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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A01N
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A01N
管理番号 1160166
審判番号 不服2004-20470  
総通号数 92 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-08-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-10-04 
確定日 2007-07-05 
事件の表示 平成7年特許願第41096号「害虫の刺咬行動抑制剤および害虫の刺咬行動を抑制する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成8年9月10日出願公開、特開平8-231321〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成7年2月28日の出願であって、平成15年8月15日付けで拒絶理由通知がされ、同年10月20日付けで意見書とともに手続補正書が提出され、平成16年9月3日付けで拒絶査定がされ、同年10月4日付けで拒絶査定に対する審判請求がされるとともに、同年11月4日付けで手続補正書が提出されたものである。

第2.平成16年11月4日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成16年11月4日付けの手続補正を却下する。
[理由]
本件補正により、特許請求の範囲の請求項2は、補正前に、
「有効成分として、グルーミング行動をとるのみで刺咬行動を抑制する濃度のピレスロイド系化合物を空気中に存在させることを特徴とする害虫の刺咬行動抑制剤。」であったものが、次のように補正された。

「有効成分として、(+)-2-メチル-4-オキソ-3-(2-プロピニル)-2-シクロペンテニル (+)-シス/トランス-クリサンテマート、d-トランス-2,3,5,6-テトラフルオロベンジル-3-(2,2-ジクロロビニル)-2,2-ジメチル-1-シクロプロパンカルボキシラートおよびこれらの異性体、類縁化合物もしくは誘導体から選ばれる1種または2種以上を、グルーミング行動をとるのみで刺咬行動を抑制する濃度で空気中に存在させることを特徴とする害虫の刺咬行動抑制剤。」(以下、補正後の請求項2の発明を、「本願補正発明2」という。)

上記補正により、請求項2は、補正前に「ピレスロイド系化合物」であったのが、「(+)-2-メチル-4-オキソ-3-(2-プロピニル)-2-シクロペンテニル (+)-シス/トランス-クリサンテマート(以下、「プラレトリン」という。)、d-トランス-2,3,5,6-テトラフルオロベンジル-3-(2,2-ジクロロビニル)-2,2-ジメチル-1-シクロプロパンカルボキシラート(以下、「ベンフルスリン」という。)およびこれらの異性体、類縁化合物もしくは誘導体から選ばれる1種または2種以上」(以下、「(+)-2-メチル-4・・・1種または2種以上」を「特定ピレスロイド」という。)になったが、この補正は、ピレスロイド系化合物をプラレトリン等の具体的な化合物によりさらに限定したものであるから、特許法第17条の2第3項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本願補正発明2が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

1.本願補正発明2について
(1)刊行物及びその記載事項
刊行物1.松永忠功,“ピレスロイドの害虫忌避性”,環境管理技術,環境 管理技術研究会,平成2年8月25日,第8巻第4号8月号通巻 44号,P14-20
(原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1)
刊行物2.特開平6-315337号公報
(原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3)
刊行物3.実願平5-75890号(実開平6-75179号)のCD-R OM
(原査定の拒絶の理由に引用された引用文献4)
刊行物4.日本殺虫剤工業会,家庭用殺虫剤とピレスロイド, ’91.7 版,P20
(周知技術を開示した文献)

(ア)刊行物1について
まず、刊行物1の全体の記載に関し、「記載事項1-全」として認定し、次にそれぞれ具体的箇所の記載を「記載事項1-1」?「記載事項1-8」として摘記する。

記載事項1-全:刊行物1の全体
論文の題名は「ピレスロイドの害虫忌避性」であり、項目として、「はじめに」、「忌避性とは何か」、「ピレスロイド忌避性の実例」、「蚊の行動におよぼす影響」、「結論」と分かれているので、それぞれでどのような事項を述べているのかをみる。
「はじめに」には、この論文の目的について、ピレスロイド剤について、殺虫効果と合わせて忌避性が報告されており、これは殺虫効果とは別か、あるいは、殺虫効果発現の前兆として示されており、この作用の実態について整理する旨の記載がされている。
「忌避性とは何か」では、「忌避」の定義をいろいろ紹介した後、著名な忌避剤deetとピレスロイドを対比させ、「Deetの作用が嗅覚子に作用すると局部的に特定されているのに対して、ピレスロイドの作用は、広範囲の神経系で起る。」と述べている。
これ以降、種々のピレスロイドの忌避性についての実例が挙げられ、具体的には、「ピレスロイド忌避性の実例」の項で、ペーパースリン、ペルメトリンに関する報告があげられ、「蚊の行動に及ぼす影響」の項では、ピレトリン、ペルメトリン、フェノトリン、アレスリンに関する報告が挙げられている。
そして、「結論」の項で、「これらの化学感覚子に付着したピレスロイドが、中毒症状の発現に先行して、irritancy/repellency〔審決注:接触刺激性/忌避性〕を惹起せしめるのではないだろうか」、「ピレスロイドの忌避性を応用するときに注意すべき点は、・・・効果がシャープではない場合や、忌避性発現薬量がlethal dose〔審決注:致死量〕と重なっている場合もあり得る。どんな場合でも忌避性が発現されるとは限らない。このため昆虫の行動をよく観察することが必要と思われる」としている。

記載事項1-1:14頁左欄1?9行
「はじめに ピレスロイド剤は、その殺虫効果と合わせて、衛生害虫・農業害虫・ミツバチ・白アリと多岐にわたって忌避性を有することが報告されている。これら夥しい事実は、本来の殺虫効果とは別か、あるいは殺虫効果発現の前兆として、昆虫に対して何らかの行動の変化をおよぼす作用のあることを示している。この作用の実態について、・・・整理することを試みた。」

記載事項1-2:15頁左欄26行?15頁右欄末3行
「ピレスロイド忌避性の実例 イガ・カツオブシムシに対する・・・忌避性の活用として、すでにペーパースリン・・・において実用されている・・・。・・・ショウジョウバエに・・・ペリメトリン・・・の低薬量を局所施用すると・・・摂食量が著しく減少した。これは餌を食べる回数の減少からで、・・・preening behavior(手足や口器をこする行為)に気をとられてしまって、餌のある場所に移動しなくなってしまった為である。preening behaviorの虫にとっての意義は、感覚器の清掃である。・・・ミツバチでの例を示す。・・・ペルメトリン・・・薬剤の残留している植物にとまることを阻害する」。

記載事項1-3:16頁左欄30行?16頁左欄41行
「蚊の行動におよぼす影響 ・・・Chdwick(1975)は、蚊取線香の効果として、ノックダウン・致死の作用と合わせて、忌避性を強調し、・・・室内への侵入が回避される、室内にいる蚊が外に追い出される、室内にいるが吸血行動が阻止されて吸血には至らない吸血阻止の効果、などが観察され、これらは忌避性に起因するものである、としている。」

記載事項1-4:17頁 表-3



記載事項1-5:17頁 表-4




記載事項1-6:18頁左欄1行?左欄10行




記載事項1-7:18頁 表-5




記載事項1-8:18頁左欄18行?19頁左欄末6行
「結論 ・・・化学感覚子に付着したピレスロイドが、中毒症状の発現に先行して、irritancy/repellencyを惹起せしめるのではないだろうか。・・・ピレスロイドの忌避性を応用するときに注意すべき点は、虫体に本来備わった感覚認知のチャンネルにのったものではないだろうから、効果がシャープではない場合や、忌避性発現薬量がlethal doseと重なっている場合もあり得る。」

(イ)刊行物2について
記載事項2-1:請求項1
「容器内にはピレスロイド系害虫防除剤を・・・溶解させた薬液が収容され、上記容器は・・・加熱されるように装着されることを特徴とする加熱蒸散型装置用容器」

記載事項2-2:詳細な説明 段落【0008】?【0009】
「従来より害虫駆除に用いられる各種薬剤を・・・使用できる。該薬剤には各種のピレスロイド系殺虫剤・・・が包含される。それらの具体例としては以下のものを例示できる。・・・アレスリン、・・・プラレトリン・・・ペルメトリン・・・フェノトリン」

(ウ)刊行物3について
記載事項3-1:請求項1
「・・・揮散性薬剤の拡散装置」

記載事項3-2:詳細な説明 段落【0013】?【0014】
「揮散性薬剤としては、・・・害虫駆除剤(殺虫剤・殺ダニ剤)・・・を使用できる。代表的な薬剤としては次のものが挙げられる。
(I)殺虫剤・殺ダニ剤 (1)ピレスロイド系薬剤 アレスリン、・・・ペルメトリン、フェノトリン・・・、ベンフルスリン・・・及びこれらの誘導体、異性体、類縁体」

(エ)刊行物4について
記載事項4-1:第2表




(2)刊行物に記載された発明
ここで、刊行物1の記載を総合すると、ピレスロイドは殺虫効果と合わせて忌避性を有することが報告されており、これら忌避性は殺虫効果発現の前兆として何らかの行動の変化をおよぼす作用とも考えられること(記載事項1-1)、殺虫効果と合わせて忌避性を有するピレスロイド(記載事項1-2、1-4?1-8)とは、特殊なものではなく従来から殺虫剤として周知のものであること(記載事項2-2、3-2、4-1)、具体的に蚊の行動における忌避性とは、室内への侵入回避、室外への追い出しと並んで吸血阻止があること(記載事項1-3)等がわかる((記載事項1-全)も参照)。
そこで、より具体的に刊行物1に記載された発明と本願補正発明2とを対比する。

刊行物1では、「ピレスロイド忌避性の実例」の一例として「蚊の行動におよぼす影響」が検討され(記載事項1-3)、室内侵入回避、室外追い出しと並んで吸血行動の阻止が挙げられ、「(3)吸血阻止(表5参照)」の項には、ネッタイシマカを、ノックダウンを生ぜしめないごく希薄な蚊取線香の煙に接触させると吸血率は著しく減少したことが記載されている(記載事項1-6)。そして、上記記載中の蚊取線香は、上記した項名、及び、表-5の「施用法(ピレスロイド名)」の欄の、「蚊取線香(Allethrin)」との記載(記載事項1-7)から、アレスリン入りの蚊取線香と解される。
したがって、刊行物1には、
「ネッタイシマカを、ノックダウンを生ぜしめないごく希薄なアレスリン配合の蚊取線香の煙に接触させると、吸血が阻止され吸血率は著しく減少した」
という発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されている。

(3)対比
ここで、本願補正発明2と刊行物1発明とを対比すると、刊行物1発明の「アレスリン」も、本願補正発明2の「特定ピレスロイド」もピレスロイド系化合物であり、刊行物1発明の「ネッタイシマカ」は本願補正発明2の「害虫」に相当し、刊行物1発明の「吸血阻止」は本願補正発明2の「刺咬行動抑制」に相当するから、両発明は
「有効成分として、ピレスロイド系化合物を、所定の濃度で空気中に存在させることを特徴とする害虫の刺咬行動抑制剤。」
で一致し、次の点で相違する。
・ピレスロイド系化合物が、本願補正発明2では「特定ピレスロイド」であるのに対し、刊行物1発明では「アレスリン」である点(相違点1)
・所定の濃度について、本願補正発明2では「グルーミング行動をとるのみで刺咬行動を抑制する濃度で」と特定されているのに対し、刊行物1発明では「ノックダウンを生ぜしめないごく希薄な蚊取線香の煙に接触させる」点(相違点2)

(4)判断
上記相違点について検討する。
(ア)相違点1について
本願補正発明2における「特定ピレスロイド」の選定理由は、本願補正明細書の詳細な説明の段落【0056】の「本発明で用いられたピレスロイド系化合物においては、低濃度において十分な刺咬行動の抑制効果が得られた」、及び、段落【0055】の【表5】の「有効成分」である各種ピレスロイド系化合物の「単位容積当りの有効成分揮散量」の数値からみて、「単位容積当たりの有効成分揮散量」が少なくても「刺咬行動の抑制効果」があるというものである。
ところで、刊行物1には、蚊の行動における忌避性として、吸血阻止も挙げられ(記載事項1-3)、殺虫性を有するピレスロイドにはこのような忌避の作用効果を有する可能性の高いことが記載され(記載事項1-1)、蚊の吸血阻止をするピレスロイド系化合物として、アレスリンのほかに、ペルメトリンも記載されている(記載事項1-6)(記載事項1-7)から、刊行物1に接した当業者なら、具体的に記載されたアレスリンやペルメトリンだけでなく他の殺虫性を有するピレスロイド系化合物にも同様の吸血阻止性があることは容易に想起しえ、各種殺虫性ピレスロイドの吸血阻止性を検討してみることは普通に行うところである。
そうしてみると、刊行物1発明におけるアレスリンと同様に、殺虫剤として公知のプラレトリン(記載事項2-2)、ベンフルスリン(記載事項3-2)等、すなわち特定ピレスロイドについて、その吸血阻止性を検討し、アレスリンに代えて、これらを選定することは当業者が容易になし得たことといえる。
以上のとおりであるから、相違点1は当業者が容易に着想しえたことである。

(イ)相違点2について
本願補正発明2では、「グルーミング行動をとるのみで刺咬行動を抑制する濃度で」あるのに対し、刊行物1発明は「ノックダウンを生ぜしめないごく希薄な蚊取り線香の煙に接触させ」吸血阻止をするものである。
ところで、刊行物1には、吸血阻止状態の蚊がどのような行動を取っているかは記載されていないから、刊行物1発明の吸血阻止が、グルーミング行動をとっているか不明であるが、グルーミングの有無にかかわらず、「吸血阻止」と「刺咬行動を抑制」とは、蚊に刺されない効果としては何ら相違がないから、「グルーミング行動をとるのみで刺咬行動を抑制する濃度」と「ノックダウンを生ぜしめないごく希薄な蚊取り線香の煙に接触させ吸血阻止する濃度」とに実質的な相違はない。
以上のとおり、相違点2は実質的な相違点でない。

(ウ)効果について
プラレトリン及びベンフルスリンの吸血阻止性の高さは、本願補正明細書の【表5】の「単位容積当りの有効成分揮散量」から計算すると、プラレトリンはアレスリンの約2.6倍であり、ベンフルスリンはアレスリンの約1.5倍であって、刊行物1に記載のアレスリンより確かに高いものの、1.5倍程度の倍率をもって予測せざる効果があるとはいえない。

(5)相違点1、2については以上のとおりであって、また、該相違点により予測せざるような効果が奏されているものとも認められないから、本願補正発明2は、本件出願前日本国内において頒布された刊行物1?3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたもので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
以上のとおりであるから、本願補正発明2は、特許出願の際独立して特許を受けることができないので、その余を検討するまでもなく、本件補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるから、特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3.本願発明について
平成16年11月4日付けの手続補正が上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?6に係る発明は、平成15年10月20日付けの手続補正により補正された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?6に記載されたとおりのものであるところ、請求項1、2に係る発明は下記のとおりである。

「【請求項1】有効成分として、グルーミング行動をとるのみで刺咬行動を抑制する濃度のピレスロイド系化合物を含有したことを特徴とする害虫の刺咬行動抑制剤。
【請求項2】有効成分として、グルーミング行動をとるのみで刺咬行動を抑制する濃度のピレスロイド系化合物を空気中に存在させることを特徴とする害虫の刺咬行動抑制剤。」
(以下、請求項1及び請求項2に係る発明を、それぞれ「本願発明1」、「本願発明2」という。)

1.本願発明2について
(1)刊行物及びその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1?3及び周知事項を示す刊行物4の記載事項は、前記第2.1.(1)(ア)?(エ)に記載したとおりである。

(2)対比・判断
本願発明2は、本願補正発明2を包含するものであるところ、本願補正発明2は、前記第2.1.(5)に記載したとおり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本願発明2も、本願補正発明2についての理由と同じ理由で、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

2.本願発明1について
本願発明1の「グルーミング行動をとるのみで刺咬行動を抑制する濃度」は、害虫の刺咬行動を抑制する濃度を意味すると認められるから、本願発明2における「グルーミング行動をとるのみで刺咬行動を抑制する濃度・・・を空気中に存在させる」と同様の意味と解され、また、本願明細書の実施例等を参照しても、どの例が「グルーミング行動をとるのみで刺咬行動を抑制する濃度」の例であって、どの例が「グルーミング行動をとるのみで刺咬行動を抑制する濃度・・・を空気中に存在させる」の例であるのか区別ができないから、これらの記載に技術的差異は無いものと認める。
したがって、本願発明2についての理由と同様の理由により、本願発明1は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

3.請求人の主張
平成16年11月4日付けの手続補正書(方式)で、請求人は、I:「プラレトリンまたはベンフルスリン・・・選択の根拠について例を挙げて説明する」とし、プラレトリンとビナミンフォルテの殺虫効果と刺咬行動抑制効果とを比べて、「プラレトリンは殺虫剤としての使用にくらべて刺咬行動抑制剤として用いるときの方が相対的に極めて低い濃度で効果を発揮しており、この結果は従来の殺虫効果からは予測し得ない・・・意外な効果である」、II:「引用文献1には・・・「蚊取線香(Allethrin)」とはあるものの、蚊取線香とアレスリンのいずれが吸血阻止効果を及ぼすのか明確ではなく、・・・蚊取線香において有効成分を抜いた線香の煙でも蚊に対して忌避性があることは既に認められている。・・・引用文献1における吸血阻止効果においても蚊取線香の煙が関与していると考えるのが妥当であり、・・・引用文献1の記載からみて蚊取線香と区別してアレスリンが・・・刺咬行動を抑制する濃度で使用されていると見ることはできない」、III:「アレスリンは、・・・プラレトリンまたはベンフルスリン に比べて、刺咬行動の抑制効果が劣ることは・・・表5の結果からも明らかで・・・プラレトリンまたはベンフルスリンの方が、安全性の観点から使用量が少なくてすみ実用上より有利に使用できる。」との主張をしている。
上記主張中の「引用文献1」とは、「刊行物1」である。
まず、Iの主張について検討するが、本願発明1及び2は、第3.1.及び第3.2.の項で述べた理由で、刊行物1?4に記載される発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。そうすると、出願人が主張するように、プラレトリンの殺虫効果に対する刺咬行動の抑制効果が、ビナミンフォルテの殺虫効果に対する刺咬行動の抑制効果に比べて高いとしても、それによって、刊行物1?4に記載される発明に基づいて当業者が容易に発明することが妨げられるものではないから、出願人の主張は妥当なものではない。
次に、IIの点について検討すると、第2.1.(2)の項で述べたところであるが、刊行物1では各種のピレスロイドの害虫忌避性の実態を整理することが目的とされていて(記載事項1-全)、「蚊の行動におよぼす影響」の項目中の「(3)吸血阻止(表5参照)」中、及び、表-5中で、○囲みのされている「7」の「蚊取線香(Allethrin)」を用いた報告例は、蚊取線香中に配合したアレスリンについての吸血阻止性について記載しているものと解するのが自然であるから、出願人の主張は妥当なものではない。
さらに、IIIの点の安全性は使用量のみで決まるものでなく、プラレトリン、ベンフルスリンおよびアレスリンの単位重量当たりの毒性にも関係するものであるから、単に使用量が少ないから安全性が高いという出願人の主張は妥当なものではない。

4.むすび
以上のとおりであるから、本願発明1、2は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、他の請求項に係る発明については言及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-05-07 
結審通知日 2007-05-08 
審決日 2007-05-21 
出願番号 特願平7-41096
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A01N)
P 1 8・ 575- Z (A01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 穴吹 智子  
特許庁審判長 西川 和子
特許庁審判官 鈴木 紀子
井上 彌一
発明の名称 害虫の刺咬行動抑制剤および害虫の刺咬行動を抑制する方法  
代理人 稲岡 耕作  
代理人 川崎 実夫  

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