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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B65D
管理番号 1161526
審判番号 不服2003-11900  
総通号数 93 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-09-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-06-26 
確定日 2007-07-26 
事件の表示 平成7年特許願第10793号「積層フィルム」拒絶査定不服審判事件〔平成7年10月3日出願公開、特開平 7-251871号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成7年1月26日(優先権主張平成6年1月26日)の出願であって、平成15年5月21日付けで拒絶査定がされ、平成15年6月26日に拒絶査定に対する審判請求がなされ、平成15年7月25日付け手続補正書により明細書について手続補正がなされたものである。

2.平成15年7月25日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成15年7月25日付けの手続補正を却下する。
[理由]
(1)補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「エチレンービニルアルコール共重合体を主成分とする層に、粒径が5μm以下、アスペクト比が50以上5000以下の無機層状化合物とポリビニルアルコールを含むことを特徴とする樹脂組成物からなる層を少なくとも1層積層してなる積層フィルム。」
と補正された。
上記補正は、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「樹脂」を、「ポリビニルアルコール」と具体的にする限定を付加するものであって、平成6年改正前特許法第17条の2第3項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の上記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成6年改正前特許法第17条の2第4項において読み替えて準用する同法第126条第3項の規定に適合するか)について以下に検討する。
(2)引用文献の記載事項
(2-1)原査定で引用文献5として引用され、本願の優先日前に頒布された特開平5-193070号公報(以下、「刊行物1」という。)には、以下の事項が記載されている。
(2-1-1)「その少なくとも一面に酸性プライマー層を有する高分子材料の基材層及び前記プライマー層の反対面に層状無機質を含むコーティング層を含む高分子フィルム。」(特許請求の範囲請求項1)
(2-1-2)「現在、改良された気体、特に酸素遮断性を示すフィルムが産業上必要とされている。我々は、改良された酸素遮断性を示すフィルムを発明した。」(段落【0002】)
(2-1-3)「本発明に係るフィルムの基材はあらゆるフィルム形成性高分子材料から形成される。好適な熱可塑性合成材料は、・・・(中略)・・・含む。・・・(中略)・・・好適な熱硬化性樹脂基材材料は、・・・(中略)・・・を含む。」(段落【0006】?【0008】)
(2-1-4)「「小板」とは、無機質に離層加工を施し、高いアスペクト比の無機質の水性コロイド分散液を形成し、それよりフィルムを形成することにより得られる層状無機質の小さな粒子を意味する。」(段落【0026】)
(2-1-5)「気体遮断性、特に酸素遮断性を示すコートフィルムが必要な場合、バーミキュライトは特に好適な層状無機質である。・・・」(段落【0029】)
(2-1-6)「本発明の好ましい実施態様は、・・・(中略)・・・バーミキュライト小板の平均粒度(これは小板の最大巾の平均値を意味する)は好ましくは1.0 ?3.0 μm 、より好ましくは・・・(中略)・・・である。とりわけ1.3?1.6μmである。・・・(中略)・・・。バーミキュライト小板の平均厚さは好ましくは25?50Å、より好ましくは25?40Å、とりわけ25?30Åである。」(段落【0030】)
(2-1-7)「本発明の好ましい実施態様において、コーティング層はさらに、連続、好ましくは均一コーティングを形成できることが当該分野において公知のあらゆるポリマーである少なくとも1種の材料を含む。この高分子材料は好ましくは有機樹脂であり、・・・(中略)・・・好適な高分子樹脂は以下のものを含む。(a)・・・(中略)・・・、及び(i) ポリビニルアルコール。」(段落【0032】?【0033】)
(2-2)原査定で引用文献4として引用され、本願の優先日前に頒布された特開平3-30944号公報(以下、「刊行物2」という。)には、以下の事項が記載されている。
(2-2-1)「(1)熱可塑性樹脂からなる基材フィルムの少なくとも片面に、膨潤性を有するコロイド性含水層状珪酸塩化合物(A)および、ポリビニルアルコールおよびまたはその共重合体より選ばれた1種以上の樹脂(B)とからなり、(A)/(B)の重量比が30/70?95/5であるごとく配合された組成物を主とする水性樹脂組成物からなる層が、少なくとも一種以上形成されたことを特徴とする被覆プラスチックフィルム。」(特許請求の範囲)
(2-2-2)「(産業上の利用分野)
本発明は、酸素、窒素、炭酸ガスや水蒸気などの気体の遮断性および透明性に優れた包装材料として好適な被覆プラスチックフィルムに関するものである。」(第1頁左下欄第16?19行)
(2-2-3)「一方従来より、気体透過性の小さな透明プラスチックフィルム素材も種々知られており、例えばポリビニルアルコールやポリエチレンビニルアルコール、及びポリ塩化ビニリデン系樹脂から成るフィルム等がある。しかし、これらのフィルムは何れも単独では強度、伸度、耐水性、耐熱性などの物性が、配向されたポリプロピレン、ポリエステル、ポリアミド等のフィルムに比し不十分であり、・・・(中略)・・・
よって、これらのフィルムは包装材料用フィルムとして到底単独で用い得る物ではなく、通常20?40μm程度のこれらのフィルムを前記ポリプロピレンフィルムやポリエステルフィルム等と共に積層することによって用いられているのが現状である。」(第2頁左上欄第6行?右上欄第5行)

(2-3)対比・判断
上記(2-1-1)ないし(2-1-7)の記載事項を総合すると、刊行物1には、以下の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されているものと認められる。

「その少なくとも一面に酸性プライマー層を有する高分子材料の基材層及び上記プライマー層の反対面にコーティング層を含む高分子フィルムであって、上記基材層は、フィルム形成性高分子材料から形成され、上記コーティング層は、層状無機質であるバーミキュライト小板を含み、上記バーミキュライト小板の最大巾の平均値、すなわち平均粒度が1.3?1.6μmであり、上記バーミキュライト小板の平均厚さが25?30Åであるバーミキュライト小板とポリビニルアルコールを含む高分子フィルム。」

そこで、本願補正発明と刊行物1発明とを比較すると、
a)後者の「層状無機質であるバーミキュライト小板」は、前者の「無機層状化合物」に相当する。
b)後者の「高分子材料の基材層」は、「層」としては、前者の「エチレンービニルアルコール共重合体を主成分とする層」に対応するといえ、両者は、「高分子を主成分とする層」という概念で共通する。
c)後者の「高分子フィルム」は、「その少なくとも一面に酸性プライマー層を有する高分子材料の基材層及び上記プライマー層の反対面にコーティング層を含む」ものであるから、前者の、「樹脂組成物からなる層を少なくとも1層積層してなる積層フィルム高分子フィルム」の規定を満足するといえる。
したがって、両者は、「高分子を主成分とする層に、無機層状化合物とポリビニルアルコールを含む樹脂組成物からなる層を少なくとも1層積層してなる積層フィルム。」である点で一致し、次の点で相違しているといえる。

相違点1:「無機層状化合物」に関して、本願補正発明では、「粒径が5μm以下、アスペクト比が50以上5000以下」であるのに対して、刊行物1発明は、「小板の最大巾の平均値が1.3 ?1.6μm、小板の平均厚さが25?50Å」である点。
相違点2:高分子を主成分とする層に関して、本願補正発明では、「エチレンービニルアルコール共重合体を主成分とする層」であるのに対して、刊行物1発明は、「酸性プライマー層を有するフィルム形成性高分子材料から形成される基材層」である点。

そこで、上記相違点について検討する。
先ず、相違点1について検討する。
本願補正発明の「粒径」は、上記平成15年7月25日付け手続補正書により補正された明細書(以下、「補正後明細書」という。)の、「フィルムとした際の製膜性ないし成形性の点からは、後述する方法により測定した「粒径」が5μm以下であることが好ましい。」(段落【0009】)、「[粒径測定]超微粒子粒度分析計・・・で測定した。動的光散乱法による光子相関法から求めた中心径を粒径Lとした。・・・(中略)・・・[実施例1]・・・(中略)・・・合成マイカ(NA-TS)の粒径は977nm、」(段落【0033】)の記載からみて、いわゆる平均粒径に近い意味を示すものといえる。
一方、刊行物1発明における平均粒度とは、小板の最大巾の平均値を意味する。
してみると、本願補正発明の「粒径」と、刊行物1発明の平均粒度の規定は、厳密には、やや異なるものといえるであろうが、刊行物1発明の小板の最大巾の平均値が、「最大巾」を基準にした平均ということからみて、刊行物1発明の「小板の最大巾の平均値」である「1.3?1.6μm」の数値は、本願補正発明の「粒径が5μm以下」の規定を満足するといえる。
また、本願補正発明におけるアスペクト比は、補正後明細書の段落【0011】に定義されるように、無機層状化合物の粒径を厚みで除した値である。
そして、刊行物1発明における「小板」のアスペクト比を、刊行物1発明の平均粒度を本願補正発明の「粒径」にみたてて算出すると、刊行物1発明における小板の最大巾の平均値「1.3 ?1.6μm」を、小板の平均厚さ「25?30Å」すなわち、「2.5?3.0nm」で除して、その最大範囲を求めると、433?640となる。
該数値「433?640」は、厳密には、補正後明細書でいうところのアスペクト比Zに関する計算結果とは異なるであろうが、厳密に計測し計算したとしても「50以上5000以下」という本願補正発明の規定の数値範囲には、入るものと考えることが相当といえる。
してみると、相違点1は、実質的な相違点ではない。
次に、相違点2について検討する。
ガスバリア性の改良の目的で、積層用フィルム形成性高分子材料としてエチレンービニルアルコール共重合体を主成分とする材料を用いることは、刊行物2の上記(2-2-2)、及び原査定で引用文献6として引用された特開昭63-236646号公報の特許請求の範囲請求項1に記載されているように周知の技術である。
エチレンービニルアルコール共重合体は、熱可塑性樹脂であるが、刊行物2には、上記(2-2-1)ないし(2-2-3)からみて、熱可塑性樹脂からなる基材層にプライマー層を施すことなく層状珪酸塩化合物とポリビニルアルコールとを含む樹脂組成物の層を積層し、酸素遮断性の積層フィルムを形成する技術が記載されているといえる。
また、積層フィルムにおいて、同じような機能を有する樹脂層を積層し、積層フィルム全体としての該機能をさらに強化すること、例えば、ガスバリア性を強化するために、2種以上のガスバリア性が優れた樹脂層を積層することは、周知の技術であるといえる。
してみると、刊行物1発明に上記刊行物2に記載の技術を適用して、刊行物1発明の基材層をプライマー層を介さずに無機層状化合物とポリビニルアルコールを含む層に積層する際に、刊行物1発明の基材層として、フィルム形成性高分子材料の中から上記周知のエチレンービニルアルコール共重合体を主成分とする層を採用して相違点2に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者であれば容易になし得ることといえる。

また、本願補正発明が奏する作用・効果は、刊行物1発明、上記刊行物2に記載の技術並びに上記周知の技術から当業者が予測し得る範囲のものであって、格別なものということはできない。

したがって、本願補正発明は、当業者が刊行物1、2に記載された発明及び上記周知の技術に基いて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により独立して特許を受けることができないものである。

3.本願発明について
平成15年7月25日付けの手続補正は上記のとおり却下されるので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、願書に最初に添付した明細書(以下、「本願明細書」という。)の特許請求の範囲請求項1に記載された以下のとおりのものである。

「エチレンービニルアルコール共重合体を主成分とする層に、粒径が5μm以下、アスペクト比が50以上5000以下の無機層状化合物とポリビニルアルコールを含むことを特徴とする樹脂組成物からなる層を少なくとも1層積層してなる積層フィルム。」

(1)引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用文献5及び引用文献4として引用された引用刊行物、並びにその記載事項は、上記「2.(2)」に記載したとおりである。

(2)対比・判断
本願発明は、本願補正発明において、「樹脂」に関し材料の種類を限定し、「ポリビニルアルコール」としたものを、該材料の種類の限定を外し単に「樹脂」としたものである。
そうすると、本願発明の構成要件を全て含み、さらに他の限定を付加したものに相当する本願補正発明が、上記「2.(3)」に記載したとおり、刊行物1、2に記載の発明及び上記周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、刊行物1、2に記載された発明及び上記周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものといえる。

(3)むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-03-30 
結審通知日 2007-04-03 
審決日 2007-06-11 
出願番号 特願平7-10793
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B65D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 芦原 ゆりか  
特許庁審判長 増山 剛
特許庁審判官 鈴木 由紀夫
川端 康之
発明の名称 積層フィルム  
代理人 榎本 雅之  
代理人 久保山 隆  
代理人 中山 亨  

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