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審決分類 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 C23C
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C23C
管理番号 1161546
審判番号 不服2004-17999  
総通号数 93 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-09-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-09-01 
確定日 2007-07-26 
事件の表示 特願2000-141291「光磁気記録用合金ターゲット」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 1月16日出願公開、特開2001- 11616〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成9年3月7日に出願した特願平9-70612号の一部を平成12年5月15日に新たな特許出願としたものであって、平成16年6月16日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年9月1日に拒絶査定不服審判請求がされるとともに、同年9月30日付けで手続補正がなされたものである。

2.平成16年9月30日付の手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成16年9月30日付の手続補正を却下する。

[理由]
(1)本件補正の内容
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、補正前の請求項1に記載された
「【請求項1】光磁気記録用の記録材料をマグネトロンスパッタ法により形成するときに用いられるターゲットであって、R(Rは、Tb、Dy、Gd、Sm、Nd、Ho、TmおよびErの少なくとも1種から選択される希土類金属元素である)を20?30原子%含み、残部が実質的にT(Tは、遷移金属元素であり、Fe、CoおよびNiの少なくとも1種を必ず含む)であり、実質的に均質な焼結組織からなり、透磁率が3以下であり、厚さが10mm以上かつ直径ないし短径が120mm以上かつ焼結密度95%以上の板状体である光磁気記録用合金ターゲット。」
から、
「【請求項1】光磁気記録用の記録材料をマグネトロンスパッタ法により形成するときに用いられるターゲットであって、R(Rは、Tb、Dy、Gd、Sm、Nd、Ho、TmおよびErの少なくとも1種から選択される希土類金属元素である)を20?30原子%含み、残部が実質的にT(Tは、遷移金属元素であり、Fe、CoおよびNiの少なくとも1種を必ず含む)であり、実質的に均質な焼結組織からなり、透磁率が3以下であり、厚さが10mm以上かつ直径ないし短径が120mm以上かつ焼結密度95%以上の板状体である光磁気記録用合金ターゲットにおいて、前記Rと前記Tとから得られた急冷合金を非酸化性雰囲気中において機械粉砕して、その90重量%以上が粒径100?200μmとなる合金粉末を得、この合金粉末を不活性ガス雰囲気中または真空中で加圧焼成することにより焼結して製造したことを特徴とする光磁気記録用合金ターゲット。」に補正された。
(2)本件補正に対する判断
本件補正は、補正前の請求項1に「前記Rと前記Tとから得られた急冷合金を非酸化性雰囲気中において機械粉砕して、その90重量%以上が粒径100?200μmとなる合金粉末を得、この合金粉末を不活性ガス雰囲気中または真空中で加圧焼成することにより焼結して製造したことを特徴とする」ことを追加するものである。
この製造方法の合金粉末の粒径に関して、本願明細書の発明の詳細な説明には、「本発明では粉砕時に大径の粒子とするため、酸素の混入が少なくなるので、酸素含有量の少ないターゲットが実現する。」(段落【0017】)、及び「急冷合金を機械的に粉砕し、合金粉末とする。粉砕は、窒素ガスやArガス等の非酸化性雰囲気中で行う。粉砕は、粒径が好ましくは45?425μm、より好ましくは100?200μmの合金粉末が全体の90重量%以上、好ましくは95重量%以上を占めるように行う。粒径が小さすぎると粉砕時の酸化によりターゲット中の酸素含有量が多くなりすぎる。」(段落【0041】)と記載されている。してみると、補正により追加された構成は、「光磁気記録用合金ターゲット」の「酸素含有量」を製造方法により限定するものといえる。
しかしながら、補正前の請求項1には、「酸素含有量」に関する発明特定事項は含まれていない。そうすると、本件補正は、補正前の請求項1の発明特定事項を減縮するものでないから、特許請求の範囲の限定的減縮に該当せず、特許法第17条の2第4項第2号に該当しない。また、本件補正は、請求項の削除、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明にも該当せず、特許法第17条の2第4項第1号、第3号、及び第4号に該当しない。
(3)むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法17条の2第4項の規定に違反するものであり、同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明について
平成16年9月30日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成16年2月9日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】光磁気記録用の記録材料をマグネトロンスパッタ法により形成するときに用いられるターゲットであって、R(Rは、Tb、Dy、Gd、Sm、Nd、Ho、TmおよびErの少なくとも1種から選択される希土類金属元素である)を20?30原子%含み、残部が実質的にT(Tは、遷移金属元素であり、Fe、CoおよびNiの少なくとも1種を必ず含む)であり、実質的に均質な焼結組織からなり、透磁率が3以下であり、厚さが10mm以上かつ直径ないし短径が120mm以上かつ焼結密度95%以上の板状体である光磁気記録用合金ターゲット。」

4.引用刊行物の記載事項
(1)原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開平5-311420号公報(以下、「引用文献1」という。)には、次の事項が記載されている。
(a)「本発明は合金ターゲットの製造方法に関するものであり、詳しくは、光磁気記録用等の記録薄膜をマグネトロンスパッタリング等により製造する際に使用する、希土類-鉄族金属系合金ターゲット材の製造方法に関するものである。」(段落【0001】)
(b)「マグネトロンスパッタリングに用いられるターゲットとしては、磁気特性の面からは、透磁率が小さいほど利点が多いことが分かる。すなわち、用いられる磁石の特性が同じで有れば、ターゲットの厚さを大きくでき、表面磁束密度の変化による成膜条件の変化も小さく、更には、表面磁束密度の集中による局所的な消耗も小さいため、使用効率が良化することになる。」(段落【0008】)
(c)「実施例1 純Tbを10g、純Feを12g、純Coを1.4g用いアークメルターにより合金化し、石英ガラスを用いて高周波加熱溶解し、単ロール式超急冷装置によりロール回転数2000rpmで処理した。得られたリボン状(薄帯)合金は完全なアモルファスではなく、X線回折分析によりTb6Fe23相が確認された。これをカッターミルによりアルゴンガス雰囲気のグローブボックス内で粉砕し50μm以下の粉末を得、更に、ホットプレスにより1100℃で焼結し焼結体を得た。得られた焼結体は金属顕微鏡による組織観察により、極めて均一な組織であることが確認された。X線回折分析により、Tb6Fe23、TbFe3、Tb2Fe17相が存在することが確認された。焼結体の透磁率、密度をロール回転数と共に表-1に示した。」(段落【0022】)
(d)【表1】には、記載事項(c)に関し、実施例1の焼結体の透磁率が1.5、密度が8.3g/cm3であることが記載されている。

(2)原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開平8-302463号公報(以下、「引用文献2」という。)には、「光磁気記録媒体用ターゲット」に関して、次の事項が記載されている。
(a)「原子%で、Tb26%、Fe68%、Co6%の組成の希土類-遷移金属合金インゴットを真空高周波溶解炉で製造した。・・・アルゴンガスアトマイズにより粉末化した。ふるい分級により原料粉の粒径を調整した。・・・次に、この粉末を軟鋼カプセルに封入して熱間静水圧プレス(HIP)焼結を行い、ターゲット素材とした。HIP条件は温度1140℃、圧力100MPa、2時間保持である。・・・また、比較例として、HIP温度を高めた例を試料No.2、および溶解により製造した同組成のターゲットを試料No.3を製造した。・・・なお、密度はガスアトマイズ前に製造した鋳造インゴットの密度を100%としたときの相対密度である。」(段落【0020】?段落【0021】)
(b)【表2】には、記載事項(a)に関して、熱間静水圧プレス(HIP)焼結したターゲット(No.2)の密度が、99.5%であることが示されている。
(c)「焼結時の圧力の低いホットプレス(HP)では、この条件では密度を高めることができないものであった。また、・・・常圧焼結法はホットプレス法よりもさらに低密度のターゲットしか得られず、抗折強度も著しく小さい値になり、好ましい方法ではないことがわかる。」(段落【0034】)

5.対比
引用文献1の記載事項(c)によれば、純Tbを10g、純Feを12g、純Coを1.4g用い合金化して得られた粉末を焼結した極めて均一な組織である焼結体が記載されているといえ、この焼結体は、記載事項(a)によれば、光磁気記録用等の記録薄膜をマグネトロンスパッタリング等により製造する際に使用する、希土類-鉄族金属系合金ターゲット材であるといえ、また、記載事項(c)によれば、焼結体の透磁率が1.5、密度が8.3g/cm3であるといえる。
これら記載を本願発明の記載ぶりに則して整理すると、引用文献1には、「光磁気記録用等の記録薄膜をマグネトロンスパッタリングにより製造する際に使用する、希土類-鉄族金属系合金ターゲット材であって、Tbを10g、Feを12g、Coを1.4g用いて合金化した合金からなり、極めて均一な組織である焼結体であり、透磁率が1.5、密度が8.3g/cm3である希土類-鉄族金属系合金ターゲット材」の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているといえる。
そこで、本願発明と引用発明1とを対比すると、引用発明1の「光磁気記録用等の記録薄膜をマグネトロンスパッタリングにより製造する際に使用する、希土類-鉄族金属系合金ターゲット材」は、本願発明の「光磁気記録用の記録材料をマグネトロンスパッタ法により形成するときに用いられるターゲット」及び「板状体である光磁気記録用合金ターゲット」に相当する。また、引用発明1の「Tbを10g、Feを12g、Coを1.4g用いて合金化した合金」は、これら金属成分を原子%で示すと、Tbが20.8原子%、FeとCoとの合計が79.2原子%含むこととなるから、本願発明の「R(Rは、Tb、Dy、Gd、Sm、Nd、Ho、TmおよびErの少なくとも1種から選択される希土類金属元素である)を20?30原子%含み、残部が実質的にT(Tは、遷移金属元素であり、Fe、CoおよびNiの少なくとも1種を必ず含む)であ」ることに相当する。さらに、引用発明1の「極めて均一な組織である焼結体」は、焼結体の組織が均質であることから、本願発明の「実質的に均質な焼結組織」を有していることを示している。
そうすると、本願発明と引用発明1とは、「光磁気記録用の記録材料をマグネトロンスパッタ法により形成するときに用いられるターゲットであって、R(Rは、Tb、Dy、Gd、Sm、Nd、Ho、TmおよびErの少なくとも1種から選択される希土類金属元素である)を20?30原子%含み、残部が実質的にT(Tは、遷移金属元素であり、Fe、CoおよびNiの少なくとも1種を必ず含む)であり、実質的に均質な焼結組織からなり、板状体である光磁気記録用合金ターゲット」で一致し、以下の(1)?(2)の点で相違している。
(1)本願発明の光磁気記録用合金ターゲットは、「厚さが10mm以上かつ直径ないし短径が120mm以上」であるのに対して、引用発明1では、厚さや直径ないし短径の具体的な大きさについて示されていない点。
(2)本願発明の光磁気記録用合金ターゲットは、「焼結密度95%以上」であるのに対して、引用発明1のターゲットは、「密度が8.3g/cm3」としか示されていない。

6.当審の判断
上記相違点の(1)について検討する。
引用文献1の記載事項(b)によれば、本願発明1は、ターゲットの透磁率を小さくすることで、ターゲットの厚さを大きくすることを課題とするものである。そして、ターゲットの厚みが大きいほど、スパッタリングの処理時間が延びることも当然のことである。また、本願明細書の記載をみても、ターゲットの厚さを10mm以上とすることに、臨界的意義を有するとはいえない。そうしてみると、引用発明1において、ターゲットの厚さを大きくすることは、当業者が容易に想到し得るものであり、その値を10mm以上とすることに格別の困難性を有するものでもない。
さらに、ターゲットの直径ないし短径の大きさは、成膜される基材の大きさにより適宜選択するものであり、その大きさを120mm以上とすることにより、格別な作用効果が得られるとは、本願明細書の記載からも読み取れない。したがって、引用発明1のターゲットの直径ないし短径を120mm以上とすることは、当業者が適宜なし得る単なる設計的事項にすぎない。
次に、上記相違点の(2)について検討する。
引用文献2の記載事項(c)に「低密度のターゲットしか得られず、抗折強度も著しく小さい値になり」と記載されているように、ターゲットの焼結密度が高くなるほど機械的強度が大きくなることは、周知の技術事項であるといえる。また、本願明細書の記載をみても、焼結密度を95%以上とすることに、臨界的意義を有するとはいえない。しかも、引用文献2の記載事項(a)及び(b)によれば、Tb、Fe、Coの組成の希土類-遷移金属合金粉末を熱間静水圧プレス(HIP)焼結したターゲットであって、相対密度が99.5%であるターゲットは、公知であるといえる。
そうすると、引用発明1において、ターゲットの機械的強度を向上させるために、その焼結密度を高くすることは、当業者であれば容易になし想到するものであり、その値を95%以上とすることに格別の困難性を有するものでもない。
そして、本願発明の作用効果は、引用発明1、及び引用文献2から当業者が容易に予測できる範囲のものである。

7.むすび
したがって、本願発明は、引用文献1、及び引用文献2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-05-23 
結審通知日 2007-05-29 
審決日 2007-06-11 
出願番号 特願2000-141291(P2000-141291)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C23C)
P 1 8・ 572- Z (C23C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 前田 仁志瀬良 聡機  
特許庁審判長 板橋 一隆
特許庁審判官 宮澤 尚之
斉藤 信人
発明の名称 光磁気記録用合金ターゲット  
代理人 堀 城之  

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