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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41J
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B41J
管理番号 1161189
審判番号 不服2004-11703  
総通号数 93 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-09-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-06-09 
確定日 2007-07-18 
事件の表示 平成 9年特許願第356388号「カラーサーマルプリンタ」拒絶査定不服審判事件〔平成11年 6月29日出願公開、特開平11-170585〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成9年12月10日に出願したものであって、平成16年4月21日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年6月9日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年7月7日付けで明細書についての手続補正がなされたものである。

2.平成16年7月7日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成16年7月7日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
(1)補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「支持体上に発色感度が異なる複数の発色層を、上層から順に、波長420nm近傍の紫外線に光定着性を持つイエロー発色層と、波長365nm近傍の紫外線に光定着性を持つマゼンタ発色層と、光定着性を持たないシアン発色層とを有し、更に、各色の発色濃度も供給される熱エネルギーによって制御できる感熱記録紙を用いて、熱エネルギーが低い発色層から順に、ライン状に多数の発熱素子が並んで成るサーマルヘッドで直接感熱記録紙を加熱するとともに、熱記録後に、光定着器により前記感熱記録紙に紫外線を照射して光定着を行う方式のカラープリンタにおいて、
上記感熱記録紙に、イエロー熱記録をした後にイエロー光定着を行い、次に、マゼンタ熱記録をした後にマゼンタ光定着を行い、更に、シアン熱記録を行った後に、再び、前記感熱記録紙に、イエローが発色し始める熱エネルギーの約75%の熱エネルギーを加えるようにしたことを特徴とする直接感熱記録方式カラーサーマルプリンタ。」
と補正された。(下線部の部分が付け加えられた。)
上記付け加えられた補正事項の内、「上層から順に、波長420nm近傍の紫外線に光定着性を持つイエロー発色層と、波長365nm近傍の紫外線に光定着性を持つマゼンタ発色層と、光定着性を持たないシアン発色層とを」について検討する。補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が請求しているものは、「カラーサーマルプリンタ」であるのにもかかわらず、上記補正事項は、「感熱記録紙」を限定するものであって、カラーサーマルプリンタを特定するために必要な事項を直接限定しているものではないが、光定着手段が波長420nm近傍の紫外線と波長365nm近傍の紫外線を照射し得ることを間接的に限定しているといえる。
上記付け加えられた補正事項の内、「ライン状に多数の発熱素子が並んで成る」と「とともに、熱記録後に、光定着器により前記感熱記録紙に紫外線を照射して光定着を行う」は、それぞれ、サーマルヘッドと光定着手段を限定するものである。
上記付け加えられた補正事項の内、「直接感熱記録方式」については、補正前の請求項1に「サーマルヘッドで直接感熱記録紙を加熱する方式」という記載があるから、カラーサーマルプリンタが直接感熱記録方式であることを明記したにすぎない。
よって、上記補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(2)引用刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された特開平6-218968号公報(以下、「刊行物」という。)には、以下の記載が図示とともにある。
ア.【0012】本発明は上記事実を考慮し、仕上がり画像の光沢感の均一化を図り画像信号に基づく再現性を向上することができる画像記録装置を得ることが目的である。
イ.【0013】
【課題を解決するための手段】請求項1に記載の発明は、熱エネルギが供給されることにより各々異なる色に発色する感度が異なる複数の発色層が積層されると共に全層または最終記録層以外の層が光の照射により定着可能な感熱感光発色層である感熱記録材料に、発色させるための熱エネルギーが低い発色層から順に画像データに基づいて熱エネルギを供給して複数の色画像を重ねて記録した後該感熱記録材料を排出する画像記録装置において、全画像を記録しかつ全層または最終記録層以外の層を定着した後、感熱記録材料に加熱と加圧とを行なう加熱加圧手段を設けたことを特徴としている。
ウ.【0018】
【作用】請求項1に記載の発明の画像記録装置は、熱エネルギが供給されることにより各々異なる色に発色する感度が異なる複数の発色層が積層されると共に全層または最終記録層以外の層が光の照射により定着可能な感熱感光発色層である感熱記録材料に、発色させるための熱エネルギーが低い発色層から順に画像データに基づいて熱エネルギを供給して複数の色画像を重ねて記録した後該感熱記録材料を排出する。感熱記録材料へ全画像を記録しかつ全層または最終記録層以外の層を定着した後、加熱加圧手段によって加熱と加圧とを行なう。このように、感熱記録材料は、複数の画像が記録及び定着された後に、加熱加圧される。これにより、感熱記録材料に供給される熱エネルギの違いによって、画像の記録によって熱エネルギが供給された部位と未記録或いは微小な熱エネルギが供給された部位とが存在しても、一様に加熱することにより、光沢感に差が生じることなく、画像信号に基づく適正な画像を再現できる。また、高濃度の部位から低濃度の部位を形成するために異なる熱エネルギが印加されることによって、感熱記録材料の表面の状態が異なる表面粗さになっても、感熱記録材料は加圧されることにより、感熱記録材料の表面粗さを解消することができるため、光沢感には差が生じることなく、画像の再現性が低下することなく、画像信号に基づく適正な画像を再現できる。
エ.【0025】図2に示される如く、感熱記録材料10には上質紙にポリエチレンをラミネートした印画紙用支持体102の一方に最下層から順にシアン色素層(以下C色素層という)108、マゼンタ色素層(以下M色素層という)104、イエロー色素層(以下Y色素層という)106が設けられ、全て透明となっている。なお、Y色素層106及びM色素層104は光定着型であり、波長420nm及び波長365nmの光を照射することにより、以後は加熱しても変化しなくなる性質の層である。
オ.【0026】本発明に利用した感熱記録材料10において、全ての発色層は、その発色成分、すなわち、C色素層においては電子供与性染料前駆体と電子受容性化合物、M色素層及びY色素層においてはジアゾニウム塩化合物とカプラは共に接触しないようバインダ中に均一に分散された形で記録層中に保持される必要がある。具体的な方法としては、各素材を各々別々に水溶性高分子(例えば、ポリビニルアルコール、PVA)水溶液中で分散し、充分に水溶性高分子を各素材表面に吸着させてから混合する方法、少なくとも何れか一方の成分をマイクロカプセル化する方法、反応成分をさらに分離し2層構成にする方法等が知られている。
カ.【0034】加熱処理部28は、回転体である支持ドラム30と、記録ヘツドであるライン型のサーマルヘツド32とを備えており、感熱記録材料10はこの支持ドラム30に巻き付けられた状態でサーマルヘツド32によって、加熱されるようになっている。支持ドラム30は金属性の円筒体34で形成され、その外周に弾性体36が巻き付けられている。支持ドラム30は、ドライバ38の駆動力で図3乃至図5矢印B方向へ等速度回転されるようになっており、この支持ドラム30に巻き付けられた感熱記録材料10を順次サーマルヘツド32に対応させる役目を有している。
キ.【0038】支持ドラム30の外周には複数箇所(本実施例では3か所)にアイドルローラ58、60、62が配設され、支持ドラム30とこのアイドルローラ58、60、62とにより、感熱記録材料10を支持ドラム30の外周へ密着した状態で巻き付けるようにしている。また、サーマルヘツド32による感熱記録材料10の加熱位置における支持ドラム30の回転方向下流側にはドライバ63A、63Bを介して制御装置45へ接続された光源64A、64Bが配設され、感熱記録材料10へ光を照射するようになっている。この光の波長はそれぞれ420nm、365nmとされ、光源64Aが感熱記録材料10のY色素層106の定着用、光源64BがM色素層104の定着用とされている。すなわち、本実施例では、支持ドラム30は回転を開始してから連続して3回転されるようになっており、感熱記録材料10の1回転目では、サーマルヘツド32によりY色素層106の加熱処理がなされ、この処理後直ちに定着がなされるようになっている。
ク.【0039】支持ドラム30の次の回転時、すなわち2回転目ではY色素層106の下に設けられたM色素層104(図2参照)が加熱処理されて定着され、次いで3回転目でC色素層が加熱処理されるようになっている。
ケ.【0040】なお、感熱記録材料10が受ける発熱体42からのエネルギー(熱量)は、支持ドラム30の1回目の回転時は”弱”とされ、下層のM色素層104及びC色素層108には何ら影響がなく、2回目の回転時は”中”、3回目の回転時は”強”とされるように制御装置45によって制御されている。
コ.【0041】感熱記録材料10が排出される搬送路の下流側には加熱加圧手段としての加熱加圧部190が配設されている。この加熱加圧部190は、一対のヒートローラ166を備えており、加熱処理が終了され画像が形成された感熱記録材料は、この一対のヒートローラ166によって挟持され、このヒートローラ166が回転することにより排出口114へと案内されて排出されるようになっている。
サ.【0056】感熱記録材料10の先端部がラツチ爪52によって保持されると、支持ドラム30は矢印B方向へ回転を開始する(1回目の回転)。第1の加熱処理制御がなされる。すなわち、保持部46がサーマルヘツド32の発熱体42を通過すると、出力ポート90からドライバ41を介して駆動信号が出力され、サーマルヘツド32は支持ドラム30の外周円の法線方向である矢印C方向へ移動され、発熱体42が感熱記録材料10へ接触する。これにより、支持ドラム30は発熱体42が感熱記録材料10に接触した状態で回転され、この回転に応じて発熱体42へは画像信号が出力される。
シ.【0057】発熱体42は熱量が”弱”にセツトされ、この画像信号によりに応じて感熱記録材料10を加熱し、Y色素層106のみを発色させる。なお、発熱体42による加熱処理が終了すると、サーマルヘツド32は支持ドラム30の外周円の法線方向である矢印C方向へ移動され、発熱体42は感熱記録材料10から離間される。
ス.【0058】次に感光材料10の画像面へは、波長420nmの光が光源64Aから照射される。これにより、Y色素層106は定着される。
セ.【0059】次に、連続して2回転目へ移り、M色素層104の加熱処理が行われる。すなわち、発熱体42による加熱処理のための熱量が”中”に切り換わり、上記Y色素層106の加熱と同様の処理が行われ、画像信号によりに応じて感熱記録材料10を加熱し、M色素層104のみを発色させる。
ソ.【0060】M色素層の加熱処理が終了した感熱記録材料10は、光源64Bによって波長365nmの光が照射され、これによりM色素層104が定着される。
タ.【0061】続いて、3回転目へ移り、C色素層108の加熱処理が行われる。すなわち、発熱体42による加熱処理のための熱量が”強”に切り換わり、画像信号によりに応じて感熱記録材料10を加熱し、C色素層108のみを発色させる。
チ.【0064】ガイド板66とガイド板68との間の感熱記録材料10は、ヒートローラ166に挟持され、このヒートローラ166で所定量搬送することにより、排出口114へと送り出され排出される。これにより、一枚の感熱記録材料の加熱処理が終了する。
ツ.【0065】ここで、本実施例では、排出用の搬送ローラとして一対のヒートローラ166を用いている。このため、この一対のヒートローラ166は感熱記録材料10を搬送しながら全面に亘り所定のエネルギで加熱すると共に所定の圧力で加圧している。これにより、画像を低濃度および高濃度になるように記録された各々の部位に所定のエネルギが供給されると共に加圧することによって表面粗さが均一にされる。このように、本実施例では、全ての画素に所定のエネルギーが付与されることになり、仕上がり画像の光沢感の不均一が解消される。このため、光沢感は均一になり、仕上がり画像の再現性が向上される。
上記ウ.の「高濃度の部位から低濃度の部位を形成するために異なる熱エネルギが印加される」という記載から、感熱記録材料10は、供給される熱エネルギーによって各色の発色濃度が制御できるものと認められ、上記記載及び図面を含む刊行物全体の記載から、刊行物には、以下の発明が開示されていると認められる。
「印画紙用支持体102上に発色感度が異なる複数の発色層を、上層から順に、波長420nmの光に光定着性を持つイエロー色素層106と、波長365nmの光に光定着性を持つマゼンタ色素層104と、シアン色素層108とを有し、更に、各色の発色濃度も供給される熱エネルギーによって制御できる感熱記録材料10を用いて、熱エネルギーが低い発色層から順に、ライン型のサーマルヘツド32の発熱体42が接触した状態で感熱記録材料10を加熱するとともに、熱記録後に、光源64A、光源64Bにより前記感熱記録材料10に光を照射して光定着を行う画像記録装置において、
上記感熱記録材料10に、1回転目では、サーマルヘツド32によりイエロー色素層106の加熱処理がなされ、この処理後直ちに定着がなされ、2回転目ではマゼンタ色素層104が加熱処理されて定着され、次いで3回転目でシアン色素層108が加熱処理された後に、前記感熱記録材料10に、ヒートローラ166で全面に亘り所定のエネルギで加熱するようにした画像記録装置。」

(3)対比
本願補正発明と刊行物記載の発明とを比較すると、刊行物記載の発明の「印画紙用支持体102」、「イエロー色素層106」、「マゼンタ色素層104」、「シアン色素層108」、「感熱記録材料10」、「光源64A、光源64B」及び「画像記録装置」は、それぞれ本願補正発明の「支持体」、「イエロー発色層」、「マゼンタ発色層」、「シアン発色層」、「感熱記録紙」、「光定着器」及び「カラープリンタ」に相当し、刊行物記載の発明の「波長420nmの光に光定着性を持つ」と、本願補正発明の「波長420nm近傍の紫外線に光定着性を持つ」とは、「特定波長の紫外線に光定着性を持つ」で共通し、刊行物記載の発明の「波長365nmの光に光定着性を持つ」と、本願補正発明の「波長365nm近傍の紫外線に光定着性を持つ」とは、「特定波長の紫外線に光定着性を持つ」で共通し、刊行物記載の発明のライン型のサーマルヘツド32が、ライン状に多数の発熱素子が並んで成るサーマルヘッドであることは明らかであり、刊行物記載の発明のサーマルヘツド32の発熱体42が接触した状態で感熱記録材料10を加熱するから、サーマルヘッドで直接感熱記録紙を加熱するものであるといえ、刊行物記載の発明の「感熱記録材料10に、1回転目では、サーマルヘツド32によりイエロー色素層106の加熱処理がなされ、この処理後直ちに定着がなされ、2回転目ではマゼンタ色素層104が加熱処理されて定着され、次いで3回転目でシアン色素層108が加熱処理された」ことは、本願補正発明の「感熱記録紙に、イエロー熱記録をした後にイエロー光定着を行い、次に、マゼンタ熱記録をした後にマゼンタ光定着を行い、更に、シアン熱記録を行った」に相当し、刊行物記載の発明の「感熱記録材料10に、ヒートローラ166で全面に亘り所定のエネルギで加熱する」と、本願補正発明の「感熱記録紙に、イエローが発色し始める熱エネルギーの約75%の熱エネルギーを加える」とは、「感熱記録紙に、熱エネルギーを加える」で共通するから、両者は、
「支持体上に発色感度が異なる複数の発色層を、上層から順に、特定波長の紫外線に光定着性を持つイエロー発色層と、特定波長の紫外線に光定着性を持つマゼンタ発色層と、シアン発色層とを有し、更に、各色の発色濃度も供給される熱エネルギーによって制御できる感熱記録紙を用いて、熱エネルギーが低い発色層から順に、ライン状に多数の発熱素子が並んで成るサーマルヘッドで直接感熱記録紙を加熱するとともに、熱記録後に、光定着器により前記感熱記録紙に紫外線を照射して光定着を行う方式のカラープリンタにおいて、
上記感熱記録紙に、イエロー熱記録をした後にイエロー光定着を行い、次に、マゼンタ熱記録をした後にマゼンタ光定着を行い、更に、シアン熱記録を行った後に、前記感熱記録紙に、熱エネルギーを加えるようにした直接感熱記録方式カラーサーマルプリンタ。」
の点で一致し、以下の点で相違している。
[相違点1]イエロー発色層に関し、本願補正発明は、波長420nm近傍の紫外線に光定着性を持つのに対し、刊行物記載の発明は波長420nmの光に光定着性を持つ点。
[相違点2]マゼンタ発色層に関し、本願補正発明は、波長365nm近傍の紫外線に光定着性を持つのに対し、刊行物記載の発明は波長365nmの光に光定着性を持つ点。
[相違点3]シアン発色層に関し、本願補正発明は、光定着性を持たないのに対し、刊行物記載の発明は、光定着性を有するか否か明らかでない点。
[相違点4]シアン熱記録を行った後の熱エネルギーに関し、本願補正発明は、イエローが発色し始める熱エネルギーの約75%の熱エネルギーを加えるのに対し、刊行物記載の発明は、熱エネルギーを加えるものの、本願補正発明のような特定ではない点。

(4)判断
上記相違点1について検討する。
本願補正発明の「波長420nm近傍の紫外線」という記載では紫外線の波長が必ずしも明らかではないが、イエロー発色層についての本願補正発明の上記限定は、カラーサーマルプリンタに用いられる感熱記録紙を特定することにより、カラーサーマルプリンタの光定着手段を間接的に特定しようとするものである。通常の光定着手段である蛍光体は、発光中心波長を中心としたある程度の幅の波長帯域で発光する(特開平3-288688号公報、第8頁左下欄第15行?右下欄第5行参照。)ものであるから、本願補正発明のイエロー発色層が定着する紫外線の波長が刊行物記載の発明のイエロー発色層が定着する紫外線の波長と若干異なるとしても、カラーサーマルプリンタの定着手段を左右するものとはいえず、実質的な相違点とはいえない。
仮に、カラーサーマルプリンタの定着手段が異なるとしても、感熱記録紙に合った光定着手段を採用することは、当業者が容易になし得る程度のことである。

上記相違点2に関しても上記相違点1と同様、実質的の相違点とはいえなず、相違するとしても当業者が容易になし得る程度のことである。

上記相違点3について検討する。
本願補正発明の「光定着性を持たないシアン発色層」という記載は、カラーサーマルプリンタに用いられる感熱記録紙を特定することにより、カラーサーマルプリンタを間接的に特定しようとするものであるが、シアン発色層が光定着性を持たないのであれば、シアン発色層に対して光定着する必要性がないから、せいぜい、カラーサーマルプリンタがシアン発色層に対して光定着のための照射をしなくても良いことを意味しているにすぎない。そうすると、カラーサーマルプリンタに対して何等限定しているとはいえず、実質的な相違点とはいえない。

上記相違点4について検討する。
感熱記録紙は、発色成分とバインダーを有していることは刊行物のオ.の記載や特開平3-288688号公報に示すように周知技術であり、発色成分とバインダーが異なれば、発色し始めるのに必要なエネルギー、バインダーを平滑化するのに必要なエネルギーが異なることは明らかである。本願補正発明は、特定の感熱記録紙を選択した場合の光沢度向上率と熱エネルギーとの相関関係を実験的に求め、上記相違点のような限定を付したものであるが、光沢度向上は、カラーサーマルプリンタとして解決すべき当然の課題であり、カラーサーマルプリンタに対して用いる感熱記録紙を特定すれば、イエローが発色し始める熱エネルギー、光沢度が向上する熱エネルギーは定まるのだから、感熱記録紙を特定して、最も光沢度が向上する熱エネルギーを実験的に求め、イエローが発色し始める熱エネルギーに対して最も光沢度が向上する熱エネルギーを算出し、本願補正発明の上記相違点4のように規定することは当業者が容易になし得る選択事項にすぎない。

そして、本願補正発明の作用効果も、刊行物記載の発明及び周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。

したがって、本願補正発明は、その出願前に頒布された刊行物記載の発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるから、特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明について
平成16年7月7日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、平成16年3月31日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものであり、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりである。

「支持体上に発色感度が異なる複数の発色層を有し、更に、各色の発色濃度も供給される熱エネルギーによって制御できる感熱記録紙を用いて、熱エネルギーが低い発色層から順に、サーマルヘッドで直接感熱記録紙を加熱する方式のカラープリンタにおいて、
上記感熱記録紙に、イエロー熱記録をした後にイエロー光定着を行い、次に、マゼンダ熱記録をした後にマゼンダ光定着を行い、更に、シアン熱記録を行った後に、再び、前記感熱記録紙に、イエローが発色し始める熱エネルギーの約75%の熱エネルギーを加えるようにしたことを特徴とするカラーサーマルプリンタ。」

(1)引用刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物及びその記載事項は、前記「2.(2)」に記載したとおりである。

(2)対比・判断
本願発明は、前記2.で検討した本願補正発明から下線で示した事項を省いたものである。
そうすると、実質的に本願発明の発明を特定する事項を全て含み、さらに他の発明を特定する事項を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「2.(4)」に記載したとおり、刊行物記載の発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、刊行物記載の発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)むすび
以上のとおり、本願発明は、その出願前に頒布された刊行物記載の発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明を検討するまでもなく、本願は、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-05-09 
結審通知日 2007-05-15 
審決日 2007-05-28 
出願番号 特願平9-356388
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B41J)
P 1 8・ 575- Z (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 尾崎 俊彦  
特許庁審判長 長島 和子
特許庁審判官 名取 乾治
島▲崎▼ 純一
発明の名称 カラーサーマルプリンタ  
代理人 高橋 陽介  
代理人 斎藤 春弥  

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