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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01J
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01J
管理番号 1161338
審判番号 不服2004-25558  
総通号数 93 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-09-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-12-15 
確定日 2007-07-19 
事件の表示 特願2002-308070「電子源基板製造装置,そのための溶液,電子源基板および画像表示装置」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 5月20日出願公開、特開2004-146142〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続きの経緯
本願は、平成14年10月23日の出願であって、平成16年11月11日付け(発送日;同月16日)で拒絶査定がなされ、これに対して、平成16年12月15日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、平成17年1月5日付けで手続補正がなされたものである。

第2.平成17年1月5日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成17年1月5日付けの手続補正を却下する。
[理由]
1.補正の内容
本件手続補正は、補正前の特許請求の範囲、
「 【請求項1】 基板上の1対の素子電極間に導電性薄膜を形成するための材料を含有する溶液の液滴を吐出口径Φ25μm以下の液滴噴射ヘッドにより噴射付与し、導電性薄膜による表面伝導型電子放出素子群を形成する電子源基板製造装置において、前記導電性薄膜を形成するための材料を含有する溶液は、液体に金属微粒子を分散させた溶液であり、該金属微粒子は、バルク状態におけるビッカース硬度が26?45の金属材料であり、前記吐出口を構成する部材よりやわらかい材料であることを特徴とする電子源基板製造装置。
【請求項2】 基板上の1対の素子電極間に導電性薄膜を形成するための材料を含有する溶液の液滴を吐出口径Φ25μm以下の液滴噴射ヘッドにより噴射付与し、導電性薄膜による表面伝導型電子放出素子群を形成する電子源基板製造装置に使用する溶液において、該溶液に含有される前記導電性薄膜を形成するための材料は、前記吐出口を構成する部材よりやわらかい金属微粒子であるとともにバルク状態におけるビッカース硬度が26?45の金属材料であることを特徴とする溶液。
【請求項3】 基板上の1対の素子電極間に導電性薄膜を形成するための材料を含有する溶液の液滴を吐出口径Φ25μm以下の液滴噴射ヘッドにより噴射付与し、導電性薄膜による表面伝導型電子放出素子群を形成する電子源基板製造装置によって製作される電子源基板において、前記導電性薄膜は前記液滴付与後に溶媒成分を揮発させてなる薄膜であるとともに、該薄膜は前記吐出口を構成する部材よりやわらかい金属微粒子を含有するとともに、該金属微粒子はバルク状態におけるビッカース硬度が26?45の金属材料であることを特徴とする電子源基板。
【請求項4】 請求項3に記載の電子源基板と、該電子源基板に対向して配置され、蛍光体を搭載し、前記電子源基板とほぼ同じ形状、大きさのフェースプレートとを有することを特徴とする画像表示装置。」
を、
「 【請求項1】 基板上の1対の素子電極間に導電性薄膜を形成するための材料を含有する溶液の液滴を液滴噴射ヘッドにより噴射付与し、導電性薄膜による表面伝導型電子放出素子群を形成する電子源基板製造装置ならびにそれに使用する溶液材料の組み合わせにおいて、前記導電性薄膜を形成するための材料を含有する溶液は、液体に金属微粒子を分散させた溶液であり、該金属微粒子は、バルク状態におけるビッカース硬度が26?45の金属材料であるとともに、前記液滴を噴射付与した場合に、微小滴が前記電子放出素子の周囲に飛散しない、吐出口径Φ25μm以下のノズルの大きさとそれを構成する材料の硬さと、該硬さよりやわらかい金属微粒子材料の組み合わせとしたことを特徴とする電子源基板製造装置。
【請求項2】 基板上の1対の素子電極間に導電性薄膜を形成するための材料を含有する溶液の液滴を液滴噴射ヘッドにより噴射付与し、導電性薄膜による表面伝導型電子放出素子群を形成する電子源基板製造装置によって製作される電子源基板において、前記導電性薄膜は前記液滴付与後に溶媒成分を揮発させてなる薄膜であるとともに、該薄膜は前記液滴を噴射付与して形成した場合に、前記電子放出素子の周囲に微小滴飛散が存在しないように、吐出口径Φ25μm以下のノズルの大きさとそれを構成する材料の硬さと、該硬さよりやわらかいバルク状態におけるビッカース硬度が26?45の金属微粒子材料を組み合わせてなることを特徴とする電子源基板。
【請求項3】 請求項2に記載の電子源基板と、該電子源基板に対向して配置され、蛍光体を搭載し、前記電子源基板とほぼ同じ形状、大きさのフェースプレートとを有することを特徴とする画像表示装置。」
と補正する内容を含むものである。
なお、アンダーラインは、補正箇所を示すために請求人が付したものである。

2.補正の目的の適合性
上記手続補正は、補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「吐出口径Φ25μm以下の液滴噴射ヘッド」について、「液滴を噴射付与した場合に、微小滴が前記電子放出素子の周囲に飛散しない、吐出口径Φ25μm以下のノズル」との記載による限定を付加して補正後の請求項1としたものであり、また、補正前の請求項2を削除して請求項の番号を繰り上げ、補正前の請求項3について、上記請求項1と同様の限定を付加して補正後の請求項2とし、補正後の請求項2を引用する補正後の請求項3についても、同様の限定を付加したものである。

したがって、上記手続補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第1号に規定する請求項の削除、及び同項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するものである。

3.独立特許要件
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について、以下検討する。

3-1.引用刊行物
3-1-1.刊行物1
原査定の拒絶の理由に引用された本願の出願前に頒布された刊行物である特開2001-307622号公報(以下、「刊行物1」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。
1a.「【0021】図2は、図1に示した平面型表面伝導型電子放出素子の製造方法を説明するための図で、図2(A)は基板1に素子電極2,3を形成した図、図2(B)は素子電極2,3に導電性薄膜4を形成した図、図2(C)は該導電性薄膜4に電子放出部5を形成した図を示す。導電性薄膜4としては、良好な電子放出特性を得るために、微粒子で構成された微粒子膜が特に好ましく、その膜厚は素子電極2,3へのステップカバレージ、素子電極2,3間の抵抗値および後述する通電フォーミング条件等によって適宜設定されるが、好ましくは、数Åないし数千Åで、特に好ましくは、10Åないし500Åである。またその抵抗値は、Rsが10の2乗ないし10の7乗Ωの値である。なお、Rsは厚さがt、幅がwで長さが1の薄膜の抵抗Rを、R=Rs(1/w)とおいたときに現われる値で、薄膜材料の抵抗率をρとするとRs=ρ/tで表される。ここでは、フォーミング処理について通電処理を例に挙げて説明するが、フォーミング処理はこれに限られ
るものではなく、膜に亀裂を生じさせて高抵抗状態を形成する方法であればいかなる方法を用いても良い。
【0022】導電性薄膜4を構成する材料としては、Pd,Pt,Ru,Ag,Au,Ti,In,Cu,Cr,Fe,Zn,Sn,Ta,W,Pb等の金属,PdO,SnO2,In2O3,PbO,Sb2O3等の酸化物、HfB2,ZrB2,LaB6,CeB6,YB4,GdB4等の硼化物,TiC,ZrC,HfC,TaC,SiC,WC等の炭化物,TiN,ZrN,HfN等の窒化物,Si,Ge等の半導体,カーボン等の中から適宜選択される。
【0023】ここで述べる微粒子膜とは複数の微粒子が集合した膜であり、その微細構造として、微粒子が個々に分散配置した状態のみならず、微粒子が互いに隣接、あるいは重なり合った状態(いくつかの微粒子が集合し、全体として島状を形成している場合も含む)をとっている。微粒子の粒径は、数Åないし1μmであり、好ましくは10Åないし200Åである。
【0024】以下、本発明の一実施形態に係る表面伝導型電子放出素子を形成した電子源基板の製造装置について述べる。図3は、本発明に係る電子源基板の製造装置の一例を示す図で、図中、11は吐出ヘッドユニット(噴射ヘッド)、12はキャリッジ、13は基板保持台、14は平面型表面伝導型電子放出素子群を形成する基板、15は導電性薄膜の材料を含有する溶液の供給チューブ、16は信号供給ケーブル、17は噴射ヘッドコントロールボックス、18はキャリッジ12のX方向スキャンモータ、19はキャリッジ12のY方向スキャンモータ、20はコンピュータ、21はコントロールボックス、22(22X1,22Y1,22X2,22Y2)は、基板位置決め/保持手段である。
【0025】図3に示す構成は、基板保持台13に置かれた基板14の前面を噴射ヘッド11がキャリッジ走査により移動し、導電性薄膜材料を含有する溶液を噴射付与する例を示すものである。噴射ヘッド11は、任意の液滴を定量吐出できるものであれば如何なる機構でも良く、特に数10ng程度の液滴を形成できるインクジェット方式の機構が望ましい。インクジェット方式としては、圧電素子を用いたピエゾジェット方式、ヒータの熱エネルギを利用して気泡を発生させるバブルジェット方式、あるいは荷電制御方式(連続流方式)等いずれのものでも構わない。」

1b.「【0033】液滴42の材料には、先に述べた導電性薄膜となる元素あるいは化合物を含有する水溶液、有機溶剤等を用いることができる。例えば、導電性薄膜となる元素あるいは化合物がパラジウム系の例を以下に示すと、酢酸パラジウム-エタノールアミン錯体(PA-ME),酢酸パラジウム-ジエタノール錯体(PA-DE),酢酸パラジウム-トリエタノールアミン錯体(PA-TE),酢酸パラジウム-ブチルエタノールアミン錯体(PA-BE),酢酸パラジウム-ジメチルエタノールアミン錯体(PA-DME)等のエタノールアミン系錯体を含んだ水溶液,また,パラジウム-グリシン錯体(Pd-Gly),パラジウム-β-アラニン錯体(Pd-β-Ala),パラジウム-DL-アラニン錯体(pd-DL-Ala)等のアミン酸系錯体を含んだ水溶液、さらには酢酸パラジウム・ビス・ジ・プロピルアミン錯体の酢酸ブチル溶液等が挙げられる。」

1c.「【0043】また使用した噴射ヘッドは、エッジシュータ型のサーマルインクジェット方式と同等の構造(ただしインクではなく、上記溶液を使用)とした。図7に示したような1つのドット径が約φ45μmとなるようにした場合の噴射ヘッド(インクジェットヘッド)は、ノズル径がφ25μm、発熱体サイズが25μm×90μm(抵抗値122Ω)で、駆動電圧を23V、パルス幅を6μsで駆動し、1滴形成のエネルギーを約26μJとした。その時の液滴の噴射速度は約6.5m/sであった。
【0044】なお、以上の溶液および噴射の条件は、素子電極2,3の距離が140μmであり、そこに10滴付着させる場合の一例であり、本発明はこの条件に限定されるものではない。つまり10滴に限らずもっと多くの滴数としてもよいし、また、図7に示したように5滴×2列というように2列に限定されるものでもなく、3列,4列もしくはそれ以上で噴射するようにしてもよい。
【0045】また素子電極2,3の距離も上記の140μmに限定されるものではない。より高精細な画像表示装置を製作するには電子源基板の電子放出素子も高密度に配列させる必要があり、例えば素子電極2,3の距離が50μmであるような場合もある。その場合も使用する噴射ヘッドは、上記のようなノズル径がφ14μmのものが選択され、また発熱体サイズ、駆動条件等もそれに準じて適宜選ばれる。」

1d.「【0061】次に本発明のさらに他の特徴について説明する。上述したように、本発明では、導電性薄膜の材料を含有する溶液を、インクジェットの原理でガラス基板やアルミナ等のセラミックス基板に液滴として噴射付与することにより、導電性薄膜による表面伝導型電子放出素子群を形成する。その際問題となるのが、素子電極2,3の間に液滴により形成されるドットの形状である。良好な丸いドットが形成されれば、最終的に形成される電子放出部も高精度に形成でき、良好な表面伝導型電子放出素子群を形成できるが、このドット形状が良好でない場合は、電子放出部も高精度なものが得られない。例えば形成されるドットが、良好な丸いドットとならず微小滴が飛散したような形状となった場合は、良好な電子放出部を得ることができない。」

1e.「【0066】なお、液滴及びドットを形成するための具体的な条件は以下のとおりである。使用した溶液は、酢酸パラジウム-トリエタノールアミン水溶液であり、以下のようにして製造したものである。すなわち100gの酢酸パラジウムを2000ccのイソプロピルアルコールに懸濁させ、さらに407gのトリエタノールアミンを加え35℃で12時間攪拌した。反応終了後、イソプロピルアルコールを蒸発により除去し、固形物にエチルアルコールを加えて溶解、濾過し、濾液から酢酸パラジウム-トリエタノールアミンを再結晶させて得た。このようにして得た酢酸パラジウム-トリエタノールアミン2gを98gの純水に溶解し、溶液とした(2.0wt%)。
【0067】なお、使用した噴射ヘッドは、エッジシュータ型のサーマルインクジェット方式と同等の構造(ただしインクではなく、上記溶液を使用)とし、ノズル径はφ18μm、発熱体サイズは18μm×60μm(抵抗値110Ω)のものを使用した。そして、駆動電圧を18?22V、パルス幅を4.5?6μsの範囲で適宜選び、噴射する液滴の噴射速度を0.2?13m/sの範囲で変化させ、それぞれの場合の液滴の着弾位置精度、ドット形状、微小液滴飛散状況を調べた。この結果を下記の表1に示す。
【0068】 表1において、着弾位置精度の○は狙いの位置に対して1/2ドット径以内の場合を示し、×はそれ以上の場合を示す。なお表1の結果においては、1?5ドット径まで変化していた(実験No.1?3)。ドット形状の○は良好な丸いドット形状が得られたものである。全般的におおむね良好な丸い形状が得られたが、官能検査でやや丸形状がいびつに感じられたものを△とした。微小液滴飛散状況は、微小液滴飛散が生じなかったものを○、微小液滴飛散が生じたもの(メインのドットの周辺に小さい飛び散りが発生したもの)を×とした。」

3-1-2.刊行物2
原査定の拒絶の理由に引用された本願の出願前に頒布された刊行物である特開2000-141631号公報(以下、「刊行物2」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。
2a.「【0009】上述のように、インクジェット記録法は、その原理によって様々な方式があるが、共通していえることは所謂インクと称される記録液体の小滴(droplet)を飛翔させて記録部材に付着させて記録を行う点である。そして、このインクと称される記録液体であるが、水溶性の染料を溶解した記録液体を使用するのが一般的である。ところが、近年、耐水性や耐光性が重視されるようになり、記録液体の着色剤として堅牢性の強い顔料がインクジェット記録用として使用されることが期待されている。
・・・
【0011】しかしながら、この顔料を分散させた記録液体は、あたかも砂利を含んだ川水が山を浸食するかのように、長時間使用しているとインクジェット記録ヘッドのインクの通り道を削り取り、傷を付けるという作用がある。これも単なるインク通路であれば多少の損傷,摩耗は問題ないが、吐出口部分の損傷,摩耗はインク滴吐出性能に影響を及ぼすため問題となる。
【0012】特に、近年、インクジェット記録の高画質化,高精度化がすすみ、使用されるヘッドの吐出口(ノズル)も、従来はΦ33μm?Φ34μm(面積でいうと900μm2程度)から、Φ50μm?Φ51μm(面積でいうと2000μm2程度)のものが一般的であったが、より微細な吐出口(例えば、Φ25μm以下、面積でいうと500μm2未満)が要求されてきている。その際、従来のように、比較的その吐出口が大きなものは、多少の損傷,摩耗であっても、インク滴吐出性能(噴射の安定性,インクの質量均一性等)にほとんど影響を及ぼさないため、問題とならないが、より微細な吐出口(例えば、Φ25μm以下)となった場合には、わずかの損傷,摩耗であっても、インク滴吐出性能(噴射の安定性,インク質量均一性等)に大きく影響を及ぼし、深刻な問題である。」

2b.「【0069】ところで、このような吐出口部の損傷,摩耗は、吐出口部を構成する材料の硬さを適切に選ぶことにより、回避可能と考えられる。」

2c.段落【0073】の【表1】の記載から、インクジェットのヘッドのノズルの材質として、硬度が高いニッケルやステンレスを選択し得ることが読み取れる。

3-2.対比・判断
刊行物1の前記「1a.」?「1e.」の記載から、次のことが読みとれる。
・「1a.」及び「1b.」の記載から、
・・基板1に形成された素子電極2,3に導電性薄膜4を形成し、導電性薄膜4に電子放出部5を形成することにより表面伝導型電子放出素子群を形成する電子源基板の製造装置が、導電性薄膜4を形成するための導電性薄膜の材料を含有する溶液を噴射付与する噴射ヘッド11を備えていること。
・・導電性薄膜を構成する材料として、Pd,Pt,Ru,Ag,Au,Ti,In,Cu,Cr,Fe,Zn,Sn,Ta,W,Pb等の金属が選択され得ること。
・・導電性薄膜4としては、微粒子で構成された微粒子膜が好ましく、その微細構造として微粒子が個々に分散配置した状態のものが含まれること。
・「1c.」の記載から、噴射ヘッドのノズル径は、電子源基板の電子放出素子の配列密度や素子電極2,3の距離に依存して選択されるものであり、ノズル径として、φ25μmや、高密度の配列にはφ14μmの値を取り得ること。
・「1d.」の記載から、溶液を液滴として噴射付与した場合に形成されるドットが、微小滴が飛散したような形状とならないようにすべきこと。
・「1e.」の記載から、ノズル径φ18μmのものも、良好な丸いドット形状が得られること。
したがって、刊行物1には、次の発明(以下、「刊行物1記載の発明」という。)が記載されているものと認められる。
「基板1に形成された素子電極2,3に、導電性薄膜の材料を含有する溶液を噴射ヘッド11により噴射付与して導電性薄膜4を形成し、導電性薄膜4に電子放出部5を形成することにより表面伝導型電子放出素子群を形成する電子源基板の製造装置において、導電性薄膜4を形成するための材料として、Pd,Pt,Ru,Ag,Au,Ti,In,Cu,Cr,Fe,Zn,Sn,Ta,W,Pb等の金属が選択され、導電性薄膜4は、微粒子が個々に分散配置された微粒子膜であり、噴射ヘッド11のノズル径は、電子放出素子の配列密度や素子電極2,3の距離に依存して選択され、例えば、φ25μm、φ18μm、φ14μmの値を取り、溶液を液滴として噴射付与した場合に形成されるドットが、微小滴が飛散したような形状とならないようになされていることを特徴とする電子源基板の製造装置。」

そこで、本願補正発明(前者)と上記刊行物1記載の発明(後者)とを対比する。
・後者の、「基板1」「素子電極2,3」、「導電性薄膜の材料を含有する溶液」、「噴射ヘッド11により噴射付与」、「表面伝導型電子放出素子群」、「電子源基板の製造装置」は、それぞれ、前者の、「基板」、「1対の素子電極」、「導電性薄膜を形成するための材料を含有する溶液」、「液滴噴射ヘッドにより噴射付与」、「表面伝導型電子放出素子群」、「電子源基板製造装置」に相当する。
・後者の「導電性薄膜4を形成するための材料として、Pd,Pt,Ru,Ag,Au,Ti,In,Cu,Cr,Fe,Zn,Sn,Ta,W,Pb等の金属が選択され、導電性薄膜4は、微粒子が個々に分散配置された微粒子膜」の点の構成から、「導電性薄膜の材料を含有する溶液」が、「液体に金属微粒子を分散させた溶液」であることは明らかである。
・後者の「溶液を液滴として噴射付与した場合に形成されるドットが、微小滴が飛散したような形状とならないようになされている」点は、前者の「液滴を噴射付与した場合に、微小滴が前記電子放出素子の周囲に飛散しない」点に相当する。
・後者の「噴射ヘッド11のノズル径は、電子放出素子の配列密度や素子電極2,3の距離に依存して選択され、例えば、φ25μm、φ18μm、φ14μmの値を取」る点は、前者の「吐出口径Φ25μm以下のノズルの大きさ」に相当する。

したがって、両者は、
「基板上の1対の素子電極間に導電性薄膜を形成するための材料を含有する溶液の液滴を液滴噴射ヘッドにより噴射付与し、導電性薄膜による表面伝導型電子放出素子群を形成する電子源基板製造装置ならびにそれに使用する溶液材料の組み合わせにおいて、前記導電性薄膜を形成するための材料を含有する溶液は、液体に金属微粒子を分散させた溶液であり、前記液滴を噴射付与した場合に、微小滴が前記電子放出素子の周囲に飛散しない、吐出口径Φ25μm以下のノズルの大きさを特徴とする電子源基板製造装置」
の点の構成で一致し、以下の点で相違する。
[相違点]
前者は、金属微粒子がバルク状態におけるビッカース硬度が26?45の金属材料であり、また、ノズルを構成する材料の硬さと、該硬さよりやわらかい(溶液に分散させる)金属微粒子材料の組み合わせとしたことを特徴としているのに対し、後者には、この点の記載がない点。

そこで、上記相違点について検討する。
刊行物2には、「インクジェット記録ヘッド吐出口(ノズル)部の損傷,摩耗は、吐出口部を構成する材料の硬さを適切に選ぶことにより、回避可能と考えられる」こと(「2b.」の記載参照。)、「比較的その吐出口が大きなものは、多少の損傷,摩耗であっても、インク滴吐出性能(噴射の安定性,インクの質量均一性等)にほとんど影響を及ぼさないため、問題とならないが、より微細な吐出口(例えば、Φ25μm以下)となった場合には、わずかの損傷,摩耗であっても、インク滴吐出性能(噴射の安定性,インク質量均一性等)に大きく影響を及ぼし、深刻な問題である」こと(「2a.」の記載参照。)、「顔料を分散させた記録液体は、あたかも砂利を含んだ川水が山を浸食するかのように、長時間使用しているとインクジェット記録ヘッドのインクの通り道を削り取り、傷を付けるという作用がある。これも単なるインク通路であれば多少の損傷,摩耗は問題ないが、吐出口部分の損傷,摩耗はインク滴吐出性能に影響を及ぼすため問題となる」こと(「2a.」の記載参照。)等が記載されており、これらの記載からみて、「ノズルを構成する材料の硬さを適切に選ぶことにより、Φ25μm以下の微細な吐出口径のノズルであっても、記録液体に分散された顔料によるノズルの浸食を防止できる」ことが示唆されているものと
認められる。
尤も、刊行物2には、ノズルを構成する材料として硬度が高いニッケルやステンレスを選択し得ることは示されている(例えば、刊行物2の「2c.」の記載参照。)ものの、ノズルの材質を(溶液に分散させる)金属微粒子材料より硬いものとする点については記載されていない。しかしながら、各種ノズルにおいて、ノズルから吐出される吐出材より硬質の材質でノズルを形成することにより、ノズルの小径先端部の摩耗を防止することは、例えば、特開2001-62359号公報の段落【0032】に、「上記塗装用ノズルチップは、その硬度がタングステンカーバイド以上の硬度であることが好ましい。上記骨材の中で最も硬度が高い成分であるタングステンカーバイド以上の硬度を有する塗料用ノズルチップを用いることにより、骨材による塗料ノズルチップの磨耗を防止することができる。」と記載されているところからみて、従来周知のことと認められ、また、ノズルの材質と吐出材の硬さを考慮して両者を組み合わせることも、例えば、特開平6-155302号公報の段落【0002】に、「従来、この種の砥材噴出用ノズルは、一般的に、各種の金属材料やアルミナセラミックスにより形成されている。例えば、比較的軟質の砥材に対するノズルは、主として、金属やアルミナセラミックスにより形成され、また、硬質な砥材に対するノズルは、主としてアルミナセラミックスにより形成されている。」と記載されていることからみて、従来周知のことと認められる。
また、金属微粒子をバルク状態におけるビッカース硬度が26?45の金属材料とする点についても、本願明細書の段落【0043】の【表1】に、バルク状態におけるビッカース硬度が26?45の金属材料として例示されている、Pd,Pt,Ag,Zn,Pbが、表面伝導型電子放出素子における導電性薄膜を形成するための材料として周知のものであることを勘案すれば、この点にも格別の特徴は認められない。
以上検討したところにより、刊行物1記載の発明に、刊行物2に記載された事項及び周知事項を適用して相違点に係る構成とすることは、当業者が格別の推考力を要することとは認められない。
そして、本願補正発明による効果も、刊行物1及び2の記載及び上記周知事項から、当業者が予測し得る範囲内のものにすぎない。
したがって、本願補正発明は、刊行物1及び2記載の発明並びに周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4.むすび
以上のとおりであるから、本件手続補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3.本願発明について
平成17年1月5日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1乃至4に係る発明は、平成16年10月27日付け手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1乃至4に記載された事項により特定されるとおりのものと認められる(前記「第2.」の「1.」の補正前の特許請求の範囲参照。その請求項1に係る発明を、以下、「本願発明」という。)。

第4.引用刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された引用刊行物及びその記載事項は、前記「第2.」の「3-1.」に記載したとおりのものである。

第5.対比・判断
本願発明は、前記「第2.」で検討した本願補正発明から、前記限定を省いたものである。
そうすると、本願発明の構成要件を全て含み、更に他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「第2.」の「3-2.」に記載したとおり、刊行物1及び2記載の発明並びに周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、刊行物1及び2記載の発明並びに周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6.むすび
以上のとおりであるから、本願発明(請求項1に係る発明)は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そして、本願の請求項1に係る発明が特許を受けることができないものであるから、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-05-16 
結審通知日 2007-05-22 
審決日 2007-06-04 
出願番号 特願2002-308070(P2002-308070)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01J)
P 1 8・ 575- Z (H01J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 村田 尚英  
特許庁審判長 上田 忠
特許庁審判官 小川 浩史
堀部 修平
発明の名称 電子源基板製造装置,そのための溶液,電子源基板および画像表示装置  
代理人 高野 明近  

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