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審判番号(事件番号) データベース 権利
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審決分類 審判 全部無効 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  C07H
管理番号 1161136
審判番号 無効2007-800010  
総通号数 93 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-09-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2007-01-23 
確定日 2007-07-17 
事件の表示 上記当事者間の特許第1888485号発明「4?カルバモイル?1?β?D?リボフラノシル?イミダゾリウム?5?オレイト無水結晶」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第1888485号(平成1年11月10日出願)は、平成6年12月7日に特許権の設定登録がされた。 そして、請求人・シオノケミカル株式会社により平成19年1月23日に本件の特許発明に対して無効の審判が請求され、被請求人・旭化成ファーマ株式会社により平成19年4月6日に答弁書が提出された。

2.本件特許発明
本件特許第1888485号の請求項1に係る発明は、明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】次の性質を有することを特徴とする4-カルバモイル-1-β-D-リボフラノシル-イミダゾリウム-5-オレイト無水結晶。
(1)水分含量
0.5重量%以下(カールフィッシャー法)
(2)赤外吸収スペクトル
3580、1852、1630、1575及び1554cm-1付近に吸収ピークを有する。」

3.請求人の主張
これに対して請求人は、「特許第1888485号の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求めて審判を請求し、次の無効理由を主張している。
『本件請求項1に係る特許発明は、特許を受けようとする発明が明確に記載されているとは言えず、特許法第36条第6項第2号の規定により特許を受けることができない。従って、本件特許は、同法第123条第1項第4号の規定に該当し、無効とすべきである。』

上記無効理由の具体的な主張は次のとおりである。
本件特許の請求項1に記載の無水結晶は、その1水和物を用いて発明の詳細な説明記載の実施例1?11の方法により得ることができ、その水分含量及び赤外吸収スペクトルは請求項や発明の詳細な説明に記載の結晶データと一致する。また、この請求項1に記載の無水結晶は従来の結晶(無水結晶A)と比べて、安全なエタノールを媒体として容易に製造でき、しかもその製造時において装置・器具の表面への固着を生じないことから洗浄が極めて容易であるなどの製造上の利点のみが記載されている。
一方、公知かつ市販されているブレディニン錠にも配合されているとある無水結晶Aの製造方法については、種結晶として無水結晶Aを添加する製造方法のみが比較例2に記載されている。
上記より、無水結晶Aを得るためには種結晶として無水結晶Aを用いなくてはならず、これを保有しない当業者は公知の無水結晶Aを得ることができない。また、現在までに日本国内又は海外においてもこのような無水結晶Aの存在や製造方法を報告した文献も見当たらない。従って、本件特許の請求項1に記載の水分含量及び赤外吸収スペクトルを有する「4-カルバモイル-1-β-D-リボフラノシル-イミダゾリウム-5-オレイト無水結晶」と公知の無水結晶Aとの比較をすることはできない。
これより、当業者は明細書等の記載や出願時の技術常識を考慮しても、本件特許の請求項1に記載の発明を特定するための事項がどのような技術的意味を有するのか理解できず、出願時の技術水準との関係も理解できない。
従って、本件特許の請求項1に記載の発明の範囲は不明確となり、的確に新規性進歩性等の特許要件を有しているか判断ができず、特許発明の技術的範囲も理解しがたい。

4.被請求人の主張
一方、被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、本件請求項1は本件無水結晶を明確且つ必要十分に記載しているのであるから、上記請求人の主張は単に失当という他はないと、主張している。

5.当審の判断
本件請求項1に係る特許発明が明確に記載されていないとの請求人の主張する理由は、本件特許が平成1年11月10日に出願され、本件無効審判が平成19年1月23日に請求されたものであるから、平成5年に改正された特許法第123条第1項第4号で規定する、特許請求の範囲の記載が適合するものでなければならない特許法第36条第5項第1号(特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。)及び特許法第36条第5項第2号(特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみを記載した項(以下「請求項」という。)に区分してあること。)に基づくものとして扱うこととする。

本件請求項1には、「前記2.」に摘示しているように、「4-カルバモイル-1-β-D-リボフラノシル-イミダゾリウム-5-オレイト無水結晶」と化学物質名及びその結晶であることが特定され、更に、水分含量「0.5重量%以下(カールフィッシャー法)」、及び、赤外吸収スペクトル「3580、1852、1630、1575及び1554cm-1付近に吸収ピークを有する」と記載されている。
これが、発明の詳細な説明に記載したものであり、特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみを記載したものであるか否かにつき以下に検討する。

本件特許に係る特公平6-15556号公報(以下同公報を単に「本件特許公報」という。)には、以下の事項が記載されている。なお、以下の摘示部分において、「4-カルバモイル-1-β-D-リボフラノシル-イミダゾリウム-5-オレイト」は「ミゾリビン」と略称されている(本件特許公報第1頁右欄3?5行参照)。
(i)「新しい結晶は熱及び湿気に対し極めて安定で、安全なエタノールを媒体として容易に製造でき、しかもその製造時において装置・器具の表面への固着を生じないことから洗浄が極めて容易であるなどの製造上の利点があることを見出し本発明を完成した。」(本件特許公報第2頁右欄7?12行参照)、
(ii)「本発明結晶は、例えば、ミゾリビン一水和物結晶をエタノールに添加し、室温以上ないしミゾリビンを分解しない温度条件下、攪拌し、次いで得られた溶液を冷却し、析出した結晶を乾燥することにより製造される。」(本件特許公報第2頁右欄23?26行参照)、
(iii)「実施例1 比較例1で得た精製ミゾリビン一水和物結晶5.0gを、無水エタノール50ml に懸濁し、攪拌しながら沸騰水浴中で60分間還流させた。その後、氷水中で60分間冷却し、析出した結晶を40℃、一晩真空乾燥してミゾリビン無水物結晶4.61g(水分量0.11%)を得た。本品の干渉型赤外吸収スペクトル(KBr法)は第1図に示す通りで、また本品の偏光顕微鏡(倍率200倍)による結晶形状は第5図(図中、1cmは10μmを意味する)に示すものであった。」(本件特許公報第3頁右欄31?40行参照)、
(iv)「試験例1(熱安定性試験) 本発明ミゾリビン無水結晶0.5gを3ml容のバイアル瓶に入れ、密封した後65℃の条件下に放置し、24時間毎に外観変化を観察した。 その結果、ミゾリビン一水和物結晶は24時間で既に暗緑色に着色し、固化した。これに対し、本発明結晶は、いずれも2週間後でも全く外観に変化はみられなかった。」(本件特許公報第4頁左欄15?22行参照)、
(v)「試験例2(高湿度条件下での安定性試験) 本発明ミゾリビン無水結晶0.3gを3ml容のバイアル瓶に入れ、開封状態で、20℃、95%相対湿度の条件下に放置し、吸湿増量及びカールフィッシャー水分の変化を調べた。 その結果、ミゾリビン一水和物の乾燥品(五酸化リン存在下、40℃、48時間真空乾燥、水分2.4%まで乾燥)は、24時間で約5%の増量を認め、水分量は約6.5%になった。これに対し、本発明結晶は、いずれも2週間後でもほとんど増量せず、水分量もほとんど変化しなかった。」(本件特許第4頁左欄23?33行参照)、
(vi)「試験例2(洗浄試験) 比較例1で得た精製ミゾリビン一水和物5.0gを無水エタノール(エタノール純度99.5%)50mlに懸濁し、攪拌しながら水浴中で70℃に保持し、その後氷水中で冷却して本発明のミゾリビン無水結晶4.36g(水分0.12%)を得た。 ・・・(中略)・・・ 次いで、この製造時の攪拌に用いたテフロン製攪拌羽根を取り出し、20ml容のビーカーに設置し、水洗による各結晶の付着に対する洗浄状況を観察した。洗浄に当たり、1回10mlの水を分注器(PIPETMAN P-5000:GILSON社製)にて2回に分けて5mlづつ攪拌羽根に吹きかけて洗い、これを複数回繰り返し行い、それぞれの洗浄液を回収し、次いで279nmにおける吸光度を測定した。測定に当たり、ミゾリビンの水溶液における279nmでの吸光度に関して5μg/mlの濃度の吸光度は0.28?0.29であることから、この吸光度以下になるまでの洗浄回数を調べた。その結果、本発明のミゾリビン無水結晶の場合は、洗浄8回目で吸光度0.512、9回目で吸光度0.107、10回目で吸光度0.140、11回目で吸光度0.083であり、11回目の洗浄にて、用いた装置に付着したほぼすべての成分の洗浄をなし得た。 ・・・・(中略)・・・ 従って本発明のミゾリビン無水結晶の場合は、製造装置・器具の洗浄を容易になし得ることから、洗浄時間の短縮が計れ、またその洗浄排液の少量化をなし得るもので、特に工場的スケールにおいて顕著な有用性を有する。」(特許公報第4頁左欄34行?第4頁右欄33行参照)。

これらの記載によれば、本件出願の対象が、熱及び湿気に対し極めて安定で且つ安全なエタノールを媒体として種結晶を用いず一水和物から容易に製造でき、しかもその製造時において装置・器具の表面への固着を生じないことから洗浄が極めて容易であるなどの製造上の利点があるミゾリビンの無水結晶に係る発明であることが明らかにされ、その製造方法、特性、結晶形状及び赤外吸収スペクトルが明確にされている。

そうすると、本件請求項1は、ミゾリビンの無水結晶を、その化合物名、形態、水分含量、赤外吸収スペクトルの特徴的な吸収スペクトルにより特定したもので、発明の詳細な説明に記載したものであり、かつ特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみを記載したものであって、発明が明確に記載されているということができる。

請求人は、発明が不明確である根拠として、比較対象とされた無水結晶Aが入手できない点を指摘するが、その可能性が仮にあったとしても、無水結晶Aは本件請求項1に係る特許発明の無水結晶の特定、製造、同定に必須のものではないから、そのことが本件請求項1に係る特許発明の構成を不明確にするものとはいえない。
よって、無効理由に関する請求人の主張は理由がないものであり採用できない。

6.むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張する理由によっては本件請求項1に係る特許発明についての特許を無効にすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-05-22 
結審通知日 2007-05-25 
審決日 2007-06-05 
出願番号 特願平1-291078
審決分類 P 1 113・ 534- Y (C07H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 横尾 俊一  
特許庁審判長 川上 美秀
特許庁審判官 谷口 博
森田 ひとみ
登録日 1994-12-07 
登録番号 特許第1888485号(P1888485)
発明の名称 4?カルバモイル?1?β?D?リボフラノシル?イミダゾリウム?5?オレイト無水結晶  
代理人 坪倉 道明  
代理人 川口 義雄  
代理人 大崎 勝真  
代理人 渡邉 千尋  
代理人 小野 誠  
代理人 金山 賢教  

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