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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1161535
審判番号 不服2004-276  
総通号数 93 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-09-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-01-05 
確定日 2007-07-26 
事件の表示 平成 5年特許願第212969号「遺伝子治療用リポソームベクター」拒絶査定不服審判事件〔平成 7年 3月14日出願公開、特開平 7- 69933〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.本願発明

本願は、平成5年8月27日の出願であって、その請求項1、2に係る発明は、平成15年6月30日付け手続補正書により補正された明細書の請求項1、2に記載されたとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明は、次のとおりものである。(以下、「本願発明」という。)

【請求項1】
リン脂質及びN-(α-トリメチルアンモニオアセチル)-ジドデシルグルタメート塩を主要膜構成成分とし、当該膜中にN-アシル化アシアロフェツインを含有し、α-インターフェロン遺伝子、β-インターフェロン遺伝子、γ-インターフェロン遺伝子、B型又はC型肝炎ウイルスのアンチセンスDNA又はRNA、α1-アンチトリプシン遺伝子、癌壊死因子遺伝子及び低比重リポプロテイン遺伝子から選ばれる肝疾患治療ペプチド発現遺伝子を内包してなる肝疾患治療用リポソームベクター。

2.刊行物の記載事項

これに対して、原査定の拒絶の理由に引用され本願出願日前に頒布されたことが明らかな刊行物(以下、「引用例」という。)には、以下のとおりの記載がある。

引用例A;特開平2-135092号公報
(A1)
「炭素原子数8-18個の飽和した直鎖又は分岐鎖を有し且つ少くとも1個のカチオン性親水基を有する脂質又はその薬理学的に許容される塩を構成成分とするリポソーム・・・を用いることを特徴とする、細胞への遺伝子導入法。」(特許請求の範囲(1))

(A2)
「上記のカチオン性脂質としては・・・N-(α-トリメチルアンモニオアセチル)-ジドデシル-D-グルタメートクロライド等を例示することができる。上記のカチオン性脂質の他に第二の脂質成分を用いることもでき、この第二成分としては燐脂質、例えばホスファチジルコリン・・・等を例示することができる。」(2頁左下欄4行?末行)

(A3)
リポソームに包埋乃至結合させる遺伝子として「ヒトβ型インターフェロン構造遺伝子」が記載されている。(実施例1、2、4)

(A4)
「特定の細胞へのターゲッティングを目的とする場合には、リポソーム表面に抗体を結合させることもできる」(3頁左上欄7行?9行)

(A5)
「本発明方法においては、カチオン性脂質が用いられているために、負に荷電している細胞、特に哺乳動物細胞の膜への付着及び該膜からの細胞内への取り込みが容易となる。更に、正に荷電しているためにDNAとの静電気的結合が良好となるので、リポソームへのDNAの包埋乃至結合量が大となり」(2頁右下欄1行?7行)

(A6)
「遺伝子を細胞内に導入する技術は、特に遺伝子疾患の治療をめざした研究において極めて重要なものである。哺乳動物細胞への有用な遺伝子の導入とその発現を行うために従来から種々の方法が研究されてきた。・・・等の方法がある。」(1頁左下欄末3行?2頁左上欄2行)

引用例B;特開平1-290634号公報
(B1)
「インターフェロンの抗ウィルス効果に着目し、難治性疾患となっているウィルス性肝炎の治療用製剤を、前述の製造法を用い、これに肝実質細胞に結合することが知られているアシアロフェツインを表面に修飾することを検討した。
その結果、・・・そのインターフェロン含有アシアロフェツイン修飾リポソームは、肝実質細胞と良く結合し、肝実質細胞中へインターフェロンを効率良く送達することを見出した。・・・アシアロフェツインをリポソーム表面に修飾するために疎水性側鎖の導入が必要であり、該側鎖の導入されたアシアロフェツインとしては適当な方法で合成されたN-パルミトイルアシアロフェツイン・・・等があり、これらの中から選ばれた1種または2種以上のアシアロフェツインのN-脂肪酸アマイドを用いる。」(3頁左上欄7行?右上欄10行)

(B2)
「難治性疾患であるウィルス性肝炎及び肝癌の治療用製剤を提供することが出来る。」(5頁左上欄15行?17行)

3.対比・判断

引用例Aには、細胞へ遺伝子を導入することのできるリポソーム、所謂リポソームベクターとして、カチオン性脂質であるN-(α-トリメチルアンモニオアセチル)-ジドデシル-D-グルタメート塩と燐脂質とを膜構成成分とするものが記載され(摘記事項(A1)(A2))、リポソームに包埋乃至結合させる遺伝子として「ヒトβ型インターフェロン構造遺伝子」が利用できること(摘記事項(A3))、更に特定の細胞へのターゲッティングが必要な場合にはリポソーム表面に抗体を結合させることができることが記載されている(摘記事項(A4))。
以上の記載事項によると、引用例Aには、「リン脂質及びN-(α-トリメチルアンモニオアセチル)-ジドデシルグルタメート塩を膜構成成分とし、表面に抗体が結合したヒトβ型インターフェロン構造遺伝子を包埋乃至結合してなるリポソームベクター」の発明が記載されていると認められる。
そこで、請求項1に係る発明(前者)とこの引用例Aに記載された発明(後者)を対比すると、両者は、「リン脂質及びN-(α-トリメチルアンモニオアセチル)-ジドデシルグルタメート塩を主要膜構成成分とし、β-インターフェロン遺伝子を内包してなるリポソームベクター」である点で一致し、前者が「β-インターフェロン遺伝子」、「リポソームベクター」をそれぞれ「肝疾患治療ペプチド発現遺伝子」、「肝疾患治療用リポソームベクター」と称し、リポソームベクターの用途を「肝疾患治療」用に限定しているのに対し、後者にはその旨明示が無い点(相違点1)、及び前者が膜中に「N-アシル化アシアロフェツイン」を含有させているのに対し、後者が膜表面に「抗体」を結合させている点(相違点2)で相違している。

(相違点1について)
引用例Bには、インターフェロンが難治性疾患となっているウィルス性肝炎や肝癌に有効であることが記載されているから(摘記事項(B1)、(B2))、肝疾患に対する治療を技術課題に持つ当業者ならば、引用例Aに記載の「β-インターフェロン遺伝子」が、「肝疾患治療ペプチド発現遺伝子」として有用であることはたやすく理解できるものと認められる。
また、引用例Aの実施例には、遺伝子を導入する細胞として「サル腎臓細胞」、「前骨髄球性白血病細胞」が記載されるが、これ以外の細胞へのリポソームの適用を否定する記載は引用例Aに存しないうえ、引用例Bにリポソームの送達対象細胞として肝実質細胞が具体的に記載されていることからすると(摘記事項(B1))、引用例Aに記載され「肝疾患治療ペプチド発現遺伝子」でもあるβ-インターフェロン遺伝子を内包するリポソームを肝疾患の治療に用いることは当業者が容易に想到することである。

(相違点2について)
引用例Bには、アシアロフェツインのN-脂肪酸アマイド(N-アシル化アシアロフェツイン)でリポソームを修飾すれば、肝実質細胞と良く結合し、内包物であるインターフェロンが効率良く送達できることが記載されている(摘記事項(B1))。
そして、「β-インターフェロン遺伝子」を肝疾患の治療に供する場合、インターフェロン遺伝子を内包するリポソームについても、肝実質細胞に対する良好な結合が求められることは当業者に自明であるから、「β-インターフェロン遺伝子」の肝実質細胞への送達向上を期待して、引用例Aに記載される「抗体」に代えて「N-アシル化アシアロフェツイン」でリポソームの修飾を行うことは、当業者が容易になし得ることである。

また、ペプチド発現遺伝子を多量に含有し、かつ肝移行性が高いという本願明細書の段落【0025】等に記載される効果も、引用例A、Bに記載される「カチオン性脂質」、「アシアロフェツイン」が有する特性(摘記事項(A5)、(B1))からみて当業者が予測し得る範囲のものである。

なお、請求人は、「肝臓は極めて多種の代謝酵素を含有し、活発な解毒作用を営んでいる臓器であるため、肝細胞近傍まで到達したリポソーム中の遺伝子が放出された後に、実際にタンパクを発現するか否かは当業者といえども容易には予測できないものであります」、「遺伝子を静脈注射のように血管内に投与し、標的である肝臓の実質細胞に送達せしめる方法(in vivo法)は、これまで何人も成しえなかったことであり、本発明をもってして初めて可能となったのである」とし、本願発明は引用例A、Bに記載の発明に基づき「当業者の容易に想到できない発明であることは明らか」と主張している。
しかしながら、遺伝子内包リポソームを利用して肝実質細胞に遺伝子を導入する手法は、本願出願日当時、当業界で各種知られているので(必要ならば、特開昭57-43688号公報の実施例1、Molecular Medicine, 1993, Vol.30, No.11, p.1440-1448におけるp.1444の表1、The Journal of Biological Chemistry, 1989, Vol.264, No.21, p.12126-12129の全文及びProc. Natl. Acad. Soc. USA, 1983, Vol.80, p.1068-1072の全文等を参照のこと)、かかる主張を採用することはできない。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例A、Bに記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-05-23 
結審通知日 2007-05-29 
審決日 2007-06-14 
出願番号 特願平5-212969
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 八原 由美子  
特許庁審判長 塚中 哲雄
特許庁審判官 福井 悟
弘實 謙二
発明の名称 遺伝子治療用リポソームベクター  
代理人 有賀 三幸  
代理人 有賀 三幸  
代理人 中嶋 俊夫  
代理人 的場 ひろみ  
代理人 的場 ひろみ  
代理人 高野 登志雄  
代理人 高野 登志雄  
代理人 中嶋 俊夫  

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