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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C22C
管理番号 1160309
審判番号 不服2004-8154  
総通号数 92 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-08-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-04-22 
確定日 2007-07-12 
事件の表示 平成10年特許願第121542号「耐遅れ破壊性に優れたボルト用高強度線材およびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成11年11月16日出願公開、特開平11-315349〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成10年4月30日の出願であって、平成14年10月7日付けで手続補正がされたが、平成16年3月15日付けで拒絶査定がされ、同年4月22日付けで拒絶査定不服審判の請求がされたものであって、その請求項1?7に係る発明は、上記手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明は、以下のとおりのものである。
「C:0.5?1.0%(質量%の意味、以下同じ)を含む鋼からなり、初析フェライト、初析セメンタイト、ベイナイトおよびマルテンサイトの生成を抑制し、パーライトノジュールサイズが粒度番号でNo.7以上のパーライト組織の面積率を80%以上としたものであり、且つ強伸線加工によって1200N/mm2以上の強度と優れた耐遅れ破壊性を有する様にしたものであることを特徴とする耐遅れ破壊性に優れたボルト用高強度線材。」(以下「本願発明1」という。)

2.原査定の理由
原査定の拒絶の理由の一つの概要は、以下のとおりである。
この出願の請求項1?4に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物1、2、5?7に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

1.特開平7-292441号公報
2.特開平6-185513号公報
5.特開平7-173577号公報
6.特開平7-179994号公報
7.特開平2-305937号公報

3.引用刊行物の記載事項
(ア)特開平6-185513号公報(以下、「引用例2」という。)
(2a)「重量%で、
C :0.3?1.10%、
Si:0.10?3.0%、
Mn:0.2?1.5%、
Al:0.005?0.10%
を含有し、その他強化元素として
Cr:0.1?1.0%、
Mo:0.01?0.5%、
V :0.01?0.5%、
W :0.1?0.5%、
Ni:0.1?1.0%、
Cu:0.1?1.0%
の1種類又は2種類以上を含有し、残部鉄及び不可避的不純物から成る棒鋼を、20%以上の減面率にて冷間引抜加工まま、オーステナイト領域の温度以下で鍛造及び転造し、ボルトへ成形することを特徴とする耐遅れ破壊特性に優れた高強度ボルトの製造法。」(特許請求の範囲の請求項2)
(2b)「本来、素材内の水素拡散を抑制することが、耐遅れ破壊特性向上には最も効果的であり、本発明はこの原理に基づき、素材内の水素拡散を抑制することにより、高強度ボルトの耐遅れ破壊特性の向上したボルト及びその製造法を提供するものである。」(【0005】)
(2c)「鋼材への水素侵入・拡散を抑制する方法として、冷間引抜により導入された多数の転位を水素のトラップサイトとして利用し、水素の拡散を抑制することが、高強度ボルトの耐遅れ破壊特性を向上させる上で極めて有効である」(【0006】)
(2d)「例えば、0.88%C+1.20%Si+0.50%Mn+0.3%Cr+0.0045%Al組成の線径10φ?18.3φの棒鋼をパテンティング処理し素材組織をパーライトとし、素材の冷間引抜性を向上させた後・・・冷間引抜を実施する。・・・線径10φにサイズ調整したまま・・・鍛造しボルト頭部を製作し、更に・・・転造しネジ部を製作することにより・・・M10ボルトを製造する。」(【0011】)
(2e)「遅れ破壊試験における破断時間を100時間以上を確保するためには、鋼材の転位密度は1010/cm3 以上確保する必要がある。つまり、伸線後の鋼線には、転位密度は1013/cm3 程あるが、鍛造及び転造中の減少量を抑え、転位密度は1010/cm3 以上確保する必要がある。伸線鋼線の鍛造及び転造後の転位密度と鋼材のラメラ間隔は・・・密接な関係があり、鍛造及び転造後のボルトの転位密度を1010/cm3 以上確保するためには、鋼材のラメラ間隔を0.5μm以下に抑える必要がある。」(【0016】)
(2f)「素材の組織は、冷間引抜に耐え得る延性が必要なこと及び・・・優れた耐遅れ破壊特性を確保することが期待できることから、パーライト組織・・・であることが望ましい。」(【0024】)
(2g)「強度1250MPa 以上のM10ボルトを製造する。」(【0025】)
(2h)表1?2、表2-2には、「本発明」として、「冷間引抜減面率(%)」が「20?80」であるものが示されている。

(イ)特開平7-173577号公報(以下、「引用例5」という。)
(5a)「ばね用鋼の化学成分はJIS G3565?G3567,G4801等に規定されており、それらから製造された熱間圧延線材や棒鋼(以下、圧延材という)に対して所定の直径まで引抜加工し、オイルテンパー処理を施してからばね加工(冷間ばね成形)したり、あるいは圧延材を引抜加工し或はピーリング加工や直線加工してから、加熱しばね成形後に焼入れ焼戻し(熱間ばね成形)を行なう等により、各種ばねが製造されている。」(【0002】)
(5b)「本発明は・・・その目的は、熱間圧延後の焼鈍省略が可能で、直接引抜加工・・・等の冷間加工を行うことができ・・・高強度ばね用鋼材を提供しようとするものである。」(【0005】)
(5c)「本発明に係るばね用鋼材を、圧延材としての・・・金属組織の面から見ると・・・圧延材組織における横断面の90%以上・・・が・・・パーライト組織で、パーライトのノジュールサイズ番号が6以上のものであり・・・パーライトノジュールサイズ番号が6未満のものでは、圧延材の延性が低下して良好な冷間加工性が得られにくくなる傾向があり、本発明の目的を果たすことができなくなる。」(【0033】?【0034】)
(5d)表6、8には、「発明例」として、「ノジュールサイズ番号」が「6.5?8.9」であるものが示されている。

(ウ)特開平7-179994号公報(以下、「引用例6」という。)
(6a)「本発明では上記化学成分の要件を満たす鋼材を使用し、熱間圧延により線状に加工した後直接パテンティング処理を施し、もしくは再オーステナイト化後にパテンティング処理することによって、金属組織を微細パーライト主体の組織にすると共に、パーライトノジュールサイズNo. が7?9の素鋼線とし、これを伸線加工率(減面率)70?90%で冷間伸線することによって、高強度・高靭延性の過共析鋼線を得る。」(【0022】)
(6b)「ところが、パテンティング処理後の微細パーライトにおけるノジュールサイズNo. が7?9であるものは、伸線性が良好で断線等を生じることなく円滑に冷間伸線を行なうことができるのである。」(【0024】)

4.当審の判断
(1)引用発明
引用例2には、「重量%で、
C :0.3?1.10%、
Si:0.10?3.0%、
Mn:0.2?1.5%、
Al:0.005?0.10%
を含有し、その他強化元素として
Cr:0.1?1.0%、
Mo:0.01?0.5%、
V :0.01?0.5%、
W :0.1?0.5%、
Ni:0.1?1.0%、
Cu:0.1?1.0%
の1種類又は2種類以上を含有し、残部鉄及び不可避的不純物から成る棒鋼を、20%以上の減面率にて冷間引抜加工まま、オーステナイト領域の温度以下で鍛造及び転造し、ボルトへ成形することを特徴とする耐遅れ破壊特性に優れた高強度ボルトの製造法。」(摘示2a)が記載されている。
ここで、引用例2の「冷間引抜を実施する。・・・線径10φにサイズ調整したまま、・・・鍛造し・・・更に・・・転造し・・・ボルトを製造する。」(摘示2d)との記載によれば、上記高強度ボルトの製造法においては、鍛造及び転造する前の、冷間引抜加工した段階では、鋼は線状であると認められる。そして、その線状の鋼は、その後「鍛造及び転造し、ボルトへ成形」されるのであるから、ボルトを製造するために用いられる素材であるといえる。そうすると、上記高強度ボルトの製造法において、冷間引抜加工した段階で得られるものは、ボルトを製造するために用いられる線状の素材、すなわち、ボルト用線材であるといえる。
また、上記ボルト用線材は、棒鋼を冷間引抜加工して得られるものであるが、引用例2には、棒鋼を冷間引抜加工することに関し、「棒鋼・・・素材組織をパーライトとし・・・冷間引抜を実施する。」(摘示2d)と記載されるように、棒鋼をパーライト組織とし、冷間引抜加工することが記載されていると認められる。
以上の記載及び認定事項を整理すると、引用例2には、ボルト用線材として、以下の発明が記載されていると認められる。
「重量%で、
C :0.3?1.10%、
Si:0.10?3.0%、
Mn:0.2?1.5%、
Al:0.005?0.10%
を含有し、その他強化元素として
Cr:0.1?1.0%、
Mo:0.01?0.5%、
V :0.01?0.5%、
W :0.1?0.5%、
Ni:0.1?1.0%、
Cu:0.1?1.0%
の1種類又は2種類以上を含有し、残部鉄及び不可避的不純物から成る棒鋼をパーライト組織とし、20%以上の減面率にて冷間引抜加工したボルト用線材。」(以下、「引用発明」という。)

(2)本願発明1と引用発明との対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、引用発明における「重量%」は、本願発明1における「質量%」に相当する。また、引用発明における「冷間引抜加工」は伸線加工の一種であることは明らかであるから、本願発明1における「伸線加工」に相当するといえる。
また、本願発明1は、線材自体の成分組成を規定するものであり、一方、引用発明は、線材の原料といえる棒鋼の成分組成を規定するものであるが、引用発明の線材自体の成分組成が棒鋼の成分組成と同一であることは明らかであるから、両者は、
「質量%で、C:0.5?1.0%を含む鋼からなり、パーライト組織としたものであり、且つ伸線加工したボルト用線材。」
の点で一致し、以下の点で一応相違するものと認められる。
相違点(イ)
本願発明1では、「初析フェライト、初析セメンタイト、ベイナイトおよびマルテンサイトの生成を抑制し」、また、「パーライト組織の面積率を80%以上」と規定しているのに対して、引用発明では、初析フェライト、初析セメンタイト、ベイナイトおよびマルテンサイトの生成を抑制しているか否か不明であり、また、パーライト組織の面積率が規定されていない点。
相違点(ロ)
パーライトノジュールサイズについて、本願発明1では「粒度番号でNo.7以上」と規定されているのに対して、引用発明では規定されていない点。
相違点(ハ)
本願発明1は、「強」伸線加工したものであるのに対して、引用発明は、「20%以上の減面率にて」施される冷間引抜加工したものである点。
相違点(ニ)
本願発明1のボルト用線材は、「強伸線加工によって・・・優れた耐遅れ破壊性を有する様にした」ものであり、また、「耐遅れ破壊性に優れた」ものであるのに対して、引用発明のボルト用線材は、20%以上の減面率にて冷間引抜加工したことによって、優れた耐遅れ破壊性を有する様にしたものであるか否か不明であり、また、耐遅れ破壊性に優れたものであるか否か不明である点。
相違点(ホ)
本願発明1のボルト用線材は、「強伸線加工によって1200N/mm2以上の強度・・・を有する様にした」ものであり、また、「高強度」のものであるのに対して、引用発明のボルト用線材は、20%以上の減面率にて冷間引抜加工したことによって、1200N/mm2以上の強度を有する様にしたものであるか否か不明であり、また、高強度のものであるか否か不明である点。

(3)相違点についての判断
(3-1)相違点(イ)について
引用例2には、「素材の組織は、冷間引抜に耐え得る延性が必要なこと及び・・・優れた耐遅れ破壊特性を確保することが期待できることから、パーライト組織・・・であることが望ましい。」(摘示2f)と記載されているから、引用発明において、望ましい組織であるパーライト組織の割合を、例えば面積率で「80%以上」とできるだけ増やし、その一方で、パーライト組織以外の組織、例えば初析フェライト、初析セメンタイト、ベイナイトおよびマルテンサイトの生成を抑制することは、当業者が容易に想到することである。また、それによる効果も格別顕著なものとはいえない。

(3-2)相違点(ロ)について
引用例5には、「圧延材組織における横断面の90%以上・・・が・・・パーライト組織で、パーライトのノジュールサイズ番号が6以上のものであり・・・パーライトノジュールサイズ番号が6未満のものでは、圧延材の延性が低下して良好な冷間加工性が得られにくくなる傾向があり」(摘示5c)と記載されている。
ここで、圧延材とは、「熱間圧延線材や棒鋼(以下、圧延材という)」(摘示5a)との記載によれば、熱間圧延線材や棒鋼を意味するものと認められ、また、冷間加工とは、「直接引抜加工・・・等の冷間加工を行うことができ」(摘示5b)との記載によれば、冷間引抜加工を含むものと認められる。また、摘示5dによれば、引用例5の表6、8には、発明例として、ノジュールサイズ番号が7以上であるものが示されているといえる。
以上によれば、引用例5には、横断面の90%以上をパーライト組織とした熱間圧延線材や棒鋼において、良好な冷間引抜加工性を得るために、パーライトノジュールサイズ番号を7以上とすることが記載されていると認められる。
また、引用例6には、「熱間圧延により線状に加工した後・・・金属組織を微細パーライト主体の組織にすると共に、パーライトノジュールサイズNo. が7?9の素鋼線とし、これを・・・冷間伸線する」(摘示6a)及び「微細パーライトにおけるノジュールサイズNo. が7?9であるものは、伸線性が良好で断線等を生じることなく円滑に冷間伸線を行なうことができる」(摘示6b)と記載されている。
これらの記載によれば、引用例6には、微細パーライト主体の組織とした素鋼線において、良好な冷間伸線性を得るために、パーライトノジュールサイズをNo.7?9とすることが記載されていると認められる。
ここで、引用発明の線材は、パーライト組織とした棒鋼を冷間引抜加工したものであるから、引用発明と上記引用例5に記載の技術的事項は、いずれも、パーライト組織とした棒鋼を冷間引抜加工する点で共通するものといえる。また、冷間引抜加工は冷間伸線加工の一種であり、棒鋼は線状の鋼であるといえるから、引用発明と上記引用例6に記載の技術的事項は、いずれも、パーライト組織とした線状の鋼を冷間伸線加工する点で共通するものといえる。
また、加工を容易に行うことは一般的な技術的課題と認められる。
そうすると、引用発明において、冷間引抜加工を容易に行い、棒鋼の冷間引抜加工性を良好なものとするために、上記引用例5、6に記載の技術的事項を適用して、パーライトノジュールサイズを粒度番号でNo.7以上とすることは、当業者が容易に想到することである。また、それによる効果も格別顕著なものとはいえない。

(3-3)相違点(ハ)について
本願発明1の強伸線加工における「強」とは、伸線加工の程度が強いことを意味するものと解されるが、伸線加工の具体的な程度(条件)について、本願明細書に示されるもの(59%、75%(【0043】、【0051】、【0055】、表3、5、8))と、引用例2に示されるもの(20?80%(摘示2h))とを比較しても、両者に格別の差異は認められない。
よって、引用発明の「20%以上の減面率にて」施される冷間引抜加工は、本願発明1の「強」伸線加工に相当するといえるから、上記相違点(ハ)は実質的な相違点ではない。

(3-4)相違点(ニ)について
引用例2の「素材内の水素拡散を抑制することが、耐遅れ破壊特性向上には最も効果的」(摘示2b)及び「鋼材への水素侵入・拡散を抑制する方法として、冷間引抜により導入された多数の転位を水素のトラップサイトとして利用」(摘示2c)との記載によれば、引用例2には、冷間引抜加工によって素材内に多数の転位を導入し、その転位を水素のトラップサイトとして利用することにより、素材内の水素拡散を抑制することで、耐遅れ破壊特性を向上させること、すなわち、冷間引抜加工によって耐遅れ破壊特性を向上させることが記載されていると認められる。
そうすると、引用発明のボルト用線材は、20%以上の減面率にて冷間引抜加工したことによって、耐遅れ破壊特性が向上したものであるといえるし、また、耐遅れ破壊特性に優れたものであるといえる。
以上によれば、本願発明1のボルト用線材と引用発明のボルト用線材とは、「強伸線加工によって・・・優れた耐遅れ破壊性を有する様にした」ものであり、また、「耐遅れ破壊性に優れた」ものである点で一致するということができる。
よって、上記相違点(ニ)は実質的な相違点ではない。

(3-5)相違点(ホ)について
ア 引用発明のボルト用線材は、20%以上の減面率にて冷間引抜加工したものであるが、冷間引抜加工等の冷間伸線加工を行うと、加工硬化により強度が向上することは、当業者において周知の事項であるから(必要であれば、引用例6の【0025】等参照)、引用発明のボルト用線材は、20%以上の減面率での冷間引抜加工によって、強度が向上したもの、すなわち、所定の強度を有するようにしたものと認められる。
イ また、その強度の具体的な程度については以下のとおりである。
引用例2には、「強度1250MPa以上の・・・ボルトを製造する。」(摘示2g)と記載されている。
また、引用例2には、「伸線後の鋼線には、転位密度は1013/cm3 程あるが、鍛造及び転造中の減少量を抑え・・・鍛造及び転造後のボルトの転位密度を1010/cm3 以上確保する」(摘示2e)と記載されているが、上記「伸線後の鋼線」とは、引用発明のボルト用線材のことと認められるから、引用例2には、ボルト用線材の転位密度は、ボルトの転位密度よりも高いことが記載されていると認められる。
ところで、加工硬化とは、加工により素材内の転位の数が増加して強度が高くなる現象であり(必要であれば、金属材料技術研究所編「図解金属材料技術用語辞典」1988.11.20.日刊工業新聞社発行の第92頁の「加工硬化」の項を参照)、転位の数が多いほど、すなわち、転位密度が高いほど、強度が高いといえるが、上記のとおり、ボルト用線材の転位密度は、ボルトの転位密度よりも高いのであるから、ボルト用線材の強度は、ボルトの強度よりも高いと認められる。
ボルトの強度は、上記のとおり、1250MPa(N/mm2)以上であるから、ボルト用線材の強度は、少なくとも1250MPa(N/mm2)以上であると認められる。
ウ そうすると、引用発明のボルト用線材は、20%以上の減面率での冷間引抜加工によって、少なくとも1250N/mm2以上の強度を有するようにしたものといえるし、また、高強度のものであるといえる。
エ 以上によれば、本願発明1と引用発明とは、「強伸線加工によって1250N/mm2以上の強度・・・を有する様にした」ものであり、また、「高強度」のものである点で一致するといえるから、上記相違点(ホ)は実質的な相違点ではない。

(4)審判請求人の主張について
審判請求人は、平成16年8月4日付け手続補正により補正された審判請求書の請求の理由の「(3)本願発明と引用例1?7との対比」において、本願発明では、パーライトノジュールサイズを微細にすることにより、「粒界に負荷する応力が低減されると共に、粒界強度が上昇し、これによって遅れ破壊発生時に見られる粒界破壊が抑制され、耐遅れ破壊性が改善される」という作用効果を発揮し、また、「延性や靭性が向上し、こうした観点からも耐遅れ破壊性が改善される」が、引用例1、2のいずれにも、「パーライトのノジュールサイズが粒度番号でNo.7以上である」ことについては開示されておらず、また、引用例5?7の技術は、耐遅れ破壊性を改善させるという観点からパーライトノジュールサイズを規定するものではなく、その用途もボルト用でないから、引用例1、2と引用例5?7とを寄せ集めたとしても、本願発明の構成に想到することは、当業者にとって容易ではない旨主張している。
しかしながら、引用例5、6に記載の技術的事項が、耐遅れ破壊性を改善させるという観点からパーライトノジュールサイズを規定するものであるか否か、また、ボルトに関するものであるか否かに関わらず、引用例2の記載から認定した引用発明において、引用例5、6に記載の技術的事項を適用して、パーライトノジュールサイズを粒度番号でNo.7以上とすることが当業者が容易に想到することであることは、上記「(3-2)相違点(ロ)について」において述べたとおりである。
また、本願発明1において、「パーライトのノジュールサイズが粒度番号でNo.7以上」と規定したことによる効果も、格別顕著なものとはいえない。
よって、上記主張は採用できない。

(5)小括
したがって、本願発明1は、引用例2、5、6に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

5.むすび
以上のとおりであるから、その余の発明を検討するまでもなく、本願は、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-05-11 
結審通知日 2007-05-15 
審決日 2007-05-28 
出願番号 特願平10-121542
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C22C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 奥井 正樹小川 武  
特許庁審判長 長者 義久
特許庁審判官 近野 光知
井上 猛
発明の名称 耐遅れ破壊性に優れたボルト用高強度線材およびその製造方法  
代理人 小谷 悦司  
代理人 植木 久一  

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