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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01N |
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管理番号 | 1160346 |
審判番号 | 不服2005-8336 |
総通号数 | 92 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2007-08-31 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2005-05-06 |
確定日 | 2007-07-12 |
事件の表示 | 平成10年特許願第235723号「抗原抗体反応物質の測定方法および測定装置」拒絶査定不服審判事件〔平成12年3月3日出願公開、特開2000-65830〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.本願発明 本願は、平成10年8月21日の出願であって、その請求項1ないし6に係る発明は、平成16年12月20日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるものと認められ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という)は次のとおりである。 「【請求項1】採取した血液から血球を分離することなく血液中の所定の抗原または抗体の濃度を測定する抗原抗体反応物質の測定方法において、 前記所定の抗原または抗体に対する抗体または抗原が感作された不溶性担体粒子を分散した溶液と、採取した血液と、少なくとも非イオン性界面活性剤が混合されて成る溶液とを反応セルに同時に注入し混合あるいは任意の順に注入し混合して、この反応混合物の液体に光を照射し、 その透過光量に基づいて前記血液中の前記所定の抗原または抗体の濃度を定量し、 前記非イオン性界面活性剤は、 【化1】 ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル (化学式は省略) または、ポリオキシエチレンアルキルエーテル (化学式は省略) であることを特徴とする抗原抗体反応物質の測定方法。」 2.引用刊行物の記載 原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1及び2には、次の事項が記載されている。 (1)刊行物1:特開平9-274041号公報 (1a)抗原抗体反応物質の測定方法(特許請求の範囲) 「【請求項1】採取した血液中の所定の抗原または抗体の濃度を測定する抗原抗体反応物質の測定方法において、 採取した血液に界面活性剤を注入して撹拌し、この液体に安定化剤、緩衝液、前記所定の抗原または抗体に対する抗体または抗原が感作されたラテックス液を注入して撹拌した後、この液体に光を照射し、その透過光量に基づいて前記血液中の前記所定の抗原または抗体の濃度を測定することを特徴とする抗原抗体反応物質の測定方法。」 (1b)発明の目的(明細書段落【0004】) 「【0004】本発明はこのような従来の欠点に鑑みなされたもので、その目的は、採取した血液を遠心分離することなく、かつ血液成分検査に用いるのと同じ検体を用いてその血液中の抗原抗体反応を生じる物質の濃度を測定することである。」 (1c)界面活性剤による溶血、感作ラテックスとの反応(明細書段落【0010】?【0014】) 「【0010】本実施の形態では抗原抗体反応を生じるある物質Xの血液中濃度を測定する方法について説明する。 【0011】まず検査者は、試料セル3に、採取した血液と界面活性剤とを混合、撹拌したものを収容する。この界面活性剤によって血液は溶血する。すなわちここで赤血球の中に含まれているヘモグロビンが溶出する。 【0012】次に検査者は、試料セル3に安定化剤、緩衝液を注入して撹拌する。そして検査者はブランク測定を行う。すなわち検査者は抗原抗体反応を生じさせる前のこの試料セル3中の液体に分光器2からの光を吸収させ、表示器7の表示が所定値を示し安定しているかを確認する。 【0013】検査者は、上記表示が安定していることを確認すると、物質Xに対して抗原抗体反応を生じさせる感作ラテックス液を試料セル3に注入して撹拌する。 【0014】このときバラバラに分散した感作ラテックス(抗体あるいは抗原を結合させたラテックス)は抗原抗体反応により凝集し、見かけ上の粒径が増大する。凝集反応の進行に伴い、凝集塊が生長して見かけ上の粒径が増大すれば、その透過光量が減少する。このようなラテックス凝集反応による粒径増大の程度は、検体中に含まれる抗原または抗体の濃度により決まる。従って透過光量は検体中に含まれる抗原または抗体の濃度に依存する(検査と技術、vol.12,no.7,1984年7月、第583頁右欄最下行?第584頁左欄第34行参照)。」 (1d)透過光量測定による物質濃度の測定(明細書段落【0015】?【0019】) 「【0015】次に検査者はこの試料セル3に分光器2からの光を透過させ、直ちに表示器7の表示を読取り、さらにこの時点aから所定時間t1経過後の時点bにおいて、表示器7の表示を読取り、それぞれの値を記録する。これにより各時点における透過光量Ita,Itb の対数値LogIta,LogItb が得られる。 【0016】吸光度A は一般に入射光量をIo、透過光量をItとすると、A=Log(Io/It)で表されるから、透過光量がIta からItb に変化したときその吸光度の変化分ΔA はΔA=Log(Ita/ Itb) =LogIta-LogItbを計算して求めることができる。 【0017】次に検査者は、吸光度の変化分と濃度の関係を示す物質Xの検量線を参照し、求めたΔA に対応する濃度を求める。 【0018】ここで検量線は、上記採取した血液の代わりに、物質Xの濃度がそれぞれ異なり、それぞれの濃度が既知であるn種の血清すなわちn種の標準液について、上記と同様にして吸光度の変化分ΔA1,ΔA2,ΔA3,……,ΔAnを求め、これにより吸光度の変化分と濃度との関係の回帰直線を作成すれば、図2のように求めることができる。 【0019】上記の例では、全血の透過光測定により求めたΔAから直接に検量線を参照して物質Xの濃度を求めている。しかし、この検量線は血清の標準液に基づいて作成されたものである。そして、全血(赤血球を含んでいる)中の物質Xの濃度は、血清(赤血球を含んでいない)中の物質Xの濃度よりも薄い。このため上記ΔAから直接に上記の検量線を参照して物質Xの濃度を求めるならば、実際の物質Xの濃度とは若干の誤差が生じる。そこで、このΔAを補正して、血清中の物質Xの濃度に対応する値に変換し、この値を用いて上記検量線を参照し物質Xの濃度を求める。この補正は、予め測定して求めたヘマトクリット値HCTを用いる次の関係式により行う。 (補正後のΔA)=ΔA×{100/(100-HCT)}…(1) このようにすればより正確に物質Xの濃度を求めることができる。」 (1e)CRP濃度を求める場合の好適な試薬(明細書段落【0020】?【0021】) 「【0020】上記の方法を用いて血液中のCRP濃度を求める場合に、好適な結果が得られる、試薬、分量、光波長を以下に記す。 【0021】試薬 (1)検量線作成用標準液;エルピアエースCRP標準品0,1.5,3.5,7.0,14.0 mg/dl(ダイアヤトロン社製、商品名) (2)ラテックス液、安定化剤;エルピアエースCRP-L(キット)(ダイアヤトロン社製、商品名) ラテックス液;抗ヒトCRP感作ラテックス 安定化剤;ウシ血清アルブミン含有トリス-HClバッファ (3)緩衝液;共通バッファ、0.9%NaCl含有緩衝液 (4)界面活性剤;ラウリル硫酸ナトリウム[アニオン性(-) 界面活性剤]」 (2)刊行物2:特開昭60-47962号公報 (2a)抗原または抗体量の測定方法(特許請求の範囲) 「(1)全血検体に溶血剤と抗原または抗体感作担体浮遊液とを加え、その凝集反応を追跡することを特徴とする血中の抗原または抗体量の測定方法。」 (2b)溶血剤とその使用方法(2頁左上欄15行?末行) 「上記方法において溶血剤としてはサポニンや各種の界面活性剤が使用される。溶血剤は凝集反応に先立って予め全血に加え、赤血球を溶解してもよく、あるいは抗原または抗体感作担体浮遊液に約0.2?2%の濃度で加えておき、凝集反応の際に赤血球を溶解させてもよい。」 (2c)凝集反応の追跡(2頁右上欄4行?11行) 「凝集反応の追跡は常法に従って行なわれる。即ち、全血1滴をスライドグラス上に滴下し、これに溶血剤および抗原または抗体感作担体浮遊液の1滴を加え木の棒でよく混和し、およそ20×25mmぐらいにひろげる。スライドグラスを両手にもち、1分間ゆり動かした後凝集の有無を肉眼で判定する。その際赤血球は溶解しているので凝集判定の阻げにならない。」 3.本願発明と刊行物1記載の発明との対比 刊行物1の特許請求の範囲請求項1に記載された方法(前記記載(1a)参照)において、「採取した血液」が血球を分離していない血液であることは前記記載(1b)より明らかであり、また、採取した血液と界面活性剤とを混合、撹拌し、さらに安定化剤、緩衝液、感作ラッテクス液が注入され撹拌混合される容器、すなわち前記記載(1c)における「試料セル3」は、その中で凝集反応が生じるものであるから、「反応セル」に相当する。 そこで、本願発明と刊行物1の特許請求の範囲請求項1に記載された方法の発明(以下、「刊行物1記載の発明」という)とを対比すると、両者の一致点及び相違点は下記のとおりである。 (一致点) 「採取した血液から血球を分離することなく血液中の所定の抗原または抗体の濃度を測定する抗原抗体反応物質の測定方法において、 前記所定の抗原または抗体に対する抗体または抗原が感作された不溶性担体粒子を分散した溶液と、採取した血液と、界面活性剤とを反応セルに注入し混合して、この反応混合物の液体に光を照射し、 その透過光量に基づいて前記血液中の前記所定の抗原または抗体の濃度を定量する抗原抗体反応物質の測定方法。」である点。 (相違点1) 感作不溶性担体粒子を分散した溶液と採取した血液と界面活性剤の反応セルへの注入、混合に際して、本願発明では、「前記所定の抗原または抗体に対する抗体または抗原が感作された不溶性担体粒子を分散した溶液と、採取した血液と、少なくとも非イオン性界面活性剤が混合されて成る溶液とを反応セルに同時に注入し混合あるいは任意の順に注入し混合」しているのに対し、刊行物1記載の発明では、「採取した血液に界面活性剤を注入して撹拌し、この液体に安定化剤、緩衝液、前記所定の抗原または抗体に対する抗体または抗原が感作されたラテックス液を注入して撹拌して混合」している点。 (相違点2) 使用する界面活性剤が、本願発明では、「非イオン性界面活性剤」であって、【化1】に示された一般式を有するポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルまたはポリオキシエチレンアルキルエーテルであるのに対し、刊行物1記載の発明では、非イオン性界面活性剤を使用することも、その中で【化1】に示された一般式を有するポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルまたはポリオキシエチレンアルキルエーテルを使用することも記載されていない点。 4.相違点についての検討 これらの相違点について検討する。 (1)相違点1について 刊行物2には、本願発明と同じく、凝集反応を利用して全血検体(すなわち採取した血液から血球を分離していない)中の抗原または抗体量を測定する方法が記載されており(前記記載(2a)参照)、凝集反応に先立って界面活性剤(溶血剤)を全血検体に加え、まず赤血球を溶解する方法だけでなく、抗体または抗原が感作された不溶性担体粒子を分散した溶液と界面活性剤とが予め混合されて成る試薬溶液を採取した血液に加え、凝集反応時に溶血を行わせるという方法も記載されている(前記記載(2b)参照)。 そして、測定しようとする所定の抗原または抗体に対する抗体または抗原が感作された不溶性担体粒子を分散した溶液と界面活性剤とが混合されて成る試薬溶液を、採取した血液を注入した反応セルに注入して混合し、界面活性剤による溶血と凝集反応を1段階的に行わせるという上記の態様は、相違点1の複数の界面活性剤による溶血と凝集反応を行う際の形態のうちの「前記所定の抗原または抗体に対する抗体または抗原が感作された不溶性担体粒子を分散した溶液と、採取した血液と、少なくとも界面活性剤が混合されて成る溶液とを反応セルに任意の順に注入し混合」するという形態に相当するものである。 また、刊行物2記載の方法は、刊行物1記載の発明のように透過光量を測定して凝集反応を追跡するものではなく、肉眼で凝集反応の追跡を行うものであるが(前記記載(2c)参照)、溶血のための操作が特にこのような方法に特有のものであると当業者が考えるべき記載が刊行物2に存在するわけでもないから、刊行物1記載の方法において、刊行物2に教示される界面活性剤による溶血と凝集反応とを1段階的に行わせる形態を採用して、測定しようとする所定の抗原または抗体に対する抗体または抗原が感作された不溶性担体粒子を分散した溶液と界面活性剤とが混合されて成る試薬溶液を採取した血液を注入した反応セルに注入して混合し、界面活性剤による溶血と凝集反応を1段階的に行わせるようなことは、当業者が容易に採用してみる事項にすぎないものである。 (2)相違点2について 刊行物1記載の発明の実施例においては界面活性剤として「ラウリル硫酸ナトリウム[アニオン性(-)界面活性剤]」が用いられているが(前記記載(1e)参照)、このようなアニオン性界面活性剤ばかりでなく、請求人も認めているように【化1】の一般式で示される非イオン性界面活性剤も溶血剤として周知のものである(例えば、「薬学雑誌」Vol.86(1966),No.3,251?253、特開平2-31162号公報【特許請求の範囲】、特開平6-207942号公報【0026】、特開平10-227793号公報【0012】等参照)。 また、刊行物2にも「上記方法において溶血剤としてはサポニンや各種の界面活性剤が使用される。」(前記記載(2b)参照)と記載されているように、化学構造や性質が異なる数多くの界面活性剤の中から溶血剤として適当なものを選択することは普通に行われていることであり、溶血と凝集反応とを一段階で行い刊行物1のように透過光量を測定して凝集反応を追跡する方法においても、溶血剤として周知の非イオン性界面活性剤の中から適当なものを選択することは、当業者であれば容易になし得る技術的創作活動の範囲内の事項である。 そして、本願発明において用いられている【化1】の一般式で示される非イオン性界面活性剤は、一般式中のオキシエチレン基の繰り返し数nも特定されておらず、かつアルキル基も炭素数mが1から18という広範囲の物質を含むものであるから、その効果についてみても、他の一般式のものを使用した場合と比較して格別のものであるとは認められない。 6.むすび したがって、本願発明は、本願出願前国内において頒布された上記刊行物1、2に記載された発明及び本願出願前周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2007-05-08 |
結審通知日 | 2007-05-15 |
審決日 | 2007-05-28 |
出願番号 | 特願平10-235723 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(G01N)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 三木 隆 |
特許庁審判長 |
鐘尾 みや子 |
特許庁審判官 |
秋月 美紀子 黒田 浩一 |
発明の名称 | 抗原抗体反応物質の測定方法および測定装置 |
代理人 | 本田 崇 |