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審決分類 審判 査定不服 特36 条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B41J
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B41J
審判 査定不服 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B41J
管理番号 1161253
審判番号 不服2001-13527  
総通号数 93 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-09-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2001-08-02 
確定日 2007-07-20 
事件の表示 平成5年特許願第350162号「印字装置」拒絶査定不服審判事件〔平成7年8月1日出願公開、特開平7-195748〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続きの経緯・本願発明
本願は、平成5年12月30日の出願である。
そして、審査段階における平成11年2月26日付け、及び平成13年1月9日付け手続補正書、さらに審判請求に伴う平成13年8月29日付け手続補正書により補正された明細書及び図面を参照しても、その特許請求の範囲に記載される請求項に係る発明が明らかに認定できないことから、各請求項に記載される用語の意味等を確認すべく平成16年11月17日付けで審尋を行った経緯がある。
そして、当審では、請求人の平成17年1月21日提出の回答書を参酌しても、依然として、請求項に記載される用語の意味等が不明であることから、平成17年6月30日付け、及び平成18年5月26日付けで36条記載不備を指摘した。
よって、本願明細書及び図面は、前記各手続補正書に加えて、平成17年9月5日付け及び平成18年8月7日付け手続補正書により補正されたものとなっている。

ここで、現時点における特許請求の範囲では、先の平成18年5月26日付け拒絶理由通知書で各請求項に記載される手段について、何を規定するものかについて技術常識からみて具体的に指摘したことにより、特に「デフォルト値記憶手段」とは予めROM形態による記憶手段であること、段落を単位として印字状態の設定を行われた所定の項目を記憶する箇所は、メモリ上にあると明らかにされて、RAMが「所定項目記憶手段」であること等が、明確とされた。
本願における当初明細書及び図面には、「自動設定手段」、「参照設定手段」或いは「デフォルト値記憶手段」、「設定記憶手段」等の手段が記載されていたものの、各種実施態様が存在することから、どれと対比すべきなのか、また、予め項目を記憶するとしても、どのような形態(ROM、RAM等)で記憶するのか等が、特許請求の範囲における請求項記載と明らかな対応関係を把握できない状況にあった。
しかし、前記各手段が明らかにされたことで、「自動設定手段」或いは「参照設定手段」についても、詳細な説明との対応が可能となった故に、本願における当初明細書及び図面に、「所定項目記憶手段」なる記載は存在していないが、特段に要旨変更があるものとは解さないこととする。
以上のとおりであるから、本願請求項1?8に係る発明は、前記各手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、平成18年8月7日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載されたとおりの以下のものと認定する。

【特許請求の範囲】
「【請求項1】 テープに印字を行なう印字装置であって、
該テープの長さ方向に区切りを取って配置され、前記テープの長さ方向に沿った印字データの並びを1行とする行が該区切り内に含まれる数である行数が予め定められており、該行数以内の行を構成する文字等のデータの集合である段落を、初期状態では少なくとも一つ有し、新たな段落の作成処理が指定されると、該段落に対して、前記テープの長さ方向に隣接して配置される段落を新たに形成する手段と、
該段落内の印字データの印字状態を定める複数の項目の一部について、新たな段落が形成された場合に設定されるべき印字状態の設定をデフォルト値として記憶するデフォルト値記憶手段と、
既存の各段落内に関し、少なくとも縦書き/横書きの指定を含む所定の項目について、印字に先立ち、該段落を単位として印字状態の設定を行なうと共に、該所定の項目についての設定をメモリ上に記憶する所定項目記憶手段と、
前記新たな段落の形成がなされるとき、前記印字状態の設定のうち、前記デフォルト値記憶手段にデフォルト値が記憶された項目については、該記憶されたデフォルト値に基づき、該新たな段落内の印字データについての印字状態の設定を行なう自動設定手段と、
前記新たな段落の形成がなされるとき、前記印字状態の設定のうち、予め定めた項目については、前記デフォルト値の有無によらず、既存段落の設定と同じに設定する参照設定手段と、
該印字状態が設定された複数の段落を前記テープの長さ方向に順次並べて前記テープに印字する印字手段と
を備える印字装置。
【請求項2】 前記参照設定手段は、少なくとも縦書き/横書きの別については、前記デフォルト値の有無によらず、既存段落の設定を参照して設定する請求項1に記載の印字装置。
【請求項3】 テープに印字を行なう印字装置であって、
該テープの長さ方向に区切りを取って配置され、前記テープの長さ方向に沿った印字データの並びを1行とする行が該区切り内に含まれる数である行数が予め定められており、該行数以内の行を構成する文字等のデータの集合である段落を、初期状態では少なくとも一つ有し、新たな段落の作成処理が指定されると、該段落に対して、前記テープの長さ方向に隣接して配置される段落を新たに形成する手段と、
該各段落内に関し、少なくとも縦書き/横書きの指定を含み、該段落内の印字データの印字状態を定める所定の項目について、印字に先立ち、該段落を単位として設定を行なうと共に、該設定をメモリ上に記憶する手段と、
既に存在している一の段落の他に、新たな段落の形成がなされたとき、該新たな段落内の前記所定の項目について、前記印字状態を、前記既に存在していた一の段落内において設定されていた印字状態と同じに設定する印字状態設定手段と
該印字状態が設定された複数の段落を前記テープの長さ方向に順次並べて前記テープに印字する印字手段と
を備える印字装置。
【請求項4】 前記印字状態設定手段が参照する前記既に存在していた一の段落内において設定されていた印字状態は、前記新たな段落の直前の段落について指定された印字状態である請求項3に記載の印字装置。
【請求項5】 テープに印字を行なう印字装置であって、
該テープの長さ方向に区切りを取って配置され、前記テープの長さ方向に沿った印字データの並びを1行とする行が該区切り内に含まれる数である行数が予め定められており、該行数以内の行を構成する文字等のデータの集合である段落を、初期状態では少なくとも一つ有し、新たな段落の作成処理が指定されると、該段落に対して、前記テープの長さ方向に隣接して配置される段落を新たに形成する手段と、
該段落内の印字データの印字状態を定める複数の項目について、前記印字状態の設定をデフォルト値としてROMに記憶しているデフォルト値記憶手段と、
当該印字装置に電源が投入されたとき、前記デフォルト値記憶手段に印字状態の設定が記憶された項目については、該記憶内容に基づき、該段落内の印字データについて適用される印字状態のデフォルト設定としてRAM上に記憶する自動設定手段と、
前記印字データの編集を行なっている段落につき、該段落内の前記複数の項目の少なくとも一部について、前記印字状態の設定の変更を受け付ける変更手段と、
該変更手段により前記複数の項目のうち所定の項目についての設定が変更されたとき、前記RAM上に記憶されたデフォルト設定を変更後の設定内容に書き換えるデフォルト値書換手段と、
前記新たな段落の形成がなされたとき、該形成された新たな段落に関し、前記複数の項目について、前記RAM上に記憶されたデフォルト設定を用いて、前記印字状態の設定を行なう手段と、 前記印字状態が設定された複数の段落を前記テープの長さ方向に順次並べて前記テープに印字する印字手段と
を備える印字装置。
【請求項6】 前記変更手段および前記デフォルト値書換手段は、前記項目として、少なくとも縦書き/横書きの別を書き換える請求項5に記載の印字装置。
【請求項7】 前記設定された印字状態のうち、少なくとも縦書き/横書きの別を表示する手段を備える請求項2または6に記載の印字装置。
【請求項8】 テープに印字を行なう印字方法であって、
該テープの長さ方向に区切りを取って配置され、前記テープの長さ方向に沿った印字データの並びを1行とする行が該区切り内に含まれる数である行数が予め定められており、該行数以内の行を構成する文字等のデータの集合である段落を、初期状態では少なくとも一つ有し、新たな段落の作成処理が指定されると、該段落に対して、前記テープの長さ方向に隣接して配置される段落を新たに形成し、
該各段落内に関し、少なくとも縦書き/横書きの指定を含み、該段落内の印字データの印字状態を定める複数の項目について、印字に先立ち、該段落を単位として設定を行なうと共に、該設定をメモリ上に記憶し、 既に存在している一の段落の他に、新たな段落の形成がなされたとき、該新たな段落内の前記複数の項目について、前記印字状態を、前記既に存在していた一の段落内において設定されていた印字状態と同じに設定し、
該印字状態が設定された複数の段落を前記テープの長さ方向に順次並べて前記テープに印字する
テープ印字方法。」
(以下、請求項順に、「本願発明1」ないし「本願発明8」という。)

2.当審における平成18年5月26日付け拒絶理由通知書で指摘した特許法第29条第2項の規定違反の概要について
当該拒絶理由通知では、補正前の本願請求項1?11に係る発明が、以下の〈1〉?〈11〉の引用例に記載される発明から当業者であれば容易に発明をすることができたとするものである。
〈1〉特開平5-305748号公報(刊行物1)
〈2〉特開平5-177905号公報(刊行物2)
〈3〉特開平5-177901号公報(刊行物3)
〈4〉特開平5-307455号公報(刊行物4)

〈5〉実願平3-57150号(実開平5-435号)の
CD-ROM(周知例1)
〈6〉特開平5-305731号公報(周知例2)
〈7〉特開平5-330197号公報(周知例3)

〈8〉特開平5-210680号公報(刊行物5)
〈9〉特開平5- 89098号公報(刊行物6)
〈10〉特開平5-210655号公報(刊行物7)
〈11〉特開平5-174014号公報(刊行物8)

3.刊行物1に記載される発明
【特許請求の範囲】
「【請求項1】 文字や記号及び種々の指令を入力する為の入力手段と、印字媒体にドットパターンで印字する印字ヘッドを含む印字手段と、前記入力手段から入力された文字や記号のデータを記憶する入力データ記憶手段と、前記入力データ記憶手段のデータを受けてドットパターンデータを作成し、印字手段に印字させる印字制御手段とを備えた印字装置において、前記入力手段からデータ入力時に、複数の文字や記号毎にブロックとして指定するブロック指定データを入力して、そのブロックの複数の文字や記号のデータに付随させて前記データ記憶手段に記憶させるブロック指定手段と、前記印字媒体の設定された印字領域に印字するときのセンター揃え、左端揃え、右端揃え等の行修飾を設定する行修飾設定手段と、前記行修飾設定手段で設定された行修飾データと、入力データ記憶手段に記憶された文字や記号のデータ及びブロック指定データとに基いて、前記ブロックを単位とする行修飾となるように、各ブロックの印字開始位置を演算するブロック位置演算手段と、を備えたことを特徴とする印字装置。」

(1)段落【0001】「【産業上の利用分野】本発明は、印字装置に関し、特に中央揃え、左端揃え、右端等の行修飾を、複数の文字や記号を含むブロック単位で実行可能にし、且つ各ブロック毎にブロック内印字領域毎にも行修飾を実行可能にしたものに関する。」

(2)段落【0002】「【従来の技術】本願出願人は、実開平1-85050号公報に記載のように、印字媒体としてのテープ(例えば、10ミリ、約24ミリの幅)に文字や記号を印字できるテープ印字装置を実用化したが、このテープ印字装置は、ファイルの背表紙に貼るファイル名を印字したテープを作成するのに好適のものである。更に、本願出願人は、前記テープ印字装置に種々の機能(複数行印字、テープの両端部に余白を設ける余白処理機能、文字サイズ最大化機能、バーコード印字機能、等々)を付加したものも提案した。一方、従来の印字装置には、印字用紙の設定された印字領域に、中央揃え、左端揃え、右端揃え、スペース調整による両端揃え、等の行修飾を施して印字する機能が付与されているが、この行修飾は、基本的に文字や記号を単位として実行されるものである。」

(3)段落【0003】「【発明が解決しようとする課題】前記テープ印字により、ファイルの背表紙に貼るファイル名を印字したテープを作成するような場合、例えば「ファイル番号」、「ファイルのタイトル」、「所管部署」等のように、複数の文字や記号からなるブロックを複数印字したいことが多く、そのような場合、複数のブロックの配置を適切に設定する為のデータ入力や印字フォーマット設定操作に時間がかかること、更に、各ブロック内の印字領域についてもブロック内に複数の文字や記号を1乃至複数行でバランスよく印字するように設定する為のデータ入力や印字フォーマット設定操作に時間がかかること、従来の行修飾機能は、各行単位にのみ有効であるから、文字サイズや行数の異なる複数のブロックに対しては行修飾機能を有効活用出来ないこと、等の問題がある。尚、以上は、テープ印字装置に限らず、印字用紙に印字する通常の印字装置にも共通する課題である。本発明の目的は、ブロック単位で行修飾できる印字装置、ブロック内の印字領域毎の行修飾も行い得るような印字装置を提供することである。」

(4)段落【0006】「【作用】請求項1の印字装置においては、入力手段と、印字手段と、入力データ記憶手段と、印字制御手段の作用に関しては、通常の印字装置と略同様である。前記入力手段で入力する際に複数の文字や記号の入力毎に、ブロック指定手段により、ブロック指定データを入力することにより、それら複数の文字や記号をブロックとして指定でき、そのブロック指定データは、それら複数の文字や記号のデータに付随させて入力データ記憶手段に記憶される。行修飾設定手段により、印字領域に印字するときのセンター揃え、左端揃え、右端揃え、等の行修飾を択一的に設定すると、ブロック位置演算手段は、行修飾設定手段で設定された行修飾データと、入力データ記憶手段に記憶された文字や記号のデータ及びブロック指定データとに基いて、前記ブロックを単位とする行修飾となるように、各ブロックの印字開始位置を演算する。尚、前記印字制御手段は、各ブロックの印字開始位置のデータに基いて、ドットパターンデータを作成して印字手段に印字させる。このように、ブロック単位で行修飾を行うことができるため、文字や記号のデータ入力が簡単化し、且つ印字フォーマット設定時に複数のブロックの配置を設定する為の設定操作が簡単化し、作業能率が向上する。」

(5)段落【0016】「テープ印字装置1の制御装置Cで行なわれるテープ印字制御のルーチンについて、その概略を図5のフローチャートに基いて説明する。尚、図中符号Si(i=10、11、12・・・・)は各ステップである。電源キー操作により電源が投入されるとこの制御が開始され、先ず文書作成キーの操作後、操作された文字キーやスペースキーや改行キーや改ブロックキーに対応するコードデータを文書データとして入力する文書データ入力・編集処理が実行される(S10)。次に、フォーマット設定キーの操作により、文字サイズや書体や修飾指定などの印字フォーマットを設定する処理が実行される(S30)。従って、この印字フォーマット設定処理には、文字サイズ設定処理や書体設定処理や行修飾などを設定する書式設定処理など複数のフォーマット設定処理が含まれている。次に、印字キーの操作により文書データを印字する為の印字用ドットパターンデータを印字バッファ49に展開するドットパターンデータ作成処理が実行され(S60)、この印字バッファ49から読出したドットパターンデータを印字機構PMに出力して印字処理が実行される(S130)。」

(6)段落【0019】「次に、印字キーの操作によりS60で実行される印字用ドットパターンデータ作成処理制御のルーチンについて、図7のフローチャートに基いて説明する。尚、このとき、テキストメモリ41には、図11に示すように、第1・第2・第3ブロックの文書データが順次格納されるとともに、各ブロック文書データの区切り位置には改ブロックキー操作で入力された改ブロックコードが文書データに付随させて格納されている。即ち、第1ブロックの文書データとして数字「1?0」が3行に亙って格納され、第2ブロックの文書データとして大文字のアルファベット文字列「A?H」が2行に亙って格納され、また第3ブロックの文書データとして小文字のアルファベット文字列「a?p」が4行に亙って格納されているものとする(図14参照)。更に、印字の為の文字サイズは、前記文字サイズ設定処理により各ブロック毎に設定されているものとする。」

(7)段落【0029】「次に、テープ送りモータ24に所定量のテープをテープ送りする為に駆動信号が出力されるとともに、切断処理の実行が指令され(S127)、この制御の終了に伴ってリターンしてS130に移行し、印字バッファ49に格納されたドットパターンデータに基いて印字処理が実行され、S10に戻る。例えば、左端揃えモードが設定された状態でテキストメモリ41に格納された文書データがで印字処理されたときには、図14に示すように、設定テープ長(印字領域)に対して、3つのブロックB1?B3が左端揃えで印字されるとともに、各ブロックB1?B3内の複数行の文字列も同時に左端揃えで夫々印字される。」

前記(1)?(3)記載には、当該刊行物1記載の発明は、ファイルの背表紙に貼るファイル名を印字したテープ等を作成するための印字装置に係るものであって、テープに印字されるデータは複数の文字や記号からなるブロックとして扱われ、テープに複数のブロックを適切に配置する為に、データ入力や印字フォーマット設定が行われること、ブロック内の印字領域についてもバランスよい印字を得られる設定を可能とするべく、ブロック単位で行修飾できる印字装置、ブロック内の印字領域毎の行修飾も行い得るような印字装置を提供することを目的とすることが記載されている。
そして、従来の行修飾機能は、各行単位にのみ有効なものであることから、文字サイズや行数の異なる複数のブロックに対して有効な活用が出来なかったことを問題と把握しており、この問題は、テープ印字装置に限らず、印字用紙に印字する通常の印字装置にも共通する課題と位置付けられている。

さらに、(4)の記載では、ブロック単位での行修飾を行うことで、文字や記号のデータ入力が簡単化し、且つ印字フォーマット設定時に複数のブロックの配置を設定する為の設定操作が簡単化し、作業能率を向上できるものとされる。

また、実施例に係る(5)の記載によれば、【図5】を参照して、テープ印字装置の電源が投入された後に、「文書データ入力・編集処理」、「印字フォーマット設定処理」、「印字用ドットパターンデータ作成処理」及び「印字処理」が順次実行されることが把握できる。
ここで、データ入力された文字や記号がテキストメモリ上にどのように記憶されているかの説明はあるものの、「文書データ入力・編集処理」に係るS10についての詳細な記載はない。
しかし、「印字用ドットパターンデータ作成処理」に係る前記(6)の記載及び「印字処理」に係る(7)の記載からみて、「文書データ入力・編集処理」及びこれに続く「印字フォーマット設定処理」では、複数のブロックに係るデータ入力及び印字フォーマット設定が行われ、この作成された複数のブロックを、「印字処理」ではまとめてテープ上に順次印字することが把握できる。

ここで、当該刊行物1にはテープ印字装置に係る発明が開示されているものの、装置自体はテープに印字する方法を具現化した物であるから、当該装置係る記載から印字方法を把握することは容易に行い得る。
してみるに、当該刊行物1には、以下の方法発明が記載されている。

「テープに印字を行う方法であって、
複数の文字や記号からなる複数行からなるブロックを、テープ上に一つ或いは複数配置、形成し、
該ブロック毎に印字フォーマットを設定し記憶手段上に記憶し、
該印字フォーマットが設定された複数のブロックを前記テープの長さ方向に順次並べて前記テープに印字する
テープ印字方法。」(以下、「刊行物1記載方法発明」という。)

4.本願発明8についての対比・判断
4-1 対比
本願発明8と刊行物1記載方法発明とを対比する。
刊行物1記載方法発明における「ブロック」とは、複数の文字や記号からなるものである。そして、テープ幅方向に何行を配置し得るかについて明記はないが、出力可能な文字フォントとの関係からみて無限数の行設定が可能であると解することは妥当でなく(【図14】?【図17】の出力例を参照する限り、4行までは設定可能なものと解される。)、ブロック内に設定可能な行数は予め適宜の数に定められていると解すべきである。
他方、本願発明8における「段落」とは、印字に際して印字データがテープの長さ方向に区切りを取って配置されるものであり、この区切り内に予め定められた行数が配置可能なものである。
してみれば、本願発明8における「段落」と、刊行物1記載方法発明における「ブロック」とは共通するものである。
また、刊行物1記載方法発明における「ブロック」は、テープ長さ方向に1つのみでなく複数配置、形成される場合も想定されていることからして、データ入力過程において、まず第1の「ブロック」が配置形成された後に、第2、第3の「ブロック」をテープ長さ方向に隣接して新たに配置、形成されることが明らかである。

以上の対比からは、本願発明8と刊行物1記載方法発明とは、以下の一致点を有する一方、以下の相違点を有する。

<一致点>
テープに印字を行なう印字方法であって、
該テープの長さ方向に区切りを取って配置され、前記テープの長さ方向に沿った印字データの並びを1行とする行が該区切り内に含まれる数である行数が予め定められており、該行数以内の行を構成する文字等のデータの集合である段落を、新たな段落の作成処理が指定されると、該段落に対して、前記テープの長さ方向に隣接して配置される段落を新たに形成し、
該各段落内に関し、該段落内の印字データの印字状態を定める項目について、印字に先立ち、該段落を単位として設定を行なうと共に、該設定をメモリ上に記憶し、 該印字状態が設定された複数の段落を前記テープの長さ方向に順次並べて前記テープに印字する
テープ印字方法。」

<相違点1>
本願発明8においては、「段落」が「初期状態では少なくとも一つ有し、」と特定されているのに対して、
刊行物1記載方法発明では、このような特定がない点。

<相違点2>
本願発明8においては、「各段落内」に関し、「少なくとも縦書き/横書きの指定を含み、該段落内の印字データの印字状態を定める複数の項目について、」設定が行われると特定されているのに対して、
刊行物1記載方法発明では、このような特定がない点。

<相違点3>
本願発明8においては、新たな段落を設定するに際して、「既に存在している一の段落の他に、新たな段落の形成がなされたとき、該新たな段落内の前記複数の項目について、前記印字状態を、前記既に存在していた一の段落内において設定されていた印字状態と同じに設定し、」と特定されているのに対して、
刊行物1記載方法発明では、このような特定がない点。

4-2 テープ印字装置とワードプロセッサ等の文書処理装置との関係について
相違点の検討に先立ち、まず、テープ印字装置とワードプロセッサ等の文書処理装置との関係について検討しておく。

刊行物3:特開平5-177901号公報の段落【0001】には、
「本発明は印字装置に関し、特に文書の全体に対してグローバルな印字フォーマットを設定できる上、文書の一部に対してローカルな印字フォーマットを設定できるようにしたものに関する。」と記載されており、ひとまず、印字装置に関するものであることが記載されている。
そして続く段落【0002】には、
「従来、例えば、ディスプレイやドット印字方式の印字機構を備えたワードプロセッサなどにおいては、その制御装置内に複数の文書のデータを格納するテキストメモリを設け、この文書データを種々の印字フォーマットで印字可能になっている。ところで、通常、1つの文書に対して基本的に1つの印字フォーマットを設定するように構成されているので、この印字フォーマットは、1つの文書データに対応づけて設けられたその文書専用の書式メモリに設定するように構成され、この印字フォーマットとしては、文書データの全体に対する書式つまり印字文字サイズ、書体、1頁の行数、1行の文字数等、複数項目が含まれている。従って、文書を印字する場合には、文書データを入力する一方、この文書の印字フォーマットをその書式画面に基いて設定するようにしている。」なる記載があり、当該刊行物3に記載される印字装置は、ワードプロセッサなどを従来技術に位置付けていることが把握できる。
さらに、段落【0003】では、
「このように、従来のワードプロセッサなどにおいては、印字フォーマットは、1つの文書に対して1種類だけ設定可能なので、例えば、同様の文書を異なる印字フォーマットで印字するような場合には、その文書の書式画面をディスプレイに表示し且つ所望の印字フォーマットを設定するという操作をフォーマットの種類毎に繰り返すことになり、印字フォーマットの設定作業が非常に煩雑になるという問題がある。そこで、本願発明者達は、文書のデータと印字フォーマットのデータとを別々のメモリに記憶するようにし、各文書データを印字する為のフォーマットを、予め設定した種々の印字フォーマットから任意に選択するようにして、文書印字に用いる印字フォーマットの設定を容易にし得る印字装置を開発中である。」なる記載があり、ワードプロセッサにおいては、1つの文書に対して1種類だけ設定可能なるも、同様の文書を異なる印字フォーマットで印字する場合の印字フォーマット設定が非常に煩雑であることが解決課題であることが記載されている。
そして、当該刊行物3に記載される発明の実施例は、その段落【0010】「本実施例は、アルファベット文字や記号などの多数のキャラクタを印字用テープに印字可能な英語専用のテープ印字装置に本発明を適用した場合のものである。」の記載にあるように、テープ印字装置であるが、続く段落【0011】には当該実施例に係るテープ印字装置が、「文書データを作成する文書作成キー」、「入力した文書のデータの記憶或いは読出し制御を開始するストアキー」、「文書データや設定したGFMのデータを記憶する登録キー及びこれらのデータを読出す読出しキー」或いは「文書データを削除する削除キー」を備えるものとされている。
また、段落【0012】「ここで、グローバルフォーマット(GFM)とは、文書のデータを印字する際に用いる印字用のフォーマット(書式)であり、特に文書の全体に対して適用するので、この名称を用いる。ローカルフォーマット(LFM)とは、文書データの一部に部分的に適用する印字用のフォーマットであり、特に文書中に格納するフォーマットなので、グローバルフォーマットに対してこの名称を用いる。」によれば、刊行物3記載のテープ印字装置において、テープ長さ方向で所定長さに印字されるキャラクタの塊を文書と位置付け、これに印字用のフォーマット(書式)を適用するものであることが記載されている。
そして、段落【0035】「例えば、図5に示すように、文書名「1」の文書データをGFM名「A」で印字するときに、このLFMデータとして文字サイズを「20」ポイント且つ明朝書体が設定されている場合には、図18に示すように文書「ABCDEFHIJ」がサイズ「24」ポイント、ゴシック書体で印字されるが、その一部である文書部分「DEF」に関してのみ文字サイズを「20」ポイント且つ明朝書体で印字される。また、文書名「1」の文書データをGFM名「A」で印字するときに、このLFMデータとして文字サイズを「30」ポイント且つゴシック書体が設定されている場合には、図19に示すように、文書部分「DEF」に関してのみ文字サイズを「30」ポイント且つゴシック書体で印字される。また、同様に文書データ中のLFMデータとして文字サイズを「24」ポイント且つ白抜きが設定されている場合には、図20に示すように印字される。更に、文書名「1」の文書データをGFM名「B」で印字するときに、このLFMデータとして文字サイズを「24」ポイント且つ白抜きが設定されている場合には、図21に示すように印字される。」によれば、テープの長さ方向に1行のみのものではあるが、これが文書データとして扱われていることが明記されている。
してみると、当該刊行物2においては、テープ印字装置に限られない印字装置を対象とした文書処理の機能を開発した上で、テープ印字装置におけるテープ長さ方向で所定長さに印字されるデータの塊を1文書データとして扱い、これに開発した機能を適用しているものであることが把握できる。

また、刊行物4:特開平5-307455号公報の段落【0001】では、
「本発明は、文書処理装置に関し、特に文書の任意部分に印字フォーマットを設定可能で且つそのフォーマットを簡単な操作で変更可能に構成したものに関する。」とあり、当該刊行物4に記載される発明は、文書処理装置であるとされる。
ところが、段落【0008】には、
「本実施例は、アルファベット文字や記号などの多数のキャラクタを印字用テープに印字可能な英語専用のテープ印字装置に本発明を適用した場合のものである。」と記載されており、文書処理装置に係る発明をテープ印字装置に適用したものであることが明記されている。
さらに、段落【0036】には、
「尚、ドットパターンを用いて文書を印字する印字機構を備えた種々の印字装置に本発明を適用し得ることは勿論である。また、印字機構が別体となったワードプロセッサ等にも適用できる。」なる記載があることからして、テープ印字装置に係る発明を、文書処理装置に適用する可能性も示唆されている。

以上に照らせば、テープ印字装置側から文書処理装置に係る機能を参照して、適宜のものを採用すること、逆に、文書処理装置側からテープ印字装置に係る機能を参照して、適宜のものを採用することは、当業者であれば従来から意識されており、両者間で適宜機能を参照することは容易想到の範疇にあることとなる。
以下では、これを前提として各相違点に係る判断を行う。

4-3 相違点に係る判断
〈相違点1について〉
本願発明8に係る「段落」を「初期状態では少なくとも一つ有し、」との特定は、本願明細書の段落【0078】「図13(A)は、段落を通じて維持される「スタイル」情報である「縦書き」・「横書き」の指定にデフォルト値を利用する処理を示している。すなわち、「縦書き」あるいは「横書き」の指定の際には、まずRAMの所定領域にデフォルト値の設定が完了しているか否かを判断し(ステップS500)、テープライタ1の電源が投入されたばかりの状態であってデフォルト値の設定が未だに完了していなければ、ROMに不揮発的に記憶されているデフォルト値、本実施例の場合は「横書き」を読み込み(ステップS510)、これをRAMの所定領域にデフォルト値として記憶する(ステップS520)。」の記載、或いは、段落【0081】「なお、図13(B)に示すように、新たな段落の作成が指示された場合に、既に設定されているデフォルト値を読み出して新たな段落の設定とし(ステップS540)、その後、縦書き/横書きについては現在の設定に合わせる処理を行なう(ステップS550)ものとしても差し支えない。」を参酌するに、段落に関する「スタイル情報」がデフォルト値としてRAM所定領域に設定されていない場合には、ROM記憶されたデフォルト値が必ず設定されることから、RAM所定領域には段落に関する「スタイル情報」が必ず一つは設定されていることを意図するものと推察される。
もっとも、本願明細書中では、前記各段落に先立って本願発明8の方法に係る<ソフトウェアの説明>について、段落【0067】「本実施例のテープライタ1が実行する処理について説明する。図10は、テープライタ1が実行する処理ルーチンの要部を示すフローチャートである。このテープライタ1には、種々の動作モードがあり、入力部50Cの内の特定のファンクションキー等が操作されると、後述する行数等指定モードやレイアウト表示モードなどの、各種モードに移行する。モードの指定がなく、文字に対応したキーが操作された場合には、最終的に印字される文字データが入力される。」と、また、これに続く【0068】「この処理ルーチンが起動されると、まず処理モードの判別がなされ(ステップS200)、特定のモードが指定されていなければ、文字入力モードと判断して、印字データの入力を行なう(ステップS210)。」と記載されており、更に、前記段落【0078】直前の段落【0077】に「上述のごときステップS240,S250の行数等指定モードでは、テープTへの印字結果に大きな影響を与える重要要因を指定することになり、ある程度印字結果を想定しながらその指定を行なわなければならない。そこで、本実施例のテープライタ1は、この行数等指定モードでの操作性を向上させ、希望する印字結果が確実に得られるために、上記ステップS240,S250を通じて以下のごとき処理を実行している。」と記載されているように、前記図13(A)或いは図13(B)の処理が、必ずしも印字データ入力前に実行されるものとの明記はない。
これらの記載からみた場合には、印字データ入力前に段落設定する場合もあれば、印字データを入力後に段落設定する場合も平等にあり得るとするのが自然な解釈といえる。
本願明細書には、電源部分に係る構成、或いは電源スイッチ操作に係る説明は何箇所か記載があるものの、段落形成に係り電源投入との関係を示唆する箇所は、前記段落【0078】或いは【0081】のみであり、前記相違点1に係る「初期状態」がいずれの時点をもって初期状態と呼び得るかは定かでない。

しかしながら、文書処理装置であることが明らかなワープロにおいて、電源を投入した際に、既存の文書作成が行われておらず、新たな文書を作成する場合には、初期状態として特定の書式設定が行われた画面を表示して、直ちに文書に印字データを入力可能とすることが一般的である。
本願の出願日は、平成5年12月30日であり、1990年代に入ったところである。
これに対し、ワープロは既に1980年代から存在しており、1990年代には、その値段が劇的に下がり、一般家庭での使用が拡大している時期であり、本願出願日前において、新たな文書を作成する場合に、初期状態で特定書式が設定された画面が表示され、直ちに印字データ入力が行い得る形態は、当業者ならずとも、一般によく知られていた技術事項である。
してみれば、テープ印字方法に係る刊行物1記載方法発明において、前記一般的な技術事項を採用して、初期状態で特定書式を設定した段落を設けることは、当業者であれば容易に想到し得た程度のことといわざるを得ない。

なお、本願発明8は、テープへの印字方法であることからすれば、「段落」を「初期状態で少なくとも一つ有し、」なる特定は、印字装置の操作者自身が自分の意志で、新たに段落設定を行った上で使用を開始することを意味しているものとも解し得るのであってみれば、印字データの入力に先立ち、まだ段落設定がなされていない状態において、操作者が使用したい段落を自ら設定した上で、印字データ入力を開始する場合も、当該特定に合致するといえることとなり、その場合、これが特段に新規な使い方ともいえないことともなるのであり、相違点1が格別なものとは到底いい得ない。

〈相違点2について〉
当該相違点2に係る特定、「各段落内」に関し、「少なくとも縦書き/横書きの指定を含み、該段落内の印字データの印字状態を定める複数の項目について、」設定が行われることは、要は、定めるべき印字状態には複数の項目が存在することを表しているものといえる。
本願明細書の段落【0004】によれば、印字状態に係るものとして、「印字行数」、「縦書き横書き」、「印字フォント数」、「印字の装飾」等が上げられ、実施例に係る段落【0075】においては、「行数等指定モードが指定されると、まず印字行数の指定や、自動/手動の指定を行なうといった各種の指定処理を行なう(ステップS240)。指定される対象としては、書体(強調文字,斜体文字,下線付き,袋文字,反転文字等)、文字間(狭い,普通,広い)、行間(同左)、フォントが内部フォントか外部ROMのフォントかなどがある。」と記載されている。
この点、テープ印字装置に係る周知例1:実願平3-57150号(実開平5-435号)のCD-ROM、周知例2:特開平5-305731号公報及び、周知例3:特開平5-330197号には、横書き縦書きの別、印字文字の大きさを適宜に選択することが記載されており、これらが、印字データの印字状態といえる項目に相当することは明らかである。
してみるに、本願発明8においては、本願明細書の前記段落【0075】に記載されるように、これら周知例に対比してより詳細に書体、文字間、行間、フォントの別が上げられているものの、「印字データの印字状態を定める複数の項目」なる特定は、従前のテープ印字装置における本願明細書記載のものよりも少ない項目数のものを排除していないのであってみれば、これが格別なものとはいえない。
よって、当該相違点2は、それのみをもって格別な相違があるとはいえない。

〈相違点3について〉
当該相違点3に係る構成の「既に存在している一の段落の他に、新たな段落の形成がなされたとき、」とは、一致点で認定したように「・・・段落を、初期状態では少なくとも一つ有し、新たな段落の作成処理が指定されると、該段落に対して、前記テープの長さ方向に隣接して配置される段落を新たに形成し、」との規定と関連して、新たな段落を設定する際には、既に、別の段落が必ず存在することが前提となっていることを意味している。
そして、当該相違点3に係る構成においては、前記の構成に加えて、当該新たな段落内の(印字データの印字状態を定める)複数の項目について、既に存在していた一つの段落内において設定されていた印字状態と同じに設定する、と規定される。

これに対して、刊行物5:特開平5-210680号公報の段落【0006】?【0009】には、文書作成装置関して、以下の記載がある。

段落【0006】「本発明は英文、和文混在文章の作成に有用な編集処理を提供するものであり、以下の内容である。」

段落【0007】「即ち、書式変更の際、前回設定した最新の同文型の書式、あるいは最も近い位置に設定されている同文型の書式を表示するものである。」

段落【0008】「本発明は、上記課題のために和文及び英文が混在する文章情報を記憶する文章メモリと、和文及び英文の文型を指示する文型指示キー、及び文型毎の出力形式等を規定する書式情報を指示する書式指示キーを有する入力手段と、前記文型指示キーにより指示された文型情報及び前記書式指示キーより指示された書式情報を文章の所定位置に関連させて記憶する書式メモリと、前記書式メモリに記憶された書式情報のために内、予め定めた条件に相当する書式情報を保持する書式バッファと、新たな書式情報の背設定時、前記書式バッファに保持された書式情報を参考表示する表示手段とを備えた文書作成装置である。」

段落【0009】「【作用】本発明により書式変更の際、前回設定した最新の同文型の書式、あるいは最も近い位置に設定されている同文型の書式を表示する。」

これらの記載によれば、既に設定されて書式メモリに存在している書式を、新たな文書作成に際して参考表示する表示手段を備えることとされており、表示される書式は、「前回設定した最新の同文型の書式、あるいは最も近い位置に設定されている同文型の書式」であることとされる。
してみれば、少なくとも、既に設定されている書式を使い続けることができるようにする技術思想が開示されている。
また、刊行物6:特開平5-89098号公報の段落【0004】?【0008】には、以下の記載がある。

段落【0004】「【発明が解決しようとする課題】一般にこのような文書処理装置においては、文章書式の設定、変更を簡単且つ適確に行えることが望まれている。」

段落【0005】「しかしながら、上述した従来の文書処理装置では、ウインドウ102を表示画面101に表示しているとき、そのウインドウ102は表示画面101の大部分を占領してしまうので、一般に操作者にとって理解しやすいとされているレイアウト表示をするだけの余裕が表示画面101には残されていない。従って、かかるレイアウト表示を同一画面内に行うことは困難であり、上述の如き項目を変更した結果得られるであろうレイアウトは、かかる書式設定操作を一旦終了させないと確認できない。このため、書式設定中におけるこれらの設定、変更は、操作者の勘に頼るところが多くなり、適確な書式設定を迅速に行うことは困難であった。」

段落【0006】「本発明は上述した従来の問題点に鑑み成されたものであり、簡単且つ適確に文章書式を設定できる文書処理装置を提供することを課題とする。」

段落【0007】「【課題を解決するための手段】本発明の文書処理装置は上述の課題を達成すべく、手書き入力可能な表示画面を有する表示手段と、該表示画面上の任意の位置を指定するための位置指定手段と、該位置指定手段により指定された位置に基づき所定規則に従って書式を変更しつつレイアウト表示用の仮想文章を前記表示画面に表示させるように前記表示手段を制御すると共に該変更した仮想文章の書式を普通文章の書式として設定する制御手段とを備えたことを特徴とする。」

段落【0008】「【作用】本発明の文書処理装置においては、操作者が例えば入力ペン等の位置指定手段により、表示画面上の任意の位置を指定すると、制御手段による制御の下、表示手段は、このように指定された位置に基づき所定規則に従って書式を変更しつつレイアウト表示用の仮想文章を表示画面に表示する。そして、制御手段は、このように変更した仮想文章の書式を普通文章の書式として設定するので、位置指定手段の指定位置に応じて画面上で変化する仮想文章を操作者は直接見ながら所望の書式を得ることができ、この結果、普通文章の書式を簡単且つ適格に設定することができる。」

これらの記載においても、既に作成された書式を適宜変更して、新たな文書の書式として使用する便宜を図ることが指摘されており、前記刊行物5と同様に、既に設定されている書式を使い続けることができるようにする技術思想が開示されている。
また、刊行物6?8においても同様の技術思想が開示されているといえる。

なるほど、これら刊行物に記載されているのは、書式設定を使い続ける技術思想までであって、テープ印字方法において新たな段落を設定する際であることの明記はない。
しかしながら、前記「4-2 テープ印字装置とワードプロセッサ等の文書処理装置との関係について」で検討したように、文書処理装置側からテープ印字装置に係る機能を参照して、適宜のものを採用することは、当業者が従来から意識していることに照らせば、前記のように書式設定を新たな段落で使い続けるようにしようとする意識は、テープ印字方法に係る当業者が当然にもっていたものと解される。

また、<相違点1について>で指摘したように、本願発明8は、テープへの印字方法であることからすれば、文書作成装置に関して、既に存在している文書書式を使い続けたい場合に、既存文書を複製した後に、印字データである文自体を全部消去して、新たに印字データを入力することは、その使用方法としてきわめて一般的であることからして、このようにすることは、当業者ならずとも容易に想到し得る程度のことである。

してみれば、テープ印字方法において、新たな段落を設定するに際して、既存段落における所定の印字状態と同じに設定するようになすことは、当業者であればきわめて容易に想到し得た程度のことといわざるを得ない。

なお、請求人は、平成18年8月7日付け意見書において、主に装置に係る本願請求項1記載の発明に関して、次のように主張する。

「今回の拒絶理由通知では、その第13頁に記載されているように、出願人が平成17年9月5日付けで提出した意見書の認定に従い、その意見書で明確にした相違点について、新たな刊行物5ないし8を挙げ、これらの刊行物を、既に示された刊行物1ないし4と組み合わせることで、本願請求項1ないし11の進歩性がない、とされています。
しかしながら、かかる判断は、次の3つの点で誤っているものと思量致します。
(A)流用可能とされているワードプロセッサの技術は、いずれも既存の文書や書式ファイルなどの設定を参照するものであり、新たな段落の形成がなされたときに、印字状態の設定のうち、予め定めた項目については、デフォルト値の有無によらず、既存段落の設定を参照して印字状態の設定を行なう構成は何ら開示されておらず、流用しようがない点、
(B)そもそも、本願請求項1記載の発明における「段落」は、請求項1において定義されている通り、「テープの長さ方向に区切りを取って配置され、前記テープの長さ方向に沿った印字データの並びを1行とする行が該区切り内に含まれる数である行数が予め定められており、該行数以内の行を構成する文字等のデータの集合である段落」であって、このような段落とワードプロセッサなどにおける文字列あるいは文の集合である段落とは、全く異なるものであり、ワードプロセッサの技術の適用の余地がない点、
(C)本願請求項1記載の発明では、新たな段落の形成がなされたとき、デフォルト値記憶手段に印字状態の設定のデフォルト値が記憶された項目については、該記憶されたデフォルト値に基づき、該新たな段落内の印字データについての印字状態の設定を行ない、これらの印字状態の設定のうち、予め定めた項目については、前記デフォルト値の有無によらず、既存段落の設定と同じに設しており、かかる構成は、刊行物1ないし8から見て、十分な進歩性を有する点、
です。」

しかしながら、(A)の点及び(B)の点について、刊行物5ないし8のいずれにも、段落の書式という概念が直接的に開示されていないとしても、文書作成装置に係る機能を流用しようとする意識をテープ印字方法に係る当業者が有していることは、前記「4-2 テープ印字装置とワードプロセッサ等の文書処理装置との関係について」で検討したように、技術常識からみて明らかである。
よって、文書作成装置に係る発明が、本願請求項1記載の発明とは何ら関係がないとし、テープ印字における段落とワードプロセッサなどにおける文字列あるいは文の集合である段落とは、全く異なるものであり、ワードプロセッサの技術の適用の余地がない、とする請求人の主張は採用できない。

また、(C)の点について、新たな段落の形成がなされるときに、既設定の印字状態の設定と同じとすることが、テープ印字方法に係る刊行物のいずれにも記載がないことは認めるものの、文書処理装置に係る機能をテープ印字方法に流用することが当業者にとって容易想到である以上、このような手法を採用することは当業者にとり容易といわざるを得ないのであって、請求人の主張は採用できない。

他方、前記請求人の主張は、本願請求項1に係る装置におけるごとく、請求項にはテープ印字装置として必要な構成が記載されたものであって、本願請求項に係る各発明はいずれもテープ印字装置に特化したものである、とする主張とも解し得るので、以下に、予備的に検討しておく。
なるほど、実際に製品化されたテープ印字装置が、小型で簡便化された操作で扱い得るものであることから、一般のワードプロセッサと対比した場合に、処理能力、記憶容量を制限したものとなっており、その機能も簡素化されたものであることは理解できる。
しかし、本願請求項記載されたテープ印字装置或いは方法においては、このような製品化されたテープ印字装置総体に係るすべての構成が特定されているものではなく、前記のような処理能力、記憶容量の制限があるものと解することはできない。
すると、実際の製品に合わせた解釈を行うことは、無理に請求項記載される発明を限定的に解釈することとなるのであって、そのような解釈は出来ない。
よって、請求人の主張が、前記のごとくの内容である場合には、請求項記載に基づくものとはいえないこととなり、やはり採用することはできない。

4-4 まとめ
本願発明8に係る相違点1?3については、前記「4-3 相違点に係る判断」で検討したように、当業者が容易に想到し得た程度のことである。
したがって、本願発明8は、提示した刊行物1?4、周知例1?3、及び刊行物5?8に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

5.むすび
以上のとおりであるから、本願発明8が、特許を受けることができないものである以上、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶を免れない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-05-10 
結審通知日 2007-05-15 
審決日 2007-05-29 
出願番号 特願平5-350162
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B41J)
P 1 8・ 534- WZ (B41J)
P 1 8・ 531- WZ (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 上田 正樹  
特許庁審判長 酒井 進
特許庁審判官 番場 得造
尾崎 俊彦
発明の名称 印字装置  
代理人 五十嵐 孝雄  
代理人 下出 隆史  
代理人 五十嵐 孝雄  
代理人 下出 隆史  

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