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審決分類 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 B41J
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41J
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B41J
管理番号 1160307
審判番号 不服2004-6389  
総通号数 92 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-08-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-03-31 
確定日 2007-07-12 
事件の表示 特願2000-227488「画像形成装置」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 2月 6日出願公開、特開2002- 36625〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成12年7月27日の出願であって、平成16年2月24日付で拒絶査定がなされ、これに対し同年3月31日に拒絶査定に対する審判請求(以下、「本件審判請求」という。)がなされるとともに、平成16年4月28日付で明細書についての手続補正(以下、「本件補正」という。)がなされたものである。

第2 平成16年4月28日付けの明細書についての手続補正の却下の決定

[補正却下の結論]
平成16年4月28日付の手続補正を却下する。

[理由]
1.補正事項
本件補正により、特許請求の範囲請求項1は、

「出力画素クロックに同期し、複数ラインの画像データのそれぞれに応じて変調された複数の光束を偏向器により走査方向に偏向して被走査媒体上を走査する画像形成装置において、
前記複数の光束の各発光点の走査方向の位置ずれにより生じる走査方向の書き込み開始位置のずれ、書き込み終了位置のずれ及び走査線長を補正するように、前記出力画素クロックの位相を一定間隔毎に制御するクロック位相制御手段、
を備えたことを特徴とする画像形成装置。」

から、

「出力画素クロックに同期し、複数ラインの画像データのそれぞれに応じて変調された複数の光束を偏向器により走査方向に偏向して被走査媒体上を走査する画像形成装置において、
前記複数の光束の各発光点の走査方向の位置ずれにより生じる走査方向の書き込み開始位置のずれ、書き込み終了位置のずれ及び走査線長を補正するように、前記出力画素クロックの位相を、所定の画素間隔毎に独立して、制御するクロック位相制御手段、
を備えたことを特徴とする画像形成装置。」

と、補正された。
その余の請求項については本件補正の前後で変更はないことから本件補正前の請求項1は本件補正後の請求項1に対応することは明らかである。

よって本件補正は、補正前の「出力画素クロックの位相を一定間隔毎に制御する」点を「出力画素クロックの位相を、所定の画素間隔毎に独立して、制御する」と補正する事項(以下、「本件補正事項」という。)についてのみ補正するものである。

2.補正目的
本件補正事項により、「一定間隔毎に」との記載が「所定の画素間隔毎に独立に」と補正されているが、ここで補正された「所定の画素間隔毎に独立に」との記載が如何なる意味を有するか、その記載のみからでは必ずしも明らかでないことから、これにつき検討しておく。
本願明細書の発明の詳細な説明の記載中には、「所定の画素間隔毎に独立に」との記載そのものを認めることはできないが、これに対応した記載箇所は例えば本願明細書段落【0062】の「画素クロック及び内部クロックの位相を1/8クロック刻みで遅らせることができる。1/8クロックサイクルの位相遅れ量を、1走査期間中に決められた間隔(もしくは決められた間隔に近い)で実行することにより、1走査期間での画素クロックの周波数を等価的に微調できることになる。」であることは一応理解でき、「1走査期間中に決められた間隔」のことを「所定の画素間隔」と表現しているものと認めることができる。
また、本件補正事項の「独立に」との記載について検討するに、前記のごとく「1走査期間中に決められた間隔」で1/8クロックサイクルの位相遅れ量を微調していることからして、1走査期間中に「所定の画素間隔」即ち「1走査期間中に決められた間隔」を単位としたものが複数存在し、その単位毎に位相制御を行っていることをもって、それぞれの単位が独立しており、その単位で補正をする意味で「独立」との表現がなされているものと解することができる。
(なお、「出力画素クロックの位相を、所定の画素間隔毎に独立して、制御する」との記載から、「所定の画素間隔毎」すなわち「1走査期間中に決められた間隔」を単位としたもの毎に、適宜異なる制御を行うことをもって「独立して」制御するとの解釈も文言上は可能だが、そのような制御を行うことは本願の明細書中には記載されていないので、そのような解釈は採っていない。)

そして、そのような「所定の画素間隔」の単位は前記のごとく1走査期間中での区切られる単位と解するものであるから、本件補正事項は本件補正前の「一定間隔毎」との記載が「一定間隔」について具体的特定がないところから、1走査期間中での区切られる単位すなわち「所定の画素間隔」をその一定間隔であると限定的に特定したと解釈できる。
よって、本件補正は平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的としたものと認める。

そこで、本件補正により補正された特許請求の範囲請求項1(以下、「本願補正発明」という。)が、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定による特許出願の際独立して特許を受けることができるものかについて以下に検討する。

3.引用例

(1)原査定の拒絶の理由に引用された特開平9-11538号公報(以下、「引用例1」という。)には、次の事項が記載又は図示されている。

(ア)「クロック信号に基づくタイミングでデジタル画像信号と対応した点滅を行なうレーザー出力源が複数配列されたレーザー発生装置と、
これらのレーザー出力源から照射される複数のレーザービームを同一鏡面で同時に反射し、感光体上を露光走査する回転ミラーと、
該レーザービームを感光体上に結像させるレンズとを有する像書き込み装置において、
所定数の画素からなる一走査長が、前記複数のレーザービームによって異なるときに、該走査長を各ビーム間で一致させるために、所定数の画素を書き込む時間間隔を各レーザー出力源毎に調整する書き込み周期調整手段と、
前記複数のレーザービームによる一走査線上の像書き込み開始位置が異なるときに、画素の書き込みを同期させるクロック信号の有効エッジの位相を各レーザー出力源毎に調整する位相調整手段とを有することを特徴とする像書き込み装置。」(特許請求の範囲【請求項1】)

(イ)「電子写真装置等における像の書き込みには、レーザービームを用いて感光体を露光走査する装置が広く用いられている。・・・複数のレーザービームを同時に走査する装置の問題点として、各レーザービームの走査による書き込み位置に誤差が生じるということがある。この原因には、特開平3-162973号公報に記載されるように、各レーザービームを射出するレーザー出力源の位置の機械的な誤差、または各レーザー出力源で用いるレーザー励振器の特性の違いによる誤差等が考えられる。そして、特開平3-162973号公報には、このような書き込み装置の誤差を修正する方法として、基準となるレーザービームの像書き込み位置を検出し、その他のレーザービーム(非基準レーザービーム)の像書き込み位置が基準レーザービームと同じ位置となるように各ビーム用の基準クロック信号の位相を調整する方法が開示されている。」(段落【0002】?【0004】)

(ウ)「【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記のような従来の方法では、基準クロックの周波数が一定となっており、光学的な走査倍率の誤差による走査長の差を補正することができない。この問題点を詳述すると次のとおりである。複数レーザービームは、同一の回転ミラー面で反射され、同一のレンズを介して感光体に照射されるものであっても、位置の違いによって光学系の誤差が生じ、感光体の面上における走査長、すなわち走査方向の像書き込み範囲の長さに誤差が生じる。この誤差は上記従来の方法では修正することができない。つまり、図9(a)に示すように、書き込み開始位置がずれていても、走査長に差がないと、図9(b)に示すように像の書き込み開始位置を調整することによって、書き込み開始から終了までの全範囲で画素の位置を正確に合わせることができるが、これに対して、図9(c)に示すように走査長に差がある場合に像の書き込み開始位置を合わせると図9(d)に示すように書き込み終了位置に近づく程、各ビーム間で画素の位置がずれ、画像が劣化することになる。
本発明は、上記のような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、複数のレーザービームによって書き込まれる画素の主走査方向の位置を修正し、各ビーム間で書き込み位置に差が生じないように調整する方法を提供することである。」(段落【0005】,【0006】)

(エ)「請求項1に記載の像書き込み装置では、画素の書き込みを同期させるクロック信号の有効エッジの位相を各レーザー出力源毎に調整する位相調整手段を有しているので、複数のレーザービームを同時に走査して像の書き込みを行う際に、各レーザービームで書き込み位置の誤差があっても、クロック信号の有効エッジの位相を各々レーザービームについて調整し、書き込み開始が走査方向の同じ位置となるように正確に調整することができる。また、画素を書き込む時間間隔を各レーザー出力源毎に調整する書き込み周期調整手段を有しているので、光学系の誤差等により、各レーザービーム毎に倍率誤差が生じても、一走査長に含まれる所定数の画素を書き込む範囲すなわち、走査長を各レーザービーム間で正確に一致させることができる。」(段落【0016】)

(オ)「同期回路10は、周波数調整回路12(書き込み周期調整手段)と位相調整回路13とを含むものであり」(段落【0023】)

また、引用例1の記載事項(1)(ア)の「像書き込み装置」は電子写真装置に適用されていることは明らかである。

よって、引用例1の記載(ア)?(オ)を含む全記載及び図示からみて、引用例1には以下の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているものと認める。

「クロック信号に基づくタイミングでデジタル画像信号と対応した点滅を行なうレーザー出力源が複数配列されたレーザー発生装置と、
これらのレーザー出力源から照射される複数のレーザービームを同一鏡面で同時に反射し、感光体上を複数ラインで露光走査する回転ミラーと、
該レーザービームを感光体上に結像させるレンズとを有する像書き込み装置を備えた電子写真装置において、
所定数の画素からなる一走査長が、前記複数のレーザービームによって異なるときに、該走査長を各ビーム間で一致させるために、所定数の画素を書き込む時間間隔を各レーザー出力源毎に調整する書き込み周期調整手段と、
前記複数のレーザービームによる一走査線上の像書き込み開始位置が異なるときに、画素の書き込みを同期させるクロック信号の有効エッジの位相を各レーザー出力源毎に調整する位相調整手段とを有する電子写真装置。」

(2)本願の出願日前に頒布された特開平9-323180号公報(以下、「引用例2」という。)には、次の事項が記載又は図示されている。

(ア)「被描画体をレーザビームでもって走査させつつ該被描画体に対するレーザビームの変調をラスタデータに基づいて所定の周波数のクロックパルスに従って制御して描画を行うレーザ描画装置であって、
前記被描画体の寸法値を基準寸法値と比較してその寸法差及びその大小関係を判別する寸法判別手段と、
前記クロックパルスの位相を前記寸法差に応じた所定の間隔でしかも前記大小関係に応じて正側及び負側のいずれか一方に順次シフトさせてその全シフト量を前記寸法差に実質的に一致させるように前記クロックパルスの出力を制御するクロックパルス出力制御手段とを具備して成るレーザ描画装置。」(特許請求の範囲【請求項1】)

(イ)「伸縮率ΔSYの値が正であれば、実際の基板のY方向寸法は基準基板のY方向基準寸法よりも伸びたものとなり、伸縮率ΔSYの値が負であれば、実際の基板のY方向寸法は基準基板のY方向基準寸法よりも縮んだものとなる。同様に、伸縮率ΔSXの値が正であれば、実際の基板のX方向寸法は基準基板のX方向基準寸法よりも伸びたものとなり、伸縮率ΔSXの値が負であれば、実際の基板のX方向寸法は基準基板のX方向基準寸法よりも縮んだものとなる。
先に述べたように、本発明によるレーザ描画装置にあっては、個々の被描画体の寸法変動に対して適正なスケーリング補正処理をラスタデータの一画素以下の単位で行うことが特徴とされる。従って、ラスタデータの一画素のサイズをDpとすると、スケーリング補正処理時での画素最小シフト単位はDp/nとなり、本実施形態にあっては、例えば^n" は10とされる。仮に、ラスタデータの一主走査ラインに10万画素が含まれ、しかもその10万画素が一主走査ラインの基準長さ500 mmの主走査範囲内に割り当てられるとすると、その一画素サイズは5μm となり、この例では、0.5 (5/10)μm がスケーリング補正処理時での画素最小シフト単位となる。
以上で述べた事例において、もし実際の基板の主走査方向の寸法が1mmだけ伸びて501 mmになったとすると(伸び率ΔSY = 0.002) 、200(10万×ΔSY) 画素分だけスケーリング補正処理が行われなければならない。このとき10万画素を501mmの範囲内にできるだけ均等に配列するためには、500(10万/200) 画素毎に画素配列を1画素分(5μm)だけ正側(主走査方向に沿うレーザビームの偏向方向)にシフトさせればよいことが分かる。ところが、上述の事例では、スケーリング補正処理時での画素最小シフト単位が0.5 (5/10)μm であるから、50(500/10)画素毎に画素配列を0.5 (5/10)μm ずつ正側にシフトさせることが500 画素毎に画素配列を1画素分(5μm)が正側にシフトさせることと等価となる。かくして、501mmの範囲内には10万画素が更に一層均等に配列されることになる。換言すれば、50画素が連続して配列される距離は250 μm に相当するから、レーザビームが主走査方向に沿って偏向させられるとき、該レーザビームが250 μm 進む度毎に0.5 (5/10)μm だけ正側シフトさせれば、501 mmの範囲内での一層均等な10万画素の配列が得られることになる。」(段落【0037】?【0039】)

3.対比

そこで、本願補正発明と引用発明1とを対比する。

i)引用発明1で「クロック信号に基づくタイミングでデジタル画像信号と対応した点滅を行うレーザー出力源」と記載されることから、この引用発明1の「クロック信号」は本願補正発明の「出力画素クロック」に相当する。

ii)引用発明1の「デジタル画像信号」により点滅を行う、複数配列されたレーザー出力源が照射される複数のレーザービームにより感光体上を複数ラインで露光走査していることから、引用発明1の「デジタル画像信号」は、本願補正発明の「複数ラインの画像データ」に相当する。

iii)引用発明1の「複数のレーザービーム」,「回転ミラー」,「感光体」,「露光走査」及び「レーザー出力源」は、本願補正発明の「複数の光束」,「偏向器」,「被走査媒体」,「走査」及び「発光点」にそれぞれ相当する。
また、引用発明1では明示されないものの、出力画素クロックに同期して画像データに応じて変調されている点で本願補正発明と共通することも自明である。

iv)引用発明1の「複数のレーザービームによる一走査線上の像書き込み開始位置が異なる」ことは、本願補正発明の「走査方向の書き込み開始位置のずれ」があることに相当し、そのとき出力画素クロック(クロック信号)の位相を制御(調整)する点で引用発明1の「位相調整手段」は、本願補正発明の「クロック位相制御手段」と共通している。

iii)引用発明1の「所定数の画素からなる一走査長」は、本願補正発明の「走査線長」に相当し、引用発明1にて「所定数の画素からなる一走査長が、前記複数のレーザービームによって異なるとき、所定数の画素を書き込む時間間隔を調整している」ことから、このことは本願補正発明で「走査線長を補正」していることと共通する。

iv)引用発明1の「電子写真装置」と、本願補正発明の「画像形成装置」は単なる表現上の微差に過ぎない。

してみれば、本願補正発明と引用発明1とは、

「出力画素クロックに同期し、複数ラインの画像データのそれぞれに応じて変調された複数の光束を偏向器により走査方向に偏向して被走査媒体上を走査する画像形成装置において、
走査方向の書き込み開始位置のずれを補正するように出力画素クロックの位相を制御するクロック位相制御手段を備え、走査線長を補正する画像形成装置。」

である点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点a]
本願補正発明では、複数の光束の各発光点の走査方向の位置ずれにより生じるずれを補正しているのに対し、引用発明1ではどのような理由によりずれが生じるか特定されていない点。

[相違点b]
本願補正発明では、書き込み終了位置のずれ及び走査線長をクロック位相制御手段により補正しているのに対し、引用発明1では走査線長を周期調整手段でクロック位相制御手段とは別に調整(補正)しているものの、書き込み終了位置のずれの補正については特定されていない点。

[相違点c]
本願補正発明では、出力画素クロックの位相を、所定の画素間隔毎に独立して、制御しているのに対し、引用発明1ではそのような特定を有さない点。

4.判断

[相違点a]について
引用例1の記載事項3.(1)(イ)には、「複数のレーザービームを同時に走査する装置の問題点として、各レーザービームの走査による書き込み位置に誤差が生じるということがある。この原因には、特開平3-162973号公報に記載されるように、各レーザービームを射出するレーザー出力源の位置の機械的な誤差、または各レーザー出力源で用いるレーザー励振器の特性の違いによる誤差等が考えられる。」と記載されている。
この書き込み位置の誤差の原因である、レーザー出力源の位置の機械的な誤差は従来技術である特開平3-162973号について説明されたものではあるが、この原因は引用発明1における発明の解決しようとする課題であり、引用発明1においてレーザービームの走査長、書き込み位置の調整はレーザー出力源の位置の機械的な誤差に起因して行われていることが理解できる。
そして、このレーザー出力源の位置の機械的誤差は本願補正発明でいう「複数の光束の各発光点の走査方向の位置ずれ」等種々の誤差要因も含んでいることは明らかであり、本願補正発明で誤差要因を具体的に特定したとしても他の誤差要因が存在する以上解決課題を達成し得るとまではいえないので、種々の誤差要因の一つに特定した本願補正発明に特段の技術上の意義があるものとは認められず、そのようにすることは当業者にとって容易である。

[相違点b]について
引用発明1において、レーザービームの走査長の調整と、書き込み位置の調整を行う手段は別手段として特定されているものの、例えば引用例1の記載事項3.(1)(オ)のごとく、同期回路10が周波数調整回路12と位相調整回路13とを含むとされているように、レーザービームの走査長の調整と、書き込み位置の調整を行う手段を別手段として特定するかひとつのまとまった手段として特定するかは当業者が適宜選択すべき設計事項の範疇でしかない。
また、引用発明1では書き込み終了位置のずれの補正については特定されていないものの、引用例1の記載事項3.(1)(ウ)にて「図9(d)に示すように書き込み終了位置に近づく程、各ビーム間で画素の位置がずれ、画像が劣化することになる。」との記載があり、この前提のもとにレーザービームの走査長と、書き込み位置の調整が行われていることからして、当然、書き込み終了位置の調整(補正)も結果として行われていることになることは明らかである。よって、この点は実質的な相違点ではない。

[相違点c]について
引用例2の記載事項3.(2)(イ)によれば、50(500/10)画素毎に画素配列を0.5(5/10)μmずつ正側にシフトさせる技術が開示されている。ここでいう「シフト」とは位相のシフトに他ならないことは同記載事項3.(2)(ア)の「クロックパルスの位相を前記寸法差に応じた所定の間隔でしかも前記大小関係に応じて正側及び負側のいずれか一方に順次シフトさせ」との記載から明らかである。
そして、前記の「50(500/10)画素毎に」とは、「2.補正目的」で言及した本願明細書でいう、「1走査期間中に決められた間隔(もしくは決められた間隔に近い)」と異なるものでなく、実態として引用例2でも出力画素クロックの位相を、所定の画素間隔毎に独立して、制御しているといえる。
そして、レーザービームの位相調整手段として種々知られているところ、前記引用例2記載の手法を引用発明1にて採用することは当業者が適宜なすべき容易の範疇といえる。

また、本願補正発明の効果も引用発明1及び引用例2から当業者が容易に想到可能なものである。

してみれば、本願補正発明は引用発明1及び引用例2記載の発明から当業者が容易に発明できたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

5.むすび
したがって、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本件審判請求についての当審の判断

1.本願発明の認定
平成16年4月28日付けの明細書についての手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は(以下、「本願発明」という。)は、平成15年12月22日に補正された請求項1に記載された以下のとおりのものと認める。

「出力画素クロックに同期し、複数ラインの画像データのそれぞれに応じて変調された複数の光束を偏向器により走査方向に偏向して被走査媒体上を走査する画像形成装置において、
前記複数の光束の各発光点の走査方向の位置ずれにより生じる走査方向の書き込み開始位置のずれ、書き込み終了位置のずれ及び走査線長を補正するように、前記出力画素クロックの位相を一定間隔毎に制御するクロック位相制御手段、
を備えたことを特徴とする画像形成装置。」

2.本願発明の進歩性の判断
上記「第2 2.補正目的」で述べたごとく、本願補正発明において「所定の画素間隔毎に独立して」とした点は、本願発明の「一定間隔毎」を限定したものと認められるので、本願発明は本願補正発明の限定事項を省いたもといえる。
そして、その余の発明特定事項について本願発明と本願補正発明では差がない。
すると、本願発明と引用発明1を対比した場合、「第2 3.対比」の「相違点a],[相違点b]については同様であり(「本願補正発明」を「本願発明」と読み替える。)、新たな[相違点c’]として以下の点で相違するものといえる。

[相違点c’]
本願発明では、出力画素クロックの位相を一定間隔毎に制御しているのに対し、引用発明1ではそのような特定を有さない点。

そこで、[相違点a],[相違点b]及び[相違点c’]について検討するが、[相違点a]及び[相違点b]については前記「第2 4.判断」で示したとおりであるので、ここでは省略し[相違点c’]について検討する。

[相違点c’]について
引用発明1では、「位相調整手段」によりレーザービームの一走査線上の像書き込み位置が異なる時に、位相を調整していることから、この位相の調整はレーザービームの一走査毎に行われていることは明らかである。
一方、本願発明の「一定間隔毎」とは、「第2 2.補正目的」で述べたごとくその一定間隔が具体的にどのような間隔であるかが特定されていないものであるから、当然に「一走査毎」も包含している。
すると、この引用発明1の「一走査毎」とは本願発明の「一定間隔毎」と何等異なるものではない。
また、引用発明1では走査長を一致させるための書き込み周期調整手段を有している。
引用例1では、この書き込み周期調整手段について例えば段落【0032】?【0034】には、

「矩形パルスは(e)に示すような波形となり、HIGHからLOWへの遷移時の周期は基準クロック信号(a)と変わらないが、1周期毎にHIGHとなっている時間が変化し、LOWからHIGHへの遷移時の周期がわずかに延長される。
LD駆動回路11は、上記矩形パルス(e)のLOWからHIGHへの遷移時(有効エッジ)に同期して、レーザー発生装置を駆動するようになっており、この有効エッジの周期で画素の書き込みが行なわれる。したがって、各レーザー出力源について画素の書き込みの周期が微少量だけ修正され、各レーザービームによる像書き込み範囲の長さが一致するように調整される。
また、線形出力(c)の初期値によって上記矩形パルス(e)の有効エッジの位相が変動する。つまり、線形出力の初期値が大きくなると有効エッジの位相は後方にずれ、逆に小さくなると前方に移動する。したがって、像書き込み開始位置のずれ量に対応して初期値を設定することにより、有効エッジの位相が調整され、4つのレーザービームの像書き込み開始位置を正確に一致させることができる。」

と記載されている。
ここで、引用例1の図面第8図の矩形パルス(e)の波形に着目すると、一パルス毎に連続的にその波形が変化しているが、同時に先頭のパルスは前記の一走査毎のレーザービームの位相の調整が行われており、矩形パルス(e)全体として、像書き込み開始位置の調整と像書き込み長さ(走査長)の調整が一体に行われていることが理解される。
してみれば、両者の調整が一体として行われている以上、走査長を一致させるための調整もレーザービームの一走査毎に行われていることは明らかであり、これも本願発明でいう「一定間隔毎」に他ならない。
よって、[相違点c’]に係る本願発明の特定事項も引用発明1から容易に想到できるものにすぎない。

すると、本願発明は引用発明1から容易に発明できたものである。

第4 むすび

以上のとおり、本願発明は、引用発明1に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶を免れない。

よって結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-05-09 
結審通知日 2007-05-15 
審決日 2007-05-29 
出願番号 特願2000-227488(P2000-227488)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B41J)
P 1 8・ 572- Z (B41J)
P 1 8・ 575- Z (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 門 良成  
特許庁審判長 酒井 進
特許庁審判官 尾崎 俊彦
島▲崎▼ 純一
発明の名称 画像形成装置  
代理人 武 顕次郎  

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