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審決分類 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 C11B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C11B
管理番号 1161738
審判番号 不服2006-14692  
総通号数 93 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-09-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-07-07 
確定日 2007-07-30 
事件の表示 特願2002-251169「低温抽出魚油」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 3月25日出願公開、特開2004- 91514〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成14年8月29日の出願であって、平成18年5月9日付けで手続補正がなされ、同年5月30日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年7月7日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年8月4日付けで手続補正がなされたものである。

2.平成18年8月4日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成18年8月4日付けの手続補正を却下する。
[理由]
(1)本件補正
平成18年8月4日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)により、補正前の特許請求の範囲、
「【請求項1】 摂氏10度以下の温度で処理され、原料魚をそのままカットないし破砕して得られた魚肉すり身排液から遠心分離法により抽出された低温抽出魚油。
【請求項2】 前記遠心分離法は、第1の遠心分離工程と、この第1の遠心分離工程より高速な第2の遠心分離工程からなる請求項1記載の低温抽出魚油。」
は、
「【請求項1】 摂氏10度以下の温度で処理され、
原料魚をカッターとチョッパーによりそのままミンチ肉に加工処理する工程(工程1)と、
前記ミンチ肉を原料魚に対し4倍程度の割合の水で晒す工程(工程2)と、
前記工程2で晒したスラリー中に混在している魚骨類を分離除去する工程(工程3)と、
前記工程3で魚骨類を除去したスラリーをデカンターで固形分の層と水溶液の層とに分離処理する工程(工程4)と、
この分離した水溶液を遠心分離機へ送給して油脂の層(相)と水溶液の層(相)とに分離する工程(工程5)とを少なくとも経て、前記油脂の層(相)を回収して得られた低温抽出魚油。
【請求項2】 前記遠心分離法は、毎分約6500?約7500回転の第1の遠心分離工程と、毎分約12000?14000回転の第2の遠心分離工程からなる請求項1記載の低温抽出魚油。」
と補正された。
(2)補正の適否
本件補正は、請求項1において、補正前に「原料魚をそのままカットないし破砕して得られた魚油すり身排液から遠心分離方法により抽出された」だったものを「原料魚をカッターとチョッパーによりそのままミンチ肉に加工処理する工程(工程1)と、前記ミンチ肉を原料魚に対し4倍程度の割合の水で晒す工程(工程2)と、前記工程2で晒したスラリー中に混在している魚骨類を分離除去する工程(工程3)と、前記工程3で魚骨類を除去したスラリーをデカンターで固形分の層と水溶液の層とに分離処理する工程(工程4)と、この分離した水溶液を遠心分離機へ送給して油脂の層(相)と水溶液の層(相)とに分離する工程(工程5)とを少なくとも経て、前記油脂の層(相)を回収して得られた」に補正するものであるところ、補正前の請求項1には、「水で晒す工程(工程2)、魚骨類を分離除去する工程(工程3)及び固形分の層と水溶液の層とに分離処理する工程(工程4)を経ること」は記載されていないのであるから、これらの工程を限定する補正は、請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものではない。また、請求項の削除、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明を目的とするものでないことは明らかであるから、本件補正は、特許法第17条の2第4項に掲げられたいずれの事項をも目的とするものではない。
(3)まとめ
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第4項の規定に違反するものであるから、その余のことを検討するまでもなく、同法第159条第1項において読み替えて準用する、同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明について
(1)本願発明
平成18年8月4日付けの手続補正が上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?2に係る発明は、平成18年5月9日付けの手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?2に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、下記のとおりである。

「【請求項1】 摂氏10度以下の温度で処理され、原料魚をそのままカットないし破砕して得られた魚肉すり身排液から遠心分離法により抽出された低温抽出魚油。」

(2)刊行物及び記載事項
原査定の拒絶の理由の概要は、本願発明は、その出願前に頒布された刊行物1及び2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものであるところ、刊行物1、刊行物2及びその記載事項は以下のとおりである。
刊行物1:特表2001-506501号公報
(1-1)「1.
a)魚は、頭部と内蔵を取り除くことによって調理されること、
b)魚は氷点以上の低温まで冷やされ、その後実施される全ての処理工程を通じて15℃以下の温度に維持されること、
c)骨と皮を分離して下ごしらえした食肉が形成されること、
d)前記食肉に水を加え、全体が混合されること、
e)その混合物は、液体相と固体相に分離(デカンタ)されること、
f)前記固体相は包装され、低温凍結されること、
g)油分が液体相から分離されること
を特徴とする魚油の抽出方法。」(特許請求の範囲の1.)
(1-2)「本発明は、魚油を抽出するための装置、及び抽出方法、並びに当該方法の実施により得られた製品に関するものである。」(4頁4?5行)
(1-3)「本発明の目的は、製品の価値を高めることを可能にし、油だけでなく、人間の食品として使用できる高品質な固体物を回収できる魚油製造方法及び装置を提供することである。」(4頁19?21行)
(1-4)「a)魚は、頭部と内蔵(魚の廃棄部分、すなわち切り身を除いた部分や、魚の頭部を使用することも可能である。)を取り除くことによって調理されること、」(4頁下から7?6行)
(1-5)「本発明の上記方法を実施するための装置は、頭部と内臓が取り除かれた魚、あるいは魚の廃棄部分や、魚の頭部を受け入れて混合物を形成し、そこから食肉部と、骨及び皮とを分離する食肉プレスと、冷水供給機を有すると共に、前記食肉部を受け入れるミキサーと、該ミキサーからの水を加えられた食肉を受け、液体相と油分のない食肉部に分離(デカンタ)するデカンタと、包装装置と、食肉部を低温凍結する低温凍結装置と、前記液体相を貯蔵するサイロと、油分と泥を分離する分離装置を有して構成される。」(5頁下から8?2行)
(1-6)「本発明を魚油及び油のない肉を抽出する方法を示す添付された第一の図面を参照して詳細に説明する。」(6頁2?3行)
(1-7)「サイロ9から送出された液体相は通常、直接分離機12に入れられる。この分離機12は、そこから油分を分離するために、沈殿物を出口S6を介して取り除く。この出口S7で魚油は8?10℃の温度のたるの中に貯蔵される。」(7頁5?8行)
(1-8)「【図1】




」(8頁)
刊行物2:特開平7-126686号公報
(2-1)「【請求項1】 ドコサヘキサエン酸を多量に含む脂質の製造にあたり、マグロ及び/又はカツオの眼組織を原料として分離精製処理を行うことを特徴とする方法。
【請求項2】 前記精製処理が減圧下の冷却遠心分離法であることを特徴とする特許請求の範囲第1項に記載の方法。」(特許請求の範囲の請求項1、2)
(2-2)「水産加工副産物すなわち魚体頭部を利用すれば経済的にDHAを多量に含む脂質が得られるのではないかと考え、更に、機械操作的に簡単な精製方法を用いればDHAの品質を損なう事が無いと考え本発明を完成するに到った。」(段落0005)

(3)対比・判断
刊行物1には、(1-1)で摘記した抽出方法の発明が記載されるところ、該抽出方法によって得られる魚油の発明も記載されている(摘記1-2)から、刊行物1には、
「a)魚は、頭部と内蔵を取り除くことによって調理されること、
b)魚は氷点以上の低温まで冷やされ、その後実施される全ての処理工程を通じて15℃以下の温度に維持されること、
c)骨と皮を分離して下ごしらえした食肉が形成されること、
d)前記食肉に水を加え、全体が混合されること、
e)その混合物は、液体相と固体相に分離(デカンタ)されること、
f)前記固体相は包装され、低温凍結されること、
g)油分が液体相から分離されること
を特徴とする抽出方法によって得られた魚油」
の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されている。
本願発明と刊行物1発明とを対比する。
刊行物1発明において、「b)工程」は低温で処理されることを意味し、「c)?f)工程」は、具体的には食肉プレスとミキサーを用いているから(摘記1-5)、これにより、原料の魚がカットや破砕をされて魚肉すり身が得られるものと認められ、「g)工程」における「油分」とは「魚油」のことであるから、両者は、
「原料魚が、低温で処理され、カットないし破砕して得られた魚肉すり身排液から抽出された低温抽出魚油」
である点で一致し、
(ア)低温が、本願発明においては「摂氏10度以下の温度」であるのに対し、刊行物1発明においては「15℃以下の温度」である点、
(イ)原料魚が、本願発明においては「そのまま」であるのに対し、刊行物1発明においては「頭部と内蔵を取り除くことによって調理されたもの」である点、
(ウ)抽出が、本願発明においては「遠心分離法」によるものであるのに対し、刊行物1発明においては「油分が液体相から分離されること」と記載されるのみで遠心分離法とは特定されていない点、
において相違する。

そこで、相違点(ア)?(ウ)について検討する。
相違点(ア)について
刊行物1発明における「15℃以下の温度」とは、本願発明で特定する「摂氏10度以下の温度」を含んでおり、刊行物1発明においても「魚油は8?10℃の温度のたるの中に貯蔵される」(摘記1-7)のであるから、魚油に適した温度がこの範囲、すなわち、「摂氏10度以下の温度」であることは具体的に開示されている。
したがって、相違点(ア)は、実質的な相違点でないか、あるいは、刊行物1の記載に基づいて当業者が普通になし得る範囲内のものである。
相違点(イ)について
刊行物1発明は、「人間の食品として使用できる高品質な固体物」、すなわち、油のない食肉(すり身)を得ることを目的の一つとしており(摘記1-3)、品質の良い食肉(すり身)を得るために、頭部と内臓を取り除いた魚を用いているものと考えられるところ、同刊行物には、「魚の廃棄部分、すなわち切り身を除いた部分や、魚の頭部を使用することも可能である」(摘記1-4)と説明されており、この説明からすると、頭部や内臓の使用を否定しているわけではないのであるから、得られる製品の用途や品質等を考慮して、原料として頭や内臓を有する「そのまま」の魚を用いる場合のことも刊行物1には示唆されていると認められる。
したがって、相違点(イ)は、刊行物1の記載に基づいて当業者が普通になし得る範囲内のものである。
また、魚(カツオ、マグロ、イワシ、サバなど)の頭や内臓にはエイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)等が多く含まれていること、これらの不飽和酸がコレステロール低下等の種々の生理活性機能を有することは周知(必要なら、特開昭63-164852号公報、特開昭64-50890号公報、特開平7-264985号公報、特開平8-157861号公報、参照。)であるから、DHA等の健康上有用な有効成分をより多く抽出することを意図して、頭部と内臓を含む「そのまま」の魚を原料として用いることは普通に行われる範囲内のものである。
したがって、このような周知事項からも、相違点(イ)は、容易に導かれるものである。
相違点(ウ)について
刊行物1の図1には分離機(12)が記載され(摘記1-6、1-7、1-8)、これは形からして遠心分離機と解され、また、刊行物2には魚を原料として目的とする成分を得る際に、遠心分離法を用いることが記載され(摘記2-1)、遠心分離法が機械操作的に簡単であり、かつ、目的とするDHAの品質を損なうものでないことも記載されている(摘記2-2)から、原料の魚から魚油を分離抽出する方法として遠心分離法を用いることは、刊行物1に記載されているに等しいか、あるいは、刊行物2に記載されるように、当業者が通常行うところである。
したがって、相違点(ウ)も当業者が普通になし得る範囲内のものである。

本願発明の効果について
本願発明の効果は、明細書の段落0087に記載されているように「以上のように本発明によれば、加熱工程を伴わない天然に含まれる魚油そのものの成分の効率的な回収方法により、健康上有用な成分を失うことなくそのまま含有した低温抽出魚油を提供することができる。」というものであるところ、加熱工程を伴わずに魚油を得ることは刊行物1に記載されるところであり(摘記1-1)、それにより高い価値の製品が得られることも同刊行物に記載されている(摘記1-3)から、健康上有用な成分を失わずに良質の魚油を提供する、という効果は、刊行物1に記載された事項から当業者が予測しうることである。

以上のとおり、相違点(ア)?(ウ)はいずれも当業者が普通になし得る程度のものであり、その効果も予測を超えて優れているものではないから、本願発明は、本願出願前に頒布された刊行物1及び2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)請求人の主張
審判請求時の請求人の主張は、平成18年8月29日付け手続補正書(審判請求書を補正対象書類とする平成18年8月4日付け手続補正書を補正対象書類とする、手続補正書)に記載されるところ、これは、上記2.で却下された補正後の特許請求の範囲に係る発明についてのものであって、本願発明に対するものではないので、ここでは、審査における平成18年5月9日付け意見書の内容を検討する。
該意見書において、請求人は、刊行物1(該意見書における「引用文献1」に同じ。)との違い及び本願発明の効果について、
「これに対し、この出願の発明では原料となる魚は丸ごとそのまま用いられます。このため、魚油抽出のための原料中には頭部や内臓部分が存在します。この頭部と内臓には、油分やその他の優れた栄養成分が多く存在します。そして、このように頭部や内臓を含む魚全体のすり身から得られた油分は、ドコサヘキサエン酸(DHA)、等の優れた栄養成分を多く含み、この出願の実施例に示されるように血漿コレステロールを低下させるなど有意な効果を有するのです。また、段落0018に記載されているように前処理作業も必要なくなり、魚油の捕集や生産性が向上します。」(1頁下から15?9行)と主張する。
しかしながら、頭部と内臓にDHA等の優れた栄養成分が多く含まれていることやDHA等がコレステロール低下作用等を有することが周知であることは、既に示したところ(上記(3)、相違点(イ)についての項)であり、また、コエンザイムQ10が多く存在していることは、明細書に記載されていないので、これは明細書に基づく主張ではない。そして、本願の実施例で用いている市販のイワシ油と低温抽出イワシ油とでは、用いたイワシの種類が異なっているため、このようなデータから、低温抽出イワシ油のコレステロール低下能等が、市販のイワシ油に比べて、当業者の予測の範囲を超えて優れたものであるとすることはできない。
したがって、請求人の主張は採用できないものである。

(5)結論
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、他の請求項に係る発明ついては言及するまでもな
く、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-05-28 
結審通知日 2007-05-31 
審決日 2007-06-18 
出願番号 特願2002-251169(P2002-251169)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C11B)
P 1 8・ 572- Z (C11B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 渡辺 陽子  
特許庁審判長 西川 和子
特許庁審判官 鈴木 紀子
岩瀬 眞紀子
発明の名称 低温抽出魚油  
代理人 田中 二郎  

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