかも、引用例2には、高い温度で長時間接触させると野菜の煮えの現象である透き通りと褐変が起こりやすくなること、及び約57℃未満の処理温度で約5分程度の処理時間で野菜の上記性状変化を防止できること(引用例2の段落【0007】ないし【0008】参照。)が記載されているのであるから、カルシウム水溶液と接触させる時間を「10秒?30分」にすることは当業者が容易に設定し得ることである。

そして、本願発明の奏する「生鮮野菜の表面に存在する細菌類を簡易に、安全かつ充分に除菌することができる。・・・生鮮野菜及びカット野菜の鮮度を保持し、野菜の本来の味、食感、外観(色、形状)の劣化を長期間防ぐこともできる。・・・除菌処理した生鮮野菜が他の処理方法で得られたものよりも良好な食感を持続できる。」(段落0062)という効果は、引用例1ないし5に記載された事項から予測できる範囲内のものであり、格別の効果とはいえない。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例1ないし5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本出願に係る他の請求項について検討するまでもなく、本出願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-04-27 
結審通知日 2007-05-08 
審決日 2007-05-21 
出願番号 特願2003-187136(P2003-187136)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A23B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 福井 悟  
特許庁審判長 平田 和男
特許庁審判官 阪野 誠司
河野 直樹
発明の名称 生鮮野菜用除菌剤及びその除菌方法  
代理人 特許業務法人特許事務所サイクス  
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