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審判番号(事件番号) データベース 権利
無効200680021 審決 特許
無効2007800196 審決 特許
無効200480218 審決 特許
無効2008800249 審決 特許
無効200480075 審決 特許

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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  A61K
管理番号 1161140
審判番号 無効2006-80169  
総通号数 93 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-09-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2006-09-01 
確定日 2007-07-18 
事件の表示 上記当事者間の特許第3382239号発明「液剤と薬剤の薬剤反応用具セット」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第3382239号の請求項10、12ないし15に係る発明についての特許を無効とする。 特許第3382239号の請求項1ないし9、11に係る発明についての審判請求は、成り立たない。 審判費用は、その15分の10を請求人の負担とし、15分の5を被請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
特許第3382239号は、平成14年2月23日に特許出願され、平成14年12月20日に設定登録がなされたものであり、本件は、その請求項1?15に係る発明についての特許に対して、審判請求人スワブプラス インコーポレーティッドより、特許無効審判の請求がなされ、被請求人に対して期間を指定して答弁の機会を与えたが、同期間中には被請求人からは、答弁を後日としたい旨の答弁がなされたのみであったが、後日、被請求人より口頭審理陳述要領書(1)、(2)が提出され、請求人より、口頭審理陳述要領書(1)、(2)が提出され、平成19年2月9日に口頭審理が実施され、請求人の口頭審理陳述要領書(1)の主張は、撤回された。

2.請求人が請求した審判
請求人は、
甲第1号証として、特開昭61-46277号公報
を提出して、甲第1号証には、
スリーブ内に位置し、液状成分が入っている内側封止脆弱アンプル、及び、
分配用オリフィスと、アンプルとの間に位置する第二成分を含有している繊維材料
が記載される旨主張して、本件請求項1に係る発明は、開放側端から滲出した場合に、液体を担持することができる素材を構成とする点でのみ、甲第1号証に記載される発明と相違するにすぎないとしている。
そして、同相違点の構成が本件出願前に頒布された刊行物に記載されることを立証するために、
甲第2号証として、実用新案登録第3073488号公報
を提出して、甲第2号証には、「チューブ状の容器」の構造が開示され、その段落【0012】には、「両端部に位置する閉鎖端部14および開放端部16とが含まれ」、「チューブ内に収容されている溶液が、孔22により開放端部16の先端にある綿球が全面的に濡れるように流出」する構造が開示されているとして、甲第1号証に記載されている、アンプル内の液状成分と、繊維材料に含有させておいた第二成分とを反応させるという発明に、甲第2号証に記載される発明を適用して、本件請求項1に係る発明は、容易に発明をすることができた旨主張している。
さらに、審判請求書によれば、本件請求項1に係る発明は、甲第2号証に記載された構造に、甲第1号証の「液状成分が入ったアンプル」と「第二成分を含有した繊維材料」とを組み合わせても容易に発明をすることができた旨主張している。
さらに、請求人は、
甲第3号証として、実用新案登録第3042352号公報、
甲第4号証として、特表平9-507481号公報、及び、
甲第5号証として、特開平8-216347号公報
を提出して、特許請求の範囲の請求項2?9に記載される各構成は、甲第1?5号証に記載されているので、請求項2?9に係る発明は、甲第1?5号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができた旨主張している。

また、請求人は、本件請求項10に係る発明は、
液体を担持する素材あるいは液体貯留受け部を有する点、及び、
酸素を発生する薬剤とからなる歯の漂白剤塗布用具である点
で甲第1号証のものと相違するものの、甲第4号証に、歯を白くする技術として、過酸化物を用いることが記載されるように、過酸化物の採用が周知の技術であること指摘して、甲第2号証に、「液体を担持する素材あるいは液体貯留受け部」が開示されるのであるから、本件請求項10に係る発明は、甲第1号証に記載される発明と、甲第2号証に記載される発明及び及び甲第4号証に示される周知技術を組み合わせて、当業者が容易に発明をすることができた旨主張している。
加えて、被請求人は、
甲第6号証として、特開平11-21222号公報
を提出して、請求項11?15に記載される構成が甲第1?6号証に記載されているので、請求項11?15に係る発明は、甲第1?6号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができた旨主張している。
したがって、本件各特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである旨主張している。
なお、被請求人は、陳述要領書(2)において、請求人の主張が不明瞭である旨述べているが、上述とは別異の無効理由の存否は不明であるが、上述の請求人の主張を把握不能とすべきものではない。

3.被請求人の主張
被請求人は、以下の理由により本件各発明についての特許は無効とされるべきものではないとしている。
本件各発明は、少量の液体と薬剤を使用直前に反応させて使用する反応用具を提供することを目的として、「封入液体が開放端側から滲出した場合に、該液体を担持することができる素材あるいは該液体を貯留する受け部を該開放端側に備え、該液体を担持する素材あるいは液体貯留受け部に予め反応する薬剤を含有あるいは保持させておく」構成である素材が、液体と薬剤を反応させる反応容器としての機能と塗布の機能とを兼ね備えたものであり、本件特許発明は、大気圧により滲出した液体を素材が担持して、その素材が反応容器としての機能と他への塗布する機能とを兼ね備えている点に技術的な特徴があるとして、甲第1号証の発明は、促進剤が接着剤とうまく混合しないという問題を解決するために、スリーブに分配圧力を加えて強制的に押し出された接着剤を、繊維に分配されている促進剤と配合させるために用いられているものであり、該繊維で接着剤と促進剤との化学反応が起こるものではないとしている。
そして、甲第1号証の発明は、
・パイプの一端を開放端とし他端を密閉したものではなく、
・封入液体が開放端側から滲出した場合に、液体を担持することができる素材を開放端側に備えるものではなく、
・接着剤が通過する繊維に予め第2成分である促進剤を含有させておくものではあるとしても、液体を担持する素材あるいは液体貯留受け部に予め反応する薬剤を含有あるいは保持させておくものではなく、
・指の圧力下でアンプル2を破断するものであり、大気圧下で滲出させて反応されるものではなく、さらに、
・液体と薬剤を保持するとともに両成分を反応させる薬剤反応用具セットではない
ので本件各発明と相違するとし、このような甲第1号証の認定を前提に、甲第2号証には、溶液が滲入できる綿を開放端部16に備えるチューブ状の容器の発明が記載されるものの、甲第1号証の発明に甲第2号証の発明を組み合わすべき動機付けは何等なく、しかも、本件各発明は、その構成の「素材」が反応容器としての機能と他への塗布する機能とを兼ね備えている点に技術的な特徴があるのに対して、請求人が提出した甲各号証の何れにも、反応容器としての機能と他への塗布する機能とを兼ね備えた技術的事項を開示するものはなく、開放端から内部に退いた状態で液体を封入することを甲第1、2号証は開示するものではないので、請求人の主張は明らかに失当である旨主張している。
しかも、甲第1号証の発明は、反応をオリフィスの外で行うものであり、繊維材料中に留まって反応を行うものではない旨主張し、請求項10に係る発明も甲第1号証の発明と比較すると、請求項1に係る発明と同様の相違点を有するとしている。

4.当審の判断
4-1 本件特許発明
本件請求項1?15に係る発明は、特許明細書の特許請求の範囲に記載された以下のとおりのものである。
【請求項1】 液体を封入したパイプと該液体と反応させる薬剤とからなり、該パイプの一端を開放端とし他端を密閉した薬剤反応用具セットであって、該封入液体が開放端側から滲出した場合に、該液体を担持することができる素材あるいは該液体を貯留する受け部を該開放端側に備え、該液体を担持する素材あるいは液体貯留受け部に予め反応する薬剤を含有あるいは保持させておくことを特徴とする薬剤反応用具セット。
【請求項2】 薬剤を粉体あるいは固形体としたことを特徴とする請求項1記載の薬剤反応用具セット。
【請求項3】 薬剤を液体状の薬剤としたことを特徴とする請求項1記載の薬剤反応用具セット。
【請求項4】 パイプの開放端側を、封入した液体に接触することにより、該液体が浸透する材料でシールするか、あるいは溶解または破れる材質の素材でシールするか、あるいはパイプ内周に摺接可能に栓状にシールすることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載された薬剤反応用具セット。
【請求項5】 液体を担持する素材としてスポンジまたは綿塊等の液体吸収素材を用いたことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載された薬剤反応用具セット。
【請求項6】 液体を貯留する受け部として、パイプ開放端側にスプーン状の容器を設けたことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載された薬剤反応用具セット。
【請求項7】 パイプから滲出した液体と反応した薬剤を消毒、治療、衛生、化粧、医薬、医薬部外、接着用のいずれかに用いることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載された薬剤反応用具セット。
【請求項8】 口腔あるいは歯に用いる薬剤に用いることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載された薬剤反応用具セット。
【請求項9】 反応させる薬剤として、銀ゼオライトあるいはビタミンC又はビタミンEを用いることを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載された薬剤反応用具セット。
【請求項10】 一端を密閉され、他端を開放端とし、該開放端側から内部に退いた状体で液体を封入した小径パイプを備え、該開放端に封入された液体から隔離された状体で綿塊を設けて形成した綿棒パイプと該液体と反応して酸素を発生する薬剤とからなることを特徴とする歯の漂白剤塗布用具。
【請求項11】 パイプの開放端部に用いる綿塊に予め封入された液体と反応して酸素を発生する薬剤を含有させておくことを特徴とする請求項10記載の歯の漂白剤塗布用具。
【請求項12】 封入された液体と反応して酸素を発生する薬剤を粉末状にして収納した容器と綿棒パイプを別体に構成したことを特徴とする請求項10記載の歯の漂白剤塗布用具。
【請求項13】 封入する液体として水あるいは有機酸溶液を用いることを特徴とする請求項10乃至12のいずれかに記載された歯の漂白剤塗布用具。
【請求項14】 封入された液体と反応して酸素を発生する薬剤として、過酸化物を用いることを特徴とする請求項10乃至13のいずれかに記載された歯の漂白剤塗布用具。
【請求項15】 過酸化物として、マグネシウムパーオキサイド、マグネシウムオキサイド、マグネシウムハイドロオキサイド、アルミニウムオキサイドから選ばれた1つを選択して用いることを特徴とする請求項14記載の歯の漂白剤塗布用具。

4-2 甲各号証について
甲各号証は、本件に係る出願の出願前に頒布された刊行物であり、以下の記載が認められる。

4-2-1 甲第1号証(特開昭61-46277号公報)
甲第1号証の第1頁左下欄第5行?同頁右下欄第11行に、
「(1)(イ)一端に分配用オリフィスを具備し他端に封止を具備している外側スリーブと、
(ロ)前記スリーブ内に位置し、液状成分が入つている内側封止脆弱アンプルと、
(ハ)前記分配用オリフィスと該分配用オリフィスに最も近いアンプルの本体部との間に位置している前記スリーブ内にあって繊維上または繊維内に分配されるべき第二成分を含有している繊維材料と、
から成り、・・分配の際に混合されるように構成されている・・容器兼用ディスペンサー。
・・
(3)前記アンプルは、軟質アンプルに指圧を加えることによって破断できる・・容器兼用ディスペンサー。
(4)前記第二成分は、・・液体の促進剤である・・容器兼用ディスペンサー。」
と記載され、第4頁左下欄第6?11行に、
「この材料6は、ガーゼ、ガラス繊維・・のような吸収材料または保湿材料で形成することができる。・・活性または促進第二成分に浸漬するか、・・第二成分を塗布する。」
と記載されている。
これら記載より、外側スリーブは封止を具備した密閉される端部と分配用オリフィスを有した開放された端部とを有するものと認められるので、甲第1号証には、
液状成分が入つている内側封止脆弱アンプルを内に位置させた外側スリーブと液体状成分と反応させる第二成分とからなり、外側スリーブの一端は、開放され分配用オリフィスを具備し、他端に封止を具備した容器兼用ディスペンサーであって、
外側スリーブ内の分配用オリフィスとアンプルの本体部との間に繊維材料を位置し、繊維材料の繊維上または繊維内に第二成分を液状成分から隔離された状態で含有しておく、液状成分と第二成分を封入してセットとされている容器兼用ディスペンサー
の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されるものと認める。
さらに、甲第1号証には、第4頁左下欄第18行?同頁右下欄第4行に、「このようにして、アンプルが・・破壊したとき、液状物質が繊維材料のまわりを流れ、その流路上を繊維材料を通過してノズルに到り、それによつて、十分な促進剤または活性剤を飛沫同伴して、液状物質を・・配置したとき、液状物質の硬化を早める。」と、第6頁右下欄第3?4行に、「接着剤が分配されるときに混合が本質的におこることが望ましいものである。」と「繊維材料」は、液状物質がそれを通過するときに前記繊維材料に含有される第二成分と反応させるものとして記載しており、第6頁右上欄第18行?同頁左下欄第2行に、「しかして、指の圧力を引続き加えると、接着剤を強制的にガーゼを通過させてノズルを介して流出させる。接着剤を金属と金属の部分、あるいは、金属とガラスの部分に塗布し、・・」と、ノズルの機能として、塗布・流出を記載している。
また、甲第1号証には、第2頁左上欄第12?18行に、従来技術として、「液体のいわゆる単位用量を処理し得る包装容器は、いくつかの産業、例えば、医療産業において既知であり、1回分包計量分配される単一使用量の液体が、封止されていて破断可能なアンプルのなかに入つており、さらに封止されている。」と記載され、第2頁右下欄第10?18行に、「比較的多量のものを使用するときには、基礎接着剤は促進剤と別々に包装され、二成分は、通常、現場で、・・結合される。・・単位用量の容器とディスペンサーを1つにするのが全く有利であり、・・」と、甲第1号証は、単位使用量の包装とすること、別の包装とすることを従来技術として記載している。

4-2-2 甲第2号証(実登実用新案第3073488号公報)
甲第2号証の【実用新案登録請求の範囲】の【請求項1】に、
「 流体を収容しているチューブ本体の2つ端部の中の一端は閉鎖端部で、もう一端は開放端部であり、前述チューブ本体と前述閉鎖端部との間には折られやすい切り込み部が設けられているチューブ状の容器であって、前述開放端部には、少なくとも1つの孔を有する端壁面が設置されており、外力により前述閉鎖端部がチューブ本体の外部から折られた場合には、前述流体が前述孔の少なくとも1つを介して前述チューブ本体から流出することを特徴とするチューブ状の容器。」
と記載されているので、甲第2号証には、
流体を収容したチューブ本体の一端を開放端部とし、他端を閉鎖端部したチューブ状の容器であって、該封入流体が開放端部側から流出するチューブ状の容器
が記載されており、さらに、段落番号【0003】に、
「・・その複合式の綿棒には、プラスチック・チューブを含んで、当該チューブの一方の端部は閉塞され、他方の端部は完全に開成されるように設計され、両端部の外部には通常の綿棒と同様に綿球が覆われているが、チューブ内にはヨードチンキなどの薬液が収容されている。いざとんって使われる場合には、使用者が閉塞されている端部を折れば、チューブ内に収容されている薬液が、大気圧により、開口の端部から流出し、即座に使われるように、開口端を覆う綿球に含浸される。上述装置により、使用者が速やかに、かつ簡便に各種の手当が行われることが可能になり、そして、従来のようなスペースを取らない。」
と、
封入された液体が開放端部側から流出した場合に、該液体を担持する綿球を開放端部に備えたチューブ状の容器
が記載甲第2号証にされるものと認められ、加えて、開放端からの流出に関して、
段落番号【0011】に、
「・・空気がチューブ内部に流れ込んた場合、大気圧がチューブ内部に収容されている溶液に作用し、前述溶液が開放端部16から流れ出すが、本実施の形態では、チューブ内の溶液が、開放端部16にある綿球の至る所に滲入し、使用者が即座に利用できるような用意完了状態が整えらる。」と、
段落番号【0012】に、
「・・図2を参照して説明する。 チューブ状の容器10は、チューブ本体12と、それぞれチューブ本体12の両端部に位置する閉鎖端部14および開放端部16とが含まれている。チューブ本体12には、開放端部16の所で端壁20が設けられ、この端壁20には、孔22が開設されているので、前述閉鎖端部14が折られた時、チューブ内部に収容されている溶液が、孔22により開放端部16の先端にある綿球が全面的に濡れるように流出され、使用者が即座に利用されるような状態となっている。」
と、その流出が使用前には綿球が濡れていないものとして説明されており、使用時に綿球が全面的に濡れることから、それ以前は、綿球に対してこの液体である溶液は退いた位置にあることを甲第2号証の記載から把握可能である。
また、段落番号【0014】に、
「図3はこの考案に係わる他の実施の形態の断面図である。 この実施の形態に係わるのは使い捨て調味用匙の例であり、図3に示すように、使い捨て調味用匙30は、チューブ本体32と、チューブ本体32の一端に設置された勺部36と、チューブ本体32の他の一端に設置された閉鎖端部34とからなる。・・」と、
段落番号【0016】に、
「この実施の形態は、日常生活の諸用途に適用され、特に外出の飲料用調味匙に用いられるものであるので、その内容の液体はコーヒークリームや果糖(フルクトース)などの液体調味料であればよい。」と、
段落番号【0017】に、
「本考案でのこの実施の形態のメリットは、使用者の手に付着しないうえ、手間もかからなく、定量的に調味料を添加することができる。また、持ちやすいので、携帯に適し、且つ外力の衝撃に受けられた場合でも内容液が漏れ出す恐れがほとんどない。」と、さらに、
段落番号【0019】に、
「・・ 図4を参照して説明するこの実施の形態は、植物用定量施肥器の例である。・・また、チューブ本体52の他の一端には錐形体56が設けられ、チューブ本体52と錐形体56との間には、孔59が開設されている端壁58が介在されている。この結果、回転盤54aを回転させ、回転盤54aにある開口55aが開口55bに重なるように合わせる時に、大気中の空気がチューブ内に連通し、チューブ内の溶液が大気圧の作用により孔59を通してチューブから流出するようになる。また、錐形体56の外形により、土に挿入しやすくなり、チューブ本体も起立状態で保ちやすくなる。この錐形体56は分散作用を発揮するために、孔59から流れ出す液体を均一に土壌などに輸送するために、多孔質材料からなるのが好ましい。」
との記載がある。
これら記載と図面の記載を総合すると
甲第2号証には、
溶液を封入したチューブ本体の一端を開放端部とし他端を閉鎖端部した薬剤・調味料・肥料等のチューブ状の容器であって、該封入溶液が開放端部側から滲出した場合に、該溶液を担持する綿球あるいは該溶液を貯留する勺部・多孔質材料から成る錐形体を該開放端部に備えたチューブ状の容器
の発明が記載されるものと認められ、綿球、勺部、及び、多孔質材料から成る錐形体の機能は、薬液の塗布、調味料・肥料等の分配機能として記載されている。

4-2-3 甲第3号証(実用新案登録第3042352号公報)
甲第3号証の【請求項1】に、
「 中空の外管と内管及び栓を主要構造として、その内、外管は中空の管体で、その外管先端近くに穴が設けてあり、その穴の下端の管壁に圧力を受けると内側へ引っ込んで、それと相対する管体の内壁の箇所に突起した突起部があり、内管は下端密閉の中空管体で管径は外管より小さくすっぽりと外管の中へ嵌って自由に移動出来、先端に管自身よりやや大きい目の円形突出部があると共に、下端近くに折れ易い筋目が設けて有り、下端の先は柄になって手で持つことが出来、栓は中心の差し込み部分が外周の外輪部より厚い固形体で出来、該栓の外輪部は外管先端口に固定され、中心の差し込み部分は内管にぴったりと差し込むことが出来て内管を密封する役目を果たす、以上の構造で液体を充填した内管を外管内に入れて栓を差し込み、以て内管先端口を密閉し、栓の外輪部は外管先端口に固定され、内管の下端は外管の外側に露出して、内管内部の液体を流出させたい場合、手で内管の下端部位を後ろに向かって引っ張れば、外管内部に有る内管が後ろに向かって移動して、内管の先端部位が固定された外管の栓と脱離し、内管の先端部位が外管の内壁の突起部に触れる以前、内管は後方へ続けて移動し、その間、下端近くの折れ易い筋目はやはり外管内に位置して折れることが出来ないが、一旦、内管が後方向かって続けて移動して、その円形突起部が外管内壁の突起部に突き当たった時、内管は局限されてそこで止まると、折れ易い筋目が外管の外へ具合よく露出されて、内管の先を容易に折ることが出来、内管の先を折ると同時に大気の圧力と毛細管現象及び重力作用で管内の液体がひとりでに流動し、外管上の穴から流出することを特徴とする密閉式容器。」と、
【請求項4】に、
「 内管の液体を充填する先端に、無毒性のシリコーン油を充填する小区切り目を設けて、栓の気密性と潤滑性を増加せしめ、且つ管内に装填された液体の揮発性が低い場合、栓を用いなくともシリコーン油で以て液体を密封する役目が果たせることを特徴とする請求項1記載の密閉式容器。」と、
【請求項5】に、「 管内の液体性質により、外管の液体を流出させる先端口に適当の被覆体で以て被覆することが出来ることを特徴とする請求項1記載の密閉式容器。」
と記載され、
段落番号【0007】に、
「・・
(4)本考案は同時に伝統の液体容器、取り出し器具、塗布及び使用道具に取って代わることが出来る。本考案中の液体流出先端に取付けた被覆用の被覆体は、伝統の塗布や使用器具に取って代わることが出来るばかりでなく、該被覆体はスポンジ、綿などの吸収体でもよく、又眉刷毛、睫毛刷毛、口紅用筆、アイシェード・ステッキでもよい。若しも管内液体が直接飲用するものであれば、被覆体を必要としない。」と、
段落番号【0009】に、「(7)・・例えば歯医者が先端に薬液を塗布した長い棒を使用する代わりに、本考案の内部に充填した薬液を使用すれば非常に便利である。
・・」と
段落番号【0011】に、
「【考案の実施の形態】
図1は本考案の密閉式容器の第一実施例の断面図である。その構造は主として外管11、内管12及び栓13を含む。・・栓13は中心箇所の差し込み部分132が、周囲の外輪部131より厚い固体で、その外輪部131は外管11の先端口に固定され、中心の差し込み部分132は、内管12の中に緊密に差し込むことが出来て内管12を密封する。」
と記載されている。

4-2-4 甲第4号証(特表平9-507481号公報)
甲第4号証の第3頁第4行に、
「本発明は、自然の歯および義歯を白くするためのシステムに関する。」と、
第7頁第5?16行に、
「活性酸素源は、分解して活性酸素種を供給しうるO-O結合を含む物質を意味する。過酸化物およびヒドロペルオキシドが本発明にて用いるのに好ましい。好ましい過酸化物の例は、過酸化水素などの無機過酸化物、過炭酸ナトリウム、カリウムおよびカルシウムなどのアルカリ金属の過炭酸塩;過酸化ナトリウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、亜鉛またはマグネシウム、および過ホウ酸塩である。また、結晶化の過酸化水素を含む無機化合物、例えば2Na2CO3・3H2O2およびNa4P2O7・nH2O2などを用いることができる。さらに、本発明において数種の有機過酸化物を用いることができる。例えば、過酢酸、過酸化ベンジル、モノ過フタル酸マグネシウム、m-ペルクロロ安息香酸およびクミルヒドロペルオキシドなどのペルオキシ化合物を本発明において用いることができる。これは代表例であり、活性酸素化合物を含むものに対して本発明の実施法を制限するものではない。」と、
第13頁第18?23行に
「 歯磨剤
本発明において用いることができる練り歯磨き、液体歯磨き、ゲルおよび歯磨き粉の基礎処方はペーストおよび粉末を調製するのに用いることができる通常の担体、結合剤、界面活性剤、湿潤剤、着色剤、顔料、抗歯垢剤、抗菌剤、生体付着剤、研磨剤、抗う蝕剤、フレーバー剤、甘味料、増量剤などを有する。ゲルおよびペーストは水を含有するかまたは無水にできる。」
と記載されている。

4-2-5 甲第5号証(特開平8-216347号公報)
甲第5号証の【特許請求の範囲】の【請求項1】に、
「 化粧紙の表面に、抗菌剤として銀ゼオライト粉末を含有する熱可塑性樹脂エラストマーを加熱溶融して塗布するか又は、該熱可塑性樹脂エラストマーのフィルムを熱融着することにより化粧シートの表面を形成させたことを特徴とする抗菌性化粧シート。」
と記載されている。

4-2-6 甲第6号証(特開平11-21222号公報)
甲第6号証の【特許請求の範囲】の【請求項1】に、
「 コウジ酸、コウジ酸塩及びコウジ酸誘導体から選ばれる1種又は2種以上と、有機酸の1種又は2種以上とを併用して配合することを特徴とする口腔用組成物。」と、
段落番号【0001】に、
「【発明の属する技術分野】
本発明は、歯を白くするのに適する口腔用組成物に関し、更に詳述すると、食物の飲食、喫煙、口腔内細菌の産生する有色物質等により付着する歯の着色物を効果的に除去し、歯を白くすることができる口腔用組成物に関する。」と、
段落番号【0007】に、
「以下、本発明につき更に詳しく説明すると、本発明の口腔用組成物は、練歯磨、液状歯磨、液体歯磨等の歯磨類、洗口液、粉末洗口剤、ガム、錠剤などとして調製、適用される。」
と記載されている。

4-3 対比判断
4-3-1 請求項1、5、6に係る発明について
まず、本件請求項1に係る発明と、甲1発明とを対比すると、本件請求項1の記載では、「液体」及び「薬剤」が特定の用途または薬品に特定されてはいない点、及び、甲1発明の「液状成分」及び「第二成分」は、使用時に反応を行うものである点からみて、本件請求項1に係る発明の「液体」及び「薬剤」に相当するものと認められ、甲1発明の「外側スリーブ」は、内部に液状成分を封入している点及び形状から見て、本件請求項1に係る発明の「パイプ」に相当し、甲1発明の分配用オリフィスを具備する「外側スリーブ」の「一端」及び封止を具備する「他端」は、それぞれ、本件請求項1に係る発明の「開放端」及び「他端」に相当するものと認める。
そして、甲1発明の容器兼用ディスペンサーは、液状成分と第二成分とを使用時に反応させるように封入してセットされたものであるから、両発明は、
液体を封入したパイプと該液体と反応させる薬剤とからなり、該パイプの一端を開放端とし他端を密閉した薬剤反応用具セットであって、予め反応する薬剤を含有あるいは保持させて設けた薬剤反応用具セット
の発明である点で一致し、以下の点で両発明は相違するものと認める。
相違点1-1
本件請求項1に係る発明は、封入液体が開放端側から滲出した場合に、該液体を担持することができる素材あるいは該液体を貯留する受け部を該開放端側に備え、該液体を担持する素材あるいは液体貯留受け部に予め反応する薬剤を含有あるいは保持させて設けたものであるのに対して、甲1発明では、外側スリーブ内の分配用オリフィスとアンプルの本体部との間に繊維材料を位置し、繊維材料に第二成分を含有させて設けてある点

次に、本件請求項5、6に係る発明と甲1発明とを対比すると、本件請求項5に係る発明は、上記相違点1-1に加えてさらに、
相違点1-5
本件請求項5に係る発明は、封入液体が開放端側から滲出した場合に、該液体を担持することができる素材あるいは該液体を貯留する受け部の構成として、液体を担持する素材としてスポンジまたは綿塊等の液体吸収素材を用いて、該開放端側に備え、液体を担持する素材としてスポンジまたは綿塊等の液体吸収素材に予め反応する薬剤を含有あるいは保持させて設けたものであるのに対して、甲1発明では、外側スリーブ内の分配用オリフィスとアンプルの本体部との間に繊維材料を位置し、繊維材料に第二成分を含有させて設けてある点
で相違し、本件請求項6に係る発明は、上記相違点1に加えてさらに、
相違点1-6
本件請求項6に係る発明は、該封入液体が開放端側から滲出した場合に、該液体を担持することができる素材あるいは該液体を貯留する受け部の構成として、パイプ開放端側にスプーン状の容器を該開放端側に、スプーン状の容器に予め反応する薬剤を含有あるいは保持させて設けたものであるのに対して、甲1発明では、外側スリーブ内の分配用オリフィスとアンプルの本体部との間に繊維材料を位置し、繊維材料に第二成分を含有させて設けてある点
で相違するものと認める。
なお、被請求人は、甲第1号証のものは、パイプの一端を開放端とし他端を密閉したものではない旨の主張もなしているが、封止を具備する端部である「他端」は、密閉されており、分配用オリフィスを具備する「外側スリーブ」の「一端」は、密閉されていないことから開放される端であると解することが甲第1号証の自然な解釈である。
また、被請求人は、甲1発明は、繊維材料中に留まって反応を行うものではない旨の主張もなしているが、甲1発明においても、繊維材料中で混合され、反応が開始されることは明らかであり、本件各発明の全反応が素材あるいは貯留において完了するもののみに限定するとは解されず、例えば、素材から他に塗布された後においても反応の継続があるものを排除するものではないので、両発明の対比は、上述のとおりである。

以下、これら相違点について検討する。
相違点1-5及び相違点1-6は、それぞれ、相違点1-1において、備えられるとされる「・・素材あるいは・・受け部・・」に関して、相違点1-5においては、スポンジまたは綿塊等の液体吸収素材を採用することをさらに特定するものであり、相違点1-6においては、スプーン状の容器の採用を特定するものである。

まず、これら相違点が技術的な意義を有するか検討する。
本件請求項5に係る発明は、相違点1-5の構成を有することに関して、本件特許明細書の段落番号【0012】に、「第4図に示すものは液体吸収体9に予め薬剤Cを担持させた例である。この場合、液体吸収体9に液体が吸収されると同時に反応が開始されるので、液体吸収体自体が反応容器としても機能し、また、そのまま、他への塗布等の用途にも使用できるものである。」と記載され、被請求人が主張するようにスポンジまたは綿塊等の液体吸収素材は、塗布等の用途にも使用するものであり、そこに、予め反応する薬剤を含有あるいは保持させる構成を採用することにより、反応容器としての機能も兼ね備えるものである。
そして、請求項1、6に係る発明についても、被請求人は、塗布の用途にも使用するものが、反応容器としての機能も兼ね備える旨主張している。
この点について、さらに検討すると、相違点1-1においては、液体を担持することができる素材のみに構成が特定されてはおらず、選択的に、「液体を貯留する受け部」を構成とするものであり、相違点1-6おいては、請求項1における選択的構成である液体を担持することができる素材を構成とするものではなく、「スプーン状の容器」を構成として有するものであり、「液体を貯留する受け部」および「スプーン状の容器」が塗布の機能を有するとは、本件特許明細書の記載からは、直ちには認めることはできない。
しかしながら、「スプーン状の容器」は、反応とは別異の定量または少量の液体を分配する機能を有することは自明であり、塗布も分配の一形態であることを考慮すると、これら相違点に係る「素材」及び「受け部」は、明細書の記載から液体を分配する機能を有するものと解すべきである。
したがって、相違点1-1、5、6の構成は、塗布等の液体の分配に使用する部材に反応容器としての機能も兼ね備えさせるという作用効果を奏するものであり、これら構成を直ちに無意味な限定、単なる設計上の事項とすることはできない。
次に、これらの相違点の構成を容易に想到し得るか検討する。

これら相違点について、請求人は、甲第2号証に開示される旨主張しているので、甲第2号証に基づいて検討する。
甲第2号証には、原告が主張するように、「チューブ状の容器」の構造が開示され、その段落【0012】には、「両端部に位置する閉鎖端部14および開放端部16とが含まれ」「チューブ内に収容されている溶液が、孔22により開放端部16の先端にある綿球が全面的に濡れるように流出」と記載されており、4-2-2に述べたとおり、
溶液を封入したチューブ本体の一端を開放端部とし他端を閉鎖端部した薬剤・調味料・肥料等のチューブ状の容器であって、該封入溶液が開放端部側から滲出した場合に、該溶液を担持する綿球あるいは該溶液を貯留する勺部・多孔質材料から成る錐形体を該開放端部に備えたチューブ状の容器
の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されている。
そして、甲2発明の「綿球」及び「勺部」は、塗布等の液体の分配を行う機能を有するものとして記載され、甲1発明における「分配用オリフィス」も接着剤の塗布を意図した液体の分配機能を有するものとして開示されていることから、甲2発明を甲1発明に適用または両発明を組み合わせることに関して、動機付けを欠く旨の被請求人の主張は採用できない。
一般に、同一機能の構成に関して、周知または公知の構成の採用は、通常に行われる設計手法の一に属するものであり、甲一発明における液体の塗布等の分配機能部分に対して、甲2発明を適用することは、当業者にとって格別の困難性を伴う事項とは認められず、甲2発明として、「綿球」、「勺部」が知られる以上、相違点1-1、5,6の構成中、
封入液体が開放端側から滲出した場合に、該液体を担持することができる素材あるいは該液体を貯留する受け部を該開放端側に備える部分、
液体を担持する素材としてスポンジまたは綿塊等の液体吸収素材を、開放端側に備える部分、および、
パイプ開放端側にスプーン状の容器を備える部分
については、甲第2号証が、塗布を行うために用いる綿球、分配を行う勺部をチューブ上の容器に一体に設けることを開示するものである以上、甲第1、2号証の記載に基づいて容易になしえたものと認める。

しかしながら、本件請求項1に「・・封入液体が開放端側から滲出した場合に、・・」と記載されるように、各相違点の、「素材」、「容器」等は、パイプの開放端外側に設けられるものであり、かつ、それら「素材」、「容器」等に、予め反応する薬剤を含有あるいは保持させるものであるのに対して、甲1発明は、予め反応する薬剤を含有あるいは保持させた繊維材料の下流側に分配のための分配用オリフィスを設けるものである。甲第2号証には、薬剤を反応させる部位として綿球、勺部が開示されるものではなく、分配の手段として綿球、勺部を記載するものでしかないので、甲第2号証に記載される綿球等の目的からして、甲第1号証に適用すれば、分配用オリフィスに換えて綿球を適用すべきものである。
したがって、甲第1、2号証の組み合わせて得られる構成は、甲1発明が「分配用オリフィス」を有することを前提に、甲2発明における同一機能部材である「綿球」、「勺部」を適用するものであり、適用されたものは、「分配用オリフィス」に換えて、「綿球」、「勺部」を一体に設けるものが得られるのみであり、その場合においても、甲2発明が、反応容器に関して何らの技術的事項を示唆するものではないので、甲1発明における、繊維材料に第二成分が含有された繊維材料は、外側スリーブ内に位置したまま残すものとして、甲第2発明は、甲第1発明と組み合わすべきものである。
たしかに、甲1発明の繊維材料は、甲2発明の綿球と同様の素材であるものの、甲2発明は、その素材等を反応を行う部位として開示するものではないので、甲1発明の繊維材料に第二成分を含有させる技術を甲2発明の「綿球」および「勺部」に適用すべき動機付けは、存在しない。
換言すれば、甲第1号証は、反応を行うための「繊維材料」と分配を行う「分配用オリフィス」とを2部材として開示し、甲第2号証には、分配を行う「綿球」、「勺部」の開示があるとしても、反応に係る何らの開示が認められないのであるから、液体の分配に使用するものに反応容器としての機能も兼ね備えさせるために、液体の分配に使用する構成に予め反応する薬剤を含有あるいは保持させることにより、反応容器の機能を兼ね備えさせ、それを、液体を封入したパイプと一体に設ける各相違点を甲第1、2号証をもって当業者が容易になしえたとすることはできない。
そして、請求人が提出した残余の証拠をみても、それらの記載は、4-2-3?6に述べた範囲であり、これら機能を兼用させることを公知または周知とする客観的事実は、何等認められない。
したがって、本件請求項1、5、6に係る発明をそれら発明の構成の一部を開示も示唆もなさない甲各号証をもって容易に発明をすることができたとすることはできない。

なお、被請求人は、甲第1号証は、指の圧力下でアンプル2を破断するものであり、大気圧下で滲出させて反応されるものではない旨主張し、本件請求項1に係る発明の「滲出」が大気圧下でなされる旨主張している。
特許明細書の発明の詳細な説明にそのように発明が開示されることは主張のとおりであり、被請求人が本件請求項1を記載した意思が「大気圧下で滲出させる」ことにあることは、自身が述べるとおりであるとしても、本件請求項1、5、6に係る発明を甲各号証の記載から容易に発明をすることができた発明とすることはできないことは、この被請求人の主張を審理するまでもなく上述のとおり判断されたので、この点に係る更なる相違点の有無に係る審理は行わない。

4-3-2 請求項2?4、7?9に係る発明について
本件請求項2?4、7?9に係る発明は、4-1に記載したとおりのものであるから、直接または間接的に本件請求項1の記載を引用して構成が特定されるものであるから、本件請求項1に係る発明の全構成を少なくともその構成の一部とするものであり、4-3-1に説示のとおり、本件請求項1に係る発明を甲各号証をもって容易に発明をすることができたとすることはできない以上、本件請求項2?4、7?9に係る発明を甲各号証をもって容易に発明をすることができたとすることはできない。

4-3-3 請求項10に係る発明について
本件請求項10に係る発明と、甲1発明とを対比すると、本件請求項10に係る発明の「薬剤」は、「液体と反応して酸素を発生する」との限定は存するものの「開放端に封入された液体から隔離された状態で綿塊を設けて形成した綿棒パイプ」との配置、構造に係る特段の限定はなく、請求項12に「綿棒パイプを別体」であることをさらに特定することが可能である構成に請求項10は記載されるものである。
したがって、請求項10に係る発明の「綿塊」は、請求項1に係る発明の素材等とは異なり、反応を行う機能の部位を兼ねるものに限定されるものではない。
請求項10に係る発明は、甲1発明の「外側スリーブ内の分配用オリフィスとアンプルの本体部との間に」配置される「繊維材料」の位置を排除する特段の限定は認められず、さらに、甲1発明の「容器兼用ディスペンサー」は、分配用オリフィスを用いて接着剤を塗布するものであり、本件請求項10に係る発明も綿塊を用いて歯の漂白剤を塗布するものであるから、ともに塗布を行う容器である点においては差異はなく、さらに、甲1発明の「分配用オリフィス」は、使用時の機能及び配置からして、本件請求項10に係る発明の「綿塊」と同様の塗布機能を有するものと認められるので、塗布のための技術手段である点では、相当する部材と言うことができるとともに、甲1発明の「液状成分」及び「第二成分」は、液状成分と第二成分を使用時に反応させるものであるから、本件請求項10に係る発明の「液体」及び「薬剤」に対応するものではあるが、甲1発明のものは、反応して酸素を発生する薬剤ではなく、甲1発明の「外側スリーブ」は、内部に液状成分を封入している点及び形状から見て、本件請求項10に係る発明の「小径パイプ」に相当し、甲1発明の分配用オリフィスを具備する「外側スリーブ」の「一端」及び封止を具備する「他端」は、それぞれ、本件請求項10に係る発明の「開放端」及び「他端」に相当するものと認める。
したがって、両発明は、
一端を開放端とし、他端を密閉した小径パイプを備え、小径パイプに液体を封入し、小径パイプの一端に塗布のための手段を有し、該液体と反応する薬剤とからなる塗布の用具
の発明である点で一致し、
相違点2
本件請求項10に係る発明は、小径パイプは、開放端に封入された液体から隔離された状態で綿塊を設けて形成したものであり、液体と薬剤との反応により酸素を発生する歯の漂白剤塗布用具であるのに対して、甲1発明は、液状成分が入つている内側封止脆弱アンプルを用いて液状成分から隔離された状態でオリフィスを有した容器兼用ディスペンサーであり、液状成分と第二成分が反応するものの歯の漂白剤ではない点
で両発明は、相違するものと認める。

以下相違点2について検討する。
液体と反応して酸素を発生する薬剤を用いる歯の漂白剤は、甲第4号証にもみられるように周知のものであり、甲1発明が実施例として示されるように接着剤を意図したものであるとしても、本件請求項10に係る発明と同様に2薬品を使用時に反応させるものであり、かつ、本件請求項10に係る発明は、上述のとおり、甲1発明の第二成分の配置を排除するものではないので、甲1発明を周知の歯の漂白剤の塗布用具として用いることに格別の困難性を認めない。
そして、本件請求項10に係る発明の「綿塊」は、請求項11に特定されるような、予め薬剤を含有させておくもののみに限定されるものではなく、単に塗布のための綿塊をも包含するものであり、薬剤の配置部位は何等特定されていないので、甲2発明の「綿球」の機能から見て、甲2発明の「綿球」は、本件請求項10に係る発明の「綿塊」に相当するものと認められ、甲1発明の塗布・分配のための部材である分配用オリフィスに換えて、甲第2号証に記載される綿球を用いることは、当業者が容易になしえたものと認める。
さらに、甲第2号証に図示される綿球を有する容器の形状から、甲2発明を綿棒パイプと表現することが可能である。
また、甲1発明においても、アンプルにより、液状成分は分配オリフィスより隔離されており、甲2発明の分配手段である綿球と封入溶液液との関係は、4-2-2に述べたとおり、【0012】「・・図2を参照して説明する。 ・・前述閉鎖端部14が折られた時、チューブ内部に収容されている溶液が、孔22により開放端部16の先端にある綿球が全面的に濡れるように流出され、・・」と、使用前には、綿球は濡れておらず、使用時に濡れるものとして記載されるのであるから、綿球に対してこの液体である溶液は退いた位置にあることを把握可能である。
したがって、塗布用具として、開放端に封入された液体から隔離された状態で綿塊を設けて形成した小径パイプは、甲第2号証に記載される事項である。よって、甲1発明の分配用オリフィスを有する容器兼用ディスペンサーを、甲第2号証に記載される開放端に封入された液体から隔離された状態で分配・塗布のための綿球を設けた小径パイプとすることは、同一機能を果たすための公知の構造の採用にすぎず、当業者が容易になしえたものと認める。
したがって、相違点2は、甲第1、2号証に記載された発明及び周知の技術に基づいて当業者が容易になしえたものであって、格別の事項とは認められない。
そして、本件請求項10に係る発明の奏する効果は、甲第1、2号証に記載された発明及び周知の技術から予測することのできない格別のものと認めることはできない。
以上のとおり、本件請求項10に係る発明は、甲第1、2号証に記載された発明及び周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、同発明に対する特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

4-3-4 請求項11に係る発明について
本件請求項11に係る発明は、請求項11に記載されたとおりのものであり、請求項11に係る発明の綿棒パイプは、液体を封入した小径パイプを備え、開放端に綿塊を設けて形成したものであり、その綿塊に液体と反応して酸素を発生する薬剤を含有させる構成を有するものであるから、請求項10に係る発明の「綿塊」が塗布の機能を有するものの、反応を行う機能の部位を兼ねることまでは、限定されていなかったものであるのに対して、請求項11においては、その構成の一部である「綿塊」は、塗布等の液体の分配に使用するものであるとともに、反応容器としての機能も兼ね備えているものである。
そして、このような複数の機能を併せ持つ部材を小径パイプの一端に設けることを公知又は周知とする客観的証拠が何等認められないことは、4-3-1に述べたとおりであり、本件請求項11に係る発明をその発明の構成の一部を開示も示唆もなさない甲各号証をもって容易に発明をすることができたとすることはできない。

4-3-5 請求項12に係る発明について
本件請求項12に係る発明と甲1発明とを対比すると前記相違点2に加えて以下の点で相違するものと認める。
相違点3
本件請求項12に係る発明は、封入された液体と反応して酸素を発生する薬剤を粉末状にして収納した容器と綿棒パイプを別体に構成したものであるのに対して、甲1発明の第二成分は外側スリーブの内に設けられる点。

相違点3について検討すると、4-2-1に述べたとおり、甲第1号証は、従来技術として、「液体のいわゆる単位用量を処理し得る包装容器は、いくつかの産業、例えば、医療産業において既知であり、1回分包計量分配される単一使用量の液体が、封止されていて破断可能なアンプルのなかに入つており、さらに封止されている。」、第2頁右下欄第10?18行に、「比較的多量のものを使用するときには、基礎接着剤は促進剤と別々に包装され、二成分は、通常、現場で、・・結合される。・・単位用量の容器とディスペンサーを1つにするのが全く有利であり、・・」と、単位使用量の包装とすること、別の包装とすることを従来技術として記載している。
したがって、別体の構成とすることは、甲第1号証に記載される従来技術に基づいて容易になしえたものと認められるとともに、液体と反応して酸素を発生する薬剤を粉末状にして用いることは、甲4号証にも示されるように周知の技術にすぎないので、相違点3は、甲第1号証に記載された発明及び周知の技術に基づいて、当業者が容易になしえたものである。
また、相違点2は、4-3-3に述べたとおり、格別の事項とは認められない。
そして、本件請求項12に係る発明の奏する効果は、甲第1、2号証に記載された発明及び周知の技術から予測することのできない格別のものと認めることはできない。
したがって、本件請求項12に係る発明は、甲第1、2号証に記載された発明及び周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、同発明に対する特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

4-3-6 請求項13?15に係る発明について
本件請求項13、14に係る発明と甲1発明を対比すると、相違点2に加えて
相違点4
本件請求項13に係る発明は、 封入する液体として水あるいは有機酸溶液を用いる歯の漂白剤塗布用具であるのに対して、甲1発明は、液体を封入するものの水あるいは有機酸溶液を用いる歯の漂白剤ではない点。
相違点5
本件請求項14に係る発明は、封入された液体と反応して酸素を発生する薬剤として、過酸化物を用いる歯の漂白剤塗布用具であるのに対して、甲1発明は、過酸化物を用いる歯の漂白剤ではない点。
で相違し、本件請求項5に係る発明と甲1発明を対比すると、相違点2、5に加えて
相違点6
請求項15に係る発明は、過酸化物として、マグネシウムパーオキサイド、マグネシウムオキサイド、マグネシウムハイドロオキサイド、アルミニウムオキサイドから選ばれた1つを選択して用いるこ歯の漂白剤塗布用具であるのに対して、甲1発明は、過酸化物を用いる歯の漂白剤ではない点
で相違している。
しかしながら、相違点4に係る本件請求項13に係る構成は、甲第4号証に示されるように周知の技術であり、相違点5、6に係る本件請求項14、15に係る構成は、甲第6号証に示されるように周知の技術である。
したがって、相違点4?6は、周知の技術に基づいて、当業者が容易になしえたものと認める。
また、相違点2は、4-3-3に述べたとおり、格別の事項とは認められない。
そして、本件請求項13?15に係る発明の奏する効果は、甲第1、2号証に記載された発明及び周知の技術から予測することのできない格別のものと認めることはできない。
したがって、本件請求項13?15に係る発明は、甲第1、2号証に記載された発明及び周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、それら発明に対する特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

5. むすび
以上の通り、本件請求項10、12?15に係る発明についての特許は、特許法第123条第1項第2号に該当するので無効とする。
提出された証拠及び請求人の主張によっては、本件請求項1?9、11に係る発明についての特許を無効とすることはできないとともに、それら請求項に係る発明についての特許を無効とすべき別途の理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2007-03-08 
出願番号 特願2002-121264(P2002-121264)
審決分類 P 1 113・ 121- ZC (A61K)
最終処分 一部成立  
前審関与審査官 高橋 祐介一ノ瀬 覚  
特許庁審判長 粟津 憲一
特許庁審判官 豊永 茂弘
関口 勇
登録日 2002-12-20 
登録番号 特許第3382239号(P3382239)
発明の名称 液剤と薬剤の薬剤反応用具セット  
代理人 児玉 喜博  
代理人 児玉 喜博  
代理人 長谷部 善太郎  
代理人 佐藤 莊助  
代理人 佐藤 莊助  
代理人 山口 朔生  
代理人 長谷部 善太郎  
復代理人 加藤 誠  

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