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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B23K
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B23K
管理番号 1161366
審判番号 不服2005-12312  
総通号数 93 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-09-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-06-30 
確定日 2007-07-19 
事件の表示 特願2002- 21284「プラズマ切断機のメインアーク着火装置」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 8月12日出願公開、特開2003-225768〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、平成14年1月30日の特許出願であって、同16年7月27日付で拒絶の理由が通知され、同16年10月1日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同17年5月23日付で拒絶をすべき旨の査定がされ、これに対し、同17年6月30日に本件審判の請求がされ、同17年7月27日に手続補正(以下「本件補正」という。)がされたものである。

第2 本件補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
本件補正を却下する。
[理由]
1 補正の内容
本件補正は特許請求の範囲を含む明細書について補正をするものであって、補正前後の請求項1の記載は以下のとおりである。
(1)補正前の請求項1
「プラズマ切断機のメインアーク着火装置において、
プラズマトーチ(1)に供給されるガス流量又はガス圧を切り替えるガス切り替え手段(3)を設けたガス供給手段(2)と
前記プラズマト-チ(1)の電極(1a)とノズル(1b)間にパイロットアーク(16)を形成する際に、プラズマ電源(8)からノズル(1b)にパイロット電流(Ip)を供給するパイロット電流回路(21)と、
前記プラズマト-チ(1)の電極(1a)とワーク(11)間にメインアーク(13)を形成する際に、プラズマ電源(8)からメインアーク(13)にメイン電流(Im)を供給するメイン電流回路(22)と、
前記パイロット電流回路(21)に設けられ、前記電極(Ia)とノズル(Ib)間にパイロット電流(Ip)が流れたことを検出するパイロット電流検出器(5)と、
前記パイロット電流回路(21)に設けられ、前記パイロット電流(Ip)を遮断する半導体スイッチ(10)と、
前記メイン電流回路(22)に設けられ、前記電極(Ia)とワーク(11)間にメイン電流(Im)が流れたことを検出するメイン電流検出器(6)と、
前記ガス供給手段(2)および前記半導体スイッチ(10)を制御する制御手段とを備え、
前記制御手段は、アーク起動までは前記プラズマトーチ(1)に小流量及び/又は低ガス圧でプラズマガスを供給し、前記パイロット電流検出器(5)により前記電極(Ia)とノズル(Ib)間にパイロット電流(Ip)が流れたことが検出されると、大流量及び/又は高ガス圧でプラズマガスを供給するように前記ガス供給手段(2)を制御し、かつ前記メイン電流検出器(6)により前記電極(Ia)とワーク(11)間にメイン電流(Im)が流れたことが検出されると、前記パイロット電流(Ip)を遮断するように前記半導体スイッチ(10)を制御する
ことを特徴とするプラズマ切断機のメインアーク着火装置。」
(2)補正後の請求項1
「プラズマ切断機のメインアーク着火装置において、
プラズマトーチ(1)に供給されるガス流量又はガス圧を切り替えるガス切り替え手段(3)を設けたガス供給手段(2)と、
前記プラズマトーチ(1)の電極(1a)とノズル(1b)間にパイロットアーク(16)を形成する際に、プラズマ電源(8)からノズル(1b)にパイロット電流(Ip)を供給するパイロット電流回路(21)と、
前記プラズマトーチ(1)の電極(1a)とワーク(11)間にメインアーク(13)を形成する際に、プラズマ電源(8)からワーク(11)にメイン電流(Im)を供給するメイン電流回路(22)と、
前記パイロット電流回路(21)に設けられ、前記電極(1a)とノズル(1b)間にパイロット電流(Ip)が流れたことを検出するパイロット電流検出器(5)と、
前記パイロット電流回路(21)に前記パイロット電流検出器(5)と直列に設けられ、前記パイロット電流(Ip)を遮断するためのスイッチング用のトランジスタ(10)と、
前記メイン電流回路(22)に設けられ、前記電極(1a)とワーク(11)間にメイン電流(Im)が流れたことを検出するメイン電流検出器(6)と、
前記ガス供給手段(2)および前記トランジスタ(10)を制御する制御手段とを備え、
前記制御手段は、アーク起動までは前記プラズマトーチ(1)に小流量及び/又は低ガス圧でスタート用のプラズマガスを供給し、前記パイロット電流検出器(5)により前記電極(1a)とノズル(1b)間にパイロット電流(Ip)が流れたことが検出されると、大流量及び/又は高ガス圧で切断用のプラズマガスを供給するように前記ガス供給手段(2)を制御し、かつ前記メイン電流検出器(6)により前記電極(1a)とワーク(11)間にメイン電流(Im)が流れたことが検出されると、前記トランジスタ(10)のベースに制御指令信号を送ってそのトランジスタ(10)をオフ作動させることにより前記パイロット電流(Ip)を瞬時に遮断するように前記トランジスタ(10)を制御する
ことを特徴とするプラズマ切断機のメインアーク着火装置。」
2 補正の適否
請求項1における補正は、半導体スイッチを「パイロット電流検出器と直列に設けられたスイッチング用のトランジスタ」と限定し、また、制御手段が「トランジスタのベースに制御指令信号を送ってそのトランジスタをオフ作動させることによりパイロット電流を瞬時に遮断するように前記トランジスタを制御するものである」旨の限定事項を付加するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて、以下検討する。
(1)補正発明
補正発明は、本件補正により補正がされた明細書及び図面の記載からみて、上記1の(2)の補正後の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものと認める。
(2)引用例記載事項
この出願前に頒布された刊行物である特開平3-110073号公報(以下「引用例1」という。)及び特許第2850230号公報(以下「引用例2」という。)には、以下のとおり記載されている。
ア 引用例1
(ア)1頁右下欄1-7行
「鋼板等の導電性を有する被加工材を溶接或いは切断等のプラズマ加工を行うためのプラズマトーチでは、電極とノズルとの間に種火に相当するパイロットアークを発生させ、このパイロットアークをノズル孔から外部に噴出させた後、メインアークに移行させて上記プラズマ加工を行わせる方法を採用しているものが多い。」
(イ)2頁左下欄1行-4頁左上欄6行
「上記手段によれば、パイロットアークのスタート時に、電極とチップとの間に供給する動作ガスの圧力或いは流量を、メインアークにより加工する際の圧力或いは流量よりも低い値に設定することによって、動作ガスの流速を小さくしアークが電極とノズルとの間に飛び易い状態とする。そしてパイロットアークをスタートさせた後、パイロットアーク電流或いはパイロットアーク電圧を検出して該アークが確実に発生していることを確認し、その後、動作ガスの圧力或いは流量をメインアークにより加工する際の圧力或いは流量まで増大させることで、パイロットアークから円滑にメインアークに移行させることが出来る。
<実施例>
以下上記手段を適用したパイロットアークのスタート方法の一実施例について説明する。
第1図は本発明を実施する際に好適に用いることが出来るプラズマ加工装置の説明図である。
図に於いて、1は電極であり、2は電極1の周囲に電気的に絶縁されて配設されたチップである。電極1とチップ2とで構成する空間は動作ガスの流路3として構成されている。前記チップ2の先端であって電極1と対向した位置に1mm以下の径を有するノズル孔4が形成されている。5は鋼板,ステンレス板等の被加工材である。6はプラズマ電源であり、電極1と陰極とを接続すると共に、チップ2及び被加工材5と陽極とを接続している。またプラズマ電源6とチップ2との間にはスイッチ7が設けられている。8は電極1とチップ2との間の電圧、即ちパイロットアーク電圧を計測するための電圧計であり、この電圧を計測することによってパイロットアークが形成されているか否かを検出するものである。
9は酸素ガス,窒素ガス,アルゴンガス等の動作ガスのボンベである。10は圧力調整弁であって、ボンベ9のガス圧力をメインアークにより加工する際の圧力に減圧して流路3に供給するものである。11は前記圧力調整弁10によって減圧された動作ガスを更に減圧するための圧力調整弁であって、パイロットアークを発生させる際に流路3に動作ガスを供給するものである。12,13は夫々電磁弁であって、圧力調整弁10,11によって減圧された動作ガスを選択的に流路3に供給し得るように構成されている。14は電圧計8及び電磁弁12,13と接続されると共に、図示しない操作スイッチと接続され、該スイッチのON,OFF操作により電源6,スイッチ7,電磁弁12,13等を制御する制御装置である。
尚、点線で示す15はチップ2に流れる電流、即ちパイロットアーク電流を計測するための電流計であり、この電流を計測することによってパイロットアークが形成されているか否かを検出するものである。このように、パイロットアークを検出するためには、前記したパイロットアーク電圧を計測する方法と、パイロットアーク電流を計測する方法とがあり、両者を選択的に用いることが可能である。
上記の如く構成したプラズマ加工装置に於けるタイミングチャートを第2図に示す。
図に於いて、図示しない操作スイッチをON操作すると、制御装置14からの信号によって電磁弁13がONして、流路3にメインアークにより加工する際の圧力或いは流量よりも小さい圧力或いは流量に調整された動作ガスが供給される。このため、流路3からノズル孔4に流れる動作ガスの流速は、メインアーク形成時の流速に比較して小さい値となり、アークが飛び易い状態、即ち、パイロットアークが形成し易い状態となる。
操作スイッチのON操作と同時に、動作ガスが流路3に至る時間を見越して設定された図示しないタイマーが作動する。前記タイマーがタイムアップすると、制御装置14からの信号によってスイッチ7が閉鎖される。そして電極1とチップ2との間に高周波電力が印加され、第3図(A)に示すようなパイロットアークが形成される。前記パイロットアークば、電極1とチップ2とを結んで形成されるが、ノズル孔4からチップ2の外部に噴出してはいない。
電極1とチップ2との間の電圧は、パイロットアークが形成されていない場合には高い値となるが、パイロットアークが形成されると電圧が減少し、同時に電流が大きくなる。前記電圧の変化は電圧計8によって計測され、計測信号が制御装置14に伝達される。
制御装置14では、伝達された計測信号によってパイロットアークの発生を検出した後、電磁弁12に信号を伝送して該電磁弁12をONとすることで、メインアークにより加工するために必要な圧力或いは流量を有する動作ガスを流路3に供給する。このとき、電磁弁13はOFFしても良く、またON状態を保持しても良い。
前記の如く、動作ガスの圧力或いは流量をメインアークにより加工し得る値に増加させることによって、第3図(B)に示すように、ノズル孔4から外部に噴出したパイロットアークを安定して得ることが可能となる。
前記動作ガスの圧力或いは流量の増加に伴って、第3図(C)に示すようにパイロットアークの噴出長さが大きくなり、該アークが被加工材5に到達する。このとき、メインアークとして電流が所定のレベルまで流れたことを検出した後、スイッチ7を遮断してチップ2を電気的に中立状態とすると、メインアークとして電極1と被加工材5との間に閉回路が形成されることによって、パイロットアークは円滑にメインアークに移行し、被加工材に対し所定のプラズマ加工を実施することが可能となる。
・・・
前述の実施例に於いて、パイロットアークを検出する際に、電圧計8によって電極1とチップ2との間の電圧を計測して、パイロットアークの発生を検出したが、電流計15によって電極1とチップ2とパイロットアークによって形成された閉回路に流れる電流を計測して、パイロットアークの発生を検出するようにしても良い。」
以上のとおりであるので、引用例1には、次の事項が記載されていると認める。
「プラズマ切断機のメインアーク着火装置において、
プラズマトーチに供給される動作ガスの流量又は圧力を切り替える圧力調整弁11及び電磁弁12,13を設けた動作ガスを供給する手段と、
前記プラズマトーチの電極1とチップ2間にパイロットアークを形成する際に、プラズマ電源6からチップ2に電流を供給する回路と、
前記プラズマトーチの電極1と被加工材5間にメインアークを形成する際に、プラズマ電源6から被加工材5に電流を供給する回路と、
前記プラズマ電源6からチップ2に電流を供給する回路に設けられ、前記電極1とチップ2間に電流が流れたことを検出する電流計15と、
前記プラズマ電源6からチップ2に電流を供給する回路に前記電流計15と直列に設けられ、前記電極1とチップ2間に流れる電流を遮断するためのスイッチ7と、
前記電極1と被加工材5間に所定のレベルの電流が流れたことを検出する手段と、
前記動作ガスを供給する手段および前記スイッチ7を制御する制御装置14とを備え、
前記制御装置14は、パイロットアークの形成までは前記プラズマトーチにメインアークにより加工する際の流量又は圧力よりも低い値の動作ガスを供給し、前記電流計15により前記電極1とチップ2間に電流が流れたことが検出されると、メインアークにより加工する際の流量又は圧力で動作ガスを供給するように前記動作ガスを供給する手段を制御し、かつ前記電極1と被加工材5間に所定のレベルの電流が流れたことを検出する手段により前記電極1と被加工材5間に電流が流れたことが検出されると、前記電極1とチップ2間の電流を遮断するように前記スイッチ7を制御する
プラズマ切断機のメインアーク着火装置。」(以下「引用例1記載の発明」という。)。
イ 引用例2
(ウ)11欄46行-12欄46行
「【実施例】以下、図を用いて説明するが、これらの図は本発明の実施例を説明するためのもので、これと同一の物に限定する目的ではない。図1は、出力端子12、14及び電流調整入力16をもつ直流電源10をプラズマ・システムすなわちトーチ20に接続するための従来技術の回路Aを示している、電源10は標準的な方法でパルス幅モジュレーター(PWM)によってモニターされる電流調整入力16上の電圧によって定まるレベルにある直流電流を供給する。入力16上の電圧は標準の方法でこの電流を制御する。電源10はインバータあるいはSCR制御3相電流器のようなパルスあるいは定常状態の装置である。本発明を理解するため、端子12、14から定常状態の直流電流が供給されるとするが、回路Aと本発明の実施例ではパルス直流電源でも同様にうまく作動するものである。プラズマ・トーチ20はトーチ20に並置されたワークピース30に電極22をさらすことによりプラズマ・アークを開始するための電極22とノズル24を有する。標準の方法によれば、パイロット・アークPは初め電極22とノズル24の間に生じる。通常、ワークピース電流によって制御される予め選ばれた操作の後、パイロット・アークPは操作マークすなわち転移アークIに転移する。パイロット・アークPを起こすため、抵抗42とIGBTのようなソリッド・ステート・スイッチ44を有する第1回路ブランチ40を電流Ipが流れる。抵抗42はワークピース30とノズル24の間に電圧を発生させるため、プラズマ回路でしばしば用いられる。抵抗42の値とパイロット・アーク電流Ipの値がワークピース・ノズル間の電圧を決める。抵抗42にかかる電圧はトーチ20に対する孤立距離すなわち転移距離を生じるために重要である。抵抗の使用は全く説明上のもので、というのは本発明はさまざまな回路で制御し得る実際の電圧に対して断定的ではないためである。本発明を論じるために、抵抗42の値を5.0Ωとしよう。すると、パイロット・アーク電流Ipが25Aのとき、抵抗42にかかる電圧は125Vとなる。
【0022】従来技術において、第2回路ブランチ50はパイロット・アークPが電極・ワークピース間のギャップを電離するとき、ワークピース30から電極22へ電流を流すために使われる。ワークピース電流Iwを測定するため、電流センサー52を用いている。センサー52の出力はライン54上の電圧で、ワークピース電流Iwの大きさを表す。ライン54上の電圧はコンパレータ56の入力の1つに導かれる。コンパレータ56は論理トグル出力58を有し、この出力はライン54上の電圧がライン62上の出力電圧をもつ閾回路60によってセットされる予め選んだ電流に相当する電圧に達すると、論理1を出力する。ライン54上の電圧がライン62上の電圧よりも大きくなると、論理1がトグル出力58に現れ、第1回路ブランチ40のスイッチ44を開く。」
(エ)15欄1-3行
「次に、コンパレータ56がスイッチ44を開けてパイロット電流を止め、ライン312に沿って0mAまで減少させる。」
以上のとおりであるので、引用例2には、次の事項が記載されていると認める。
「プラズマ・システムにおいて、第1回路ブランチ40に、パイロット電流Ipを遮断するためのソリッド・ステート・スイッチ44を設けること。」(以下「引用例2記載の技術的事項」という。)。
(3)対比
補正発明と引用例1記載の発明とを対比すると、引用例1記載の発明の「動作ガスの流量又は圧力」は、補正発明の「ガス流量又はガス圧」に相当しており、以下同様に、「圧力調整弁及び電磁弁12,13」は「ガス切り替え手段」に、「動作ガスを供給する手段」は「ガス供給手段」に、「チップ」は「ノズル」に、「プラズマ電源からチップに電流を供給する回路」は「プラズマ電源からノズルにパイロット電流を供給するパイロット電流回路」に、「被加工材」は「ワーク」に、「プラズマ電源から被加工材に電流を供給する回路」は「プラズマ電源からワークにメイン電流を供給するメイン電流回路」に、「電極とチップ間に電流が流れたことを検出する電流計」は「電極とノズル間にパイロット電流が流れたことを検出するパイロット電流検出器」に、「電極と被加工材間に所定のレベルの電流が流れたことを検出する手段」は「電極とワーク間にメイン電流が流れたことを検出するメイン電流検出器」に、「制御装置」は「制御手段」に、「パイロットアークの形成まで」は「アーク起動まで」に、「メインアークにより加工する際の流量又は圧力よりも低い値の動作ガスを供給」は「小流量又は低ガス圧でスタート用のプラズマガスを供給」に、「メインアークにより加工する際の流量又は圧力で動作ガスを供給」は「大流量又は高ガス圧で切断用のプラズマガスを供給」にそれぞれ相当していることが明らかである。
また、引用例1記載の発明の「スイッチ」と補正発明の「スイッチング用のトランジスタ」とは、スイッチであることに限り一致している。
さらに、「電極とチップ間の電流」を「パイロット電流」で置き換えた引用例1記載の発明の「パイロット電流を遮断するようにスイッチを制御する」と補正発明の「トランジスタのベースに制御指令信号を送ってそのトランジスタをオフ作動させることによりパイロット電流を瞬時に遮断するようにトランジスタを制御する」とは、パイロット電流を遮断するようにスイッチを制御することに限り一致している。
以上のとおりであるので、両者は、次の「プラズマ切断機のメインアーク着火装置」で一致している。
「プラズマ切断機のメインアーク着火装置において、
プラズマトーチに供給されるガス流量又はガス圧を切り替えるガス切り替え手段を設けたガス供給手段と、
前記プラズマトーチの電極とノズル間にパイロットアークを形成する際に、プラズマ電源からノズルにパイロット電流を供給するパイロット電流回路と、
前記プラズマトーチの電極とワーク間にメインアークを形成する際に、プラズマ電源からワークにメイン電流を供給するメイン電流回路と、
前記パイロット電流回路に設けられ、前記電極とノズル間にパイロット電流が流れたことを検出するパイロット電流検出器と、
前記パイロット電流回路に前記パイロット電流検出器と直列に設けられ、前記パイロット電流を遮断するためのスイッチと、
前記電極とワーク間にメイン電流が流れたことを検出するメイン電流検出器と、
前記ガス供給手段および前記スイッチを制御する制御手段とを備え、
前記制御手段は、アーク起動までは前記プラズマトーチに小流量又は低ガス圧でスタート用のプラズマガスを供給し、前記パイロット電流検出器により前記電極とノズル間にパイロット電流が流れたことが検出されると、大流量又は高ガス圧で切断用のプラズマガスを供給するように前記ガス供給手段を制御し、かつ前記メイン電流検出器により前記電極とワーク間にメイン電流が流れたことが検出されると、前記パイロット電流を遮断するように前記スイッチを制御する
プラズマ切断機のメインアーク着火装置。」
そして、両者は、次の点で相違している。
ア 相違点1
補正発明では、スイッチがスイッチング用のトランジスタであり、制御手段がトランジスタのベースに制御指令信号を送ってそのトランジスタをオフ作動させることによりパイロット電流を瞬時に遮断するようにトランジスタを制御するのに対し、引用例1記載の発明では、そのようなものではない点。
イ 相違点2
補正発明では、メイン電流検出器がメイン電流回路に設けられられているのに対し、引用例1記載の発明では、何処に設けられられているのか明らかではない点。
(4)相違点の検討
そこで、上記各相違点について、以下検討する。
ア 相違点1について
上記引用例2には、上記(2)のイのとおりの技術的事項が記載されており、引用例2記載の技術的事項の「プラズマ・システム」及び「第1回路ブランチ」は、補正発明の「メインアーク着火装置」及び「パイロット電流回路」にそれぞれ相当しているので、引用例2には、メインアーク着火装置において、パイロット電流回路に、パイロット電流を遮断するためのソリッド・ステート・スイッチを設けることが記載されていることになる。
また、ソリッド・ステート・スイッチの一例としてトランジスタがあり、トランジスタは、トランジスタのベースに制御指令信号を送ってそのトランジスタをオフ作動させることにより電流を瞬時に遮断するものであることは、例示するまでもなく、従来周知である。
したがって、引用例1記載の発明に引用例2記載の技術的事項のソリッド・ステート・スイッチを採用し、その採用に際し、ソリッド・ステート・スイッチとして従来周知のトランジスタを採用することにより、相違点1における補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到することができたことである。
イ 相違点2について
メイン電流検出器は、メイン電流回路に流れる電流を検出するものであるので、メイン電流回路に設けることに格別の困難性はない。
ウ 補正発明の作用効果について
補正発明が奏する作用効果は、引用例1記載の発明、引用例2記載の技術的事項及び上記従来周知の事項から当業者が予測できる程度のものであって格別のものではない。
したがって、補正発明は、引用例1記載の発明、引用例2記載の技術的事項及び上記従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
3 むすび
以上のとおりであるので、本件補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、この出願の請求項1乃至4に係る発明は、平成16年10月1日付の手続補正書によって補正された明細書及び願書に添付された図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1乃至4に記載された事項により特定されるとおりのものと認めるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記第2の1の(1)の補正前の請求項1に示したとおりである。
2 引用例記載事項
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された引用例は、上記引用例1及び引用例2であり、その記載事項は、上記第2の2の(2)のア及びイに示したとおりである。
3 対比・判断
本願発明は、上記第2の2で述べたとおり、補正発明の発明特定事項から、上記限定事項が省かれたものである。
そうすると、上記第2の2の(4)で検討したとおり、補正発明は、引用例1記載の発明、引用例2記載の技術的事項及び上記従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、そして、引用例2記載の技術的事項の「ソリッド・ステート・スイッチ」が本願発明の「半導体スイッチ」に相当することが明らかであることから、補正発明の発明特定事項から上記限定事項が省かれた本願発明についても、同様の理由により、引用例1記載の発明及び引用例2記載の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
4 むすび
以上のとおりであるので、本願発明は、引用例1記載の発明及び引用例2記載の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、この出願の請求項2乃至4に係る発明について判断するまでもなく、この出願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-05-16 
結審通知日 2007-05-22 
審決日 2007-06-04 
出願番号 特願2002-21284(P2002-21284)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B23K)
P 1 8・ 575- Z (B23K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 福島 和幸  
特許庁審判長 野村 亨
特許庁審判官 槻木澤 昌司
豊原 邦雄
発明の名称 プラズマ切断機のメインアーク着火装置  
代理人 井上 勉  

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