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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B01J
管理番号 1161182
審判番号 不服2003-1661  
総通号数 93 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-09-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-02-03 
確定日 2007-07-18 
事件の表示 平成11年特許願第344339号「ガスの精製方法」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 6月20日出願公開、特開2000-167389〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.出願の経緯
本願は、平成11年12月3日(パリ条約による優先権主張1998年12月4日、米国)の出願であって、平成14年10月29日付けで拒絶査定がなされ、平成15年2月3日に審判請求がなされ、平成17年9月12日付けで当審において拒絶理由が通知され、平成18年3月13日に意見書及び手続補正書が提出され、さらに平成18年5月17日に上申書が提出されたものである。

2.本願発明
本願請求項1?14に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1?14」という。)は、平成18年3月13日付け手続補正書により補正された【特許請求の範囲】、【請求項1】ないし【請求項14】に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】 供給ガスから一酸化炭素、水素、二酸化炭素および水を除去する方法であって、供給ガスを圧縮し、それによって供給ガスを圧縮熱で加熱し、加熱された供給ガスを触媒と接触させて、該圧縮熱を用いて一酸化炭素を酸化して二酸化炭素として、一酸化炭素減少ガス流を形成し、その一酸化炭素減少ガス流を固体吸着剤と接触させてそこから少くとも水を除去し、一酸化炭素・水減少ガス流を生じさせ、そして、その一酸化炭素・水減少ガス流を触媒と接触させて水素を酸化して水とし、吸着剤と接触させて水と二酸化炭素を吸着する、ことを特徴とするガスの精製方法。
【請求項2】 一酸化炭素を二酸化炭素とする酸化触媒が、鉄、コバルト、ニッケル、ルテニウム、ロジウム、オスミウム、イリジウム、白金、パラジウムおよびそれらの混合物からなる群から選ばれ、触媒担体に担持されている請求項1記載の方法。
【請求項3】 一酸化炭素の酸化触媒が、水を除去するための固体吸着剤とは別の容器に入っている請求項1または2記載の方法。
【請求項4】 一酸化炭素を二酸化炭素とする酸化触媒は、また少くとも一部の水素を接触酸化して水とする請求項1?3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】 二酸化炭素と水を吸着する吸着剤が活性アルミナ、含浸アルミナもしくはゼオライトである請求項1記載の方法。
【請求項6】 水を吸着するための固体吸着剤がゼオライト、アルミナ、含浸アルミナもしくはシリカゲルである請求項1記載の方法。
【請求項7】 水素を水とする酸化触媒が、白金、パラジウムもしくはそれらの混合物からなる群から選ばれ、アルミナに担持されている請求項1記載の方法。
【請求項8】 水素を水とする酸化触媒、ならびに水および二酸化炭素の吸着剤が混合されている請求項1記載の方法。
【請求項9】 該固体吸着剤は、水および少くとも一部の二酸化炭素を吸着する請求項1または6記載の方法。
【請求項10】 水を除去する該固体吸着剤と水及び二酸化炭素を吸着する該吸着剤が定期的に再生される請求項1記載の方法。
【請求項11】 該再生がPSA(pressure swing adsorption : 圧力スイング吸着)およびTSA(thermal swing adsorption :熱スイング吸着)よりなる群から選ばれる請求項10記載の方法。
【請求項12】 該供給ガスが、高純度窒素を製造する低温空気分離プロセスに先立って精製される空気である請求項1記載の方法。
【請求項13】 供給ガスから一酸化炭素、水素、二酸化炭素および水を除去する方法であって、供給ガスを圧縮し、それによって供給ガスを圧縮熱で加熱し、加熱された供給ガスを触媒と接触させて、該圧縮熱を用いて一酸化炭素を酸化して二酸化炭素として、一酸化炭素減少ガス流を形成し、その一酸化炭素減少ガス流を固体吸着剤と接触させてそこから水および全量より少ない該二酸化炭素を除去し、一酸化炭素・水の減少した二酸化炭素含有ガス流を生じさせ、そしてその一酸化炭素・水の減少した二酸化炭素含有ガス流を水素の吸着剤および二酸化炭素の吸着剤と接触させる、ことを特徴とするガスの精製方法。
【請求項14】 供給ガスから一酸化炭素、水素、二酸化炭素および水を除去する方法であって、供給ガスを圧縮し、それによって供給ガスを圧縮熱で加熱し、加熱された供給ガスを触媒と接触させて、該圧縮熱を用いて一酸化炭素を酸化して二酸化炭素として、一酸化炭素減少ガス流を形成し、その一酸化炭素減少ガス流を、水を除去する固体吸着剤、水素の吸着剤及び二酸化炭素の吸着剤の混合物と接触させる、ことを特徴とするガスの精製方法。」

3.刊行物及び刊行物の記載
当審拒絶理由通知で引用した本願の優先日前に公知である刊行物1(特開平2-307506号公報)、及び刊行物2(特開平10-114508号公報)には、以下の事項が記載されている。

(1)刊行物1(特開平2-307506号公報)の記載事項
(1-ア)「空気中の一酸化炭素及び水素を除去する精製方法であって、空気を圧縮機により圧縮する工程、圧縮された空気中の一酸化炭素及び水素を触媒を用いて酸化する工程、酸化工程後の圧縮空気を冷却する工程及び冷却された圧縮空気中の二酸化炭素、水分及び未反応水素を吸着及び水素吸蔵合金への吸蔵により除去する工程を含む空気の精製方法。」(特許請求の範囲 請求項1)
(1-イ)「本発明は、空気中に含まれる不純物の一酸化炭素及び水素を除去する精製方法に関するものであり、特に空気液化分離方法の原料空気の精製方法として適したものである。」(第1頁左下欄第15?第18行)
(1-ウ)「このような一酸化炭素、水素を除去する空気精製装置として、例えば・・・第2図はその一実施例を示し、原料空気はフィルター11を経て圧縮機12で床圧(圧縮)され、圧縮熱によって90?120℃となった圧縮原料空気は、・・・触媒槽13に導入され、・・・触媒槽13を出た原料空気は、冷却器14で常温付近まで冷却され、吸着塔15において二酸化炭素、水分を吸着によって除去される。・・・・ガスが取出される。」(第1頁右下欄第15行?第2頁左上欄第8行)
(1-エ)「本発明は、…、空気圧縮機の圧縮熱以外の他の熱源を使用することなく、液化精留工程へ送る原料空気中の不純物、特に一酸化炭素及び水素を除去する空気の精製方法を目的とする。・・・本発明の方法は、空気を圧縮機により圧縮する工程、・・・酸化工程後の圧縮空気を冷却する工程及び冷却された圧縮空気中の二酸化炭素、水分の吸着及び未反応の水素の水素吸蔵合金への吸蔵により除去する工程を含むことを特徴とする。」(第2頁左下欄第9?右下欄第1行)
(1-オ)「本発明の方法をその一実施例のフローシートを示した第1図を参照して説明する。・・・。原料空気は、空気圧縮機1によって液化精留工程に必要な圧力まで圧縮され、この際の圧縮熱により約80?150℃に加温されて加温圧縮空気として送出される。触媒塔2には、白金、パラジウムのような酸化反応触媒が充填されており、空気圧縮機を出た加温圧縮空気がここへ導入されると空気中の一酸化炭素及び水素は空気中の酸素によって酸化され、それぞれ二酸化炭素及び水を生成する。しかしながら、前記のように導入される圧縮空気の温度は比較的低いので、特に反応に高温(200℃以上)を必要とする水素の酸化が完全には行われず、未反応の水素がわずかながら残存することとなる。触媒塔2を出た原料空気は、冷却器3において常温付近まで冷却され、分離塔4で遊離水分が分離除去される。原料空気が次に送られる吸着塔5には、二酸化炭素、水を吸着するモレキュラー・シーブ(登録商標)、アルミナのような吸着剤の1種または2種以上が充填され、さらにチタン-鉄、マグネシウム-ニッケル系のような水素吸蔵合金が充填されている。したがって吸着塔5に送られた原料空気中の二酸化炭素、水は吸着剤に吸着され、触媒塔2での酸化反応時に酸化せずに残った水素は合金に吸蔵されていずれも除去される。」(第2頁右下欄第3行?第3頁左上欄第12行)
(1-カ)「本発明の方法は、これまでに述べたように、原料空気中の一酸化炭素、水素の全量を酸化させるに必要な高温(200?250℃)まで加熱することなく、空気圧縮機による圧縮時の圧縮熱のみに頼っているので、電気、燃料等の他の加熱エネルギーを使用せず、運転費を低減することができる。触媒塔に導入される原料空気の温度を比較的低く(100℃程度)しているために当然未反応の水素が原料空気に残ることになるが、本発明の方法では、吸着塔内に吸着剤とともに水素吸蔵合金を充填して、二酸化炭素、水(一酸化炭素、水素の酸化により生じたものを含む)は吸着剤に、未反応水素は吸蔵合金に、それぞれ吸着、吸蔵させるので、圧縮熱以外の追加のエネルギーを用いなくても、原料空気中の一酸化炭素及び水素を完全に除去して精製できるのである。また原料空気の加熱装置や、第2従来技術に開示されている熱交換器が不要となるので予備精製設備全体が簡略化され、運転費ばかりでなく設備費も低減可能となった。水素吸蔵合金の使用は、とかく酸化せずに未反応のまま原料空気中に残存して製品ガスの純度を下げていた水素の除去を可能にし、精製効率の点でも従来方法より大きく改良された本発明方法を提供した。」(第3頁右上欄第6行?左下欄第10行)

(2)刊行物2(特開平10-114508号公報)の記載事項
(2-ア)「(a)水蒸気、一酸化炭素と水素の一方または両方、および窒素とメタンの一方または両方を含有した不活性ガス流れと乾燥剤とを接触させることによって、前記ガス流れから水蒸気を除去する工程;
(b)前記ガス流れ中の全ての一酸化炭素と水素を二酸化炭素と水蒸気とに酸化するのに必要な量より過剰な量の酸素の存在下にて、金属酸化物触媒、貴金属触媒、およびこれらの混合物からなる群から選ばれる酸化触媒と、工程(a)からのガス流れとを接触させ、これによって一酸化炭素と水素を実質的に含まないガス流れを生成させる工程;
(c)水選択性および/または二酸化炭素選択性の吸着剤と工程(b)からのガス流れとを接触させることによって前記ガス流れから水蒸気および/または二酸化炭素を除去し、これによって水蒸気と二酸化炭素を実質的に含まないガス流れを生成させる工程;
……を含む、水蒸気、一酸化炭素と水素の一方または両方、および窒素とメタンの一方または両方を含有した不活性ガス流れを精製する方法。」(【特許請求の範囲】【請求項1】)
(2-イ)「本発明は不活性ガスの精製に関する。さらに詳細には、本発明は、アルゴンガス流れからの微量の大気ガス不純物の除去に関する。」(第2欄第35行?第37行)
(2-ウ)「ゾーン10aと10bは、それぞれ一酸化炭素と水素の酸化時に形成される二酸化炭素と水蒸気をガス流れから除去するという作用を果たす。水蒸気と二酸化炭素は、水蒸気と二酸化炭素の両方を吸着する単一吸着剤(例えば、ゼオライトAやゼオライトX)を使用することによって除去することもできるし、あるいは2種の吸着剤の別個の層の形で、もしくは2種の吸着剤の単一混合層の形で使用して吸着除去することもできる。適切な水蒸気吸着剤は、ゾーン4aと4bでの使用に関して前述した吸着剤である。適切な二酸化炭素吸着剤としては、ゼオライトAやゼオライトX(例えば、ゼオライト5Aやゼオライト13X)、および活性アルミナ(例えば、アルコア社から市販のセレックスソーブCOSやH-156)がある。水蒸気は、一般には二酸化炭素より速やかに吸着されるので、二酸化炭素の吸着を意図している吸着剤への水蒸気の優先的な吸着を防ぐために、通常は、水蒸気吸着剤と二酸化炭素吸着剤の別個の層を設けるのが好ましい。」(第8欄第23行?第40行)

4.対比・判断
当審拒絶理由通知における「理由A」(特許法第29条第2項違反)の対象である、本願発明14について検討する。
刊行物1の摘示事項(1-ア)には、「空気中の一酸化炭素及び水素を除去する精製方法であって、空気を圧縮機により圧縮する工程、圧縮された空気中の一酸化炭素及び水素を触媒を用いて酸化する工程、酸化工程後の圧縮空気を冷却する工程及び冷却された圧縮空気中の二酸化炭素、水分及び未反応水素を吸着及び水素吸蔵合金への吸蔵により除去する工程を含む空気の精製方法」が記載されており、この記載中の「圧縮された空気中の一酸化炭素及び水素を触媒を用いて酸化する工程」は、摘示事項(1-オ)によれば「原料空気が、空気圧縮機による圧縮の際の圧縮熱によって加温圧縮空気」となり、この加温圧縮空気が「触媒塔に導入される」ことによって「空気中の一酸化炭素及び水素は酸化され、それぞれ二酸化炭素及び水を生成する」ものと云える。また、同様に「冷却された圧縮空気中の二酸化炭素、水分及び未反応水素を吸着及び水素吸蔵合金への吸蔵により除去する工程」は、摘示事項(1-オ)によれば、「二酸化炭素、水を吸着する吸着剤の1種または2種以上が充填され、さらに水素吸蔵合金が充填された」吸着塔に送ることにより、空気中の二酸化炭素、水、及び水素を除去するものであると云える。
これらの記載を本願発明14の記載ぶりに沿って整理すると、刊行物1には、「空気中の一酸化炭素及び水素を除去する精製方法であって、空気を圧縮機により圧縮することによって圧縮熱で加温圧縮空気とする工程、加温圧縮空気中の一酸化炭素及び水素を触媒を用いてそれぞれ二酸化炭素及び水に酸化する工程、酸化工程後の加温圧縮空気を冷却する工程及び冷却された圧縮空気を二酸化炭素、水を吸着する吸着剤の1種または2種以上が充填され、さらに未反応水素を吸蔵する水素吸蔵合金が充填された吸着塔に送り、圧縮空気中の二酸化炭素、水分、及び水素を除去する工程、を含む空気の精製方法」の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されていると云える。
ここで、本願発明14と刊行物1発明を対比すると、後者における「空気」、「加温圧縮空気」、「水分」及び「空気の精製方法」は、それぞれ前者における「供給ガス」、「加熱された供給ガス」、「水」及び「ガスの精製方法」に相当する。また、後者は「空気中の一酸化炭素及び水素を除去する精製方法」であるが、これは摘示事項(1-イ)、(1-エ)に記載されるとおり、刊行物1発明は空気液化分離方法において原料空気中の不純物のうち特に一酸化炭素及び水素の除去に着目しているのであって、これ以外の不純物について除去しないこと意味するものではなく、実際、後工程で「二酸化炭素及び水分を吸着剤により吸着」していることから、前者の「供給ガスから一酸化炭素、水素、二酸化炭素および水を除去する方法」に相当する。そして、後者における「空気を圧縮機により圧縮することによって圧縮熱で加温圧縮空気とする工程、加温圧縮空気中の一酸化炭素、を触媒を用いて、二酸化炭素、に酸化する工程」は、摘示事項(1-エ)?(1-カ)によれば、刊行物1発明は圧縮熱以外の加熱エネルギーを使用せず、圧縮熱により加温された加温圧縮空気が触媒塔に導入されると、一酸化炭素が空気中の酸素によって酸化され、一酸化炭素が減少するものであることからみて、前者における「供給ガスを圧縮し、それによって供給ガスを圧縮熱で加熱し、加熱された供給ガスを触媒と接触させて、該圧縮熱を用いて一酸化炭素を酸化して二酸化炭素として、一酸化炭素減少ガス流を形成」することに相当すると云える。さらに、後者においては「圧縮空気を二酸化炭素、水を吸着する吸着剤の1種または2種以上が充填され、さらに未反応水素を吸蔵する水素吸蔵合金が充填された吸着塔に送り、圧縮空気中の二酸化炭素、水分、及び水素を除去」しているが、「吸着剤」及び「水素吸蔵合金」はいずれも二酸化炭素と水、及び水素を除去するための「剤」であり、圧縮空気を該「剤」が充填された吸着塔に送っていることから、圧縮空気を該「剤」と接触させていると云える。
よって、両者は、「供給ガスから一酸化炭素、水素、二酸化炭素および水を除去する方法であって、供給ガスを圧縮し、それによって供給ガスを圧縮熱で加熱し、加熱された供給ガスを触媒と接触させて、該圧縮熱を用いて一酸化炭素を酸化して二酸化炭素として、一酸化炭素減少ガス流を形成し、その一酸化炭素減少ガス流を、剤と接触させる、ガスの精製方法」で一致し、以下の点で相違する。

(i)本願発明14では、加熱された供給ガスを触媒と接触させて、「一酸化炭素を酸化して二酸化炭素」とするのに対し、刊行物1発明では「一酸化炭素及び水素」を「それぞれ二酸化炭素及び水に酸化」する点

(ii)本願発明14では、一酸化炭素減少ガス流を、「水を除去する固体吸着剤、水素の吸着剤及び二酸化炭素の吸着剤の混合物と接触させる」のに対し、刊行物1発明では、「加温圧縮空気を冷却する工程」を有し、さらに「冷却された圧縮空気を二酸化炭素、水を吸着する吸着剤の1種または2種以上が充填され、さらに未反応水素を吸蔵する水素吸蔵合金が充填された吸着塔に送り、圧縮空気中の二酸化炭素、水分、及び水素を除去」する点

相違点(i)について検討する。
まず、本願発明14と刊行物1発明とは、上記一致点として記載したとおり、一酸化炭素を酸化して二酸化炭素に酸化している点で差異はない。
そして、刊行物1発明では一酸化炭素の酸化と共に「水素を水に酸化」することについて本願発明14をみてみると、本願明細書には「フランス特許第2739304号明細書とは異なって、本発明においては、水素は、一酸化炭素を除去する触媒床で、部分的ではあるが無視できない量を除去され、そして残留する水素は、ついで酸化されて水になり、吸着剤がそのように生成した水のために提供されるか、あるいはその代わりに水素はなお二酸化炭素を含むガス流から吸着作用で除去される。」(第7欄第12行?第18行)、「好ましくは、一酸化炭素を二酸化炭素とする酸化触媒はPtおよびPdを含浸したアルミナであり、この触媒は、無視できない量の水を含む空気流中で、一酸化炭素を二酸化炭素とするのと同時に、意外にも水素の一部を水に酸化する。・・・随意に一酸化炭素を二酸化炭素とする酸化触媒も部分的に水素を水に接触酸化する。」(第7欄第30行?第38行)と記載されており、実施例1では「市販の貴金属を主とする酸化触媒(アルミナに担持した0.1wt%Pdと0.2wt%Pt)」を用いると一酸化炭素と水素が減少することが示されている。これらの記載からみて、本願発明14においても、加熱された供給ガスと接触させる「触媒」は、「一酸化炭素を酸化して二酸化炭素」とする作用のみならず、一酸化炭素の酸化に加え、「水素の一部を水に酸化」する作用も有すると解される。
そうすると、本願発明14において上記「触媒」と接触させて、該圧縮ガスを用いて一酸化炭素を酸化して二酸化炭素とする工程は、一酸化炭素のみならず、水素の少なくとも一部を水に酸化することを含むと云えるから、刊行物1発明が「一酸化炭素及び水素」を「それぞれ二酸化炭素及び水に酸化」することと差異がないものである。
よって、上記相違点(i)は実質的な相違点とは云えない。
なお付言すると、請求人は平成18年5月17日付け上申書において、「一酸化炭素減少ガス流を形成」する工程は、請求項1、13および14において共通であり、本願明細書の段落【0021】の第1行?第3行に記載されているように、「一部の水素の酸化が起る場合」も含むことは明確である旨主張しており、該主張からみても、刊行物1発明の「一酸化炭素及び水素を触媒を用いて圧縮熱によりそれぞれ二酸化炭素及び水に酸化する」ことと本願発明14の「触媒と接触させて、該圧縮熱を用いて一酸化炭素を酸化して二酸化炭素」とすることとの間に差異がないと解することができる。

相違点(ii)について検討する。
まず、相違点(ii)の中で、刊行物1発明では、吸着塔で二酸化炭素、水分、及び水素を除去する前に「加温圧縮空気を冷却する工程」を有していることについて検討する。
刊行物1の明細書には「加温圧縮空気を冷却する工程」の意義について明言されていないが、摘示事項(1-オ)及び常識的にみて、一般的な脱着再生式の吸着システムにおいては、供給されるガス流の温度が低い方が吸着量がより多くなること、及び/又は、遊離水分の除去を考慮した工程であると解される。しかし、原料ガスの不純物を吸着により除去する技術において、圧縮ガス流を吸着システムに送る前に冷却工程を設けないことも周知である(必要であれば、特開平5-84418号、特開平2-95410号、特開平5-147912号)ことからみて、当該技術において冷却工程は当業者が必要に応じて設けるか否か決定し得る工程であると云える。してみれば、刊行物1発明においても、吸着システム、ガス流の性状等を考慮して「加温圧縮空気を冷却する工程」を設けない構成とすることは当業者が容易に為し得ることである。
なお、本願発明14は一酸化炭素減少ガス流を冷却することは発明特定事項としていないが、本願明細書の記載をみても、従来技術である図4には一酸化炭素減少ガス流をクーラーを通して吸着システムに供給することが示されており、図1の態様においても「一酸化炭素減少ガス流は、ついで図4に示されるのと類似のTSAもしくはPSA吸着システムに供給される。」(第8欄第31行?第33行)と記載されていることからみて、本願発明14が一酸化炭素減少ガス流を冷却することを包含するか否か明確ではなく、仮に冷却工程を包含しないものであるとしても、本願明細書には冷却工程を設けないことについて何ら記載されていないことから、冷却工程を包含しないことに格別な意義は見い出せないといえる。
次に、相違点(ii)の中で、刊行物1発明では「二酸化炭素、水を吸着する吸着剤の1種または2種以上が充填され、さらに未反応水素を吸蔵する水素吸蔵合金が充填された吸着塔に送り、圧縮空気中の二酸化炭素、水分、及び水素を除去」しているのに対し、本願発明14では「水を除去する固体吸着剤、水素の吸着剤及び二酸化炭素の吸着剤の混合物と接触」させている点についてみると、両者には(ア)水素を除去する剤、(イ)二酸化炭素、水分、及び水素を除去する剤の配置、について相違がみられるのでこの点について検討する。
(ア)について
「吸蔵」について「理化学辞典」(長倉三郎等編、第5版、株式会社岩波書店発行、第323頁、「吸蔵」の欄)には、「気体が固体に吸収されて固体の内部に入りこむ現象.白金,パラジウムなどが水素を吸収する現象についてグレアムが名づけた語であるが,これには吸着や固体表面での凝縮など種々の現象が含まれている.」と記載されていることから、一般に「吸着」の現象が含まれていると云える。そして、「水素吸蔵合金」が「吸着」作用を有しているものとして水素の除去に普通に用いられていること(必要であれば、特開平4-104096号公報、特開平7-243721号公報参照)からみて、刊行物1発明における「水素吸蔵合金」は、水素を除去する「水素吸着剤」であるということができる。さらにいえば、本願明細書をみても「水素吸着剤」がどのようなものを含むのか何ら記載されておらず、広い意味の「吸着剤」を含むと解されることからも、刊行物1発明の「水素吸蔵合金」と本願の「水素吸着剤」とに差異があるとは云えない。
また仮に、刊行物1発明の「水素吸蔵合金」と「水素吸着剤」が異なるものと解したとしても、水素を「水素吸蔵合金」で除去することと同様、「水素吸着剤」で除去することも当業界において周知であるから(必要であれば、特開昭56-139129号公報、特表平8-504394号公報)、刊行物1発明における「水素吸蔵合金」に代えて「水素吸着剤」を用いることは当業者が容易に想到し得ることである。
(イ)について
刊行物2の摘示事項(2-ウ)に、「水蒸気と二酸化炭素は、水蒸気と二酸化炭素の両方を吸着する単一吸着剤(例えば、ゼオライトAやゼオライトX)を使用することによって除去することもできるし、あるいは2種の吸着剤の別個の層の形で、もしくは2種の吸着剤の単一混合層の形で使用して吸着除去することもできる。」と記載されていることから、ガス流中の複数の成分を除去するに際して、除去すべき全成分を吸着する単一吸着剤を使用することによって除去することもできるし、あるいは各成分の吸着剤の別個の層の形で、もしくは各成分の吸着剤の単一混合層の形で使用して吸着除去することは当業界において公知であるといえる。
してみると、刊行物1発明において、吸着塔に水、二酸化炭素、水素それぞれを除去する3種の固体吸着剤を混合して充填し、「圧縮空気中の二酸化炭素、水分、及び水素を除去する」構成とすることは当業者が容易に想到し得ることである。
なお、請求人が平成18年5月17付け上申書において『この「一酸化炭素減少ガス流を水を除去する固体吸着剤、水素の吸着剤及び二酸化炭素の吸着剤の混合物と接触させる」という記載を見れば、上記請求項13に対応する「吸着によって水素を除去する水素吸収剤層」を選択する第2層と、「水素の酸化で生じる水、ならびに残留二酸化炭素を吸着するゼオライト13X吸着剤の層」の第3層との2つの層を、単一層(すなわち2段階ではなく単一段階)とすれば請求項14に対応する工程となる』(上申書第2頁第2行?第7行)と述べていることを参酌すると、上記相違点(ii)における本願発明14の吸着剤は3種を混合したものにガス流を接触させるのではなく、最初に「水を除去する固体吸着剤」に接触させ、次に「水素の吸着剤及び二酸化炭素の吸着剤の混合物」に接触させるものであると主張しているとも解されるが、たとえそのように解したとしても、水蒸気が一般に二酸化炭素より速やかに吸着されることは当業界においてよく知られたことであるから(必要であれば、摘示事項(2-ウ)参照)、最初にガス流を「水を除去する固体吸着剤」に接触させようとすることも当業者が容易に想到しうることである。
そして、上記相違点(i)及び(ii)に係る特定事項を採用することによる本願発明14の効果についてみると、段落【0019】に「3つの態様のいずれにおいても、圧縮後、および一酸化炭素から二酸化炭素への接触転化前に、熱は、供給ガスに全く、または実質的に追加されない。」と記載されていること、及び平成18年3月13日付け意見書に「本願発明の主たる特徴は、一酸化炭素の二酸化炭素への触媒による転換を空気圧縮の直後に実施することであり、圧縮熱を用いて一酸化炭素から二酸化炭素への触媒作用を行うものである。」((3)理由A・・・(i)の欄)と記載されていることからみて、本願発明14の効果は、「圧縮熱のみにより一酸化炭素から二酸化炭素への触媒転化」を行うことであると解されるが、これは、刊行物1も摘示事項(1-エ)、(1-オ)にあるように圧縮熱以外の熱源を使用すること無く空気を生成することを目的とするものであることから当業者が予測しうる効果であって格別顕著な効果であるとは認められない。
さらに、請求人は原審における意見書、審判請求書、平成18年3月13日付け意見書において「水素転化触媒の水による劣化、失活からの保護」を本願発明の効果である旨主張しているが、請求人も平成18年3月13日付け意見書において「請求項1の水素転換触媒が請求項13および14において水素の吸着剤に置換されており、・・・このように、請求項13および14においては、水素転化触媒作用はなく、水素吸着のみである。」と述べているとおり、上記効果は「一酸化炭素を酸化して二酸化炭素とする触媒」の後段に設ける「水素を酸化して水とする触媒」に関するものであると解され、「一酸化炭素を酸化して二酸化炭素とする触媒」は用いているが、その後段において、水素は吸着剤により吸着するものであって、「水素を酸化して水とする触媒」は用いていない本願発明14についての効果であるとは云えないから、該請求人の主張は採用することができない。
以上のとおりであるから、本願発明14は、上記刊行物1、2に記載された発明、及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.むすび
したがって、本願請求項14に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-02-19 
結審通知日 2007-02-20 
審決日 2007-03-05 
出願番号 特願平11-344339
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B01J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 森 健一  
特許庁審判長 板橋 一隆
特許庁審判官 大黒 浩之
増田 亮子
発明の名称 ガスの精製方法  
代理人 田崎 豪治  
代理人 鶴田 準一  
代理人 石田 敬  
代理人 樋口 外治  
代理人 西山 雅也  

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