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審決分類 審判 査定不服 発明同一 特許、登録しない。 H01J
管理番号 1160330
審判番号 不服2004-24761  
総通号数 92 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-08-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-12-02 
確定日 2007-07-12 
事件の表示 平成 9年特許願第328315号「プラズマディスプレイパネルの蛍光体層形成方法」拒絶査定不服審判事件〔平成11年 6月18日出願公開、特開平11-162347〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯 ・本願発明
本願は、平成9年11月28日の出願であって、平成16年10月29日付け(発送日:同年11月2日)で拒絶査定がなされ、これに対して、同年12月2日に拒絶査定不服審判請求がなされたものである。
そして、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成15年10月8日付けの手続補正書により補正された明細書及び図面の記載から見て、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。
「【請求項1】 基板表面に並列に設けられた複数の帯状のリブ間に形成される溝部にノズルを用いて蛍光体ペーストを塗布する塗布工程と、塗布した蛍光体ペーストを焼成する焼成工程とからなり、蛍光体塗布工程の前に、前記蛍光体ペーストに用いられている樹脂および溶剤と同じ樹脂および溶剤を調合した材料で、各溝部の端部に蛍光体ペーストの流出を防止する流出防止壁を形成し、その流出防止壁を蛍光体焼成工程で焼失させることを特徴とするプラズマディスプレイパネルの蛍光体層形成方法。」

2 先願発明
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願日前の平成9年10月30日に出願された他の出願であって、その出願後に出願公開された特願平9-298270号(特開平11-135017号公報参照)の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下、「先願明細書等」という。)には、次の事項が記載されている。

(1)「【請求項2】電極と誘電体ガラス層が設けられたフロントカバープレート(前面ガラス基板)と、電極と蛍光体層が設けられたバックプレート(背面ガラス基板)の少なくとも一方に隔壁が設けられ、それぞれの電極面を所定のギャップを保って相対向させ封着し、内部に放電可能なガス媒体を封入して成るプラズマディスプレイパネルにおいて、前記隔壁内に蛍光体層を形成する際、前記隔壁の一部に設けた蛍光体インクの封止手段、又は、インクノズルから吐出される蛍光体インクの遮断手段の少なくとも一方を配設し、平均粒径が0.5μmから5.0μmの蛍光体粉末とエチルセルロース又はアクリル樹脂と溶剤と分散剤と可塑剤を含む粘度10から1000センチポアズの蛍光体インクを、ノズル径40μmから400μmのノズルから吐出させて隔壁内に塗布した後に焼成することを特徴とするプラズマディスプレイパネルの蛍光体層の形成方法。」

(2)「【請求項4】インクノズルから吐出される蛍光体インクにより隔壁内に蛍光体層を形成する際、互いに隣接する2つの隔壁によって仕切られた空間の両端の少なくとも一方を加熱昇華性樹脂からなる壁を設けて閉じることで前記隔壁内の蛍光体インクの流動を止め、蛍光体インクの封止手段とした請求項2記載のプラズマディスプレイパネルの蛍光体層の形成方法。」

(3)「【請求項17】蛍光体インクが、少なくとも蛍光体粉体とターピネオールと0.1重量%以上、30重量%以下のアクリル樹脂から構成されていることを特徴とする請求項2?15のいずれかに記載のプラズマディスプレイパネルの蛍光体層の形成方法。」

(4)「【0044】・・・隔壁29の両端部には、加熱昇華性樹脂の壁30を形成する。まず、前記した加熱昇華性樹脂からなる壁を設ける方法を説明する。
【0045】加熱昇華性樹脂としては、イソデシルメタアクリレート(重量平均分子量5700±6000)粉末60重量%、溶剤(n-ヘプタン:MIBK=7:1)40重量%で溶かした樹脂材料を作製する。この樹脂材料を80重量%、溶剤(ターピネオール)20重量%で希釈し、ディスペンサーで隔壁29の端部に描画することで加熱昇華性樹脂の壁30を形成する。隔壁29の両端部は、加熱昇華性樹脂の壁30により閉じる形になっている。」

(5)「【0047】・・・しかし、隔壁29の両端部は加熱昇華性樹脂の壁30により閉じているため、隔壁29間の青色蛍光体が隔壁29の外側に漏れ出すことはなく、隣接する隔壁への混色は発生しない。」

(6)「【0048】同様にして、緑色蛍光体Zn2SiO4:Mnのラインを形成した後、500℃で10分間焼成し、蛍光体層を形成する。
【0049】図5は、本実施例で用いたイソデシルメタアクリレート樹脂の熱分解特性である。測定は、空気中(50ml/min)及び窒素中(50ml/min)で、昇温速度10℃/minで行った。熱分解特性の結果、空気中で500℃で10分間焼成すると、完全に熱分解することがわかった。また実際に、本実施例を用いて作製したパネルでも、イソデシルマタアクリレートが原因となる出ガス不良は発生しなかった。
【0050】つぎに、蛍光体層が設けられた背面ガラス基板を、封着用ガラスを用いて前記前面ガラス基板と貼り合わせ、放電ガス封入前に放電空間19を8×10-7Torrの真空度に排気する。前記したように、加熱昇華性樹脂の壁30は熱分解されて除去されているため、放電空間は均一に排気することができる。」

(7)「【0052】なお、本実施例では加熱昇華性樹脂としてイソデシルメタアクリレートを用いたが、アクリル樹脂のように400℃以上で熱分解可能なものであれば使用することができる。」

(8)図面の図3から、「背面ガラス基板26の表面に形成された隔壁27間に形成される溝部にノズル23を用いて蛍光体インク22を塗布している」ことが読み取れる。

(9)図面の図4から、「背面ガラス基板28の表面に形成されたストライプ形状の隔壁29間の各溝部の端部に加熱昇華性樹脂の壁30が形成されている」ことが読み取れる。

上記先願明細書等記載事項(1)-(3)によると、先願明細書等の請求項4は請求項2を引用し、請求項17は請求項4を引用して記載されていることから、先願明細書等の請求項17には、以下の発明が記載されている。
「電極と誘電体ガラス層が設けられた前面ガラス基板と、電極と蛍光体層が設けられた背面ガラス基板の少なくとも一方に隔壁が設けられ、それぞれの電極面を所定のギャップを保って相対向させ封着し、内部に放電可能なガス媒体を封入して成るプラズマディスプレイパネルにおいて、前記隔壁内に蛍光体層を形成する際、前記隔壁の一部に設けた蛍光体インクの封止手段を配設し、蛍光体インクをノズルから吐出させて隔壁内に塗布した後に焼成するプラズマディスプレイパネルの蛍光体層の形成方法であって、蛍光体インクの封止手段として、加熱昇華性樹脂からなる壁を設け、蛍光体インクは蛍光体粉末とターピネオールとアクリル樹脂から構成されていることを特徴とするプラズマディスプレイパネルの蛍光体層の形成方法。」
先願明細書等の特許請求の範囲の記載では、上記加熱昇華性樹脂からなる壁として、どのような材料を用いるのかが不明であるが、加熱昇華性樹脂からなる壁を設けるという、上記請求項4に対応して記載されている実施例2(段落【0042】-【0052】)によると、上記(4)に、上記加熱昇華性樹脂からなる壁の材料として、イソデシルメタアクリレートというアクリル樹脂の樹脂材料を用い、ターピネオールの溶剤で希釈することが記載されており、上記(7)には、加熱昇華性樹脂としてアクリル樹脂のように400℃以上で熱分解可能なものであれば使用することができることも明記されているのであるから、請求項17に記載の、蛍光体インクを蛍光体粉末とターピネオールとアクリル樹脂から構成するものについても、上記加熱昇華性樹脂からなる壁を、アクリル樹脂の樹脂材料をターピネオールの溶剤で希釈した材料により形成することは、先願明細書等に記載されているに等しい事項である。
してみれば、上記先願明細書等記載事項(1)-(9)から、先願明細書等には、次の発明(以下、「先願発明」という)が記載されているものと認められる。

「背面ガラス基板28の表面に形成されたストライプ形状の隔壁29間に形成される溝部にノズル23を用いて蛍光体インク22を塗布する塗布工程と、塗布した蛍光体インク22を焼成する工程とからなり、蛍光体塗布工程の前に、各溝部の端部に蛍光体インク22が隔壁29の外側に漏れ出すことを防止する加熱昇華性樹脂の壁30を形成し、その加熱昇華性樹脂の壁30を熱分解により除去させるプラズマディスプレイパネルの蛍光体層形成方法であって、蛍光体インク22がアクリル樹脂とターピネオールの溶剤を用いて構成され、加熱昇華性樹脂の壁30は、アクリル樹脂の樹脂材料をターピネオールの溶剤で希釈した材料により形成され、また、加熱昇華性樹脂の壁30は、排気前に加熱により熱分解されて除去されていることを特徴とする蛍光体形成方法。」

3 対比
本願発明と先願発明を対比すると、先願発明の「ストライプ形状の隔壁29」、「蛍光体インク」及び「加熱昇華性樹脂の壁30」が、それぞれ、本願発明の「並列に設けられた複数の帯状のリブ」、「蛍光体ペースト」及び「流出防止壁」に相当する。また、先願発明において、加熱昇華性樹脂の壁30を形成するときに、アクリル樹脂の樹脂材料をターピネオールの溶剤で希釈することは、本願発明において、蛍光体ペーストに用いられている溶剤と同じ溶剤を調合することに相当し、先願発明において、加熱昇華性樹脂の壁30が排気前に加熱により熱分解されて除去されていることは、本願発明において、流出防止壁を焼失させることに相当する。

したがって、本願発明と先願発明とは次の点で一致する。
<一致点>
「基板表面に並列に設けられた複数の帯状のリブ間に形成される溝部にノズルを用いて蛍光体ペーストを塗布する塗布工程と、塗布した蛍光体ペーストを焼成する焼成工程とからなり、蛍光体塗布工程の前に、前記蛍光体ペーストに用いられている樹脂および溶剤と同じ樹脂および溶剤を調合した材料で、各溝部の端部に蛍光体ペーストの流出を防止する流出防止壁を形成し、その流出防止壁を焼失させることを特徴とするプラズマディスプレイパネルの蛍光体層形成方法」

一方で両者は次の点で一応相違する。
<相違点>
本願発明が「流出防止壁を蛍光体焼成工程で焼失させる」のに対し、先願発明は、流出防止壁に相当する加熱昇華性樹脂の壁30の焼失が蛍光体焼成工程との明示がない点。

4 当審の判断
上記相違点について検討する。
先願明細書等の上記(6)の記載によると、段落【0048】には、蛍光体層の焼成条件が、500℃で10分間であることが記載され、段落【0049】では、加熱昇華性樹脂の壁30に樹脂材料として使用されているイソデシルメタアクリレート樹脂は、上記蛍光体層の焼成条件と同じ条件で焼成することにより完全に熱分解することが検証され、段落【0050】には、その後の排気工程において、「加熱昇華性樹脂の壁30が熱分解されて除去されることにより均一に排気することができる」ことが記載されている。そうすると、先願発明の加熱昇華性樹脂の壁30は、蛍光体層の焼成工程で完全に焼失してしまうものであると解される。してみれば、先願発明の「塗布した蛍光体インク22を焼成する工程」は、加熱昇華性樹脂の壁30を焼失させる工程であるともいうことができるから、上記相違点は実質的な相違点ではない。

5 むすび
したがって、本願の請求項1に係る発明は、先願明細書等に記載された発明と同一であり、しかも、本願発明の発明者が上記先願明細書等に記載された発明の発明者と同一であるとも、また、本願の出願時に、その出願人が上記他の出願の出願人と同一であるとも認められないので、本願発明は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。
そして、本願の請求項1に係る発明が特許を受けることができないものであるから、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は、拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-05-09 
結審通知日 2007-05-15 
審決日 2007-05-29 
出願番号 特願平9-328315
審決分類 P 1 8・ 161- Z (H01J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 河原 英雄  
特許庁審判長 上田 忠
特許庁審判官 小川 浩史
堀部 修平
発明の名称 プラズマディスプレイパネルの蛍光体層形成方法  
代理人 野河 信太郎  

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