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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B42D |
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管理番号 | 1161257 |
審判番号 | 不服2004-502 |
総通号数 | 93 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2007-09-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2004-01-07 |
確定日 | 2007-07-20 |
事件の表示 | 平成10年特許願第244103号「インクジェット用圧着紙」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 3月 7日出願公開、特開2000- 71655〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯・本願発明 本願は、平成10年8月28日の出願であって、平成15年12月5日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成16年1月7日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされたものである。 当審においてこれを審理した結果、平成19年1月22日付けで平成16年1月7日付け手続補正書を補正却下すると共に、同日付けで拒絶の理由を通知したところ、請求人は同年3月26日付けで意見書及び手続補正書を提出した。 第2 当審における拒絶理由の骨子 当審における拒絶理由1は次のような理由を通知したものである。 本件出願の請求項1?3に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 1.特開平9-157611号公報 2.特開平10-157345号公報 3.特開平9-250096号公報 4.特開平4-201387号公報 5.特開平7-304278号公報 6.特開平9-188065号公報 第3 当審の判断 1.請求項1に係る本願発明 本願の請求項1に係る発明は、平成19年3月26日付けで補正された明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のものと認める。 「【請求項1】親展面を有する用紙の親展面同士がその親展面に塗被された接着剤組成物を介して、剥離可能に接着するように、折り畳んで圧着して使用され、且つオフセット印刷で共通情報やプリントスルーを防ぐ柄等の情報がプレ印刷される圧着紙であって、 前記接着剤組成物が、コールドシール剤、微細鉱物粉末、及び水不溶性又は水難溶性の第3級又は第4級アンモニウム塩であるカチオン性重合体を含み、且つ、水不溶性又は水難溶性の第3級又は第4級のアンモニウム塩であるカチオン性重合体は、ポリウレタン系ディスパージョンもしくはポリジアルキルアミンエピクロロヒドリンであることを特徴とするインクジェット用圧着紙。」(以下、「本願発明」という。) 2.引用刊行物 (1)当審における拒絶理由に引用され、本願出願前に頒布された刊行物である特開平9-157611号公報(以下、「刊行物1」という。)には、図面と共に下記の記載がある。 ア.【請求項1】「親展面を有する用紙の親展面同士がその親展面に塗披された接着剤組成物を介して剥離可能に圧着される圧着紙において、前記親展面に塗披する接着剤組成物が、コールドシール剤および微細鉱物粉末に加えて、高pH域で電荷が零乃至負となるカチオン性ポリマーと重合燐酸塩及び多価金属塩類からなることを特徴とするインジェット用圧着紙。」 イ.段落【0002】「用紙の親展面に塗披された剥離性を持つ感圧接着剤の層に各種情報を印字した後、用紙を二つ折り又は三つ折りに折り畳み、50?100kg/cm2 の強圧をかけて親展面同士を前記感圧接着剤を介して圧着することによりはがきの形態を構成した所謂「圧着はがき」が、大量の通知書類の発送を必要とする業界で封書からの切り換えとして急速に進んでいる。」 ウ.段落【0004】?【0006】「印字方式として水溶性インク...を用いる高速インクジェット方式が注目されている。...高速インクジェット方式に使用される水溶性インク、例えばサイテックス社#1007等の水溶性インクは、染料が5?6重量%であってその他の大部分は水分であるので、誘電率が高く発熱に対する効率が良いという性質を有している。 他方、インクジェット用圧着紙には、圧着紙に当然に要求される機能に加えて、水溶性インクを使用対象とする一般的なインクジェット用紙と同じく、印字品質、インクの耐水性及び耐候性、インクの乾燥性、インクの裏抜け防止性能等が要求される。これらの品質の中では、圧着はがき郵送中の雨濡れ等による事故防止の点から、インクの耐水性に関してより高度の特性が要求される。 この場合の耐水性については、直接染料又は酸性染料を着色剤とした水溶性インクについての耐水性が対象となる。この種の水溶性インクは、染料分子中のスルホン基及び/又はカルボキシル基の塩によって染料の水溶化がなされており、水溶性を与えている部分は強い負の電荷を帯びている。ここで、水溶性インクについての従来の耐水化技術の主なものは、インクジェット受容層をカチオン性を呈するポリマーで処理することによって電荷的に染料分子を捕捉し、水の蒸発に伴って近接した両者間にファンデルファールス力を働かせて染料分子をインクジェット受容層に固定するというものである。インクジェット受容層の処理に用いられるポリマーとして、具体的には、例えば4級化ポリビニルピリジン、ポリエチレンイミン、4級化ポリエチレンイミン、ポリアリルスルフォン、ジシアンジアミド縮合物、ポリエチレンポリアミン系ポリマー、ポリアリルアミン、ポリジアリルアミン等、多くのカチオン性ポリマーの応用が紹介されている。」 エ.段落【0011】「本発明は、このような問題を解決するためになされたもので、塗工された単層の接着剤組成物が剥離可能な接着性とインクジェット適性を同時に満足し、特にインクジェットで印字した部分が水濡れ状態や浸水状態になっても印字の脱落や滲み、汚れ等が生じることのない高品質のインクジェット用圧着紙を提供することを目的とする。」 オ.段落【0013】「接着剤組成物中の高pH域で電荷が零乃至負となるカチオン性ポリマーの配合量は、コールドシール剤100重量部に対し、20?40重量部であることが望ましく、高pH域で電荷が零乃至負となるカチオン性ポリマーとしては、N-ヒドロキシアルキルポリエチレンイミンを挙げることができる。」 カ.段落【0016】?【0018】「カチオン性ポリマー(水溶性ポリマー)としては、ポリエチレンイミンの誘導体を使用することができる。ポリエチレンイミン自体は1,2,3級アミンからなり、高pH域たとえばpH10以上では微弱であるがカチオン性を示し、コールドシール剤と混用できない。しかしながら、1,2級アミン部分をヒドロキシルアルキル化したN-ヒドロキシアルキルポリエチレンイミンは、ポリマー粒子が負に帯電し、コールドシール剤に混用できるものである。これらの樹脂はイミン基のカチオン部分で金属置換して不溶化したインク中の染料を保持し、乾燥によってファンデルワールス力でインク中の染料を固定化する。」 キ.段落【0029】「 接着剤組成物に高pH域で電荷が零乃至負に変性したポリエチレンイミン誘導体と無機塩類を混合して、一液でインクジェット適性と接着性を保証できる接着剤組成物とした。」 ク.段落【0030】?【0031】「接着剤組成物中のコールドシール剤と相溶性が良く、分散系を安定させる機能があるポリエチレンイミンの誘導体を使用する。但し、この樹脂単体ではイミンから構成されているにも拘らず、サイテックス社の#1007インクについては染料の耐水化作用を発揮しない為、カチオン性物質又は/及び多価金属塩類を併用する。あくまでも耐水化作用はポリエチレンイミン誘導体と多価金属塩類との共同作用によるものである。 前記接着剤組成物の塗工層にインクジェットプリンタからのインク滴が付着すると、インクの染料中のスルホン酸ソーダ基は多価金属イオンと金属置換が起こり、不溶化する。この不溶化物はポリエチレンイミン誘導体のイミン基に吸収され、脱水乾燥によって両者は更に接近し、ファンデルワールス力が働いて塗工層中に染料が固定される。」 刊行物1の上記記載ア.?ク.及び図面から、刊行物1には以下の発明が開示されていると認められる。 「親展面を有する用紙の親展面同士がその親展面に塗披された接着剤組成物を介して剥離可能に圧着される圧着紙において、前記親展面に塗披する接着剤組成物が、コールドシール剤および微細鉱物粉末に加えて、高pH域で電荷が零乃至負となるカチオン性ポリマーと重合燐酸塩及び多価金属塩類からなることを特徴とするインジェット用圧着紙。」(以下、「引用発明」という。) (2)当審における拒絶理由に引用され、本願出願前に頒布された刊行物である特開平10-157345号公報(以下、「刊行物2」という。)には、下記の記載がある。 サ.段落【0001】「本発明の再剥離性圧着葉書用記録紙は、各種の印刷機にて印刷、印字などを行う際にインクジェット方式による記録...に用いることができ」 シ.段落【0035】「再剥離性圧着葉書用記録紙を...接着剤塗布層面にオフセット印刷をし、情報を印刷した後...接着剤塗布層面のオフセット印刷された面側に、更に各種ラインプリンターにて情報を印刷した。」 (3)当審における拒絶理由に引用され、本願出願前に頒布された刊行物である特開平9-250096号公報(以下、「刊行物3」という。)には、下記の記載がある。 タ.段落【0001】「水溶性インクを用いたインクジェット記録方式による記録適性、フォーム輪転機等による印刷適性...とを兼ね備え...た記録用紙」 チ.段落【0002】「料金明細書、ダイレクトメール等は、フォーム用紙に罫線や図案等といった定型のフォームが印刷され、該フォームに宛名や、バーコード等の個別情報が印字されたものであって、これまで、専ら定型フォームの印刷と、個別情報の印字とは分離して行われていた。...印刷会社がフォーム用紙にオフセット式のフォーム輪転機によってフォーム印刷を行い...顧客が、レーザービームプリンタ等のNIP(ノンインパクトプリンタ)によって個別情報を印字し、これを郵送する」 ツ.段落【0003】「オフセット式のフォーム輪転機に、インクジェットプリンタを連結したシステムが開発されている。これにより、フォームの印刷から個別情報の印字および必要な加工までを一箇所において連続・一貫して行うことが可能となり、データの機密保持面や高速かつ安価な面から、印刷、加工といった工程と、個別情報の記録、郵送といった工程とが2箇所において分離されていた方式に変わり得るものとして期待されている。このシステムにおいて用いられるインクジェットプリンタは、一般に水溶性のインクを...記録用紙に付着させ、ドットを形成させ記録を行うもので、高速、低騒音、多色化が容易であること、記録パターンの融通性が大きいこと等の特徴を有することから、フォームへの個別情報の印字に適したものといえる。」 (4)当審における拒絶理由に引用され、本願出願前に頒布された刊行物である特開平4-201387号公報(以下、「刊行物4」という。)には、下記の記載がある。 ナ.第2頁左下欄3?13行「従来の印刷版は...オフセット印刷に使用する浸し水に表面層(画像受理層)が溶解し、耐刷性の低下及び印刷汚れの両者が発生するなど大きな欠点があった。」 ニ.第2頁右下欄7?17行「本発明の目的は、画像部の油性インキと画像受理層との接着性が向上し、且つ印刷において印刷枚数が増加しても非画像部の親水性が充分体たれ、油汚れの発生しない、高耐刷力を有する直描型平版印刷用原版を提供することである。...本発明は、上記の諸目的を、支持体上に画像受理層を有する直描型平版印刷用原版において、前記画像受理層中に下記の非水溶媒系分散樹脂粒子を少なくとも1種含有することを特徴とする直描型平版印刷用原版によって達成できる。」 ヌ.第4頁左上欄3行?右上欄9行「非水溶媒系分散樹脂粒子は...樹脂粒子に疎水性(親油性)の重合体成分を結合しており、この疎水性部分が画像受理層のマトリックスである結着樹脂と相互作用していることから、この部分のアンカー効果によって、親水性を示しても印刷時の浸し水で溶出することはなく、かなり多数枚の印刷を行っても良好な印刷特性を維持することができる。さらに、本発明において、高次の網目構造を形成している樹脂粒子であれば、水での溶出性が更に抑えられ...すなわち、網目構造を有する場合は、前記した非水溶媒に不溶な部分において、該不溶部分を形成している重合体成分(A)の分子間が橋架けされて、高次の網目を形成されていることにより、網目樹脂粒子は水に対して難溶性あるいは不溶性となったものである。」 (5)当審における拒絶理由に引用され、本願出願前に頒布された刊行物である特開平7-304278号公報(以下、「刊行物5」という。)には、図面と共に下記の記載がある。 ハ.段落【0002】「支持体と画像受容層からなる平版印刷用原版を用いて印刷を行なう...オフセット印刷版が得られる。」 ヒ.段落【0004】「使用している導電性物質はカチオン高分子であり、分子が水もしくはアルコールに可溶であるために、支持体中に含浸させておいても、印刷時にエッチング液や湿し水を供給した場合に、導電性物質が版より溶出してしまう。その結果、インク中にそれが混入しインクを乳化分散するなどの印刷不良を招く。」 フ.段落【0027】、【0028】「イオン性の帯電防止剤としては、分子内に第4級アンモニウム塩、カルボン酸塩、スルホン酸塩、リン酸塩、アミノ酸基及びそれらの組合せからなる群から選ばれる少なくとも一個以上の親水基を有する帯電防止剤が用いられる。..カチオン性化合物...あげられる。実質的に水に不溶性か難溶性であるものが好ましく用いられる。」 (6)当審における拒絶理由に引用され、本願出願前に頒布された刊行物である特開平9-188065号公報(以下、「刊行物6」という。)には、図面と共に下記の記載がある。 マ.段落【0011】「本発明の目的は、インクジェットプリント用記録媒体に要求される上記の諸特性をバランス良く満足すると同時に、高画質・高濃度で且つ耐水性・耐磨耗性・耐光性等の保存性に優れた画像形成の可能なインクジェットプリント用記録媒体を提供することである。」 ミ.段落【0045】?【0046】「記録剤として酸性染料または直接染料を含有する水性インクを用いた場合、非孔質層は、これらの染料に対して吸着性を有し且つ水系インクに対して膨潤性を有する水溶性または親水性ポリマーにより構成されるのが望ましい。 このような水溶性または親水性ポリマーとしては...カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリアミド、ポリアクリルアミド、ポリエチレンイミン、ポリビニルピロリドン、四級化ポリビニルピロリドン、ポロビニルピリジリウムハライド、メラミン、フェノール、アルキド、ポリウレタン、アセタール変性ポリビニルアルコール、ポリビニルアルコール、イオン変性ポリビニルアルコール、ポリエステル、ポリアクリル酸ソーダ等の合成樹脂が挙げられる。好ましくは、これらのポリマーを架橋して水不溶性にした親水性ポリマー、2種以上のポリマーからなる親水性かつ水不溶性のポリマーコンプレックス、親水性セグメントを有する親水性かつ水不溶性のポリマー等である。」 ム.段落【0074】?【0076】「実施例1...下記組成物Bを乾燥膜厚8μmとなるようにバーコーター法により塗工し140℃、5分間、乾燥炉内で乾燥した。 組成物B:カチオン変性ポリビニルアルコール(C-ポリマー、(株)クラレ製、10%水溶液)100部、ブロックドポリイソシアネート(エラストロンBN-5、第一工業製薬(株)製、固形分30%)3部、有機スズ系化合物(エラストロンキャタリスト64、第一工業製薬(株)製)0.1部。」 3.本願発明と引用発明との一致点及び相違点の認定 本願発明と引用発明を対比する。 引用発明を認定した刊行物1には、「用紙を二つ折り又は三つ折りに折り畳み、強圧をかけて親展面同士を感圧接着剤を介して圧着する」(前記記載イ.)と記載されており、従来技術と同様、引用発明も用紙を折り畳んで圧着して使用されることを前提にしているから、本願発明の圧着紙同様、剥離可能に接着するように折り畳んで圧着して使用されるものである。 引用発明の「カチオン性ポリマー」は、本願発明の「カチオン性重合体」と同意である。 してみれば、本願発明と引用発明は以下の点で一致する一方、以下の相違点を有する。 <一致点> 「親展面を有する用紙の親展面同士がその親展面に塗被された接着剤組成物を介して、剥離可能に接着するように、折り畳んで圧着して使用される圧着紙であって、前記接着剤組成物が、コールドシール剤および微細鉱物粉末及びカチオン性重合体を含むインクジェット用圧着紙。」 <相違点1> 圧着紙が、本願発明ではオフセット印刷で共通情報やプリントスルーを防ぐ柄等の情報がプレ印刷されるものであると特定されているのに対し、引用発明は、当該特定を有していない点。 <相違点2> カチオン性重合体が、本願発明は、水不溶性又は水難溶性の第3級又は第4級アンモニウム塩であり、且つ、水不溶性又は水難溶性の第3級又は第4級のアンモニウム塩であるカチオン性重合体は、ポリウレタン系ディスパージョンもしくはポリジアルキルアミンエピクロロヒドリンであると特定されているが、引用発明では当該特定がなされていない点。 4.相違点についての判断及び本願発明の進歩性の判断 (1)<相違点1>について 親展面を有する用紙の親展面同士がその親展面に塗被された接着剤組成物を介して、剥離可能に接着するように、折り畳んで圧着して使用される圧着紙において、オフセット印刷でプレ印刷した後、インクジェット記録により情報を記録することは、上記刊行物2、3にみられるように本願出願前から周知・慣用手段であるから、引用発明のインクジェット用圧着紙において、上記周知・慣用手段を適用し、共通情報やプリントスルーを防ぐ柄等の情報をオフセット印刷でプレ印刷することは当業者にとって容易である。 (2)<相違点2>について オフセット印刷において、平版印刷原板を形成している組成物から湿し水により溶出する成分と湿し水中の成分が反応して湿し水を汚しのちの印刷に支障を来すことから、その為の対策としてこれまで水に溶出していた成分を水不溶性にして用いることは、刊行物4、5にみられるように、本願出願前から周知である。 引用発明のインクジェット用圧着紙においても、オフセット印刷でプレ印刷することを前提とすれば、オフセット印刷一般におけると同様、オフセット印刷で用いる湿し水により溶出する成分と湿し水中の成分が反応して湿し水を汚しのちに印刷に支障をきたさないようにすることは当然考慮する事項である。 すると、インクジェット印字を耐水化するために用いたカオチン性重合体が溶出して湿し水中のアニオン性物質と反応して湿し水を汚さないようにすべく、インクジェット記録に使用されるインクに含有されている染料に対して吸着性を有する親水性の水不溶性カオチン樹脂を用いることも、上記刊行物4、5記載の周知技術に鑑みて当業者ならば容易に想到し得るものである。 そして、その際、該水不溶性のカオチン性重合体として、本願発明のような第3級又は第4級のアンモニウム塩である、ポリウレタン系ディスバージョンもしくはポリジアルキルアミンエピクロロヒドリンを選択することも、刊行物6の段落【0046】において、水溶性または親水性ポリマーを用いるに際して、これらのポリマーを架橋して水不溶性にした親水性ポリマー、2種以上のポリマーからなる親水性かつ水不溶性のポリマーコンプレックス、親水性セグメントを有する親水性かつ水不溶性のポリマー等として使用することが示唆されていることに照らせば、前記第3級又は第4級のアンモニウム塩を用いることで格別の作用効果が生じるものとも認められず、この点は単なる設計事項に属する。 また、本願明細書に記載される実施例に係るカオチン性重合体とされる「ポリウレタン系ディスバージョンのネオフィックスIJ-100」自体は水に溶解するものであって、これ自体が水不溶性のものとはいえないことから、かりに、圧着紙の塗工層に用いた結果として水不溶性となるとすれば、塗工に際しての塗工液成分の比に水不溶性を与えるための条件が存在するとも推察される。 しかしながら、本願発明においては特段に塗工液成分の比が特定されたものではなく、単にカオチン性重合体を用いた結果、紙に定着した状態で容易に溶出しないとする定性的な認識であれば、当業者にとって自明な範疇のものでしかないのであって、前記で検討したように、当業者が通常認識している技術常識の域を出ない作用効果といわざるを得ない。 したがって、相違点2に係る構成は当業者が容易になし得る程度のことである。 そして、これら相違点1及び2に係る構成を採用した本願発明の作用効果も、刊行物1、6記載の発明及び刊行物2乃至5記載の周知・慣用技術から当業者が予測できる範囲のものである。 第4 むすび 以上のとおり、本願発明は、引用発明、刊行物6の記載及び周知・慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 そして、本願発明が特許を受けることができないから、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2007-05-17 |
結審通知日 | 2007-05-23 |
審決日 | 2007-06-06 |
出願番号 | 特願平10-244103 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(B42D)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 平井 聡子 |
特許庁審判長 |
酒井 進 |
特許庁審判官 |
藤井 靖子 島▲崎▼ 純一 |
発明の名称 | インクジェット用圧着紙 |
代理人 | 飯塚 信市 |