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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 E04C
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 E04C
管理番号 1161799
審判番号 不服2005-17124  
総通号数 93 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-09-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-09-07 
確定日 2007-08-02 
事件の表示 特願2005-83546「プレストレストコンクリート用支圧板」拒絶査定不服審判事件〔平成18年10月5日出願公開、特開2006-265890〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 【1】手続の経緯
本願は、平成17年3月23日の出願であって、平成17年8月2日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年9月7日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年9月22日に手続補正がなされたものである。


【2】平成17年9月22日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成17年9月22日付けの手続補正を却下する。

[理由]
[1]補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、特許請求の範囲の減縮を目的として、
「プレストレストコンクリート構造物を構成するコンクリート部材に設置され、緊張材の端部を定着させるための挿通孔が形成された支圧板であり、支圧板本体が長方形状、もしくはその隅角部が削り取られた形状をし、その支圧板本体の前記コンクリート部材側の面の、前記挿通孔を除く部分の全面、またはほぼ全面に自身の剛性を確保しながら、コンクリートとの付着を確保するための凸部が形成され、この凸部は前記支圧板本体の長辺と平行に、短辺方向に一定間隔で連続的に、または2方向に交差する縞状に形成され、前記支圧板本体の前記コンクリート部材側の面から前記凸部の表面側の先端までの距離は一定であることを特徴とするプレストレストコンクリート用支圧板。」と補正された。
そこで、本願の補正後の上記請求項1に係る発明(以下、「補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項の規定において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)否かについて、以下に検討する。

[2]引用刊行物
原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願前に頒布された刊行物である、特開2003-201750号公報(以下、「引用文献1」という。)には、「プレグラウトPC緊張材を定着するための応力集中緩和面を有する支圧板」に関して、以下の事項が記載されている。
(イ)「【請求項1】プレグラウトPC緊張材を用いてコンクリート構造物にプレストレスを導入するための定着具の一部を構成する支圧板において、前記支圧板の圧力伝達面(コンクリート構造物に圧接する面)と支圧板外周側面とが交わる交線部、及び前記支圧板の圧力伝達面と前記支圧板中心部に穿設されたプレグラウトPC緊張材挿通孔の内周面とが交わる交線部が曲面化されてなることを特徴とするプレグラウトPC緊張材を定着するための応力集中緩和面を有する支圧板。・・・」(特許請求の範囲)
(ロ)「【従来の技術及び発明が解決しようとしている課題】
プレグラウトPC緊張材を用いたポストテンションによるプレストレストコンクリート工法では、図6(a)に示すようにプレグラウトPC緊張材3に定着金具2、支圧板1等からなる定着具を取り付け、コンクリートを打設・硬化した後、ジャッキやポンプなどの引張装置でプレグラウトPC緊張材3を緊張させてプレストレスを導入している。・・・このようなシングルストランド型緊張材の定着具用の支圧板としては、通常、図6(b)に示すような中央部に緊張材挿通孔7を備えた方形のものが使用されている。
図6(a)に示すように前記支圧板1は、定着金具2を介して緊張材3の緊張力Pを受ける受圧面10とこの緊張力Pをコンクリート構造物4に伝達する圧力伝達面11とを備えているが、定着金具2からの圧力Pは支圧板受圧面10の中央部に穿設された前記緊張材挿通孔7付近に集中して加わるので、支圧板圧力伝達面11の外周部に作用するコンクリート構造物4からの応力とによって、支圧板に撓みを生じる。この撓みの量δは、支圧板1の厚さtによって左右され、支圧板1の各部位の応力分布もこれに伴って変化する。いま緊張材の緊張力Pが一定であると仮定すると、例えば支圧板1の厚さtを小さくした場合には支圧板1の撓みの量δが増大し、支圧板外周の交線12及び四隅の角に働く応力は減少し、支圧板中心部の緊張材挿通孔周囲の交線13の応力が増加する。逆に支圧板の厚さtを大きくした場合には支圧板1の撓みの量δは減少し、支圧板外周の交線12及び四隅の角の応力が増大し、支圧板中心部の緊張材挿通孔周囲の交線13の応力は減少する。PC緊張材3の緊張力Pをより安全にコンクリート構造物4に伝達するためには、前記緊張力Pを支圧板圧力伝達面11の全域になるべく均等に分布させることが望ましい。そのためには支圧板の撓みの量δを可能な限り小さくなるようにする必要がある。したがって、支圧板の厚さtを大きくとって支圧板1の剛性(支圧板の大きさと厚さから定まる撓み難さの度合)を高めているが、その反面で前記支圧板1の外周の交線12や4隅の角に応力が集中するという問題は避けられない。特に方形支圧板では4隅の角に集中する応力に懸念が持たれる。
なお、上記のような支圧板外周の交線12及び4隅の角、並びに支圧板の撓みによる中心部の緊張材挿通孔周囲の交線13への応力集中、さらには支圧板の定着具2近傍領域での支圧応力の増大という従来技術の問題・懸念も、現行の基準類や仕方書で規定された剛性の支圧板を用いているかぎり顕在化してはいない。しかし、これらはコンクリート内の現象であり視認できないので、より安全な緊張力伝達の観点から、支圧板1の外周の交線12及び4隅の角、並びに中心部の緊張材挿通孔周囲の交線13への応力集中が極力避けられる手段の実現が望まれていた。
【課題を解決するための手段】上記従来技術に鑑み、本発明は支圧板の外周及び中心部の緊張材挿通孔周囲への応力集中を緩和し得るようにして上記課題を解決するものである。すなわち、本発明は、下記の構成のプレグラウトPC緊張材を定着するための応力集中緩和面を有する支圧板である。」(段落【0002】?【0005】)
(ハ)「・・・中心部の受圧面10に加わる緊張力〔P〕によって支圧板中央部の緊張材挿通孔周囲の交線部13(図6参照)に加わる応力を減じるため支圧板中央部の板厚を外周部より大きくとって支圧板1の剛性を高める・・・」(段落【0019】)
(ニ)「実施例3:図3に小判形支圧板の圧力伝達面の交線部を曲面化したその他の実施例を示す。・・・」(段落【0021】)
(ホ)図3には、長方形状でその隅角部が削り取られた小判形形状をし、コンクリート構造物側にあって緊張力をコンクリート構造物に伝達する面である圧力伝達面11,11’のうち、緊張材挿通孔7周囲の圧力伝達面11の板厚を外周部の圧力伝達面11’よりも大きくした支圧板1が記載されている。
これら(イ)?(ホ)の記載事項等を含む引用文献1全体の記載並びに当業者の技術常識によれば、引用文献1には、以下の発明が記載されている。
「プレストレストコンクリート構造物に設置され、緊張材の端部を定着させるための緊張材挿通孔7が形成された支圧板1であり、支圧板1が長方形状でその隅角部が削り取られた小判形形状をし、その支圧板1の前記コンクリート構造物側にあって緊張力をコンクリート構造物に伝達する面の緊張材挿通孔7周囲に、支圧板1の剛性を高めるため、外周部の圧力伝達面11’より板厚を大きくした圧力伝達面11が形成されているプレストレストコンクリート構造物用支圧板。」(以下、「引用文献1記載の発明」という。)

[3]対比
補正発明と引用文献1記載の発明とを比較すると、引用文献1記載の発明の「プレストレストコンクリート構造物」,「緊張材挿通孔7」,「支圧板1」,「長方形状でその隅角部が削り取られた小判形形状」,「コンクリート構造物側にあって緊張力をコンクリート構造物に伝達する面の緊張材挿通孔7周囲」,「支圧板1の剛性を高める」,「外周部の圧力伝達面11’より板厚を大きくした圧力伝達面11」,「プレストレストコンクリート構造物用支圧板」が、補正発明の「プレストレストコンクリート構造物を構成するコンクリート部材」,「挿通孔」,「支圧板」或いは「支圧板本体」,「長方形状、もしくはその隅角部が削り取られた形状」,「コンクリート部材側の面の、挿通孔を除く部分」,「(支圧板本体)自身の剛性を確保し」,「凸部」,「プレストレストコンクリート用支圧板」にそれぞれ相当するから、両者は、
「プレストレストコンクリート構造物を構成するコンクリート部材に設置され、緊張材の端部を定着させるための挿通孔が形成された支圧板であり、支圧板本体が長方形状、もしくはその隅角部が削り取られた形状をし、その支圧板本体の前記コンクリート部材側の面の、前記挿通孔を除く部分に自身の剛性を確保するための凸部が形成されるプレストレストコンクリート用支圧板。」の点で一致し、次の点で相違している。
<相違点>
コンクリート部材側の面に形成される凸部について、補正発明では、「挿通孔を除く部分の全面、またはほぼ全面に自身の剛性を確保しながら、コンクリートとの付着を確保するため」に形成され、「支圧板本体の長辺と平行に、短辺方向に一定間隔で連続的に、または2方向に交差する縞状に形成され、支圧板本体のコンクリート部材側の面から凸部の表面側の先端までの距離は一定である」のに対して、引用文献1記載の発明では、コンクリート部材側の面の挿通孔を除く部分に支圧板の剛性を高めるために形成されているものの、それ以外の技術事項を備えていない点。

[4]判断
プレストレストコンクリート部材用の長方形状支圧板の技術において、コンクリート部材側の面の緊張材の挿通孔を除く部分のほぼ全面に自身の剛性を確保しながらコンクリートとの付着を確保するための凸部を形成することは、例えば、査定時に周知例として提示した実願昭60-155446号(実開昭62-63317号)のマイクロフィルム(アンカープレート2の孔2a周囲に形成したリブ2bが上記機能を有することは自明である。),実願昭63-129610号(実開平2-51620号)のマイクロフィルム(支圧プレート4の円錐孔3周囲に形成したスチフナー5が上記の機能を有することは自明である。)等に示されているように従来周知の技術であり、
また、一般的なコンクリート構造物の技術分野において、補強及びコンクリートとの付着確保のための凸部が辺と平行に一定間隔で連続的にまたは2方向に交差する縞状に形成され且つ凸部の突出高さを一定とすることは、例えば、実願昭63-103008号(実開平2-23608号)のマイクロフィルム(突条3,3a・3bが上記機能及び構造を有することは自明である。),特開昭51-6324号公報(凸起4・凸条6が上記機能及び構造を有することは自明である。),特開平4-52353号公報(リブ4が上記機能及び構造を有することは自明である。)等に示されているように従来周知の技術であり、
さらに、必要な力が発揮できる方向に凸部を配することは当業者が必要に応じて随時採用する程度の設計的事項にすぎない。
したがって、引用文献1記載の発明の凸部に上記のような従来周知の技術を採用し、補正発明の上記相違点に係る構成を想到することは、当業者が格別の技術的困難性を要することなく容易になしえたものと認められる。
そして、補正発明全体の効果も、引用文献1記載の発明及び従来周知の技術から当業者が予測し得る範囲内のものであって格別なものということができないから、補正発明は、引用文献1記載の発明及び従来周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものといわざるをえない。

[5]むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項の規定において準用する同法第126条第5項の規定に適合しないものであるから、特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記[補正の却下の決定の結論]のとおり、決定する。


【3】本願発明について
平成17年9月22日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし5に係る発明は、平成17年6月22日付けの手続補正書で補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】プレストレストコンクリート構造物を構成するコンクリート部材に設置され、緊張材の端部を定着させるための挿通孔が形成された支圧板であり、支圧板本体が長方形状、もしくはその隅角部が削り取られた形状をし、その支圧板本体の前記コンクリート部材側の面の、前記挿通孔を除く部分の全面、またはほぼ全面に自身の剛性を確保しながら、コンクリートとの付着を確保するための凸部が形成されていることを特徴とするプレストレストコンクリート用支圧板。
【請求項2】?【請求項5】(記載を省略する。)」(請求項1に係る発明を、以下、「本願発明」という。)

[1]引用刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された引用刊行物の記載事項は、上記【2】[2]に記載したとおりである。

[2]対比・判断
本願発明は、上記【2】で検討した補正発明の構成に欠くことができない事項である凸部についての詳細な限定事項を削除したものであって、本願発明の構成に欠くことができない事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する補正発明が、上記【2】[4]で述べたとおり、引用文献1記載の発明及び従来周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるといえるから、本願発明も、同様の理由により、引用文献1記載の発明及び従来周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

[3]むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献1記載の発明及び従来周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-05-31 
結審通知日 2007-06-05 
審決日 2007-06-18 
出願番号 特願2005-83546(P2005-83546)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (E04C)
P 1 8・ 575- Z (E04C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 石井 哲渋谷 知子  
特許庁審判長 伊波 猛
特許庁審判官 峰 祐治
西田 秀彦
発明の名称 プレストレストコンクリート用支圧板  
代理人 堀 城之  

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