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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16C
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16C
管理番号 1160187
審判番号 不服2005-4254  
総通号数 92 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-08-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-03-10 
確定日 2007-07-05 
事件の表示 平成11年特許願第228797号「総ころ軸受」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 1月23日出願公開、特開2001- 20948〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯の概要
本願は、平成11年7月8日の出願であって、平成17年2月4日(起案日)付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成17年3月10日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、平成17年3月10日(受付日)付けで手続補正がなされたものである。

2.平成17年3月10日付けの手続補正についての補正却下の決定

[理由]
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「【請求項1】複数のころと、この複数のころが円筒本体部の内周側に配設されかつ円筒本体部の両端部に半径方向内方に鍔部が形成された外輪とを備え、この両鍔部の内径部に、円筒本体部に対してほぼ同心状とされかつ端面がころの端面に対向するように軸方向に延びる小径円筒部が形成された総ころ軸受において、両鍔部に形成された小径円筒部の内周面ところの周面位置までの空間と、上記小径円筒部の外周面、上記鍔部の内側面および上記円筒本体部の内周面で囲まれる空間と、ころ間の空間とを含む軸受内部に固形潤滑剤が充填されているとともに、上記固形潤滑剤は、軸受内部の潤滑機能に加えて、上記小径円筒部の先端ところとの潤滑と、軸受内部への異物侵入に対するシール機能を有し、上記小径円筒部の内周面ところの周面位置までの空間の径方向での幅と、上記小径円筒部の外周面、上記鍔部の内側面および上記円筒本体部の内周面で囲まれる空間の径方向での幅とがほぼ同一に設定され、上記固形潤滑剤は、樹脂と潤滑油との混合物から構成され、その樹脂の含有割合は20?40重量%であり、かつ、上記固形潤滑剤の径方向での充填幅は上記ころの直径とほぼ同じに設定している、ことを特徴とする総ころ軸受。」
と補正された。(なお、下線部は、請求人が付与した本件補正による補正箇所を示す。)

上記補正は、出願当初の明細書の記載に基づいて、小径円筒部の配置構成について限定するとともに、固形潤滑剤の成分割合と径方向での充填幅について限定したものであって、平成15年改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定された特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成15年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する特許法第126条第4項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(2)引用刊行物の記載事項
<刊行物1>
原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開平9-49526号公報(以下、「刊行物1」という。)には、本願の従来技術として図2に記載された総ころ軸受装置に関して、下記の事項ア?エが図面とともに記載されている。
ア;「【発明が解決しようとする課題】ところで、上記従来例の総ころ軸受は、下記するような問題が発生する。
すなわち、いずれの構造のものも、シェル状外輪52の全体に表面硬化処理を施しているものの、鍔部53,54の折曲形状が、径方向内向きに真っすぐ、あるいはほぼ真っすぐになっているため、軸方向からの力に対する曲げ強度が低い形状であると言える。
また、鍔部53,54の内側面の表面に硬化層55が形成されているものの、この鍔部53,54の内側面に対して、針状ころ51が自転および公転しながら摺接するため、表面の硬化層55が徐々に摩耗するか、図7および図8に示すように、硬化層55が摩耗して無くなると、その内部の軟質部分の摩耗が急激に進展するなど、耐久性が不足すると考えられるし、さらに、それが原因で鍔部53,54の強度が著しく低下して折れ曲がったり、ちぎれたりしやすくなる。特に、図5の構造では、鍔部53,54の摩耗溝に対して、ころの先細り部が入り込んで公転不可能となる。
このような現象は、特に上述したような使用場所においては、針状ころ51に対してスキューを発生させようとする力が激しく働くため、より顕著に発生する。したがって、総ころ軸受としての寿命が短いと言える。
したがって、本発明は、シェル状外輪を有する総ころ軸受において、シェル状外輪の鍔部の強度および摩耗による耐久性を向上し、長寿命化を図ることを目的としている。」(第2頁2欄2行?28行;段落【0010】?【0014】参照)

イ;「【課題を解決するための手段】本発明は、複数のころと、これらのころが内周側に配設されかつ軸方向両端に前記ころの軸方向移動規制用の鍔部が設けられるシェル状外輪とを備えた総ころ軸受において、前記両鍔部には、シェル状外輪の円筒本体部に対してほぼ同心状となるように折曲されてなる小径円筒部が設けられており、この小径円筒部の端面がころの端面に対向配置されている。」(第2頁2欄30行?37行;段落【0015】参照)

ウ;「【発明の実施の形態】以下、本発明の詳細を図1および図2に示す一実施例に基づいて説明する。図1および図2は本発明の一実施例にかかり、図1はシェル形の総ころ軸受の上半分を示す縦断面図、図2は図1の鍔部周辺の拡大図である。図中、1は鋼板製のシェル状外輪、2は複数の針状ころである。
シェル状外輪1は、円筒本体部3と、円筒本体部3の軸方向両端に設けられる径方向内向きの鍔部4,5とからなる。両鍔部4,5には、円筒本体部3に対してほぼ同心状となるように折曲されてなる小径円筒部4a,5aが設けられている。この小径円筒部4a,5aの端面は、針状ころ2の端面に対向配置されている。これら両方の小径円筒部4a,5aの外周面と、円筒本体部3の内周面との間には、所要の環状隙間が設けられており、この環状隙間が潤滑剤Gを貯溜する空間となる。そして、シェル状外輪2の全体つまり円筒本体部3、鍔部4,5および小径円筒部4a,5aには、浸炭処理などの表面硬化処理が施されており、各部の外表面全体に表面硬化層6が形成されている。特に、小径円筒部4a,5aでは、その端面、外周面および内周面の全表面に硬化層6が形成されている。針状ころ2は、その軸方向両端面がほぼ平坦に形成されており、それぞれシェル状外輪1の内周において両鍔部4a,5aの間の領域に例えば接着性グリースなどを利用して保持されている。」(第2頁2欄42行?第3頁3欄16行;段落【0017】及び【0018】参照)

エ;「ところで、上記総ころ軸受を例えば図3および図4に示す二輪車のサスペンション機構7の各リンク部8?11など、×印の位置に装着した場合、針状ころ2に対してスキューを発生させようとする力が激しく働くが、シェル状外輪1の鍔部4a,5aを断面ほぼ横向きU字形にして、針状ころ2から受ける軸方向の力に対する曲げ強度を高くしているから、変形せずに済む。
前述したようなスキューを発生させようとする力が働く限りは、針状ころ2が小径円筒部4a,5aの端面に対して摺接することになり、該端面の表面に形成している硬化層6が徐々に摩耗することは避けられない。しかしながら、円筒本体部3と小径円筒部4a,5aとの間の環状隙間に貯溜されている潤滑剤Gが、前記摺接部分に安定的に供給されるようになるから、ここの摩耗が抑制される。
また、図2に示すように、鍔部4,5の小径円筒部4a,5aの端面を針状ころ2の端面に対向させているから、針状ころ2との摺接により、小径円筒部4a,5aが徐々に摩耗するとしても、摩耗が小径円筒部4a,5aが徐々に摩耗するとしても、摩耗が小径円筒部4a,5aの厚み方向に進展するのではなく、長さ方向(軸方向)に進展するので、摩耗が進展しても、鍔部4a,5aとしての強度が従来のもののように著しく低下することがない。
しかも、小径円筒部4a,5aの端面、外周面および内周面の全表面に硬化層6が形成されているので、小径円筒部4a,5aの端面の硬化層6が摩耗して無くなっても、小径円筒部4a,5aの外周面の硬化層6および内周面の硬化層6が常に新たに露出するため、摩耗が急激に進展せずに済む。
このように、シェル状外輪2の鍔部4,5の強度および摩耗による耐久性が向上するから、総ころ軸受としては、長寿命化を達成できるようになる。 なお、総ころ軸受の使用状況に応じて、円筒本体部3と小径円筒部4a,5aとの間の隙間を、適宜設定することにより、潤滑剤の貯溜量を管理することができる。」(第3頁3欄37行?4欄22行;段落【0025】?【0030】参照)

<刊行物2>
原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開平7-238940号公報(以下、「刊行物2」という。)には、本願の従来技術として図3及び図4に記載された総ころ軸受に関して、下記の事項オ?ケが図面とともに記載されている。
オ;「【発明が解決しようとする課題】上記の保持器付き形式のものは、保持器2によりころ3を案内するため、限界回転数が高く、またころ3のスキューを防止できる利点があるが、ころ本数、ころ長さについて保持器の加工技術及び強度面からの制約を受ける。保持器2の加工上の事情が許せば、ころ本数、ころ長さを可能な限り多くして軸受の負荷能力を上げることができるか、加工に伴う価格上昇等の問題がある。
また、前記の総ころ形式のものは、いずれもころ3の相互間の摩擦力が大きく、またスキューを生じやすいことから、用途上の制約がある。更に、ころ3をグリースの付着力により保持する形式のものは、その取扱い時にころ3が脱落しやすい問題がある。
そこで、この発明は総ころ形式の弱点であるところのころ相互間の摩擦やスキュー等の問題点を解消し、且つ一般の保持器付き形式よりもころ本数、ころ長さの自由度を大きくして、軸受負荷能力を増大させることを課題とする。」(第2頁1欄25行?42行;段落【0005】?【0007】参照)

カ;「【課題を解決するための手段】上記の課題を解決するために、この発明は外側の内周面の軌道面に多数のころを配列してなるころ軸受において、上記の各ころを相互に一定間隔をおいて配列し、各ころ相互間に固形潤滑剤を充填し、その固形潤滑剤と各ころを一体化した構成としたものである。
【作用】上記構成のころ軸受は、固形潤滑剤が保持器の作用をなし、これにより各ころ相互間の間隔及び各ころの姿勢を一定に保持する。また、各ころは固形潤滑剤の油分により自己潤滑される。」(第2頁1欄44行?2欄4行;段落【0008】及び【0009】参照)

キ;「【実施例】図1及び図2に示した第1実施例は、シェル形針状ころ軸受であり、シェル形外輪1の内周面の軌道面に一定間隔をおいて針状ころ3を配列している。上記の外輪1の両端には内向きに屈曲されたつば5が形成される。
上記の各ころ3の相互間及びころ3の各端面とつば5との間には固形潤滑剤6が充填され、その固形潤滑剤6と各ころ3が一体化され、ころ3相互の間隔及びころ3の姿勢が一定に保持される。上記のころ3は、適当な治具を利用して相互に接触しない範囲の一定の間隔をおいて、できるだけ多く組込むことが望ましい。
上記の固形潤滑剤6は、「プラスチックグリース」「ポリループ」等の商品名で知られているものであり、超高分子量ポリオレフィンとグリースの混合物からなる潤滑組成物である。更に具体的には、平均分子量約1×106?5×106の超高分子量ポリエチレン95?1wt%と、その超高分子量ポリエチレンのゲル化温度より高い滴点を有する潤滑グリース5?99wt%とからなる混合物を治具で一定間隔に保持されたころ3相互間に充填したのち、上記超高分子量ポリエチレンのゲル化温度以上に加熱し、その後冷却固化せしめたものである。(特公昭63-23239号公報参照)。
その他の例として、平均分子量約1×106?5×106の超高分子量ポリオレフィンのゲル化点より高い滴点を有する潤滑グリース5?99wt%に粒径1?100μmの前記超高分子量ポリオレフィン粉末95?1wt%を混合して前記ゲル化点以上の温度で分散保持させたものでもよい。」(第2頁2欄6行?34行;段落【0010】?【0013】参照)

ク;「上記の第1実施例の針状ころ軸受は、ころ3の長さを外輪1の軌道面の幅にほぼ等しく設定しているが、図3に示した第2実施例のものは、ころ3を第1実施例のものより短く形成し、従来の保持器付き形式の場合と場合と同等の長さか、それより若干長く形成することにより固形潤滑剤6の保持器としての強度の増大を図ったものである。その他の構成は、第1実施例の場合と同様である。」(第2頁2欄41行?48行;段落【0016】参照)

ケ;「【発明の効果】以上のように、この発明は一定間隔で配列したころと固形潤滑剤とを一体化することにより、その固形潤滑剤が保持器の役割をするので、総ころ形成の場合に問題となるころ相互間の摩擦やスキューがなく、円周方向のすき間の制約も解消される。更に、ころ本数、ころ長さについて、通常の保持器の如き加工技術上の制約がなく、自由度を大にすることができるため、軸受負荷能力が増大する効果がある。」(第3頁3欄3行?10行;段落【0018】参照)

<刊行物3>
原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である実願平5-15370号(実開平6-73435号)のCD-ROM(以下、「刊行物3」という。)には、印刷機の爪軸用針状ころ軸受に関して、下記の事項コ?シが図面とともに記載されている。
コ;「【考案が解決しようとする課題】
上記の爪軸用軸受に定期的にグリースを給脂する場合、印刷機の構造の複雑さに依る給脂作業の難しさがある。また、規定値以上にグリースが封入されることがあり、その場合は余分なグリースが軸を伝って軸受外部へ流出し、軸受周辺部を汚損するおそれがある。印刷機においては、潤滑剤による軸受周辺の汚損が印刷物汚損の原因となることから、このようなことは特に避けなければならないことである。
また、流出したグリースを除去する作業は手間のかかることである。グリースの流出を防止するために、シールを取付ける手段もあるが、スペース上の問題、コスト上の問題がある。
そこで、この考案は、グリース給脂を無くしてメンテナンスフリーとし、しかもグリース漏れを解消した印刷機用針状ころ軸受を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
上記の課題を解決するために、この考案は、外輪の内径面に保持器によって保持された針状ころを配列してなる針状ころ軸受において、上記外輪の内径面に超高分子量ポリエチレン又は超高分子量ポリオレフィンと潤滑グリースの混合物からなる固形潤滑組成物を充填した構成としたものである。
【作用】
上記構成の固形潤滑剤組成物は、その潤滑性により針状ころの転動の潤滑を図ると共に、固形の組成物であることから、外部へ流出することがなく、また外部から塵埃が侵入するのを防ぐ。」(第3頁13行?第4頁8行;段落【0003】?【0007】参照)

サ;「【実施例】
図1及び図2に示すように、実施例の軸受は、ソリッド形針状ころ軸受であり、両鍔付のソリッド形の外輪1と、その内径面に保持器2により一定間隔に保持された針状ころ3を配列している。
外輪1の内径面には、固形潤滑組成物4が針状ころ3の直径と同じ厚さに充填され、保持器2及び針状ころ3は固形潤滑組成物4内に回転自在な状態で埋もれ、軸との接触面において針状ころ3が部分的に露出する。
上記の固形潤滑組成物4は、プラスチックグリース、ポリループ等の商品名で知られているものであり、平均分子量約1×106?5×106の超高分子量ポリエチレン95?1wt%と、その超高分子量ポリエチレンのゲル化温度より高い滴点を有する潤滑グリース5?99wt%とからなる混合物を外輪1の内径面に充填したのち、上記超高分子量ポリエチレンのゲル化温度以上に加熱し、その後冷却固化せしめたものである(特公昭63-23239号公報)。
その他の例として、平均分子量約1×106?5×106の超高分子量ポリオレフィンのゲル化点より高い滴点を有する潤滑グリース5?99wt%に粒径1?100μmの前記超高分子量ポリオレフィン粉末95?1wt%を混合して前記ゲル化点以上の温度で分散保持させたものでもよい。」(第4頁10行?29行;段落【0008】?【0011】参照)

シ;「【考案の効果】
以上のように、この考案は印刷機の爪軸用針状ころ軸受において、従来の流動性あるグリースに代えて、固形潤滑組成物を用いたことにより、潤滑性能を従来の場合と同程度に維持しつつ、油脂分の流出がないことにより印刷物の汚損がなく、かつメンテナスフリーの効果がある。」(第5頁10行?14行;段落【0014】参照)

(3)対比・判断
刊行物1に記載された上記記載事項ア?エ及び図1,2からみて、刊行物1に記載された発明の総ころ軸受は、複数の針状ころ2と、この複数の針状ころ2が円筒本体部3の内周側に配設されかつ円筒本体部3の両端部に半径方向内方に鍔部4,5が形成されたシェル状外輪1とを備え、この両鍔部4,5の内径部に、円筒本体部3に対してほぼ同心状とされかつ端面が針状ころ2の端面に対向するように軸方向に延びる小径円筒部4a,5aが形成されており、シェル状外輪1の円筒本体部3と小径円筒部4a,5aとの間の環状隙間に潤滑剤Gが貯溜されているものである。
そして、刊行物1に記載された発明の総ころ軸受の「シェル状外輪1」は本願補正発明の「外輪」に機能的に相当し、以下同様に、「針状ころ2」は「ころ」に、「円筒本体部3」は「円筒本体部」に、「鍔部4,5」は「鍔部」に、「小径円筒部4a,5a」は「小径円筒部」に機能的に相当するものと認めることができるものである。

そこで、本願補正発明の用語を使用して本願補正発明と刊行物1に記載された発明とを対比すると、両者は、「複数のころと、この複数のころが円筒本体部の内周側に配設されかつ円筒本体部の両端部に半径方向内方に鍔部が形成された外輪とを備え、この両鍔部の内径部に、円筒本体部に対してほぼ同心状とされかつ端面がころの端面に対向するように軸方向に延びる小径円筒部が形成された総ころ軸受において、円筒本体部の内面と両鍔部の内側面と両鍔部に半径方向内方に形成された小径円筒部の外周面との間には、潤滑剤が充填されている総ころ軸受。」で一致しており、下記の点で相違している。

相違点;本願補正発明では、両鍔部に形成された小径円筒部の内周面ところの周面位置までの空間と、上記小径円筒部の外周面、上記鍔部の内側面および円筒本体部の内周面で囲まれる空間と、ころ間の空間とを含む軸受内部に固形潤滑剤が充填されているとともに、上記固形潤滑剤は、軸受内部の潤滑機能に加えて、上記小径円筒部の先端ところとの潤滑と、軸受内部への異物侵入に対するシール機能を有し、上記小径円筒部の内周面ところの周面位置までの空間の径方向での幅と、上記小径円筒部の外周面、上記鍔部の内側面および上記円筒本体部の内周面で囲まれる空間の径方向での幅とがほぼ同一に設定され、上記固形潤滑剤は、樹脂と潤滑油との混合物から構成され、その樹脂の含有割合は20?40重量%であり、かつ、上記固形潤滑剤の径方向での充填幅は上記ころの直径とほぼ同じに設定しているものであるのに対して、刊行物1に記載された発明では、シェル状外輪1の円筒本体部3と小径円筒部4a,5aとの間の環状隙間に潤滑剤Gが貯溜されているものであって、本願補正発明のように潤滑剤として固形潤滑剤を使用するものではなく、具体的な潤滑剤の充填形態も本願補正発明とは相違している点。

上記相違点ついて検討するに、総ころ軸受に使用する潤滑剤を固形潤滑剤として、その固形潤滑剤と各ころとを一体化した構成とすることは、上記刊行物2にも記載されているように本願出願前当業者に知られた事項にすぎないものである。
また、保持器を使用した針状ころ軸受に関するものではあるが、外輪の内径面に固形潤滑組成物(固形潤滑剤)を針状ころの直径と同じ厚さに充填することにより、保持器(本願補正発明及び刊行物1に記載された発明の「小径円筒部」に機能的に相当する部材)及び針状ころを固形潤滑組成物内に回転自在な状態で埋もれさせ、軸との接触面において針状ころが部分的に露出する状態とすることによって、充填した固形潤滑剤に外部から塵埃が侵入するのを防ぐ機能(シール機能)を付与させることは、上記刊行物3にも記載されているように、本願出願前当業者に知られた事項にすぎないものである。
さらに、上記刊行物2及び刊行物3に記載されているように、固形潤滑剤に占める超高分子量ポリエチレン(樹脂)の含有割合は、95?1wt%の間で所望の割合を選択することができるものである。
そして、上記刊行物2及び刊行物3に記載された技術事項は、刊行物1に記載されたような総ころ軸受に適用することを妨げる格別の事情は認めることができないものである。
さらに、刊行物1に記載された発明の総ころ軸受の小径円筒部4a,5aの端面は、本願補正発明と同様に針状ころ2の端面に対向させることにより、保持器としての機能を奏するように配置されるものであることからも理解できるように、本願補正発明のように小径円筒部4a,5aの内周面と針状ころ2の周面位置までの空間の径方向での幅と、小径円筒部4a,5aの外周面、鍔部4,5の内側面及び円筒本体部3の内周面で囲まれる空間の径方向の幅とをほぼ同一に設定することは、当業者であれば普通に採用することができる程度の設計的事項にすぎないものである。
してみると、上記刊行物1ないし刊行物3に記載された上記事項を知り得た当業者であれば、刊行物1に記載された発明の総ころ軸受の潤滑剤として、樹脂の含有割合を95?1wt%の範囲の中で所望の割合とした固形潤滑剤(本願補正発明のように樹脂の含有割合を20?40重量%としたもの)を採用するとともに、外部からの塵埃が侵入するのを防ぐことができるように(シール機能を有するように)、固形潤滑剤によって小径円筒部4a,5a及び針状ころ2を固形潤滑剤内に回転自在な状態で埋もれさせ、軸との接触面において針状ころ2が部分的に露出する状態となるように、両鍔部4,5に形成された小径円筒部4a,5aの内周面と針状ころ2の周面位置までの空間と、上記小径円筒部4a,5aの外周面、上記鍔部4,5の内側面および円筒本体部3の内周面で囲まれる空間と、針状ころ2間の空間とを含む軸受内部に固形潤滑剤を充填して、上記相違点に係る本願補正発明の構成とすることは、必要に応じて容易に想到することができる程度のことであって、格別創意を要することではない。

また、本願補正発明の効果について検討しても、刊行物1ないし刊行物3に記載された事項から当業者であれば予測することができる程度のものであって、格別のものとはいえない。

したがって、本願補正発明は、刊行物1ないし刊行物3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

ところで、請求人は、審判請求書中で、「本発明(本願補正発明)はこの小径円筒部の内周面側にも外周面とほぼ同じ空間を設け固体潤滑剤を充填する構成にすることにより、軸受内部の潤滑と、小径円筒部の先端部によるころの案内面の潤滑と、外部からの異物侵入とを同時に達成しようとする課題を解決するものですから、こうした課題についての記載や技術的示唆もなく、その構成も例え組み合わせたとしても上述のような相違点のある引用文献1(上記刊行物1)および引用文献2(上記刊行物2)からは本願発明の解決しようとする課題を見出すことはできないものと思料いたします。」(平成17年5月19日(受付日)付け手続補正書(審判請求の理由を補正したもの)の【本願発明が特許されるべき理由】の3.本願発明と引用文献に記載の発明との対比の<本願発明と引用発明との対比>の項参照)旨主張している。

しかしながら、上記刊行物2(引用文献2)を引用した趣旨は、保持器を有しない総ころ軸受において、潤滑剤として固形潤滑剤を採用したものでは、各ころの相互間及びころの各端面と鍔との間に固形潤滑剤が充填され、その固形潤滑剤と各ころが一体化され、ころ相互の間隔及びころ3の姿勢が一定に保持されるように充填することが本願出願前当業者に知られた事項であることを例示するためである。また、上記刊行物3(引用文献3)を引用した趣旨は、保持器を有する総ころ軸受に関するものではあるが、固形潤滑組成物(固形潤滑剤)を充填するに際し、外部からの異物(塵埃)侵入を防止するためには、固形潤滑剤を保持器(刊行物1に記載された発明の「小径円筒部4a,5a」が機能的に相当)及び針状ころを固形潤滑剤内に回転自在な状態で埋もれさせ、軸との接触面において針状ころが部分的に露出する状態となるように充填すればよいことが、本願出願前当業者に知られた事項であることを例示するためである。
そして、刊行物2及び刊行物3に記載された上記技術事項を刊行物1に記載された発明のような総ころ軸受の潤滑剤の充填構造として採用することを妨げる格別の事情がないことは上記のとおりである。
そうすると、上記刊行物1ないし刊行物3に記載された上記事項を知り得た当業者であれば、潤滑剤として樹脂の割合を95?1wt%の範囲内で所望の割合(例えば、本願補正発明のように20?40重量%)とした固形潤滑剤を採用し、総ころ軸受の小径円筒部4a,5a及び針状ころ2を固形潤滑剤内に回転自在な状態で埋もれさせ、軸との接触面において針状ころ2が部分的に露出する状態となるように充填して、上記相違点に係る本願補正発明の構成とすることが、必要に応じて容易に想到することができる程度のことであって、格別創意を要することでないことも上記のとおりである。
よって、請求人の上記審判請求書中での主張は採用することができない。

(4)むすび
以上のとおり、本願補正発明(本件補正後の請求項1に係る発明)が特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、平成15年改正法前の特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第4項の規定に適合しないものであり、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明について
(1)本願発明
平成17年3月10日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし請求項3に係る発明は、平成17年1月11日(受付日)付けの手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし請求項3に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「【請求項1】複数のころと、この複数のころが円筒本体部の内周側に配設されかつ円筒本体部の両端部に半径方向内方に鍔部が形成された外輪とを備え、この両鍔部の内径向に延びる小径円筒部が形成された総ころ軸受において、両鍔部に形成された小径円筒部の内周面ところの周面位置までの空間と、上記小径円筒部の外周面、上記鍔部の内側面および上記円筒本体部の内周面で囲まれる空間と、ころ間の空間とを含む軸受内部に固形潤滑剤が充填されているとともに、上記固形潤滑剤は、軸受内部の潤滑機能に加えて、上記小径円筒部の先端ところとの潤滑と、軸受内部への異物侵入に対するシール機能を有することを特徴とする総ころ軸受。」

(2)引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開平9-49526号公報(上記刊行物1)、特開平7-238940号公報(上記刊行物2)及び実願平5-15370号(実開平6-73435号)のCD-ROM(上記刊行物3)の記載事項は、前記「2.(2)引用刊行物の記載事項」に記載したとおりである。

(3)対比・判断
本願発明は、前記2.で検討した本願補正発明から、小径円筒部の配置構成についての限定を省くとともに、固形潤滑剤の成分割合と径方向での充填幅についての限定を省いたものに実質的に相当する。
そうすると、本願発明の構成を全て含み、さらに構成を限定したものに実質的に相当する本願補正発明が、前記「2.(3)対比・判断」に記載したとおり、刊行物1ないし刊行物3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、実質的に同様の理由により、刊行物1ないし刊行物3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)むすび
以上のとおり、本件出願の請求項1に係る発明(本願発明)は、刊行物1ないし刊行物3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そして、本願の請求項1に係る発明が特許を受けることができないものである以上、本願の請求項2及び請求項3に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-04-25 
結審通知日 2007-05-08 
審決日 2007-05-21 
出願番号 特願平11-228797
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F16C)
P 1 8・ 575- Z (F16C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鳥居 稔  
特許庁審判長 村本 佳史
特許庁審判官 礒部 賢
岩谷 一臣
発明の名称 総ころ軸受  
代理人 岡田 和秀  

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