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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1160453
審判番号 不服2004-5042  
総通号数 92 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-08-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-03-11 
確定日 2007-07-11 
事件の表示 平成 9年特許願第312031号「消化性胃腸疾患の予防用又は治療用医薬」拒絶査定不服審判事件〔平成11年 6月 2日出願公開、特開平11-147822〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯、本願発明

本願は、平成9年11月13日を出願日とする出願であって、その請求項1に係る発明は、平成15年12月5日付手続補正書により補正された特許請求の範囲の記載からみて、請求項1に記載された事項により特定された次のとおりのものである。

「pH非依存性の胃粘膜結合保護作用を特性として有する3-エチル-7-イソプロピル-1-アズレンスルホン酸ナトリウム・1/3水和物と酸分泌抑制剤とからなる消化性胃腸疾患の予防用又は治療用医薬。」(以下「本願発明」という。)

2.引用例の記載の概要

これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された本願出願前に頒布された刊行物である、井上正規,消化性潰瘍の治療最前線 胃潰瘍,Pharma Med.,1991年,Vol.9,No.6,pp.25-30(以下「引用例1」という。)には、以下の(1)?(3)に示す事項が記載されている。 (1)「1.攻撃因子抑制剤……4)ヒスタミンH2-受容体拮抗剤(H2-ブロッカー)……H2-ブロッカーはその強力な酸分泌抑制作用のため、……胃潰瘍治療においても極めて高い治癒率を示す。5)プロトンポンプインヒビター……H+/K+ATPase(プロトンポンプ)を阻害する薬剤……本薬剤は……H2-ブロッカーに比べより強い酸分泌抑制作用……を有する。」(第27頁右欄第15行?第28頁左欄第29行)
(2)「2.防御因子増強剤 1)粘膜被覆保護、組織修復促進作用 本薬剤には……アズレン……などがあり……潰瘍を被覆、肉芽の促進により組織修復を促進するものである。」(第28頁左欄第40行?右欄第5行)
(3)「III.治療の実際 消化性潰瘍治療、特に胃潰瘍の治療は……攻撃因子抑制剤と防御因子増強剤との併用が……本邦において一般的に用いられている。すなわち、H2-ブロッカーと防御因子増強剤(原文では「抑制剤」となっているが、文意より「増強剤」であることは明らかである。)の併用療法により、H2-ブロッカー単独よりは約10%治療率が上昇するといわれ、また、潰瘍治癒後の再発予防にも有効性が認められている。」(第28頁右欄第29?38行)

また、同じく原査定の拒絶の理由に引用された本願出願前に頒布された刊行物であるYANAGISAWA T.,Synthesis and anti-ulcer activities of sodium alkylazulene sulfonates.,Chem. Pharm. Bull.,1988年,VOL.36,NO.2,pp.641-647(以下「引用例2」という。)には、以下の(4)及び(5)に示す事項が記載されている。
(4)「試験されたアズレン誘導体の中で3-エチル-7-イソプロピルアズレン-1-スルホン酸ナトリウム(KT1-32)はShay潰瘍に対して非常に強力な阻害活性を……示す。」(Abstract)
(5)KT1-32に相当する化合物Vkを含む18種のアズレン誘導体について収率やShay潰瘍の阻害率がまとめられている。(TABLE.1, Fig.2)

また、同じく原査定の拒絶の理由に引用された本願出願前に頒布された刊行物であるMOCHIZUKI S., Therapeutic effect of egualen sodium (KT1-32), a new antiulcer agent, onchronic gastritis induced by sodium taurocholate in rats.,J. Gastroenterol,1996年,VOL.31,NO.6,pp.785-792(以下「引用例3」という。)には、(6)に示す事項が記載されている。
(6)「エグアレンナトリウム(3-エチル-7-イソプロピル-1-アズレンスルホン酸ナトリウム・1/3水和物、KT1-32)」(Introduction)

3.当審の判断

(1)対比
引用例1には、攻撃因子抑制剤と防御因子増強剤との併用による消化性潰瘍治療が一般的に行われていること及びその併用により潰瘍治癒後の再発予防にも有効性が認められていること(摘記事項3)が、記載されており、攻撃因子抑制剤と防御因子増強剤とを併用する消化性潰瘍疾患の治療用及び潰瘍治癒後の再発予防用の医薬が、記載されていると認められる。そして、引例1には、攻撃因子抑制剤としてヒスタミンH2受容体拮抗剤(H2-ブロッカー)及びプロトンポンプインヒビターが用いられること(摘記事項1)、防御因子増強剤としてアズレンが用いられること(摘記事項2)が、記載されている。したがって、引用例1には、「ヒスタミンH2受容体拮抗剤(H2-ブロッカー)又はプロトンポンプインヒビターとアズレンを併用する消化性潰瘍疾患の治療用及び潰瘍治癒後の再発予防用の医薬」の発明(以下「引用発明」という。)が、実質的に記載されていると認められる。
そこで、本願発明と引用発明を比較する。
本願発明における「3-エチル-7-イソプロピル-1-アズレンスルホン酸ナトリウム・1/3水和物」は、アズレンの一種であり、防御因子型抗潰瘍剤であるから(本願明細書段落【0010】)、引用発明の「アズレン」は本願発明における「3-エチル-7-イソプロピル-1-アズレンスルホン酸ナトリウム・1/3水和物」を含むものである。
そして、引用発明における「ヒスタミンH2受容体拮抗剤(H2-ブロッカー)又はプロトンポンプインヒビター」は、本願発明で用いる「酸分泌抑制剤」はヒスタミンH2受容体拮抗剤(H2-ブロッカー)又はH+/K+ATPase阻害剤(プロトンポンプインヒビターのこと)」であり(本願明細書段落【0011】)、本願発明における「酸分泌抑制剤」に相当する。そして、引用発明における「消化性潰瘍疾患の治療用」は、本願発明における「消化性胃腸疾患治療」のことであり、引用発明における「潰瘍治癒後の再発予防用」は、本願発明における「消化性胃腸疾患の予防用」のことである。
すると、両者は「アズレンと酸分泌抑制剤とからなる消化性胃腸疾患の予防用又は治療用医薬」である点で一致し、本願発明においては、アズレンが3-エチル-7-イソプロピル-1-アズレンスルホン酸ナトリウム・1/3水和物であるのに対し、引用発明においては、アズレンが単にアズレンとあるのみで、3-エチル-7-イソプロピル-1-アズレンスルホン酸ナトリウム・1/3水和物との記載はなく(相違点1)、本願発明においては、3-エチル-7-イソプロピル-1-アズレンスルホン酸ナトリウム・1/3水和物が「pH非依存性の胃粘膜結合保護作用を特性として有する」との特定がなされているが、引用発明ではこのような特定がない点で(相違点2)、相違する。

(2)相違点についての判断
・相違点1について
引用例1には、アズレンは、粘膜被覆保護、組織修復促進作用を有す防御因子増強剤として記載されている(摘記事項2)。
一方、引用例2に記載された「KT1-32」は、引用例3に記載されたとおり、3-エチル-7-イソプロピル-1-アズレンスルホン酸ナトリウム・1/3水和物であり(摘記事項6)、引用例2には、KT1-32、すなわち、3-エチル-7-イソプロピル-1-アズレンスルホン酸ナトリウム・1/3水和物は、他のアズレン誘導体と比較して、胃潰瘍モデルであるShay潰瘍に対して非常に強力な阻害活性を示すことが、記載されている(摘記事項4)。引用例2のTABLE.1には、Va?Vrの18種のアズレン誘導体について収率やラット幽門部結紮潰瘍であるShay潰瘍の阻止率が記載されている。TABLE.1によれば、3-エチル-7-イソプロピル-1-アズレンスルホン酸ナトリウム・1/3水和物のShay潰瘍の阻止率は92.7%であるのに対し、他のアズレン誘導体の阻止率は-19.5%(Shay潰瘍がかえって増える)?78.5%である。このように3-エチル-7-イソプロピル-1-アズレンスルホン酸ナトリウム・1/3水和物は、18種類のアズレンの中で唯一90%以上の、ほぼ完全にShay潰瘍を阻止できる高い阻止率を与えるものであり、 Fig.2からも明らかなように、阻止率において他とはかけ離れた優れたものである。そして、アズレン誘導体の収率においても、3-エチル-7-イソプロピル-1-アズレンスルホン酸ナトリウム・1/3水和物は90%であり、18種類の中で一番高いものである(摘記事項5)。
そうすると、引用発明においてアズレンを具体的に選定するにあたり、当業者であれば、Shay潰瘍の阻止率が高いことは防御因子増強剤として優れていることを示すのであるから、まず最初に想定するのは3-エチル-7-イソプロピル-1-アズレンスルホン酸ナトリウム・1/3水和物である。
そして、アズレンと酸分泌抑制剤とを併用する医薬である引用発明において、アズレンと酸分泌抑制剤との好ましい用量を決めることは、実験モデルを用いて通常行うことである。
してみると、当業者が、引用例2の記載に接すれば、引用発明に使用するアズレンとして、まず、3-エチル-7-イソプロピル-1-アズレンスルホン酸ナトリウム・1/3水和物を選択すると考えるのが自然であり、また、通常行うべき各成分の用量に関する実験モデル用いた試験から、本願明細書図1、2に示される程度のラットでの実験潰瘍モデルにおける相乗効果は、当然知り得るものである。
したがって、相違点1をもって本願発明の進歩性を有するものと認めることはできない。

・相違点2について
pH非依存性の胃粘膜結合保護作用を特性として有する3-エチル-7-イソプロピル-1-アズレンスルホン酸ナトリウム・1/3水和物は、3-エチル-7-イソプロピル-1-アズレンスルホン酸ナトリウム・1/3水和物のうち特定のものに限定するものではなく、この水和物が有する性質を表記したものに過ぎない。したがって、「pH非依存性の胃粘膜結合保護作用を特性として有する」との特定事項の有無は実質的な相違点とはいえない。

なお、本件審判請求人は、平成14年9月17日付で提出された意見書に添付した参考資料1?3を引用し、従来の防御因子型抗潰瘍剤は、胃の中のpH値が高い環境下では胃損傷部への付着性が低下すると述べているが、参考例1乃至3には特定の防御因子型抗潰瘍剤について胃の中のpH値が高い環境下では胃損傷部への付着性が低下するものであることが記載されているにすぎず、アズレンについての記載ではないので、これらの記載が引用例1に記載の酸分泌抑制剤(当然に胃内のpHが上がる)とアズレンの併用を否定するものとはなり得ない。
次いで、本件審判請求人は、審判請求の理由において、H2-ブロッカーと防御因子型抗潰瘍剤との併用治療群が、H2-ブロッカー単独治療群に比べて、臨床試験において統計学的に優位であることが示されており、本願発明の効果が格別顕著であると主張しているが、本願明細書にはラットでの実験潰瘍モデルを用いた統計学的に何ら検証されていない実験結果が記載されているにすぎず、臨床試験について何も記載されていない。したがって、請求人の主張は本願明細書に基づかないものである。

4.むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、本願出願前に頒布された前記引用例1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-04-20 
結審通知日 2007-05-08 
審決日 2007-05-22 
出願番号 特願平9-312031
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 安藤 倫世守安 智加藤 浩  
特許庁審判長 塚中 哲雄
特許庁審判官 谷口 博
瀬下 浩一
発明の名称 消化性胃腸疾患の予防用又は治療用医薬  
代理人 田中 宏  
代理人 樋口 榮四郎  

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