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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C22F
管理番号 1160342
審判番号 不服2005-7615  
総通号数 92 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-08-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-04-27 
確定日 2007-07-12 
事件の表示 特願2003- 46059「輸送機構造材用アルミニウム合金鍛造材の製造方法およびアルミニウム合金鍛造材」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 3月18日出願公開、特開2004- 84058〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成15年2月24日の出願(国内優先権主張、平成14年6月27日)であって、平成16年10月8日付けの拒絶理由通知に応答して平成16年12月14日付けで手続補正がなされたが、平成17年3月18日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成17年4月27日に拒絶査定に対する審判が請求されたものである。

2.本願発明
本願発明は、平成16年12月14日付け手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、そのうちの請求項1及び請求項5に係る発明は、次のとおりのものである(以下、それぞれ「本願発明1」及び「本願発明5」という。)。

「【請求項1】 製品部と、この製品部とフラッシュとの切断面とを有するアルミニウム合金鍛造材の型鍛造による製造方法であって、Mg:0.6?1.8%、Si:0.4?1.8%を含み、更に、Mn:0.01 ?0.9%、Cr:0.01 ?0.25% およびZr:0.01 ?0.20% の一種または二種以上を含むAl-Mg-Si系アルミニウム合金鋳造材を、均質化熱処理後に熱間鍛造を行うに際し、前記製品部の熱間鍛造開始温度を450 ?570 ℃とするとともに、製品部の最終熱間鍛造終了温度を360 ℃以上とし、溶体化および焼き入れ処理と人工時効硬化処理後の鍛造材の、前記製品部と、前記製品部とフラッシュとの切断面の型割り面に対し垂直方向の結晶粒径の内、前記製品部では平均結晶粒径を300 μm 以下とするとともに、前記切断面では最大の結晶粒径を400 μm 以下と各々することを特徴とする輸送機構造材用アルミニウム合金鍛造材の製造方法。」

「【請求項5】 製品部と、この製品部とフラッシュとの切断面とを有するアルミニウム合金鍛造材であって、Mg:0.6?1.8%、Si:0.4?1.8%を含み、更に、Mn:0.01 ?0.9%、Cr:0.01 ?0.25% およびZr:0.01 ?0.20% の一種または二種以上を含み、残部Alおよび不可避的不純物からなり、前記製品部と、前記製品部とフラッシュとの切断面との型割り面に対し垂直方向の結晶粒径の内、前記製品部では平均結晶粒径を300 μm 以下とするとともに、前記切断面では最大の結晶粒径を400 μm 以下と各々することを特徴とする輸送機構造材用アルミニウム合金鍛造材。」

2.原査定の理由の概要
原審の拒絶査定の理由の概要は、次のとおりのものである。
本願の請求項1?6に係る発明は、その出願前頒布された下記刊行物1?5に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

刊行物1:特開2002-60881号公報
刊行物2:特開平11-12675号公報
刊行物3:特開平9-249951号公報
刊行物4:特開平4-341534号公報
刊行物5:特開2000-144296号公報

3.引用刊行物とその記載事項
原審の拒絶査定に引用された特開2002-60881号公報(以下、「引用文献1」という。)には、次の事項が記載されている。

(1a)「【請求項1】 Mg:1.3?4.0質量%、Si:0.2?1.0質量%、Fe:0.1?0.3質量%及びMn:0.1?0.5質量%、Cr:0.05?0.5質量%、Zr:0.05?0.3質量%の何れか1種又は2種以上含み、残部が実質的にAlの組成をもつことを特徴とする鋳造鍛造用アルミニウム合金。
【請求項2】(省略)
【請求項3】 請求項1又は2記載の合金組成をもち、平均粒径が200μm以下の微細均一な再結晶組織からなり、水素ガス含有量が0.30cc/100g以下であるアルミニウム合金鋳造鍛造材。
【請求項4】 請求項1または2記載の組成をもつアルミニウム合金の溶湯を720?760℃で製品形状に近い形状に鋳込み、冷却速度0.3℃/秒以上で冷却し、得られた鋳物を400?500℃に加熱した後、100?450℃に加熱された金型を用い、圧縮率30?70%で、鍛造加工を施すことを特徴とするアルミニウム合金鋳造鍛造材の製造方法。
【請求項5】 鍛造後530?590℃で2?7時間保持し、溶体化処理した後、冷却速度100℃/分以上で200℃まで冷却し、160?250℃で1?8時間保持処理する請求項4記載の製造方法。」(特許請求の範囲)

(1b)「【産業上の利用分野】本発明は、特に高靱性を要求されるサスペンションアーム等の自動車用部品として好適な鋳造鍛造用のアルミニウム合金及び鋳造鍛造材の製造方法に関する。」(段落【0001】)

(1c)「本発明に従ったアルミニウム合金鋳造鍛造材は、平均結晶粒径が200μm以下の均一微細な再結晶組織をもっている。この再結晶組織のために、材質に異方性がなく、安定した特性を呈する鋳造鍛造製品として使用される。因みに、再結晶組織が粗大化していると、機械的強度が低下するばかりでなく、異方性ががあるため靭性も低下する。」(段落【0010】)

(1d)「鍛造温度:400?500℃、金型温度:100?450℃
予成形体は、熱間鍛造に先だって合金元素を極力固溶させるため、400?500℃に加熱される。鍛造に際しては、鍛造金型を材料の大きさ及び加工率との兼ね合いで100?450℃に予熱しておき、圧縮率30?70%で熱間鍛造する。このとき、鍛造上りの材料表面温度が400?500℃となるように加熱条件を選定する。このように熱間鍛造を高温条件に設定することにより、鍛造時の変形抵抗が低下して、鍛造性が良くなり、またCr,Mn系の化合物を微細均一に分布させることができる。その結果、溶体化処理時の再結晶粒の粗大化が防止される。」(段落【0020】)

(1e)「時効処理:160?250℃×1?8時間
Mg,Siを固溶させたアルミニウム合金に160?250℃×1?8時間の時効処理を施すと、Mg2Siの析出により強度が付与される。160?250℃×1?8時間の条件を外れると、強度向上に有効なMg2Siの析出量が確保されず、強度及び耐食性が劣ることにもなる。
【実施例1】表1に示す組成の合金溶湯中にArガスを注入し、溶湯中の水素含有量を0.30cc/100g以下にした後、図2(a)の形状をもつ予成形体に鋳込んだ。得られた鋳物を450℃に加熱した後、200℃に加熱された金型を用い平均圧縮率40%で図2(b)に示す形状の鋳造鍛造品に成形した。そして、570℃で2時間の溶体化処理をした後、水焼入れし、220℃×4時間の時効処理を施した。」(段落【0023】【0024】)

4.当審の判断
4-1.本願発明1に対して
(1)引用発明
引用文献1の(1a)に記載された請求項1を引用した請求項4を更に引用した請求項5を、独立形式で記載したものは次のとおりになる。
「Mg:1.3?4.0質量%、Si:0.2?1.0質量%、Fe:0.1?0.3質量%及びMn:0.1?0.5質量%、Cr:0.05?0.5質量%、Zr:0.05?0.3質量%の何れか1種又は2種以上含み、残部が実質的にAlの組成をもつアルミニウム合金の溶湯を720?760℃で製品形状に近い形状に鋳込み、冷却速度0.3℃/秒以上で冷却し、得られた鋳物を400?500℃に加熱した後、100?450℃に加熱された金型を用い、圧縮率30?70%で、鍛造加工を施し、鍛造後530?590℃で2?7時間保持し、溶体化処理した後、冷却速度100℃/分以上で200℃まで冷却し、160?250℃で1?8時間保持処理するアルミニウム合金鋳造鍛造材の製造方法。」
ここで、金型を用いる鍛造加工は上型と下型からなる金型を用い、鍛造加工を施された鍛造材は、製品となる部分の周辺にフラッシュと呼ばれるバリが形成され、該フラッシュを切断除去して製品とされることは、特開平6-126374号公報、特開平5-349号公報にあるように、本願優先日当時の技術常識であって、このようにして得られた上記アルミニウム合金鋳造鍛造材は、製品部分とフラッシュとの切断面を有するといえる。
また、(1b)の「本発明は、・・・サスペンションアーム等の自動車用部品として好適な鋳造鍛造用のアルミニウム合金・・・に関する。」という記載によれば、鋳造鍛造用アルミニウム合金がサスペンションアーム等の自動車用部品として好適であることが記載されているといえるし、(1c)の「アルミニウム合金鋳造鍛造材は、平均結晶粒径が200μm以下の均一微細な再結晶組織をもっている。」という記載によれば、上記アルミニウム合金鋳造鍛造材は、平均結晶粒径が200μm以下の均一微細な再結晶組織をもっていることが記載されているといえる。
更に、(1d)の「鍛造に際しては、・・・鍛造上りの材料表面温度が400?500℃となるように加熱条件を選定する。」という記載によれば、鍛造上りの材料表面温度が400?500℃となるように加熱条件を選定することが記載されているといえる。
そして、(1a)の「冷却速度100℃/分以上で200℃まで冷却」する工程は、(1e)の「570℃で2時間の溶体化処理をした後、水焼入れし、220℃×4時間の時効処理を施した。」という記載によれば、「水焼入れ」のことであり、同じく「160?250℃で1?8時間保持処理する」工程は、(1e)の「時効処理:160?250℃×1?8時間」という記載によれば、「時効処理」のことである。

上記記載及び認定事項を本願発明の記載ぶりに則って整理すると、引用文献1には、次のとおりの発明が記載されているといえる。

「製品部と、この製品部とフラッシュとの切断面とを有するアルミニウム合金鍛造材の製造方法であって、Mg:1.3?4.0質量%、Si:0.2?1.0質量%、Fe:0.1?0.3質量%及びMn:0.1?0.5質量%、Cr:0.05?0.5質量%、Zr:0.05?0.3質量%の何れか1種又は2種以上含み、残部が実質的にAlの組成をもつアルミニウム合金の鋳物を400?500℃に加熱した後、金型を用い、鍛造上りの材料表面温度が400?500℃となるように加熱条件を選定して鍛造加工を施し、鍛造後530?590℃で2?7時間保持し、溶体化処理した後、水焼入れし、時効処理する、平均結晶粒径が200μm以下の均一微細な再結晶組織をもち、サスペンションアーム等の自動車用部品に用いる、アルミニウム合金鋳造鍛造材の製造方法。」(以下、「引用発明1-1」という。)

(2)本願発明1と引用発明1-1との対比
まず、引用発明1-1の「質量%」、「鋳物」、「鍛造加工」、「鋳造鍛造材」、「水焼入れ」、「時効処理」及び「サスペンションアーム等の自動車用部品に用いる」は、それぞれ、本願発明1の「%」、「鋳造材」、「熱間鍛造」、「鍛造材」、「焼き入れ」、「人工時効硬化処理」及び「輸送機構造材用」に相当し、また、引用発明1-1の「金型を用い・・・鍛造加工を施し」は、本願発明1の「型鍛造」に相当するといえる。
また、引用発明1-1のアルミニウム合金は、主たる構成元素が、残部成分のAl、1.3?4.0質量%のMg、0.2?1.0質量%のSiであるから、本願発明1の「Al-Mg-Si系アルミニウム合金」に相当するといえる。
そして、引用発明1-1では、アルミニウム合金の鋳物を400?500℃に加熱した後、鍛造加工するので、この「400?500℃」は、熱間鍛造を開始する時点でのアルミニウム合金の温度であるから、本願発明1の「熱間鍛造開始温度」に相当し、両者は、450?500℃の範囲で重複する。
更に、引用発明1-1の「再結晶組織」に関して、上記(1c)には「本発明に従ったアルミニウム合金鋳造鍛造材は、平均結晶粒径が200μm以下の均一微細な再結晶組織をもっている。この再結晶組織のために、材質に異方性がなく、安定した特性を呈する鋳造鍛造製品として使用される。」と記載されており、鋳造鍛造製品の再結晶組織は、特定方向に限らず、平均結晶粒径が200μm以下であるといえるから、型割り面に対し垂直方向の平均結晶粒径も200μm以下であるといえる。そして、この「再結晶組織」は、上記鍛造加工、溶体化処理、水焼入れ、及び時効処理などの工程によって得られた鋳造鍛造材の結晶組織のことであるから、本願発明1の「結晶」に相当し、引用発明1の「再結晶組織の平均結晶粒径が200μm以下」と本願発明1の「製品部では平均結晶粒径を300 μm 以下」とは、平均結晶粒径が200μm以下の範囲で重複する。

そうすると、本願発明1と引用発明1-1は、「製品部と、この製品部とフラッシュとの切断面とを有するアルミニウム合金鍛造材の型鍛造による製造方法であって、Mg:1.3?1.8%、Si:0.4?1.0%を含み、更に、Mn:0.1?0.5%、Cr:0.05?0.25%、Zr:0.05?0.2%の1種又は2種以上を含むAl-Mg-Si系アルミニウム合金鋳造材を、熱間鍛造を行うに際し、前記製品部の熱間鍛造開始温度を450?500℃とし、溶体化および焼き入れ処理と人工時効硬化処理後の鍛造材の、前記製品部と、前記製品部とフラッシュとの切断面の型割り面に対し垂直方向の結晶粒径の内、前記製品部では平均結晶粒径を200μm以下とする輸送機構造材用アルミニウム合金鍛造材の製造方法」である点で一致し、次の点で一応相違する。

相違点:
(1-イ)本願発明1では「均質化熱処理後に熱間鍛造を行う」のに対して、引用発明1-1では、熱間鍛造前に均質化熱処理するかどうか不明である点。
(1-ロ)本願発明1では「製品部の最終熱間鍛造終了温度を360℃以上と」するのに対して、引用発明1-1では製品部の最終熱間鍛造終了温度が不明である点。
(1-ハ)本願発明1では「前記製品部とフラッシュとの切断面の型割り面に対し垂直方向の結晶粒径の内」「前記切断面では最大の結晶粒径を400μm以下」とするのに対して、引用発明1-1ではそのような特定がない点。

(3)相違点についての判断
そこで、上記相違点について検討する。
(3-1)相違点(1-イ)について
鋳造材を型鍛造する前に、これを所定温度に加熱保持して均質化熱処理を行い、偏析の多い鋳造組織を均質化することは、例えば、特開平9-249951号公報にあるように、本願優先日前に当業者間で周知の事項である。そうすると、引用発明1-1において、均質化熱処理した後に熱間鍛造を行うことは当業者が容易に想到し得たことである。
したがって、上記相違点(1-イ)は、当業者が容易に想到し得たことであるといえる。

(3-2)相違点(1-ロ)について
引用文献1の(1d)には、「鍛造に際しては、鍛造金型を・・・予熱しておき、・・・熱間鍛造する。このとき、鍛造上りの材料表面温度が400?500℃となるように加熱条件を選定する。このように熱間鍛造を高温条件に設定することにより、鍛造時の変形抵抗が低下して、鍛造性が良くなり、」と記載されており、鍛造の終了を意味する「鍛造上り」時点での材料表面温度が、本願発明1の「360℃以上」に含まれる400?500℃の範囲の高温となる条件で鍛造することによって、鍛造時の変形抵抗を低下させることについて記載されているといえる。
そうすると、引用発明1-1は、鍛造工程で温度が最も低下する最終熱間鍛造終了時点においても、400?500℃の範囲の温度となるように鋳造材の温度制御をするものであるといえる。
よって、相違点(1-ロ)は、実質的な差異ではないといえる。

(3-3)相違点(1-ハ)について
上記4-1(2)で述べたように、引用発明1-1における鋳造鍛造製品の再結晶組織は、型割り面に対し垂直方向の平均結晶粒径が200μm以下であるといえる。
また、上記(1c)の「再結晶組織が粗大化していると、機械的強度が低下するばかりでなく、異方性があるため靭性も低下する」、及び(1d)の「熱間鍛造を高温条件に設定することにより、・・・その結果、溶体化処理時の再結晶粒の粗大化が防止される。」という記載から、引用発明1-1は、再結晶粒が粗大化して強度及び靭性が低下するのを防止するものであるといえる。更に、アルミニウム合金において、結晶粒の粗大化により耐応力腐食割れ性が低下することは、特開平8-225874号公報、特開平10-30147号公報、特開平2-70044号公報にあるように、本願優先日前に周知の技術事項である。
そして、製品の表面の一部を構成する製品部とフラッシュとの切断面が、製品部の表面と同様に、優れた強度、靭性及び耐食性を求められることは、当業者にとって明らかなことである。
そうすると、引用発明1-1において、鋳造鍛造材の強度、靭性、および耐応力腐食割れ性を向上させるために、製品部とフラッシュとの切断面での結晶粒径に上限値を設けることは当業者が容易に想到し得たことであり、その上限値として、上記「平均結晶粒径が200μm以下」の「200μm」を包含する400μm以下に設定することは、当業者が適宜行うことである。
よって、上記相違点(1-ハ)は、当業者が容易に想到し得たことであるといえる。

(4)本願発明1についての小括
したがって、上記相違点(1-ロ)は、実質的に差異がないといえるし、上記相違点(1-イ)及び(1-ハ)は当業者が容易に想到し得たことといえるから、本願発明1は、引用発明1-1及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものといえる。

4-2.本願発明5について
(1)引用発明
引用文献1の(1a)の請求項1を引用した請求項3を独立形式で記載したものは次のとおりになる。
「Mg:1.3?4.0質量%、Si:0.2?1.0質量%、Fe:0.1?0.3質量%及びMn:0.1?0.5質量%、Cr:0.05?0.5質量%、Zr:0.05?0.3質量%の何れか1種又は2種以上含み、残部が実質的にAlの合金組成をもち、平均粒径が200μm以下の微細均一な再結晶組織からなり、水素ガス含有量が0.30cc/100g以下であるアルミニウム合金鋳造鍛造材。」
また、上記4-1(1)で述べたように、引用文献1に記載の鋳造鍛造材が、製品部及びこの製品部とフラッシュとの切断面を有することは、本願優先日当時の技術常識である。

上記記載を本願発明5の記載ぶりに則って整理すると、引用文献1には、次のとおりの発明が記載されているといえる。

「製品部と、この製品部とフラッシュとの切断面とを有するアルミニウム合金鋳造鍛造材であって、Mg:1.3?4.0質量%、Si:0.2?1.0質量%、Fe:0.1?0.3質量%及びMn:0.1?0.5質量%、Cr:0.05?0.5質量%、Zr:0.05?0.3質量%の何れか1種又は2種以上含み、残部が実質的にAlの合金組成をもち、平均粒径が200μm以下の微細均一な再結晶組織からなり、水素ガス含有量が0.30cc/100g以下である、サスペンションアーム等の自動車用部品に用いる、アルミニウム合金鋳造鍛造材。」(以下、「引用発明1-2」という。)

(2)本願発明5と引用発明1-2との対比
上記4-1(2)で述べたように、引用発明1-2の「質量%」、「鋳造鍛造材」及び「サスペンションアーム等の自動車用部品に用いる」は、それぞれ、本願発明1の「%」、「鍛造材」及び「輸送機構造材用」に相当するし、引用発明1-2の「平均粒径」は、本願発明5の「平均結晶粒径」に相当するから、引用発明1-2の「平均粒径が200μm以下」と、本願発明5の「前記製品部・・・の型割り面に対し垂直方向の結晶粒径の内、前記製品部では平均結晶粒径を300 μm 以下」とは、200μm以下の範囲で重複する。
そうすると、両者は「製品部と、この製品部とフラッシュとの切断面とを有するアルミニウム合金鍛造材であって、Mg:1.3?1.8%、Si:0.4?1.0%を含み、更に、Mn:0.1?0.5%、Cr:0.05?0.25%、Zr:0.05?0.2%の1種又は2種以上を含み、残部Alおよび不可避的不純物からなり、前記製品部と、前記製品部とフラッシュとの切断面の型割り面に対し垂直方向の結晶粒径の内、前記製品部では平均結晶粒径を200μm以下とする輸送機構造材用アルミニウム合金鍛造材」である点で一致し、次の点で一応相違する。

相違点:
(2-イ)本願発明5では「前記製品部とフラッシュとの切断面の型割り面に対し垂直方向の結晶粒径の内」「前記切断面では最大の結晶粒径を400μm以下」としているのに対して、引用発明1-2では、そのような特定がない点。
(2-ロ)本願発明5では、水素ガス含有量に関する特定はないのに対して、引用発明1-2では、「水素ガス含有量が0.30cc/100g以下である」点。

(3)相違点についての判断
そこで、上記相違点について検討する。
相違点(2-イ)は、上記4(3-3)で述べたように、当業者にとって容易に想到し得たことである。また、本願発明5は、水素ガス含有量に関する特定はないが、「水素ガス含有量が0.30cc/100g以下」のものを包含するから、上記相違点(2-ロ)は、両者の実質的な差異ではないといえる。

(4)本願発明5についての小括
したがって、上記相違点(2-ロ)は、実質的な差異ではないといえるし、上記相違点(2-イ)は当業者が容易に想到し得たことといえるから、本願発明5は、引用発明1-2及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものといえる。

5.むすび
以上のとおり、本願発明1及び5は、引用発明および周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-05-10 
結審通知日 2007-05-15 
審決日 2007-05-28 
出願番号 特願2003-46059(P2003-46059)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C22F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小川 武  
特許庁審判長 長者 義久
特許庁審判官 近野 光知
平塚 義三
発明の名称 輸送機構造材用アルミニウム合金鍛造材の製造方法およびアルミニウム合金鍛造材  
代理人 梶 良之  

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