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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16C
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16C
管理番号 1160349
審判番号 不服2005-13714  
総通号数 92 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-08-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-07-19 
確定日 2007-07-12 
事件の表示 平成 9年特許願第 88087号「転がり軸受」拒絶査定不服審判事件〔平成10年10月20日出願公開、特開平10-281166〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯の概要
本願は、平成9年4月7日の出願であって、平成17年6月15日(起案日)付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成17年7月19日(受付日)に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、平成17年7月27日(受付日)付けで手続補正がなされたものである。

2.平成17年7月27日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成17年7月27日付けの手続補正を却下する。

[理由]
(1)補正後の請求項1に係る発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「【請求項1】転動体が転動接触する内輪と外輪の両方の軌道輪がポリエーテルサルフォン(PES)で形成されている、ことを特徴とする転がり軸受。」
と補正された。(なお、下線部は、請求人が付与した本件補正による補正箇所を示す。)

上記特許請求の範囲の請求項1に係る補正は、出願当初の明細書記載に基づき、平成17年5月13日(受付日)付けの手続補正で補正された請求項2に係る発明の転動体が転動接触する軌道輪について「内輪と外輪の両方の」との限定を付加するものであって、平成15年改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成15年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に適合するか)について、以下に検討する。

3.引用刊行物の記載事項
<刊行物1>
原査定の拒絶理由に引用された、本願の出願日前に頒布された刊行物である特開平5-288220号公報(以下、「刊行物1」という。)には、主として小型軸受であって、滑り軸受と転がり軸受の両方の機能を合わせ持つ兼用型軸受に関して、下記の事項ア及びイが図面とともに記載されている。
ア;「【従来の技術】一般に転がり軸受は、荷重を受ける機構としてインナーレースとアウターレースの間でボールが転がり運動を行うことを特徴としている。その代表例として図8の玉軸受、図9の円筒コロ軸受がある。また、針状コロ軸受では、針状コロが、インナーレースとアウターレース、あるいはアウターレースと軸との間で転がり運動を行う。その例として、図10のシェル形針状コロ軸受、図11のインナーレースとアウターレースを有するソリッド形針状コロ軸受がある。一方、滑り軸受は、荷重を受ける軸受面が軸との間で相対的な滑り運動を行う。図12はその一例としてのブッシュ形状のものである。」(第2頁1欄28行?39行;段落【0002】参照)

イ;「【課題を解決するための手段】この目的の下で、金属製外筒、プラスチック製内筒、および該内外両筒の間に介装された複数の鋼線製転動子を主部材として構成され、プラスチック製内筒の外周面に、軸受の軸線に沿う方向に延在するとともに相互に平行である複数の転動子保持溝が形成されており、転動子が外筒との接触関係で自転可能に転動子保持溝内に収容されている滑り・転がり兼用型軸受が提供される。従来、転動子(コロ)の保持部材は、針状コロ軸受にあっては、もっぱら針状コロの位置を固定するために使用されている。本発明者は、この保持器に着眼し、保持器と内輪を兼ねた内筒構造を採用し、プラスチック製内筒に設けた転動子保持溝内に、耐摩耗性の良好な鋼線製転動子を収容し、かつ荷重を受け回転することによって、該転動子を外筒との接触関係で荷重の伝達を行わせるようになしたものである。本発明構造によれば、回転軸上に外嵌されたプラスチック製内筒が回転すると、内筒外周面上の保持溝と鋼(例、オーステナイト系ステンレス鋼)製外筒との間における摩擦力の差によって転動子がわずかに回転し、局部摩耗を生じることなく耐摩耗性の向上を計ることができる。本発明構造では、被支承軸が直接転動子と接触することがないため、従来の転がり軸受に使用されている焼入れ処理された内輪あるいは焼入れ処理された軸が不要になる。また、最近の高強度プラスチックの出現によって内周の肉厚を薄く設計して、滑り軸受の肉厚に近い寸法を得ることが可能になった。本発明の外周をオーステナイト系ステンレス鋼で形成するのは腐食問題に対して有効である。また、プラスチック製内筒は、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルサルホフォン(PES)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリアセタール(POM)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリアミドイミド(PAI)のいずれかでこれを形成し、更にこれら主成分に固体潤滑剤、フッ素樹脂、繊維材料、金属酸化物、金属フッ化物、セラミックス等の充填剤を添加したものを使用することも可能であり、繊維強化樹脂の使用は好適である。転動子は、オーステナイト系ステンレス鋼線、軸受鋼線、ピアノ線等でこれを形成し得る。」(第2頁2欄41行?第3頁3欄28行;段落【0005】参照)
なお、上記記載事項ウの中で「ポリエーテルサルホフォン(PES)」との記載は、「ポリエーテルサルフォン(PES)」の誤記と認められるので、以後、「ポリエーテルサルフォン(PES)」として記載する。

<刊行物2>
同じく引用された、本願の出願日前に頒布された刊行物である特開平5-202943号公報(以下、「刊行物2」という。)には、半導体製造装置用玉軸受に関して、下記の事項ウが図面とともに記載されている。
ウ;「半導体製造装置においては、潤滑剤の蒸発や散乱が防止されなければならないので、無潤滑玉軸受が使用される。この発明による半導体製造装置の搬送部等に使用される無潤滑玉軸受は、図1に示すように、軌道輪、即ち外輪5及び内輪6の両方、又は緩く嵌着されている方の軌道輪が高機能樹脂であるPEEK(ポリエーテルエーテルケトン)材で成形され(PEEK材でないほうの軌道輪は、ステンレス鋼である)、玉7は、少なくとも表面がPTFE等の合成樹脂、金、銀、銅、鉛等の軟質金属、又は二硫化モリブデン等の層状固体潤滑材の潤滑膜で形成される鋼球か、又は全体が実開昭63-22425号公報で示されているようなカーボン球であり、保持器8がフッ素樹脂、又はステンレス鋼で成形されている。」(第2頁2欄30行?43行;段落【0011】参照)

(3)対比・判断
刊行物2に記載された上記記載事項ウからみて、軌道輪としての外輪5及び内輪6の両方を高機能樹脂であるPEEK(ポリエーテルエーテルケトン)で形成した玉軸受(転がり軸受)は、本願出願前当業者に普通に知られた玉軸受にすぎないものである。

そこで、本願補正発明の用語を使用して本願補正発明と刊行物2に記載された発明とを対比すると、両者は、「転動体が転動接触する内輪と外輪の両方の軌道輪が(高機能)樹脂で形成されている転がり軸受。」で一致しており、下記の点で相違している。

相違点;本願補正発明では、軌道輪を形成する(高機能)樹脂がポリエーテルサルフォン(PES)であるのに対して、刊行物2に記載された発明では、軌道輪を形成する高機能樹脂がPEEK(ポリエーテルエーテルケトン)である点。

上記相違点について検討するに、刊行物1には、転動子を有する滑り・転がり兼用型軸受についての発明ではあるが、保持器と内輪を兼ねた内筒に使用する(高機能)樹脂としてポリエーテルエーテルケトン(PEEK)やポリアセタール(POM)等とともにポリエーテルサルフォン(PES)を採用できることが記載されている。
そして、刊行物1に記載された上記事項を知り得た当業者であれば、ポリエーテルサルフォン(PES)がポリエーテルエーテルケトン(PEEK)と同様に転がり軸受の軌道輪を形成するための樹脂として採用できることは普通に理解できる事項と認められる。
してみると、刊行物1及び刊行物2に記載された上記事項を知り得た当業者であれば、転がり軸受の使用環境及び樹脂特性を適宜考慮して、軸受の構成部材に採用することができる各種高機能樹脂の中からポリエーテルサルフォン(PES)を選択して上記相違点に係る本願補正発明の構成とすることは、必要に応じて容易に想到することができる程度のものであって、格別創意を要することではない。

また、本願補正発明の効果について検討しても、刊行物1及び刊行物2に記載された事項から当業者であれば予測することができる程度のものであって、格別のものとはいえない。

したがって、本願補正発明は、刊行物1及び刊行物2に記載された発明にも基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

ところで、請求人は、審判請求書中で、「引用文献1(上記刊行物1)のプラスチック製内筒を、仮に審査官殿のご指摘のとおり内輪と考え、転がり軸受に適用した場合、『転動体が転動接触する内輪の軌道輪がポリエーテルサルフォン(PES)で形成され、外輪の軌道輪が金属製外筒で形成されている』ことを特徴とする転がり軸受となります。このような転がり軸受では、金属の熱膨張係数がポリエーテルサルフォンの熱膨張係数より小さいため、高温になると、内輪の径方向膨張が外輪の径方向膨張より大きくなり、軸受内部隙間が詰まり易く、トルクの増大や焼付きが生じることになります。このように、引用文献1の構成を転がり軸受に適用しましても、本願発明の構成にはならず、高温になったときの隙間詰まりによるトルクの増大や焼付きの問題が生じるうえ、引用文献1の構成は転がり軸受でないことから、引用文献1から本願請求項1?4に想達することはできません。」(平成17年7月27日(受付日)付けの審判請求の理由を補正した手続補正書の【本願発明が特許されるべき理由】の4.本願請求項1?4と引用文献1との対比の項参照)旨主張している。

しかしながら、刊行物1(上記引用文献1)を引用した趣旨は、転動子を有する滑り・転がり兼用型軸受に関するものではあるが、保持器と内輪を兼ねた内筒を形成する(高機能)樹脂として、ポリエーテルサルフォン(PES)が、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)やポリアセタール(POM)と同様に使用可能であることが当業者に知られた事項であることを例示するために引用したものである。
そして、転がり軸受の内輪及び外輪を高機能樹脂で形成することは、上記刊行物2(引用文献2)にも記載されているように本願出願前当業者に知られて事項にすぎないものであり、転がり軸受の内輪及び外輪にどのような高機能樹脂を採用するかは、転がり軸受の使用環境と樹脂の有する機械的特性等を考慮して所望の高機能樹脂が選択されるものであって、本願補正発明のように刊行物1に記載された各種の高機能樹脂の中からポリエーテルサルフォン(PES)を選択することが当業者にとって格別創意を要することでないことは、上記のとおりである。
よって、請求人の上記審判請求書中での主張は採用することができない。

(4)むすび
以上のとおり、本願補正発明(本件補正後の請求項1に係る発明)が特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、平成15年改正前の特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第4項の規定に適合しないものであり、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明について
(1)本願発明
平成17年7月27日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし請求項6に係る発明は、平成17年5月13日(受付日)付けの手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし請求項6に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項2に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「【請求項2】転動体が転動接触する軌道輪がポリエーテルサルフォン(PES)で形成されている、ことを特徴とする転がり軸受。」

(2)引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願日前に頒布された刊行物である特開平5-288220号公報(上記刊行物1)及び特開平5-202943号公報(上記刊行物2)の記載事項は、前記「2.(2)引用刊行物の記載事項」に記載したとおりである。

(3)対比・判断
本願発明は、前記2.で検討した本願補正発明の技術事項から転動体が転動接触する軌道輪について「内輪と外輪の両方の」との限定を省いたものに実質的に相当する。
そうすると、本願発明の構成を全て含み、さらに構成を限定したものに実質的に相当する本願補正発明が、前記「2.(3)対比・判断」に記載したとおり、刊行物1及び刊行物2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、実質的に同様の理由により、刊行物1及び刊行物2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)むすび
以上のとおり、本件出願の請求項2に係る発明(本願発明)は、刊行物1及び刊行物2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そして、本願の請求項2に係る発明が特許を受けることができないものである以上、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-05-10 
結審通知日 2007-05-15 
審決日 2007-05-28 
出願番号 特願平9-88087
審決分類 P 1 8・ 575- Z (F16C)
P 1 8・ 121- Z (F16C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鳥居 稔  
特許庁審判長 村本 佳史
特許庁審判官 山岸 利治
大町 真義
発明の名称 転がり軸受  
代理人 岡田 和秀  

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